1節から10節


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第一節



……二度と再びめぐってこないから、人生とは甘美なのです。

二世紀。相次ぐ政争により、社会から秩序が失われつつあったその時代。
麻のように綻びた天下の収束を試みた、一人の英傑が現れた。
獅子のような気高さも持たず、狐のような才智も持たず、ただ人の和のみを武器とする
その天子の名は、ひょーりみといった。

~主要登場人物~

【新党朝】前後併せて四百年の歴史を誇る朝廷だが、老帝国ゆえに綻びが深刻である。

学徒出陣:皇帝。かつては多大な支持を得ていたが、加齢とともに政治を腐敗させる
小魔玉:丞相。功臣を各地に封建し、その力で新党朝の中興を試みる
魔法剣士情熱的:尚書令。寒門ながら、帝の補佐に尽力して大役を得る
ロコ三郎:新党朝の名門ロコ家の出身だが、もはや権威の保持すらままならない

【老党】新党朝の政治に不満を持った一部の老臣が、半独立の様を呈した勢力。

ぷらっと:かつては政権の中枢に座していたこともあるが、現在は中央からは身を退いている
中野区民憲章:名門の出身でぷらっとの同僚。官職に固執する悪癖を持つ
小銀玉:上記二名とは距離を置き、政権の獲得に尽力している

【在野】在野には、将たる器を持った有望な人士が数多く散らばっている。

ひょーりみ:無官だが新党朝との関わりも深く、美貌の誉れも高い
聖天使ザビエル:基督教の宣教師だが、乱世の渦に巻き込まれる
偽クマッタ:太守クマッタを殺害して名を騙る賊。その正体は元官吏・向こうの888
張春華:かつて三戦皇帝と称した女傑だが、栄光はすでに失われている

【八戸家】新党朝に封建された八戸のぶながが築いた、強大な国力を誇る地方政権。

八戸のぶなが:成切族の出身。異民族ながら人望篤く、多くの配下を抱える



第二節



前後併せて四百年の歴史を誇る新党朝は、皇帝学徒出陣の治世にあって、空前の危機に瀕していた。
仮に政治に無頓着であっても、補佐にあたる人材が優秀であれば問題はないが、
学徒は国家の現状を知らぬままに政治に介入を続け、それが相次ぐ失政を生み出していたのである。

「どうして税収が不足しているのだ!臣民が怠慢であるからであろうが、ボケ!」

丞相小魔玉の報告書に目を通すと、顔を赤く染めて一喝する学徒。
初代皇帝とはいえ、名家出身であった彼には、一日の生活にも窮する民のことが理解できないのだ。
小魔玉は諫言は無意味だと判断して代わりにひとつの策を提言した。
各地を功ある臣下に分配し、その統治を委任しましょう、と。
学徒は無能であるが小人ではない。小魔玉の提言を即諾すると、早速詔勅を発した。

司隷に小魔玉を、
?州に魔法剣士を、
予州にロコ三郎を、
冀・幽・并・青州に八戸のぶながを、
雍州にぷらっとを、
涼州に小銀玉を、
徐州に自治新党は文化を、
荊州に損権を、
揚州に金宰陽を、
益州に孔明を、
交州に金四郎を、

それぞれ侯として派遣する、と。


益州。魔玉を頂点とした地方政権が存在した州であり、厨国のなかでも辺境に位置していた。
かつて魔玉の軍師を務めていた小魔玉は蜀の経国は難儀であることをよく知っており、
経験豊かな孔明を侯に封じたのだが、孔明は任地に赴任すると私利私欲に走り政治を顧みなくなった。
そのしわ寄せは民草に降りかかり、不満を募らせた者は場末の酒場に集まって鬱憤を吐き出していた。

「新党朝の問題といえば、蓋しぬるま湯に浸り続けた古株をのさばらせていることだね。」
涼しい顔で語るのは基督教を信仰するザビエル。
「その通りだ。あいつらは下々の事を目にも入れねえで、内輪揉めに興じてやがるからな。」
それに呼応する果物キラーに続き、触発された民は喧々囂々と不満を声高に叫んだ。

