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【Consulta(相談会)】 「……そういうわけで、妹としか見てもらえないんです」  遡羅はため息を呑み込むようにチョコ大福に齧り付く。 「まぁ、小さい頃から一緒だとどうしてもそうなるだろうね」  藤司朗は湯のみにお代わりを注ぎながら、小さく苦笑した。 「うちだって、特にスズ辺りなんかは娘を溺愛しちゃってるみたいなもんだし。そうなると、マサ姉がお母さんで、俺がお兄ちゃんで、ユキが弟で、丈がペットのポチってところかな?」  もしも本人に聞かれていたら、いつものように大惨事となっていただろう。  そんな丈之助は、現在沙鳥と共に徘徊中。危機は免れた。 「口説こうとか、ラブに発展とかって展開はないんですか?」 「ないね。絶対に」 「絶対ですか……さとさんが聞いたら怒りそう」 「まぁ、沙鳥に望まれたんなら喜んで応えるけど、あり得ないから。多分、他の奴もそうじゃないかな?」 「そうですか……そうですよね……」  ため息の代わりにと、熱々の湯飲みへ息を吹き掛ける。 「ところで、貴方たちはいつまでここにいるつもりですか? 営業妨害です」  耳元で囁かれる冷ややかな鈴臣の声に、遡羅は咄嗟で身を竦ませる。 「良いじゃないか。可愛らしいお客様は丁重に持て成さないと」  どういう仕草が自分をより良く見せるのか。藤司朗は完璧に計算され尽くした笑みを浮かべて、鈴臣の神経を一層逆撫でする。 「他所でやれと言っているんですよ」 「殺風景な部屋に花を添えてあげたんだ。感謝して欲しいくらいだな」 「サボろうとしていた所に彼女が来ただけでしょう」  まさにその通り。  遡羅としては単に画材を買っていただけなのだが、気付けば奥に通され、相談事にまで発展していた。  日頃研究している心理学や独自の統計学に基づき、相手の好むまたは厭う言葉を巧みに織り込み、自らの望む通りに周りを誘導する。  恐るべきスキルだが、こんな使い方では無駄すぎる。 「えっと……帰りましょうか?」 「そうして……」 「望月さんを無下にしたら沙鳥が泣いちゃうよ」 「好きなだけゆっくりして行って下さい」  鈴臣は逆に怯えそうなほど爽やかな笑みを浮かべて部屋を後にする。  二人きりでゆっくり話せと、らしくもなく気を遣ってくれたのだろう。 「さて、無粋な邪魔者も去ってくれたし、続けようか」  この笑みだけを切り取れば、甘いひと時を過ごせるだろうに。  遡羅は小さくため息をついた。 「藤司朗さんが本気で口説いたら大変な事になりそうですね」 「さあ、どうだろうね。試してみる?」 「いえ、結構です」  即答でお断り。 「残念。振られちゃった」  本気では思っていないな、と分かり易いくらい楽しげに嘆く。 「でも、どんな感じで口説くのかは興味あるかも」 「そう? 普通だよ?」  身を乗り出して、しっかりと目を合わせる。 「どうか俺だけを見て、俺の愛しい人……」  艶やかに微笑み、甘い毒を注ぎ込むように囁く―― 「っていうのはノリの良い遊び相手にしか使わない」 「……そうなんですか?」  普段からやってそうなのに。  そんな考えを察してか、藤司朗は苦笑して遡羅を指差す。 「落ちなかったでしょ?」 「えぇ」 「だから、使わないというよりは使えないんだよ。色恋に疎い人なら引っかかるかもしれないけどね」 「なるほど……」  確かに、藤司朗だからこそ冗談で受け流せるが、本気でこんな事を言われても寒いだけだろう。  実際、似たような……否、より兇悪な被害に遭って、大変な事になっている人もいるし…… 「本当に落とすとなったら、女の人相手なら絶対に目は合わせない」 「え? どうしてですか?」  目を合わせて、言い聞かせれば一発なのに。 「ほら、望月さんだって俺の能力を知ってるでしょ?」  