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 ねえ君。学校って楽しいところだったかい?
 え? 楽しかったって? ああ、なるほど、そうかそうか。友達と会えるからね。因みに僕は楽しくはなかった。なんでかって? そりゃ勉強が嫌いだからだよ。なんてったって群を抜いた落ち零れだからね、僕は。
 …うん、まあその辺の議論は置いておこうか。今日はそんな話をしにきたわけではないんだよ。
 ちょっと面白い事があったんで是非紹介したいなと思ったんだ。まあ、今の質問から察してると思うけど、ある学校の事でね。これがまた、個性的な奴揃いで面白いんだ。
 …うん? 御託はいいから聞かせろって? …君はせっかちだな。何事にも前ふりは重要だろう。……まあいい。たしかに君の言う通りかもね。僕は話が長すぎるきらいがあるらしいから。
 それじゃあご要望にお答えして、お話を始めようか。
 ある学校の、番長のお話を。






番長騒乱日記





 学校という組織。
 そこは、学生達が楽しい日常を送り、勉学に励み、そして青春に勤しむ場所である。基本的に平和な場所であるはずではあるが、しかし、全くの平和、と言うわけではなかった。何事にも例外がある。
 そして更に、『番長』の称号が、この学園には存在していた。その称号は受け継がれる。上級生から下級生へと綿々と、一時も欠けることなどなく。そして今代は今年の始め、先代よりその称号を受け継いだ。
「おいお前達!そこをどけっ!」
 どことなくあどけなさが残る声が鋭く響く。その声を向けられた当人達が反応して周りを見回す。しかし、声をかけたであろう相手が見つからない。結局空耳だったのだろう、と結論付けてまた喋り始める。
「…どけって言っているだろう!!廊下の真ん中、人の邪魔になるところで話しているんじゃないっ!!!」
 先ほどよりも強い声。男達は再度周りを見回して、ようやく気がついた。
 自分達の目線が向いていなかったすぐ下に、不似合いな学ランを羽織った小さな彼女がいた事に。そして自分達が、彼女の覇道を塞いでいた事に。
「すっ…すいませんでした!?」
 それを視認した途端、男達は脱兎の如く駆けて去っていく。しかしその判断は正しかった。きっとあと三秒立ち去るのが遅ければ、彼女の蹴りが炸裂していたであろう。
「ふん………」
 つまらなそうに鼻を鳴らすと、周りが恐れているのを気にもせずに歩き始める。その姿は、この学園にあってとても小さく見える。しかし、これ以上ないくらいに可愛らしい小さな姿。
 藤崎竜乃。
 それが、今代の番長の名であった。



「見た目はめちゃくちゃ可愛いけど、中身は鬼だとしか思えない」
 この学園で藤崎竜乃の事を聞くと、大抵の人間がこう答える。女子男子関わらず、殆どの人間が。そんな彼女に相応しく、伝説は数多く存在していた。

