第42話まで

三戦英雄傳


第四十回~敵からの贈り物~


 さてさて、前回兵士達の「不満を解消する」として後漢軍へ贈り物を贈ったEusebio Di Francesco。
問題の衣装箱の中身とは何なのでしょうか。

官兵:「たった今、南匈奴軍より荷物が届きました」
李儒:「ほお、贈り物とは殊勝な心がけ。降伏の書状か」
宇喜多直家信者:「とりあえず開けてご覧なさい」
官兵:「はっ!」

 中にあるのは敵大将の首か? 降伏の書状か? 後漢軍の視線は一つの衣装箱に釘付けとなっておりました。

官兵:「これは……」
呂布:「うおっ!!」
牛金:「なんだ!!」

 衣装箱にあった物。それは敵大将の首ではなく、洛陽の姫君が着るような、煌びやかな女物の衣装でありました。

華雄:「待て。書状もあるぞ。……どうやら貴軍で愛国心がある者はあの宦官だけと見える。宦官一人に任せ
閉じこもる貴公たちは宦官以下の婦女子に違いない。婦女子は着飾って投降すれば我が王の妾くらいにはしてやるぞ
…人を馬鹿にするのも程がある!! なんで儂があの宦官に劣ることがあろう!! ここは総攻撃をかけ、
目に物見せてくれましょうぞ!!」
宇喜多直家信者:「しかし、帝より預かった大事な兵。策もなく感情に委せ徒に戈を交えるものではない」

 この戦の真の目的が「蔡文姫奪還」という私的なことにある負い目が宇喜多直家信者から冷徹さを奪いました。
 抗戦か、否か。一同が揺れる中、幕舎を訪ねた二人の影がありました。



何進:「おうおう、まだ軍議中か。敵は目の前におるというに。これは儂の孫で晏。字を平叔という。
これ、平叔、挨拶なさい」
何晏:「何平叔にございます。後漢の民を救うべく若輩の身なれど馳せ参じました」
李儒:「平叔様は、確か五石散中毒で伏せっておいでのはず…それに前より背丈が縮み、なよなよと
しているような……」
何進:「五石散は綺麗さっぱり絶ちました。なあ、平叔。それに長いこと伏せっていれば自然と
背も縮みましょう」
李儒:「左様ですか」

 実はこの青年、何晏ではございません。何晏に扮した渦中の司馬懿でございました。
 妹・小銀玉皇后が起こした裸照事件の煽りを受け大将軍の地位を永久剥奪されるのを懼れた
何進が自ら霊帝に願い出て援軍に駆けつけ、「後漢救国の祖父と孫」の美談を描いたのでした。
 ところが肝心の何晏は未だ五石散中毒から抜け出せず。急遽一週間の日雇いで何晏の身代わりを
募集したところ、散歩していた渦中の司馬懿が労働欲に目覚め応募したのでした。

呂布:「大将軍には申し訳ないが、そんなひ弱な生っちろい細い男が戦場で何の役に立つというのだ」
牛金:「残念だが事実ですな。チビで手足ばかりひょろひょろと長く、目なんか生まれたての
子鹿みたいに頼りなげで無駄にでかい」
何進:「ほお、これは何ですか」
宇喜多直家信者:「敵軍から婦人物の衣装が送られてきたのです。兵士たちは無駄に士気を上げ、困っております」
何進:「確かに。確かに我が孫はチビでもやしっ子。だが、それも……見よ!!」

 何進の指先には一人の少女がおりました。碧の黒髪、潤んだ黒目。なかなかの美少女であります。

呂布:「この戦場に……どなたかご令嬢を連れてきたのか?」
牛金:「いや、この戦は野蛮人との戦い。そんなことはしないはず」
華雄:「よく見なされ、あの衣装を!!」

 少女が身につけているのは先ほど南匈奴軍より贈られた衣装でした。



何進:「男として劣った体も、女装をすればこの通り」
華雄:「なんと理想的な女装体型……」
呂布:「イケる……」
何進:「さあ、平叔。この姿を南匈奴の奴らに見せ逆に煽ってやるのだ」

