いふ☆すた Episode 1.5 - A ~収穫期~

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こなたが好き。

昨日よりも。
今日のお昼のときよりも
夕方、別れたときよりも。
お風呂に入る前よりも。
電話をかけたときよりも。
一秒前より、一瞬前より…

確実に今、こなたがスキ。

封印すると誓った想いは風船のように絶えず膨らみ、まるで消されてしまうのを呪うかのように私の心をさいなむようになっていた

っ…こなたぁ…

深い痛みに耐えられなくなった私は、自分の身体を投げ出すように、自室のベッドに倒れこむ。
そのまま仰向けになり無気力にだらりと四肢を投げ出した私は、閉じられたまぶたを開き、周囲に視線を這わせてみた。
机の上にはやりかけの宿題。
手のそばには折りたたみ式の携帯電話が、まだ、私の体温を残したまま、半開きの状態で残されていた。
私は再びそれをそっと手に取ると、手馴れた操作で発信履歴を確かめる。

ほんの数分前に残る履歴。
それだけじゃない。
昨日も、その前も。
こなたと繋がる数字の羅列がずっと下まだ続いていた。

…わかっている。
こんなことじゃいけないのに…

私の中に響くこなたを求める声があまりにも大きくて。
結局、無視できずに今日もかけてしまっていた。
…こんなことで、いつになったらあいつのこと、忘れられるのだろうか?
もう、明日からかけるのは控えよう。
学校で会うのも自粛しないと。

…決意とは裏腹に、それが口先だけの方便であることを、私は予感していた。
きっと明日の私はまた電話をかける。
今日の私がそうだったように。
私…だめだな…
結局、自分では何一つ変われていない。
…いや、変わるつもりなんて最初からないのかもしれない。
みんなを不幸にしたくないなんて、建前や綺麗事を並べて逃げてるだけ。
何も出来ない私はただの偽善者だ。
もし、この期に及んでまだ、全てがうまくいくかもしれない何ていう希望にすがっているのであれば。

…だとしたら、ホント。大馬鹿野郎だわ。

深い自己嫌悪のため息をつきながら、再び携帯電話の画面に視線を落とす。
…別にその行為に意味があったわけじゃない。
ただ、そこに写る何かから逃げ出したかった私は、気が付いたらその履歴を上からひとつずつ消去をしていた。
無機質な作業音と私の吐息だけが、耳障りに響く。

こなたとの記憶も、思い出も…何もかもこんな風に簡単に消えてしまえばいいのに…
そして、また出会った最初のころに戻れるなら、今度は友達としてやり直せるのかな?
膨らみすぎてしまった想いは、まるで収穫期を逃した果実のよう。
そして、いつかは自分の重さに耐えられなくなって、地面に落ち、砕けるのだろうか。
人知れず実った果実なら、遅からず辿る運命なのだろう。
でも、もし、そのときが来てしまったら、私はどうなってしまうのだろう。
…一緒に砕けてしまうのだろうかな…?
それはどんな音をたてて砕けるのだろうか。私はその音を知らない…
きっと、醜い音を響かせるに違いない。
…砕けてしまうのはいい。どんな音を響かせてもいい。
ただ、醜く砕けた私が、それ以外のものを汚してしまうのではないか、それだけは私は心配でならない。
だから、そうなる前に刈り取らなければならない。
最期はせめて自分の手で。

…コン、コン…

不意に響く、部屋の扉を叩く音に、私は思考を中断させた。
誰だろう?
…と、いってもこんな夜の遅い時間に、私の部屋に用事がある人物は一人しか思い浮かばない。
おそらく妹のつかさだろう。
どうしたんだろうか。
また、怖い夢でも見たのだろうか?