 学校に入ってから、一日も喧嘩を吹っかけなかった事が無い、とか。

 校長相手に啖呵をきったばかりか蹴っ飛ばした、とか。

 生徒会長をシメた事がある、とか。

 現在彼女は10人の男と付き合っている、とか(大嘘)。

 嘘なのか本当なのかも判然としないものがもうわんさかと。数える事も出来ないくらいの噂の数。それはまさしく彼女の知名度を物語っていた。
「うをぉぉぉ!?ヤベぇ番長だ、道開けろ道!」
 竜乃が廊下に現れ出ると、周りの人間がざわめきながらも一斉に道を開ける。綺麗に真っ二つ、モーゼの海状態だった。彼女はその道を気持ち良さそうに歩く。その後ろには、彼女の腹心とも言える存在、富田有香がピッタリとついていた。彼女自身も色々と噂があったりするのだが…まあ今は省く事にする。
「竜乃さん、今日はどうするんですか?」
 そう問いかける彼女に、後ろを振り返りもせずに答える竜乃。その顔には、花道状態の道を歩いている事への年相応の喜びが表れていた。やはりそのあたり、やはりまだ子供か。
「取り敢えず予定はなし。あとで黄太にでもなんか買ってこさせましょ」
 黄太というのは数多くいる彼女に阿ろうとする男ではなく、彼女専用の使いっ走りのような青年だ。顔は悪くないのに――実際双子の片割れ蒼太は学園内でもかなり評判である――気が弱いために使いっ走りの憂き目にあっている。もっとも彼自身彼女に使われるのはまんざらでもなかったりするのだが。
「やべぇ、オイ煌麒どけってお前!」
「あぁ?」
 彼女が気持ちよく前を歩いていると、唐突に目の前を塞ぐ壁が現れた。実際それは背の高い男だったのだが、彼女はあまりにも突然だったのとその身長差とで壁を目の前にしたような錯覚に襲われたのだ。突然だった故に混乱してしまい、思わず『番長』らしからぬ悲鳴を上げてしまう。
「きゃあ!?な…何…!?」
 跳ね馬の如く荒れ狂う心臓を片手で押さえつつ、彼女の覇道を塞いだ人物を見やる。身長が高く、正に彼女にしてみれば天を仰ぐかのような気持ちになっていた。
「……あぁ?オイ龍介、何がヤバイんだよ?」
 龍介、と呼ばれたどこかフランクな風の生徒は、彼の――煌麒の後ろを見やって顔を引きつらせる。
「いや…ね…?後ろ振り向けばわかるんじゃないかなぁ、と」
 そんな龍介の言葉に首を傾げながらも言う通りにし、煌麒は後ろを振り向く。そして数瞬の後、竜乃の事を見つけた。しかしそれでもまだ、彼は首を傾げる。
「…あぁ?この女の子がどうした?」

 ビキッ。

 確かにそう、音がした。
 それは、番長たる彼女の額が、プライドが立てた音。この学園に在籍していながらも己を知らない人間がいるなどと、それはこの上ない屈辱であるように思えた。少なくとも、番長になってから今までは無かった。
「私が今代の『番長』、藤崎竜乃だぁぁぁぁ!」
 そう大きな声で名乗りを上げると、靴を履いた踵で煌麒のつま先を思いっきり踏み抜……こうとしたのだが。
 煌麒は素早くそれを察知し、足をひょいと後ろに引く。勢い余った竜乃の足はもう自分では止める事も出来ず、そのままコンクリートを踏み割らんが如き勢いで床へと突き刺さった。勿論比喩だが。
「~~~~!」
 彼女の渾身の力を篭めた足には、物理で言う所の作用反作用の法則のお陰で己の力の分だけ衝撃が帰って来る。しかもぶつかったのが人体のように柔らかいものではなく、硬いコンクリートの床。その痛みたるや、その身に虎を飼うとまで言われた彼女に無声の悲鳴を上げさせるほどであった。
「……で、何?この女の子が番長なのか?長内じゃなかったのか?」
 痛みに呻く竜乃を少しだけ哀れむような目で見ながら暢気にそんな事を言う彼。
「……お前、ホントそういう事に興味ないのね。今年の初めくらいに変わったんだよ。長内が譲ったの」
 長内、とは先代の番長にあたる長内朱実、という人物の事だ。因みに今も在学中。何故譲ったのかはわからないが、本人曰く飽きたとかなんとか。そして煌麒とも少し面識があったりした。
「……うぅ…痛い……」
 あまりの痛みに蹲って呻く竜乃。少し龍介と会話している間にとても哀れを催すような状態になっていた。
「悪い、大丈夫か」
 こんな時にまでぶっきら棒な煌麒。本当は違うのに、こんなんだから人が逃げんだろうがこの野郎と龍介は思ったが口には出さない。仕方のないことではあるし。しかし、やはり普通に見れば単なるぶっきら棒なわけで。そしてそんな彼に対して竜乃が頭にきてしまうのも無理からぬ事であった。
「…有香……もう…やっちゃいなさいっ!!!」
 ビシィっ!と煌麒と龍介を指差す。龍介は「え、俺も!?」などと言っていたが竜乃はそのような瑣末事を一切無視。実力行使を命令した。


