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その1、訓練当日」(2008/12/06 (土) 22:58:28) の最新版変更点

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1、訓練当日  『避難訓練』実施日。  問題の建物の周囲には、異様な数の生徒が集まっていた。ただし、九割は見物人である。 「……物見高い方々ですこと」  朧寺緋葬架はため息をついた。思ったより多くのランカーが集まっている。同じ四十物谷調査事務所からは、揺蘭李が参加だ。普段寝てばかりいる彼女がどうやって脱出する気なのか、緋葬架には想像もつかない。  野次馬の間をライカナール新聞社の記者や、野次馬に弁当を売り付けに来たブラックシープ商会のスタッフが歩き回っている。ちょっとしたお祭り騒ぎだ。  トランキライザーにおいては、予科より本科のほうが暇――もちろん進学できた場合だが――特にほとんどポイントをためてしまっているランカーと呼ばれる成績上位者は、多少さぼっても卒業できるため余裕があるのだ。そうでない下位ランカーであっても一日二日さぼっただけで生活がやばくなるような生徒は、全体で見れば多くない。というわけで、異様な数の人間が軍事演習もとい避難訓練を見物に来たのだ。 「心配ですね」  振り向くと和装に近い服の少女が立っていた。ダイナソアオーガンの翔だ。だが、今日は愛用している鉄扇を持っていない。ハンデとして武器無での参加なのかもしれない。 「こんにちは、翔様」 「こんにちは、緋葬架さん。それにしてもこれだけ人が多いと心配ですね。流れ弾に当たってしまったり、建物の倒壊に巻き込まれたり……」  憂いを帯びた表情で、翔はため息をついた。風に乗って香がふわりと薫る。 「自己責任とはいえ、もう一度避難勧告をしたほうがいいかもしれません」 「無駄だと思いますわ。盛り上がっていますもの。モニターまで設置して……」  流石に倒壊に巻き込まれそうな至近距離には人はいない。だが、ぎりぎりのライン以降には少なくない人間が観戦する気満々で陣取っている。 「それにしても主催者――珠月おねえ様はどこに?」 「はーい、そろそろ時間なんで参加者は集まってください。ルール説明します」  すごく疲れた声が拡声器を通して聞こえた。珠月だ。 「……何か疲れておりませんこと?」  普段は声からも顔からも感情がほとんど読み取れない珠月の声に、あからさまな疲労がにじんでいる。 「よほどのハンデでも負っていらっしゃるのでしょうか……」 「さっき、ジェイルさんがいました」 「それですわね。確かにある意味、最強のハンデになりそうですけど」 「いや、別にハンデとして連れてきたわけじゃないと思いますよ。でも、ジェイルさんの参加自体がハンデになるから、能力使用の制限は必要ないかもしれません」 「あ、そのことでしたら、設定変更して能力使用は三度までにしたらしいですわよ」 「ジェイルさんがいるんじゃ仕方ないですね」  話しながら二人は移動する。他の参加者もぞろぞろと集まってきた。本格的な装備をしている者から普段着の者まで様々だ。主催者であるはずの珠月も、いつも通りのひらひらしたスカートとヒール姿。厚底でないだけましかもしれないが。 「珠月さん、動きにくくないんですか?」  翔は首を傾げた。そういう翔も普段着である。 「何言ってるの。そんな重装備じゃ、避難訓練にならないじゃん。できるだけ不利な状態から逃げ切ってこそ、価値ある勝利でしょ」 「いいえ。マゾというんですよ」 「言うね。そういう翔だって普段着じゃない」  楽しそうに珠月は笑った。ジェイルのほうをできるだけ見ないようにしている。そして、問題のジェイルは珍しく黙っていた。 「じゃあ、ルール説明はじめます。初めにくじ引きでスタート地点を決めます。不利な場所からスタートになるか、それとも比較的楽なところから始まるかは運任せ。誰と同じ場所からスタートになるかも運任せです。同じスタート地点の人と協力してもいいし、速攻で潰しあっても構いません。裏切りも可。好きにやってください」  すでに避難訓練ではない。 「ビルは開始から丁度3時間で完全爆破されるので、それまでに避難してください。クリア条件は外に出て、正面に設置されたゲートをくぐること。最終的にゲートを潜ることができれば、窓から出てもドアから出てもかまいません、ギブアップの場合、各階の北のエレベーターだけは直通で外に出れるので、使うこと。ダウンしたひともスタッフがそこから運びます。スタッフとか脱落者を攻撃したらダメだよ。またあちこちにトラップが設置されています。