強制的に恋愛感情を抱かせ、従順にさせる藤司朗の能力――【ロマンゾローザ(強制擬似恋愛)】 「目を合わせてしまえば、『これは能力を使われただけ』という逃げ道を作ってしまう。女性はリアリストだからね。理性で否定できる内は引っかかってくれない。逃げ場は可能な限り潰しておかないと」 「この気持ちは強制的に植え付けられたものって思ったら、恋愛になんて発展しないですもんね。依存性もあるらしいし、離れても想うくらい好きだとしても、本気か偽物か判断出来なさそう」 「だから、目は使わない。だからと言って、伏せたりもしない。『貴方が傍にいてくれるのが、この能力のせいなんじゃないかって不安なんだ……』なんて囁くような余計な真似もしない」 「しないんですか?」 「そういうのは全部邪魔だから」 「じゃあ何て?」  瞬間、空気が変わる。 「好きです」  真っ直ぐこちらを向いているけれど、決して合う事のない碧い瞳。  普段まとっている軽薄さや感情を読みにくい笑みを完全に消し去り、真剣な面持ちでストレートに告げるだけ。  甘く囁く訳でも、綺麗に飾る訳でもなく。  彼らしくない、素朴な告白。 「シンプルですね」 「その方が真っ直ぐ響くからね。特に俺の場合だと。ほら、軽い男が真剣に自分を想ってくれてるって思ったら、ちょっと惹かれない? それなりに整った顔だし」  ふわりと柔らかく微笑んで、それに似合わぬ解説を添える。 「自分で言わなければ完璧なんですけどね」 「大丈夫。望月さんを狙ってる訳じゃないから」  それはそれで傷付くと軽く頬を膨らませていると、藤司朗はからかうように頬を突付く。 「狙っても無駄でしょう?」  想い人がいるのだから。  遡羅の頬が紅く染まる。 「そうですけど……そうですけど、そういうのを指摘するのって何か……」 「可愛いなぁ、望月さんは」  微笑ましいものを見つけたみたいにしみじみと呟く。 「女性を落とすより男を落とす方が簡単だし、望月さんならすぐだと思うよ」 「簡単じゃないですよ……」  誤魔化すように軽く睨み付ける。 「藤司朗さんだったらどうするんですか?」  オープンに博愛な藤司朗は、老若男女種族問わず恋愛対象に含めている。 「そうだな……真っ直ぐ目を見て、微笑むかな?」 「目を見て? 女の人相手だとタブーなのに?」 「男相手だと逆に逃げ場を作ってあげないとだからね。真剣に告白したって気持ち悪がられるだけでしょ? だから、目を合わせる」  目を合わせて、能力なのかそうでないのかを曖昧にさせる。  その笑みに見惚れたとしても、能力のせいなのではないかと錯覚させる。 「そういう自分への“言い訳”があれば、人は簡単に足を踏み外してくれる。特に男は欲に忠実だからね。好奇心なんて凶悪なものもある」 「気付いた時には、もうドップリって事ですか?」  何も言わず、妖艶な笑みで答える。 「極悪人ですね」 「誉め言葉として受け取っておくよ。ただ……」  藤司朗はお茶を口に含んで空気を改める。 「女の子の笑みが最強の武器になるのはホント。暗い雰囲気より、明るい雰囲気を作っておいた方が良い」 「笑顔ですか……」  遡羅は困ったように思案する。単純だけれど、簡単に出来る事ではない。 「まぁ、手っ取り早く落とす方法もあるけどね」  藤司朗は悪巧みを打ち明けるように自らの口に人差し指を添える。 「……どんな?」 「最強の武器を他の男に向ければ良い。人ってのはバカな生き物だから。取られたと思うと急に惜しくなるんだよ」  悪魔の囁きにも聞こえて来る甘い誘惑。 「俺で良ければいつでも協力するけど?」 「……藤司朗さんはともかく、作戦自体が信用出来ません」 「鋭い。この方法だと、笑顔で応援されるって最悪のパターンになる可能性も高いんだよね」  やっぱり、と恨めしげに睨む遡羅の頭を撫ぜて、藤司朗は裏のない優しげな笑みを浮かべる。 「策を練る必要がないくらい魅力的なんだから、自信を持って自分なりの正攻法で頑張りなさい」
