何気ない日々:紫陽花色と青空色を繋ぐあの日の温もり

このページを編集する    
何気ない日々:紫陽花色と青空色を繋ぐあの日の温もり



 まだ梅雨前だというのに、空は暗澹とした雲に覆われていて、窓の外からは強い雨音が響いてくる。
「身体が重いのに、空まで重そうだと気分が滅入ってくるもんだネェ」
思わず呟いてしまいたくなり、そうしてみるものの誰からの反応もない。そりゃそうだ、ここは学校じゃない。
私は自分のベッドに氷枕に冷えピタなんて完全装備で転がっているのだから。
 昨日、かがみの傘入れてもらってた時に調子に乗ってじゃれすぎたのが原因かなぁ。思いのほか背中がずぶ濡れになってたし・・・
でも、家に帰ってすぐにシャワーで温まって、それから着替えたし。特に風邪をひくようなことはなかった筈なんだけど。
 普段、風邪とかひかないのに久々にそうなると気分的にもすごく滅入ってくるもんだネ。
それでもいつもなら、ネトゲとか漫画とかそういうものには動けるのに、今日はどうもそういう気分じゃない。
せっかくかがみと仲直り・・・って喧嘩してたわけじゃないんだけど、いつも通りになって皆で騒ぐのが楽しかったのに、
たった一週間でその楽しい日常を自分でお預けにしてしまったわけで・・・はぁ、そんなことを思ってると余計に滅入ってくるよ。
 今日は、ゆーちゃんはもちろん学校で、お父さんも仕事関係のはずせない打ち合わせでいない。
テレビもつけてないから雨音だけが、ただただノイズのように聞こえてくるだけで静かな時間。
「はずせない打ち合わせで遅れたら大変なのに、車で朝のうちに病院に連れて行くお父さんにはありがたいとは思うけど、ちょっと呆れるかも」
前に風邪をひいた時に、黒井先生に狼少女扱いされたので、お父さんに電話を頼もうと思い測った体温計を見せると、
熱が高かったからインフルエンザかもしれないからと言って、着替えをする暇もなく流れるような動きで車に乗せて病院に連れて行くお父さんの姿を
思い出すとちょっと笑えるというかなんというか・・・
でも「なんかこういう持ち上げた感じが、かなたに似てきたなぁ」と感慨深げに呟いたときは、さすがに色々な意味で、ちょっとひいたけどね。
「こうやって独り言を呟いてると余計に寂しいもんだネ」
はぁーと思いっきりため息を吐いた。
ため息を吐くと幸せが逃げるなんていうけど、風邪をひいている時点で十二分に幸せを逃していると思うのでこれ以上は逃げないと思う。
 ちょっと前までは風邪をひいたことにして休もうと思っていたのに、実際風邪をひいて休むことになったのに全然嬉しくない。
ゲームくらいなら、もちろんできるくらいの体力はあるんだけど、どうしてかそういう気分になれない。
ただ天井を見上げて大人しく横になっているなんて、私らしくない気がするんだけどね。
「・・・何か物足りないなぁ」
呟いてから自分自身でそれにはっとするくらい驚いた。物足りないならゲームすればいいのにそんな気分じゃない。
それなのに物足りない・・・じゃぁ、足りないものは何なのだろう。
 ふと思い浮かぶのは、紫陽花色の髪をした貴女、仲直りする前に繋いだ手の温もり、それから・・・いや、その・・・うん。
だめだ、顔が熱以外で顔が赤く染まってしまう。
 確かにそういうゲームも同人誌も持ってるけどサ。現実にそうなるともっと嫌悪感があると思ってたのに・・・いや、そもそもあれは事故なわけだし・・・なんで自分に言い訳をしているんだろう。頭を抱えて、誰に対してというわけでもなく狼狽するなんて、物凄く私らしくない気がする。
 もしかしたらと考えた事もある。でも、それはかがみへの裏切りのような気がして。
 だから、あれは事故だからと、そう思っていたい。そう思うことが一番だと信じて。
額に手を当てるとやっぱり熱い。その手があの日、バスで繋いだ手だと気づくとより熱く感じた。どうしかして、そろそろ考えを切り替えよう・・・。
「食欲なくても、これだけは何故か食べられるのは不思議だよネ」
そろそろお昼だったし、考えを頭からとりあえず追い払うために、身体を起こしてチョココロネを齧る。
お昼とか作れる自信がなかったから、病院の帰りにスポーツドリンクと一緒に買ってきたんだっけ。
 風邪をひいているときは、消化の悪くてちょっと重みのあるこういう食べ物は受け付けない筈なんだけど、
これだけはどうしてかお腹に入っちゃうんだよネ。いやー人体の不思議の一つって奴だネ。
 食べ終わったら、薬を飲んで眠ろう。早く治してこの物足りなさを解消しなくては。



