いふ☆すた EpisodeⅠ‐A ~刈り取る想い~

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いつから私…
あいつのこと、こんなにも好きになったんだろう…

教室で授業を受けながら、私は、そんな漠然とした自問をした。

しかし、そんな答えはもう、あえて考えるまでもなく私の中に存在していた。

…例えるなら、あの真夏の澄み切った空のような蒼い髪。
南国の海を思い出させる綺麗なエメラルド色の瞳。
初夏の太陽みたいに温かく、明るいあいつ…
初めてあったときから、こなたのすべてが私の心を惹きつけた。

一目惚れって…奴だな。

私はそう、ひとつのため息をこぼす。
視線を動かし、窓に目を向けると、無遠慮な夏の日差しが、私の瞳に差し込んできた。

…もし、こなたの色を、夏の空に例えるのなら、私は何になるのだろうか?

自分の薄紫色をした髪を、手のひらでそっとすくい取って流してみる。

…秋の夜空、昼と夜の境界、宵闇…ってところかしらね?
いずれにしても…

そこまで考えてから、私はノートの置いてある、机の上に頭を投げ出した。
先生の授業の声が、まるで睡眠を誘う呪文のように、私の意識を深い底まで溶かしていく。抗うすべは、残されていなかった。


「…み、か…が~み!」

…う、ん?誰?

不意に体に受ける振動と、私を呼ぶ声。
はっきりしない意識のなか、私はのっそりと重い頭を上げて呼び声の主まで視界を導く。
…そこには…私の夏、そのものが立っていた。

「かがみぃ。
 ぼ~っとして、珍しーねぇ。
 もう、早くおきなよ。
 はやく起きないと、寝起き顔、写メっちゃうよ~?」

視界がまだ…ぼやけている。
少しずつ色を取り戻す景色のなか、私は見覚えのあるさらさらとした蒼い髪を見つけていた。
私は誘われるままに、間近にあったそれを手に取る。
絹のような感触。

「…こなたの髪?
 あんたの髪って綺麗よね…」

ふんわりと、甘い香りを放つそれ。

もっと…

抑えきれない欲求のまま、それを唇にあてる。

「いい…香りがする…」

「ふぇ? …てぇ!? な、ななななな~!!」

瞳に写るそれは、顔の部分を真っ赤にしていきおいよく後ずさって行った。

「か、かかかか… かがみん!? どうしちゃったのさ!!
 もしかして…寝ぼけてる?」

離された私の左手が寂しそうに宙をかき、喪失感に刺激されたか、少しずつ意識がはっきりしだしてきた。

夢と現実の狭間…

…ワタシ、イマ、何シテタ?

うぁ…

思い出すにつれ、顔に熱が集まっていく。

や、やっばい!

「こ、こなた!いつからそこにいたのよ!
 つか、ここ教室がちがうじゃない!」

恥ずかしさにつられて思わず叫んでしまった。
こなたの小さな肩がびくんと跳ねる。

「え!え?
 い、いや、お昼休みになってもかがみが来ないから、迎えに来たんだけど…?」

おどおどと答えるこなた。
…そうか、もうそんな時間…てか。
やばい、どう誤魔化そう!

そ、そう!とりあえず、

「…あ、悪い。ね、寝ぼけてたわ。すぐ支度するからあんたは戻ってて。
 ん?どうしたのよ。
 顔、赤いわよ?」

私はとりあえず惚けることにした。
ていうかそれしか思い付かなかった。
しかし、これは愚策だ。
言ってから気が付いた。
きっと私が知るこなたなら、ここぞとばかりにからかってくる。
絶対くる。
一瞬ののち、覚悟を決めた私は、こなたの次の発言を待った…

不自然な間

「………?
 いや、なんでもないよ?
 顔、赤い?
 あは、風邪でもひいたかな~?」

自分の後ろ頭をなでながら、徐々に私から距離をおくこなた。

「じゃ、私、先に行って待ってるから。
 かがみも寄り道せずに来るんだよ!」

「?…お、おう…」

一呼吸を置いてこなたはそう告げると、私を指差しながら勢いよく教室の出口まで駆け出した。

私はそれを呆然と見送る。

う、うまくいった? それにしてはこなたの挙動がおかしい気がするんだが…

元気に走り去ったこなたの跡を見つめながら、一抹の不安を抱く。

まあ、ごまかせたのなら、いいかな?
さぁて…

いそいそと机の上を片付けてから、カバンからお弁当を取り出し、歩きだす。
こなた達の教室に向かうあいだ、私はボンヤリと考え込む。

気付いてないよね? 私の気持ち。

もしも。
もしもだ。
この気持ちをこなたが知ってしまったら、と、いつも考えてしまう。
今の、陽だまりのようなみんなとの関係が、私は好きだった。
もし、知られてしまったら、そんな関係も壊れて無くなってしまうのだろうか?
気持ち悪い、と拒絶されてしまうのだろうか?