「………」

喧噪の中、ひとり沈黙を保つひょーりみ。それに気づいたザビエルが声をかける。

「ひょーりみ殿、どう思われますか?」
「……ごめん、寝てた」

ひょーりみの気の抜けた一言に、一気に緊迫感の失せる酒場。
眉目麗しきこの少年がいずれ厨国を統一することを、この場にいる者はまだ誰も知らなかった。



第三節


揚州に派遣された金宰陽は、権力欲こそ強かったものの、至って真面目に揚州の経営に取り組んでいた。
新党朝の丞相を務めた経験もあり、人々は揚州の将来に希望を見出したが、
もともと保守的な思想を抱いていた金はやがて反動政治を強行した。

「何ぃ?税率を四公六民にせよとな?…バカめ、揚州の税率は昔から五公五民と決まっておるわ!」
「リンリン大友という者が仕官を希望している?なかなか見所のある男だとな?」
「フン、追い返せ!寒門を召し抱えるほど、ワシの政治は腐ってはおらん!」
「後は南越族が最近調子づいているようだから、難越族と改名するよう上奏してやろうかのう!」

このような調子であったから、次第に人心は離れ、
心ある者は金宰陽の副官、雷音に不満を訴えるようになった。

宇喜多直家信者「雷音将軍、揚州の政はもはや限界でございます。何卒、将軍から侯にお口添えを…」
仙台藩百姓「宇喜多に同意する訳では御座いませんが、それがしも同感でござる。」
雷音「…わかった。考えをまとめておこう。皆、きょうのところはお開きとしよう。」
一同「ははっ」

雷音は解散を宣言すると、集会に名を連ねた一同のアリバイ工作を済ませ、自邸へと帰還した。
「侯は諫言をお受けくださるかな。どう思う?」出迎えた家令に問いかけると、家令は所見を述べる。
隠れ麋竺オタ「さあ、何せ伝統を重んじるお方ですからね。丞相のお達しでもあれば、別なのですが」
雷音「私は一武官だ。丞相が、腐るほどの兵隊蟻の中から私を見出してくれるものだろうか?」
隠れ麋竺オタ「確か将軍はKowLoon殿と懇意でございましたね。そしてKowLoon殿は丞相と懇意だとか」
雷音「なるほど、それでも容易ではなかろうが、行動しないよりはよほどマシだろうな。」

揚州にも、変革の風がながれ始めていた。



第四節


華北四州に封じられた八戸のぶながは北方の異民族、成切族の出自である。
厨華の人間でないことを考えればこの出世は例外中の例外であり、
新党朝の権威の低下を露呈する措置でもあった。

のぶなが「まさよし、なおまさ、なおよし。よく集まってくれた。大儀である。」
まさよし「ハッハッハ、のぶなが殿の飛躍を伺うては、黙っておれませぬわい。」
なおまさ「我らにそれぞれ一州を分け与えてくださったご厚恩、忘れませぬぞ。」
なおよし「左様左様。のぶなが殿の新党朝の中興を、精一杯お支えいたしますぞ。」

そのなおよしの言葉を聞くと、八戸のぶながは穏やかな顔を一変させ、声を低める。

「…余に新党朝に屈せと申す不忠の舌を、いますぐに抜けい。」

一瞬の間。命令一下、青州刺史八戸なおまさは衛兵によって舌を抜かれ、処刑された。

「青州刺史の座は、八戸まさつねが引き継げい。」
「…よいか。本朝の四百年は、余の代で八戸家が引き継ぐことになろう。」
「志半ばで道が潰えることになれば大逆の謗りは免れまいが、」
「一国を取ってしまえば既にそれは英傑である。」
「学徒出陣は軍神の異名をとる戦上手だが、政治に疎く、また女には滅法弱い。」
「その弱点に付け込めばわが天下は目前であるが…なおよしの後を追いたい者はおるか。」

周囲を威圧しながら滔滔と革命を語るのぶながに反論できる者がいるはずもなく、
全会一致で八戸家の方針が決定された。


287 :無名武将@お腹せっぷく:2008/01/15(火) 18:17:38
訂正

× 一瞬の間。命令一下、青州刺史八戸なおまさは
○ 一瞬の間。命令一下、青州刺史八戸なおよしは



第五節


「それにしても…のぶなが殿、学徒は今現在も数多くの美女を囲っておりまするが、」
「完全に国を傾けるほどの堕落はしておりませぬ。後宮の側室を遥かに凌ぐ美女を探すとなれば…」