コン、コン…
「お姉ちゃん、起きてる…?」

ノックと同時に聞こえる声はやはりつかさだった。

「つかさ?いいわよ。入って」

私が促すと、困ったようにも照れたようにも見えるいつもの顔で、遠慮しがちに入ってきた。

「ごめんね、こんな遅くに」

「いいわよ、まだ起きてたから」

「うん…」

扉を静かに閉めたあと、なにやらもじもじと立ち尽くすつかさ。
自分では言い出しにくいのか。仕方ない…

「どうしたのよ?」

「え、えぇと、えへへ…
 久しぶりにお姉ちゃんと一緒に
 寝ようかなって…ダメ?」

軽く上目使いでこちらを見る。
私が他人で男だったら、思わず抱きしめてしまうかもしれないくらいには可愛らしい表情。
つかささん、いつの間にそんなスキルを覚えたの?
この子の将来が軽く心配になってきた…けど
ま、まあ、いいわ。

「そんなことだろうと思ったわ。いいわよ。
 どうせ怖い夢でもみたんでしょ?」

「…えへへ」

まあ、枕も一緒に持ってきている時点で泊まるのが目的なのはバレバレなのだが。
やりかけの宿題は気にはなったけど、もうやる気も起きないな。
いいわ、明日出さなくちゃいけないものじゃないからね。
こなたが…見せてっていうかもしれないから早めにやってただけだったし。

「じゃあ、電気消すわよ~」

「あ、あ、まって~」

私はひとり分の空間をベッドにつくる。
つかさが暗闇の中、よたよたと入ってくる気配を感じる。
あぁ、久しぶりだな、この感じ。
昔、部屋が別々になったときには、つかさがよく私のベッドに潜り込んで来てたっけ。
今じゃ滅多にないけど、こういうのも悪くない。

「懐かしいわね」

ベッドに私の体温が融けるのをまって、私はつかさに声をかけた。

「そうだね」

早寝遅起きの眠り姫、つかさ嬢も緊張しているのかまだ寝つけていない。


「お姉ちゃん?」

「なに?」

「…元気?」

「え?何よ急に」

唐突過ぎるつかさの問いに、理解が追いつかない。元気?

「えとね、最近お姉ちゃん、何だか元気がないみたいだったから
 …その…気になったの。
 だから、私でもいいなら相談に乗れればなって…」

「わたし…が?」

私が元気がない?
思い当たることならひとつしかない。
でも、そんなに表情に出てたのかしら。
上手く隠していたつもりなのに。

「こなちゃんのこと…かな?」

つかさから出た名前は、意外でかつ、核心を突いたものだった。

「! なんでこなたがでてくるのよ!?」

「ご、ごめん!」

つい叫んでしまった。萎縮するつかさの瞳が間近に見える。生まれる罪悪感。

「あ… ごめん、こっちこそ怒鳴っちゃって…」

「…」

「…」

「ふぅ…
 ありがと、つかさ。
 心配、してくれてたんだね」

「うん…」

「…こなたは関係ないわよ。ただ、ちょっと疲れただけ。
 ほら、もうそろそろ自分の将来とか考えなくちゃいけないし、
 それに試験も近づいてきてるから…それだけよ」

私は妹に嘘を付いた。

「…そう…なんだ」

「あんたこそどうなのよ。大丈夫なの試験?」

「はう!」

「まさか、忘れてたんじゃないでしょうねぇ…」

話をすりかえて図星をつく。
ふと…もしかしてつかさは怖い夢を見たのではなくて、私を励まそうと来たのかな?
…まったく。

「つかさ、余計な心配しなくていいのよ」

そういうと私はつかさに手を伸ばす。
背中に右手をまわし、左手は上から頭を抱える形に。
そのままぎゅっと抱き寄せ、つかさの顔を自分の胸まで持っていく
ちょっと姉妹でも恥ずかしいけど、今だけは、そうしたかった。

「…余計じゃないよ。大切なお姉ちゃんだもん」

「…はいはい」

さっきまでの緊張が嘘のように解けていく。
あのまま一人で悩んでいたなら、私は今日、寝付けなかったかもしれない。
つかさのおかげだな…

ありがとう、つかさ。

私は飲み込んだ想いを口にすることはなかったけど、
その代わり、精一杯、抱きしめることで言葉にした。


意識が断続的に途切れるようになってきたな。
このまま眠るのも悪くないかも
つかさを抱く腕にもう一度、力を加えた後、静かに緩め、私は意識を沈めていく。

「…もう、私のお姉ちゃんをやめてもいいんだよ…
 お姉ちゃん…」

最後のつかさの言葉は、もう私の耳には届かなかった。


Episode 1.5   END





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コメント:
  • つかさ良い子や… -- 名無しさん (2009-01-21 00:14:06)


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