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第1話
https://w.atwiki.jp/sakurahiromu2/pages/46.html
むかしむかし、まだこの国が黄金の国ジパングと西洋で信じられていた頃のこと。
平和で下々の民にまで富が行き渡っていると考えられていたこの国は、西洋人たちの理想とは大きく異なる様相を呈していました。
応仁の乱に始まり明応の政変で日の本全土に広がった戦火は、旧来の権威を失墜させ混沌の中に新たな秩序を生み出し、
卑しくとも力ある者が貴く力無き者に取って代わり奸智に長けた梟雄が暗愚な君子を追う、下克上の時代へと導いていたのです。
萌芽し始めた新たな時代の旗手となることを目指して日の本各地で諸侯が鹿を逐い、
勝った者は敗者を蹂躙し食らいつくしてさらなる飛躍のための力を蓄え、
敗れた者は戦場に屍を晒し、或いは勝者に臣従しつつ腹の中では反攻の機を窺っていました。
誰もが勝者たりえ、誰もが敗者たりえる。そこに身分の貴賤は関係なく、才覚の有無だけがすべて。
日の本が有史以来最大の混乱を迎え、それゆえに活力に溢れていた時代。
のちに戦国時代と呼ばれることになる、そんな時代の物語。
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*のぶながの野望 天翔記
*第一話「遠い春」
永禄六年、奥州三戸。
戦乱の中心である畿内からはるか遠く北の果てのこの地にも、戦国乱世は及んでいたのでした。
三戸の主、南部晴政はその武力をたのみに「三日月の 丸くなるまで 南部領」と詠われる広大な領土を手に入れておりました。
南部家最大版図を築き、中興の祖として奥羽にその名を轟かす晴政でしたが、彼には二つ大きな悩みがありました。
一つ目の悩みは、47歳になる晴政には未だ強大な南部家を継ぐべき男児が生まれていないことでした。
この時代、家名を後世に残すことは武士にとって最大の課題でありました。
いかに晴政が武勇に優れ南部家を北奥の覇者に押し上げたところで、
晴政が志半ばで果てたときに南部家が断絶してしまっては意味がありません。
そのため晴政は自分の娘を一門の若者二人に嫁がせ、そのいずれかを自分の後継者にしようと考えていました。
ひとりめは晴政の覇業を軍事面で支える猛将、九戸政実の弟・実親。
九戸実親は温厚朴訥な性格で晴政によく仕え、晴政もまた実親をまるで実子のように可愛がっていたのでした。
そしてもうひとり。晴政の父・安信はその勢力伸張にあたって弟たちを領内各地に派遣し別家を立てさせていました。
安信の次弟である高信は津軽地方に派遣され、石川家を立て石川高信と名乗っておりました。
高信にはでぶながという名の息子がいました。この石川でぶながもまた、晴政の娘を娶っておりました。
しかしこの石川でぶなが、まだ晴政の娘と結婚しただけなのにもかかわらず、まるで実親の存在など頭に無いようで、
「( ,_`ゝ′)麻呂は三百五十年余の歴史を持つ南部家の後継者でおじゃる」
などと言い放ち、すでに南部家当主になったかのような乱行に明け暮れておりました。
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実はこの石川でぶながの存在が晴政の二つ目の悩みだったのです。
はっきり言って晴政は石川でぶながのような男が大嫌いでした。
石川でぶながの顔を見るとつい刀に手が伸びるというのも一度や二度ではありませんでした。
しかし可愛い娘の夫である以上いかんともしがたく、また乱行三昧とはいえ大きな失態を犯したわけでもないので、
石川でぶながを苦々しく思いながらも晴政は彼に手を出せずにおりました。
しかし晴政も石川でぶながをこのまま放置しておくつもりはありませんでした。
この時代、明日は何が起こるかわかりません。
もしも九戸実親が急病で倒れでもしたら、自動的に南部家の跡目は暗愚で傲慢な石川でぶながになってしまいます。
天下には届かずともせめて晴政が広げた領土を守り通し次代に継承させられるだけの才覚は身につけてほしいと願い、
晴政はひとりの男を石川でぶながの後見人として津軽に送りつけました。
男の名は八戸のぶなが。
かつて南部宗家であった八戸南部家当主、八戸信長の嫡男であります。
八戸のぶながは表向きは晴政に従ってはおりましたが、内心穏やかではありませんでした。
「(,_´ゞ`) おのれ晴政め分家の分際でこの私を顎で使い、挙句でぶながのような貸すに仕えよとは…」
八戸のぶながは晴政にこき使われ、今またうつけと名高いでぶながの後見人という名の閑職に追いやられる己の不幸を嘆いていたのでした。
----
石川でぶながは八戸のぶながの予想を大いに上回るうつけ者でした。
「( ,_`ゝ′)仁君とは民がいかに暮らしているかを身をもって知らねばならんのだ」
と言っては強引に農作業中の農村に押し入り勝手なことをして田畑をめちゃくちゃに荒らしたり、
「( ,_`ゝ′)今日は商人の仕事ぶりを学ぶぞ」
と言っては商家に上がりこみ勝手に番頭をやって店創業以来の大赤字を計上させたのでした。
八戸のぶながも最初のうちは諫言を繰り返していましたが、石川でぶながのあまりのうつけぶりに失望し何も言わなくなったのでした。
しかも、石川でぶなが本人は善行のつもりでやっているため、なおのことタチが悪いのでした。
そのうちに津軽地方に住む国人たちは露骨に石川でぶながとその背後にある南部家を嘲るようになっていきました。
当然このような噂はすぐに晴政の耳にも届き、晴政はことあるごとに八戸のぶながを呼びつけたのでした。
「のぶながよ、お前の力量を高く評価しワシの女婿であるでぶながの後見役を言いつけたというのに良い噂は一つも届かん。
いったいどうなっておるのだ。津軽の国人たちは池沼でぶながなどと言って嘲っておるそうではないか」
「はは、申し訳ございません。しかし、でぶなが殿は私のような凡人には御しきれぬ天下の奇才なのでございます。
桶狭間で今川義元公を討った織田信長も、かつては大うつけと評判だったではありませんか、でぶなが殿は奥州の織田信長なのです」
八戸のぶながは面倒くさそうに適当なことを言ってみました。
八戸のぶながは、どうあがいても南部家当主になれるわけもない石川でぶながに尽くす気など毛頭ありませんでした。
そんな無駄なことをしている暇があるなら、猫と戯れているほうがよっぽどマシだと考えていたのです。
今まで武勇に生きてきた晴政は少々懐疑的ながらも、八戸のぶながの虚言を受け入れたのでした。
「ふうむ、だがこれ以上津軽の国人どもや出羽の連中になめられるわけにはいかん。出来るだけでぶながを外出させないようにするのだ」
晴政はそう厳命し、八戸のぶながを帰したのでした。
----
しかし、石川でぶなががそんな命令を素直に聞くわけがありません。
「( ,_`ゝ′)なんだとカス、麻呂はお外を歩き回りたいでおじゃる!!!!」
石川でぶながは晴政の命令を頑なに拒絶しました。
挙句八戸のぶながを晴政の犬と罵り、
「( ,_`ゝ′)犬なら犬らしく犬と戯れておれ!!ぬこ様なんかこうだ!!」
と叫んで八戸のぶながが可愛がっていた野良猫を蹴り飛ばしたのでした。
これには猫好きの八戸のぶながも怒りを隠せません。むしろ激怒しました。
石川でぶながの後見人を命じられて以来積もりに積もっていた石川でぶながに対する怒りが大爆発したのです。
「(,_´ゞ`) 甥貸す死にたいのか?」
「( ,_`ゝ′)あん?やんのかこら!!」
条件反射で喧嘩を買ってしまった石川でぶながはすぐに後悔しました。八戸のぶながが抜刀し突如切りつけてきたのです。
まさか八戸のぶながが本気で怒っているとは思ってもいなかった石川でぶながは斬撃を間一髪で避け、急いで逃げ出しました。
「( ,_`ゝ′)tdryふghじょいおおう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「・・・若?朝も早くから今度はいった・・・!!!!!!!!!
の、のぶなが様!? だ、誰かー!のぶなが様ご乱心!のぶなが様ご乱心!」
石川でぶながの奇声を聞いて面倒くさそうに廊下へ出てきた小姓は、鬼気迫る形相で石川でぶながを追い回す八戸のぶながに驚き人を呼びました。
「(,_´ゞ`) ぬこ様に謝れ!!!!!!1謝らんか!!!!!!」
普段からは想像もできない怒声を放ち、刀を右に左に振り回しつつ石川でぶながを追いかける八戸のぶながは、
「その疾きこと走狗の如く、その五月蝿きこと春の猫の如く、近づきがたきこと悪酔いした暴漢の如し」と「南部晴政書状」にも記されております。
結局、石川家中総出で八戸のぶながを取り押さえ、宥め賺し、ようやく八戸のぶながが落ち着いたときにはもうすっかり日も高くなっておりました。
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これには石川でぶながの父・高信も大弱りでした。
道を踏み外していたのは息子でぶながですが、今の八戸のぶながは石川でぶながの後見人、いわば家老のようなものなのです。
家臣が主君に刃を向けるなど本来であれば厳罰をもってあたらねばなりませんが、しかし八戸のぶながは南部一門筆頭格八戸家の嫡男。
南部一門でもそんなに地位の高くない石川家が簡単に裁断することなどできません。
しかたがないので高信は甥で南部家当主の晴政に判事を依頼しました。
「晴政殿、八戸のぶながめの処分いかがいたそうか・・・。あやつめ主たる我が子でぶながに刃を向けおった」
「・・・叔父上、八戸のぶながばかり責められるが責任の多くはでぶながにありますぞ。
いくらワシの女婿とはいえでぶながの所業は当家の威信を揺るがす悪行。現に津軽の国人どもは当家を侮るようになった」
晴政の厳しい口調に高信は驚き、慌てて石川でぶながを擁護し始めましたが、時すでに遅し。
もともと生理的にあわない石川でぶながを何とかして排斥したいと常々考えていた晴政にとって今回の事件はまさに渡りに船だったのです。
「叔父上、喧嘩両成敗の原則に従い石川でぶなが、八戸のぶなが両名を追放処分とする!帰ってそう伝えられよ」
この一報に石川家は上へ下への大騒ぎになりました。
家臣団のうち血気盛んな者たちは八戸のぶなが殺害を訴えたり、さらに過激な連中は晴政に反旗を翻すことまで企みはじめたのです。
そして当の石川でぶながは狼狽し、八戸のぶながもまた呆然としておりました。
「(,_´ゞ`) ああ、これでは八戸の世など夢のまた夢ではないか」
座敷牢の隅で八戸のぶながは一人悔し涙を流すのでありました。
----
追放処分が執行される当日、石川高信は石川でぶなが、八戸のぶなが両名を呼びつけました。
「( ,_`ゝ′)父上、麻呂は納得いかぬでおじゃる!!麻呂は、麻呂は、南部家の次期当主でおじゃる!!」
見苦しいことに石川でぶながはこの期に及んで処分を下さぬよう高信に哀願していたのでありました。
石川でぶながはこれまで甘やかされて育ってきたため、城の外に一人で放り出されれば二月と持たずに野垂れ死ぬのは火を見るより明らか。
それはきっと本人だってわかっていたのでしょう。涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら石川でぶながは父に縋りつきます。
高信もそんな情けない石川でぶながをとてもつらそうに、しかしその想いを必死に抑えながら優しく宥めていたのでした。
石川父子の姿を冷ややかに見つめていた八戸のぶながでしたが、彼もまた今後どのようにして生きていくか未だ妙案は浮かんでおりませんでした。
石川でぶながが泣き喚くのに疲れ、おとなしくなった頃合を見はかり高信は口を開きました。
「こうなった以上ワシにはもうどうしようもない。晴政殿のお心が静まるまでは文武に励み将器を磨いておるしかあるまい。
でぶながよ、京へ上るのだ。京の都であればきっとそなたの力になってくれる文学や武芸の師が大勢おられることであろう」
高信はこう言って石川でぶながを諭しました。高信は息子が立派な将になればきっと晴政も赦してくれるだろうと考えていたのです。
「・・・のぶなが殿、貴殿は未だでぶながの後見人の役を解かれてはおらん。責任もって京まで護衛されよ」
高信は八戸のぶながを睨みつけながら一方的に言いつけたのでした。
「(,_´ゞ`) おいなぜ私がこの貸すのお守りをせねばならんのだ答えろ貸す!!!!!!11」
八戸のぶながの断末魔にも似た叫びは完全に無視され、石川でぶながと八戸のぶながは南部家を追放されたのでした。
時に永禄六年二月、奥州は寒風吹きすさぶ未だ厳しい冬の時期でありました・・・。
南部家を追われてしまった石川でぶながと八戸のぶなが、二人の運命やいかに?
続きは次回の講釈にて。
(v=ФωФ)ρ 第一話からしてgdgdなこの物語、需要は皆無だろうが俺が飽きるまでは続くのだ!!!!!!!1111
2008-07-25T04:52:26+09:00
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*ここは三戦板の【☆。.・'゜☆。ONCE UPON A TIME 3☆。.・'゜☆スレ】を読みやすいように整理したページです。
*またあらすじ、登場人物の紹介などもおこなってゆきます。
*また編集者の独断により勝手に題名をつけられたりすることがあります。
現在は氷雪氏、うんぴ氏が連載中 【☆。.・'゜☆。ONCE UPON A TIME 3☆。.・'゜☆】スレ
[[>http://ex24.2ch.net/test/read.cgi/warhis/1216917782/]]
初代スレ
【むかしむかし】
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二代目スレ
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*苦情は☆。.・'゜☆。ONCE UPON A TIME 3☆。.・'゜☆スレにお願いします。
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第42話まで
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*三戦英雄傳
*第四十回~敵からの贈り物~
さてさて、前回兵士達の「不満を解消する」として後漢軍へ贈り物を贈ったEusebio Di Francesco。
問題の衣装箱の中身とは何なのでしょうか。
官兵:「たった今、南匈奴軍より荷物が届きました」
李儒:「ほお、贈り物とは殊勝な心がけ。降伏の書状か」
宇喜多直家信者:「とりあえず開けてご覧なさい」
官兵:「はっ!」
中にあるのは敵大将の首か? 降伏の書状か? 後漢軍の視線は一つの衣装箱に釘付けとなっておりました。
官兵:「これは……」
呂布:「うおっ!!」
牛金:「なんだ!!」
衣装箱にあった物。それは敵大将の首ではなく、洛陽の姫君が着るような、煌びやかな女物の衣装でありました。
華雄:「待て。書状もあるぞ。……どうやら貴軍で愛国心がある者はあの宦官だけと見える。宦官一人に任せ
閉じこもる貴公たちは宦官以下の婦女子に違いない。婦女子は着飾って投降すれば我が王の妾くらいにはしてやるぞ
…人を馬鹿にするのも程がある!! なんで儂があの宦官に劣ることがあろう!! ここは総攻撃をかけ、
目に物見せてくれましょうぞ!!」
宇喜多直家信者:「しかし、帝より預かった大事な兵。策もなく感情に委せ徒に戈を交えるものではない」
この戦の真の目的が「蔡文姫奪還」という私的なことにある負い目が宇喜多直家信者から冷徹さを奪いました。
抗戦か、否か。一同が揺れる中、幕舎を訪ねた二人の影がありました。
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何進:「おうおう、まだ軍議中か。敵は目の前におるというに。これは儂の孫で晏。字を平叔という。
これ、平叔、挨拶なさい」
何晏:「何平叔にございます。後漢の民を救うべく若輩の身なれど馳せ参じました」
李儒:「平叔様は、確か五石散中毒で伏せっておいでのはず…それに前より背丈が縮み、なよなよと
しているような……」
何進:「五石散は綺麗さっぱり絶ちました。なあ、平叔。それに長いこと伏せっていれば自然と
背も縮みましょう」
李儒:「左様ですか」
実はこの青年、何晏ではございません。何晏に扮した渦中の司馬懿でございました。
妹・小銀玉皇后が起こした裸照事件の煽りを受け大将軍の地位を永久剥奪されるのを懼れた
何進が自ら霊帝に願い出て援軍に駆けつけ、「後漢救国の祖父と孫」の美談を描いたのでした。
ところが肝心の何晏は未だ五石散中毒から抜け出せず。急遽一週間の日雇いで何晏の身代わりを
募集したところ、散歩していた渦中の司馬懿が労働欲に目覚め応募したのでした。
呂布:「大将軍には申し訳ないが、そんなひ弱な生っちろい細い男が戦場で何の役に立つというのだ」
牛金:「残念だが事実ですな。チビで手足ばかりひょろひょろと長く、目なんか生まれたての
子鹿みたいに頼りなげで無駄にでかい」
何進:「ほお、これは何ですか」
宇喜多直家信者:「敵軍から婦人物の衣装が送られてきたのです。兵士たちは無駄に士気を上げ、困っております」
何進:「確かに。確かに我が孫はチビでもやしっ子。だが、それも……見よ!!」
何進の指先には一人の少女がおりました。碧の黒髪、潤んだ黒目。なかなかの美少女であります。
呂布:「この戦場に……どなたかご令嬢を連れてきたのか?」
牛金:「いや、この戦は野蛮人との戦い。そんなことはしないはず」
華雄:「よく見なされ、あの衣装を!!」
少女が身につけているのは先ほど南匈奴軍より贈られた衣装でした。
----
何進:「男として劣った体も、女装をすればこの通り」
華雄:「なんと理想的な女装体型……」
呂布:「イケる……」
何進:「さあ、平叔。この姿を南匈奴の奴らに見せ逆に煽ってやるのだ」
渦中の司馬懿は雇い主・何進の命ずるまま敵要塞の前まで歩いてゆきました。
南匈奴兵1:「本当に来やがった!! やいオカマ!!」
南匈奴兵2:「掘られに来たのか、このオカマが」
南匈奴の兵士たちは敵将軍が女装してきたものと思い込み、口々に囃し立て、叩きに弱い
渦中の司馬懿はすっかり涙目でありました。
ロコふるーちぇ:「馬鹿者!! 叩くなら叩きに強い男にしないか!! 弱い男を叩いてどうする!!