 渦中の司馬懿は雇い主・何進の命ずるまま敵要塞の前まで歩いてゆきました。

南匈奴兵1:「本当に来やがった!! やいオカマ!!」
南匈奴兵2:「掘られに来たのか、このオカマが」

 南匈奴の兵士たちは敵将軍が女装してきたものと思い込み、口々に囃し立て、叩きに弱い
渦中の司馬懿はすっかり涙目でありました。

ロコふるーちぇ:「馬鹿者!! 叩くなら叩きに強い男にしないか!! 弱い男を叩いてどうする!!
……って女?」

 ロコふるーちぇの戸惑いの声は南匈奴兵にも伝わり南匈奴兵たちはこぞって渦中の司馬懿の顔を見ようとしました。

南匈奴兵1:「泣いてる……しかもなよなよして俺らの国にはいないタイプのオニャノコだ」
南匈奴兵2:「お前泣かしてるんじゃねーぞ」
南匈奴兵1:「男だと思ったから叩いただけだ」
Eusebio Di Francesco:「静かにせぬか! ……何故この戦場にかような美少女が?」

 これには軍師のEusebio Di Francescoも騙されました。彼らのような猛々しい民族は繊弱で儚げな
女性に弱いのでございます。性別は違えど渦中の司馬懿は彼らの好みど真ん中でありました。



Eusebio Di Francesco:「と、とりあえずあの五月蠅い宦官と共に中へお連れしろ」

 ロコふるーちぇと渦中の司馬懿は敵要塞への進入に成功しました。やけに舞い上がる南匈奴軍を前に
渦中の司馬懿は末っ子本来の自己中心的な奔放さを増長させていき、三日経つ頃にはお姫様のような待遇を
受けておりました。

渦中の司馬懿:「お肉、きらーい。ちょっと私に触らないで。妊娠したらどうするのよ。私に物を渡すときは
宦官・ロコふるーちぇを通してからにして。私、乙女なんだから」
ロコふるーちぇ:「いつまでこんなことを続けるのだ。どこぞの姫君よ」
渦中の司馬懿:「静かに。姫君と言ってくれてありがとう。でも私は男よ」
ロコふるーちぇ:「何!」
渦中の司馬懿:「しっ、あなたってば声が大きいのね。この三日間で要塞の内部は大方把握したわよね?」
ロコふるーちぇ:「ああ…まさか初めから?」
渦中の司馬懿:「んっ、単に可愛い着物が着たかっただけなんだけれど、そういうことにしておいた方が
あなたも私もかっこいいでしょう」


一本眉毛:「おい、姫様、散歩しましょう」
渦中の司馬懿:「えー、あなたたちのお散歩って競歩じゃないのお。疲れるし嫌よ」
一本眉毛:「そんなこと仰らずに」
渦中の司馬懿:「痛っ」
コ~ヒ~じゃ!!:「いかがされた姫様!!」
渦中の司馬懿:「あの日かも……」
コ~ヒ~じゃ!!:「あの日って?」
ロコふるーちぇ:「ええい、蛮族は保健の教育もしていないのか!! 姫様は女の子の日だと申しておられる」
渦中の司馬懿:「どうしましょう。ロコふるーちぇ。初潮なの。不安だわ……」
一本眉毛:「ここには女などいないし、どうすればいいんだ」



 南匈奴軍は一気に色めきだしました。

一本眉毛:「皆、落ち着くのだ。自分の嫁さんや姉、妹、母ちゃんでもいい。どうしていたか思い出すのじゃ!!」

 しかし、戦いに明け暮れていた南匈奴軍には女体の神秘に詳しい者などおりませんでした。

ロコふるーちぇ:「姫様、ここは気分転換にお散歩でも」
渦中の司馬懿:「でも生理痛で歩くのも辛いわ。南匈奴の速いお馬さんに乗ればまた気分も変わるかもしれないけれど……」
一本眉毛:「ははっ、これなる馬は赤兎馬。一日に千里を走る駿馬中の駿馬。どうぞお好きなだけ乗馬にいってらっしゃいませ」
渦中の司馬懿:「一人じゃ怖いわ」
コ~ヒ~じゃ!!:「ではワイが!!」
渦中の司馬懿:「妊娠させるつもり? 宦官のロコふるーちぇがいいわ。ちょっと気分転換に乗馬してくるわね」