さらに外部から、ミスティックや狙撃手による攻撃も加わるので、頑張って逃げてください。あと、警備用ロボが攻撃してきます。敵代わりです。倒すと武器が手に入ります」 「何のRPGだよ」 「いいじゃん、楽しいし」  参加者は過酷な条件を突き付けられても、参加者たちはかなり余裕だ。 「ちなみに内部の様子は遠隔カメラでそちらの巨大モニターに移ります。見物人でかつ、遠隔型の攻撃を行える人はモニターを頼りにどんどん攻撃しちゃってください。ただし、反撃されても自己責任でお願いしますね」  今度は野次馬がざわめく。上位ランカーに一撃喰らわせるチャンスと、そのリスクを検討しているのだろう。 「ただし、自力で外まで出てきて地面に足を付いたら、それ以上の攻撃は禁止ね。内部にいるときと壁とかに張り付いてるときは、どんどん狙撃でも何もしちゃってください」  下手しなくても死にます。  だが、参加者は気にした様子もない。 「内部の見取り図とか予備武器はビル内に隠されていますが、探すために部屋を荒らすとそれだけトラップの作動確立も上がるので、せいぜいがんばってください。繰り返しますが、死んでも自己責任ですからね。やめたい人は今すぐに帰ってかまいませんよ」  帰るどころか全員武器の点検を始めている。色々な意味でやる気だった。 「じゃあ、順番に籤引いて。確率は変わらないから、急がなくていいからね」  言われた通りに参加者が並ぶ。籤は細工ができないよう、あえてアナログな紙の籤を採用している。 「あ……緋葬架、おは、よう。一緒……慣れるといいね」 「揺蘭李……とりあえず、起きなさい」  あくびをしながら、人込みから揺蘭李が現れる。翔の姿を見ると、ぺこりと頭を下げた。 「それに私は、珠月おねえさまを全力で守ると決めているのです」 「……えらい、迷惑、と思う、よ」 「でもどっちかというと、ジェイルさんをどうにかしたほうが感謝されると思いますよ」  翔は、少し離れた所にいるジェイルと珠月を見やった。 「楽しみですね、月の姫。できれば同じ場所からスタートしたいのですが……まあ、そこは運命の女神もお導きに任せましょう。気まぐれな女神に、我々矮小な人間は振り回されるものと決まっております。ねえ?」 「聞こえない……何も聞こえない。心を閉ざせ。聞くな、私」 「…………」 「…………」  緋葬架と翔は顔を見合わせた。ジェイルは軽やかに喋り続け、珠月はぶつぶつと自己暗示をかけながら沈んでいる。 「なぜあそこまで彼が苦手なのでしょう? 篭森さんの実力なら、強制排除なんて簡単なはずなのに」 「何かトラウマがあるみたいですわ。おねえさまを苦しめるなんてなんてこと!」  敵を排除すべく走り出した緋葬架の横を誰かが追いぬいた。黒くまっすぐな日本髪が風に揺れる。そして、 「死ね!」  勢いと筋力と体重と重力を乗せたとび蹴りがジェイルに叩きこまれた。腕をクロスさせて受け止めたジェイルだが、勢いを殺しきれずたたらを踏む。そこに下方から死角を狙ったハイキックが撃ち込まれる。奇襲者の深紅のスカートがなびいた。  出鼻をくじかれて、緋葬架は止まる。 「…………誰?」 「アンダーヤードの空多川さんですね。困りました。場外乱闘は禁止なのに」  ふうと翔はため息をついた。常識人だ。だが、乱闘が起きても眉ひとつ動かさないところは実に学園らしい。 「それにしても……100位以上もランキングに差があるのに強いですねぇ。流石はアンダーヤードの住人」 「感心してる場合じゃありませんわ。ちょっと、そこのお方」  無視された。流れるような優雅な攻撃は止まない。だが、対するジェイルも流石は100番代。すべての攻撃をぎりぎりのところで受け止めている。ちなみに珠月は逃げた。 「空多川さんとやら、やめなさい!」 「空多川さん」  おっとりと翔は戦う二人に声をかけた。 「くじの順番回ってきましたよ。珠月さんはすでに引きました」  ぴたりと攻撃がやんだ。軽い音を立てて、少女は着地する。 「おお、いけない。こんな腐った果実に構ってる暇じゃなかった。私はもう駄目だ」  ぶつぶつ言いながらくじ箱のほうへ消える。後には不思議そうな顔のジェイルが残された。 「……ねえ、朧の君」  そしてなぜか緋葬架に話かけてきた。 「何で僕は蹴られたのでしょうか? あの緋色の衣のお嬢さんに、失礼なことでもしてしまったのでしょうか?」 「さあ?」  緋色の服の少女の正体は、序列225位【ラヴレス(愛を注ぐもの)】空多川契(あくたがわ けい)。篭森珠月の友人なのだが、その友人関係はあまり知られていない。 「色々な人が参加していますのね」 「みんな暇なんだと思います」  ちらりと周囲に視線を向けながら、翔は言った。横やり入れてもいいということで、観戦者はどんどん増えつつあり、行商人も発生している。 