……って女?」
ロコふるーちぇの戸惑いの声は南匈奴兵にも伝わり南匈奴兵たちはこぞって渦中の司馬懿の顔を見ようとしました。
南匈奴兵1:「泣いてる……しかもなよなよして俺らの国にはいないタイプのオニャノコだ」
南匈奴兵2:「お前泣かしてるんじゃねーぞ」
南匈奴兵1:「男だと思ったから叩いただけだ」
Eusebio Di Francesco:「静かにせぬか! ……何故この戦場にかような美少女が?」
これには軍師のEusebio Di Francescoも騙されました。彼らのような猛々しい民族は繊弱で儚げな
女性に弱いのでございます。性別は違えど渦中の司馬懿は彼らの好みど真ん中でありました。
----
Eusebio Di Francesco:「と、とりあえずあの五月蠅い宦官と共に中へお連れしろ」
ロコふるーちぇと渦中の司馬懿は敵要塞への進入に成功しました。やけに舞い上がる南匈奴軍を前に
渦中の司馬懿は末っ子本来の自己中心的な奔放さを増長させていき、三日経つ頃にはお姫様のような待遇を
受けておりました。
渦中の司馬懿:「お肉、きらーい。ちょっと私に触らないで。妊娠したらどうするのよ。私に物を渡すときは
宦官・ロコふるーちぇを通してからにして。私、乙女なんだから」
ロコふるーちぇ:「いつまでこんなことを続けるのだ。どこぞの姫君よ」
渦中の司馬懿:「静かに。姫君と言ってくれてありがとう。でも私は男よ」
ロコふるーちぇ:「何!」
渦中の司馬懿:「しっ、あなたってば声が大きいのね。この三日間で要塞の内部は大方把握したわよね?」
ロコふるーちぇ:「ああ…まさか初めから?」
渦中の司馬懿:「んっ、単に可愛い着物が着たかっただけなんだけれど、そういうことにしておいた方が
あなたも私もかっこいいでしょう」
一本眉毛:「おい、姫様、散歩しましょう」
渦中の司馬懿:「えー、あなたたちのお散歩って競歩じゃないのお。疲れるし嫌よ」
一本眉毛:「そんなこと仰らずに」
渦中の司馬懿:「痛っ」
コ~ヒ~じゃ!!:「いかがされた姫様!!」
渦中の司馬懿:「あの日かも……」
コ~ヒ~じゃ!!:「あの日って?」
ロコふるーちぇ:「ええい、蛮族は保健の教育もしていないのか!! 姫様は女の子の日だと申しておられる」
渦中の司馬懿:「どうしましょう。ロコふるーちぇ。初潮なの。不安だわ……」
一本眉毛:「ここには女などいないし、どうすればいいんだ」
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南匈奴軍は一気に色めきだしました。
一本眉毛:「皆、落ち着くのだ。自分の嫁さんや姉、妹、母ちゃんでもいい。どうしていたか思い出すのじゃ!!」
しかし、戦いに明け暮れていた南匈奴軍には女体の神秘に詳しい者などおりませんでした。
ロコふるーちぇ:「姫様、ここは気分転換にお散歩でも」
渦中の司馬懿:「でも生理痛で歩くのも辛いわ。南匈奴の速いお馬さんに乗ればまた気分も変わるかもしれないけれど……」
一本眉毛:「ははっ、これなる馬は赤兎馬。一日に千里を走る駿馬中の駿馬。どうぞお好きなだけ乗馬にいってらっしゃいませ」
渦中の司馬懿:「一人じゃ怖いわ」
コ~ヒ~じゃ!!:「ではワイが!!」
渦中の司馬懿:「妊娠させるつもり? 宦官のロコふるーちぇがいいわ。ちょっと気分転換に乗馬してくるわね」
渦中の司馬懿とロコふるーちぇは赤兎馬に跨ると軽快に走ってゆきました。
コ~ヒ~じゃ!!:「遅い…姫様とあの宦官は何をしている」
Eusebio Di Francesco:「これお前達、姫様と宦官はどうした」
南匈奴兵1:「それがかくかくしかじか……」
Eusebio Di Francesco:「何!! お前達はなんという失態をしたのだ!!」
一本眉毛:「軍師殿、何をお怒りに」
Eusebio Di Francesco:「恐らく姫様と宦官はもう帰るまい。宦官が敵軍に帰ればこの要塞はただの城だ」
一本眉毛:「しかし……」
Eusebio Di Francesco:「そもそも馬の嗅覚というのもは生物の中でもかなり鋭いもの。それが人間の血に
気づかぬはずがない。姫様の女の子の日だという申告も偽りであろう」
南匈奴兵1:「な、なんと……」
敵要塞の内情を探っただけではなく、敵に精神的ダメージを与えることにも成功したロコふるーちぇと
渦中の司馬懿。さてさて、戦局や如何に。
三戦英雄傳、続きはまた次回。
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*三戦英雄傳
*第四十一回~腹の探り合い~
官軍本陣へ渦中の司馬懿と共に帰還したロコふるーちぇは、ただちに宇喜多直家信者に敵要塞の詳細を報告しました。
李儒:「なるほど敵要塞は思ったより頑強にできているようですな」
ロコふるーちぇ:「外壁には約一里(414メートルくらい)ごとに物見用の小窓があり、小窓に至るまでの階段は
人一人分しか幅の無い狭いものだったぞ。馬鹿!」
宇喜多直家信者:「万が一襲われた際にも一対一で戦うためのものでしょう」
ロコふるーちぇ:「さらに物見までにたどり着くまでには弓矢を避ける壁が5層にもなって石で積まれていたぞ」
李儒:「完璧なものなどこの世には無い。まして夷狄が急いで作った物……どこか弱みは残っているはず」
ロコふるーちぇ:「そういえば、東門の警備は比較的緩かったな。東門から襲撃するのはどうだ? 馬鹿」
李儒:「後漢を狙う夷狄は南匈奴のみに非ず。もし、此度の戦で南匈奴が敗北したなら今度は夷狄全体の面子の問題
となりましょう。きゃっつらは弱い獲物の臭いに敏感な虎のようなもの……ゆえに南匈奴も必死の抵抗をしてきましょうな」
何進:「我が軍は兵力では勝ってはいるものの、精悍な南匈奴の兵ほど訓練はされてはおらぬ。南匈奴の兵は譬え武器を
取られようとも最後には噛みついてでも敵を倒す気概のある者ばかり。まともに相手をしていては我が軍の損害は大変なものじゃ」
李儒:「Eusebio Di Francescoとて全ての事情を踏まえた上で指示を出すでしょうな。宇喜多直家信者殿、ここはハッタリを
かましてやりましょうか」
宇喜多直家信者:「ハッタリ? ホウ涓へ孫子が使ったあれでしょうか」
李儒:「その逆も。ただ、現状ではどちらが敵に適うかわかりかねます。今夜、間者の報告を待ってからに致しましょう」
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その夜、李儒の元を訪れる一人の男が居りました。李儒と同じ董卓の女婿・牛金でございます。
李儒:「やあ、来ましたか」
牛金:「洛陽より届いた間者の報せによると、やはり此度の戦、女が関係していると。お主の見た通りであった」
李儒:「大尉・小魔玉の奥方のことであろう」
牛金:「ああ。その外にも」
李儒:「蔡ヨウ殿のご令嬢のことか」
牛金:「見れば何進は皇后の汚名を雪がんとそのことばかり。総指揮官もやはり身内のことばかりというところか」
李儒:「宇喜多直家信者は小魔玉の派閥に属する者。放っておけば必ずや三公までには上り、お義父上を脅かすであろうなあ」
牛金:「この際、小魔玉の派閥を一掃するか?」
李儒:「いや、時はまだ熟していないので止めておきましょう。それより恩を売ってやるのです」
牛金:「小魔玉の奥方と蔡文姫を取り戻せば良いのであろう」
李儒:「その通り。二人とも取り戻すのが望ましいが、どちらか片方だけでも涙を流して恩に着るでしょう。もし、それで
小魔玉派の内部分裂に持って行けたならしめたもの……」
牛金:「昼間話していたハッタリ、いったいどのように? Eusebio Di Francescoと文優殿は旧知の間柄であろう」
李儒:「あれは冷静でキレ者ではあるが、それだけに危険や損害を懼れる。少しカマをかけて互いに和睦に持って行けば良い。
Eusebio Di Francescoも同じように考えていることでしょう」
一方南匈奴軍でもEusebio Di Francescoを囲み軍議が行われておりました。
南匈奴兵1:「女って怖え……もうオニャノコなんて信じない」
南匈奴兵2:「スィーツ雑誌の「やりたくない時は生理だって断ってます☆」とか言うスィーツの言葉は本当だったんだな。
俺、今まで「大丈夫?」なんて心配していい奴演じてた……」
南匈奴兵3:「女なんか、女なんか」
南匈奴の者たちは上から下まで渦中の司馬懿に騙された事実を悟り女性不信に陥っていました。
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Eusebio Di Francesco:「なんです。お前たち」
一本眉毛:「ワイはもう戦えんです。じゃけん、軍師殿が張良もびっくりの策で戦ってつかあさい」
Eusebio Di Francesco:「騙されたとは決まっていないぞ。宦官があの姫様を拐かしたとも考えられる」
コ~ヒ~じゃ!!:「はっ、そうじゃ、そうじゃ。そうに決まっておるわ!!」
Eusebio Di Francesco:(こいつら、本当に単純で助かったわ)
一本眉毛:「そうと決まったらあの宦官を倒しに行くぞ!!」
Eusebio Di Francesco:「まあ、まあ、お待ちなさい。ここ、定襄は平地。我々には強固な砦はあるものの、平地では
数がものを言う」
コ~ヒ~じゃ!!:「こっちが不利だというのか!!」
Eusebio Di Francesco:「万が一我が軍が破れ、勢いに乗じた敵軍が乗り込んできたなら我が南匈奴は
鮮卑、烏桓、北匈奴からも蔑まれ、破滅に追いやられるでしょう。それだけは避けなければならぬ」
一本眉毛:「ここまで来てなんじゃ!!」
Eusebio Di Francesco:「この要塞は強い。この砦から出ない限り我々の安全は保証されています。が、出なくては敵も討ち取れぬ。
敵副官・李儒は利無くば動かぬ男。総司令官・宇喜多直家信者は冷徹なる男……二人とも何か別の、真の目的があるはず…」
コ~ヒ~じゃ!!:「そういえば王の側室に漢族の大学者の娘がいたのお」
Eusebio Di Francesco:「良い琴を弾くお方だ。確か蔡文姫と」
一本眉毛:「王との間には二人子を成しておった」
Eusebio Di Francesco:「適当にあしらって蔡文姫を漢へ帰すか……王の側室は多いし、王も若い。お子さえ置いていってくれれば
何も執着はなさるまい。此度の戦、漢族の間で起こった異変による形だけのものかもしれぬわ」
コ~ヒ~じゃ!!:「そうじゃ、漢族の者でこちらが拉致した人間は帰して恩を売っておくのも良かろう」
同じ学舎で学んだ者同士の戦。孫子とホウ涓のようでございます。
しかし、戦とは全て対立ばかりするものでもありません。このように和睦という結果も選択肢の中には
隠れているのです。Eusebio Di Francescoと李儒、和睦の方針のようでございます。
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翌朝、南匈奴軍、官軍には各軍参謀役より次のような指令が下りました。
Eusebio Di Francesco:「要塞の外へ通じる地下道を三つ掘った。お前達は六つの隊に分かれ、先三つの隊は要塞の
守りに徹し、後三つの隊は夜ごと闇に乗じ地下道より外へ出、鮮卑、烏桓、北匈奴の服装と言葉で銅鑼を鳴らし
喊声をあげながら適当に敵を散らし、援軍の振りをせい」
李儒:「各軍より選りすぐった精鋭以外は要らぬ。精鋭を全面に、力の弱い者を後方に配陣させ、夜の闇に紛れ
力の弱い者は都へ帰すように」
さてさて、旧友? 同士は「釜を増やす作戦」と「釜を減らす作戦」、違う作戦に出たようでございます。
指令は違えど気持ちは同じ。両軍和睦への道や如何に。
三戦英雄傳、つづきはまた、次回。
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*三戦英雄傳
*第四十二回~和解への道~
定襄にて睨み合ったままの官軍と南匈奴軍。
各軍参謀役・李儒とEusebio Di Francescoは同じ学舎で学んだ旧友同士。二人が出した結論――和睦、最善なり――。
和睦に至る前に虚勢を張ってやろうという思考も同じ、されど虚勢の張り方まではさすがに違っていたようでございます。
宇喜多直家信者:「このところ朝昼と鮮卑、烏桓、北匈奴の人間が援軍に来ている様子。このままでは頼みの兵力も互角になってしまいます」
李儒:「当事者を引っ捕らえて尋問せねばわかりませぬが、あの援軍、恐らく敵参謀・Eusebio Di Francescoによる策かと」
八戸のぶなが:「李儒殿は易者か何かか。人の手まで読まれるとは。怖いのお」
呂布:「しかし、なぜ精鋭だけ残し他の兵を洛陽に帰らせるのだ。敵が攻めてきたらどうなることか。援軍も本物かもしれないではないか」
李儒:「その時はその時ですなあ。私の首は細いが、将軍の首は太くしっかりとしている。敵軍も苦労しますなあ」
華雄:「李文優、お主何を考えて居る!!」
宇喜多直家信者:「わざと力を互角にしたところで和睦を申し出る。和睦以外に選択肢を与えぬ、というところでしょうか」
李儒:「ご名答。さすがは大学者・蔡ヨウ先生のお弟子さんは違いますな。尤も、この面子で軍略について語ることができるお方は
貴公くらいのものでしょうなあ」
呂布:「むむむ……」
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南匈奴兵1:「敵軍は我が軍に恐れをなしたのか、夜ごと逃亡兵が続出している様子」
南匈奴兵2:「ただ、前方は屈強な兵で固められ、うかつに手は出せない状況です」
Eusebio Di Francesco:「ホホホ……李文優の策ですよ。さて、そろそろ良い頃合いです。王の承認も得ましたし、私が直々に
和睦の使者として敵軍に行って参りましょう」
コ~ヒ~じゃ!!:「軍師殿だけでは不安じゃ。漢族は汚い手を使うからのお。ここは儂がお供しよう」
一本眉毛:「お主だけに良い場面は取らせぬぞ!! ワイが軍師殿をお守りするのじゃ!!!」
Eusebio Di Francesco:「私一人で十分。護衛など要りません」
コ~ヒ~じゃ!!:「しかし」
Eusebio Di Francesco:「人には「天命」というものがある。人の生死など正にそれ。私が死んだなら、それも天命というもの。
私が三日経っても帰って来なかったなら王に奏上し代りの軍師を要請するように」
こうしてEusebio Di Francescoはただ一人、敵陣たる官軍へ乗り込みました。
官兵1:「怪しい男、名を名乗れ!!」
Eusebio Di Francesco:「私は李文優殿の旧友・Eusebio Di Francesco。李文優殿にお会いしたい」
官兵2:「Eusebio Di Francesco……敵参謀の名も同じであった。捕らえれば俺らも昇格するぞ」
官兵1:「何!」
Eusebio Di Francesco:「黙らっしゃい!! もし、私を捕らえ無礼なことがあればお前達の首が胴体から離れことになるぞ」
官兵1と2はEusebio Di Francescoの気迫に震えあがり、さっそく李儒のもとにEusebio Di Francescoを通しました。
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李儒:「来たな。Eusebio Di Francesco」
Eusebio Di Francesco:「久しいな。文優」
李儒:「見たところ我が軍と貴軍の兵数は互角。だが、こちらも命が掛かっている。貴軍が動けば背水の陣の覚悟で応戦するでしょうなあ」
Eusebio Di Francesco:「それはこちらとて同じこと」
李儒:「そういえば子供の頃、互いに何を思っているか手に書いて当て合ったものだ。久しぶりに童心にかえってやろうではないか」
Eusebio Di Francesco:「それは面白い」
Eusebio Di Francescoと李儒は再会を楽しんでいる様子でございます。
牛金:「策士というものはああいうものなのであろうか。ある意味武人より肝が据わっている」
何進:「儂には一生無理じゃな。じゃが、自分が策士にならずとも良いのじゃ。金で雇えば良いのよ」
牛金は何進の言葉に振り返り、自分は商才も無いのだなあというように首を横に振りました。
擦ったばかりの墨の香りが室内に漂い、李儒とEusebio Di Francescoは筆を持ち、己の左手に文字を書きました。