【Consulta(相談会)】 「……そういうわけで、妹としか見てもらえないんです」  遡羅はため息を呑み込むようにチョコ大福に齧り付く。 「まぁ、小さい頃から一緒だとどうしてもそうなるだろうね」  藤司朗は湯のみにお代わりを注ぎながら、小さく苦笑した。 「うちだって、特にスズ辺りなんかは娘を溺愛しちゃってるみたいなもんだし。そうなると、マサ姉がお母さんで、俺がお兄ちゃんで、ユキが弟で、丈がペットのポチってところかな?」  もしも本人に聞かれていたら、いつものように大惨事となっていただろう。  そんな丈之助は、現在沙鳥と共に徘徊中。危機は免れた。 「口説こうとか、ラブに発展とかって展開はないんですか?」 「ないね。絶対に」 「絶対ですか……さとさんが聞いたら怒りそう」 「まぁ、沙鳥に望まれたんなら喜んで応えるけど、あり得ないから。多分、他の奴もそうじゃないかな?」 「そうですか……そうですよね……」  ため息の代わりにと、熱々の湯飲みへ息を吹き掛ける。 「ところで、貴方たちはいつまでここにいるつもりですか? 営業妨害です」  耳元で囁かれる冷ややかな鈴臣の声に、遡羅は咄嗟で身を竦ませる。 「良いじゃないか。可愛らしいお客様は丁重に持て成さないと」  どういう仕草が自分をより良く見せるのか。藤司朗は完璧に計算され尽くした笑みを浮かべて、鈴臣の神経を一層逆撫でする。 「他所でやれと言っているんですよ」 「殺風景な部屋に花を添えてあげたんだ。感謝して欲しいくらいだな」 「サボろうとしていた所に彼女が来ただけでしょう」  まさにその通り。  遡羅としては単に画材を買っていただけなのだが、気付けば奥に通され、相談事にまで発展していた。  日頃研究している心理学や独自の統計学に基づき、相手の好むまたは厭う言葉を巧みに織り込み、自らの望む通りに周りを誘導する。  恐るべきスキルだが、こんな使い方では無駄すぎる。 「えっと……帰りましょうか?」 「そうして……」 「望月さんを無下にしたら沙鳥が泣いちゃうよ」 「好きなだけゆっくりして行って下さい」  鈴臣は逆に怯えそうなほど爽やかな笑みを浮かべて部屋を後にする。  二人きりでゆっくり話せと、らしくもなく気を遣ってくれたのだろう。 「さて、無粋な邪魔者も去ってくれたし、続けようか」  この笑みだけを切り取れば、甘いひと時を過ごせるだろうに。  遡羅は小さくため息をついた。 「藤司朗さんが本気で口説いたら大変な事になりそうですね」 「さあ、どうだろうね。試してみる?」 「いえ、結構です」  即答でお断り。 「残念。振られちゃった」  本気では思っていないな、と分かり易いくらい楽しげに嘆く。 「でも、どんな感じで口説くのかは興味あるかも」 「そう? 普通だよ?」  身を乗り出して、しっかりと目を合わせる。 「どうか俺だけを見て、俺の愛しい人……」  艶やかに微笑み、甘い毒を注ぎ込むように囁く―― 「っていうのはノリの良い遊び相手にしか使わない」 「……そうなんですか?」  普段からやってそうなのに。  そんな考えを察してか、藤司朗は苦笑して遡羅を指差す。 「落ちなかったでしょ?」 「えぇ」 「だから、使わないというよりは使えないんだよ。色恋に疎い人なら引っかかるかもしれないけどね」 「なるほど……」  確かに、藤司朗だからこそ冗談で受け流せるが、本気でこんな事を言われても寒いだけだろう。  実際、似たような……否、より兇悪な被害に遭って、大変な事になっている人もいるし…… 「本当に落とすとなったら、女の人相手なら絶対に目は合わせない」 「え? どうしてですか?」  目を合わせて、言い聞かせれば一発なのに。 「ほら、望月さんだって俺の能力を知ってるでしょ?」  強制的に恋愛感情を抱かせ、従順にさせる藤司朗の能力――【ロマンゾローザ(強制擬似恋愛)】 「目を合わせてしまえば、『これは能力を使われただけ』という逃げ道を作ってしまう。