 渦中の司馬懿とロコふるーちぇは赤兎馬に跨ると軽快に走ってゆきました。

コ~ヒ~じゃ!!:「遅い…姫様とあの宦官は何をしている」
Eusebio Di Francesco:「これお前達、姫様と宦官はどうした」
南匈奴兵1:「それがかくかくしかじか……」
Eusebio Di Francesco:「何!! お前達はなんという失態をしたのだ!!」
一本眉毛:「軍師殿、何をお怒りに」
Eusebio Di Francesco:「恐らく姫様と宦官はもう帰るまい。宦官が敵軍に帰ればこの要塞はただの城だ」
一本眉毛:「しかし……」
Eusebio Di Francesco:「そもそも馬の嗅覚というのもは生物の中でもかなり鋭いもの。それが人間の血に
気づかぬはずがない。姫様の女の子の日だという申告も偽りであろう」
南匈奴兵1:「な、なんと……」

 敵要塞の内情を探っただけではなく、敵に精神的ダメージを与えることにも成功したロコふるーちぇと
渦中の司馬懿。さてさて、戦局や如何に。

 三戦英雄傳、続きはまた次回。



三戦英雄傳


第四十一回~腹の探り合い~


 官軍本陣へ渦中の司馬懿と共に帰還したロコふるーちぇは、ただちに宇喜多直家信者に敵要塞の詳細を報告しました。

李儒:「なるほど敵要塞は思ったより頑強にできているようですな」
ロコふるーちぇ:「外壁には約一里(414メートルくらい)ごとに物見用の小窓があり、小窓に至るまでの階段は
人一人分しか幅の無い狭いものだったぞ。馬鹿!」
宇喜多直家信者:「万が一襲われた際にも一対一で戦うためのものでしょう」
ロコふるーちぇ:「さらに物見までにたどり着くまでには弓矢を避ける壁が5層にもなって石で積まれていたぞ」
李儒:「完璧なものなどこの世には無い。まして夷狄が急いで作った物……どこか弱みは残っているはず」
ロコふるーちぇ:「そういえば、東門の警備は比較的緩かったな。東門から襲撃するのはどうだ? 馬鹿」
李儒:「後漢を狙う夷狄は南匈奴のみに非ず。もし、此度の戦で南匈奴が敗北したなら今度は夷狄全体の面子の問題
となりましょう。きゃっつらは弱い獲物の臭いに敏感な虎のようなもの……ゆえに南匈奴も必死の抵抗をしてきましょうな」
何進:「我が軍は兵力では勝ってはいるものの、精悍な南匈奴の兵ほど訓練はされてはおらぬ。南匈奴の兵は譬え武器を
取られようとも最後には噛みついてでも敵を倒す気概のある者ばかり。まともに相手をしていては我が軍の損害は大変なものじゃ」
李儒:「Eusebio Di Francescoとて全ての事情を踏まえた上で指示を出すでしょうな。宇喜多直家信者殿、ここはハッタリを
かましてやりましょうか」
宇喜多直家信者:「ハッタリ? ホウ涓へ孫子が使ったあれでしょうか」
李儒:「その逆も。ただ、現状ではどちらが敵に適うかわかりかねます。今夜、間者の報告を待ってからに致しましょう」



 その夜、李儒の元を訪れる一人の男が居りました。李儒と同じ董卓の女婿・牛金でございます。

李儒:「やあ、来ましたか」
牛金:「洛陽より届いた間者の報せによると、やはり此度の戦、女が関係していると。お主の見た通りであった」
李儒:「大尉・小魔玉の奥方のことであろう」
牛金:「ああ。その外にも」
李儒:「蔡ヨウ殿のご令嬢のことか」
牛金:「見れば何進は皇后の汚名を雪がんとそのことばかり。総指揮官もやはり身内のことばかりというところか」
李儒:「宇喜多直家信者は小魔玉の派閥に属する者。放っておけば必ずや三公までには上り、お義父上を脅かすであろうなあ」
牛金:「この際、小魔玉の派閥を一掃するか?」
李儒:「いや、時はまだ熟していないので止めておきましょう。それより恩を売ってやるのです」
牛金:「小魔玉の奥方と蔡文姫を取り戻せば良いのであろう」
李儒:「その通り。二人とも取り戻すのが望ましいが、どちらか片方だけでも涙を流して恩に着るでしょう。もし、それで
小魔玉派の内部分裂に持って行けたならしめたもの……」
牛金:「昼間話していたハッタリ、いったいどのように? Eusebio Di Francescoと文優殿は旧知の間柄であろう」
李儒:「あれは冷静でキレ者ではあるが、それだけに危険や損害を懼れる。少しカマをかけて互いに和睦に持って行けば良い。
Eusebio Di Francescoも同じように考えていることでしょう」

