こなた×かがみSS保管庫
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こなた×かがみSS保管庫
ja
2024-03-10T23:34:46+09:00
1710081286
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初めてのデート【エピローグ】
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初めてのデート【エピローグ】
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「ねぇ、なんで今日の待ち合わせは私んちの前だったの?」
朝からずっと疑問に思ってたことを聞いてみる。
「なにを今更~。もう何でもいいジャーン?」
よくないわよ。めっちゃ気になる…。
夕暮れ時。
私たちは燃える日の下、歩いていた。
もう、帰る時間になっちゃったから。
青空だったキャンバスが、オレンジに染まっていた。
長かった特別な日が、終わろうとしていた。
カラスがないていた。
…少し、寂しいな。
「それより、…1つお礼言わしてよ、かがみん」
え?何のよ。
「何のお礼よ?」
本当になんだっけ…?
「時間間違えたの…許してくれて、ありがとう」
…そのことか。
もう全然気にしてないのに。
そうゆうちょっとした所までちゃんと言うのよね。
ちょっと恥ずかしいけど、言った。
「あたりまえじゃない。…私はあんたの恋人なのよ?」
恋人。
何度口にしても恥ずかしくて。
だけれど、言うと幸せをくれて。
ちょっとだけ、切なくて。
優しくだって、なれちゃうんだよ。
寒い日だって、暖かくしちゃうんだ。
言うと、こなたは柔らかな笑みを私にくれた。
また、心がさらわれてゆく…。
そろそろこなたの家につく。
行きが私の家に集合だったから、帰りはこっちで解散になった。
やだな。終わってほしくないよ。
この道が永遠ならいいのに。
ずっとずっと、続けばいいのに。
今日のことを思い出す。
長いようで、短かった。
今日が来るのをを待ってた時間は、あっと言う間だと思ってたけど、長かった。
欲しかったものは、すぐ終わってしまうものなんだね…。
こなたの家までもう少し。
こなたと来た道が遠くなってゆく。
もっともっと、続いてよ…。
…でも。
この道が終わっても、私たちの道はまだまだずっと続くんだ。
時には、喧嘩するだろうけど。
笑いが絶えない、そんな気がする。
なぜかはわからない。
根拠なんて、ない。
でも、そんな気がするんだよ。
涙がこぼれ落ちるかもしれない。
心が、裂けてしまうような時がやってくるかもしれない。
不安はたくさん、あるけれど。
横をみれば、あなたがいて。
あなたがまた、優しさをわけてくれて。
笑顔を、幸せで届けてくれる。
愛を、くれる。
あなたは私を強くしてくれるんだ。
遠く先はまだ見えない。
登り坂ばかりかもしれない。
落とし穴があるかもしれない。
でも。
ずっとずっと、歩き続けたい。
ずっとずっと、手を繋ぎだい。
愛しき、こなたと。
永遠に、彼方まで。
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帰路に就いた、私たち。
長かった特別な日が、終わろうとしていた。
夕日に照らされ、のびた影が後をついてくる。
「もうこの辺りだし、大丈夫だよ」
本当はもっと一緒にいたかったけど、あんま遅いと危ないからね。
この夕日が闇にかき消される前に帰ってもらわなくちゃね。
「…最後に教えてよ、なんでうちの前だったのか」
まだ聞くのか。
本当に知りたいんだろうな。
…仕方ないなぁ。
いいよ、教えるね。
他ならぬかがみの頼みなわけだしね。
「別にたいした理由じゃないよ~?」
「いいから。教えてってば」
ちょっぴり恥ずかしいけど。
「かがみの家からなら…かがみと一緒の時間が増えるじゃん…?」
きょとんとした瞳。
「…それだけ?」
「それだけだよ…期待はずれ?」
「…ぷっ!あはははっ!」
な、笑い出すのか!
「ひ、ひどいよ~笑うなんて~…」
「ごめんごめん、別に馬鹿にしてるわけじゃないのよ?」
してるでしょ。
「でもそれってこなたの家でもよかったんじゃ…?」
「まあね。でも…かがみに1人で歩かせたくなかったから…。」
これ、本音だからね?
帰り1人にしちゃうけど、今なら淋しくないよね…?
かがみの瞳が、オレンジに染まる。
かがみの顔が、愛しさを秘めた笑顔に変わる。
燃える空の下、かがみが私に近付く。
影が、重なる。
…抱き締められた。
「こなた…だいすき…」
愛しい声が、囁かれた。
今が、永遠に感じられた。
今が全て、そう思えた。
今日、かがみとデートできて本当に嬉しかった。
かがみと特別な時間、一緒にできて幸せだった。
かがみの恋人になれて、私本当によかったよ…。
かがみと今来た道を思い出す。
もっともっと、ながければよかったのに。
もっともっと、続けばよかったのに。
ずっとずっと、かがみと歩き続けられたらよかったのに…。
でも。
今、かがみはこうして抱き締めてくれていて。
温もりを、私にくれる。
そばに、いてくれる。
恋人で、いてくれる。
愛して、くれる。
道は長くなかったけれど。
ずっとずっと続かなかったけれど。
ここよりはるか、彼方まで。
私はかがみと、いてくれるんだ。
私はかがみと、歩くんだ。
ずっとずっと、まだ見ない先まで。
私も、かがみに告げる。
「かがみ…だいすきだよ…」
――ずっとずっと、一緒。
fin
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- 甘い…甘すぎる…最高だ -- 名無しさん (2024-03-10 23:34:46)
- GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-05-25 09:55:27)
- 甘い… &br()こっちまで幸せな気分になってくるよ… -- 名無しさん (2012-10-19 08:32:07)
- この恋ずっと続くと良いですね?永遠です♪ -- かがみんラブ (2012-09-15 01:03:38)
- 二人ともメチャメチャ可愛い!! 読んでるこっちまでドキドキが止まりませんでした &br()やっぱりこなかがはいいコンビですね☆ -- 名無し (2010-07-23 02:19:04)
- 初々しさ全開で二人とも可愛らしいですね。 -- 名無しさん (2010-07-21 22:41:40)
- 午前中はかがみが自分に自信を持つという点で、午後はこなたが苦手な雰囲気を克服するという点で成長してるんですね。GJ。 &br() -- マウス (2008-11-08 02:26:13)
- もう最初から最後まで、ず〜っと赤面せずにはいられないほど甘々でバカップルな2人を見てて、読んでる自分まで心が暖まりました☆ -- チハヤ (2008-10-31 08:07:52)
- 萌えた☆ -- 名無しさん (2008-10-28 15:00:09)
- ひたすらGJを連呼させていただきます &br()やっぱりこのカップルは最強ですね(o^-^o) -- にゃあ (2008-10-28 03:18:36)
- 初デートというシチュエーションでの、2人の互いを思いやる描写が &br()ずごく良く描かれており、とても楽しめました。 -- 名無しさん (2008-10-27 02:57:59)
- 作者様は本当にこなたが好きなのですね。 &br()私もです。 &br()読みながら終始ニコニコがとまりませんでした。 &br()そして最後にじわ~っと。 &br()良作をありがとう。 -- 名無しさん (2008-10-26 21:28:28)
2024-03-10T23:34:46+09:00
1710081286
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後日談的な何か (後編)
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/981.html
&br()
こなたはネットゲームをやりながら、ふと、今日の屋上での会話を思い出す。
私とかがみの愛情は一度、あの湖で行き着くところまで行き着いてしまった。お互いに出会うために生まれたと確信し、そしてこの世界でこの愛が認められないならば、共に死ぬ事をも選ぶほどの愛情・・・しかしいつまでもあのような激情のままに愛し合う訳にはいかない筈だった。人間は、その愛情を日常性の中に定着させなければならないのだ。
長年連れ添った夫婦がいつまでも激しい恋情を持ち続ける事がありえぬように、恋愛感情というのは時間と共に変質せねばならない。それが出来ない場合にこそ、物事は刃傷沙汰のような愁嘆場を見せる羽目になるのだ。
私とかがみの愛は、今はともかく、いずれは家族愛のようなものへ変わっていく筈で、そこでなお、激しかった恋愛感情の思い出を忘れ得ぬ者が、浮気へ走り、恋愛感情の幸福な幻想を求め家庭を破壊するのだ。いや、何も結婚したものだけではない、激しい恋愛感情自体が麻薬のように人に取りつき、熱が冷めた瞬間には次の恋愛、また次の恋愛、と飛び石を跳ぶように恋愛を繰り返し、その者は自分でも気づかぬまま自分の恋愛感情を愚弄する羽目になり、やがてはいかなる愛も築く事ができなくなるのだ。
私は当然そういう事は望まない。私は私が生涯で真に愛する者はかがみだけだと確信し、かがみのためにこの命を捧げようとさえ思っている。いや、幼き恋愛経験者は誰でもそう思うのかも知れないが、それでも私は・・・
しかしもし、今後、かがみが私に対して気持ちが冷めたと・・・あるいは、同性愛者として見られるのが嫌だと言って私と別れようというなら、私はそれに耐えなければならない。そこで問題なのは、相手を余りにも深く愛していた場合、それに耐えるのが極めて難しいという事なのだ。ましてや私は一度は・・・本音を言えば今でも・・・かがみに会うために生まれてきたと思った人間だ。それでかがみと別れたら、私は一体何のために生まれてきたのだろうか?
今日の屋上の会話・・・。
もし、かがみと別れたならば、そのあと、死を選ぶという選択がまず、ありうる。しかしそれがもしかがみの耳に入ったら、恐らくはかがみは傷つくだろう。かがみの繊細さを、私はよく知っている。
だから決してかがみの耳に入らぬよう、充分に時間を置き、どこか遠くでひっそり死ぬ、という可能性はある。しかしそれは、多くの困難を伴い、現実的に考えれば、私がどこで死のうと、いつかはかがみはそれを知るだろう、その原因は分からぬまでも、もしやと察する可能性は決してなくならないのだ。だから恐らく私に出来ることは、生きる意味を失ったまま、ただかがみを傷つけぬために、残りの人生を死人として過ごす事だけだろう。だから・・・。
かがみは今日、屋上で・・・
ふと、ネトゲに先生がサインインしてきた。
「よ、泉、元気かー」
「先生、今日はまた速いですね」
「まーな、たまにはこんな日もあるわな。ほんならちょっと狩りでもいこかー」
よし、気持ちを切り替えて頑張るか、と思ってキャラを歩かせていると、ふと、ななこ先生は私に言った。
「泉、お前んちに柊住んどるんやってな」
「先生、どこでそれを!?」
「あほか、担任が生徒の住所把握しとかん訳にいかんやろ。桜庭先生から聞いとるわ。ご両親から連絡があったからな」
私は先生が、何故かがみが泉家に住むことになったのか、その事情まで知っているかどうかを、まず疑った。そこまで、父そうじろうや、柊家の人々は明かしたのだろうか?
「なるほど・・・」
「そんでもやな、事情までは教えてくれんかったわ。一身上の都合っちゅー奴や。まあ教師としては、家族が明かしたくない事情なんか無理に聞けんわな。なんか絶対教えてくれん雰囲気やったっちゅー話やし」
案外簡単に、黒井先生はその手の内を明かす。こなたは少し考え、キーボードを打つ手を止めた。黒井先生の話は続く。
「ただやな、今は別に教師じゃなく、黒井ななこ個人として気になっとるんやけど、一体どうなっとんねん?ああ、別に無理に言わんでもええけど、私はこう見えて教師やからな、生徒が困っとるなら、力になるのも仕事のうちやとは思うとる。話したくなったらいつでも言ってや」
結論から言えば、私は黒井先生には秘密を明かさないだろう、と思った。疑う訳でも、信用していない訳でもないが、黒井先生は組織人で、職業人だった。余計な事を知っていると、その秘密を明かさないといけない時が来るかも知れない、それが社会に生きる人間のあり方であり、義務なのだ。
また、やはり黒井先生にとって、自分は所詮通り過ぎる一人の生徒に過ぎず、今までだって無数の生徒を担当してきた黒井先生の生徒に、一人の同性愛者もいなかったとは限らないだろう。いや、毎年多数の人間が入り出て行く学校という場所で、一人もいないと考える方が不自然なのだ。
そして、その時、黒井先生にとってこの秘密は、ありふれた秘密に過ぎなくなり・・・要は一回性の重みを持たず、だからこそ軽がると職員室の話題として消費されてしまう可能性があった。桜庭先生、あいつら付きおうてるらしいよ、女の子同士で・・・・と。
彼女達にとっては職員室で話題にしても構わないありふれた秘密でも、当事者にとってはそうではないのだ。まずかがみの担任に秘密を明かし、教師同士の連帯の中でその秘密はどんどん囁かれ広がっていくだろう。ああ、毎年一人はいますなあ、そういう生徒が、今年はあいつらでしたか!という風に・・・
要は、結局のところ私は、大人を信用していないのかも知れない。
かといって子供を信用している訳でもないが、なんら背景や組織を持たぬ子供には子供の、守らなければならない仁義というものがある。組織人とは立場が違う。子供はただ、己の良心と信義を守るだけだ。
「気が向いたら相談しますって」
「OK、そんじゃ、今日こそレアアイテムゲットといくか!」
黒井先生は特にそれ以上追及せず、嬉々としてモンスターを狩りはじめた。
・・・・・・・
かがみは部屋に帰って、暫く一人で本を読んだり、音楽を聴いていたりしたが、なんとはなく物足りなく、寂しい気持ちがしてきて、段々と集中できなくなっていく自分を意識した。
「うーん」
やっぱりここが、他人の家だからかな?
読みかけていた本を閉じ、考えだすと、同じ屋根の下にこなたがいる、というのが気になってきた。
柊家に住んでいる時は、会いたいと思っても現実的に不可能だったけど、今はその気になって部屋を出て、階段を上れば会いにいける距離にいる。一度それを意識しだすと、どうにも気になって集中できない。
「なによこれ・・・」
なんだかこれじゃ、本当に寂しがりやみたいじゃない。
こなたに会いに行きたいな・・・と思うけど、理由もなく会いに行くときっと「かがみったら寂しんぼさんなんだから~」とからかわれるのが目に見えている。それはちょっとプライドが許さないのよね。
「あ、そうだ」
今日の宿題、うちのクラスだけじゃなく、きっとこなたのクラスでも出てる筈、あいつのことだから、絶対やってないわ。
やってるかどうか様子を見に行こう。っていうかもともと、あいつの宿題の様子を見に行きたいって思っただけだったし。
かがみはいつの間にか記憶を改竄し、こなたに会いたいと思った事実を、宿題の様子を見に行くという理由にすりかえて部屋を出た。
階段を上り、こなたの部屋のドアをノックすると「開いてるよ~」という返事が返ってきて、あけると珍しく、読書をしているこなたが居た。どうやらマンガ本ではない。
「何よあんた、珍しいじゃない」
「ん~。ちょっとね」
こなたが読んでいるのは、村上春樹の、世界の終わりとハードボイルドワンダーランド、だった。私は驚きの声をあげる。
「あんたが現代文学!?」
思わずのけぞってしまう。
「驚き過ぎだよ、かがみん」
「だって、私がラノベも読みなよ、って言っても全然関心示さなかったのに、どういう風の吹き回しよ!?」
「現実に、どういう風の吹き回し、なんていい方する人初めて見たよ」
「余計な突っ込みすんな!それで、どういう心境の変化なのよ?」
私が問い詰めると、こなたはちょっと、少女らしいあどけない表情になって言った。
「ん~、お父さんみたいな、オタクになりたいなあ、って思って」
その目は純粋に、父を慕う少女の目をしている。
どこか遠くを畏敬する殉教者のような、澄んだ目。
かなわない、と私は思う。
なんだか、胸の辺りがきゅんとするような、ぽかぽかとあったかくなるような、そんな気がした。
「やれやれ、あれだけ私が薦めても本を読まなかったあんたがねえ、父っていうのは、偉大ね」
「もう、なんか、かがみの言い方は照れるよ。それで、かがみは何しに来たの?寂しくなって私に会いに来た?」
「な!何言ってんのよ!」
思わず動揺して、赤くなってしまう。そういえば、何しにきたんだっけ、肝心なことを、動揺で忘れてしまった。
「かがみったら寂しんぼさんなんだから~」
「ち、違うわよ!そう、宿題!宿題、あんたちゃんとやってる?」
そういわれると、こなたはにやりと笑ってⅤサインをみせた。
「今日のは、実はやってあるのだよかがみん。驚いた?」
「え、え、え、な、なんで!?」
「そりゃあ、偶にはまじめにやるよー、それじゃあ、かがみの用事は終わりかな?」
「う、そ、それは・・・」
「じゃあ、私は読書の続きに戻るから」
そう言ってこなたは本を読み始める。出て行くに出て行けない私・・・。
探り合うような沈黙が続く・・・・
・・・・・・・・・・静かだ。
ページをめくる音だけが聞こえる・・・
その沈黙に耐えられず、遂に私は言った。
「へ、へー、村上春樹って、私読んだことないなー、お、面白い?」
私のかけた声に、こなたはにやりと笑って本から顔をあげた。
「なになに、かがみん、読書中の私に話しかけたりして」
「私もちょっと、それに興味あるなー、なんて・・・」
「んー、かがみが興味あるのは本じゃなくて・・・私、なんじゃないの?」
ぎくり。
「そ、そんな事・・・」
「ないなら、読書の邪魔になるなー、私は一人でじっくり読書したいのだよ、かがみ」
こなたはそう言って、ドアを指差した。お帰りはあちら、という訳だ。でも今更、自分の部屋に一人でなんて帰れない。今帰って部屋で一人になったら、それは余りにも寂しすぎる。
「も、もう、意地悪しないでよ!」
「何が意地悪なのかなー、かがみの口から、なんで私の部屋に来たのか聞きたいなー」
もう!もう!こいつは!なんでこんな時だけ悪知恵が働くの!?