李儒はさらりと一言、Eusebio Di Francescoは慎重な様子で一言書きました。
Eusebio Di Francesco:「では、互いに見せ合おうか」
李儒:「いいでしょう」
互いに見せ合った手のひらには「和睦」の文字がはっきりと映っておりました。
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Eusebio Di Francesco:「感は鈍っていないようだ」
李儒:「ハハハハ。貴公も王の手前があろう。ゆえに私は兵を少しずつ洛陽へ撤退させた」
Eusebio Di Francesco:「お主も帝の手前があろう。代りと言ってはなんだが、王の側室となっている
蔡文姫をお返ししよう。蔡文姫は既に我が要塞へお連れしてある。後は迎えの者をよこせば良い」
李儒:「相変わらず用意が良いことで。それでは向こう五年間後漢と南匈奴は互いに不可侵条約を結ぶということで宜しいかな?」
Eusebio Di Francesco:「もちろん」
李儒:「では、迎えの使者を……」
李儒が室内を見回すや否や、さっと上がった手が二本。宇喜多直家信者と八戸のぶながの手でございました。
宇喜多直家信者:「蔡文姫は我が姉のようなもの。ここは弟として私が」
八戸のぶなが:「宇喜多直家信者殿は学者上がりのお方。お一人では心細い。かと言って将軍を護衛につけても
心象が良くない。私が護衛に」
Eusebio Di Francesco:「では、二人とも来るが良い」
八戸のぶながと宇喜多直家信者はEusebio Di Francescoについて行き敵要塞の中に入ってゆきました。
宇喜多直家信者:(なるほど、これだけの要塞、攻めるとなれば一月は掛かろう……やはり李文優は知恵者だ)
Eusebio Di Francesco:「思えばこの要塞を知った宦官を逃がしてしまったのが、今回悔やむところだな。尤も
双方無駄な血を流さずに済んだことは参謀としてこの上無い喜びだが……さあ、連れて行かれよ」
蔡文姫:「……宇喜多直家信者?」
宇喜多直家信者:「姉上!!」
蔡文姫:「本当に宇喜多直家信者なの? ああ、私は夢を見ているのかしら。二度と家族には会えないものと」
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よほど嬉しかったのでしょう。蔡文姫と宇喜多直家信者は感激の涙を流しており、それは観客たる南匈奴の者たちも同じでありました。
南匈奴兵1:「イイハナシだなあ……」
南匈奴兵2:「漢族にも親兄弟はいるのだなあ」
南匈奴兵1:「そうだなあ」
Eusebio Di Francesco:「さあさあ、観劇はそこまで後は漢の土の上でやるが良い」
Eusebio Di Francescoはパンパンと両手を鳴らすと「早く帰れ」というように、宇喜多直家信者と蔡文姫と八戸のぶながの背を押しました。
Eusebio Di Francesco:「次は無いぞ。今度こそしっかりつなぎ止めておくが良い」
宇喜多直家信者:「え……」
Eusebio Di Francesco:「そういうことだ」
Eusebio Di Francescoは宇喜多直家信者に親しみを感じさせる笑顔を向けると、南匈奴兵たちに叫びました。
Eusebio Di Francesco:「さて、我が南匈奴と漢は向こう五年間の不可侵条約を締結した。以後心して行動するように」
子供1:「お母さん!!」
Eusebio Di Francesco:「これこれ、皇子、母上は生まれ故郷に帰るのです。邪魔をしてはなりませぬぞ」
見ると3歳くらいの子供と2歳くらいの男児が蔡文姫を必死に追いかけようとしていました。
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宇喜多直家信者:「三年、いやもう四年になりますか……あれほど長く感じていたが、早いものです。
Eusebio Di Francesco殿、王にはお子も沢山居よう。図々しいお願いだが私にお渡し願えないだろうか」
Eusebio Di Francesco:「他人の子を物好きな」
宇喜多直家信者:「我々漢族は家を絶やすのが最大の不孝。私には妻子はおらず……我が家の跡取りとして育てたいのです」
蔡文姫:「何を言っているの……」
Eusebio Di Francesco:「宜しい。王には私から伝えておこう」
宇喜多直家信者:「ありがたい」
こうして漢族五人は要塞の外に出ました。
八戸のぶなが:「貴公はどうも晩熟だな。さあ、もう要塞の外だ。言ってしまえば良い」
八戸のぶながは宇喜多直家信者を小突きました。
宇喜多直家信者:「姉上、四年の月日は早く、蔡ヨウ様は心臓を患い既にお亡くなりになりました。願わくは
私と、その、所帯を持っていただきたいのです」
蔡文姫:「そんな急に……子供たちだっているのに…」
八戸のぶなが:「何を迷っているのだ。返事は「是」しかないでしょう。あなたがたは血も繋がっていなければ
姓も違う。何で天が反対しようか」
蔡文姫:「でも……子供が」
宇喜多直家信者:「私は姉上と、いえ、蔡文姫と婚姻することで少なくとも三つの良いことがあります。
一つ、女性の悪阻は苦しいものだが、悪阻に苦しむあなたを見ないで済んだこと。
二つ、女性の出産には生死の危険が伴うが、きちんと無事なあなたと再会できたこと。
三つ、妻の出産の十月十日、夫は生きた心地もしないものだが、私はその苦しみを味わうこともなく、こうして
可愛い息子に二人も恵まれたこと……さあ、坊やたち、私の息子になってくれるかな?」
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宇喜多直家信者は血の繋がらぬ二人の息子の頭をくしゃくしゃとして聞きました。
二人の子供は嬉しいような恥ずかしいような、驚いたような顔をしておりましたが、やがて嬉しい顔に統一し、「うん」と言いました。
宇喜多直家信者は子供の言葉に目を細くし、両腕で二人を抱きしめました。
宇喜多直家信者:「子供達の承認は得ました。さあ、後はあなたのお返事だけです」
宇喜多直家信者は、蔡文姫を優しく見つめました。蔡文姫は恥ずかしいのでしょうか。俯きながら「はい」と震える声で答えました。
八戸のぶなが:「あーあ、不器用な人間というものは見てられませんな。さあさあ、宇喜多直家信者殿、今更洛陽に帰って家庭教師も
つまらんでしょう。どうです? 私と晋国へでも行きませぬか」
宇喜多直家信者:「そうですね…晋国にでも行ってみましょうか。誰も知らぬ土地で過ごすのも良いでしょう。
洛陽では人が妻をあれこれ詮索する人間がいるかもしれない」
八戸のぶなが:「妻の発音が少し不自然に聞こえたが、まあ、いいか。それでは参りましょう。晋国へ」
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こうして五人は遙か晋国を目指しました。『晋史』によるとこの後宇喜多直家信者は蔡文姫との間に新たに五人の子を設け、
五男二女の子宝に恵まれたそうです。
後の世『京劇』が盛んになりはじめると蔡文姫と宇喜多直家信者のこのエピソードは才子佳人の項目の代表格となり、
名女形・梅蘭花のために『還漢記』なる演目が作られました。
歴史の中には策士、豪傑、名も無き兵士…さまざまな人間が出ては消えてゆきます。しかし、宇喜多直家信者の
人生は乱世にあって平穏で手にしようと欲せば届く権力に目もくれずして得た幸福なのでした。一人の官吏のあり方として
「こういう生き方も良いものだ」と科挙受験生や官吏は晋史を読む度に溜息をついたということでございます。
さてさて、キリの良いところで第二部は終わり。
続きはまた第三部にて。晋国と後漢の行方はどうなるのでしょうか。
三戦英雄傳、続きはまた次回。
2008-07-25T04:39:47+09:00
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第39話まで
https://w.atwiki.jp/sakurahiromu2/pages/44.html
*三戦英雄傳
*第三十七回~奪還すべき女の名~
小魔玉:「何? それは真か」
八戸のぶなが:「はっ、確かな情報にございます。奥方様を南匈奴で見た、という商人と文人が数名おります」
小魔玉:「早くつれて参れ。本人の口から聞きたい」
八戸のぶなが:「これ、入りなさい」
広い小魔玉邸で八戸のぶながの両手がパンパンと鳴らされ、数人の男が入室しました。
商人1:「私、馬商人の趙某と申します」
商人2:「私は奴隷商人の楊某と言います。取り扱う商品はお客様のお好みに副えられるものかと」
文人1:「私の名は陳某と申し、各地を彷徨う文人にございます」
小魔玉:「おお、よくぞ来て下さった。それで、各々方の目撃された女人はうちの媚嬢に間違いないのだな?」
八戸のぶなが:「事情を聞きましたところ、大尉の奥方様に間違いないかと」
商人1:「その女人は、とても美しい声で歌を歌い小さな顎が印象的な美女でございました。歌は南海の歌でございました」
商人2:「その美女の瞳は、美声以上に記憶に残るものでした」
文人1:「しかし、美女の手足はございませんでした」
小魔玉:「間違いない! オイラの媚嬢だ。して、その美女は何をしていたのだ」
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八戸のぶなが:「大変申し上げにくいのでございますが……」
小魔玉:「八戸のぶながよ。あれほどの美女だ。劣情を抱かない者がいないはずはない。
おおかたの予想は付いておるわ。言え…いや、止めておけ」
八戸のぶなが:「大尉、それでは」
小魔玉:「ただちに中山幸盛と宇喜多直家信者を呼ぶのだ。おのれ、蛮族め。目に物言わせて見せようぞ( ^∀^)ゲラゲラ 」
八戸のぶなが:「では、南匈奴を討伐すると 」
小魔玉:「聞くまでもないわ。しかし、南匈奴とは考えもせなんだ……む。南匈奴というと」
八戸のぶなが:「蔡文姫も囚われている地にございます」
小魔玉:「蔡文姫を手に入れたなら、宇喜多直家信者がオイラの元から去ってしまうではないか」
中山幸盛:「ご心配には及びません」
小魔玉:「中山幸盛、居たのか」
八戸のぶなが:「中山司空は、存在感が薄いですからな。人によっては『空気司空』とも。おっと、これは失言」
小魔玉:「まあ、あの陳羣と幼なじみという時点で空気は決定したようなもの。陳羣ほど強烈な男と並んで空気化しない
男もいないだろうよ( ^∀^)ゲラゲラ 」
中山幸盛:(ちくしょう……人様を空気、空気と散々貶しやがって)「ここは、宇喜多直家信者に恩を売るのです」
八戸のぶなが:(空気も空気なりに私の教えたセリフを暗記したようではないか。さあ、ここからがサーカスショーの
はじまりだ。ククク……愚民ども、どこまで私を楽しませてくれるかな)
中山幸盛は自分が八戸のぶながに言われた通りのセリフを小魔玉に進言しました。
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小魔玉:「( ^∀^)ゲラゲラ いやー中山幸盛も、なかなか知恵を付けたではないか」
中山幸盛:「恐れ入ります」
八戸のぶなが:「これは宇喜多直家信者先生」
宇喜多直家信者:「遅れまして申し訳ありません。坊ちゃまの勉強に少々」(中山幸盛、八戸のぶながの教えた
通りのセリフを言いよる……八戸のぶなが、奴の意図は何なのだろうか)
八戸のぶなが:「実は南匈奴討伐の話が出ておりましてな。宇喜多直家信者先生には討伐軍総大将をお引き受けいただきたい」
宇喜多直家信者:「一学者の私に蛮族を討伐せよとは、これは異なこと」
中山幸盛:「これは南匈奴討伐というのも表向きのこと。実際は大尉の奥方を奪還せしためのもの。総大将に貴殿を選んだのには
わけがある。わかるな」
中山幸盛は宇喜多直家信者の耳元に、そっと囁き目配せしました。宇喜多直家信者は、何も発せず、いつもの
無表情な様子で小魔玉に向き直りました。
小魔玉:「お引き受けいただけますな?」
宇喜多直家信者:「ええ。私で宜しければ」
八戸のぶなが:「配下の者も好きに選んで良いそうです」
小魔玉:「望みの兵の数を述べよ。どうせ官軍だ。いくらでも徴兵してくれる( ^∀^)ゲラゲラ 」
宇喜多直家信者:「勝敗は地形に左右されるもの。半日ほどお時間をいただきたく存じます。
それと、蛮族の地では何かと怪しい呪いなどで将兵の士気が気に掛かります。ここは、洛陽一の
易者・八戸のぶなが殿を参謀の一人として加えさせていただきたいのですが」
小魔玉:「八戸のぶなががいなくなるとは寂しいものがあるが、まあ占術の修行と思い行ってくるが良い」
----
八戸のぶなが:「私が参謀など懼れ多い」
宇喜多直家信者:「いえ、私は是非、八戸のぶなが殿にお願いしたいのです」(ふん、古狸が。演技まで上手いときてる)
こうして、物事は八戸のぶながの描いた通りに進み、中山幸盛は退出時に宇喜多直家信者に恩を売ることも
忘れませんでした。
自宅へ帰るなり八戸のぶながは、先ほどの商人と文人を呼びつけ銀子を渡し労をねぎらいました。
八戸のぶなが:「よくぞ演じた。なな板住人もびっくりのなりきりぶりだ」
八戸でぶなが:「いえ、商人の役など私にとってみれば学芸会の木のようなもの」
八戸将軍:「自演民主党よ。永遠なれ」
陳Q:「我が文民党も応援しますぞ」
八戸将軍:「陳Q殿はなぜ我が自演民主党にお力添えを」
陳Q:「乱世にも詩歌を愛でる余裕はあるもの。むしろ乱世でしか書けぬ、詠えぬものも
あるのですよ」
八戸のぶなが:「観客は中華の民、蛮族はどう出るかな。宇喜多直家信者は、ただの学者。
蛮族に理論は通じまい。舌戦とも行かないだろう。さてさて、私は茶菓子でも持参するかな」
陳Q:「茶菓子は、いかほどまで」
八戸のぶなが:「子供の遠足ではないのだ。好きなだけ持参するが良い。しかし、楽しみで眠れないと
いう点では遠足に近いものはあるな」
八戸のぶなが、中山幸盛、小魔玉、宇喜多直家信者。この四人、それぞれ、自分の描いた絵の通りに
事が進んでいると思い込んでいるようでございますが…果たしてそうなのでございましょうか。
女カが中華の民を造ったその昔より、人間というものは進化していないものなのかもしれません。
三戦英雄傳、つづきは、また次回。
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*三戦英雄傳
*第三十八回~定襄の戦い・両軍の駆け引きが始まるとき策士は微笑む~
さてさて、後漢の世はいよいよ物々しい様相になったようでございます。
表向きは大尉・小魔玉の愛妻を南匈奴より取り返すため。しかし、小魔玉の愛妻はとうの昔に
小魔玉が永遠に自分のものとしてしまい、生まれ変わったと信じて疑わない妻の正体は晋国の
丁原というのですから。全くもって奇異複雑。歴史というものは下手な恐怖小説よりも恐ろしく、
猟奇事件よりもおどろおどろしいものでございます。
小魔玉は、さっそく「黄巾賊に苦しめられている民草が蛮族にも虐げられております。まずは、
外の敵を根絶やしにすべきかと」などと小銀玉皇后へ進言し、霊帝も先の深い悲しみよりただ、
小銀玉皇后に頷くだけでございました。
南匈奴征伐軍には民間よりの義勇軍と官軍、総勢七十万もの大軍で洛陽より北へ北へと出発しました。
ちなみに官軍の構成は
総指揮官:宇喜多直家信者
副官:李儒
参謀:八戸のぶなが
それぞれの軍を束ねる大将として
牛金
華雄
呂布
などそうそうたる大将が六百名、と正史『晋書』には記してあります。
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すこし変わった記述では、宮中に仕える宦官・ロコふるーちぇなる男も自ら願い出て
馳せ参じたということでございます。この男、どうも純情すぎて激しやすく、根が真面目でございました。
ですから小魔玉の「後漢の民のために」という言葉にすっかり扇動され、名門ロコ家の私財を投じ
参軍したのでございました。
『晋書』に果物キラーは、こう記しております。
あの進軍速度は尋常なものではなかった。愛する女の為となると男という生き物は斯くも限界を超えた
力を発揮するのであろうか。ああ、俺もまた恋がしたいものだ、と。
そして後漢の軍を迎え撃つは、
Eusebio Di Francescoという切れ者の総指揮官以下
一本眉毛
コ~ヒ~じゃ!!