主君の威容がやわらぐのを待って、そう提言する八戸まさよし。
それに答えて、のぶながは不適な笑みを浮かべながら口を開いた。

「お主らは知らぬであろう。冀州には張春華が逗留しておるとな。」

その言葉にどよめく政庁。張春華といえば、かつて学徒にただならぬ寵愛を受け、
一族の張春房、張孟達を外戚として政治に参画させたばかりか、
伽羽波の変(きゃははのへん)を契機に自ら三戦皇帝と称した女傑である。
栄光は長く続かず、反対派によって一族もろとも宮中を追われる身となったが、
学徒が今でも張春華を恋い慕っていることは暗黙の了解だった。

「あの女狐め、再び三戦皇帝への即位を手伝うと申したらすぐに了解をしてきおった。」
「後は冀州に傾国の美女ありとの風聞を八方に流し、学徒が食いつくのを待つのみだ。」
「はははは…今しばらく甘美な夢の中で踊るがよいぞ、皇帝陛下。」

こうして、八戸の手の者は首都洛陽に忍び込み、各所で美女の噂を流し始めた。



第六節


洛陽。功臣の封建後、学徒は徐々に政治への介入を控えるようになっていた。
その様子を侍従の報告で知ると、小魔玉は端整な顔に笑みを浮かべる。

「それでいいのだよ。陛下はひとえに象徴としてご健勝であらせられればそれでいい。」
「皇帝は執政ではなく、祭りの牛であるということを…少しずつお分かりくだされば嬉しいね。」
「そうであってこそ、私も丞相を引き受けた価値があるというものだよ。」

…彼が忠誠を誓うのは新党朝ではなく、厨国そのものであった。
厨国の安寧のためであればいかなる無法も厭わない姿勢は後に
ひょーりみの天下取りに莫大な恩恵をもたらすのだが、それはさておき。

「何ぃ!? 冀州に絶世の美女がいるだとォ!? おい、早く車を用意しろ、ボケ!」

八戸方の流した風聞が耳に入るやいなや、学徒は冀州への行幸を決断する。
群臣の諫言を振り切って冀州へ入り、八戸のぶながと会談するとすぐに噂の美女を入室させた。

学徒「し…春華…ッ!」
張春華「陛下…ああ、陛下、お会いいたしとうございました!」

八戸の計略は図に当った。学徒は張春華を再び側室とすると贅沢の限りを尽くし、
心ある臣下は不敬罪の名のもとに粛清されていくことになるのである。



第七節



『学徒は無能だが昏君ではない。』誰もが抱いていた認識は、
彼が張春華を娶って以来、瞬く間に音を立てて崩れていった。

「学徒陛下!…民草は明日の食を得ることすらままならず、餓死者の数は計り知れませぬ!」
「どうか税を減らしてくださいますよう、切に嘆願申し上げます!」

血の涙を流して叩頭する朝倉渦中を前にしても、
学徒は恍惚とした表情で隣に侍る張春華の顔を眺めてばかりいる。
呆けた学徒に代わって、口を開いたのは張春華であった。

「ふふ…おばかさんねえ…米や麦がないのなら、お肉を食べればいいじゃなぁい?」

現状をわきまえない発言に憤った渦中は学徒に向かい、さらに一喝する。

「…この朝倉渦中、失望いたしましたぞ! 数ある忠臣を顧みず、」
「女狐張春華と贅の限りを尽くし、お家の財も食いつぶすばかりか民草から搾取するとは!」
「昔の陛下はどこに行かれたのか! 目を覚ましてくだされ!」

これには学徒も堪えたと見えて、後悔の念を顔に浮かべるが、いかんせん張春華が一枚上手であった。
彼女はそのガラスのような目に涙を浮かべ、声を震わせて学徒に泣きついた。

「ひどいわ…女狐だなんて…ああっ、私がいけないのね! 私の過去がいけないのね!」
「私がむかし…あんな恐ろしいことをしたから…全部…私が…」

学徒は美しい泣き顔に惹きつけられたのも束の間、憤怒の形相すさまじく朝倉に向き合うと

「てめえ…春華を侮辱するのは俺を侮辱するのと同じだろうが! 死ね、死んでしまえ、ボケ!」

「ああ、新党朝も終わった。」小さなため息とともに諦めを受け入れ、朝倉渦中は獄に繋がれた。



第八節




その翌日。刑場に引き立てられた朝倉渦中を、群臣はさまざまな思いで見つめていた。
忠烈ぶりに感じ入る者。処刑を惜しみ悲しむ者。無残な最期をあざ笑う者。
そんな衆目を一切顧みることなく、渦中は歩みを進める。