 一方南匈奴軍でもEusebio Di Francescoを囲み軍議が行われておりました。

南匈奴兵1:「女って怖え……もうオニャノコなんて信じない」
南匈奴兵2:「スィーツ雑誌の「やりたくない時は生理だって断ってます☆」とか言うスィーツの言葉は本当だったんだな。
俺、今まで「大丈夫?」なんて心配していい奴演じてた……」
南匈奴兵3:「女なんか、女なんか」

 南匈奴の者たちは上から下まで渦中の司馬懿に騙された事実を悟り女性不信に陥っていました。



Eusebio Di Francesco:「なんです。お前たち」
一本眉毛:「ワイはもう戦えんです。じゃけん、軍師殿が張良もびっくりの策で戦ってつかあさい」
Eusebio Di Francesco:「騙されたとは決まっていないぞ。宦官があの姫様を拐かしたとも考えられる」
コ~ヒ~じゃ!!:「はっ、そうじゃ、そうじゃ。そうに決まっておるわ!!」
Eusebio Di Francesco:(こいつら、本当に単純で助かったわ)
一本眉毛:「そうと決まったらあの宦官を倒しに行くぞ!!」
Eusebio Di Francesco:「まあ、まあ、お待ちなさい。ここ、定襄は平地。我々には強固な砦はあるものの、平地では
数がものを言う」

コ~ヒ~じゃ!!:「こっちが不利だというのか!!」
Eusebio Di Francesco:「万が一我が軍が破れ、勢いに乗じた敵軍が乗り込んできたなら我が南匈奴は
鮮卑、烏桓、北匈奴からも蔑まれ、破滅に追いやられるでしょう。それだけは避けなければならぬ」
一本眉毛:「ここまで来てなんじゃ!!」
Eusebio Di Francesco:「この要塞は強い。この砦から出ない限り我々の安全は保証されています。が、出なくては敵も討ち取れぬ。
敵副官・李儒は利無くば動かぬ男。総司令官・宇喜多直家信者は冷徹なる男……二人とも何か別の、真の目的があるはず…」
コ~ヒ~じゃ!!:「そういえば王の側室に漢族の大学者の娘がいたのお」
Eusebio Di Francesco:「良い琴を弾くお方だ。確か蔡文姫と」
一本眉毛:「王との間には二人子を成しておった」
Eusebio Di Francesco:「適当にあしらって蔡文姫を漢へ帰すか……王の側室は多いし、王も若い。お子さえ置いていってくれれば
何も執着はなさるまい。此度の戦、漢族の間で起こった異変による形だけのものかもしれぬわ」
コ~ヒ~じゃ!!:「そうじゃ、漢族の者でこちらが拉致した人間は帰して恩を売っておくのも良かろう」

 同じ学舎で学んだ者同士の戦。孫子とホウ涓のようでございます。
しかし、戦とは全て対立ばかりするものでもありません。このように和睦という結果も選択肢の中には
隠れているのです。Eusebio Di Francescoと李儒、和睦の方針のようでございます。



 翌朝、南匈奴軍、官軍には各軍参謀役より次のような指令が下りました。

Eusebio Di Francesco:「要塞の外へ通じる地下道を三つ掘った。お前達は六つの隊に分かれ、先三つの隊は要塞の
守りに徹し、後三つの隊は夜ごと闇に乗じ地下道より外へ出、鮮卑、烏桓、北匈奴の服装と言葉で銅鑼を鳴らし
喊声をあげながら適当に敵を散らし、援軍の振りをせい」