私は顔を真っ赤にさせて言った。
「だ、だって、一人でじっと部屋でいるのって、退屈なんだもの!それでちょっと、こなたの様子を見に来ただけよ!悪い!?」
「あくまで、寂しいとは言わないんだね。ほんとは寂しい癖に」
こなたは本を置いて椅子から降り、私に抱きついてきた。
「かがみは、ほんと寂しがりやさんだな~。かがみ可愛いよ、かがみ」
べったべったとまとわりつく再び、でも今は屋上と違って、誰の目もない。私はこなたをふりほどかず、そのままぷいと顔を背けた。
「そんなんじゃないわよ。ただちょっと、まだ慣れない家だったから」
「寂しくなっちゃった?」
「それは・・・」
つかさも、姉さん達も、お父さんもお母さんも、ここにはいない。もう一緒のところにはいないんだ、と、ふと、とっくに分かっている筈の事に私は気づいた。そう思うと、寂しさがこみ上げてくる。
「そう、寂しかったのよ、悪い?」
開き直るみたいに私は言う。
家族と離れるのは、寂しいよ。
ちょっと、涙ぐんじゃったかも。
「かがみ・・・」
今までよりも強く、ぎゅっと、こなたは私に抱きついてきた。
「私がいるよ。私がかがみの寂しさ、埋めてあげたいな」
「こなた・・・」
どちらからともなく、私達はくちづけした。そしてそのまま・・・・
「お姉ちゃん、かがみ先輩、ご飯だよ~・・・・って?!お、あ。あわわ・・・!?」
抱き合っている私達を見て、ドアを開けたゆたかちゃんが固まっている。
「お、お邪魔しました!」
「いや待ってゆーちゃん!未遂だから!」
「未遂とか言うな!!」
なんだか締まらなくて大変格好悪いけど、少しづつ、この家にも慣れていけそうだ、と思います。とほほ、って感じでね。
・・・・・・・・・・・・
夕飯の、凄く微妙な味付けの、やけに豪快な盛り付けの料理を食べ終えると、こなたがそうじろうさんを睨んだ。
「お父さん、かがみが来たから張り切るのは分かるけど、慣れない料理なんて作ろうとするからこうなるんだよ」
確かに、凄く、凄く微妙な味だった。居候の礼儀として、おいしいです、とか笑顔で言ってたけど。
「いや、あはは、おかしいな、本の通りに作った筈なんだけどな」
「もう、言ってくれたら私が作ったのに」
「いや、かがみちゃんがせっかく来てくれたんだから、家長としてだな、びしっと料理を振るまいたかった訳でね・・・」
私には細かい事は分からないが、切られた肉は薄味過ぎたし、サラダのドレッシングは奇妙に油っぽかったし、揚げ物の料理は多すぎたし、火の通りは悪かった。それに、平日にしてはパーティーみたいな山盛りの料理は、やりすぎな気もする。
「お父さん、そんな無理しなくていいよ。いつもみたいにぐうたらしてればいいのに」
「う、こなた、今日はやけに厳しいな・・・ま、まあ、次からはそうするよ」
「あ、あの、気にしないで下さい。誰でも失敗はありますよ。それじゃ、私が片付けますね」
「い、いやいや、かがみちゃんは座っててくれ。俺が片付けるから、って、うお!?」
片付けようとした皿が、フリスビーのように跳んで台所へ消えていった。一拍おいて、ガチャン、という何かが割れる無情な音が響く。こなたが呆れた口調で言った。
「お父さんこそ、座ってた方がいいよ」
「こ、こなた、そんなに冷たいとお父さんは悲しいぞ!?」
「あ、私、片付け手伝いますね」
結局、手伝いたがるおじさんを座らせ、私とこなたと・・・やはり手伝いたがるゆたかちゃんに、おじさんの心のケアという役目を与え・・・2人で台所へ向かった。見れば、洗い物は結構溜まっている。
「何故、今日の分の皿は今持ってる筈なのに、既に洗い物がある?」
「いやー、あはは、私もお父さんも、こまめに洗うとか苦手で・・・」
要は昨日の分とかも溜めているのだ。
「もう、しょうがないわね」
私はこなたと2人で、テキパキと洗い物を始める。こなたに皿を持ってきてもらって、洗うのは私だ。そんなに時間はかからず、すぐに洗い終わることが出来た。
「ふえー、かがみん、手際いいね」
「まあね、洗い物くらいはね」
「料理はあんなに・・・なのにね」
「そんな事を言うのは、この口か」
私はこなたの口を持って引っ張ってみた。うにょーん。
「あにふんだおー、かがいー」
うふふ、なんか、おかしい。ちょっと楽しくなってきちゃった。それなのに、こなたは私の手から逃れてしまって口を尖らせる。
「もう、いきなり何するんだよ、かがみ」
少し残念。
「あんたが悪いのよ。デリカシーのないこと言うから」
「事実を言っただけなのに~」
こいつ・・・。
「そのうち、料理であんたをびっくりさせてやるからね」
「漫画みたいに爆発するとか?」
「殴るぞ」
そんな風にふざけ合いながら私達が戻ると、おじさんがゆたかちゃんに慰められているところだった。
「うう、こなたが冷たい。お父さんは、ちょっと、ちょっと頑張りたかっただけなんだよ。それを、それを・・・」
「えっと、わかりますよ、はい、誰だって、失敗はありますもんね。この次、頑張ればいいんですよ」
おい、どっちが年上だこの組み合わせ。
「もう、かがみの前であんまりみっともない事しないでよ、お父さん」
「うお!?更にとどめの追撃までしてくる!ゆーちゃーん!!お父さんはこなたに嫌われちゃったのかなー!!」
「えっと、お姉ちゃんはかがみ先輩の前だから、格好よくみせたいだけなんですよきっと!だから大丈夫」
「ちょ!?ゆーちゃん!?」
こなたが珍しくうろたえた。
そういえば、こなたは今日、ちょっとおじさんに厳しかった。料理を失敗したり皿を割ったり、確かに今日のおじさんは駄目駄目だったけど・・・それに対して妙にこなたが冷たかったのは、私のせい?
「別に・・お父さんが変にはりきって失敗するのは迷惑だから厳しかっただけだって!」
「えっと、えっと、お姉ちゃん、おじさんも悪気があった訳じゃないし、許してあげてね?」
「こなた」
私がよびかけると、こなたはぎくり、という感じで振り返った。
「なんだい、かがみんや」
「私は別に、気にしないから。私を歓迎しようとしてくれた、おじさんの気持ちはうれしいし、それに・・・背伸びして良く見せようとしても、駄目よ。だって・・・家族・・・なんだから」
ちょっと、照れてしまう。来てそんなに日が経ってないのに、家族、とか・・・。
でも泉家のみんなはちょっと感動したようで、家族、という私の言葉を、まるでかみ締めているみたいだった。
「そうだな・・・お父さん、ちょっと張り切りすぎてたな。家族なのにな」
「うん・・・かがみ先輩も、家族ですもんね!」
「おじさん、ゆたかちゃん・・・」
ちょっと、うるっときてしまう。そんな中、こなたが言った。
「ふむ、しかしそれなら、かがみんはお母さんだと言えよう」
何を言い出すんだこいつ、何か、台無しなことを言おうとしてないか?
「なんで私がお母さんなんだよ」
「だって、お父さんはだらしない父親でしょー?で、私がだらしない娘でー、ゆーちゃんはしっかりものの末娘、ほら、かがみは母親ポジションだよ~」
「勝手に人を母親にすんな!
しかし、ふと思う。もしかしたら、こなたは亡くなった母親を私に求めていたのかもしれない。私にとってそれは、嫌な事ではなかった、むしろ、嬉しい、かも・・・。
「あー、でもやっぱ駄目だな」
「な、なんでよ」
「だってそれだと、かがみがお父さんの嫁みたいだもん。かがみは私の嫁だよ~」
するとおじさんの目がいきなり、きらりと光った。
「ほほう、しかし、かがみちゃんが嫁とは悪くないな。お父さんよく考えたら独身だし。どうかな?かがみちゃん?」
何を言い出すんだこの人。
「え・・・いやあの、おじさん、うしろになんか出てますよ」
振り向くと、おじさんはそこに居た謎の悪霊に引きずられて別室に消えていった。
「うぎゃああああああああ!!」
「もう!そうくんったら!あんな若い子に手を出そうなんて!めっ!めっ!」
ほほえましい光景、かなあ?
「なんかお前のお母さん、普通に出てくるようになってるんだが」
「いやー気のせい気のせい、目の錯覚だよ」
そうだな、深く考えると色々困ったことになりそうだし。
「さ、かがみん、気持ちを切り替えて、一緒にお風呂入ろうか」
「ふざけんな」
「てもて~。てもて~。って」
「お前ほんとそれ好きだな!?」
「ふふ、ああやって一緒にお風呂に入った時の、かがみのケダモノのような視線が忘れられないよ」
「一人で入れ」
その時、不意に電話が鳴り、謎の悪霊にマウントポジションを取られ、馬乗りで殴られているおじさんの代わりに、ゆたかちゃんが電話に出た。
「はい、泉です。あ、かがみ先輩ですか、待って下さいね」
私?
「あの、かがみ先輩のお母さんからです」
「お母さん!?」
私が電話に出ると、のんびりした声で母は言った。
「かがみちゃん、元気~?」
「う、うん」
どういう用件だろう。
「もう、母親からの電話なのにそんなに堅くならないでよ」
「う、うん」
まるでテープレコーダーのように同じ答えを返してしまう私。
「この子ったらもう・・・用件は特に無いのよ。かがみちゃんが元気か知りたかっただけなの」
「それだけ?」
ちょっと拍子抜けした。
母は言う。
「そう、それだけ。でもこれから、定期的にこういう電話、かけたいと思っているのだけれど、いいかしら・・・?私達も、かがみちゃんのこと、とっても気になるから」
母は、見知らぬ他人の家に住むことになった私が心配なのだろう。だから電話をかけてきたのだ。いや、母だけではない、姉も、妹も、みんな、きっと心配している。私は家族の愛情を感じて、ちょっと感傷的になった。
「私は・・・構わないけど」
「そう、ありがとう、たまには、かがみちゃんの元気な声を聞かせてね。あ、そうだ、せっかくだから、そうじろうさんにご挨拶をしておきたいわ。いま、いいかしら?」
見れば、おじさんは謎の悪霊にフルネルソンを極められているところだった。
「ちょっと今は手が離せないみたいです」
「あら、残念。うふふ、あのね、かがみちゃん、お父さん、性同一性障害の本とか読んでるのよ」
「ええー!?」
何を勘違いしてるんだ。
「私が、かがみちゃんはそうじゃないわ、って言っても、『いや、こういう世界の事を少しでも多く知っていた方が、かがみのためになる』とか言って聞かないの。バカでしょ?」
確かに。
でもお父さんは、お父さんらしく不器用なやり方で、分かろうとしてくれているんだ、というのは伝わった。
「他にもジェンダーとかなんとかかんとか、そういう本を山盛り買ってきて、こつこつ読んでいるみたい。だからね、お父さんも今は、かがみちゃんのこと認めようとしている、っていうのは分かってあげてね」
ちょっと、胸が熱くなる。
「うん、もちろんだよ」
「私からはこれだけ、それじゃあ、そうじろうさんによろしくね」
「うん!」
電話が切れ、私は、たとえ離れて住んでも、自分は家族と繋がっているのを知る。泉家も、柊家も、私の家族で、そして繋がっている。そう思えるのって、幸せなことじゃないかな?
母がよろしくと言っていたおじさんの方を振り返ると、何故かゆたかちゃんがレフリーとして間に入って「ブレイク、ブレイク」と叫んでいるところで・・・。
「両者、コーナーに離れてくださーい!」
なんでそんなにきびきびレフリー役が出来るんだゆたかちゃん・・・泡を吹いているおじさんを見ながら私はしょうがなく、やれやれだぜ、と呟いた。あれ!?ちょっとこなたに染まってきてる?!私?
・・・・・・・・・・・・
「それじゃあ、いってきまーす」
昨日のお返しという事で、今日はみんな揃ったところで朝食を私が振舞って、朝の泉家の団欒に参加してから、私達は家を出た。
「かがみんも、無理して頑張ってたね、今日の朝ごはん。ふふふ、私のお父さんの前で格好つけたかったの?」
「うるさい!」
かなり、図星だった。だって、良い風に見られたいじゃない、こなたのお父さんなんだもの。
だから、確かにちょっと、はりきってたのは事実だけど・・・それを見抜いて言ってくるのがムカツクわ。
「もう、怒らないでよかがみ~、そういうかがみも可愛いな、って事なんだから~」
「はいはい、すぐそれなんだから」
そんな風に2人で登校する朝の風景。
その風景の中に、不審なものを見かけた。
奇妙にゆっくりと歩く、一人の男。
朝のジョギング姿って事でジャージなのは良いのだが、もう完全に歩いているし、マスクで顔を隠してるのがいかにも怪しい、しかも、明らかにこっちを・・・私をガン見している。結構なお年の方で・・・っていうか私にはもう誰か分かっているんだけどね。
ジョギングの振りをして・・・その割にはスピードが余りにも遅すぎるが、私達の方へ近づいてきたその男に、こなたがいきなり跳び蹴りをくらわせた。
「ちょ?!こなた!?」
「かがみの方を見てたろ不審者!!成敗!!」
そのまま正中線を踏みながら相手の体を駆け上がり、顔面を蹴ってこなたが宙を舞う・・・まるでカンフー映画のような技だが、故あって名は伏せるものの、この技が出来る人物は実在する・・・!(板垣恵介風)
やられた男がばったり倒れたので、私は慌てて駆け寄った。
「大丈夫!?お父さん!?」
「え!?これ、かがみのお父さんだったの!?」
お父さん、マスクで顔を隠したくらいじゃ、実の父親ってものは隠せないよ。
「う、うう・・・ぐぐ」
父は何とか立ち上がり、笑顔を作った。
「い、いやあ、たまたまジョギングしてたら通りかかったんだけど、かがみ、元気か?」
ここはどう考えても、私の家からたまたまジョギングして来るような場所ではない。なんて嘘が下手なんだろう。
「元気よ、もう。何してるのよ、お父さん。そんなんじゃ、こなたじゃなくても不審者と勘違いされて、警察に連れて行かれるわよ」
「む、いや、ただ、ジョギングしていただけなんだが・・・」
まだ言い張るのか、この親父。
「それで、こんな遠くまでジョギングだなんて、何してるのお父さん」
「いや、その・・・かがみ、お父さんはもう、怒ってないからな。結局、お父さんみたいな考えが、いろんな人をその、苦しめてたんだと分かったから・・・まあ、それだけ、言いたかったんだ」
「お父さん・・・」
「お父さんはいつでも、かがみが帰ってくるのを、待ってるからな」
私がちょっと、じーん、としていると、いきなりこなたが言った。
「さっきは蹴ってすいません!そんでいきなりですがお父さん・・・かがみを下さい!」
路上プロポーズ!?