「あ、ル・クルーゼがお弁当売りに来てますね。いいな、食べたい」 「今なら買いに行けるのではないかと思いますわ」 「でも食べる暇がないですね。きっと」  本当にどこから集まってくるのだろうか。上位ランカーの見学者やどさくさで商売をしているランカーの姿も見える。 「ま、今日はやめておきます。私たちも籤を引きましょう」 「そうですわね。おねえさまか……でなけりゃ、ジェイルと一緒がいいですわ。どさくさで始末できそうですし」 「後半は聞かなかったことにしてあげる」  こんな世情でも、一応、殺人罪というものは存在している。  そんな二人とすれ違うように、重装備の下位ランカーが走りぬけていく。 「やべえ! 俺、残酷と悪徳のコンビと同じスタートになっちまったかも!」 「なんであんな連中が訓練に参加してるんだよ!?」 「あ、でもハンデで本日は武器なし+防衛以外で殺さないらしいっすよ。やるなら今です」 「お前……やる気なのか?」  物騒な会話が聞こえた。翔と緋葬架は再び顔を見合わせる。 「…………みんな暇なのでしょうか」 「上位ランカーになると格下相手の戦闘が増えますから、不利な条件での訓練はみんな必要なんだと思いますわよ」  これが避難訓練であることは全員すでに忘れている。 「はあ、物騒です」  上位ランカーの中では比較的まともな性格をしている翔は、小さくため息をついた。日本風のだらりと長い袖が風に揺れる。 「ところで、翔様はどこからのスタートでしたの?」 「B地点って書いてあるけど……どのなんでしょうね」 「残念ですわね。私はC地点からスタートですわ」  周囲では参加者同士が互いに札を見せ合って話をしている。事前の打ち合わせをしているような者もいる。それでは訓練にならない。  そうこうしている間に、参加者目指してヘリが下りてくる。内部の様子が分からないよう、スタート地点まではヘリで上がるのだ。五、六人ずつに分かれて何度も往復する。 『やっと参加者がスタート地点に移動を始めたよ★ 罠が作動しないように、屋上までヘリで移動してから、スタート地点に分かれるんだってさ★』  スピーカーから聞こえてくる声は、ファンキーレディオ放送局の序列298位【ファンキーレディオ(愉快犯的放送電波)】一二三愛(ひふみ あい)だ。 「……本当に、大丈夫なんでしょうか」  憂いを帯びた顔で、翔はため息をついた。  A地点スタート組 「まさか貴女と一緒になれるなんて、神様も粋なサイコロの振り方をしてくださると思いませんか? 華麗な月の姫」 「面白い面子になったじゃないか。頑張ろうね、黒薔薇の姫君」 「今すぐに口を閉ざすか、頭ぶち抜かれるかどっちがいい? 藤司朗」 「……なんで僕だけ」 「どっちがいい?」 「マジギレはやめてくれ。皆怯えてる」  序列102位【ワンダフルポエマー(凍れる詩人)】ジェイル・クロムウェル(無所属)  序列24位【イノセントカルバニア(純白髑髏)】篭森珠月(ダイナソアオーガン所属)  序列65位【アトローチェドルチェッツァ(私の愛しい人)】半月藤司朗(レイヴンズワンダー所属)  +その他、下位ランカーたち  12階元資料室からのスタート。 「もう、篭森さんが殺気放ってるから、他の子たちみんな萎縮しちゃってるじゃないか」 「仕方がありませんよ。美しい薔薇に棘があるように、黒薔薇のように麗しく気品ある月の姫は、蜜のように蠱惑的で刃のように鋭くとがって恐ろしいものなのです」 「いや、その尖った部分は明らかに君に向かってるんだけどね」 「からかわないで下さいよ。私程度の人間が、月の姫の心を独占しているなどおこがましい」  いや、ある意味では独占してるから。  部屋にいるジェイルを除く全員が心の中で思った。 「最悪……最悪だ。始まったら逃げてる。絶対に逃げてやる。むしろ、私以外のここにいる全員死ねばいい」 「……呪いの言葉はくのやめてくださいよ」  B地点スタート組 「一緒になれて光栄です」 「うん……こちら、こそ、よ、ろしく……」  がらんとした空間が広がっている。どうやら、元から空きオフィスになっていた空間らしい。床も壁もほとんどコンクリートがむき出しだ。そこに翔と揺蘭李をはじめ、数名の生徒が床に座っている。 「罠がなさそうなのはいいですが、なんとなくつまらない場所ですね」 「うん……何か、裏あるかも」  床も壁も非常に頑丈そうな作りになっている。もともとは何のために作られたのだろうか。 「しかも比較的下の階からのスタートですから、それに見合う関門もあると思います」 「それ、は、仕方……ない。頑張、る」 「そうですね」  序列30位【グラビスフィアジョッキー(重力圏騎手)】万里小路翔(ダイナソアオーガン所属)  序列233位【ドリームタイム(神様の夢見る時間)】御神本揺蘭李(四十物谷調査事務所所属)  +その他、下位ランカーたち  11階空きオフィスからのスタート。  