 こなたが風邪で学校を休んだらしい。
 朝、待ち合わせの時間になってもこなかったから、遅刻かと思ったんだけど。
今日は、前に母に言った嘘が真になって返ってきたらしくて、課題のプリントをやってなかった為に休憩時間には皆の所に行く暇がなかったので、
それを知ったのは、ついさっきだ。
「また仮病か?全く、あいつは」
「今日はこなちゃんが電話を掛けたわけじゃないから黒井先生も心配してたし、本当に風邪だと思うよ、お姉ちゃん」
つかさが、また仮病かっていうのはちょっと酷いよ~と笑いながら言った。笑ってるけどちょっと心配そうな顔をしてる。
「泉さん、大丈夫だといいのですが・・・」
みゆきが、とても心配そうに呟いた。つかさ、みゆき・・・私も含めて、箸が止まりがちだ。
私たちの元気の源といっても間違いではないこなたがいないのだから仕方がない。雰囲気もどことなく暗澹としてる。
 もっとも暗澹としている原因は、この重苦しい雨空の所為もあるのだと思うのだけれど。梅雨でもないのにもう三日も降り続いている。
「そういえば、風邪ひいた時って小さなことで凄く寂しくなったりするよね」
「そうね、つかさは物凄く寂しそうな不安そうな顔で横になるもんね」
「そ、そんな凄い顔してるかな」
「そうですね、風邪をひいた時は心細くなりがちですから。
 特に今日みたいな天気の日に独りきりになったりすると、私もとても寂しくなりますから良くわかります」
こなたはどうなんだろう。寂しいと感じる以前に意気揚々とゲームしてる姿しか浮かばないが。
「こなちゃんはどうなのかな?」
つかさがそう言った時、思わず心の内を読まれたかと思った。
「泉さんもやっぱり同じなのではないでしょうか。心配ですね」
みゆきの視線も、つかさの視線もこなたの机に向いていた。
「あいつなら大丈夫でしょ。どうせ、ゲームとかアニメとかに熱入れてるわよ。
 それにあのおじさんなら、こなたが風邪で寝込んでいるのにほっとくわけないでしょうし」
きっと過保護すぎるくらい看病してるわよ、そんな言葉で締めくくってご飯を口に運ぶ。
「あははっ、そうだよね~。そうなってたら、凄くこなちゃん家らしいね」
「泉さんなら風邪でも元気かもしれませんね」
皆の顔に笑顔が戻る。どうも、こなたがいないと二人の笑顔の源になる役目は私に御鉢が回ってくるらしい。
まぁ、私も心配じゃないわけじゃないんだけど・・・素直に寝込んでいるあいつの姿が想像できない。
 大体、天気予報を見ないで傘を持ってこなかったのだから自業自得なのだし。
そもそもつかさに入れてもらうから傘を貸してあげると言ったのに「それは悪いから途中まではかがみの傘に入れてもらうことにするヨ」なんて言って
結局はいつも通りのじゃれ合いに付き合う羽目なっただけだったから、からかうのが目的で私の傘に入ってきたとしか思えん。
でも、じゃれ付いてくるあいつのことをもう少し気に掛けていたら、あんなに背中がずぶ濡れにならなかったかもしれない。
「でも、課題のプリントを学校に忘れるなんてお姉ちゃんにしては珍しいことだよね」
あれが原因で風邪をひいたのだとしたら少しは私にも責任が・・・。
「お姉ちゃん?」
「へっ?あ、ごめん。考え事してた、もう一回お願い」
「何を考えてたの~?」
「泉さんのことですか?」
みゆき、鋭いわね。普段どおり返さないと、なんだか気恥ずかしい。
「そ、そんなわけないでしょ。課題のプリントがあと少し終わってないのよ、それについてちょっと考えてたのよ」
声が上ずってしまった。図星を突かれたのが、みゆきには完全にバレてるだろうなぁ。
「お姉ちゃんも、なんだかんだ言ってこなちゃんのことが心配なんだね」