「む、ま、まだ早い!!」
「断られた!?」
まだまだお父さんは手ごわいようです。
「高校を卒業してからにしなさい、まだ君達は若いだろう」
「でも私達、真剣なんです!必ず、必ず娘さんを幸せにしてみせます!」
「路上ですんな!!」
すぱーん、とこなたの頭を叩く私。お父さんもまともにそれに乗るなよ。
「まあ・・・その話は後日にして・・・お父さんは帰るよ」
そして、お父さんは私に耳打ちした。
「かがみのために、大人に向かって飛び掛っていくなんて、なかなか出来ない事だと、お父さんは思うよ」
「いや、あいつは・・・」
つかさの時だって、いきなり相手を倒したっていうし・・・考え無しなだけなんじゃないかな?
「じゃあな、いたた・・・全く。君の蹴りは、よく効いたよ」
と、こなたに向かって、お父さんは少し意味ありげに言った。
「愛がこもってますから」
とこなたは笑う。
ちなみに、今日も遅刻しそうです。
・・・・・・・・・・・・
「おーっすひいらぎぃ~、二日連続遅刻かー?」
と日下部が、私の肩を叩きながら挨拶してくる。ちょっと痛いんだけど、こいつ、加減を知らないよな・・・それはともかく、ちょうどよく峰岸も一緒だ。私は深呼吸した。この2人は親友、だから打ち明ける、OK?
私は覚悟を決めた。
「あのさ、大事な話があるんだけど、屋上いかない?」
「ほえ」
「いいわよ、柊ちゃん」
今日は、一人で行こう。日下部も峰岸も、私の友達だ。だからこなたは呼ばない、三人だけで屋上に行く。
屋上はよく晴れて、青空からの光がさんさんと降り注いでいた。こんな日は、行楽にうってつけなんだろうな。
でも今の私は行楽には行けない代わりに、告白をしなきゃならない。私はフェンスまで行って振り返り、2人を見た。きっと大丈夫、2人なら、きっと、きっと分かってくれる。
「あのね、私・・・」
想像力をオフにする。そうしないと、悪い想像が湧いて勇気が出ないから・・・私は決死の気持ちで言った。
「こなたと付き合ってるの」
「え?え?」
「そう・・・」
峰岸は冷静で、日下部は、訳が分からない、という顔をした。
「どゆこと?付き合ってるって、なに?あれ?え?え?」
私は何も言わず、動揺している日下部を眺めた。何を言っていいか分からなかったから・・・。
すると驚くべき事に、日下部が泣き出したのだ!
彼女は泣き声そのままで、まるで千切れた魂を投げつけるみたいに私に言った。
「なんだよ、なんだよそれ!なんでだよ!」
「ちょっと、みさちゃん!」
「なんで、なんでちびっことそんな風になるんだよ!私と、私達との方が付き合いが長いじゃんか!なんで、なんでちびっこが私達から柊を取ってっちゃうんだよ!なんでだよ!!」
彼女はそのまま、大声で泣いた。涙がこぼれないように青空を見上げるが、涙はぼろぼろと零れて屋上の床を濡らしていく。
「なんでちびっこなんだよ!なんで、なんでだよ!私は、私はみとめねーかんな!絶対、絶対私は、そんなの認めねーー!!」
「みさちゃん!」
峰岸が、日下部の頬をぶった。
ぶたれた日下部は一瞬ぽかんとして、それからまるで幼子のように辺り構わず泣き出した。ただただ、泣き声だけを張り上げる子供の泣き方で・・・。
「ごめんね、柊ちゃん。みさちゃんを落ち着かせたら、謝らせるから・・・また後で」
「峰岸、でも・・・」
「柊ちゃん、今は、任せて、お願い」
思った以上に鋭く言う峰岸は、私に去れとその目で言っていた。にらむような、鋭い目で・・・。
私は追い出されるように屋上を降りるしかなかった。
振り返れば日下部は、峰岸の胸の中で、おお泣きに泣いていた。
泣きたいのは、私もだよ、日下部。
・・・・・・・・・・・・・・・
日下部は、私が、その、女の子と付き合ったから、認めないって言ったのかな?
でも、それにしては・・・。
分からない。
認めないって言われたこと、その事だけ、胸に残った。
長い間ずっと、友達だった日下部に、認めないって・・・。
バカで、考え無しで、言ったことすぐ忘れて、でもサバサバと明るくて、おおらかで優しくて、そういう私に無いところがある日下部が、好きだった。日下部だったら、こなたとの事も「ん、いいんじゃね?ひぃらぎがそれでいいなら」って言ってくれると、勝手に期待してた、私・・・。
この世の全ての人が認めてくれるようなものじゃないって、分かってた筈なのに。
こなたは言っていた。
『それはそれで仕方ない・・・性格の不一致で友達付き合いはお仕舞い・・・私とかがみの関係を認められない人と友達付き合いしてもしょうがない。。。』と。
私、日下部と友達じゃなくなるの?
思い出すこなたの言葉。
『・・・しょうがないよ。そういうのって、無理に認めさせるもんじゃないと思うし。友達付き合いとかって、無理矢理するもんじゃないもの・・・』
泣きそうになる。
やっぱり、認めて貰えないのは寂しいよ。
日下部が友達じゃなくなるのは、辛いよ。
でも私は、こなたとの関係を辞める訳にはいかなかった・・・たとえ、誰が私の許から立ち去ったとしても・・・
「こなた・・・日下部・・・」
目を閉じる。
ああ、そうか。
わがままなんだな、私。
こなたとの関係は絶対辞めないし、大事な人にはその関係を認めてほしかった。
でもそれが無理なら、誰を傷つけても、こなたとの関係を続けるしかない・・・
だから。
私はもう、無垢でイノセントな少女ではなかった。
「柊・・・」
目を開けると、日下部と峰岸が私の前に立っていた。日下部の目は赤い。
「さっきはごめん、テンパって変なこと言った」
「日下部・・・」
「私、ちびっこに柊が取られちゃって、私の友達じゃなくなっちゃうんじゃないか、って思ったんだ・・・なあ、柊、ちびっこと付き合っても、私達、友達だよな?」
「当たり前じゃない!!」
私は、席を立った。日下部をにらむ。
「日下部も、峰岸もさ、私を、気持ち悪いって思わないの?」
今度は日下部が、私をにらんだ。
「何言ってんだ!!」
日下部は、かなり怒っていた。
「柊とどんだけ長い付き合いしてると思ってんだよ!!今更そんなことぐらいで、どうこう思うわけねーだろ!!」
「私もみさちゃんと同意見よ。さっき、みさちゃんが色々わめいていたのは、柊ちゃんが遠くに行くみたいで寂しかったから、駄々こねてただけだもの」
「あやの~~。そんな言い方ないじゃんか~~私は・・・」
「そんなことよりみさちゃん、ほら」
「あ、そうだ。ひいらぎ、そんじゃあ、仲直りの握手」
日下部が、手を差し出してきた。
「さっきはごめん、ひいらぎと、ちびっことのこと、認める。でもこれからも、友達でいてくれよな」
「当然よ、こっちこそよろしくね」
私は日下部と硬く握手した。しばらく見つめあい、それから日下部は「へへっ」と笑って手を離した。
「そんじゃ私帰るから。ひぃらぎはちびっこと仲良くするがいいさ~」
そう言って日下部は教室を出て行った。なによそれ、まったく。
「もう、みさちゃんったら・・・」
日下部の背を見送りながら呟いた峰岸が、不意に、私の目をまじまじと覗き込んだ。
「ねえ、柊ちゃん」
峰岸が、何かを懐かしむように、いとおしむように言う。
「みさちゃんはずっとね、柊ちゃんは凄い凄いって言ってたのよ。賢いし、頼りがいがあるし、責任感があるし、自分とは全然違うって言って、あこがれてたの。だからきっと今度のことで、動揺しちゃったのね」
「峰岸・・・」
「またね、柊ちゃん」
私は去っていく峰岸の背を見ながら、考えた。
私がこなたを選んだ事で、傷ついた人もいるのかも知れない。
父だって、あのとき、傷ついていたのかも知れない。
日下部だって、もしかしたら傷ついたかも知れない。
誰かを選ぶことで、誰かを傷つける。
それでも私はこなたを選び、それを引き受けるだろう。
それによってたとえ、加害者となるとしても。
きっとそういう風に、世界は回っている。
「そっか・・・」
私は、ある事に気づいた。
・・・・・・・・・・
「お姉ちゃん、おそーい」
いつもの四人組、みんな、校門で私を待っている。
「ごめん、遅れた」
そして私はみゆきに、あのとき、屋上ではいえなかった事を言った。
「あのね、みゆき」
「はい?」
「私、同性愛者でいいや」
私がそう言うと、こなたとみゆきが、同時に驚いた顔をした。
「だって、私がこなた以外の誰とも付き合わないなら、それは同性愛者って事と同じだもんね。だったら、私はそのレッテルを引き受けるよ」
「かがみさん・・・」
「こなたが好きだから、同性愛者でいいよ私。あの時、屋上でこなたが言っていたのは、そういう意味だったのね」
あそこで、同性愛者ではないと否定して、男の子でもいける、なんて主張をする必要はないんだ。だって、私にはこなたしかいないんだもの。未来のことなんて何も分からない癖に、と非難されるとしても、私はそれを引き受ける。
だって、こなたが好きだから。
「かがみ・・・」
いきなり、こなたが私にキスした。
「ちょ、おま、路上で!?」
「かがみと噂になっても、ううん、かがみとの事なら何でも、私は引き受けるよ。かがみだってそうじゃないの?」
「こなた・・・」
私はこなたを選び、こなたは私を選ぶ。それが誰かを傷つけるとしても。
それを引き受け、私達は大人になる。いつまでも、無垢な少女のままではなく、私達は・・・。
つかさが、おずおずと尋ねた。
「あの、お姉ちゃんたち、私達、お邪魔かな・・・?」
「うん邪魔」
「こなちゃん酷い!?」
「邪魔な訳ないでしょ、さあ、帰ろ」
私の隣にはこなたがいて、みんながいて・・・きっと、ずっとずっと、これから先も、きっと・・・
・・・・・・・・・・
夜、泉家で。
私が部屋で一人で宿題をしていると、ドアをノックする音が響いた。
「はあい、開いてるわよ」
「やふ~」
開くと、そこにはこなたが立っていた。
「なあに、こなた。何の用?」
「この前のお返し」
「この前?」
こなたはにやりと笑って言った。
「かがみが寂しくなって私の部屋に来た時の、お返し」
「それ、引きずるなよなあ」
ふふふ、とこなたは笑う。
「今日は私が、一緒の屋根の下にかがみがいるってことが、気になってしょうがなくなったから来たの」
その気持ちは、とてもよく分かる。
「へー、なあに、寂しくなっちゃった訳?」
「寂しいというか、かがみ分を補充しに来たのさ。ほじゅ~」
そう言って、こなたが抱きついてくる。
「もう、何よこなた、甘えたいの?」
「甘えたいというか・・・かがみの、可愛い姿がみたい、かな」
そう言って、こなたはドアの鍵を閉めた。
「ちょっと、なんで鍵閉めるのよ」
「また、ゆーちゃんが来たら困るでしょ。かがみが見られる方が好きなら、止めないけどね」
「そんな性癖はねえ!」
突っ込む私に、こなたはぎゅっと抱きつく。いつでも心が温かくなるような、こなたの抱擁。
「あのさ、今日、うれしかった。私だけかなって思ってた。同性愛者って呼ばれる事とか、いろんな事、引き受けてもいいって思ってたのは・・・だからいつか、かがみが私を」
「ストップ、その先を言ったら殴るからね」
こいつはいつだってそうだ。一人で勝手に、先回り先回りして、相談もしない。言ってくれなきゃ、わかんないよ。
「バカじゃないの?どんだけ私のこと信用してないのよ。ほんと、バカじゃないの?私達、2人で湖まで行ったじゃない。私の気持ちの根っこは、あの時と全然変わってないよ。ううん、これからだって、変わらない」
「じゃあ、私とおんなじだ。両思いだね、かがみ」
「当たり前でしょ、もっと、私を信じなさいよね」
そして私達は、自然な流れのようにキスをして、そして・・・。
私達は愛し合う、ずっとずっと、この先だって愛し合うだろう。色々な辛いことや悲しいことがあっても、私達は繋がっている。何度だってめぐりあう。私達はもう、家族なのだから。
夢の中で私は大人になり、社会人で、さまざまな経験をし、それでもなお、私はこなたを選んで一緒に居た。こなたもまた、私を選び、私達はどこまでも繋がって、この星の上で生きている。私達が愛し合い、めぐり合い、つながり、その上に立って生きていくこの星。人間が生まれたことは、とても可能性が低い事だと言う。この宇宙にある殆どの星々が生命の住まない死の星で、そして人は一秒に一人の割合で人に出会ったとしても、この星の全ての人々に出会う事はない、それでも私達はめぐり合い、愛し合い、慈しみ合い、確かにここで生きている。
この幸運の星の上で。
了
&br()
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- もう今夜は眠れないくらい感動した!!!ありがとう!!!!! -- 名無しさん (2024-03-09 00:09:03)
- GJ!!泣(≧∀≦)b &br()心情描写が素敵過ぎます! -- 名無しさん (2023-07-03 04:28:10)
- あなたが神だ -- 名無しさん (2010-12-27 20:26:06)
- 最初はギャグかと思ったけど…感動した(泣) -- 名無しさん (2010-04-05 01:22:29)
- 泣いた。 &br()若い頃に持っていた愛への理想像を思い出しました。 &br() &br()いや、本当に良いものを読ませて貰いました。 -- 名無しさん (2010-03-27 17:05:56)
- 凄い感動した。 -- 名無しさん (2009-11-21 09:03:12)
- 文才すげぇ &br() &br()泣いた -- 名無しさん (2009-03-02 05:37:47)
- ぼろ泣きさせていただきました!! &br()素敵な作品ありがとうございます!!!! -- 名無しさん (2009-01-30 00:57:27)
- いいもん読ましてもらったわ。 -- 名無しさん (2009-01-28 01:20:16)
- もう! 永遠に2人に幸あれ -- ラグ (2009-01-25 16:20:30)
- 後日談的なものまですっご面白い。 &br()作者は神か?神なのか!? -- 名無しさん (2009-01-22 21:45:11)
- こなかがは、やっぱりこういう結末が一番お似合いですよね。 &br()あとは二人の幸運を祈るのみ。 -- 名無しさん (2009-01-22 16:40:42)
- こなたもかがみも一人ではないんですよね。 &br()家族が仲間が居てくれてます。 &br()きっと大丈夫。遠い未来、死が二人を「一時的に」別かつその時まで幸せで行けます。 &br()「世間」よりも「愛」を貫いて下さい -- こなかがは正義ッ! (2009-01-21 02:18:47)
- マジ理想的なハッピーエンドでした☆お見事ッ!! -- 名無しさん (2009-01-21 02:09:00)
- よかったですね(ノ_・。) &br()世間の目という壁を &br()二人で超えて行ってください! -- 無垢無垢 (2009-01-21 01:48:26)
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#vote3(25)
2024-03-09T00:09:03+09:00
1709910543
-
泣き虫こなたん 慰め編
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/194.html
「あんたさあ、私達以外にリアルの友達って居たことあるの?」
「えっ」
それまでもきゅもきゅとコロネを貪っていたこなたが、びくっとその動きを止めた。
「? ちょ、ちょっとこなた……?」
「…………」
何気ない一言のつもりだった。
飄々としたこなたのこと、どうせ何かしらのネタで返してくるに違いない……
かがみはそう思っていた。
「………うっ」
こなたが嗚咽を漏らすまでは。
「!? こ、こなた!?」
予想外の展開に、かがみは動揺した。
「……えぐっ、うっ……」
こなたは泣いていた。
小さな肩を震わせ、ぽろぽろと涙を零していた。
「あ、あっと、えっと……」
困惑し、狼狽するかがみ。
どうすればいい?