C地点スタート組 「…………ひょっとして一番不利な場所に当たったんじゃありませんこと?」  緋葬架は空を見上げてため息をついた。そして、ちらりと視線をある人物に向ける。その人物たちは、一人はチョコレートを食べ続け、一人は夢見るような顔で何かぶつぶつ呟いている。  序列96位【ナハトイェーガ―(夜の狩人)】朧寺緋葬架(四十物谷調査事務所所属)  序列155位【カーリーガード(流血女神)】パドマバディ・ガエクワッド(ダイナソアオーガン所属)  序列225位【ラヴレス(愛を注ぐもの)】空多川契(デスインランド所属)  +その他下位ランカー  屋上よりスタート 「……ガエクワットさん」 「ん?」  チョコレート味の飴という不毛な食品を食べていた少女は、緋葬架の声に顔をあげた。 「何か?」 「腕、どうしましたの?」  パドマバディの左腕は包帯で動かせないように固定されている。 「ハンデ。今日は左手を負傷した設定なの。文句ある?」 「なんて紛らわしい。それならいいですわ。それより問題は」  二人は同時に屋上の隅に目を向けた。一番ドアに近く、しかし他の参加者から遠巻きにされて、黒い髪と赤い服のコントラストが美しい少女が座っている。それだけなら誌的な光景だが、誌的じゃないものが一つだけあった。それは、 「蠍可愛いよ、蠍可愛い……その蠍のためにも私はもっと有能になってもっと使える人間にならないと。そして蠍のために働いて蠍に全て捧げて、もう私なしなんて考えらえないくらいになってもらわないと。ああ、蠍。私の蠍――――」 「大丈夫でしょうか。あれ」 「ほっときなさい。きっとそういうパーソナリティなのよ」 「そういうパーソナリティなら、ますます放っておくのは危険だと思いますわ」 「関わるのも危険よ。あーあ、早く始まらないかしら」  D地点スタート組 「死んではいないけど……何で寝てるんだ? こいつ」 「腹部に痣ができていますね。抵抗した形跡が見られないことから、おそらく背後から顎を掴まれ腕を固定された後、別の相手に腹を殴られて気絶させられたんでしょう。ほっといても起きますよ」 「ふうん。よく分かるな」 「授業で習ったでしょうが。本当に貴方は馬鹿ですね。夏羽」 「お前はうだうだ考えすぎなんだよ、陽狩。殺すぞ」 「貴方、こんなものにわざわざ参加した理由をもう忘れたんですか? 忘れたんですね? 今日は戦略的撤退の重要性を貴方に教えるために、わざわざ参加なんですよ」 「いいよ。俺、撤退とか」 「――――緑の怪獣と赤いピエロの間に置き去りにして差し上げたほうが良かったでしょうか」「俺が悪かった」  ダルイ会話が聞こえて、序列143位【フラグブレイカ―(伏線破壊)】神城纏(かみしろ まとい)は目を開いた。途端、校内最悪の殺人鬼のうちの二人、不死原夏羽と不死川陽狩の顔が飛び込んでくる。 「う、うあああああああああああ!?」 「あ、起きたぞ」 「呑気なことですねぇ」  咄嗟に悲鳴をあげて距離を置いたところで、纏は相手から殺気が感じられないことに気づいた。二人の殺人鬼は、飾り気のないオフィス家具に座ってぼんやりと纏を見ている。 「な、ここは」 「D地点です」  律儀に陽狩が答える。纏は混乱しながら記憶をたどった。フリーターである纏は、今日もバイトをした後、一度家に帰ろうと道を歩いていたはずだ。そこに顔見知りのランカーが何人か現れ、避難訓練に誘われて―――― 「やられた! 強制参加かよ!!」 「バーカ」「御愁傷様です。誰だか知りませんが」  纏の独り言に、いちいち突っ込みを入れてくる殺人鬼コンビ。いつもよりは落ち着いている二人に、纏は改めて向き直った。 「俺は神城だ! 同じランカーの顔くらい覚えておけ!」 「ああ、【フラグクラッシャー】の」「ロリコン神城ですか」 「【フラグブレイカ―(伏線破壊)】の神城纏だぁあああ!! そして俺はロリコンじゃねえ!」  ミスティックの能力をうち消す能力を持ったミスティック、神城纏。器用貧乏が災いして、高い能力値持ちながらも現在はフリーターとなっている彼には、面白半分で定着したロリコン疑惑がある。そのため一部では、「中央の逆襄」と呼ばれているのだが、これはこの際どうでもいい。 「っていうか、俺の顔知らねえくせにロリコン疑惑だけ知ってるってどういうことだよ!? 陽狩!」 「うわぁ、初対面で呼び捨てってすげえむかつきますね」 「初対面でロリコン呼ばわりのほうがムカつくわ!!」  序列143位【フラグブレイカ―(伏線破壊)】神城纏(無所属)  序列269位【クルワルティワーシプ(残酷礼賛)】不死原夏羽(無所属)  序列270位【ヴァイスワーシプ(悪徳礼賛)】不死川陽狩(無所属)  +その他、下位ランカー  12階元オフィスからスタート。