李儒:「各軍より選りすぐった精鋭以外は要らぬ。精鋭を全面に、力の弱い者を後方に配陣させ、夜の闇に紛れ
力の弱い者は都へ帰すように」

 さてさて、旧友? 同士は「釜を増やす作戦」と「釜を減らす作戦」、違う作戦に出たようでございます。
 指令は違えど気持ちは同じ。両軍和睦への道や如何に。

 三戦英雄傳、つづきはまた、次回。



三戦英雄傳


第四十二回~和解への道~


 定襄にて睨み合ったままの官軍と南匈奴軍。
 各軍参謀役・李儒とEusebio Di Francescoは同じ学舎で学んだ旧友同士。二人が出した結論――和睦、最善なり――。
 和睦に至る前に虚勢を張ってやろうという思考も同じ、されど虚勢の張り方まではさすがに違っていたようでございます。

宇喜多直家信者:「このところ朝昼と鮮卑、烏桓、北匈奴の人間が援軍に来ている様子。このままでは頼みの兵力も互角になってしまいます」
李儒:「当事者を引っ捕らえて尋問せねばわかりませぬが、あの援軍、恐らく敵参謀・Eusebio Di Francescoによる策かと」
八戸のぶなが:「李儒殿は易者か何かか。人の手まで読まれるとは。怖いのお」
呂布:「しかし、なぜ精鋭だけ残し他の兵を洛陽に帰らせるのだ。敵が攻めてきたらどうなることか。援軍も本物かもしれないではないか」
李儒:「その時はその時ですなあ。私の首は細いが、将軍の首は太くしっかりとしている。敵軍も苦労しますなあ」
華雄:「李文優、お主何を考えて居る!!」
宇喜多直家信者:「わざと力を互角にしたところで和睦を申し出る。和睦以外に選択肢を与えぬ、というところでしょうか」
李儒:「ご名答。さすがは大学者・蔡ヨウ先生のお弟子さんは違いますな。尤も、この面子で軍略について語ることができるお方は
貴公くらいのものでしょうなあ」
呂布:「むむむ……」



南匈奴兵1:「敵軍は我が軍に恐れをなしたのか、夜ごと逃亡兵が続出している様子」
南匈奴兵2:「ただ、前方は屈強な兵で固められ、うかつに手は出せない状況です」
Eusebio Di Francesco:「ホホホ……李文優の策ですよ。さて、そろそろ良い頃合いです。王の承認も得ましたし、私が直々に
和睦の使者として敵軍に行って参りましょう」
コ~ヒ~じゃ!!:「軍師殿だけでは不安じゃ。漢族は汚い手を使うからのお。ここは儂がお供しよう」
一本眉毛:「お主だけに良い場面は取らせぬぞ!! ワイが軍師殿をお守りするのじゃ!!!」
Eusebio Di Francesco:「私一人で十分。護衛など要りません」
コ~ヒ~じゃ!!:「しかし」
Eusebio Di Francesco:「人には「天命」というものがある。人の生死など正にそれ。私が死んだなら、それも天命というもの。
私が三日経っても帰って来なかったなら王に奏上し代りの軍師を要請するように」

 こうしてEusebio Di Francescoはただ一人、敵陣たる官軍へ乗り込みました。

官兵1:「怪しい男、名を名乗れ!!」
Eusebio Di Francesco:「私は李文優殿の旧友・Eusebio Di Francesco。李文優殿にお会いしたい」
官兵2:「Eusebio Di Francesco……敵参謀の名も同じであった。捕らえれば俺らも昇格するぞ」
官兵1:「何!」
Eusebio Di Francesco:「黙らっしゃい!! もし、私を捕らえ無礼なことがあればお前達の首が胴体から離れことになるぞ」

 官兵1と2はEusebio Di Francescoの気迫に震えあがり、さっそく李儒のもとにEusebio Di Francescoを通しました。



李儒:「来たな。Eusebio Di Francesco」
Eusebio Di Francesco:「久しいな。文優」
李儒:「見たところ我が軍と貴軍の兵数は互角。だが、こちらも命が掛かっている。貴軍が動けば背水の陣の覚悟で応戦するでしょうなあ」
Eusebio Di Francesco:「それはこちらとて同じこと」
李儒:「そういえば子供の頃、互いに何を思っているか手に書いて当て合ったものだ。久しぶりに童心にかえってやろうではないか」
Eusebio Di Francesco:「それは面白い」