 それも、とびっきりの最上級。


「…いいのですか?別に何かしたわけでは…」
「いいっ!許すっ!!!」
「…はい」
 その言葉の刹那、富田有香という少女の輪郭が歪んだ。最初はなにか陽炎のようなものが彼女の周りに立ち上ったかに見えたが…しかし次の瞬間それも間違いだと知る。
 彼女自身が歪んでいたのだ。
 姿が、存在が。揺らめき別の姿へと変わっていく。
 その体は巨大に、長大に。その腕は鋭利に、危険に。そしてその顔は鉄仮面に、無表情に。
「……デジモン…だぁ…!?」
 彼らが驚嘆の声を上げたときには、既にもう別の存在になっていた。
 デジモンの中でも、至高の到達点とも言うべき究極体。その究極体であり、天使の中級三隊が一、能天使型デジモン――スラッシュエンジェモンに。
「有香!やっちゃいなさい!!」
「……殺さない程度に、ですね?」
「当然!」
「……御意に」
 それだ言うと、表情のわからない顔を煌麒と龍介に向ける。その瞬間、煌麒は真っ先に、こう言う事態になれている龍介までもが一目散に駆けて逃げ出した。その様を見て有香はちらりと竜乃のほうを向く。すると、その顔にはもういいと、満足げな表情。
 その表情を見て、有香はすぐに普通の姿に戻った。どういうわけか、服は破れていない。
「…これでまた、私の名前が学校に鳴り響いたわね!」
 この時ばかりは足の痛みも忘れ、酷くご満悦な竜乃であった。
 なんかとんでもない事で広がっているような気がしないでもないが、それは気にしてはいけない。




「……番長~~!飲み物とお昼御飯購買でかってきました~!」
 彼女が占領する、というより代々の番長専用室に、そう言って駆け込んでくる顔だけは中々いい男の子。この彼が、先述の柚木黄太である。両手には袋にいっぱいのペットボトルと袋菓子。
「ありがと、黄太。いつも奢ってくれて助かる!」
 その寸前まで笑みが支配していた彼の顔が一転、げんなりとした顔になる。疲れたような放心したような。
「……奢り…またですか……」
 無意識なのだろうか、財布の入っているポケットに手を伸ばしていた。
「…嫌……?」
 必殺!小悪魔フェイス!!
 目元に薄っすら涙を溜め、眉根を哀しそうに歪める。そして首を僅かに傾げてターンエンド!その威力はチタン並みの高度を持つ心でも易々と貫き通し、溶かし、蒸発させてしまうという…!
 そして、そのチタンをも溶かすという絶大な効果から黄太は逃れる事ができなかった。当然といえば当然なのだろうが。
 多分、黄太の竜乃に対する心の防御壁は多分水銀ぐらいの融点だろうから。要するに既に溶けてるって事。
「いえ!そんな事ないです!!番長に奢れる事が出来て幸せです!もーいつでも奢って差し上げます」
 その瞬間、小悪魔であった表情が悪魔の笑みへと取って変わった。それを見て、黄太は自分が嵌められたことに気がついたが、時既に遅し。
「ホント!?じゃあ今度レストランでお昼奢って! そうね、明日は休みだから明日!」
 それを聞いて、黄太の顔が引きつる。そして口をパクパクと動かし……そして目から涙を零す。しかしすぐに体を反転させて。
「ふ、不幸だぁぁぁぁぁぁ!!」
 …と、どこぞの『幻想殺し』よろしく駆け出していった。そんな様子を見て、竜乃は腹を抱えて、有香も口を押さえて静かに笑っていた。
 どうやら、彼のこの様子が見たかっただけらしい。
「あははははははっ!黄太最高!!!アイツからかったら最高に面白いわ!!!あははははは!」
「そ、そんなに言ったら柚木さんに失礼ですよ、竜乃さん」
 そう言いつつも、彼女の顔も笑っているのであまり説得力がなかった。そうしているうちに何が可笑しかったんだかわからなくなるというどつぼに嵌り、二人とも暫くの間は笑い続けていた。
 そして、ひとしきり笑い終えた後、2人は黄太が買ってきてくれた御飯を食べる事にした。とりとめもない事を楽しく話しながら。とても『番長』といわれる彼女には似合わぬ一面であった。
 そうこうしているうちに、昼休みの終了を知らせる予鈴が鳴り響く。
「あー…ちょっと遊びすぎた……早く戻らないと!」
 喧嘩を吹っかけたりする彼女にしてはかなり考えられない発言。これでも彼女は真面目なのだ。そうして焦る彼女に、有香も頷いた。
「ええ、そうですね。私達が遅れては話になりません。急ぎましょう」
 そう言うと再び有香はスラッシュエンジェモンに変化。そして竜乃を抱きかかえると、猛スピードで廊下を駆けていくのだった。