1、訓練当日  『避難訓練』実施日。  問題の建物の周囲には、異様な数の生徒が集まっていた。ただし、九割は見物人である。 「……物見高い方々ですこと」  朧寺緋葬架はため息をついた。思ったより多くのランカーが集まっている。同じ四十物谷調査事務所からは、揺蘭李が参加だ。普段寝てばかりいる彼女がどうやって脱出する気なのか、緋葬架には想像もつかない。  野次馬の間をライカナール新聞社の記者や、野次馬に弁当を売り付けに来たブラックシープ商会のスタッフが歩き回っている。ちょっとしたお祭り騒ぎだ。  トランキライザーにおいては、予科より本科のほうが暇――もちろん進学できた場合だが――特にほとんどポイントをためてしまっているランカーと呼ばれる成績上位者は、多少さぼっても卒業できるため余裕があるのだ。そうでない下位ランカーであっても一日二日さぼっただけで生活がやばくなるような生徒は、全体で見れば多くない。というわけで、異様な数の人間が軍事演習もとい避難訓練を見物に来たのだ。 「心配ですね」  振り向くと和装に近い服の少女が立っていた。ダイナソアオーガンの翔だ。だが、今日は愛用している鉄扇を持っていない。ハンデとして武器無での参加なのかもしれない。 「こんにちは、翔様」 「こんにちは、緋葬架さん。それにしてもこれだけ人が多いと心配ですね。流れ弾に当たってしまったり、建物の倒壊に巻き込まれたり……」  憂いを帯びた表情で、翔はため息をついた。風に乗って香がふわりと薫る。 「自己責任とはいえ、もう一度避難勧告をしたほうがいいかもしれません」 「無駄だと思いますわ。盛り上がっていますもの。モニターまで設置して……」  流石に倒壊に巻き込まれそうな至近距離には人はいない。だが、ぎりぎりのライン以降には少なくない人間が観戦する気満々で陣取っている。 「それにしても主催者――珠月おねえ様はどこに?」 「はーい、そろそろ時間なんで参加者は集まってください。ルール説明します」  すごく疲れた声が拡声器を通して聞こえた。珠月だ。 「……何か疲れておりませんこと?」  普段は声からも顔からも感情がほとんど読み取れない珠月の声に、あからさまな疲労がにじんでいる。 「よほどのハンデでも負っていらっしゃるのでしょうか……」 「さっき、ジェイルさんがいました」 「それですわね。確かにある意味、最強のハンデになりそうですけど」 「いや、別にハンデとして連れてきたわけじゃないと思いますよ。でも、ジェイルさんの参加自体がハンデになるから、能力使用の制限は必要ないかもしれません」 「あ、そのことでしたら、設定変更して能力使用は三度までにしたらしいですわよ」 「ジェイルさんがいるんじゃ仕方ないですね」  話しながら二人は移動する。他の参加者もぞろぞろと集まってきた。本格的な装備をしている者から普段着の者まで様々だ。主催者であるはずの珠月も、いつも通りのひらひらしたスカートとヒール姿。厚底でないだけましかもしれないが。 「珠月さん、動きにくくないんですか?」  翔は首を傾げた。そういう翔も普段着である。 「何言ってるの。そんな重装備じゃ、避難訓練にならないじゃん。できるだけ不利な状態から逃げ切ってこそ、価値ある勝利でしょ」 「いいえ。マゾというんですよ」 「言うね。そういう翔だって普段着じゃない」  楽しそうに珠月は笑った。ジェイルのほうをできるだけ見ないようにしている。そして、問題のジェイルは珍しく黙っていた。 「じゃあ、ルール説明はじめます。初めにくじ引きでスタート地点を決めます。不利な場所からスタートになるか、それとも比較的楽なところから始まるかは運任せ。誰と同じ場所からスタートになるかも運任せです。同じスタート地点の人と協力してもいいし、速攻で潰しあっても構いません。裏切りも可。好きにやってください」  すでに避難訓練ではない。 「ビルは開始から丁度3時間で完全爆破されるので、それまでに避難してください。クリア条件は外に出て、正面に設置されたゲートをくぐること。最終的にゲートを潜ることができれば、窓から出てもドアから出てもかまいません、ギブアップの場合、各階の北のエレベーターだけは直通で外に出れるので、使うこと。ダウンしたひともスタッフがそこから運びます。スタッフとか脱落者を攻撃したらダメだよ。またあちこちにトラップが設置されています。さらに外部から、ミスティックや狙撃手による攻撃も加わるので、頑張って逃げてください。あと、警備用ロボが攻撃してきます。敵代わりです。倒すと武器が手に入ります」 「何のRPGだよ」 「いいじゃん、楽しいし」  参加者は過酷な条件を突き付けられても、参加者たちはかなり余裕だ。 