などという荒くれ者ばかりでございました。
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当然、後漢の大軍がこちらに向かっているという知らせは南匈奴に入っており、両者は定襄にて対峙することになりました。
宇喜多直家信者:「李儒殿。恥ずかしながら私は蛮族の文化も言葉も詳しくない。貴殿は涼州のお生まれ。私よりは詳しいことでしょう。
敵総大将Eusebio Di Francescoとはいかなる人物でしょうか」
李儒:「Eusebio Di Francesco…はてはて、また懐かしい名前だ。宇喜多直家信者殿、敵総大将の名にお間違えはございませぬか」
宇喜多直家信者:「間者の報告では確かに」
李儒:「さもあらん。あのような変わった名は二人といないでしょうなあ。そして、あのような知恵者も」
宇喜多直家信者:「それほどまでの賢者だと」
李儒:「蛮族にも読み書きはおろか、孫子に負けず劣らずの兵法家もおるのですよ。Eusebio Di Francesco、あやつと
私は同じ私塾で学んだ者同士」
宇喜多直家信者:「李儒殿のご友人とな」
李儒:「フフフ…正確には腐れ縁というものでございましょうな。配下にいる猛将共は『天政会』と名乗り
馬を己の足の如く操り弓を左右どちらからも自在に射、三日三晩寝なくとも戦場で暴れ回る豪の者。この大軍でも勝てるかどうか」
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呂布:「李儒殿、金品で何とかカタはつかないのか」
李儒:「いやあ、蛮族は金品など…貴公もおわかりでしょう。下手をすればEusebio Di Francescoの軍は
ここ定襄を越え、洛陽にまで進入し、都を焼け野原にするでしょうなあ」
牛金:「貴様、お義父上に申し訳ないと思わぬのか。これでは我々は負け戦をしにきたようなものではないか」
李儒:「負け戦が怖い方は、今すぐ洛陽にお帰り下され。宇喜多直家信者殿、あなたも」
李儒は、己の肉気のない頬をさすりながら諸将を見渡しました。薄い唇は明らかに笑みを湛えておりました。
荒野には砂塵と馬の嘶きが響き渡るだけでした。
中華の策士と蛮族の策士、その勝負の行方やいかに。果たして、両軍はこのまま膠着状態を続けているつもりなのでしょうか。
何か策はあるのでしょうか。
三戦英雄傳、続きは、また次回までのお楽しみ。
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*三戦英雄傳
*第三十九回~宦官・ロコふるーちぇ、舌戦挑み裸単騎待ち~
蛮族にも知恵者がいるという事実は官軍に大きな衝撃を与え、士気にも少なからず影響しているようでした。
李儒の様子に言葉を失った諸将の中、ただ一人真っ先に兜をかぶり幕舎を出て行こうとする者がおりました。
宦官・ロコふるーちぇであります。
ロコふるーちぇ:「貴様らそれでも後漢の臣か!! 俺には男根は付いていないが貴様らより後漢を、陛下を
愛している!! そして後漢の民は俺の弟であり妹だ。貴様らは自分の兄弟が危険な目に遭うかもしれんというのに、
ただ指をくわえて眺めているしか能が無いのか。馬鹿者め!!」
ロコふるーちぇの発した「兄弟」という言葉が宇喜多直家信者の心に突き刺さりました。
宇喜多直家信者:(我が姉・蔡文姫を助けるためなら私は何でもしよう。戦で散るのも本望。だが、せめて
姉上の、いや蔡文姫のお顔を見てから死にたいものだ。……私は懼れているのか。死を?)
李儒:「ほほう。ロコふるーちぇ。男根を自ら切除したとは言え、お主も名門・ロコ一族の端くれ。策はあろうな?」
ロコふるーちぇ:「馬鹿! 策など無い。行動あるのみ。これがロコ一族の掟。俺の後漢へ対する愛の嵐は止まることを知らない」
呂布:「策も無し。誇る武力も無し。なんという猪武者」
牛金:「いや、馬鹿なのかもしれぬ」
華雄:「馬鹿という奴は自分が馬鹿という……あれは真か」
ロコふるーちぇ:「馬鹿! 俺は確かに武力も統率力も何も無い。あるのは後漢への愛だけだ。
そんな俺にもできる戦いはある。罵声による挑発だ!」
李儒:「挑発により、敵を頑強な要塞よりおびき出す、と?」
ロコふるーちぇ:「そうだ馬鹿!!」
李儒:「面白い。お手並み拝見と行きましょうか」
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ロコふるーちぇは卑怯な行為を憎み、また苦手とする男でもありました。この定襄の戦いに於けるロコふるーちぇの
無謀さが後の「洛陽の屈辱」事件を引き起こすとは当の本人はおろか、李儒でさえ予測しなかったことでしょう。
歴史は振り返るから見えるものがあるのであって、我々後世の人間はただの観客人。しかし、当時の
人々には生か死か、非情な選択の連続でありました。
牛金:「ロコふるーちぇ殿、何を!!」
ロコふるーちぇはやおら甲冑を脱ぎ始め、全裸に兜のみというあられもない姿になりました。
ロコふるーちぇ:「俺は卑怯な真似は好かん!! 譬え戦でも防具を着けるのは俺の信念に反するのだ。
だが、罵声内容を考える頭だけは保護せねばならんのだ。馬鹿!!」
呂布:「せめて股間だけでも隠して行け」
呂布はロコふるーちぇへ己の旗を切り裂き、渡してやりました。しかし、ロコふるーちぇはそれを地面へ叩きつけ
素足でダンダンと踏みました。
呂布:「人の好意を! 何をする!!」
ロコふるーちぇ:「頼んだ覚えは無い!! 俺の体は両親から授かったもの。俺は心も体も穢れてはいない。なんで恥ずべき
ことがあろうか!!」
ロコふるーちぇに反論しようと試みる者は誰一人おりませんでした。
もはやロコふるーちぇに懼れるものは何もありませんでした。彼は素足で定襄の乾いた土を踏みしめ、ただ一人
敵陣へと歩き出しました。
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南匈奴軍物見:「ややっ!! 何やら不審な男がこちらに向かっております」
コ~ヒ~じゃ!!:「敵は何人じゃ?」
南匈奴軍物見:「一人にございます」
コ~ヒ~じゃ!!:「一人じゃと。我が軍も随分と嘗められたものじゃなあ。どれ」
コ~ヒ~じゃ!!が物見の指す方角を見やると、全裸の男? が頭に兜のみ身につけ、肩で風を切ってこちらに
のっしのっしと向かっているではありませんか。これにはさすがのコ~ヒ~じゃ!!も動揺しました。
コ~ヒ~じゃ!!:「ぐ、軍師殿、ワイは目がおかしいんじゃろうか? それとも、あれは馬鹿には見えぬ服の
姉妹品で猛将には見えぬ甲冑か何かなのじゃろうか。全裸の男がこっちに向かっておるのじゃが」
Eusebio Di Francesco:「あれは、名門・ロコ家のロコふるーちぇ。敵軍副官は我が旧友・李儒……
はて、李儒は狡猾だが礼を知らぬ男ではない。毒薬か宝刀か選ばせるくらいの礼は知っているはず。
反面、ロコふるーちぇは頭に血が上りやすいことで知られる宦官。これは奴一人の暴走でしょう。
捨てておきなさい」
南匈奴軍要塞には中華とは違う異様な色彩の旗が靡いております。要塞の向こうからはロコふるーちぇが未だ
耳にしたことの無い大勢の荒くれ者どもの息づかいが聞こえてくるようです。それでも、ロコふるーちぇは
己の考えられる罵倒で敵挑発を試みました。
ロコふるーちぇ:「この低収入!! 文字も読めない野蛮人が!! 要塞に閉じこもって引きこもりの練習か!!
こら、出てきて戦え!!」
ロコふるーちぇは懸命に戦いました。それは孤独な戦いであり、彼の罵声は翌朝まで続きました。
南匈奴の兵士にとってロコふるーちぇの罵声は痛くもかゆくも無いものでした。なぜなら、そこは
お国柄の違いで南匈奴人は収入が低かろうが文字が読めなかろうが卑怯だと言われようが「生きて勝ち続ければ良い」のでした。
しかし、さすがに一晩も罵られたので兵士の一部は軽く不眠を患いイライラしておりました。
----
ロコふるーちぇ:「この粗○○野郎!! 馬鹿!!」
この一言が不眠でイライラの募った一部兵士の何かを突き動かしました。
南匈奴兵1:「軍師殿、あんな宦官捕らえて焼き肉にしちゃいましょうぜ!!」
南匈奴兵2:「頭蓋骨で酒飲んじゃいましょう!!」
南匈奴兵3:「ここは私に出陣の許可を!! あんな宦官素手でひねり殺してやりまさあ!!」
Eusebio Di Francesco:「ふむ。我々匈奴の人間は三大欲求に忠実な生き物。君らも
睡眠を妨げられ、頭に来ているのだろう。ここは私があちらにお礼の品物を送るから、それで
心を静めてはくれないだろうか」
Eusebio Di Francescoは、部下に一つの衣装箱を持ってこさせ「これをあちらの幕舎へ」とだけ言いました。
南匈奴の兵はまだ怒りが治まらないようでしたが、切れ者Eusebio Di Francescoの策だというので
おとなしくなりました。
さて、このEusebio Di Francescoが官軍に送った品物の中身とは何なのでしょうか。
三戦英雄傳、続きはまた次回。
2008-07-25T04:29:45+09:00
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第36話まで
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*三戦英雄傳
*第三十四回~中山幸盛の思惑、八戸のぶながの策~
※今回に限らず年表、人物の年齢、歴史背景が微妙に違っています。
洛陽の陳家の庭が血の赤黒い沼で満たされた頃、同じ洛陽で夕日を眺める一人の男がおりました。
男は、右親指の爪で二本の前歯をコツ、コツ、と叩いております。眉間には皺が寄り、
どうも苛ついている様子でございます。
八戸のぶなが:「中山殿、どうなされたのです」
中山幸盛:「おお、似非易者の八戸殿か」
八戸のぶなが:「私のどこが似非だと言うのだ。答えろ、貸す!!!!!!!1111!!!!!」
中山幸盛:「……」
男の名は、中山幸盛。この後漢の司空にございます。
中山幸盛は突然キレた八戸のぶながに構うことなく、また、前歯をコツ、コツ、とやり始めました。
八戸のぶなが:(むっ、この私を無視するのか。春日)
「はははは。天下の司空様にも悩み事があると思われる。ここは、私めが占って進ぜましょう」
----
相手にされなかった八戸のぶながは、袖から筮竹と賽子を取り出し、何やら唸り、時折奇声を上げながら華麗に筮竹を捌きました。
八戸のぶなが:「む、むむむ! やや、これは…ふふふ…中山殿、胸を占めるは一人の男のことでは」
中山幸盛:「コツ、コツ、コツ、コツ……」
八戸のぶなが:(まだ無視するか。ここからが私の腕の見せ所。驚け、そして褒め称えよ。春日)
「男の名は、宇喜多直家信者…」
ここで、中山幸盛の爪が前歯にぶつかる音が止まりました。宙を舞っていた中山幸盛の瞳は、八戸のぶながを
映し出しました。
八戸のぶなが:「違いますか?」
中山幸盛:「いや、さすが、一度は大尉に認められた易者だけはある」
八戸のぶなが:(やっと私を認めたか。春日)
「恐れ入ります」
中山幸盛:「私の胸中を当てたのなら、それなりの対策もあるのであろう? いや、自分を
売り込みに来たと言ったほうが早いか」
八戸のぶなが:(この男、自分のことだけ考えているかと思えば、そこまで馬鹿でもないらしい)
「はっ」
中山幸盛:「お前も、お主もこの覚束ない足下に不安を覚えたのだな」
八戸のぶなが:「それでは。前回の小銀玉皇后の騒動以来考えていたことですが、大尉の派閥にいては命がいくつあっても
足りない。それにいつまで経っても下のままでは終わりたくない。だが、大尉派を解体し、新しく自分の派閥を
作るにも気掛かりは宇喜多直家信者の知略。彼と大尉の間が強固なうちは、自分の派閥も作れない」
中山幸盛:「まさにその通りだ」
----
八戸のぶなが:「聞けば宇喜多直家信者殿は、思い人を人質に取られ大尉の派閥に入ったと
いうこと。思い人の名は蔡文姫」
中山幸盛:「大学者・蔡ヨウ様の娘御だと聞いている」
八戸のぶなが:「それを利用するのです。大尉の奥方失踪事件と絡めて」
中山幸盛:「どういうことだ?」
八戸のぶなが:「蔡文姫は黄巾族の混乱に乗じた匈奴に拉致され、左賢王の妻になっているとか」
中山幸盛:「うむ。あの堅物が惚れるのだから、よほどの美貌の持ち主に違いない。
王の妻にされたことが美貌を物語っているな」
八戸のぶなが:「ところが大尉は、『蔡文姫奪還』を約束して傘下に入れたものの、宇喜多直家信者の裏切りを
懼れ、未だその約束を果たしていません。そして大尉の奥方は失踪されたまま。ここは、一つ洛陽中に
噂を流してみようではありませんか」
中山幸盛:「うーむ。お前の話はわからん」
八戸のぶながは幼子を諭すように美しい声で中山幸盛に蕩々と自分の考えを述べました。
八戸のぶながは、まれに見る美声の持ち主でありました。
----
八戸のぶなが:「洛陽中に『大尉の奥方は匈奴に拉致られ、王の側女にされている。商人の中で見た者がいる』と
噂を流すのです。そして宇喜多直家信者にからくりを教えた後で『大尉に願い出れば、愛妻の為だ。いくらでも兵を用意してくれるだろう。
あなたは、その将兵を率いて匈奴から蔡文姫を連れ戻せばいい。後は大尉に戻るなり、野に隠れるも良し。
言い訳はなんとでも作れるだろう』と言ってやるのです。宇喜多直家信者が大尉の元に帰っても、
野に隠れても中山殿への恩は忘れず、事は上手く運ぶでしょう」
中山幸盛:「おお! 先生、先ほどの失言は許していただきたい。さすがは、八戸のぶなが先生だ。
これからも私をお導き下さい」
中山幸盛は、八戸のぶながに平服してみせました。八戸のぶながの美声に痺れてしまったのでしょうか。
中山幸盛は、ぼうっとした薬物中毒患者のような顔で八戸のぶながの顔を見上げていました。
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八戸のぶなが:「やめてくださいよ。お互い長生きしましょうよ」
中山幸盛:「おお、そうですね。ところで噂を流すには人手と金が必要。それはどうすれば」