 Eusebio Di Francescoと李儒は再会を楽しんでいる様子でございます。

牛金:「策士というものはああいうものなのであろうか。ある意味武人より肝が据わっている」
何進:「儂には一生無理じゃな。じゃが、自分が策士にならずとも良いのじゃ。金で雇えば良いのよ」

 牛金は何進の言葉に振り返り、自分は商才も無いのだなあというように首を横に振りました。
 擦ったばかりの墨の香りが室内に漂い、李儒とEusebio Di Francescoは筆を持ち、己の左手に文字を書きました。
李儒はさらりと一言、Eusebio Di Francescoは慎重な様子で一言書きました。


Eusebio Di Francesco:「では、互いに見せ合おうか」
李儒:「いいでしょう」

 互いに見せ合った手のひらには「和睦」の文字がはっきりと映っておりました。



Eusebio Di Francesco:「感は鈍っていないようだ」
李儒:「ハハハハ。貴公も王の手前があろう。ゆえに私は兵を少しずつ洛陽へ撤退させた」
Eusebio Di Francesco:「お主も帝の手前があろう。代りと言ってはなんだが、王の側室となっている
蔡文姫をお返ししよう。蔡文姫は既に我が要塞へお連れしてある。後は迎えの者をよこせば良い」
李儒:「相変わらず用意が良いことで。それでは向こう五年間後漢と南匈奴は互いに不可侵条約を結ぶということで宜しいかな?」
Eusebio Di Francesco:「もちろん」
李儒:「では、迎えの使者を……」

 李儒が室内を見回すや否や、さっと上がった手が二本。宇喜多直家信者と八戸のぶながの手でございました。

宇喜多直家信者:「蔡文姫は我が姉のようなもの。ここは弟として私が」
八戸のぶなが:「宇喜多直家信者殿は学者上がりのお方。お一人では心細い。かと言って将軍を護衛につけても
心象が良くない。私が護衛に」
Eusebio Di Francesco:「では、二人とも来るが良い」

 八戸のぶながと宇喜多直家信者はEusebio Di Francescoについて行き敵要塞の中に入ってゆきました。

宇喜多直家信者:(なるほど、これだけの要塞、攻めるとなれば一月は掛かろう……やはり李文優は知恵者だ)
Eusebio Di Francesco:「思えばこの要塞を知った宦官を逃がしてしまったのが、今回悔やむところだな。尤も
双方無駄な血を流さずに済んだことは参謀としてこの上無い喜びだが……さあ、連れて行かれよ」
蔡文姫:「……宇喜多直家信者?」
宇喜多直家信者:「姉上!!」
蔡文姫:「本当に宇喜多直家信者なの? ああ、私は夢を見ているのかしら。二度と家族には会えないものと」



 よほど嬉しかったのでしょう。蔡文姫と宇喜多直家信者は感激の涙を流しており、それは観客たる南匈奴の者たちも同じでありました。

南匈奴兵1:「イイハナシだなあ……」
南匈奴兵2:「漢族にも親兄弟はいるのだなあ」
南匈奴兵1:「そうだなあ」
Eusebio Di Francesco:「さあさあ、観劇はそこまで後は漢の土の上でやるが良い」

 Eusebio Di Francescoはパンパンと両手を鳴らすと「早く帰れ」というように、宇喜多直家信者と蔡文姫と八戸のぶながの背を押しました。

Eusebio Di Francesco:「次は無いぞ。今度こそしっかりつなぎ止めておくが良い」
宇喜多直家信者:「え……」
Eusebio Di Francesco:「そういうことだ」

 Eusebio Di Francescoは宇喜多直家信者に親しみを感じさせる笑顔を向けると、南匈奴兵たちに叫びました。

Eusebio Di Francesco:「さて、我が南匈奴と漢は向こう五年間の不可侵条約を締結した。以後心して行動するように」
子供1:「お母さん!!」
Eusebio Di Francesco:「これこれ、皇子、母上は生まれ故郷に帰るのです。邪魔をしてはなりませぬぞ」