「ちなみに内部の様子は遠隔カメラでそちらの巨大モニターに移ります。見物人でかつ、遠隔型の攻撃を行える人はモニターを頼りにどんどん攻撃しちゃってください。ただし、反撃されても自己責任でお願いしますね」  今度は野次馬がざわめく。上位ランカーに一撃喰らわせるチャンスと、そのリスクを検討しているのだろう。 「ただし、自力で外まで出てきて地面に足を付いたら、それ以上の攻撃は禁止ね。内部にいるときと壁とかに張り付いてるときは、どんどん狙撃でも何もしちゃってください」  下手しなくても死にます。  だが、参加者は気にした様子もない。 「内部の見取り図とか予備武器はビル内に隠されていますが、探すために部屋を荒らすとそれだけトラップの作動確立も上がるので、せいぜいがんばってください。繰り返しますが、死んでも自己責任ですからね。やめたい人は今すぐに帰ってかまいませんよ」  帰るどころか全員武器の点検を始めている。色々な意味でやる気だった。 「じゃあ、順番に籤引いて。確率は変わらないから、急がなくていいからね」  言われた通りに参加者が並ぶ。籤は細工ができないよう、あえてアナログな紙の籤を採用している。 「あ……緋葬架、おは、よう。一緒……慣れるといいね」 「揺蘭李……とりあえず、起きなさい」  あくびをしながら、人込みから揺蘭李が現れる。翔の姿を見ると、ぺこりと頭を下げた。 「それに私は、珠月おねえさまを全力で守ると決めているのです」 「……えらい、迷惑、と思う、よ」 「でもどっちかというと、ジェイルさんをどうにかしたほうが感謝されると思いますよ」  翔は、少し離れた所にいるジェイルと珠月を見やった。 「楽しみですね、月の姫。できれば同じ場所からスタートしたいのですが……まあ、そこは運命の女神もお導きに任せましょう。気まぐれな女神に、我々矮小な人間は振り回されるものと決まっております。ねえ?」 「聞こえない……何も聞こえない。心を閉ざせ。聞くな、私」 「…………」 「…………」  緋葬架と翔は顔を見合わせた。ジェイルは軽やかに喋り続け、珠月はぶつぶつと自己暗示をかけながら沈んでいる。 「なぜあそこまで彼が苦手なのでしょう? 篭森さんの実力なら、強制排除なんて簡単なはずなのに」 「何かトラウマがあるみたいですわ。おねえさまを苦しめるなんてなんてこと!」  敵を排除すべく走り出した緋葬架の横を誰かが追いぬいた。黒くまっすぐな日本髪が風に揺れる。そして、 「死ね!」  勢いと筋力と体重と重力を乗せたとび蹴りがジェイルに叩きこまれた。腕をクロスさせて受け止めたジェイルだが、勢いを殺しきれずたたらを踏む。そこに下方から死角を狙ったハイキックが撃ち込まれる。奇襲者の深紅のスカートがなびいた。  出鼻をくじかれて、緋葬架は止まる。 「…………誰?」 「アンダーヤードの空多川さんですね。困りました。場外乱闘は禁止なのに」  ふうと翔はため息をついた。常識人だ。だが、乱闘が起きても眉ひとつ動かさないところは実に学園らしい。 「それにしても……100位以上もランキングに差があるのに強いですねぇ。流石はアンダーヤードの住人」 「感心してる場合じゃありませんわ。ちょっと、そこのお方」  無視された。流れるような優雅な攻撃は止まない。だが、対するジェイルも流石は100番代。すべての攻撃をぎりぎりのところで受け止めている。ちなみに珠月は逃げた。 「空多川さんとやら、やめなさい!」 「空多川さん」  おっとりと翔は戦う二人に声をかけた。 「くじの順番回ってきましたよ。珠月さんはすでに引きました」  ぴたりと攻撃がやんだ。軽い音を立てて、少女は着地する。 「おお、いけない。こんな腐った果実に構ってる暇じゃなかった。私はもう駄目だ」  ぶつぶつ言いながらくじ箱のほうへ消える。後には不思議そうな顔のジェイルが残された。 「……ねえ、朧の君」  そしてなぜか緋葬架に話かけてきた。 「何で僕は蹴られたのでしょうか? あの緋色の衣のお嬢さんに、失礼なことでもしてしまったのでしょうか?」 「さあ?」  緋色の服の少女の正体は、序列225位【ラヴレス(愛を注ぐもの)】空多川契(あくたがわ けい)。篭森珠月の友人なのだが、その友人関係はあまり知られていない。 「色々な人が参加していますのね」 「みんな暇なんだと思います」  ちらりと周囲に視線を向けながら、翔は言った。横やり入れてもいいということで、観戦者はどんどん増えつつあり、行商人も発生している。 「あ、ル・クルーゼがお弁当売りに来てますね。いいな、食べたい」 「今なら買いに行けるのではないかと思いますわ」 「でも食べる暇がないですね。きっと」  本当にどこから集まってくるのだろうか。