否、頭ではわかっていた。
このいたいけな少女を泣かしたのは他でもない自分なのだ。
今すぐにでも、自分は心の底から謝罪をしなければならない。
しかし、それを伝える言葉が浮かんでこない。
ごめんなさい? 悪かったわ? 冗談だったのよ?
違う、違う、違う。
そんな言葉じゃないんだ。
今眼前ですすり泣いている親友に向けるべきものは、そんな言葉じゃなくて――
気が付くと、かがみはこなたを抱きしめていた。
「……かがみ……?」
ふと顔を上げ、きょとんとするこなた。
「…………」
かがみは何も言わず、黙ってこなたを抱きしめる。
ぎゅっと、強く。
「……かがみ……」
こなたの表情が和らいでいく。
「……ごめんね」
「ううん」
「ごめん……」
「もういいよ、かがみ」
こなたは笑った。
すっかり、涙は枯れていた。
あの頃の自分。
泣いてばかりいた自分。
そんな自分も、今度こんな風に抱きしめてやろうと、こなたは思った。
**コメントフォーム
#comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3)
- oh...sogood -- 名無しさん (2024-03-07 23:41:50)
- GJ! -- 名無しさん (2022-12-18 11:35:21)
- 完全なギャグかと思ったら、意外と真面目な話だったな。 -- 名無しさん (2012-11-23 10:49:44)
- 口を尖らせて涙をこらえるこなたを想像すると 萌え死にそう -- 名無しさん (2011-10-23 18:25:41)
- えと・・んと・・ -- 名無しさん (2010-01-15 22:20:38)
- いやいや、俺の嫁。 -- 名無しさん (2010-01-15 07:12:35)
- こなたは俺の嫁 -- 名無しさん (2009-12-07 19:56:20)
- ★★★★★ -- マヨラ (2008-10-05 02:52:30)
2024-03-07T23:41:50+09:00
1709822510
-
レミニセンス
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/1183.html
どうしてあんなことを言っちゃったんだろう。
私はお姉ちゃんの背中を探して、夜の鷹宮町を走っていた。
暗くて、寒くて。
よく知ってる町なのに別の世界みたいに思える。
びゅうびゅうと冷たい風が顔に当たる。
その風で耳が痛くて――でもきっと私よりお姉ちゃんの方が痛い。
涙が溢れてくる。
流れ落ちるとすぐにそれは冷たくなって、顎に落ちてく。
夜の闇の中で。
私はお姉ちゃんの名前を呼んだ。
「お姉ちゃん…お姉ちゃん………お姉ちゃん!」
+レミニセンス+
ずっと昔の話。
私はきらきらする木漏れ日の下で、ひざを抱えて泣いてた。
忘れっぽい私だけれど、その日のことはよく覚えてるよ。
小学四年生の時。季節は五月の終わりで、だんだん空気が夏に向けて暑くなってきてて。
木の隙間から見える空が、すごく青かった。
でもそのきれいな青い色も、その時の私には……かなしくて。
私の頭の中には、ついさっき友達に言われた言葉が頭の中に鳴り響いてた。
『つかさちゃんなんて、知らない』
引っ込み思案ではっきりしない私に、その時仲良くしていた子が言った言葉だった。
置いてけぼりされて、私は家の神社の木の下に隠れてひとりで泣いてた。
泣くともっとうまくいかなくなっちゃうのはわかってたんだけれど、全然止まらなかった。
目の中にいっぱいになった涙と、こぼれおちてくる日の光で、私の気持ちと反対に見える景色はきらきらしてた。
「………つかさ?」
草を踏む音がして。
それから、すごくよく知ってる声がした。
私を探しにきた、お姉ちゃんの声だった。
今だから言えるんだけれど。
私って小さい頃はすごく泣き虫で、いつも泣いてばかりいたんだ。
道で転んだら泣いて、アイス落としたら泣いて、お母さんが買ってきたお洋服がお姉ちゃんと違うからって泣いた。
近所のおばさんには「柊さんちの泣き虫ちゃん」と呼ばれてたんだよ。
恥ずかしいね。
い、今はそんなことないよ? もう高校三年生だもん。
この間、こなちゃんに借りた漫画では泣いちゃったけれど… それとこれとは別だよね?
昔の話。
まだいのりお姉ちゃんの胸くらいしか背がなかった頃。
小学校の高学年くらいのとき。
私は今より少しだけ気が弱くて、思ったことがうまく言えなくなった時期があったんだ。
思ったことを言おうとすると、気持ちが胸の中でいっぱいになっちゃって………言葉にできなくなっちゃって、それで黙っちゃう。
お父さんとお母さんも急にそんな風になった私のことをちょっと心配していた。
おかしいね。
どうしてそんなになっちゃったか、今はよく思い出せないの。
でも、胸がいっぱいになって、言葉が出なくて、だんだん話してる人が怒ってく。
その時の焦ってく気持ちとかはよく覚えてるんだ。
どうしよう、どうしようって。
その頃の私はそんなんだったから、それで友達とうまくいかなくなっちゃうこともあった。
その日もそんなふうになっちゃって、私はひとりで泣いていた。
そんなところにお姉ちゃんが来た。
「こんなところにいたの?」
草を踏む音が近づいてくる。
私は顔を上げた。
私の泣きべそ顔を見て、お姉ちゃんがため息を吐く。
「どうしたの?」
お姉ちゃんが私の前に立って、しょうがないなっていう感じに言う。
その髪にはきらきらとした木漏れ日が落ちていた。
「――ちゃんが怒っちゃった」
私は泣きながら答える。
どうしてかな? そんな頃でも、お姉ちゃんにだけは思ったことが言えた。
私はしゃくりあげながら、お姉ちゃんにどうしてケンカになったのか話した。
お姉ちゃんはひととおり聞くと、またため息を吐いて、私の前にしゃがんで視線を合わせた。
「つかさはさ、ちょっと人に気を使いすぎだよ」
「ひっく…そうなのかなぁ……でも…」
そこで大きなしゃっくりが出て、言葉はとぎれた。
お姉ちゃんはちょっと笑う。うう、恥ずかしいよう。
風が吹いて、さわさわと木々が音を立てる。私はお姉ちゃんを見た。
「あ、明日からどうしよう……」
言いながら、また泣きたくなってくる。
この頃の私にとって、いつも仲良くしてる子とケンカすることは、世界の終わりみたいなことだった。
大きくなった今だと、小さなことだなってわかるんだけれど。
この頃はそれが世界の全部みたいな気がしていたんだよ。
私が途方に暮れていると、それにお姉ちゃんはあっさりと言った。
「別にいいじゃない。聞いてる限りつかさばっかりが悪いわけじゃないと思うもの。堂々としてればいいのよ」
お姉ちゃんはいつも思ったことをはっきり言える人だった。
だから私も思ってることが言えたのかもしれない。
「そんなことできないよう……」
出てきたのは弱音だったけれど。
私は顔を伏せて、また涙をこぼした。
その頃はこんなことばっかりだった。
教科書を読むときにもうまく読めなくて恥ずかしい思いをしたり、喋れないのをからかわれたり。
そして、仲のいい友達ともちゃんと仲良く出来ない。
そんな私は、これから先ずっとひとりぼっちになっちゃうんじゃないかと思った。
誰とも仲良く出来ない私は、大人になってくこれから先、どんどんひとりぼっちになっていってしまうんじゃないかって。
私はとぎれとぎれにお姉ちゃんにそう話した。
するとお姉ちゃんはすっと眉をひそめた。
「つかさは一人にならないわよ」
私が顔を上げると、お姉ちゃんは私の腕を解いて、引っ張って立たせた。
向き合ったお姉ちゃんは、私とほとんど変わらない身長だった。
お姉ちゃんは私の目をまっすぐ見て言った。
「私がいるもの。おおきくなったって、どんなふうになったって、私たちはずっと一緒でしょ?」
つながれた手は、とても温かかった。
「お姉ちゃん……」
暗闇の中でも、街灯の光が私の吐く息が白いんだよって教えてくれる。
コートも着ないで出て行ったお姉ちゃんはきっともっと寒い。
切れた息を整えると、私はまたお姉ちゃんを探して走り出した。
お姉ちゃんが変わったのは、十月に入った頃だった。
高校三年生の秋。
ある日、お姉ちゃんに「先に帰って」って言われて、こなちゃんとお姉ちゃんを残して、私とゆきちゃんは帰った。
――どうしたのかな?
並んでバスの席に座りながら、私はゆきちゃんに言ってみた。
ゆきちゃんは頬に手を当てて、困ったように言った。
――わかりませんね。
でも心配することはありませんよ、とゆきちゃんはにっこり笑った。
――かがみさんと泉さんが一緒なら、大丈夫です。
本当にそうなのかな?
大丈夫なのかな?
こなちゃんにはお姉ちゃんがいれば、いいのかな?
お姉ちゃんにはこなちゃんが――。
私たちはいなくても、平気なのかな?
そう思ったけれど。
なぜか胸がつまって、言葉に出来なかった。
お姉ちゃんはすっかり日が沈んでから帰ってきた。
――おかえり、お姉ちゃん。
静かに家に入ってきたお姉ちゃんに声をかけると、お姉ちゃんはなぜかとても驚いたように肩をふるわせた。
――あ、ああ、つかさ。ただいま。
その時に、私は何かを感じた。
それは、こなちゃんがヘンになっちゃった時と同じ感じ。
お姉ちゃんは普段より硬い笑顔で私に笑いかけた。
それに、何でかわからないけれど、えへへ、って笑い返した。
何でか笑わないといけない気がしたから。
言葉が胸に詰まって、うまく声に出せない感じ。
私は、久しぶりにその感じを思い出していた。
お姉ちゃんとこなちゃんは本当に仲がいい。
会ってすぐに、二人はうちとけて、仲がよくなって。
お姉ちゃんは怒ってばかりで、こなちゃんはからかってばかりだったっけれど。
二人は本当に楽しそうで。
こなちゃんがいないとお姉ちゃんはさみしそうで。
お姉ちゃんがいないとこなちゃんはものたりなそうで。
私ともゆきちゃんとも違うリズム。
お姉ちゃんとこなちゃんが、二人だけのリズムで歩きはじめたのはいつからだろう。
私が最初にこなちゃんと友達になったのにな。
私はお姉ちゃんの妹なのにな。
こなちゃんとはもちろん親友で仲良しで、お姉ちゃんは相変わらず私に優しかったけれど、それでも私は――。
ちょっとさみしかった。
そんなことを思うのは、いけないことなのかな?
私は悪い子なのかなぁ。
そう考えると、また涙が出てきちゃうよ。
でもお姉ちゃんの前でも、こなちゃんの前でも、泣いたら駄目だって、なんだかわかってた。
“感じること”が先に走っていって、私の“気持ち”を置いてけぼりにしている気がした。
くるくる、くるくる。
私の心と頭は一緒にならなくて、メリーゴーランドみたいにくるくる回っていた。
何度かお姉ちゃんにそのことを伝えようとしたんだけれど、お姉ちゃんはいつも違う方向を向いてた。
ねえ、お姉ちゃん、覚えてる?
――私がいるもの。おおきくなったって、どんなふうになったって、私たちはずっと一緒でしょ?
そう言ってくれたこと、覚えてる?
私、上手く言えなかったんだけれど。
すごく嬉しかったんだよ。
「つかさ」
十一月が終わりに差し掛かった頃、お風呂に行こうとした私をお姉ちゃんが呼び止めた。
お姉ちゃんは学校から帰ってきたままの、制服姿だった。
「は、話があるの」
その声はこわばっていて、なんだかとても緊張した音だった。
そんなふうなお姉ちゃんを見るのはすごく久しぶりのことで、私はとても驚いた。
まるで、小さい頃、お父さんお母さんに叱られる前に、自分のした悪いことをしゃべる時みたいで。
私相手にそんなふうに喋るなんて、初めてのことで。
私はなんだか、すごく怖くなった。
「う、うん…」
でも、話があるっていうんだから、聞かなくちゃ。
「えっと、ここで?」
たぶんダメだろうと思いながら言ったら、やっぱりお姉ちゃんは首を振った。
居間からはテレビの音が聞こえてくる。お父さんやまつりお姉ちゃんがきっとそこにいるんだろう。
「じゃあ、私の部屋でいい、かな?」
そう言うとお姉ちゃんはうなづいた。
お姉ちゃんは結局、私の部屋のテーブルの前に座るまで、最初に声をかけてきた時の一回しか声を出さなかった。
一体どうしたんだろう。
お姉ちゃんの緊張が空気を伝わってくるようで、私の心臓までドキドキしてきて、息が出来なくなりそうだった。
それを変えたくて、「お茶いれてくる?」って聞いたんだけれど、お姉ちゃんは黙って首を振った。
向かい合って座って、五分くらいして、お姉ちゃんはやっと声を出した。
「……あ、あのね、こなたのこと、なんだけれど……」
消え入りそうな声だった。
こなちゃん?
何で急にこなちゃんの名前が出てくるんだろう。
それで最近感じていた不安を思い出して、胸が、つきり、と痛んだ。
でもとにかく聞かなくちゃと思って、「うん」って言って、話の続きを聞こうとした。
そしたら、お姉ちゃんは大きく息を吸い込んだ。
それから、ふぅっと小さく息を吐き出して、小さな声で言った。
「私たち、付き合ってるの」
言っている意味がわからなかった。
だから、「え?」って聞き返した。
「付き合ってるって、誰と?」
「だから、私と………こなたが」
お姉ちゃんの声は小さくて、堂々としている普段とぜんぜん違って、別の人の声みたいで。
あんまりにもびっくりしすぎて、目の前にいる、見えているはずのお姉ちゃんの顔も見えなくなっていた。
だから私はそんなことを言っちゃったんだと思う。
「え? 女の子同士でしょ?」
お姉ちゃんが今にも逃げ出したいような顔をしていたのに気がついたのは、ずっと後になってからだった。
「そう…だけれど……」
いつも堂々としているお姉ちゃん。
凛々しくて、言いたいことがはっきり言えるお姉ちゃん。
そんなお姉ちゃんが、いじめられている小さな子みたいになっていくのが、私にはどうしてかわからなかった。
そして、ずっと感じていた不安。
お姉ちゃんはこなちゃんがいて、こなちゃんはお姉ちゃんがいればいいの?
――これは、そういうことなの?