八戸のぶなが:「そこは我が自演民主党にお任せあれ」
中山幸盛:「自演民主党?」
八戸のぶなが:「自演こそ、至高の芸術であり、美である。私を頂点とした、自演の快楽をあがめ奉る
集団でございます」
中山幸盛:「おお、そうでありましたか」
八戸のぶなが:「お互いに長生きしたいものですなあ。司空殿。お互いにね」
八戸のぶながは、中山幸盛へ慇懃な笑いを向けると「失礼」と庭木の奥へと消えて行きました。
八戸のぶなが:「さて、私の長生きのためにもう一仕事するか」
辺りでは、夜風の臭いをかぎつけた虫たちが遠慮がちに鳴いていました。
さてさて、実は策略と野望を秘めている様子の占い師・八戸のぶなが。
彼の目的と、最終的な計略とは。三戦英雄傳、気になる続きはまた、次回。
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*三戦英雄傳
*第三十五回~三馬鹿兄弟、下界に馴染む~
さてさて、何やら八戸のぶながが動き出したころ、天帝の三馬鹿息子は地上で何をしていたのでしょうか。
三戦に舞い降りた天使:「ただいま-。ふぅ。人間の世界も大変だな。今日も正妻にいびられたわ」
偽クマッタ:「兄さん、兄さんは女になったんだろ? もう少し、娘らしく淑やかにしていてくれよ^^」
三戦に舞い降りた天使:「お、おう。あ、わかったわよ。なんでクマッタは^^をつけるようになったのよ?」
偽クマッタ:「こうした方が強く見えるかと思って^^」
三戦に舞い降りた天使:「あっそ。ところで私たちの弟は何をしているの? なんか柱に何か書いてるのかしら」
偽クマッタ:「ああ、時折何か書いたりしているが、柱を見ればわかるよ^^」
三戦に舞い降りた天使は、男として子孫を残せぬ体になってしまったので自ら父の天帝に願い出て
そこそこの美女に姿を変えてもらい洛陽の豪商の妾となり、二人の弟を養っておりました。
偽クマッタは干し肉好きなので、何進の肉屋で働いておりました。三男の渦中の司馬懿はと言いますと、
二人の兄に甘え、日の光も浴びずもやしっ子っぷりにますます磨きをかけていました。どんな人間にも
兄弟に対する何らかの情はあるもの。三戦に舞い降りた天使は、弟の渦中の司馬懿を心配し、
柱に何か書いている渦中の司馬懿の肩にそっと手を触れました。
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三戦に舞い降りた天使:「渦中の司馬懿、どうしたの。兄さんに、あ、姉さんに話してごらん」
渦中の司馬懿:「イー…アー…ジョウ……アルシサンー……スーワンリンリゥバイ…」
見ると柱は「正」の時でびっしり埋められていました。
偽クマッタ:「こいつ、毎日『糞コテ』って言われる度に柱に正の字書いてカウントしてるんだよ。
人差し指の爪でさ、引っ掻くんだよ。柱を。とうとう狂ったかと思ったね^^」
三戦に舞い降りた天使:「スーワンリンリゥバイって、この子、四万六百回も『糞コテ』って言われてんの!?」
渦中の司馬懿:「ブツブツ……ブツブツ……今日さ、旦那様の本妻の子供たちに言われたんだ。『おい糞コテ。姉さんの股で食わせて貰ってる
気分って、どんな気分?ねえ、どんな気分?』って……」
偽クマッタ:「典型的な煽りじゃねーか。お前、そんなん気にしてるんじゃコテ向いてねーよ。
発狂して俺を楽しませるしか使い途はねーな。あ、もう発狂してるか^^」
渦中の司馬懿:「ごめんね。兄さん。あ、今は姉さんだね。姉さんに身売りまでさせて。僕たち、もうお父様のところへ帰れないんじゃないかな。
天界人は不死だから、僕らはずっとずっと何百年も何千年もこの地上で暮らさなきゃいけないのかな。犬を飼っても
すぐに死んで、奥さん貰っても自分より早く死んで。ずっと悲しみと空しさの中で生きていくしかないのかな。
僕が、兄さんがやったことって、そんなに罪深いことだったのかな」
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偽クマッタ:「まあ、中華の民の運命は変わっちまったわな^^」
三戦に舞い降りた天使:「悲しいこと言うなよ。中華の混乱を平定したら天界に帰れる約束だっただろ」
渦中の司馬懿:「でも、兄さんの赤玉の生まれ変わりたちは互いに敵味方に分かれているんですよ。自分の
子供たちの争いが平定するということは、子供たちのうちの数人は死ぬ可能性があるということでしょう。
親として、兄さんはそれで、いいの? だいたいこの中華は昔から誰かが平定し、また誰かが乱しの繰り返し
だったじゃないか。もう、滅ぼしちゃった方がいいんじゃないの。人間が何百年もやってできないことを
いくら天界人とはいえ、僕らがやろうという方が無理じゃないの」
膝を抱えつつ、柱に爪を立てる弟に三戦に舞い降りた天使は言いました。
三戦に舞い降りた天使:「無理だとわかっていても男には、やらなきゃいけないときがあるのよ」と。
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偽クマッタ:「そうだな。お前の好きな倭国の櫻井なんとかも言ってるじゃねーか^^」
渦中の司馬懿:「『無理という壁を越えなければ強くなれない』、ですね。無理だという自分で
作った壁は幻想の壁であって、自ら壊さなければ限界というものは越えることができないという……」
三戦に舞い降りた天使:「そういうものかしら」
偽クマッタ:「そういうことにしておいてやろうぜ^^ さあ、弟よ。いい加減もやしっ子に磨きをかけるのは
やめて日の光を浴びるんだ」
渦中の司馬懿:「三戦に舞い降りた天使姉さん、偽クマッタ兄さん……」
こうして渦中の司馬懿は久しぶりに日の光を浴びたそうでございます。しかし、この三馬鹿兄弟、本当に
中華の民を救い、平和な治世をもたらす気はあるのでしょうか。
気概があったとしても、実力が伴わないという悲劇も考えられますが。
三戦英雄傳、続きはまた次回。
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*三戦英雄傳
*第三十六回~策士、ふたり~
中山幸盛と別れた八戸のぶながの向かった先、それは宇喜多直家信者のもとでございました。
猫:「ミャアー」(怖いよ。誰か怖いのが来るよ)
宇喜多直家信者:「おやおや、子竜。どうしたのかい」
飼い猫・子竜の怯えた様子に宇喜多直家信者は、頭を撫でてやろうと椅子から立ち上がりました。
八戸のぶなが:「宇喜多先生はおられるかな」
子竜:「ミャァアアアアアア!!」(来たな。お前か。く、来るなぁああ!!)
八戸のぶなが:「ぬこたーん!!」
宇喜多直家信者;「ぬこたん…?」
宇喜多直家信者の飼い猫を目にするなり、猫好きの八戸のぶながは驚喜の声を上げ、近寄り
子竜は恐怖心からか八戸のぶながを威嚇しました。
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子竜:「ミギャァアアアアー」(いつも俺を見るなり無理矢理抱きやがって!! よ、寄るな。
俺は心を許した人間にしか抱かれない主義なのだ)
宇喜多直家信者:「これ、子竜。どうしたというのだ。鰹節をあげるから、おとなしく庭で遊んできなさい。
八戸のぶなが殿。見ての通り、うちの子竜は人見知りの激しい猫でして。引っかかれるといけないので、
ご容赦いただきたい」
八戸のぶなが:「子竜たんというのか……ぬこたーん」
子竜は宇喜多直家信者より鰹節をもらうなり、庭へと出て行きました。
八戸のぶなが:「ああ、子竜たん…」
宇喜多直家信者:「八戸殿?」
八戸のぶなが:「はっ、これは失礼。実は今日、宇喜多殿にお話したきことがあり、参った次第でして」
宇喜多直家信者:「あいにく私は、占いとか信じないもので。占って欲しい悩みもない」
八戸のぶなが:「ほお、悩みが無い、と。では、初恋の想い人の話も必要ないと?」
宇喜多直家信者:「……」(この男、あの方の何か情報を持っているのだろうか。だが、元々
八戸という男は占いと口先のみでのしあがった軽薄な男……何を考えているかもわからぬ)
----
八戸のぶなが:「ははは…この八戸、宇喜多殿に警戒されていると見える。しかし、この機会を失えば
蔡文姫は二度と洛陽の土を踏むことはないでしょうなあ」
八戸のぶながは意味深な笑みを浮かべながら、細い顎をしゃくりました。
宇喜多直家信者:「……貴殿は、なぜ蔡文姫のことをご存じなのです」
八戸のぶなが:「知っているも何も洛陽にいる者は城の内外を問わず、皆知っていることですよ。
蛮族に捕らえられ美貌のために蛮族の王の妻となることを強要された悲劇の才媛、蔡文姫の話はね。
私は男だし衆道の趣味も無いから女の体のことはわかんが、さぞや辛かったでしょうなあ。蔡文姫は。
強制的な婚姻……屈辱意外の何物でもありませんな。しかも、相手の王は当時まだ十二の子供だったとか」
宇喜多直家信者:「何が、言いたいのです?」
八戸のぶながに向ける宇喜多直家信者の声には明らかな非難の色が見えておりました。それは、
普段の宇喜多直家信者のおとなしい性格からは想像もつかない、憎悪の籠もった声でありました。
八戸のぶなが:「猫は高いところから落ちても死ぬことは無い。だが、杯は手元から落ちただけでも割れる。
人間も同じこと。硬いとすぐに壊れてしまう。宇喜多殿は、どうも感情を押し殺しすぎる。本当は、
こうしてに感情を持っているのに。もっと、軟らかくなったらどうです?」
宇喜多直家信者:「蔡文姫は…私の姉同様の、我が師のご令嬢でした」
宇喜多直家信者は八戸のぶながの声に我に返り、低い声で答えました。
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八戸のぶなが:「姉? 本当にそれだけですか? 確かに我が国では古来より兄弟間の情というものは
強固なものとされています。だが、それが異性ともなるとまたやっかいなもの。襄公と文姜の故事はご存じ
でしょう」
宇喜多直家信者:「私が襄公だと?」
八戸のぶなが:「いやいや、何もそこまでは。貴殿と蔡文姫は血も繋がっていなければ姓も違う。
それにあれだけの美貌と才能の持ち主、貴殿に限らず男なら誰でも惚れるでしょうなあ。
そうそう、貴殿には甥が二人できたそうで。とりあえずお祝いの言葉をば。おめでとう」
宇喜多直家信者:「子供まで……」
八戸のぶなが:「知らなかったのですか。これは失礼。しかし、目出度いことではありませんか」
宇喜多直家信者:「蛮族と望まぬ結婚をさせられた上に、蛮族の子供まで。どうして祝福など
できようか!! 八戸殿は私に何か怨みでもおありか。人の姉の不幸を並び連ねて」
八戸のぶなが:「不幸? 本当にそうでしょうかな。案外姉上は幸福を感じておられるかもしれない。
むしろ、貴殿は姉上の環境に不幸であってほしいという願望を重ね合わせて居られるのでは」
宇喜多直家信者:「何を。姉の不幸を願う弟がどこにいる」
八戸のぶなが:「姉を、蔡文姫を取られた嫉妬、ではありませぬか。貴殿は負けたのです。蛮族に。
認めなさい。宇喜多殿」
宇喜多直家信者:「私が、蛮族に? 勝負もしていないのに。負けてなどいません」
八戸のぶなが:「いいや、貴殿は負けたのだ。貴殿の中の『男』としてな」
八戸のぶながの声が宇喜多直家信者の脳裏に響き渡りました。
----
宇喜多直家信者:(男として、負けた……)
八戸のぶなが:「好きだったんでしょう? 愛していたんでしょう? 蔡文姫を。
大丈夫。恥ずかしいことでも人の道に外れたことでもない」
八戸のぶながの優しい声に宇喜多直家信者は、呆然と頷きました。
八戸のぶなが:「人間、素直が宜しい。私と、取引をしませんか? 蔡文姫を取り戻す方法を授けましょう」
宇喜多直家信者:「それで貴公は何を私に望まれるのです?」
八戸のぶなが:「さすがは蔡ヨウ先生の一番弟子。話が早い。実はこれこれこういう事情で
私は中山幸盛に策を授けましてな」
八戸のぶながは、先日の中山幸盛との遣り取りを宇喜多直家信者に伝えました。
宇喜多直家信者:「手の内を見せるとは、私は八戸殿を信じても良いものかな」
八戸のぶなが:「信じて下さいよ。しばらくはね」
二人は互いに軽く息を漏らし微笑しました。
----
宇喜多直家信者:「差し詰め八戸殿の狙いは、『今回の行軍に連れ出し、大尉の元から離れたい』というところでしょうか」
八戸のぶなが:「ええ」
宇喜多直家信者:「裸照事件で大尉の政権に不安を抱いたが、中山幸盛にも政権を維持できる強さを感じられない。
易者の身分では政権をどうこうできぬし、大尉の息がかかっているので下手に行動もできぬ。此度の行軍に
かこつけて雲隠れを望むも易者では行軍の正当な理由もできぬ。そこで私に願いでたというわけですね」
八戸のぶなが:「沈みかけた船に残ることはありますまい」
宇喜多直家信者:「承知しました。事が進み次第、私が大尉に八戸のぶなが殿をつけてくれるよう願い出ます」
八戸のぶながと宇喜多直家信者、互いに笑みを浮かべていても、お互い背中にはじっとりとした
嫌な汗をかいていました。
所詮は乱世。常識も定石も通用しない時代でございます。
騙し、欺き、昨日敵だったものは味方になり、昨日味方だった者は敵になり……なんとも
忙しいことでございます。
さてさて、蔡文姫奪還の作戦はうまく成功するのでしょうか。
三戦英雄傳、続きは、また、次回。
2008-07-25T03:52:25+09:00
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第33話まで
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*三戦英雄傳
*第三十一回~丁原、病に倒れる~
姓はロコ、名はふるーちぇ、字は不明。都・洛陽の生まれで代々高級官吏を生み出してきた名門・
ロコ一族の者にして霊帝と●習院の御学友であった。元の名を音速の667と言う。(中略)
音速の667は、異国の茶に対するこだわりが強く、『魔李阿ー寿・府零ー流』という店の