上位ランカーの見学者やどさくさで商売をしているランカーの姿も見える。 「ま、今日はやめておきます。私たちも籤を引きましょう」 「そうですわね。おねえさまか……でなけりゃ、ジェイルと一緒がいいですわ。どさくさで始末できそうですし」 「後半は聞かなかったことにしてあげる」  こんな世情でも、一応、殺人罪というものは存在している。  そんな二人とすれ違うように、重装備の下位ランカーが走りぬけていく。 「やべえ! 俺、残酷と悪徳のコンビと同じスタートになっちまったかも!」 「なんであんな連中が訓練に参加してるんだよ!?」 「あ、でもハンデで本日は武器なし+防衛以外で殺さないらしいっすよ。やるなら今です」 「お前……やる気なのか?」  物騒な会話が聞こえた。翔と緋葬架は再び顔を見合わせる。 「…………みんな暇なのでしょうか」 「上位ランカーになると格下相手の戦闘が増えますから、不利な条件での訓練はみんな必要なんだと思いますわよ」  これが避難訓練であることは全員すでに忘れている。 「はあ、物騒です」  上位ランカーの中では比較的まともな性格をしている翔は、小さくため息をついた。日本風のだらりと長い袖が風に揺れる。 「ところで、翔様はどこからのスタートでしたの?」 「B地点って書いてあるけど……どのなんでしょうね」 「残念ですわね。私はC地点からスタートですわ」  周囲では参加者同士が互いに札を見せ合って話をしている。事前の打ち合わせをしているような者もいる。それでは訓練にならない。  そうこうしている間に、参加者目指してヘリが下りてくる。内部の様子が分からないよう、スタート地点まではヘリで上がるのだ。五、六人ずつに分かれて何度も往復する。 『やっと参加者がスタート地点に移動を始めたよ★ 罠が作動しないように、屋上までヘリで移動してから、スタート地点に分かれるんだってさ★』  スピーカーから聞こえてくる声は、ファンキーレディオ放送局の序列298位【ファンキーレディオ(愉快犯的放送電波)】一二三愛(ひふみ あい)だ。 「……本当に、大丈夫なんでしょうか」  憂いを帯びた顔で、翔はため息をついた。  A地点スタート組 「まさか貴女と一緒になれるなんて、神様も粋なサイコロの振り方をしてくださると思いませんか? 華麗な月の姫」 「面白い面子になったじゃないか。頑張ろうね、黒薔薇の姫君」 「今すぐに口を閉ざすか、頭ぶち抜かれるかどっちがいい? 藤司朗」 「……なんで僕だけ」 「どっちがいい?」 「マジギレはやめてくれ。皆怯えてる」  序列102位【ワンダフルポエマー(凍れる詩人)】ジェイル・クロムウェル(無所属)  序列24位【イノセントカルバニア(純白髑髏)】篭森珠月(ダイナソアオーガン所属)  序列65位【アトローチェドルチェッツァ(私の愛しい人)】半月藤司朗(レイヴンズワンダー所属)  +その他、下位ランカーたち  12階元資料室からのスタート。 「もう、篭森さんが殺気放ってるから、他の子たちみんな萎縮しちゃってるじゃないか」 「仕方がありませんよ。美しい薔薇に棘があるように、黒薔薇のように麗しく気品ある月の姫は、蜜のように蠱惑的で刃のように鋭くとがって恐ろしいものなのです」 「いや、その尖った部分は明らかに君に向かってるんだけどね」 「からかわないで下さいよ。私程度の人間が、月の姫の心を独占しているなどおこがましい」  いや、ある意味では独占してるから。  部屋にいるジェイルを除く全員が心の中で思った。 「最悪……最悪だ。始まったら逃げてる。絶対に逃げてやる。むしろ、私以外のここにいる全員死ねばいい」 「……呪いの言葉はくのやめてくださいよ」  B地点スタート組 「一緒になれて光栄です」 「うん……こちら、こそ、よ、ろしく……」  がらんとした空間が広がっている。どうやら、元から空きオフィスになっていた空間らしい。床も壁もほとんどコンクリートがむき出しだ。そこに翔と揺蘭李をはじめ、数名の生徒が床に座っている。 「罠がなさそうなのはいいですが、なんとなくつまらない場所ですね」 「うん……何か、裏あるかも」  床も壁も非常に頑丈そうな作りになっている。もともとは何のために作られたのだろうか。 「しかも比較的下の階からのスタートですから、それに見合う関門もあると思います」 「それ、は、仕方……ない。頑張、る」 「そうですね」  序列30位【グラビスフィアジョッキー(重力圏騎手)】万里小路翔(ダイナソアオーガン所属)  序列233位【ドリームタイム(神様の夢見る時間)】御神本揺蘭李(四十物谷調査事務所所属)  +その他、下位ランカーたち  11階空きオフィスからのスタート。  C地点スタート組 「…………ひょっとして一番不利な場所に当たったんじゃありませんこと?」  