「…さてと…そろそろ今日は帰りましょうか」
 日も傾き橙色の優しい光が窓から差し込む放課後、有香やその他手下達と集まって不届き者の成敗に勤しんでいたのだ。その最中、五時の鐘が鳴ったのを聞いて竜乃はそう言う。この学園では、部活に属してないものは五時十五分が完全下校の時刻と定められている。如何に番長といえど――否、番長だからこそその決まりを破るわけには行かないのであった。
 一端、竜乃は全員を振り返った。その途端、その場に居た男や女――総勢二十数名か――がビシッと背筋を整える。彼女の統制力は絶大だった。
 その様子を竜乃は睥睨し、そして満足げに頷く。どうやら全員キッチリ揃っていた事に感動と共に満足感を覚えたらしい。
「それじゃ、今日は解散。また明日、朝早く集まるように――散!!」


「「「「「押忍!」」」」」


 全校のまだ残っていた生徒が思わず振り向いてしまうような声、否、怒号と言った方がピッタリなのかもしれない。とにかく、部活をやっていたものまでもが一瞬思わず動きを止めてしまうような声であった。
 その声と同時に、全員が全員猛スピードで散っていく。
「……毎度思うんだけど。こんな忍者なんかみたいに変える必要あるの?」
「………さぁ…言われてみればどうしてでしょうね…?」
 その素朴すぎる疑問には唯一傍らに残っていた有香も首を傾げる。彼女はまだ番長が先代の長内朱実であったころからこの場にいるが、昔からそうだったと有香自身は記憶している。
「お姉様に聞けばいっか」
 因みにお姉さま、とは先代番長長内朱実のことである。竜乃と朱実は個人的に親交があり、竜乃はお姉さま、と朱実は彼女の事を竜乃、と呼ぶ。
「…そうですね。先代なら何か知ってるかもしれません」
 ふと浮かんだ疑問だったが、ひょっとしたら結構謎めいたことだったのかもしれない。
 夕日をバックに学ランを風に靡かせている竜乃。一枚の絵のように美しいポーズをとりながら、頭の中ではそんなどうでもいい事を考えていた。




 翌日朝。なんと八時前の時点で全員が揃っていた。始業まではまだ40分程度ある。凄い集合率、そして統率力だ。
 前に立つ竜乃は、妙に背が高い……と思ったらどこから持ってきたのかビールを入れておくプラスチック製のケースの上に立っていた。なんでこんなものが学校にあるのだか。きっとこれも七不思議とかいうやつだろう。多分そうではないけれど。
「よし!全員来たな!今日は恒例の全校巡回の日だ!!!歯向かう連中はドンドンのしてしまえ!」
 そこでまた、押忍、と威勢のよい掛け声が響いた。身振り手振りのついた威勢のいい演説だった。とても九歳には見えない。
「では隊長を振り分けるぞっ!!まず第一隊、返事っ!」
 やっぱり、押忍。
「第一隊は私だ、いいなっ!場所は高校校舎と本館だ!!では第二隊、返事っ!!」
 これも、押忍。
「第二隊は有香と黄太に任せる!!特別棟と中学校舎に行って来い!!第三隊、返事っ!!」
 また、押忍。
「第三隊は中村に任せる!!校庭周辺と中庭だっ!!いいなっ!!!これで配分は終了だ!頭に入れたか!!」
 押忍。
 どこの道場だよここは。
「ではまず第二隊、第三隊、行けっ!!」
 (略)という返事を大声で発すると、全員が全員緑の腕章を装着。そしてそのまま忍者のように散っていった。行動が素早い。
 それを見届けた竜乃は、演説台(単なるビールケース)から威勢よく跳ね下りる。
「では我々も行くぞ!!」
 その掛け声と共に自分の腕にも緑の腕章を装着。そしてそのまま、やっぱり彼女自身も素早く忍者のように高校校舎へと向って駆け出した。
 そのスピードは凄まじい。あっという間、本当にアッー!!とでも言ってる間についてしまいそうなスピードだった。けれど決して駆けているワケではない。とても不思議な光景だった。と言うかもうすでに怪奇現象だった。
「うぉ!?定期見回りだっ!!全員道開けろ開けろ!殺されるぞ!!!」
 竜乃に誰かが気がつき、そう悲鳴染みた叫び声を上げる。その叫びは瞬く間に人々の間を駆け巡り、あっという間に伝播した。そして廊下の端にビチっ!と並んでいた。
「番長!お疲れ様です!」
「見回りご苦労様です!」
「きゃー番長だ!!こっち向いてー!!」
「今日も可愛いよ番長ー!!」
 ……等等様々エトセトラ。そんな声援が竜乃を取り囲み、竜乃も満更でもなくそれに手を振って答えながら。しかし目は鋭く何をも逃さないように光っていた。
 そして、見つけてしまった。彼女が番長を引き継いで以来最大の反逆者を。
「おいお前ら!!!」
 そう言って竜乃が指を指したのは廊下に座り込んであろう事か酒、そして口にはタバコを、さらには賭け麻雀をやっている連中だった。
「あ?なんだテメー?ってああ、チビ番長か。あの鼻糞サイズの!!」
 そう言うとゲラゲラと下卑た笑い声を上げる。それにつられて、周りの、恐らくは仲間も追従するように笑った。ビキっと額に罅が入りそうな音がしたがまだキレる時ではないと判断、なんとか堪えた。
「こんな所で何をしている!?麻雀にタバコ…あろう事かその上酒だと!?ふざけるなよお前ら!!とっとと片付けろ!!そしてそのままついてこい!!職員室に突き出してやる!!」
「あ?あんまチョーシくれてんじゃねーぞ、チビが」
 そう言うと、唐突に、本当に唐突に男は立ち上がると鋭い蹴りを竜乃に蹴りを入れた。すぐに部下達が助けに入ろうとするが、彼らの仲間に阻まれそれが出来ない。廊下という横幅が狭い場所である事が災いしていた。
 当然竜乃は蹴鞠の如く廊下を転がる。あまりの痛みに立ち上がることさえできない。
「…かっ…うっ…ぐぅ…」
 目には涙を浮かべ、お腹を押さえてうずくまる。
「おーおー、芋虫みたいになっちゃって。ホラもう一丁!!」
 また、蹴る。今度は背中、脇腹、尻。竜乃は痛みに声すら上げられない。ただ痛みに呻き、涙を流すだけ。口が切れたのか、廊下には血が流れていた。
「てめぇは何様のつもりだ?あ?番長だかなんだかてめぇに俺らを咎める権利があんのかよ?教師面しやがって!」