渦中「…ははは、炮烙ですかな。恐縮に存じますぞ、はるか殷代の刑罰をご用意になるとは。」
学徒「ふん、てめえのような不届き者は、このぐらいしないと分からねえだろうからな。」
渦中「それでは、ひとあし先に業火に焼かれて参ります。陛下のご到着をお待ち申し上げておりますぞ。」
学徒「減らず口を…早く行けや、ボケ!」

こうして、新党朝随一の忠臣とうたわれた朝倉渦中はむなしく帰らぬ人となった。
丞相小魔玉は一部始終を見ると、涙を流すこともなく頭をめぐらせる。

「そういえば、江南の統治には綻びが生じているという報告があったね。」
「すぐさま官憲を送って風紀を糺そうと思っていたが、やめておいたほうがよさそうだ。」
「新党朝には、もはや厨国の安寧はもたらせまい。そうなれば、希望の芽は残しておきたいものだから。」



第九節


学徒が日一日と堕落していくなか、圧政下の益州では相変わらず不満が募っていた。
没落したとはいえ官吏の子息であるひょーりみ、教養のある異国人ザビエル、
郡の顔役の子息である果物キラーはいつしか声望を集め、民衆に慕われるようになる。
酒場では、この日も三人を中心とした会合が開かれていた。

果物キラー「ったく、愚痴の言い合いに始終してんじゃねえよ。グダグダだろ。」
ひょーりみ「仕方ないよ。何か対策があれば、とっくに動いてるでしょ?」
ザビエル「…決起のみは避けたいものです。勝ち目はございませんし、人が死にすぎますな。」
ひょーりみ「お酒でも飲もうよ。喉が渇いてイライラしてたら、浮かぶ案も浮かばないよ。」

会合は踊る、されど進まず。このまま無為に時だけが流れていくかと思われたその時、
この場にはあまりにも似つかわしくない、一人の身なりの良い紳士が戸を開けて入室した。

「失礼。ああ、警戒なさるな。私は官吏だが、近頃声望高き御三方と腹を割って話したいのだ。」
「…私も男だ、疑ってくれるな。ほら、私は丸腰で君たちの輪の中にいる。」
「もしも私によからぬ考えがあると思うなら、すぐにでも斬ってくれ給え。」

そう言って酒場の中で手を上げて戦意のないことを示す紳士。それでも訝る者もいたが、
「この人は信用できるよ」というひょーりみの一言で場の空気は柔らいだ。

話によると、その紳士の名はクマッタといい、この広漢郡の太守をしていた。
良心を持ちながら、監視の目のために方針を転換できないことを詫びると、
彼はひょーりみに一つの依頼をする。

すなわち、監視の目にとまりにくいひょーりみに洛陽宛ての書状を運んでもらい、
朝廷に孔明の政治の不手際を報告してほしい…そう熱弁を振るうに及び、ひょーりみはこれを快諾。
クマッタの紹介状を携え、ザビエル、果物キラーとともに一路洛陽を目指した。



第十節


洛陽への道中。人の世は乱れているとはいえ、花鳥風月の美しさは変わらない。
三人はふと立ち寄った渓流で魚を釣り、腹ごしらえをすることにした。
ひょーりみ、果物キラーが二尾、三尾と魚を釣り上げるなか…

果物キラー「ザビエルはまだ釣れてねえのか…ちと下手すぎるんじゃねえの?」
ひょーりみ「というか、ちゃんと糸に針は付けた?」
ザビエル「あ…どうやら忘れてしまったようです。」
果物キラー「おいおいおいおい、他のことは何だって上手くやっちまうくせによ。」
ひょーりみ「仕方ないな、僕の魚を一匹あげるよ。」
ザビエル「ありがとうございます。。。」

このように途上は和やかなものであったが、彼らの足取りは洛陽に近づくにつれて重いものとなった。
都の惨状を目の当たりにして改めて世を嘆いているうちに宮城にたどり着くと、
彼らはめいめいに言葉を交わした。

「綺麗なお城だね。外の世界が嘘みたいだ。」

「お気をつけなさいませ。道中のことを鑑みれば、クマッタ殿の洛陽に対する認識は」
「いささか古きものになっておりましょうことは明らかでございますから。」

ザビエルの言葉にうなずき、ひょーりみは気を落ち着けると、門衛に紹介状を渡した。

「広漢郡太守、クマッタ殿の名代として参りました。舎人のひょーりみと申します。」