茶葉しか認めなかったが、如何せん、小僧の教育がなっていなかった。音速の667は、店の
小僧の態度に怒りを覚えつつ、店に通うこと数年、ある日所望しない茶葉を強引に勧める小僧に
腹を立て斬り殺してしまった。
生まれて初めての殺人に音速の667は、罪の意識に懼れ戦きながらも、名門の自分が犯した
殺人という図式に酔っていた。彼は己の存在を他の追随を許さぬ破格のものとするために、ロコ一族の名を天下に
知らせしめるために、『後漢王朝』『光武帝』『霊帝』と竹簡に書いた己のネタ本を引きずり出し、
最後の自慰行為に耽ると半刻で6回ほど放出し、自ら己に宮刑を科した。ロコふるーちぇは早漏で
あった。彼は出血多量で遠のく意識の中、街頭に出ると己の新しい名を往来の人々に求めた。
人々の好意と悪意により音速の667は『ロコふるーちぇ』という名を得た。
後の世に「ロコふるーちぇは女性」説が流れたのは、単に「名門の子弟が宦官になるはずなど無い」と
いう歴史好きによる願望の具現だとも言われている。ロコ一族の名は確かに後漢全土に広がった。
だが、それは栄誉のものではなかった。形はどうであれ、ロコふるーちぇの願いは叶ったわけである。
~正史『晋史』宦官 ロコふるーちぇ傅より~
「徽皇子死す」の知らせを聞いた二人の者は、それぞれ
――そうか。
――アゥアウ。
と感想を口にしました。
----
前者は晋国の軍師・丁原、後者は霊帝の長子・弁皇子でございます。
弁皇子へ弟である徽皇子の死を伝えたのは、陳羣と一人の宦官でありました。
ロコふるーちぇ:「おお、なんとおいたわしや!! 弁皇子はかようなお姿に、
徽皇子は夭折、残るは協皇子のみ。いったい、後漢の未来はどうなってしまうのか」
陳羣:(名門・ロコ一族の栄華も昔のことよ…一族の男子を宦官にするとは。それとも、これも
ロコ一族の策略か…? 古来より権力闘争の鍵を握る後宮に唯一出入りできるのは宦官のみであるからな。
考え過ぎか)
陳羣は傍らで激し、涙を流すロコふるーちぇに冷ややかな眼差しを向けておりました。このロコ
ふるーちぇ、元より一途と言いますか、狂信的と言いますか、恐ろしいものを秘めた男でありました。
「俺は妻など要らぬ!! 俺は大漢(漢王朝)と婚姻する!! 俺は国家とのみ性交渉をする童貞三公になる!!」と
公言して憚らなかったロコふるーちぇ。暴走した彼は、固い信念の元、自慰行為に於いても後漢王朝の栄光のみを
妄想し、童貞の身のまま宦官になったのでありました。
ロコふるーちぇ:「皇子、弁皇子。弟君が、徽皇子がお隠れあそばしたのですぞ!!」
弁皇子:「だあだぁ」
ロコふるーちぇ:「せめて、せめてこの洛陽に袁紹か丁原、どちらか一人でもおれば。ああ、宦官のこの身が恨めしい!!」
弁皇子:「あばばばば」
ロコふるーちぇ:「陳長文殿は、この状態を何とも思わぬのか!! 貴公、それでも名門・陳家の者か!!」
陳羣:(ほお、ロコ一族とはいえ、宦官もこの私に敬語を使わぬとは随分と偉くなったものだな)
----
陳羣は、予想していた言葉を耳にすると、充血さえ見せぬ澄んだ瞳を涙で潤ませロコふえるーちぇを見つめました。
ロコふるーちぇ:(どきっ! お、俺様は男色ではないぞ。馬鹿)
異性経験も同性経験も無いロコふるーちぇは陳羣の見せたなよなよとした女性らしい表情に劣情を覚え、狼狽しました。
陳羣:「あまりにも悲しく恐れ多いことなので、涙さえ怖気を奮って流れないのでございます」
ロコふるーちぇ:「そ、そうか。それは悪いことをした」
このロコふるーちぇと陳羣の遣り取りは、二人の性格を良く表すエピソードとして『世説新語』に収められております。
陳羣:(袁紹に丁原ねぇ。私の相国の座を暖めているだけの雌鳥をねぇ。丁原は雲隠れしたままだが、どうしたものか)
陳羣は同じ名門として袁紹に軽い嫉妬を覚えつつ、忠義の士・丁原の行方を案じておりました。
どうやら、陳羣は己の認めたものしか人間として扱わぬ人種のようでございます。
同じ頃、丁原より知らせを受けた晋国では天地を揺るがすほどの動揺に揺れておりました。
----
袁術:「なんと、それは真か!!」
丁原:「はっ、間者より仕入れた確かな情報にございます」
袁紹:「なんと…なんという…龍が淵に潜むのは何のため。我らがこうして晋国で政治を行うのは
徒に惰眠を貪るために非ず。全て、後漢に、徽皇子に期待してのことだったというに」
元より予想していたこととはいえ、やはり気持ちの区切りがつかなかったのでしょう。
袁紹は気落ちしたのか、崩れ落ちるように椅子に座りました。
曹操:「長子の弁皇子は未だご病状が思わしくないようだ」
奇矯屋onぷらっと:「暗愚な皇帝、蛇蝎の如き宦官、妲己の生まれ変わりの如き皇后…いったい後漢は
これからどうなってしまうのだ」
袁術:「いっそ、兄上が新しい皇帝となられては」
袁術が袁紹に帝位に就くよう、言葉を漏らしました。
袁術の言葉に一同は息を飲みました。
荀攸:(誰もが一度は考えたことのある、口にすることを憚ってきた言葉。いとも簡単に
口にできるのは、名門育ちゆえの鈍感さか)
奇矯屋onぷらっと:(袁紹殿が帝位に就くつもりなら、この武にて全力で支えるのみ)
曹操:(本初、お前も代々漢の禄を食んできた身。漢朝に反旗を翻すのか?)
曹洪:(新通貨に宮殿の建築、巨額の金が動くな。商人にとっては戦乱こそが大きな商売を
生み出すものよ)
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袁術:「兄上! ご決断を」
袁紹:「ならぬ」
一同の昂揚する気持ちを抑えたのは袁紹の一喝でございました。
袁紹の言葉に、丁原が「ぱちぱち」とゆっくりとした調子で拍手をしました。
丁原の義手から洩れる拍手は、まるで何かの演奏のようでございます。
丁原:「それでこそ殿。今、ここで皇帝を僭称しては我らが討伐される身となります。
大義名分を無くした集団はただの暴徒でございます。ゆめゆめお忘れ無きよう」
袁術:「そうだな…済まなかった。これからも、暴走しそうになったら叱ってくれ」
言葉の代わりに丁原は袁術に微笑みました。丁原が袁紹に何か伝えようと口を開くと
丁原:「うっ」
袁術:「軍師殿!! いかがされた!!」
袁紹:「軍師、どうされた」
丁原:「し、失礼」
丁原は真っ青な顔で口元を抑え、厠の方へと消えました。
----
袁術:「何か悪いものでも食べたのだろうか」
袁紹:「夏は食べ物が傷みやすいからのお」
荀攸:(あの尋常では無い様子……胃の病の前兆だな。いや、もう長くは無いかもしれぬ
……丁原が亡くなっても晋国は今の状態を保てるか……)
曹操:「軍師殿は大丈夫であろうか。そういえば、こういった話が大好物の果物キラーの姿が見えぬな」
曹洪:「このところ、姿を見かけませぬ」
ひょーりみ:「また袁家十人衆の職務であろうか」
曹操:「近頃の果物キラーの動きはわからぬのお」
人々が丁原の容態と果物キラーの行方を詮索していると宮女の悲鳴が聞こえました。
宮女:「きゃぁああああああああ!!! 軍師様!! しっかりなさって下さい!!」
曹操:「何事じゃ!!」
中常侍うんこ:「軍師殿が廊下にて倒れておられる」
曹操:「倒れた、じゃと」
荀攸:(病とは、人目を避けて進行するもの。もはや手遅れか)
曹操:「医者だ! 医師を呼べい!!」
さてさて、晋国にも混乱が生じたようでございます。
時代は乱世、乱れるのは世情と人心だけではないようでございます。
三戦英雄傳、気になる続きは、また、次回。
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*三戦英雄傳
*第三十二回~明かされる病の名~
丁原が病に倒れた頃、晋国で安否を噂されていた果物キラーは成都におりました。
この物語の中で成都がどのような都市であったか、皆様覚えておいででしょうか。
そう、黄巾賊の総本部のある都市でございます。
黄巾賊1:「止まれ、何やつ。名を名乗れ」
果物キラー:「私は、都・洛陽の馬商人、呂不韋と申す者。聖天使ザビエル様にお目通り願いたい」
黄巾賊2:「呂不韋、とな。はて、どこかで聞いたことのある名だが……」
果物キラー:「我が呂家は、都では名の知れた商人の家。遙か成都まで名が知れているとは
光栄でございます」
黄巾賊1:「おう、そうか。都で名の知れた商人とあらば教祖に会わせなくては失礼というもの。
参られよ」
果物キラー:「はっ」(咄嗟に呂不韋の名を使ったが、ここの奴らが無学で助かった)
どうやら、果物キラーは馬商人に身を変え、聖天使ザビエルに面会をするつもりのようです。
これは、袁家十人衆の役目なのでしょうか。はたまた、果物キラー単独の行動なのでしょうか。
徽皇子の件以来、丁原と果物キラーはお互い相容れぬようでございましたが。
果物キラーが黄巾賊1の案内のままに歩いて行くと、何やら騒がしい声が聞こえてまいりました。
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聖天使ザビエル:「あはははは-、彼女いるってこんなに楽しいとは思わなかったー∬》´_ゝ`》つ†」
聖天使ザビエルの彼女:「もう、ザビ君たらっ」
聖天使ザビエル:「もう毎日書簡送りまくりー∬》´_ゝ`》つ†」
聖天使ザビエルの彼女:「一緒に住んでるんだし、話せばいいのに」
聖天使ザビエル:「恋人同士らしく書簡の遣り取りがしたいんだよ∬》´_ゝ`》つ†」
黄巾賊1:「こちらでこざいます」
果物キラー:(これが、聖天使ザビエル。後漢に反旗を翻した黄巾賊の首領か。先が、見えたか)
聖天使ザビエル:「あ、君はいつぞや金子とか兵糧とか援助してくれた商人だよね。ええと∬》´_ゝ`》つ†」
果物キラー:「呂不韋にございます」
聖天使ザビエル:「ああ、そうだった。今日も何かくれるの?∬》´_ゝ`》つ†」
果物キラー:「はっ。聖天使ザビエル様のため、本日は軍馬を」
聖天使ザビエル:「いつも悪いね! ゆっくりしていってね∬》´_ゝ`》つ†」
果物キラー:「はっ、ありがたき幸せ」
なんということでしょう。果物キラーは、よりによって、黄巾賊へ金品の援助していたようです。
いったい、この行動、晋国は把握している事項なのでしょうか。
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一方、晋国では病の床についた丁原が人払いをした後に、袁術を呼び寄せていました。
丁原:「無理なお願いをしたようで」
袁術:「なに、たった一言で皆の鬱憤が晴れるならいくらでも道化役を引き受けましょう」
丁原:「我が殿を皇帝に擁立せんとする動きには薄々気づいておりましたが、今は
時期尚早。かと言え、誰かが口にし、殿が諫めなくては前に進みませぬ。
そこで殿の弟君のお頭に芝居をお願いした次第」
袁術:「はっはっは。軍師殿は、まこと気の回ること風の如しじゃの。…顔色が、良くなったようだ」
袁術は、丁原の顔色を確かめるように、まじまじと顔を見つめました。
丁原:「気休めは止して下さい。自分の体のこと。私が一番わかっております」
袁術:「ほお。そうか。軍師殿は医学にも造詣が深かったとはな。これは意外。では、ご自分の
病名を何と考えておられるのか」
丁原:「恐らく胃の病でありましょう。酷い吐き気で飯も喉を通らず……人間食べることができなくなれば
先は見えたもの。私は、そうして何人もの人間が亡くなるのを見て参りました。私も、もう長くは
無いのでしょう?」
丁原は、諦めと期待を込めた眼差しで袁術の顔を覗き込みました。袁術は、丁原と目が合うと、
天井を仰ぎ、飾り窓の向こう側へ目を遣りました
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袁術:「丁原殿。やはり、医術のことは医師にしかわからぬものですな」
丁原:「…どういうことでございましょう」
袁術:「どうか、お気を確かに聞いて下され」
袁術は、丁原の華奢な肩を支えるように抱き、自ら確認するかのように言いました。
袁術:「医師の見立てでは、貴殿は懐妊されたと」
丁原:「え」
袁術:「四月を迎える頃であろうと。脈の様子やら、さまざまな見立てで出た結果じゃ。
吐き気も悪阻というものであろう」
丁原は、血の気のない唇を震わせながら、呟きました。
丁原:「かい…にん……私が身ごもったと。私は、男。男の私が懐妊など……」
袁術:「医師は、貴公を本物の女性だと思い込んでいた。なるほど豊かな乳房があり、
顔など美女そのものだ。それに兆候はあったはず。月のものもあり、吐き気の他に
乳房が張り……」
袁術の言葉に丁原の顔色はますます青ざめてゆきます。
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丁原:「私があの男の種を? 後漢を蔑ろにするあの逆賊の汚らわしい種を? 私が……」
袁術:「男を女にするとは、小魔玉の医術は、まさに神の領域にまで達したのだ」
丁原:「いやああぁああああああああああああああ!!!!」
袁術:「丁原殿!!」
丁原は、突如立ち上がり病人とは思えぬ勢いで走り出し、幾度となく卓の角へ腹をぶつけました。
丁原:「私は穢れてなどいない! 穢されてなどいない!! 懐妊などしていない!!」
袁術:「何をなさる!!」
袁術は、丁原へ平手打ちをし、丁原は床へ倒れ込みました。
丁原:「穢れてなどいない。穢されてなどいない……」
袁術:「宿った子には罪は無い。どんな人間でもその子には、たった一人の父親であり母親なのだ。
堕ろすこともできようが、後悔してからでは遅い。よく、考え養生ずることだ」
袁術は丁原に上着を掛けてやると、両手を打ち、侍女を呼びました。
袁術:「これ、軍師殿はご病状が思わしくない。お前たちでよく見るように。何かあれば、すぐに
知らせるように」
丁原は、ただ、涙を流すだけでした。それは、悔し涙なのか、はたまた、想定外に己の腹に宿った
我が子への謝罪の涙なのか、丁原にもわかりませんでした。
さてさて、物語はどうなってしまうのでしょうか。丁原の腹の子は無事、生まれるのでしょうか。
三戦英雄傳、気になる続きは、また、次回のお楽しみ。