女性はリアリストだからね。理性で否定できる内は引っかかってくれない。逃げ場は可能な限り潰しておかないと」 「この気持ちは強制的に植え付けられたものって思ったら、恋愛になんて発展しないですもんね。依存性もあるらしいし、離れても想うくらい好きだとしても、本気か偽物か判断出来なさそう」 「だから、目は使わない。だからと言って、伏せたりもしない。『貴方が傍にいてくれるのが、この能力のせいなんじゃないかって不安なんだ……』なんて囁くような余計な真似もしない」 「しないんですか?」 「そういうのは全部邪魔だから」 「じゃあ何て?」  瞬間、空気が変わる。 「好きです」  真っ直ぐこちらを向いているけれど、決して合う事のない碧い瞳。  普段まとっている軽薄さや感情を読みにくい笑みを完全に消し去り、真剣な面持ちでストレートに告げるだけ。  甘く囁く訳でも、綺麗に飾る訳でもなく。  彼らしくない、素朴な告白。 「シンプルですね」 「その方が真っ直ぐ響くからね。特に俺の場合だと。ほら、軽い男が真剣に自分を想ってくれてるって思ったら、ちょっと惹かれない? それなりに整った顔だし」  ふわりと柔らかく微笑んで、それに似合わぬ解説を添える。 「自分で言わなければ完璧なんですけどね」 「大丈夫。望月さんを狙ってる訳じゃないから」  それはそれで傷付くと軽く頬を膨らませていると、藤司朗はからかうように頬を突付く。 「狙っても無駄でしょう?」  想い人がいるのだから。  遡羅の頬が紅く染まる。 「そうですけど……そうですけど、そういうのを指摘するのって何か……」 「可愛いなぁ、望月さんは」  微笑ましいものを見つけたみたいにしみじみと呟く。 「女性を落とすより男を落とす方が簡単だし、望月さんならすぐだと思うよ」 「簡単じゃないですよ……」  誤魔化すように軽く睨み付ける。 「藤司朗さんだったらどうするんですか?」  オープンに博愛な藤司朗は、老若男女種族問わず恋愛対象に含めている。 「そうだな……真っ直ぐ目を見て、微笑むかな?」 「目を見て? 女の人相手だとタブーなのに?」 「男相手だと逆に逃げ場を作ってあげないとだからね。真剣に告白したって気持ち悪がられるだけでしょ? だから、目を合わせる」  目を合わせて、能力なのかそうでないのかを曖昧にさせる。  その笑みに見惚れたとしても、能力のせいなのではないかと錯覚させる。 「そういう自分への“言い訳”があれば、人は簡単に足を踏み外してくれる。特に男は欲に忠実だからね。好奇心なんて凶悪なものもある」 「気付いた時には、もうドップリって事ですか?」  何も言わず、妖艶な笑みで答える。 「極悪人ですね」 「誉め言葉として受け取っておくよ。ただ……」  藤司朗はお茶を口に含んで空気を改める。 「女の子の笑みが最強の武器になるのはホント。暗い雰囲気より、明るい雰囲気を作っておいた方が良いと思うよ」 「笑顔ですか……」  遡羅は困ったように思案する。単純だけれど、簡単に出来る事ではない。 「まぁ、手っ取り早く落とす方法もあるけどね」  藤司朗は悪巧みを打ち明けるように自らの口に人差し指を添える。 「……どんな?」 「最強の武器を他の男に向ければ良い。人ってのはバカな生き物だから。取られたと思うと急に惜しくなるんだよ」  悪魔の囁きにも聞こえて来る甘い誘惑。 「俺で良ければいつでも協力するけど?」 「……藤司朗さんはともかく、作戦自体が信用出来ません」 「鋭い。この方法だと、笑顔で応援されるって最悪のパターンになる可能性も高いんだよね」  やっぱり、と恨めしげに睨む遡羅の頭を撫ぜて、藤司朗は裏のない優しげな笑みを浮かべる。 「策を練る必要がないくらい魅力的なんだから、自信を持って自分なりの正攻法で頑張りなさい」

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