そう思ったら、私は何だかすごく冷たい場所にいるような気持ちになった。
あの日の約束も、今まで四人で過ごした時間も、全部置き去りにされてしまったような気がして。
涙が溢れた。
私が泣き出したことに、お姉ちゃんはすぐに気がついた。
そして、凍りついたような目をした。
私はあわてて涙をぬぐった。
「あ、ご、ごめん…」
けれど、ぬぐってもぬぐっても、後から後から、溢れてくる。
「つ、つかさ……」
お姉ちゃんの顔が涙で見えない。
名前を呼ばれているのに返事が出来ない。
お姉ちゃんは私の側まできて、顔を覗き込んだ。
そして、すごく悲しそうな声で、
「つかさ――ごめん、ごめんね」
と言った。
その『ごめん』は、まるで、さよならを言われているような気がして。
お姉ちゃんだけじゃなくて、こなちゃんまでいなくなるような気がして。
私の涙はさらに溢れた。
こなちゃん。お姉ちゃん。
お姉ちゃん。
お姉ちゃん。
置いていかないでよ。
「お姉ちゃん」
だから、私は、
「どうしても、こなちゃんじゃないといけないの?」
自分が言っていることが、お姉ちゃんにどう伝わるのか。
わからなくなっていた。
お姉ちゃんはしばらく黙って俯いていたかと思うと、また「ごめん」と言って、私の部屋から出て行った。
取り残された私が、今がどう言う状況なのか気がついたのは、しばらくしてからだった。
涙が収まってきたころだった。
お姉ちゃんの気持ちにまで、私の心が届いたのは。
お姉ちゃんは、女の子――しかも、こなちゃんと付き合ってるってことを勇気を出して、告白した。
それがどういうことなのか。
そして、自分はどうしたのか。
その意味に気がついて、私は血の気が引く音を聞いた。
「お姉ちゃん!」
お姉ちゃんは家のどこにもいなかった。
私はコートを引っ張ってくると、家の外に飛び出した。
夜の鷹宮町は真っ暗で、街灯の光だけがぽつりぽつりと丸い輪であたりを照らしている。
まずは神社の境内に行った。けれどそこにはお姉ちゃんはいなかった。
それから近くのコンビニに行った。けれどそこにもお姉ちゃんはいなかった。
そこで携帯を思い出して、いちおうポケットに手を突っ込んだけれど、やっぱり置き忘れてきたみたいで無かった。
だから一回家に戻ることにした。
もしかしたら帰ってきてるかもしれないお姉ちゃんのことを考えて。
けれど、やっぱりどの部屋にもお姉ちゃんはいなかった。
コートを着たままどたばたしている私をお父さんが呼び止めた。
「つかさ、どうしたんだい?」
「お父さ…」
思わずお姉ちゃんがいないことをお父さんに言おうとしたけれど、私は言葉を飲み込んだ。
お姉ちゃんはあんなに勇気を出して、震える声で私に言った。
お姉ちゃんのことをよく知る『妹』の私が声を上げる。
『お父さんには言っちゃダメ!』
私は「アハハ、何でもないよ」と笑って、「ちょっとコンビニ行って来るから」と言って、家を出た。
今度は自転車に跨って。
考えて。考えて。
お姉ちゃんならどこへ行く?
そうだ、こなちゃん。
こなちゃんのところへ行ったかもしれない。
けれどお姉ちゃんの自転車は玄関脇に止めてあったままだった。
――歩いて?
自転車で三十分くらいかかる距離を歩いたら、何時間くらいかかるだろう。
けれど、他に思いつかない。
私は近くの公園に入ると、さっき持ってきた携帯で、こなちゃんへ電話した。
四コール目でこなちゃんが出た。
『やふー、どしたのー?』
「こなちゃん!」
『ふぉ!? ど、どしたの!?』
何だか私はそのこなちゃんの声にすごくほっとした。
「こなちゃあん……」
誰にも言わないでお姉ちゃんを探していたから、やっと話せる相手を見つけて、私はまた泣き出してしまった。
『ちょ、つかさ、何泣いてるの?』
電話越しでこなちゃんが慌てるのが見えた気がした。
そうだよね。電話して、いきなり泣いちゃったら、びっくりするよね。
「ふぇっ…えっ、お姉ちゃんがいないの」
『え? かがみが何?』
「お姉ちゃんが、ひっく、いなくなっちゃったの……。こなちゃんのとこ、行ってない?」
『いや、来てないけれど……』
もしかしたら、向かっている最中かもしれない、と私は言った。
『何があったの?』
「ふぇ……こなちゃ……」
『あーもうっ! 泣いてても電話じゃ頭撫でるのもなんにも出来ないよ! とにかくっ! 何があったか言ってみて!』
こなちゃんはいつものこなちゃんだった。
私の友達のこなちゃんだった。
また涙が出てくる。
「う、うん……」
けれど、ちゃんと言わないと。
「お姉ちゃんと、こなちゃんのこと……聞いた」
そう言うと、息をのむ音が聞こえて、こなちゃんはちょっと黙った。
『…そっか』
「それで……私が泣いちゃって……」
しゃっくりが出ちゃって、途切れ途切れだったけれど、私は何があったかこなちゃんに説明した。
こなちゃんは『うん、うん』って言って、黙って最後まで聞いてくれた。
『そっか』
とこなちゃんは言った。それから少しだけ間を置いて訊いてきた。
『つかさは私とかがみが付き合うの反対?』
「反対って」
反対っていうのとは、違う気がした。
私は、ただ二人がいなくなっちゃう気がして、泣いちゃったんだ。
だからそう言った。
『そっか……』
こなちゃんは少し悲しそうに言った。まるでさっきのお姉ちゃんみたいだ、と思った。
『ごめんね、つかさ』
その言葉まで、お姉ちゃんと同じで、私はまた胸が痛んだ。
でもこなちゃんは力強く続けた。
『ちゃんと三人で話し合おう。私もかがみ探すから。あーでも、入れ違いになったら…あ、ゆーちゃんに言っておけばいいか』
こなちゃんはずっとしっかりとした口調だった。
それで、私の名前を呼んだ。
『つかさ』
「うん」
『つかさが一番かがみを見つけられると思うから。見つけたら教えて。私も行くから。それからもっかい言うけれど』
「うん」
『かがみを好きになって、ごめんね。けれどつかさのことだって負けないくらい好きだよ』
こなちゃんは優しい声だった。
その言葉を、最近どこかで聞いた気がする。
――私は、つかさもみゆきも好きよ。
そうだ、私はちゃんと聞いていた。
知っていたはずなのに。
お姉ちゃん。
「うん、ありがとう」
電話を切った。
冬の風がかさかさと、公園の木のこずえを鳴らしてる。
こんな寒い中で一人のお姉ちゃんはどんな気持ちだろう。
私はもう一度自転車にまたがって、お姉ちゃんを探して、夜の鷹宮町を走り出した。
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- (/ _ ; )b -- 名無しさん (2023-08-22 10:00:17)
- 続きが気になるっす! -- 名無しさん (2010-11-16 02:32:31)
- 情景描写や心理描写といった表現全体がすごく綺麗で &br()すごく好きなシリーズです。 &br() &br() &br()あらためて、一作目から読んでしまいました。 &br() &br() &br()続き楽しみにしています。 -- 『泣き所』に当たれば『泣き虫』さん (2010-04-29 23:46:05)
- 続きが気になります! &br()あなたのSSは最高です。 -- 名無しさん (2009-11-23 00:20:34)
- らき☆でい -- 名無しさん (2009-11-21 12:37:44)
- GJ!! &br()続きが楽しみです &br()がんばってください &br() -- 名無しさん (2009-06-17 21:15:45)
- だから応援したくなるのだ -- 名無しさん (2009-05-22 18:05:20)
- 甘いのもいいけど現実的なのもいいよね &br()幸せは不幸の上にあるってのは悲しいが現実だもんな -- 名無しさん (2009-05-22 17:51:50)
- なんかこう読むと胸が切なくなりますねぇ… &br()つかさだからこその心情表現がすごく良いです -- こなかがは正義ッ! (2009-05-22 14:15:43)
- 凄い…雰囲気に飲まれてしまう。 -- 名無しさん (2009-05-21 21:18:41)
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#vote3(51)
2024-03-06T23:44:13+09:00
1709736253
-
「いつもの二人」
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/1287.html
泉こなたが柊かがみと付き合い始めて3ヶ月。
こなたが振り回し気味だった二人の関係はコペルニクス的に転回していた。
惚れた弱みという言葉も宛てにならない場合があるようで。
ツンデレではなくただのデレデレにジョブチェンジを果たしたかがみは壮絶だった。
電撃告白で寄り切ったうえ、惚れて弱るどころか(性的に)こなたを押し倒す勢いに。
そんなところも含め、こなたはかがみに押されっぱなしになった。
そんなこんなでこなたの身辺は(かがみ主導で)いろいろと変わった。
まず、こなたとかがみの二人だけで過ごす休日の数は大幅にアップした。
ついでに遊ぶ場所もアキバ・大宮・池袋の三択を脱出し、デートスポットを開拓中。
もちろんスポットの開発は基本的にかがみによるものだ。
休日はほぼ必ず二人で出かける時間をつくる、というルールさえ制定された。
「そんなルールいらないよ」と抗議したこなたにかがみは微笑んで言うのだった。
「ルールじゃないわよ。恋人として当たり前の約束でしょ!」
・・・。
むろんこれは休日だけに限った話ではない。
平日の学校生活もすでに侵食が始まっているのだ。
二人のときに見せていたかがみの「デレ」パートは徐々に他の場面でも見られる様に。
いつのまにかつかさとみwikiを置いて、下校はデートに化学変化。
登校時間と昼休み恒例の親友4人による食事タイムは今のところ健全だが・・・。
☆ ☆ ☆ ☆
今日も今日とて寝たフリの「嫁」に片腕をがっちりホールドされたこなたは下校中だ。
先日、電車内でのデレモードはよそうと話し合ったばかりだったのだが無視。
午後のまだ帰宅客が少ない時間帯、空いた車内だからこそ目立つ視線が痛い。
(こりゃ完全に誤算だったヨ・・・。ツンデレのツン抜きがこんなにヤバイとはね。)
きゅうう、というくらい腕をとるかがみの顔はこのうえなく幸せそうだ。
(はじめて新宿でデートしたときはまだツン成分があったというか・・・。)
『きょ、今日はあたしの欲しい物があっただけだから!ま、まあでも、あんたもたまには・・・』
(うーん。良かった。「・・・」の部分が小さくて聞こえなかったところも含めて。
というかあれから3ヶ月ぽっちでこうなるんだからなぁ。ってそれはあたしも一緒か・・・。)
カタンゴトン・・・。カーブに差し掛かった電車から、西日が差し込んでくる。
それが目に入った拍子に、こなたは思わずふっと息をついた。
かがみが「ん?」と薄目を開け視線で合図してくる。
薄紫の髪の色は、端のほうがぼんやりと輝いていて幻想的な雰囲気さえ漂わせていた。
振動で小刻みに揺れる体がすっと寄せられ、心地よいリズムを伝えてくる。
(うっ、TPO、といいたいケドあたしこれ弱いかも)
「何でもないヨかがみんや」と思わず微笑んでしまう。
日に照らされるかがみの口元がつられてふにっと緩んだ。
(ストレートだったあたしが言うのもなんだけど、コレはやばいネ)
ここで茶々の一つも出るのが泉こなただったが、最近は心中で呟くのが関の山。
(これが年貢の納め時ってやつか・・・。)
やられたー、と諦める。こなたなりの照れ隠しの仕草だ。
と、くいくい袖が引っ張られている感触。
横を見やると、「?」を浮かべた表情のかがみが袖を掴んでいる。
(やばいやばい!かがみん可愛い杉ダヨ!)という魂の叫びを脳内で飲み込む。
溢れる煩悩を留めようと無想転生の構えをとった。
そんなこなたの様子に再び怪訝そうな表情を浮かべるかがみ。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
若干の沈黙の後、先に口を開いたのはこなただった。
「なんでもないさ。かがみんや。」
「そう。」
短く答えると、本当に眠いのか再びこなたの腕を取ったかがみは目を瞑った。
(あれ?なんだかそっけないかナ?・・・眠いだけか。)
かがみの反応が微妙に引っかかったが、そこはこなた。何となく流してしまった。
☆ ☆ ☆ ☆
あくる朝。
「おはよう、こなた。」
「おはよう、こなちゃん。」
「やー。おはよう、かがみん、つかさ。」
冬の名残かまだ肌寒い朝。こなたはいつものように、眠そうな目のまま遅れて現れた。
「こなた、また夜遅くまで・・・。またネトゲなの?」
「こなちゃん昨日も?」
連夜のネトゲで眠たげなこなたと柊姉妹のやりとりも普段通りだ。
変化といえば、最近のかがみは「あんた」と呼ばず名前で呼ぶようになっていた。
「うーん、昨日はノッてるメンバーがいてね。つい付き合っちゃってさ~」
と、こなたはのらりくらり答えてかわす。まぶしそうに目を擦って見せた。
(この流れはもはや様式美だネ。かがみんもつかさもわたしも。)
最近のデレっぷりからして、恋人になる前は呆れ気味だったかがみも微笑む程度なはずだった。
しかし今日の「嫁」はどうも不機嫌なようである。
「ふぅーん。最近ちょっとハマり過ぎなんじゃないの?だってそれあたしと電話した後でしょ?」
と、眉根を寄せるかがみ。
(あれ?かがみん、どうしたんだろ?)
こなたとて、こう真正面からこられてうまく切り返せるほど、トークがたつわけではない。
だから先ほどと同じような反応になってしまう。
「うん。でも徹夜とかじゃないから安心してくれたまへよ、かがみん」
またも流そうとするこなたにかがみは拳を握った。
(そうじゃない。そうじゃないの。時間とかじゃなくてわたしはこなたが。)
「そうじゃなくて。わたしは、こなt」
と、踏みこもうとするかがみを見たこなたは一歩踏み出した。
見上げるこなたの視線に「??」と思わず言葉を止めるかがみ。顔が若干赤い。
(うーん、ちょっと徹夜明けで頭痛いし、かがみんにはフリーズしてもらお)
不純な動機だったが、次にこなたのとった行動は確かに効果抜群だった。
そのままかがみに抱きついたのである。そしてそのまま上目遣いでフィニッシュ。
「かがみさまぁー!どーか怒らないでヨ」
「――△!☆%?」
・・・ワンツーが決まった。
顔を真っ赤にしたかがみは「もう、こなたったら。」と、微笑んで抱き返した。
「調子がいいんだから(でも、こなた。あなた可愛いすぎよ・・・)。」
一方、こなたはこなたでだんだんと力がこもっていくかがみの腕に、内心焦っていた。
(うう、ヤリ杉たか・・・。って、かがみん、つかさというか周りを置いてきぼりだヨっ!?)
しかもかがみはこなたを抱いたまま、到着したバスに乗り込む態勢へ。
(うおお、かがみ様ストップ!ストォーップ!)