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*三戦英雄傳
*第三十三回~陳羣の謀略~
晋国では、丁原が望まぬ懐妊を知った頃、洛陽ではどのような動きがあったのでしょうか。
永安二年八月二十五日、都・洛陽にある陳家の屋敷に多くの人間が集まりました。
集まった者は、それぞれ老若男女肌の色も髪型も違う者ばかり。年長の男女が少女を
連れてきております。数人の男女は少女たちの親なのでしょうか。それとも。
ただ言えるのは親と思しき大人たちの放つ目の光が、共通して鋭いことでございました。
集団の中に一人の青年がやってきました。美しい手、滑らかな肌。皆様覚えておいででしょうか。
潁川を国を代表する名家・陳家の陳羣でございます。
男1:「おお、坊ちゃま」
女1:「坊ちゃまお久しゅうございます。此度の商談は、是非、私のところで」
女は長い爪の生えた指で、陳羣の手に触れ、笑いかけました。陳羣は、怒るでもなく、
喜ぶでもなく人形のような顔を女に向けただけでした。
どうやら、この集団、商人のようでございます。集められた少女たちは商品なのでしょうか。
差し詰め奴隷商というところなのでしょうか。
女2:「ちょっと、アンタ汚いわよ。何色気使って商売に使おうってぇの」
女1:「へぇ、色気の無い女には使えないものね。色気があって、悪かったわね」
女2:「何さ!」
男2:「おい、やめんか。坊ちゃまの前で見苦しい」
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男2の声に二人の女は、はっとした様子で互いの胸ぐらを掴んでいた手を離しました。
まあc:「おお、羣や。十年前だったかのお。お前が奴隷商たちに『未来の西施』を依頼したのは。
しかし、今やお前も妻子を持つ身。今更妻を所望するわけでもあるまいて。妾か、の」
陳羣:「お祖父様は相変わらず知者でありながら鈍感のフリをなさるのがお好きなこと。私は
妻以外の女に金も暇も割かれるのは嫌なのでございます。妾など」
まあc:「ふぉっふぉっふぉっ」
陳羣:「まあ、良い。ところで私はお前たちに大金を払い、十年もの猶予を与えた。それなりの
成果物はあるのであろうな」
陳羣の声に、奴隷商たちはばっと平伏し、一同「はっ」と返答をしました。
陳羣:「それでは一人ずつ見せてもらおうか。悪いが私の目に叶わぬ者、選ばれた一人以外は
後顧の憂いを絶つためにも死んでもらうが、異存は無いな?」
男1:「勿論でございますとも」
女3:「元はこれらも、坊ちゃまの、陳家のご支援があればこそ、この年まで生きてあまつさえ
身分不相応な教育まで受け、綺麗な着物まで着て生きてこれたのです。なんで怨みましょう」
陳羣:「私は十年前、ある目的の下、国中で名妓と名高い美女の生んだ女児たちを親に掛け合い
譲ってもらった。それが、そなたたちとそなたたちの子。やはり美女の娘は美女になるのであろうと
思ったのだが」
男3:「勿論でございます。うちの女房に似てうちの娘は間違いなく城を傾けさせるほどの
美女にはなりますぜ」
陳羣:「城をね……」
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陳羣の前で少女たちの父親が、母親が次々と自分たちの娘の美貌と教養を自慢し、
娘に一芸を披露させます。ある娘は詩歌を、ある娘は踊りを、ある娘は潁川の歌を
披露しました。
皆、漢民族の女性美を秘めた手足の細い娘ばかりでした。全部で二十人ほどでしょうか。
誰もが「自分が選ばれる」と信じて疑わない自信に溢れた顔をしておりました。
陳羣は少女たちの貌を、芸を弓で獲物を射るような鋭い視線で眺めておりました。
やがて、一人の少女の番になりました。少女の瞳は新緑のような深い碧色をしており、
髪は馬の毛のように栗色でした。背は低く、少々、肥えておりました。
陳羣:「混血か」
男4:「はっ。これなるは春梅と申す娘。異国の血が入っております故、少々脂が
乗りすぎておりますが、得も言われぬ体臭がたまらないと申す者もおります」
陳羣:「異国の血を引く娘……よし、決めた。此度の商談、この春梅に決めた。
後の者は始末せい」
陳羣の一声に他の少女たちの悲鳴、奴隷商たちの嘆き、さまざまな声が
陳家の庭に響き、庭土には吸収しきれない十数名の少女の血が大雨の
後の水たまりのように赤くてらてらと光っておりました。
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男4:「坊ちゃま、うちの春梅をお選びいただき、ありがとうございます」
男4の礼に陳羣は、ただ軽く笑みを見せただけでした。白い歯が見える程度でした。
男4:「坊ちゃまは、周公旦にでもなるおつもりで?」
陳羣は、男の問いには答えず、左右の下男に向かい言いました。
陳羣:「言い忘れていた。春梅以外の者も始末しなさい。余計な知恵のある者は困る」
男4:「ま、待ってくれ。坊ちゃま、お情けを!!」
奴隷商たちは弁解をする間も与えられず、陳家の刀の露と消えました。
まあc:「ふぉっふぉっ、儂も知らぬふりをする方が良いのかのお。我が孫ながら
怖い怖い」
陳羣:「何を仰います。お祖父様。私たち清流の時代は、まだまだこれからではありませんか」
陳羣は、祖父の顔を見やり初めて笑いました。さてさて、十年も前から陳羣は
何やら計画を立てていた様子。陳羣の計画とは。謎の少女・春梅の運命は。
三戦英雄傳、続きはまた次回。
2008-07-25T03:41:07+09:00
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三戦英雄傅第二部これまでのあらすじ
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*三戦英雄傅
*■三戦英雄傅第二部これまでのあらすじ■
三戦英雄傅第二部は、栄安二年六月、小魔玉邸での
騒動から始まります。
第一部で丁原は酷い女顔なのと、小魔玉の亡くなった先妻・媚嬢に
生き写しであったことから小魔玉に見初められ、元・医師の技術で
小魔玉の手により性転換手術を施され、媚嬢として生きてゆくことを余儀
なくされていました。体を変えられても、人の心というものは誰にも変えることは
できません。漢朝を真に思う気骨の士・丁原は小魔玉の愛息・リンリン大友を
駒に使い「連環の計」を以って、小魔玉暗殺を企みましたが、策士・ムコーニンの
知略により計略は失敗に終わり、手足を斬られてしまいました。
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手足を無くし、己の手では食べ物さえ口にできなくなった丁原を小魔玉は
以前にも増して愛するようになり、丁原は小魔玉の為すがままに陵辱を受けるのでした。
手足が無くては、脱走することも叶いません。
しかし、丁原は希望を捨てず、小魔玉邸で大宴会を開いた夜に美しい声で
歌を歌い、晋国の曹操、学徒出陣、無双ファンを己の居場所に導き、
晋国へ連れ帰って欲しいと頼みます。一方、丁原の不在に気付いた小魔玉は
手下が丁原の部屋より見つけ出した一本の男物の帯と 一枚の巾(髪を結ぶ布)より、
己の知恵袋である中山幸盛とムコーニンが丁原の美貌に迷い、かどわかしたと
疑っておりました。婦人の部屋で帯を外す、巾を外す、これは、確かに
不義を臭わすものですが、実はこれは丁原の置き土産たる謀略でありました。
丁原の謀略は成功し、策士・ムコーニンは小魔玉の怒りに触れ、陵遅により
処刑されました。
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古来より中華に於いて、「位、人臣を極める」と言われた三公。
三公とは、大尉、司空、司徒承相のことであります。
これまでの三公は大尉・小魔玉(俸禄:万石)、司徒承相・王允(俸禄:万石)、
司空・ムコーニン(俸禄:万石)となっておりました。ムコーニンの後釜は
小魔玉と小銀玉皇后の采配により、中山幸盛が後を継ぐこととなりました。
小銀玉皇后という権力者庇護を受け、後漢の人事をも思うままに
動かす小魔玉。しかし、肝心の小銀玉皇后に裸照事件という不祥事が
起こり、挙句、霊帝の寵愛は中野区民憲章という男に移り、小魔玉と
小銀玉皇后の運命は正に「危うきこと累卵の如し」。裸照事件の背景には、
馬元義という黄巾賊の幹部が関わっているようなのですが。
さてさて、漢朝を思い、小魔玉へ復讐を誓う丁原。己の欲望のまま、
漢朝を食い物にする小銀玉皇后・小魔玉。神への絶望から自らが
神になり黄巾賊を操り民衆を脅かす聖天使ザビエル。漢朝を憂いつつ、
周囲の期待の目も無視できない相国・袁紹。拮抗するそれぞれの
群雄の思い……。
中原の鹿は、誰の手に落ちるのか。それは、最終回までのお楽しみに。
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*■三戦英雄傅登場人物抜粋~第二部編其の一~■
●小魔玉→元は宮中に仕える医師で、今や後漢の大尉。
出身は南海。幼馴染の媚嬢を娶るため、一念発起し、吉平の下、勉学と
修行に励み医師となった。リンリン大友の父、加ト清正とととのえ老臣の義理の息子、
実は小銀玉皇后との間に子を儲けている。徽皇子の実の父親。
●小銀玉皇后→大将軍・何進の美貌の妹。どMの霊帝の寵愛を一身に受けるほどの
毒舌の持ち主。姓を取り、何皇后とも呼ばれる。現在は、霊帝の寵愛を中野区民憲章に
奪われ、地位を廃し、幽閉されることが帝により決められたところ。
初恋の相手は、大尉の小魔玉。愛する小魔玉と関係を持った王貴人こと、アダルト日出夫の
抹消を兄の何進に依頼したこともある。
●何進→世の亭主たちの敵、イケメン肉屋。美貌の妹に便乗し、大将軍にまで
上り詰めた。部下に(・×・)AaAがおり、共に、王貴人を殺害した。妹の小銀玉皇后が
いなくなった寂しさを(・×・)AaAに求め、二人は良い上下関係を保っている。元部下には
相国・袁紹がいる。
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●中山幸盛→「法曹界」を「放送界」と勘違いするような子供も、今や後漢の司空。
陳羣とは幼馴染だが、互いに含むところがある模様。
●まあc→後漢の名士。清流派代表。
●陳羣→まあcの孫。法律大好きな苦労知らずのお坊ちゃま。でも、少し陰険なところも見え隠れする。
●中野区民憲章→高身長、高学歴、高圧的と、どMには堪らない巨漢。
巨躯を活かし、霊帝の寵愛を独占する。
元は学者だが、現在は黄巾族の馬元義派に所属し、聖天使ザビエル失脚と
宮中の小銀玉派の滅亡を画策している。
●蕎序→新人宦官。その実態は、策士・中野区民憲章が宮中に送り込んだ駒。
2008-06-11T06:24:09+09:00
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あらすじ
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*三戦英雄傅
*■あらすじ■
昔々、天界でのこと。
エロ本欲しさに弟の部屋を家捜ししていた天帝の馬鹿息子『三戦に舞い下りた天使』は
ガチホモの弟が書いたショートショート(もちろん男色モノ)を発見し、
興味本位より自慰行為に耽りとうとう赤玉を吐き出してしまいました。
息子の愚行に怒りと嘆きを露になさった天帝は「これより遥か後の時代に
お前の赤玉を人間として転生させる。お前たち三兄弟は赤玉の生まれ変わりを
正しい道に導き、天下泰平の世にするまで天界に戻ることは許さぬ」と
言い渡されました。
時は後漢、霊帝の時代赤玉の生まれ変わりは三戦に舞い下りた天使の把握する時点で
大尉:小魔玉
黄巾族の頭首:聖天使ザビエル
田豊の食客:果物キラー
果物キラーの息子:無双ファン
市井の民:学徒出陣
富貴なる家の子息:魯粛
荀子の子孫:荀イク
となっておりました。
異教徒・聖天使ザビエル率いる黄巾賊、漢朝を牛耳ることを目論む小魔玉、
漢朝の忠臣・袁紹の抱える袁家軍。天下はまさに三分され、天下の民草は
眠れぬ夜を過ごすのでした。
2008-06-11T06:21:17+09:00
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第9話まで
https://w.atwiki.jp/sakurahiromu2/pages/22.html
*三戦英雄傅
*第七回~聖天使ザビエル神の声を聞き、天帝の三馬鹿息子赤玉の生まれ変わりを探索する~
冀州は鉅鹿に『聖天使ザビエル』という耶蘇教の信者の青年がおりました。
耶蘇教の教理に拠ると「神は超えられぬ試練は与えぬ」そうですが、悩み多き
聖天使ザビエルにとって人生そのものが試練でありました。
聖天使ザビエル:「天にまします我らの父よ 願わくは み名をあがめさせたまえ ・・・・」
今日も熱心に聖天使ザビエルは主の祈りを捧げておりました。が、神は彼に答えては
くれず、あるのは神による沈黙でした。
聖天使ザビエル:「神よ! なぜ、僕の願いを聞き入れてくれぬのですか。僕は中華全土の
人々が貧困にあえぐことなく、幸せに暮らして欲しいだけなのに」
偽クマッタ:「それは、お前が耶蘇教という邪教に入信してるからだよ。このピーが」
聖天使ザビエル:「なっ」
突然表れた奇怪な容貌の男・偽クマッタに聖天使ザビエルは仰天し、声も出ませんでした。
基本的に宗教の嫌いな偽クマッタは聖天使ザビエルの声が出ぬのを良いことに暴言の限りを
尽くし、台詞のほとんどは強烈なため聖天使ザビエルの脳裏からあぼーんされました。
聖天使ザビエル:「消えた・・・いったい・・・・なんだったんだ。もしかして、今のが神か?
いや、神なら美しい容姿をしているに違いない。・・・・・こんなにも祈りを捧げているのに
なぜ、神は沈黙を保ったままなんだ」
聖天使ザビエルはしばし考え、次の答えに行き着きました。
聖天使ザビエル:「ははは!そうか、わかった!それは僕が神だからだ!!僕は神!!
