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   序章  都会の一角、住宅地に埋もれるようにして、緑の蔦生い茂る廃墟は普段誰もいない場所だった。幾度となく小学生が此処を秘密基地にしようと乗り込んできたが、あまりの不気味さに退散してしまうほど。周りにネオンや乗用車の光が飛び交うことはなく、廃墟の中は深海の底のように静まり返った暗闇が無限の空間を思わせるように広がっているのだ。いずれかそこは「無限空間」と呼ばれるようになっていた。  ある夜、そんな廃墟に一人の少年がやってきた。懐中電灯を片手に怖がることなく、すたすたと中に入っていく。中は相変わらず真っ暗で、懐中電灯の光によって照らされた壁は色様々な落書きがたくさん見られた。非常に下品な言葉が綴られている。少年はそれを無視し、どんどん奥へと進んでいった。  一階は主に使い物にならない机や椅子が散乱し、少年の目に留まるような特別な物は見られなかった。ただ山のような残骸が少年の行く手を阻む。彼は舌打ちをし、残骸を乱暴に蹴散らしながら二階へと続く階段へ向かった。額の汗は溜まっていくばかりだ。  やっとのことで錆びだらけの階段を発見し、彼はとんとんと軽快に上っていく。あと数年したら、この階段も使い物にならなくなるのだろうが。後ろを振り返ることなく二階を目指す。  階段を上がりきると、そこには殺風景な空間が広がっていた。一階に比べて落書きや残骸が少ない。所々壁に穴が空いており、そこからやわらかな月の光が差し込んでいるので懐中電灯をつけなくても中を見渡すができた。今まで無口だった少年が口を開く。 「テメェがそこにいることはわかってんだよ。こっちから来てやったんだから、有り難く思いな」  まだ声変わりしていない彼の高い声が廃墟全体に響き渡る。すると陰から何者かが無言でこちらに向かって歩いてきた。黒のパーカーに紺のジーンズ。染めたであろう短い金髪の男だ。この服装では姿が見えなくて当然である。少年は目の前にいる男を見ながらニィ、と笑みを浮かべた。 「オッサンかと思ったら若僧かよ。ま、俺も人のこと言えねぇけどな。それに、テメェだけじゃねぇんだろ」  少年が男とは違う方向を指差す。そこには古びた棚のようなものが置かれていた。 「ぜーんぶお見通しなんだよ。コソコソしてないで出てきな糞野郎ども」  男の仲間だと思われる三人の男が、棚の後ろからのそのそと出てきた。皆黒い服装で、陰から少年を襲うつもりだったらしい。彼らがつけているアクセサリがチャラチャラと音を立て、少年のイライラ感をそそる。 「ったく、女でもねぇのにチャラチャラしやがって。俺は姑並にしつけぇぞ」  男達が一斉に少年に向かってそれぞれの武器を向けた。斧、包丁、鉄パイプ。実に様々である。しかし少年はそれに臆することなく、懐から不思議な物を取り出した。  金属の棒を環状の鎖で繋いでおり、先は鋭く尖っている。中国武術、軟器機の一つである九節鞭である。 「いい加減、目ぇ覚ませよ」  九節鞭が宙を舞った。     

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