こなたがもがくも、すでに技を極めたかがみには通じない。しかし救世主が現れた。
つかさが「お、おねーちゃん、こなちゃん、恥ずかしいぃよぅ」と必死の抗議に出たのだ。
妹の悲痛な抗議(嘆願)でかがみは意識を取り戻すが時既に遅し。バスはさっさと出発していた。
悪ふざけが過ぎたこなたもさすがに観念した。
「うう、ご、ごめんね二人とも。あたしがかがみにふざけたばっかりに・・・。」
「ううんいいよ。でもこなちゃんもお姉ちゃんもほんとに仲が良いなぁ。」
とつかさ。随分とずれたフォローで、こなただけでなく黙るかがみも思わず笑いだす。
「プッ、アハハッ、つかさ、あんたそれフォローになってないわよ!」
「ええっ?!そうなのお姉ちゃん?」
「まーまー、いつもつかさには癒されるよね~」
「こ、こなちゃんまで~」
先ほどの妙な雰囲気はどこへやら。なんとも平和な朝になっていた。
☆ ☆ ☆ ☆
私は幼い頃から甘えられない子供だった。
お母さんにお父さん、それに幼稚園や学校の先生にいたるまで。
しっかり者と言われ、頼られるのは嬉しかったし、誇りにもしていた。
だがこなただけは。こなただけは違った。
こなたはいつも飄々として私をいなし、翻弄し、楽しませた。
こなたはいつもどこかで自分を道化にして、私を盛り上げた。
こなたの前で、私はしっかり者でも「お姉ちゃん」でもない。
ただの「柊かがみ」だった。こなたの前でのみ私は素のままでいられた。
それが私なりのこなたに対する甘えだと分かった途端。
いままで意味が分からなかった「ツンデレ」という言葉が理解できた。
いや、そこにこめられた、こなたなりの優しさと、ちょっぴりの甘えまでも。
だから、きっとその瞬間、私はこなたへの恋を自覚したのだと思う。
そうと分かると、現金な私の心はこなたへの感謝と甘えでいっぱいになった。
自分のツンデレと恋心を自覚したからか。こなたにツンとしていられなくなった。
だから私は、ツンを捨てることにした。
それなのに。
それなのに、恋人になったはずのこなたは何だかあまり変わってくれない。
そりゃあ、わたしのことをあまりいじらなくなったけど。
そんなのじゃなくて。もっと甘えたいのに。
『私は泉こなたと付き合っている。』最近、この言葉を何度も反芻する。
真夜中。こなたとの電話の後、電気を消した私は布団の中でそうしている。最近の習慣だ。
そんなことをするのは、もちろん私がこなたの気持ちを疑っているからじゃない。
もっともっと二人の距離を縮めるためだ。柄じゃないが私だってお祈りくらいする。
こなたがもっと私のことだけ見てくれれば。それだけでいいのに・・・。
「そうすれば、私だってお祈りなんか・・・。」
すっかり夜の口癖になった言葉を結び目に、私は目を閉じた。
こなた・・・。明日はもっと、貴女と・・・。
(おわり)
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- 素のままの柊かがみのくだりは納得した -- 名無しさん (2024-03-06 23:25:42)
- GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-08-23 13:27:02)
- デレまくるかがみ萌え♪ -- かがみんラブ (2012-09-16 21:53:02)
- 強めの独占欲的な「ヤン」なら、むしろ大歓迎です。抑圧度の高かったかがみんならこのくらいはデフォかもしれませんね。 &br()まぁこなたも意外と懐は広いと思うから大丈夫でしょう。 -- こなかがは正義ッ! (2010-07-02 12:35:05)
- ヤンデレと聞いて少々警戒して読み始めましたが、 &br()この位なら全然OKですね。 &br()ただ、かがみ様の症状がこの先更に進行するのは必至ですね。 -- kk (2010-06-30 22:27:05)
- ホントかがみんはアブノーマルが似合うなぁ。 &br() -- こなタックル (2010-06-30 21:48:36)
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#vote3(17)
2024-03-06T23:25:42+09:00
1709735142
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私の日常
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/1080.html
誰にでもある、日常というもの。
特に刺激もなく、何の代わり映えもしない。
中には、ループのように続くありふれた日常に嫌気が差し、刺激を求める人も少なくはないと思う。
だけど、いつかは気付く。
そんな日常が、本当はすごく幸せなんだということ。
私の日常
人は慣れる生き物で、同じような日々が続くと刺激が足りなくなり、何か大きなことを求めるようになる。
それはきっと人間の心理だから、そう考える人がいるのは当然だ。
私も、そう思う事は今までに何度もあった。
でも、私は平凡な日常を送れる事が、どれだけ幸せかって事も知っているつもり。
妹のつかさ、才色兼備なみゆき、そして、ちまくて、どことなくほっておけないこなた。
私の大切な人達。そんな人達と過ごす日常が、私にとってはこれ以上ない幸せで。
きっと、どんな些細な事があったとしても、皆とは離れる事はない。
そう確信している位、私から皆への信頼は強い。
逆もまた然りだと、勝手に思っている。
…でも、今の私は大きな不安を抱えている。
確信している…なんて言ったけど、多分今の私が抱えている問題は、きっと"些細な事"のレベルを超えているから。
少なくとも、私の中では、私の大好きな日常が壊れかねないと、そう思ってる。
そう、あれは半年ほど前に遡る…
まだ私達が2年生で、ちょうど季節の変わり目。
まだ控えめな風で木枯らしが舞い、その涼しくて心地よい風が頬を撫でる秋から、
急激に肌をつんざくかのような寒風を吹かせる冬に季節が移る頃、12月。
木々はすっかり葉という名の衣を捨て、枝のみとなってしまった、寂しい校庭周り。
道行く人も、皆防寒具を着込み、吐く息は白い。
そんな景色を、自分の教室の窓から眺めていたのを覚えている。
教室には、冬独特のにおい。これは、ストーブによるものだけど。
私達のいるような教室は見た目もあまり暖かくはなさそうだけど、
案外ストーブ効果はあるようで、つい、うとうととしてしまいそうな、そんなとある日の午前中。
その日も午前中の授業はつつがなく終了し、私はいつものように、親友達が待つ教室へと向かう。
「おーっす、来たよー」
私の声に揃って顔をこちらに向ける3人。
「お姉ちゃん、待ってたよ~」
ふんわりと笑うつかさ。
「いらっしゃい、かがみさん」
温かな笑顔で迎えてくれるみゆき。
「やふー、かがみん。早くこっちへ座りたまへー」
いつもの笑顔で、私がいつも拝借している席へと促すこなた。
三者三様の反応で、温かく私を迎えてくれる、私の居場所。
私も笑顔で返して、いつもの場所に納まった。
そこからは、いつもと同じ光景。
こなたがぼけて、私がそれにつっこんで、つかさが少し天然な会話をして、みゆきがそれをフォローして。
そんな"いつも"が、私はたまらなく好きだ。
こなたあたりにからかわれるから、口に出しては言わないけど。
その日も、"いつも"で始まり、"いつも"で終わる。そう思っていた。
でも、違った。その時の私にはよくわからなかったけど、今思えば、明らかに違っていた。
「…でさー、そのキャラがすっごいツンデレでさ~」
「へぇ~、そうなんだ~」
「つかさは身内にいるからわかるよね~、まんまなツンデレが!」
そうニマニマと力説しながら、私の方をちらちらと見てくるこなた。
どうせ言いたい事はわかってるけど…
「何よ、人の顔ちらちら見て」
「いやぁ~、改めてかがみはツンデレだな~って思ってさ」
「私はツンデレじゃないっていつも言ってるだろうが!」
私が拳を上げる動作を取ると、こなたは「ひゃー、かがみ凶暴~」と、座っていた椅子からさっと立ち、
頭を抱える仕草をしながら少し距離を置く。
「全く、今日と言う今日は拳で教育が必要みたいね…!」
私も席を立ち、こなたを追いかけようとした瞬間。
「あ…!」
私は運悪く、床に敷き詰められているタイルの、かけてはがれている部分に足を取られ、バランスを崩してしまった。
「かがみ!」
目前に迫るいかにも硬そうなタイルに、痛みを覚悟し、きゅっと目をつむった。
けれど、私がコンマ数秒後に感じたのは、思いの外柔らかい感触と、「うぐっ…」という、何だか情けない声。
次にわかったのは、とくん、とくんというリズムのいい音と、心地よい暖かさ。
あまりの心地よさに、一瞬、自分が今しがたこけたことなど忘れてしまっていた。
私が現状を把握するに至るのは、「かがみ、だいじょぶ?」という、聞き慣れた舌ったらずな声が私の下から聞こえてからだった。
ゆっくりと顔を上げると、すぐ目の前に、親友を本当に心配している表情のこなたの顔があった。
「………」
「あの、かがみ…」
まだ理解しきれていないのか、私の体も、表情も動かない。
次第に、こなたの顔が桜色に染まり出し、滅多に見る事のない、少し照れ臭そうな表情で…
「かがみ…顔、近いよ…」
とくん…
………ん?
何だ、今のは…?
急に体温が上がりはじめ、ようやく異常事態に気付いた私は
「な、ななな!?」
狼狽するしかなかった。急いで飛びのくと、やれやれと言った感じで、こなたもゆっくりと起き上がる。
「も~、かがみはにぶちんだな~。私が滑り込んでなかったら怪我してたかもよ?感謝したまへー」
「…え?あ、あぁ…ありがと」
この状況を見るに、私がすっころびそうになったところに、間一髪、こなたが私の下に滑り込んでことなきを得たようだ。
よく即座に反応出来たな。その運動神経には感心するし、私を助けてくれた事も素直に嬉しい。
でも、待てよ…
「そもそも、こうなったのってあんたが原因じゃないのよ」
「あ、あれ…そうだっけ?あっはっは、細かい事気にしちゃ世の中渡り歩けないのだよ、かがみん」
親指を立てて、私にむけてぐっと突き出して来るこなたに、今度は私が呆れる番だった。
「いや、お前は気にしろよ」
全く、相変わらず能天気だ。でも、その方がこなたらしいか。
さっきみたいな表情は…
そう思った瞬間に、先程まで頬を桜色に染めていたこなたの顔が私の脳内に広がって。
さっきのこなた…何だか……って!
煩悩を振り払うように、頭を左右にぶんぶん振る。
な、何を考えているんだ、私は…。よりにもよってこなたを"可愛い"だなんて。
いや、可愛いのは確かに可愛いんだけど。
でも、この感情は、普段こなたに対して感じている"可愛い"とは違う…と思う。自信はないけど。
結局、それが何だったのかわからないまま、時間も時間だったので、私は自分の教室へと戻る事となった。
午後の授業は、昼休みの事が気になってしまい、半分しか授業を聞けていなかったっけ。
みゆきほどではないけど、私も気になる事はそのままにしておきたくはない性分で。
いつもならしっかりと板書しているノートも、今日は具合が悪いらしく、いつもの半分程度のペースでしか埋まっていない。
ちゃんと耳に入る担当教師の説明すら、今の私にとってはBGMでしかない。
他人からすれば、「そんなに気にする事か?」かもしれないけど、私のなかでは、それが妙に引っかかっていたから。
何で、こんなに気になるんだろう。過去にこなたがあんな表情してたって、今まで気になった事なんて一度もないじゃない…。
こんな、名前もわからない、もやもやした感情なのに、どうして胸がちくちくするのよ。
今日の私は絶対におかしい。おかしいと言っても、体調は別に悪くない。でも、辛い。
何がそんなに辛いの?
わからない…。ずっと、そんな事が延々と、頭の中でぐるぐるとループしていた。
そんな初めての感情に戸惑う事しか出来ない私は、確実に私の中に宿った小さな火には、この時はまだ気付かなかった。
午後の授業に全く身の入らなかった私は、深く溜息を吐いた。
「一体、何やってたんだか…」
午後、目いっぱい使って自己討論をしているうちに、先程のもやもやした感情は収まってきていた。
自嘲気味に、誰にでもなく呟いた私は自席を立った。
既に午後の授業は全て終わり、ホームルームも今しがた終わった教室は、すっかり放課後の色となっていた。
これから部活に行く人、雑談に花を咲かせている人、帰りにどこか寄っていこうかと話す人。
本日の課題が終わった事による安堵感というか、ホームルームの前と後では、皆の表情も柔らかく見える。
教室も、気持ち温度が上がったような、そんな風に感じてしまう位に、一気に活気付く放課後。
自席から窓越しに眺めた景色が、登校している時と、下校している時とで温度差があるように感じるのも、きっと同じ理由なんだろうな。
私も例外ではなく、放課後を心待ちにしている1人ではあるわけで。
1日の中でも、楽しみな時間を過ごすため、今日も今日とて、親友達が待つ教室へと向かう。
「お待たせー、ちょっと遅くなっちゃったわ」
私の声に、昼休みと同じように、3人が揃って私の方へと顔を向けてくれる。
「ううん、私達もさっき終わったところだから~」
「ええ、ちょうどよかったです」
やはり、温かく迎えてくれる二人に「そっか~」と笑顔で返す。ここまではいつも通り。
「おやおや、私達より早くホームルームが終わったかがみんは、教室で1人何やってたのかな?」
とくん……
おかしい。
たった一声聞いただけなのに。
さっきようやく収まったはずの感情が再び疼き出す。
「…?おーい、かがみ?」
「…え?あ、べ、別に…考え事してただけよ」
私の反応がない事に疑問を抱いたこなたの声に、気付くのがワンテンポもツーテンポも遅れている。
顔が熱い。
「ふふーん…その反応、もしや男かっ!?」
「はぁ!?ち、違うわよ、そんなんじゃないって!」
素っ頓狂なこなたの発想に、思わず本気で反論してしまう。ていうか、何でもそっち方面につなげるな。
私とこなたのやり取りに、「え、お姉ちゃんそんな人いたの?」と本気でぼけるつかさにフォローを入れる身にもなって欲しい。
「ん~、じゃあ何のさ。かがみが1人で考え込むような事って…。あ、まさか…!」
「な、何なのよ?」
こういう時は、嫌な予感しかしない。こなたが悪戯を思いついたようなにまにま顔で私の事を見つめているから。
そのはずなんだけど、今日の私は、何度も言うようだけど、おかしい。
きっと、何かを期待している。何を…?
「ようやく、私の嫁になる決心がついたんだね!かがみ~ん!」
「え…えぇぇ!?」
「私の嫁」なんて、こなたがいつもふざけて私に言ってくる単語の中では常套句のはずなのに。
より一層、私の胸の鼓動は早くなり、過剰反応してしまう私に、こなたも少し訝しげな表情。
「どったのかがみ?何ていうか、ちょっといつもと違う?」
「い、いや、えっと…あんたが変な事言うからよっ」
「変な事って、いつも言ってるじゃん」
「それはそうなんだけど…」
上手く弁解出来ず、言葉に詰まってしまうのも必然か。しばしの沈黙。
つかさもみゆきも、どう入り込んでいいか迷っている様子だった。
しまったなあ、私。
それをこなたはどう取ったのか、ちょっと申し訳なさそうな表情になって
「かがみにだって、そういう事あるよね。ごめんネ、からかいすぎたよ」
私を気遣う言葉をかけてくれた。こなたは、実は相手の心を読むのが上手だから。
冗談が過ぎる事はあっても、本当に相手が嫌がる事は言わないし、引き際を知っているというか。
そんなこなたの言葉に、申し訳ないと思う気持ちと、心に染み込む優しさと。
そして、先程から止む事のない鼓動とが、入り乱れていた。
「いや、こなたが謝る事じゃないわよ。私も、なんかごめん」
私の言葉を聞いて、ようやくこなたの表情が元に戻る。
「ささ、そろそろ帰ろうか。青春は待ってはくれないのだよ!」
こなたに続いて、つかさ、みゆき、そして私と続く。
帰りのことは正直、あまり良く覚えていない。
ずっともやもやが晴れずに、私の中で燻っていたから。
こなたの優しさに改めて触れた事と、「私の嫁」発言が、確実に私の心を鷲掴みにしてた。
何で、こんなにこなたの事が頭から離れないのよ。
今まではこんな事なかったのに、絶対おかしい。
これじゃあ、まるでこなたの事が…!
その単語が思い浮かんだ瞬間、すぐにそんなわけはないと、頭の中からその考えを追い出した。
確かに、こなたの事は嫌いじゃない。
そうでなければ、親友なんてやってない。
でも、この感情は明らかに今までのものとは違う。
じゃあ、本当にそうなの…?
私は、こなたの事が…。
もう一度、その単語が思い浮かんだけど、今度はその考えを受け入れてみる事にした。
するとどうだろう。
今まで苦しかったもやもやが、心地よいものに変わって。
見つからなかったパズルの最後のピースが、ぴったりはまった感じと言えばわかるだろうか。
答え自体は、単純なものだった。
今までそういう経験自体なかったから、気付くまでに時間がかかっただけで。
その感情に、不思議と嫌な気持ちはしなかった。むしろ、清々しい位。
そっか、私はこなたの事が…。
途中、みゆきと別れたのが15分位前だっただろうか。
今は私、つかさ、こなたの3人で降車駅まで雑談をしているところ。
12月ともなれば日が落ちるのも早く、まだ16時半だというのに、もう辺りは夕焼けに照らされている。
夕刻になると、まだ1日が終わったわけじゃないのに、「今日もおしまいか」という気持ちになる。
それはきっと、一日の中で、私が一番好きな時間が終わりを迎える時間に他ならないからだと思う。
こなたとも、もうすぐお別れ。もう少しで、降車駅に着いてしまう。
また明日会えるのに、こんなに切なくなるものなのだろうか。
きっと、さっき気付いてしまった感情による作用が大きいとは思うのだけれど。
「まあ、かがみも今日はゆっくり休みなよ~。つっこみがいないと張りがないのだよ~」
「毎日つっこむ方の身にもなれって。幸い、今日は宿題も出てないし、ゆっくり休むわよ」
「あはは~」と冗談めかして言うけれど、こなたの目は真剣で。
「うん、でも本当に心配してるからさ。些細な事でも。だから、明日はいつものかがみに会わせてよネ!」
とくん…
あぁ、何でこんなに、私に優しくしてくれるのよ、あんたは。
いや、それはただの自惚れで、こなたは私以外にだって優しくしてると思う。
でも、この感情に気付いてしまった私には、止められない。
わかってはいても、期待もしちゃう。
だって、私は…
「おっと、そろそろお別れだネ」
「うん、また明日ね、こなちゃん」
「あんたも気つけて帰りなさいよー」
「うん。それじゃ、また明日ね、つかさー、それから…」
私は、こなたが…
「私の嫁!じゃーにー!」
どくん…
最後の一言で、更に心臓が跳ね上がる。
きっと、あいつは何の気なしに言った言葉。
でも、私にとってはそれがとても大切で。
だって、私は…"こなたを好きになってしまったから"
-[[小さな勇気]]へ
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- あなたの文才に惚れ惚れした -- 名無しさん (2024-02-25 21:58:06)
- (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-07-01 17:25:39)
- 堪能させて頂きました。心情の描写がとても丁寧なんですね -- 名無しさん (2013-06-24 15:14:33)
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2024-02-25T21:58:06+09:00
1708865886
-
卒業したら・・・
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/170.html
イライラする。
目の前でいやいや文法書の問題を解いているこなたを見て思う。
こいつは何だってこんなにもやる気がないんだろう。
私たちは仮にも受験生だ。
自分で勉強する時間を作るのは難しくても、
勉強する時間を与えられたら一生懸命勉強するべきじゃないのか?