この世の支配者なんだ。がははははは」
聖天使ザビエルは悟りを開くと各地より幼女を集め集団売春させて巨万の富を築き、
私財を投げ打ち、人々に施しました。上記のエピソードからあの名作「沈黙」は作られたとかなんとかいう
話もございます。
民1:「聖天使ザビエル様は本当に神様じゃ」
民2:「聖天使ザビエル様!!どこまでも付いていきます!!」
聖天使ザビエル:「蒼天既に死す、黄夫まさに立つべし」
聖天使ザビエルは、一大宗教を作り、信者たちは黄色の巾で髪を縛り、崩壊しつつある漢朝に対し
反乱軍を結成した。これが、世に言う黄巾の乱であります。
黄色の巾になったのには理由があり、信者の数があまりに多く、信者全員に行き渡る布がなかったので
聖天使ザビエルの聖水の染みのついた褌で巾を作り配布したのです。
三戦に舞い下りた天使:「あーあ、また俺の子孫が勝手なことを」
渦中の司馬懿:「偽クマッタ兄さんが変な登場するから」
天帝:「この馬鹿息子どもが!!」
三戦に舞い下りた天使、偽クマッタ、渦中の司馬懿:「ひぃいいいい!!」
天帝:「お前らのせいで、中華はまた混乱の中に入ってしまったではないか。
何のために下界に派遣したかわからぬ」
天帝の怒号に渦中の司馬懿は失禁し、偽クマッタは脱糞し、三戦に舞い下りた天使は
両方漏らしました。天帝とは、それくらい怖い御方でした。
とりあえず、任務を果たさねば最悪、三兄弟は下界に降りたまま天上界に還ることが許されません。
困った三戦に舞い下りた天使は、己の赤玉の生まれ変わりをわかる範囲で二人の弟たちに伝えました。
その人物とは・・・・
大尉:小魔玉
黄巾族の頭首:聖天使ザビエル
田豊の食客:果物キラー
果物キラーの息子:無双ファン
市井の民:学徒出陣
富貴なる家の子息:魯粛
荀子の子孫:荀イク
とのことでした。
偽クマッタ:「あれ、もっと出してなかったか?」
三戦に舞い下りた天使:「もっと出したはずなのだが、俺の頭が覚えていないのだ」
渦中の司馬懿:「とりあえず、この七人だけは更生させ、漢朝を支え、平和な世に導かんと
僕たちは天上界に帰れないし、さっさと探して夢枕にでも立って伝言すればいいんじゃない」
こうして三馬鹿兄弟は手分けしてそれぞれ持分の生まれ変わりの夢枕に立ちました。
三戦に舞い下りた天使:「ふう・・・後は魯粛と荀イクか」
偽クマッタ:「早くしろよ」
渦中の司馬懿:「魯粛キュンに荀イク様・・・・ゴクリ・・・兄上たちの手を煩わせるわけには
まいりません。ここは僕が」
偽クマッタ:「悪いな。じゃあ、俺たちは休んでるわ」
こうして渦中の司馬懿は夜明けを伝える雄鶏の声と共に、目の下に隈を作り二人の兄の下へ
帰りました。
三馬鹿兄弟のお告げが七人の生まれ変わりにどのように伝わったのか。残る生まれ変わりの
人数と正体は。続きは、また次回。
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*三戦英雄傅
*第八回~魯粛、荀イク、学徒出陣、夢の出来事を語り汝南袁氏の食客となる~
赤玉の生まれ変わりの内、魯粛、荀イク、学徒出陣の三人は共に酒を酌み交わす
ほどの仲でありました。
学徒出陣:「実は、昨夜妙な夢を見てな」
学徒出陣は杯を卓の上に置き、身を改めて囁きました。
荀イク:「ほお。一応聞いておきましょう。どのような夢を」
魯粛は酒を舐めるようにちびりちびりとやっております。
学徒出陣:「それが、天帝の息子だと名乗る男が夢の中に現れて『お前は天帝の孫だ。
わけあって事情は語ることはできぬが、お前は生まれながらにして不浄の身。身を慎み、
漢朝の隆盛に尽力すればいずれ天界から良い沙汰があろう』とな。馬鹿らしい話だろう?」
魯粛:「天帝・・・・・某も実は同じ人物と思われる者が夢に出た」
荀イク:「おやおや、今日は四月一日ではありませんよ。全く吐くならもっと面白い嘘をねえ」
学徒出陣:「魯粛、お前もか!!早く言え」
魯粛:「それが・・・・そのお・・・・」
魯粛は大きく丸い目を節目がちに、頬を赤らめてもじもじしています。
学徒出陣:「俺とお前の仲ではないか。何を隠しておるのだ」
魯粛:「・・・・・某、某は・・・・・」
荀イク:「今から考えているのですか。魯粛殿、貴公は本当に嘘が下手な御方だ」
荀イクは呆れたように魯粛を見やりました。
魯粛:「掘られた」
学徒出陣:「んあ!?何を?何を掘られたのか?」
魯粛:「某の尻を掘られた・・・・齢三十を超えてまさか男色の餌食になるとは思わなんだ・・・・
しかも、すごく痛い・・・・・」
学徒出陣:「おいおい、随分ドリーミイな夢だな。TDNスレの読みすぎだ。なあ、荀イク」
学徒出陣も呆れ顔で荀イクに同意を求めました。荀イクの手は、わなわなと震えております。
荀イク:「いや、私は、信じる!魯粛殿の言葉だけは信じる!!」
学徒出陣:「何を言ってるんだ?荀イク、お主まで変だぞ・・・・・」
学徒出陣は荀イクの顔を覗きこみました。そういえば、今日の荀イクはいつもより顔色が優れず、
心なしか震えております。
学徒出陣:「おい・・・大丈夫かよ・・・・・って空気椅子!?」
荀イクは椅子にではなく、空気椅子に座っていました。
荀イク:「今朝起きたら、尻に激痛が・・・・とてもじゃないが、椅子にも座れぬ。これが何よりの証拠・・・・・」
後漢一とも言われる荀イクの美しい横顔が屈辱の涙で濡れています。
学徒出陣:「わかった。二人の言葉を信じよう。しかし、なぜ美少年の俺様は無事だったのだ?」
学徒出陣は自分の尻が無事なのに安心しつつ、なぜ美少年であるはずの自分が無事なのか
疑問を抱きました。が、常々麻の如く乱れた漢朝の様子を苦々しく思っていたので、
ここは漢朝に期待せず、国民の国民による国民のための『美しい自治』を目指そうと思い立ちました。
学徒出陣は荀イクと魯粛に己の志を打ち明け、二人は賛同しました。
魯粛:「しかし、漢朝の権力が及ばないところとなると・・・・・限られてくるな。いっそ、
国外逃亡も視野に入れるか」
学徒出陣:「国外に出ては漢朝をいざというときに立て直すことはできまい」
荀イク:「汝南袁氏の総領・袁紹は知略に優れ、度量も広い男だと聞きます。総勢
百万にも及ぶ『袁家軍』という私軍を編成されたとか。近頃は黄巾賊なる賊の横行も
問題になっており、我々もうろうろしていられやしません。身を守るためにも汝南袁氏の
傘下に入ってはいかがでしょう」
学徒出陣:「汝南袁氏か・・・・ナイス選択だな。やはり事を起すには金が必要だしな。
四世三公の袁氏なら金も腐るほどあろう」
こうして三人は汝南袁氏の門を叩きました。
袁紹:「遠路はるばる嬉しいことじゃ。のお、孟徳」
曹操:「学徒出陣に魯粛に荀イク・・・・いずれも一度は耳にしたことのある俊才だな」
曹操の『曹家軍』は袁紹の袁家軍と合流し、来るときに備え訓練を怠りませんでした。
学徒出陣:「実は、俺たち夢で天帝の息子を名乗る者から『漢朝を救え』との
お告げを聞いたのです」
学徒出陣は友人を気遣い掘られた話は抜いて語りました。
郭図:「夢でお告げを聞くとは・・・・天下に名だたる英才はさすが格が違いますなあww」
嫉妬深い郭図は、学徒出陣ら三人を鼻で笑いました。
学徒出陣:「(くっ・・・袁紹殿の幕客でなければ、こんな奴フルボッコにしてやるのだが)」
魯粛:「(学徒出陣殿、辛抱ですぞ)」
その時一人の少年が袁紹の下に進み出ました。
無双ファン:「いえ、某も先生方のお話は信じますぞ。何しろこの某も見たのですから」
田豊:「無双ファン、それはまことか」
無双ファン:「ええ」
この無双ファンなる少年、袁紹軍の知恵袋・田豊の食客である果物キラーを父に持ち、
いずれ大物になるだろうと噂される人物でありました。ちなみに、父親の果物キラーは
文章に秀で、「陳琳か、果物キラーか」と人々は当時の名文家を批評しあったものでございます。
無双ファン:「某が昨夜市井の悪書を焚書していると、なにやら天帝の息子を名乗る三人の男が
参りまして、そのうちの一人がQビックの終わらない夏休みに痛く感動していたので与えたところ
同じようなことを申していました。とんでもない変態野郎です」
果物キラー:「あの領内で発禁処分を下した終わらない夏休みを、とな」
無双ファン:「はい。しかる後に、某が星を見たところ、漢朝と大尉・小魔玉を支える
天の気は未だ衰えを見せず。漢朝の政の乱れはまだ十年は続きましょう。しかし、西方に
輝くひときわ強い星が一つ・・・・・これこそ、我が君かと」
無双ファンはオカルトなことに詳しい少年でありました。その無双ファンの予言に
座がざわめきました。
何か事を起すとき、必要な物が三つあるといいます。
一つは、天の時、二つには地の利、そして人の和と。今、汝南袁氏の元には各地より
様々な人材が袁家の威光を慕い集結し、三つのうち二つは既に揃ったも同然でした。
残るは「天の時」のみです。
漢朝の命運やいかに。つづきはまた次回。
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*三戦英雄傅
*第九回~リンリン大友望みの品を小魔玉に打ち明け、奇矯屋onぷらっと苦境に立たされる~
長年中華全土を支配してきた漢朝でしたが、人心も領土も三分され、なにやら
騒がしくなってまいりました。しかし、どんな乱世でも金持ちの家というものは
混乱とは無縁なものでございます。
大尉の小魔玉は愛息の様子が最近おかしいのに頭を悩ませていました。世間では、
増税のため餓死する者が多く、喰うか喰われるかの生活をしているというのに。
小魔玉:「うーむ・・・・最近リンリン大友の様子が変だ。飯も喰わぬし、いつも
憂鬱な顔で溜息ばかり。どうしたものか」
中山幸盛:「大尉、いかがなさったのです?」
突如としてぬっと現れたこの男、中山幸盛と申しまして、名士の多い穎川の出の者でございます。
有名な逸話として人相見に「あんたは貴命の持ち主だ。ただし、波があるがな。生き方次第でなんとか
なるじゃろう」と言われたことがありました。陳羣と同門で法学を学んだ剛直な男だったのですが、
どこでどう道を誤ったのか小魔玉の知恵袋となっておりました。
小魔玉:「息子の様子が変なのだ。あれも思春期を終えた年だが、反抗期らしい反抗期を
迎えなかった素直な子。もしや、今頃遅い反抗期が来たのだろうか」
中山幸盛:「まあ、坊ちゃまももうそろそろ奥方でもお迎えになり家を構えるお年頃・・・・
反抗期ではありますまい。と、なるとご商売の悩みでしょうか」
小魔玉:「商売の損失くらいオイラが補てんしてやるというのに」
リンリン大友が、母親のいない寂しさから関所に集まる人々に話しかけ殴られた話は
以前致しましたが、この時の失敗を教訓とし、リンリン大友は世の寂しい男たちの
心を癒すサロンを作りました。リンリン大友の故事から、テレクラ・リンリンハウ●の
店名はつけられたとかなんとか。
中山幸盛:「しかし、坊ちゃまは商才に長け、業績も好調とか。中華経団連会長からの
表彰も近くあると耳に致しましたが・・・・・実の親子なのですから、お父上の
小魔玉様が聞いてみられては?」
中山幸盛の放った「父親」という言葉が子煩悩な小魔玉の魂に火をつけました。
小魔玉:「そうだな。これ以上元気のない息子を目にしていては、オイラもおかしくなりそうだ。
よし、リンリン大友をこれに呼べ」
中山幸盛:「はい」
リンリン大友:「どうしたの?パパ。僕、今日は麻雀の相手をする気分じゃないんだ。ごめんね」
小魔玉:「なあ、マイサン、ダディはリンリン大友が心配でしょうがないんだ。いったい、どうしたというのだ?
パパじゃ、オイラじゃ力になれないのか?」
中山幸盛:「坊ちゃま、旦那様は父親として坊ちゃまが心配なのでございます。事情だけでも
お話になられては」
リンリン大友:「ん・・・・うん・・・・僕ね」
小魔玉:「なんだ、言うてみい」
リンリン大友:「僕ね、好きな人が出来たんだ」
小魔玉:「なんだ、そんなことか! どこだ?どこの店の女だ?パパが金で買ってやろう!!」
小魔玉は息子の悩みが思ったより軽く、上機嫌になり妓楼に出かける用意まで始めました。
リンリン大友:「お金じゃ買えないよ・・・・売り物じゃないんだもの。でも本気なんだ。
その子が八十になっても守ってあげたい、そんな子なんだ」
中山幸盛:「となると、お相手は素人の女ですな」
小魔玉:「素人なのか?よし、オイラが相手の家に話をつけに行ってやる。リンリン大友よ、
その女を嫁にするがいい。大尉の令息の嫁だ。女にとって玉の輿。嫌がる女などいないぞ( ^∀^)ゲラゲラ 」
リンリン大友は小魔玉の言葉に顔を上げました。
リンリン大友:「本当?パパ?」
小魔玉:「ああ、本当だとも。パパがお前に今まで嘘はついてはないだろう?早くその女の住所と
名前を言いなさい」
リンリン大友:「もう一緒に住んでるんだ」
小魔玉:「一緒に住んでる?どういうことだ」
中山幸盛:「お相手は下女か何かでしょうか」
リンリン大友:「ううん。離れに住んでいる奇矯屋onぷらっと師範の妹さんの阿梅ちゃんなんだ」
中山幸盛:「奇矯屋onぷらっと殿の妹御、阿梅殿はなかなか可愛らしい女性、坊ちゃまが
惚れるのも無理はありますまい」
奇矯屋onぷらっとは妻の存在を小魔玉家の人々には『妹』だと偽っておりました。
妻の阿梅は、小股の切れ上がったしなやかな肉体の持ち主で、小柄ながら胸も大きく
丸く、丸い頬が童女のように愛らしい女性でありました。
小魔玉:「奇矯屋onぷらっともオイラの義弟になるのだ。嫌とは言うまい。ただ、奴とオイラは
同姓・・・・・同姓を娶ったなら犬畜生の扱いを受けるのが中華の定め・・・・どうしたものか」
加ト清正:「どうした?息子よ」
小魔玉:「お、義父さん・・・・」
加ト清正は小魔玉の先妻の父親で小魔玉の舅にあたります。
加ト清正:「お前がエンバーミング加工をしてくれたマイドーターに会いについてに孫の顔も
見に来たのだが」
小魔玉は愛する妻の遺体に防腐処理を施し、冷たく硬い体を湯で温め、夜な夜な愛でていました。
舅の加ト清正は、そんな義理の息子の変態趣味など知る由もなく、ただ単に「小魔玉は娘を
愛しているから防腐処理を施したのだろう」としか考えておりませんでした。
小魔玉:「お義父さん、実はかくかくしかじかでして・・・・」
加ト清正:「よし、ではリンリン大友よ、爺ちゃんの養子になるか!」
中山幸盛:「なるほど加ト様の籍に入れば姓は変わり婚姻も可能」
小魔玉:「しかし、お義父さん、オイラからリンリン大友を取り上げては何が残るというんだい?
もう生きてはいけない・・・・」
加ト清正:「変えられる事は、変える努力をしましょう。
変えられない事は、そのまま受け入れましょう。
起きてしまった事を嘆いているよりも、これから出来る事をみんなで一緒に考えましょう。
これ、儂のモットーじゃ。婚姻の後に陛下より姓でも賜って再び小魔玉家に帰っても
問題あるまい」
リンリン大友:「ありがとう!お祖父ちゃん」
リンリン大友はすっかり元気を取り戻しました。
小魔玉は早速、式場の手配と花嫁衣裳と花婿衣装を用意させ、婚姻のための祝いの品を抱え
離れの奇矯屋onぷらっとの元に挨拶に行きました。
小魔玉:「可愛い妹御だろうが、息子・リンリン大友の嫁にくれないか。そうすれば、
お主も大尉の義弟。望みの官位でもなんでもやろう。息子は優しい男、決して不孝には
させない。お主にも、阿梅にも悪い話ではあるまい。頼む( ^∀^)ゲラゲラ」
阿梅:「そんな・・・・」
奇矯屋onぷらっとの妻・阿梅はショックのあまり貧血を起こし、倒れました。
小魔玉:「おうおう、オイラの義理の娘になるのがそんなに嬉しいか。いい話だ( ^∀^)ゲラゲラ」
奇矯屋onぷらっと:「大尉殿、今日のところはお引取り願いたい」
小魔玉:「何でだ?目出度い話なのに出直すとは縁起が悪い」
奇矯屋onぷらっと:「実は妹は見ての通りテンカン持ちでして・・・・完治してからそういったことは初めて
考えられるもの・・・」
小魔玉:「うーむ・・・確かに見ようによってはテンカンのようにも見えなくも無いな」
すっかり舞い上がった小魔玉は医師という経歴にも関わらず奇矯屋onぷらっとの嘘に騙されてしまいました。
小魔玉:「では、オイラが診察してやろう( ^∀^)ゲラゲラ」
中山幸盛:「旦那様・・・・阿梅の色気に勝つ自信はございますか? 好いた女を父親にとられては
リンリン大友坊ちゃまは自害されてしまう恐れが」
小魔玉:「中山幸盛、お前の言うとおりだ。オイラは好色で自制心が足りない・・・・ここは自信がないので
他の医師を派遣してやろう」
こうして、奇矯屋onぷらっとは事なきを得ましたが、これも一時のこと。いったいこれから奇矯屋onぷらっとは
どうなるのでしょうか。気になる続きは、また次回。
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2008-06-11T06:19:11+09:00
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