 見ると3歳くらいの子供と2歳くらいの男児が蔡文姫を必死に追いかけようとしていました。



宇喜多直家信者:「三年、いやもう四年になりますか……あれほど長く感じていたが、早いものです。
Eusebio Di Francesco殿、王にはお子も沢山居よう。図々しいお願いだが私にお渡し願えないだろうか」
Eusebio Di Francesco:「他人の子を物好きな」
宇喜多直家信者:「我々漢族は家を絶やすのが最大の不孝。私には妻子はおらず……我が家の跡取りとして育てたいのです」
蔡文姫:「何を言っているの……」
Eusebio Di Francesco:「宜しい。王には私から伝えておこう」
宇喜多直家信者:「ありがたい」

 こうして漢族五人は要塞の外に出ました。

八戸のぶなが:「貴公はどうも晩熟だな。さあ、もう要塞の外だ。言ってしまえば良い」

 八戸のぶながは宇喜多直家信者を小突きました。

宇喜多直家信者:「姉上、四年の月日は早く、蔡ヨウ様は心臓を患い既にお亡くなりになりました。願わくは
私と、その、所帯を持っていただきたいのです」
蔡文姫:「そんな急に……子供たちだっているのに…」
八戸のぶなが:「何を迷っているのだ。返事は「是」しかないでしょう。あなたがたは血も繋がっていなければ
姓も違う。何で天が反対しようか」
蔡文姫:「でも……子供が」
宇喜多直家信者:「私は姉上と、いえ、蔡文姫と婚姻することで少なくとも三つの良いことがあります。
一つ、女性の悪阻は苦しいものだが、悪阻に苦しむあなたを見ないで済んだこと。
二つ、女性の出産には生死の危険が伴うが、きちんと無事なあなたと再会できたこと。
三つ、妻の出産の十月十日、夫は生きた心地もしないものだが、私はその苦しみを味わうこともなく、こうして
可愛い息子に二人も恵まれたこと……さあ、坊やたち、私の息子になってくれるかな?」



 宇喜多直家信者は血の繋がらぬ二人の息子の頭をくしゃくしゃとして聞きました。
 二人の子供は嬉しいような恥ずかしいような、驚いたような顔をしておりましたが、やがて嬉しい顔に統一し、「うん」と言いました。
宇喜多直家信者は子供の言葉に目を細くし、両腕で二人を抱きしめました。

宇喜多直家信者:「子供達の承認は得ました。さあ、後はあなたのお返事だけです」

 宇喜多直家信者は、蔡文姫を優しく見つめました。蔡文姫は恥ずかしいのでしょうか。俯きながら「はい」と震える声で答えました。

八戸のぶなが:「あーあ、不器用な人間というものは見てられませんな。さあさあ、宇喜多直家信者殿、今更洛陽に帰って家庭教師も
つまらんでしょう。どうです? 私と晋国へでも行きませぬか」
宇喜多直家信者:「そうですね…晋国にでも行ってみましょうか。誰も知らぬ土地で過ごすのも良いでしょう。
洛陽では人が妻をあれこれ詮索する人間がいるかもしれない」
八戸のぶなが:「妻の発音が少し不自然に聞こえたが、まあ、いいか。それでは参りましょう。晋国へ」



 こうして五人は遙か晋国を目指しました。『晋史』によるとこの後宇喜多直家信者は蔡文姫との間に新たに五人の子を設け、
五男二女の子宝に恵まれたそうです。

 後の世『京劇』が盛んになりはじめると蔡文姫と宇喜多直家信者のこのエピソードは才子佳人の項目の代表格となり、
名女形・梅蘭花のために『還漢記』なる演目が作られました。

 歴史の中には策士、豪傑、名も無き兵士…さまざまな人間が出ては消えてゆきます。しかし、宇喜多直家信者の
人生は乱世にあって平穏で手にしようと欲せば届く権力に目もくれずして得た幸福なのでした。一人の官吏のあり方として
「こういう生き方も良いものだ」と科挙受験生や官吏は晋史を読む度に溜息をついたということでございます。


 さてさて、キリの良いところで第二部は終わり。
 続きはまた第三部にて。晋国と後漢の行方はどうなるのでしょうか。

 三戦英雄傳、続きはまた次回。

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最終更新:2008年07月25日 04:39