それが嬉しいのか、つかさが笑顔になる。こういう時は、つかさも凄い鋭いわね。
「かがみさんも泉さんが心配で仕方がないのですね、ふふっ」
みゆきも笑顔になる。雰囲気は和らいだけど、私は気恥ずかしさでたまったものではない。
「だ、だから違う、違うのよ?ほんとにあいつのことなんか心配してないからね」
どんどん自分で墓穴を掘ってるような気がする。たぶんそれは“ような気が”ではなく、確実に掘ってる。
「あぁぁぁ、もう好きに考えてくれていいから、その、二人して見つめるのはやめて。お願い・・・」
顔が真っ赤になっているのが自分でも良くわかる。穴があったら入りたい。
「こなちゃん、早く治るといいね」
「そうね」
「そうですね」
つかさの言葉に私とみゆきも心から同意する。
 はぁ、何か物足りないわね・・・。前の倍とは言わないけど、あのことがあってからあいつがくっついてくる回数が増えてきてたからかしらね。
 喧嘩したわけじゃないし、誰が悪かったわけでもない。・・・そうね、しいて言えば私が悪かったと言うべきかも知れない。
不安と信頼を天秤に掛けて、信頼のほうに軍配を上げられなかった私の心の弱さ。
 そんなことを考えていると、ふと思い浮かぶのは、青空色のあいつ。まさに晴天のような元気を身に纏っていて、私達の中心にいる。
そんなあいつに私は振り回されて、からかわれて、でもそれは鬱陶しいとは思わない。
くすぐったくて、気恥ずかしくて、それでいて容赦なく構わずにはいられない。
 喧嘩をしていたわけではないけれど、仲直りというのが一番正しいと思う。
その前に繋いだ手の温もり、それから・・・いや、その・・・うん。だめだ、顔が自然に赤く染まってしまう。事故だ、事故なんだから。
 でも、そこを思い返せば思い返すほど、どうして嫌悪感を感じなかったのか。
幼稚園の頃にふざけ合いでそういうことはあったけれど・・・でも、今は状況が違う。世間やその他もろもろを知った上で嫌悪感を感じなかった。
もしかしたら・・・そう一晩考えたこともあるけれど、なんだか、そのもしかしたらが正しかったら、こなたへの裏切りのような気がして。
だから、そうじゃないと、事故だったから。それが全てへの免罪符だと信じて疑いたくない。
「お姉ちゃん、どうしたの?さっきから顔真っ赤だよ・・・もしかしてお姉ちゃんも風邪とか!?」
「かがみさん、大丈夫ですか?」
「ふぇ?そ、そんなに赤いかしら・・・」
二人の言葉を聞いて、手を頬に当てる。この手は、あの日繋いだ手だ・・・そう思うと顔はもっと真っ赤になって、余計に熱く感じる。
「大丈夫?お姉ちゃん」
つかさの手が額に当たる。だいぶ冷静になってきたから、もうそんなに熱くはないだろう。
「熱はないみたいだね~」
「そうですか、なら安心ですね」
二人は心配そうな不安そうな表情から、心底安心したという感じで笑顔に戻る。
「大丈夫よ、二人とも心配しすぎ」
でも、二人らしいとも言える。
 こなたが寂しがったりする所なんてあまり想像できないけれど、もし、そうだったらと思うと少しだけ胸が痛かった・・・心配しすぎかな。
 帰ったら、前の仕返しにお見舞いに行こうかな・・・もちろん、つかさも連れて。



コメントフォーム

名前:
コメント:


投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)


|新しいページ|検索|ページ一覧|RSS|@ウィキご利用ガイド | 管理者にお問合せ
|ログイン|
  



★Counter

TOTAL: -
TODAY: -
YESTERDAY: -

★更新履歴

取得中です。