「あんたらこそ何様のつもりなんよ?」


 その言葉と共に、仲間の男が一人吹っ飛ぶ。
「…こんな小さい子を本気で蹴っ飛ばして…そんなあんたらこそ、何様のつもりだって聞いてんよ!!!!」
 怒号。その姿は、普通の女生徒のものだが、纏っている風格が違った。そして怒号の後一瞬とまっていた体がまた俊足で動き始める。
 また1人、1人。吹っ飛んでいく。どんどんどんどん。
「な…なんだてめぇ?!」
「あ…お姉様……」
 そう、その女生徒。それは先代番長、長内朱実のものだった。今、その顔は怒りに満ちていた。
「元はといえばあんた等の校則違反甚だしい行動を咎めただけ!!それをなんでこんな事をされなきゃいけないんよ!!久しぶりにマジギレした…あんたら全員、殺してバラして並べて揃えて晒してやんよ!!!!」
 その怒声と共に行動開始。竜乃を素早く左手で抱きかかえるとハイキックで男の顎を正確に打ち抜く。そのまま体を捻って半回転、踵を男の脳天に落とし、その勢いのまま右足で瞬時に踏み込み、右手を相手の鳩尾に叩き込む!!
 その行動が終わった瞬間、3人は同時に崩れ落ちた。
 僅か一瞬で3人を沈黙。これは正に――格が違った。壮絶に、絶対的に、完璧に、無慈悲に、完全に、圧倒的に。
「風紀委員、舐めるなっ!!!!」
 再度の怒号。残りの仲間はそのあまりの恐ろしさに振るえ、蜘蛛の子を散らすかのように逃げていった……否、逃げようとした。
「ハーイ君たち~?何逃げようとかしちゃってんのかな?」
 その先に既に回りこんでいたのは、ニタリと笑っている桃山歩。超絶的な運動神経を持ち合わせている(ただ1人を除いては)無敵な少年。その少年が、立ちふさがっていた。
「…マジかよ…!長内に桃山…!?先代の番長に…あの超運動神経の桃山…!?ありえねぇ……!」
 逃げようとしていた輩から上がる絶望の声。長内朱実が番長と呼ばれていた頃、その下で腕を鳴らしていた桃山歩。この2人で、数多の『反逆者』……もとい校則違反甚だしい者達を鎮圧してきたのだ。代が変わった今でも、その伝説は語り継がれている。
「よくもまぁいかに番長とは言え小さな女の子を蹴ったりするもんだなぁ、ええ?…その上てめぇら風紀委員に手ぇ出したんだ…覚悟しろ、逃げられるなんて思ってんなよッ!!」
 風を纏って歩が進む。反射的に身を翻そうとした男達は、その先に長内朱実が居る事に気がつき硬直する。その硬直を、歩が逃すはずもない。
 右の掌底で1人の顎を打ち、その反動でがら空きになった鳩尾に正拳突き、そのまま振り返らずに打ち出した肘は相手の側頭部へと見事に決まるっ!
 更にそのまま体を反転、ステップを踏みながら爪先が霞む速さで蹴撃!爪先は綺麗に鳩尾に入り、男はそのままあまりの痛みに悶絶する事すら出来ずに床に崩れ落ちる。
「ふぅー、雑魚すぎっ。雑魚が集っていきがってんじゃねーっての!」
 また、ニタリと笑う。その笑顔は傲然としていて、彼の強さがそれだけでもよくわかるというものだった。
「番長…風紀委員長に手出すなんて…とんだ痴れ者もいたもんだね!」
 そうこの学園で言う番長とは、朱実が言うように、風紀委員長の事、なのであった。