今日だって模試が近いからってせっかく4人で図書室に来たのに、
こんなんじゃみんなで集まった意味がないじゃない。
「ねぇねぇ~、つかさもみゆきさんも帰っちゃったしサ、
勉強なんかやめてどっか遊びに行こぉよ~」
「・・・・・・あんた私がそんな誘いに乗ると思ってるの?」
「う・・・思ってないデス・・・・・・」
「よろしい。さっさと終わらせちゃいなさいよ。
その章が終わるまで本当に帰さないからね。」
「ぅええ!?アレ本気だったの?キビしすぎるよかがみん・・・」
相変わらず勉強しようという意志の見られないこなたにため息を吐く。
こなたが言ったようにつかさとみゆきは先に帰っていて今は2人きりである。
みゆきは用事があるそうで、それこそスラスラ~っとノルマをこなし、
「最後までお付き合いできず申し訳ありません」と言い残して帰っていった。
つかさにはもっと勉強してもらいたいところだったんだけど、
帰りに買い物を頼まれてて、どちらかが早く帰らなくちゃならなかった。
それで、つかさとこなたを残して果たして勉強になるのか不安だったから、
買い物はつかさに任せて私がここに残ったというわけだ。
・・・・・・それにしても。
こいつは何でこんなに危機感がないのだろう。
こいつは何でこんなに平気そうな顔をしていられるのだろう。
私はこんなに頑張ってるのに。私はこんなに焦ってるのに。
ああ、もうっ!本当にイライラするっ!
受験と共にちらつく”卒業”の2文字。
卒業したら私たちはどうなっちゃうんだろう。
私は法学部を目指してるけど、つかさは調理専門学校だしみゆきは医学部。
こなたにいたってはこんなで、将来のことなんて考えてる気配さえない。
みんなバラバラだ。バラバラになっちゃう。
私はそれが不安で仕方なかった。
とりあえず目の前にある受験という目標にその不安をぶつけていた。
みんな同じものを目指している。その連帯感が不安を少しだけやわらげてくれた。
それに引きかえこなたののん気さときたら呆れるほどだ。
こなたは不安じゃないんだろうか?寂しくないんだろうか?
もうすぐ、お別れなのに・・・・・・
胸にモヤモヤが生まれる。こなたが何を考えてるのかわからない。
鉛筆を鼻の下にのせ「むぅぅ・・・」とうなり声を上げはじめたこなたに話しかける。
「あんたねぇ、少しでも受験生の自覚とかないの?
そんなんじゃホントに大学いけなくなっちゃうわよ?」
「うぅ・・・・・・いいモン、大学なんていけなくても・・・・・・」
「ちょっとソレ本気で言ってんじゃないでしょうねぇ?
大学いかないでどーすんのよあんた?」
「ん~、まぁ世に言うNEE・・・
「はいストップ!馬鹿なこと言ってんじゃないの!
おじさんにいつまでも迷惑かけるわけにはいかないでしょ
まったく・・・・・・頼むからしっかりしなさいよ・・・」
「むぅぅ・・・そりゃいつまでもってわけにはいかないけど、
1年や2年ならOKしてくれると思うけどなぁ・・・・・・」
部屋で一日中ゲームをするこなたの姿が思い浮かぶ。
なんだか自然すぎて違和感がない。
――そっか、こなたは私たちと別れても平気なんだ。
ゲームがあれば幸せだから卒業しても寂しくないんだ。
モヤモヤがぐん、と大きくなった。
イライラを巻き込んで一緒に大きくなっていく。
私が黙って俯いているとこなたは何気なく言葉を続けた。
「ところでさ、なんでかがみはそんなに私に勉強させたがるの?
私が大学いけなくてもかがみには関係ないじゃん?」
・・・・・・”関係ない”。その言葉にカチンときてしまった。
私がこんなに不安なのに。私がこんなに寂しいのに。
こなたは私のことなんて気にも留めてないんだ。
そのことがどうしようもなく心をザワつかせる。
イライラもモヤモヤも一緒くたになって、
何なんだかわからなくなった感情が急膨張して暴れだす。
ダメ、気持ちが抑えられない・・・・・・
「悪かったわね!どーせ私は関係ないわよ!あんたはいいわよ・・・
どーせあんたは私と会えなくなっても構わないんでしょ!?」
つい大きな声を出してしまった。
感情を吐き出した所為か制御の利かなかった心が落ち着きを取り戻す。
そしてそれと同時に後悔した。こんなの八つ当たりだ。
まわりにも聞かれてしまったようで何人かが好奇の目を向けていた。
突然のことにこなたも驚いている。
「え?え?・・・な、何ソレ?どゆこと?」
「だ、だからあんたの言うとおり、あんたが勉強しようがしまいが
私には全然これっぽちも関係ないって言ってんのよ・・・・・・」
言ってしまった手前もう後には引けない。
羞恥と後悔で顔を赤くしながらそっぽを向いて吐き捨てる。
吐き出したはずのモヤモヤがちくちくと私の胸を責めたてている。
ヤダ、私カッコわるい・・・・・・。涙、出ちゃいそ・・・・・・。
私が顔を見られないように俯いていると、
こなたは場違いなほど間抜けた声で私に聞いてきた。
「いやいや、そーじゃなくてサ、
それでなんでかがみと私が会えないって話になるの?」
こなたの間の抜けた質問にポカンとする。
「え・・・・・・だ、だって卒業してバラバラになっちゃったら
会う理由がなくなっちゃうじゃない」
「なんで?」
「なんでって・・・・・・えと、学校じゃ会わないし、宿題もないし・・・・・・」
「私とかがみが会うのにそんな理由が必要?」
「うっ・・・・・・えと、その・・・・・・」
「かがみは私がそんな理由でかがみと会ってたと思ってたの?」
「え、いや、その・・・・・・。・・・・・・違う、の・・・・・・?」
「うぅ・・・かがみの中の私ってそんな薄情な人間なの・・・?
私たち用がなくてもしょっちゅう電話してるし、
放課後とか休みも一緒に遊びに行ったりするじゃん・・・・・・
私はかがみと会いたいから会ってるんだよ?」
「・・・・・・。・・・卒業しても、会いたいと思う・・・・・・?」
「まぁ、かがみが迷惑じゃなければネ。
あ、迷惑でも押しかけちゃうカモ♪」
「・・・・・・こなた・・・・・・」
私の中に何か温かいものがじんと流れ込んでくる。
トゲトゲしてた気持ちがうそみたいにまるくなって優しく心を揺らす。
さっきとは違う温かいものが込み上げてくる。
やば、ホントに泣いちゃいそ・・・・・・
たぶん赤くなってる目を見られるのが恥ずかしくて視線を逸らした。
私が何も言えなくなっているとこなたはにんまりと小悪魔の笑みを浮かべた。
まずい。このパターンは・・・・・・
「あれれぇ~、もしかしてかがみは卒業したら
私と会えなくなっちゃうと思って寂しかったのかなぁ?」
「う、うるさい!そんなんじゃないわよ・・・」
「何がどう違うのかなぁ~?ん?ん~?」
「くっ・・・・・・」
「やっぱり可愛いなぁ~、かがみんは。
心配しなくても大丈夫、私の寄生主第一候補はかがみんだから」
「・・・・・・ちょっと待て、そうすると別の心配をする必要があるんだが・・・」
「気にしない気にしない☆」
なんだか満足そうな顔をしているこなたを見てついつい笑みがこぼれる。
――そうだ、卒業なんかで私たちの縁は切れたりしないんだ。
そう思うと不思議と嬉しさが湧き上がってくる。
何よりこなたがそう思ってくれていることが嬉しかった。
嬉しい。でもそれがバレるのはなんだか悔しいから言わないことにした。
代わりにこなたには痛い一撃になるだろう一言を言い放った。
「ほぉら、手が止まってるわよ。早くやりなさいっての」
「うぅっ、その話に戻るのは反則だよかがみん・・・・・・」
「うるさいな。大体いきなり穀つぶしに転がりこまれても養えるわけないでしょ
せめて自分のことは自分でできるようになりなさい」
「むぅ、キビしいのはかがみじゃなく現実のほうだったか・・・・・・」
「うまいこと言ってないでさっさと手を動かす!」
「ハイ・・・・・・」
しぶしぶ問題にとりかかるこなたを見てもう一度微笑む。
――あんたがその気なら私だってずっとあんたの側にいてやるんだからね。
覚悟しなさいよ・・・・・・!
おわり
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- ワイもかがみんに寄生したい -- 名無しさん (2024-02-20 21:47:59)
- GJ! -- 名無しさん (2022-12-15 03:00:34)
- さびしんぼかがみん萌え。。。 -- ぷにゃねこ (2013-01-27 18:34:29)
2024-02-20T21:47:59+09:00
1708433279
-
とても大きな存在
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/1180.html
めずらしく真面目な話をしていたから。二人きりだったから。
私は今なら本当の気持ちを言えるって思った。
こなたはなんだか泣きそうな声で。
いつもからかってくるはずのこなたが寂しいって。
私たちとの別れをいやだって言うもんだから。
たくさんの思い出はほとんどこなたと共にあるということ。
クラスが違ってホントは寂しかったこと。
他にもたまの寄り道とか、ライブとかイベントごとの話もいろいろあるけれど。
とにかく私にとって泉こなたがいかに大きな存在か。
恥ずかしさが込み上げてこないうちに言いたかった。
「ずっと一緒にいてほしい」
……あれ、違う。
私が言いたかったのはそうじゃなくて、その……
「と、思ってる」
だあぁそうじゃない。
願望を心の中で留めておくなんて言っても無駄なのに。
いや、本音はそうなんだけど、何かいろいろはしょってるから。
だから私が言いたかったのは、私がこなたを好きってこと。
もう遅いけどね。完全に素に戻っちゃったし。
うわっ、自分の台詞を思い出すだけで恥ずかしいから。
結局それ以上なにも言えなくて、帰ろうって。
気づいたら家に着いていた。
中途半端にしか気持ちを伝えられなくて、そのまま無言で。
素直じゃないのは散々からかわれてるからわかってる。
絶対言えるわけないよね。
ただでさえこなたには素直になれないのに、
こなたを、恋愛感情で、好き、だなんて。
だって私たちは女同士なんだから。
常識的にも私の心がちょっと普通じゃなくて。
どう考えたってこなたが受け入れてくれるはずないのに。
「お姉ちゃん、ちょっといいかな?」
つかさだ。また宿題のこととかかな。
ベッドに身を預けたまま部屋に入れる。
やっぱり教科書とノートを抱えていた。
「えっと、今よかったの?」
「別にちょっと考え事をしてただけよ。ほら、見てあげるから」
ベッドに寝転んでることなんてしょっちゅうあるのにね。
まぁそういうときはいつもラノベ読んでるかケータイいじってるんだけど。
「こなちゃんとなにかあった?」
全く、どうしてこうも鋭いのかしらね。
双子だから?確かにつかさの考えてることはなんとなく想像つくけど。
大したことじゃない。というかいつもこなたに結びつけるな。
……たいていその通りなんだけど。
「こなちゃんなら大丈夫だよ」
なにがだ。いったい何を思ってそんな言葉が出るのだ、妹よ。
「えっと、こなちゃんに言ったんじゃないの?」
そんな不思議そうな顔されてもね。
……もしかしてつかさ、気づいてる?
ニコッと笑顔で頷かれた。
「ゆきちゃんもね、気づいてるよ。気づいてないのはこなちゃんだけ」
えっと、私の気持ちはバレバレだったってこと?
というか、あんたら知ってて何も言わなかったんだ……
「その、変だとか思わないの?」
好きな人を知られてたのは恥ずかしいけど、それより聞いておかないと。
大事な妹、親友だからこそはっきりさせておきたい。
私はおかしいんじゃないかって、この恋は間違ってるんじゃないかって。
「えっと、私はまだ恋したことないからあれだけど、人を好きになるのに性別って関係ないんじゃないかな」
でも返ってきたのは非難の言葉なんかではなくて。
「私も、ゆきちゃんも応援してるよ」
私にはこんなにも心強い味方がいたんだ。
「こなちゃんなら大丈夫だよ」
何を根拠に、と思ったがつかさの笑顔になんにも言えなかった。
というかそれだけ言って出ていってしまった。
勉強はいいのかしら。でも私はそれどころじゃないかも。
明日、もう一度話してみないと。
『明日の放課後、少し時間をください』
昨夜こなた宛てに送ったメールの一文。
敬語なのは私のちょっとした決意表明といったところ。
その日私はつかさと別行動をとった。
こなたと顔を合わさないため。
こうでもしないときっと私は本当の気持ちを伝えられない。
こなたの前では素直になれない自分がいるから。
受験生。放課後になるとほとんどの生徒は自宅または図書館へと足を急ぐ。
私も最近は周りの空気に気圧されピリピリしている。
それでもこなたたちといると自然と肩の力を抜いて笑っていられる。
全く、普段は勉強しろって口うるさく言ってるのに、やっぱりあいつの隣は居心地がいい。
ほんっと何をしてても浮かんでくるのはあいつのことばかり。
だから今日、この時間に呼び出したんだ。
私の隣にふさわしいのはあなたよって。
あなたが笑っていてくれたら……私はそれだけでいいんだ。
最近は日が長くなって、まだまだ明るい教室に、彼女は佇んでいた。
「ごめん、待った?」なんて軽い調子で声をかける。緊張しすぎないように。
長い髪をなびかせ彼女が振り向く。
いつもの笑顔で、そうでもないよって。
なんだかとても大きく見えるな。私のほうがだいぶ身長高いのに。
少し離れてるからかな?それだと普通小さく見えるはずよね。
でも、やっぱり私にとってあなたは大きいよ。
「何か大事な話でもあったの?」
「えっ、いや……うん」
茶化されるかもってほんのちょっと思ってたけど、そんな様子はなかった。
いつも見ている猫口笑顔じゃなくて、大きく開かれた瞳がじっと私を見つめてる。
やっぱり、吸い込まれそうな、とても綺麗な緑色の瞳。
見とれてた?違う。空気に呑まれてたんだ。
初めて、あどけなさを残した顔が、見たこともない大人の顔をしてて。
拒絶されるかもって不安を感じてしまった。
「大丈夫」つかさはそう言ってくれた。
必死に考えて、気合い入れてまで。
そう、ちゃんと言わなきゃ……
「昨日さ」
不意にこなたが呟いた。
「ずっと一緒にいてほしいって言ったよね」
大丈夫。こなたもわかってくれてる。
いつまでも躊躇している私にこなたから話を切り出してくれた。
「あれはどういう意味なのかな」
『ずっと一緒』それは卒業してしまう私たちには不可能なこと。
目標も学力も違う私たちは別々の道を歩みだす。
それくらいわかってる。
うん、私が言いたかった、こなたが聞いてるのは気持ちのこと。
今ならちゃんと言葉にできるわよね。
「私にとってこなたがそばにいるのは当たり前って思ってた。ううん、こなたがそばにいてくれないとダメだって気づいた」
つかさの姉としてしっかりしなきゃって。ずっと強い人間を演じ続けていたのね。
でもこなたの前ではそんなことなかった。
素直じゃない私。不器用な私。すぐきつくあたってしまう私。
いろんな、私の本当の姿があった。
それに気づけたのも、受け入れてくれたのも全部こなたよね。
私がこうして笑っていられるのもこなたのおかげ。
大げさかな?でもそれくらいこなたと出会えたことはすごいことなのよ。
気づいたらあなたがいた。
あなたの笑顔、あなたの声が私に力をくれる。
あなたが笑ってくれるから、自分を好きになれた。
あなたの光で私は、何気ない日々が輝いていた。
ねぇこなた、大好きだよ
エピローグ?いや、おまけ
「私も、好き」
「こなた……」
「すとーぷっ!一応私はそっちのケはないからね」
「じゃあさっきの好きってのは?」
「恋愛感情とは違う、けどつかさやみゆきさんに対しては思わない。親友以上恋人未満ってやつ?」
「なによそれ。結局ずっと一緒ってのは無理なの?」
「それは違うよ、気持ちの上ではかがみと同じ。そうだね、そういうことを望むなら私をその気にさせてみせてよ」
「……えっと、私の気持ちは受け入れてくれるのよね?」
「うん、かがみの気持ちは嬉しいよ。同性愛とかこだわってないから」
「じゃあ心の準備ができてないってことよね」
「う、うん?そうなるのかなぁ」
「わかったわ。見てなさいこなた、必ずその気にさせてあげるから!」
「ちょ、かがみさん!?て、手痛いよ!?わかったからひっぱらいで~」
**コメントフォーム
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- かがみがんばれ -- 名無しさん (2024-02-13 23:28:15)
- GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-08-04 18:42:25)
- みゆきさん、つかささんはもうきずいてたんだ -- かがみんラブ (2012-09-15 15:00:44)
- 最後のこなた、前編と気持ち変わってない? -- 名無しさん (2010-06-11 02:50:43)
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#vote3(29)
2024-02-13T23:28:15+09:00
1707834495
-
キンモクセイ
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/214.html
――バイト帰り。すでに午後九時を回って、辺りは真っ暗。
私は、暗い夜道を歩いている。
少し肌寒くなってきたこの頃、キンモクセイのほのかな甘いにおいが心地良い。
……今日はバイト遅くなっちゃったな~。かがみん、きっと
お腹を空かせて待ってるんだろうな。早く帰らなきゃ。
――そんな事を考えると、ついつい歩く速度を上げるのは
世の常、人の常ってやつだと思う。
妙に冷たい風が、私の体温を奪っていく。
……寒っ。
襟元を閉めて、また歩き出す。
――そんなこんなで自宅に到着。
正直言ってボロイけど、今となっては特に気にしてない。
玄関を「カチリ」と開けると、かがみんがソコに立っていた。
……なんで玄関先に立ってんの?