緋葬架は空を見上げてため息をついた。そして、ちらりと視線をある人物に向ける。その人物たちは、一人はチョコレートを食べ続け、一人は夢見るような顔で何かぶつぶつ呟いている。  序列96位【ナハトイェーガ―(夜の狩人)】朧寺緋葬架(四十物谷調査事務所所属)  序列380位 パドマバディ・ガエクワッド(ダイナソアオーガン所属)  序列225位【ラヴレス(愛を注ぐもの)】空多川契(デスインランド所属)  +その他下位ランカー  屋上よりスタート 「……ガエクワットさん」 「ん?」  チョコレート味の飴という不毛な食品を食べていた少女は、緋葬架の声に顔をあげた。 「何か?」 「腕、どうしましたの?」  パドマバディの左腕は包帯で動かせないように固定されている。 「ハンデ。今日は左手を負傷した設定なの。文句ある?」 「なんて紛らわしい。それならいいですわ。それより問題は」  二人は同時に屋上の隅に目を向けた。一番ドアに近く、しかし他の参加者から遠巻きにされて、黒い髪と赤い服のコントラストが美しい少女が座っている。それだけなら誌的な光景だが、誌的じゃないものが一つだけあった。それは、 「蠍可愛いよ、蠍可愛い……その蠍のためにも私はもっと有能になってもっと使える人間にならないと。そして蠍のために働いて蠍に全て捧げて、もう私なしなんて考えらえないくらいになってもらわないと。ああ、蠍。私の蠍――――」 「大丈夫でしょうか。あれ」 「ほっときなさい。きっとそういうパーソナリティなのよ」 「そういうパーソナリティなら、ますます放っておくのは危険だと思いますわ」 「関わるのも危険よ。あーあ、早く始まらないかしら」  D地点スタート組 「死んではいないけど……何で寝てるんだ? こいつ」 「腹部に痣ができていますね。抵抗した形跡が見られないことから、おそらく背後から顎を掴まれ腕を固定された後、別の相手に腹を殴られて気絶させられたんでしょう。ほっといても起きますよ」 「ふうん。よく分かるな」 「授業で習ったでしょうが。本当に貴方は馬鹿ですね。夏羽」 「お前はうだうだ考えすぎなんだよ、陽狩。殺すぞ」 「貴方、こんなものにわざわざ参加した理由をもう忘れたんですか? 忘れたんですね? 今日は戦略的撤退の重要性を貴方に教えるために、わざわざ参加なんですよ」 「いいよ。俺、撤退とか」 「――――緑の怪獣と赤いピエロの間に置き去りにして差し上げたほうが良かったでしょうか」「俺が悪かった」  ダルイ会話が聞こえて、序列143位【フラグブレイカ―(伏線破壊)】神城纏(かみしろ まとい)は目を開いた。途端、校内最悪の殺人鬼のうちの二人、不死原夏羽と不死川陽狩の顔が飛び込んでくる。 「う、うあああああああああああ!?」 「あ、起きたぞ」 「呑気なことですねぇ」  咄嗟に悲鳴をあげて距離を置いたところで、纏は相手から殺気が感じられないことに気づいた。二人の殺人鬼は、飾り気のないオフィス家具に座ってぼんやりと纏を見ている。 「な、ここは」 「D地点です」  律儀に陽狩が答える。纏は混乱しながら記憶をたどった。フリーターである纏は、今日もバイトをした後、一度家に帰ろうと道を歩いていたはずだ。そこに顔見知りのランカーが何人か現れ、避難訓練に誘われて―――― 「やられた! 強制参加かよ!!」 「バーカ」「御愁傷様です。誰だか知りませんが」  纏の独り言に、いちいち突っ込みを入れてくる殺人鬼コンビ。いつもよりは落ち着いている二人に、纏は改めて向き直った。 「俺は神城だ! 同じランカーの顔くらい覚えておけ!」 「ああ、【フラグクラッシャー】の」「ロリコン神城ですか」 「【フラグブレイカ―(伏線破壊)】の神城纏だぁあああ!! そして俺はロリコンじゃねえ!」  ミスティックの能力をうち消す能力を持ったミスティック、神城纏。器用貧乏が災いして、高い能力値持ちながらも現在はフリーターとなっている彼には、面白半分で定着したロリコン疑惑がある。そのため一部では、「中央の逆襄」と呼ばれているのだが、これはこの際どうでもいい。 「っていうか、俺の顔知らねえくせにロリコン疑惑だけ知ってるってどういうことだよ!? 陽狩!」 「うわぁ、初対面で呼び捨てってすげえむかつきますね」 「初対面でロリコン呼ばわりのほうがムカつくわ!!」  序列143位【フラグブレイカ―(伏線破壊)】神城纏(無所属)  序列269位【クルワルティワーシプ(残酷礼賛)】不死原夏羽(無所属)  序列270位【ヴァイスワーシプ(悪徳礼賛)】不死川陽狩(無所属)  +その他、下位ランカー  12階元オフィスからスタート。

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