「竜乃、本当に大丈夫?」
「ええ、大丈夫ですよお姉様。助けてくださってありがとう御座います!」
 手当てをしてくれた朱実に満面の笑みで竜乃は微笑む。それを見て、朱実も仕方なさそうに笑った。取り敢えず、大怪我はしていなかったようで安心だ。
「それにしても竜乃…頑張ってるんね!感心した!!」
 その言葉に、竜乃はとても幸せそうにほほ笑んだ。憧れている姉貴分から褒められた。なんだか無性に嬉しくて、つい年相応の笑みを浮かべた。
「仕事熱心なのはいいけど、無理しちゃだめ。いい?」
「はい」
 素直。これも普段では有り得ない。お姉様の言葉だと効き目も違うらしかった。
「でも、立派にやり遂げてるみたいね?…大変、役目は?」
 風紀委員、というのは意外にも仕事が多かったりする。今日のような見回りや、注意、学園祭などでは警備も担当する。
「大変だけど…頑張ってます!有香も支えてくれてるから」
 その答えに、朱実は満面の笑み。そして、幸せそうな笑みを浮かべている竜乃の背中をたたいた。力強く、励ますように。
「よし!これからも頑張れ!!」
「はい!!お姉様!!」



 その後。
「こらー!!待てっ!!」
 部下を引き連れ、学校中の不届き者を成敗するために駆け回る竜乃。
「……ふふっ」
 竜乃は駆け回りながら小さく笑う。今こうしている自分。朱実から仕事を引き継ぎ、それを日々こなしている……ちょっと空回りな感があるかも知れないが。
「有香、行って!!」
「御意!!」
 そんな毎日が満ち足りた学校生活。
 なんと、やりがいのある事か!


 日々の責務をこなす竜乃の声。
 元気でどこかあどけなさの残る声が、今日も力強く響き渡る。


【了】








※※※
後書き。



 お読みくださり感謝いたします。担当お題は『番長』。難しいお題でしたが、それなりに書けたと思います。
 少々解説みたいなものを。
 実は一回も、番長=平和でない原因、とは言ってないんですね。そこはちょっと狙って書いたので、嵌っていただけたならば幸いです。
 キャラが非常によく動いてくれました。特に後半。竜乃、そして朱実は動いてくれやすかったです。
 最後のほうの台詞の「殺してバラして並べて揃えて晒してやんよ」はご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、西尾維新氏の戯言シリーズの登場する殺人鬼、零崎人識の台詞を借りさせていただきました。あまりにもピッタリだったので。いや、別に朱実が殺人鬼なわけじゃないですけど。
 そして風紀委員なのに、歯向かう者、というのは、要するに風紀を乱す行為を注意されたのに反抗したものって事ですな。この風紀委員、実力行使OKですので。


 さて、今回は早くも話すネタがなくなってきました。では、お決まりの言葉を言うとしましょう。
 他の方々の作品を読まれたみなさん、いかがでしたか?
 そして私のを最初に読んで下さった奇特な方。他の方々の作品も是非お読みください、きっときっと、とても素晴らしい物語が貴方を待っています。

 では、この辺で。またお会いしましょう。湯浅桐華でした。