外から見られてたんだろうか?
「トリック オア トリート!!」
――「どったのかがみん?」と質問をするより早く、妙な言葉を
かがみんが発した。
……だけど、その意味はすぐに理解できた。
…「オカシをくれなきゃイタズラしちゃうぞ?」
デジャヴってやつだ。ゆ~ちゃんが前にやってたのを思い出した。
「え?…えと、あいにくお菓子は持ってないな~」
――ようやく言葉をひねり出す。
……大体今日が十月三十一日であることも、さっき思い出したばっかりなのに
オカシとか、そんなもん持ってないよ。
「へ~? んじゃあ、解かってるよなぁ~」
――イタズラ。
かがみんが不敵な笑みを浮かべ始める。
「い、一体何のはなs…うわぁ!」
――会話が終わる前に、肩を捕まえられて
玄関に背中を叩きつけられた。
逃げ場がない。
私の顔がどんどん紅潮しているのが、熱を帯びて来ていることで
容易にわかる。
「は~い、良い子だからおとなしくしてろ~?」
言いながら、かがみんの顔が吐息を感じれるくらい近づいてきた。
――キンモクセイよりも甘い、ミントとルージュの香り。
そして―。
fin
**コメントフォーム
#comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3)
- 🥰 -- 名無しさん (2024-02-13 23:21:34)
- GJ! -- 名無しさん (2022-12-19 19:38:36)
- ハロウィン最高ですな・・・どんな悪戯をされたのやら(2828) -- 名無し (2010-03-30 00:17:44)
2024-02-13T23:21:34+09:00
1707834094
-
擦れ違いのその後に
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/1188.html
『擦れ違いのその後に』
「擦れ違い……ねえ」
そんな私の呟きに反応したのか、隣にいるこなたがスッとイヤホンを外した。
「……どったの、かがみん? 急にそんなこと言い出して?」
「いやね、テレビでやってた映画がさ、若いカップルが擦れ違いながらも結ばれるっていう内容だったのよ」
ふとテレビに視線を戻すと、映画はもう終わっていてニュース番組が放送されていた。
こなたとの話のほうが重要と判断した私は、それに集中する為にテレビの電源を消した。
「それはまた随分と古典的な……今時そんなの流行らないよ」
「昔の映画だったからね~。ていうか、あんたも一緒にいたんだから内容分かるだろ?!」
「いや~、私こっちに夢中だったし! それにイヤホンも付けてたしさ~!!」
こなたは目の前にのテーブルにあるノートパソコンを指差しながらそう言った。
画面表示を見る限り、ネットゲームでもしていたのだろう。
自分の部屋に戻ってすればいいものの、私がリビングにいる時はわざわざノートパソコンを持ってきてこなたはここでゲームをする。
それも私と一緒にいたいんだなーなんて思うと、微笑ましかったりするのだけど。
さっきだってイヤホンしてたのに、私の声には敏感に反応したし……
まったく、こういうところは何時まで経っても可愛いと思う。
「それにしても、本当に擦れ違いなんて流行らないわよね。どうしてかしら?」
「ふっふっふ、それにはちゃんと理由があるのだよ、かがみん!」
こなたは自分だけが知っているのが凄く嬉しいらしく(何時もはそんなことほとんどないし)、嬉々とした表情をしている。
なんだか悔しいような気もするけれど、ほんの少しだけ興味がわいた。
「へぇ~、どんな理由があるの?」
「これはお父さんから聞いたんだけどさ。知ってる? かがみ。
小説家、特に推理作家はどうやって携帯電話を使えないようにするかを考えるのに苦労してるって話」
「知らない。でも凄く分かるような気がするわ」
こなたの言った事は初めて聞いた事だった。でも言われみると確かに納得できる。
携帯電話があるとお話の中では不便であることが多いかもしれない。
推理小説など携帯電話で助けを呼ばれたら、お話にならないだろうし。
「今の時代どこでも携帯電話が通じるから、大変らしいよー」
「確かに昔の小説とか読んでたら『なんで携帯電話を使わないんだー』っていいたくなる場面あるものね」
外国ならともかく、今時電話線を切られたくらいで外部との連絡が不可能になるとは思えない。
それに最近では地下ですら電波が届くのだから、山奥とかじゃない限り携帯電話は使えてしまうだろう。
その山奥でさえ、これからはどうなっていくことか?
高校時代にこなた達と山で遭難しそうになったことがあったけど、それだって携帯電話が通じてなんとかなっちゃったし。
そう考えると、推理小説、それも本格と名のつく物の行き先は暗いのかもしれない。
「それと同じで、擦れ違いの場面を書くのも難しいし、書いても現実性がなくなっちゃうみたいだよ。
待ち合わせ場所にいるはずの相手が見つからない。それじゃあメールか電話で連絡だって、今はそれが普通になっちゃってるもん。
携帯持ってない人なんて、今じゃほとんどいないしね」
「それでもあんたは、なかなか携帯持ち歩かなかったけどな」
「それは昔の話だよ……」
こなたは私の突っ込みにバツが悪るそうに肩を竦めた。
昔のこなたを思い出す。
思えばこいつはいつも携帯電話を忘れきて、それでいて待ち合わせの時間に遅れていた。
そしてそれを当たり前だと思っていたのだから、当時の私は非常に悩ましく思っていたのを覚えている。
今は流石に携帯電話も持ち歩いているし、それに……大抵の場合一緒に出かけるから問題なのだけど。
「と言うわけで、ロマンチストのかがみには生きにくい世の中になってしまった訳だよ」
「誰がロマンチストだ! でもまあ、話の内容は納得。確かにこんな時代にドラマみたいな擦れ違いなんて起きないわよね」
便利になったというか、夢がなくなったというか……
電話が普及して手紙を書くことが少なくなったように、メールが普及して年賀状を書かなくなったように、
便利さというのは夢や風情と反比例するのかもしれない。
「かがみはさ、してみたい? そういうドラマチックな擦れ違い?」
「あー、絶対いいわ。ここに至るまで、散々すれ違ってきたから。もうたくさん、おなかいっぱいって感じ」
「そうか……そうだね。私ももうしたくないや」
思えば擦れ違いの連続だった。
互いの感情と擦れ違い、生き方で擦れ違い、そして家族、友人ともすれ違った。
おそらくは普通の人が体験するよりもずっと多く……
「でも……今じゃそれも悪い事じゃないように思うから不思議よね」
すれ違って、すれ違って、すれ違って、それでもそれが重なるたびに何か大切なものを得たような気がする。
そう思えるほどには歳を取ったのだと思う。
「思い出にすらツンデレとは、流石かがみん! 私の嫁!!」
「ツンデレ言うな!」
お約束ともなったこなたとのこのやり取り。一体どれだけしてきた事だろう。
だけど、最近私は思うようになっていた。
「ねえ、こなた?」
もうこのやり取りも終わりにしようと……
「いい加減、その『私の嫁』っていうの止めてもらうわ……」
「え~、なんで?! 私の嫁は私の嫁じゃん!かがみは私のお嫁さんだよ!」
嫁、嫁、嫁、ねえ……
「いいえ違うわ……こなた!」
「ほえ?」
私は少しでも優位に話を進める為に、バッと立ち上がった。
話を優位に持ち込むには目線を高くするのが基本なのだ。
そしてビシッと座り込んでいるこなたに向かってはっきりと宣言した。
「あ・ん・た・が、わ・た・し・のお嫁さんなの!!」
「いきなりトンデモ発言きたー!! 」
流石に私がそんな突拍子もないことを言うとは思ってもいなかったのだろう。
私の言葉にこなたはただただ目を丸くしていた。
「大丈夫? かがみ。いきなりそんなこと言い出し始めて、頭とか打ってない?」
「私は至って正常よ」
確かに私がそんなことを言ったら、変だと思うかもしれない。
だけど、私は真剣そのものだった。
「いい加減ハッキリしておきたいのよ、この問題は。嫁、嫁言われてたら、何時の間にか既成事実になっちゃいそうだしね」
「かがみ?」
こなたはまだ私の気持ちを分かってはくれない。だから私はもう一度、ハッキリと言い放った。
「もう一度言うわ。私がこなたのお嫁さんじゃなくて、こなたが私のお嫁さん。分かった?」
「全然分からない!いいじゃん、別にかがみが私の嫁だって!! 別に言いたいだけなんだからさ!」
大切なところがすれ違ってると思った。考えてみたらどうしてそんなことを言ったのか、私はこなたに話していない。
まったく、私はいつも大切なところを言わないのだから困まったものだ。
自分の段取りの悪さに思わず苦笑してしまう。こなたが絡んでいなければ、こんなことは絶対にありえないのになぁ……
「駄目よ……」
「だから何でさ?」
「だってそうしたら嘘になっちゃうじゃない。この紙……」
私は近くの引き出しに大切にしまって置いた紙――婚姻届を取り出して、こなたの前にそっと置いた。
我ながらなんと恥ずかしい事をしているなとは思うのだけど、もう見せてしまったから後には引けない
「言っとくけど、本物だからね。後は右側をこなたが書いてお終い。っていっても、実際に出すわけじゃないんだけど」
「かがみ……」
こなたは目を丸くして私の顔をじっと見つめていた。
きっと驚いているのだろう、さっきとは違う意味で……
「私言ったわよね。もうすれ違うのは嫌だって。だからこういうのがあれば……」
擦れ違いそうになるとき、互いを結び付けてくれるのではないか?
そう言おうとしたのだけど、何故か声が出なかった。
きっと緊張で喉が渇いているからだろう。
「ねえ? こなた。私頑張ってるわよ。こなたが苦労しないように、こなたの隣にいる為に、私頑張ってる。だから……」
私はこなたの手を両手で包み込んで、こなたの目を真っ直ぐ見て言った。
「右側……埋めてくれるとすごく嬉しい」
こなたは顔を赤らめると、私の視線に耐えられなくなったのか俯いて黙ってしまった。
それからどれくらいたっただろう?
こなたはゆっくりと顔を上げて私を見つめた。その顔の赤さは今の私にだって負けてないだろう。
「かがみは卑怯だよね。私のどうでもいい一言に、こうやって大事なことのっけてきてさ……」
「かもね」
「……プロポーズ?」
「かもね」
私の言葉を聞くと、こなたは大きくため息を吐いた。
そして近くにあったペンを握り締めると、その紙にせっせと自分の名前を書き始めた。
「……はい、書いたよ」
「うん……」
私はこなたの名前が書かれたそれを見つめると、大事に元にあった場所にしまった。
この紙が私達を結び付けてくれると信じて。
しかしこの行為といい、さっきのこなたのため息といい、こういうことって普通こなたがするものよね。
でもまあ、たまにはこんな風にしてみるのも悪くないかと思う。
「どうだった?こなた。久しぶりの擦れ違いは?」
私はこなたの隣に座りなおすと、からかい気味にそう聞いてみた。
「擦れ違い?今のが?」
「さっきの言い争いだって立派な擦れ違いよ。嘘だと思うなら、お得意のそれで調べてみたら?」
私が目の前にあるノートパソコンを指差すと、こなたはそれに従ってインターネットに接続し始めた。
そして「擦れ違い」の言葉を辞書検索し始める。検索結果が表示されるのにものの1秒もかからなかった。
『
すれ‐ちがい〔‐ちがひ〕【擦れ違い】
1 触れ合うほど近くを反対方向に通りすぎること。「―に呼びとめられる」
2 時間や位置などがずれて、会えるはずが会えないこと。「共働きで―の夫婦」
3 議論などで、論点がかみあわないこと。「会談は―に終始した」
』
「ね?」
「うーん……なんだかよく分からないけど、かがみが言うんだからそうなんだろうね」
「そうよ。そういうことにしておきなさい」
私がそう言うとこなたは首をかしげながらも、うんと頷いた。
「で、感想は?」
「まあ、こういう擦れ違いだったら悪くないかな。でも……」
「でも?」
こなたはそう言うなり私にギュッと抱きついてきた。
こなたの体から感じる温もりが、心地よくて気持ちいい。
「私はやっぱり、こっちの方がいいや……」
「……同感」
こなたの温もりをより感じたくて、私はこなたを抱き寄せる。
それにあわせるように、こなたの抱きつく力も強くなったような気がした。
私達はこれまで、何度も何度もすれ違ってきた。
そしてその度に大切な何かを得てきたような気がする。
だけど、私は……私とこなたは思うのだ。
やっぱり私達は、こうして重なっていた方がいい。
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- さいこーです -- 名無しさん (2023-12-10 13:54:28)
- GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-08-18 09:00:21)
- 婚姻届!? -- かがみんラブ (2012-09-15 19:15:02)
- こなたが嫁だろ -- 名無しさん (2010-04-07 22:27:25)
- こなたが嫁派です! &br()GJ -- 白夜 (2009-10-17 00:30:03)
- どっちが嫁でもいける私は幸福GJ -- 名無しさん (2009-06-05 04:54:30)
- 私はこなたが嫁派だ。このかがみさんカッコいいし。 &br()というわけでGJ! -- 名無しさん (2009-06-01 15:29:31)
- かがみが嫁だろ… -- 名無しさん (2009-06-01 14:21:29)
- さらっとやってしまうのが &br()かがみっぽいですね。 -- 無垢無垢 (2009-05-27 21:28:12)
- 何気ない瞬間のプロポーズは卑怯ですよ?かがみさん。 &br()でも「こうかはばつぐんだ!」でしたね。 &br() -- こなかがは正義ッ! (2009-05-27 14:11:32)
- 俺も思う &br()GJ! -- 名無しさん (2009-05-27 08:16:22)
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2023-12-10T13:54:28+09:00
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