…たぶん、私の信じているみんなは、そのどちらもしないだろう。
たとえ、こなたに告白して…断られたとしても、私はこの関係だけは変わらないものだと信じている。
では、なぜ告白をしてしまわないのだろうか。
大好きだって伝えてしまえば、少しは楽になるかもしれないのに。
…しかし、その答えも、すでに私の中に存在した。

もし、告白して…
こなたに…

― 受け入れられてしまったら ―

私が一番恐れているのはそれだった。
馬鹿な考えだってわかってる。万にひとつでも、それはないというのに。
私はそれに怯えていた。

もし、受け入れられてしまったら。
私はきっと止まれなくなる。
受け入れられた時点で、これは私だけの問題じゃあなくなる。
つかさやお父さん、ほかのみんなにいっぱい迷惑をかける。
目に見えて分かる。
私はそれが許せなかった。

…だから、私は決めたんだ。

「この思いは絶対に伝えない」

私が多少…苦しくても、みんなを苦しめてしまうよりはマシだった。

眠ってしまう前に考えていたこと。
例え話を思い返す。

こなたが昼なら私は夜。
…いずれにしても。

夜が昼と一緒になるなんてありえない。
いつも寄り添いあう関係なのに…
もし、一緒になることを望んでしまったら、きっとみんなが迷惑する。

私たちの関係に、少し似てるかもね…

気持ちと一緒に、次第に俯いてきた顔を正面に向ける。

こんなことでどうする。悟られないって誓ったじゃない……て?

真っ直ぐ向けた視界の奥。正面の廊下をなにやら青いものが走ってくるのが見えた。
こなただ。

「何やってんのあんた?」

私のちょうど正面で急ブレーキをかけて止まる彼女。

「私より早く出てったのに、何で前から走ってくるのよ。
 教室はここでしょ?」

リレーなどでも息が上がらないこなたが、珍しく方で息をしている。
てか、どんだけ全速力で走ったんだ?

「ハァ、ハァ…
 い、いやね?
 考えごとしながら走ってたらいつの間にか教室過ぎちゃってて…
 こういうことって…あるよね?」

いやいや、同意を求められても困るのだが。
てか、隣の教室に戻るのに、なぜ走る必要がある。

「いったいどこまで行ってきたのよ?
 息、苦しそうだし」

妙な間。言い出しにくそうな顔をしているこなたを、視線で脅しつける。

「…ぃ…く…ん」

「聞こえない」

「…体育館」

「な、…馬鹿か?アンタは」

あの短い間に、二階の教室から、離れにある体育館まで全力疾走で往復してきた馬鹿がここにいます。

「ぅう~、馬鹿ていうなー」

もう…ほんとしょうがない奴。
私はあきれながらも、漏れてしまう笑顔を隠しておいた。

「ほら、いいから行くわよ」

私はその場でくるりとこなたに背を向け、教室の扉に向かう。

「あぁ、待ってよぉ。かがみ~ん!」

置いてけぼりをくらった彼女は、急いで私の後を追う。
私の横をちょこちょこと付いてくるこなた。
私の至福の時。
いつか終わりが来る時間。
でも…これ以上は望めない。
ただ、この時間が出来るだけ永く続いてくれれば…

幸せは誰かの犠牲によって成り立っている。
誰かがそんな事を話してったけ?
もし、真実がそうなのなら、本当に私が望む幸せは、きっと多くの人を犠牲にしてしまう。
だから、私がひとり、想いを犠牲にするだけで、みんなが今のまま幸せでいられるのなら。
第一、一番の親友に対して、こんな不純な想いを持ってしまった私には、ちょうどよい罰なのだろう。
こうやって否定し続けれていれば、いつかはこの想いも…忘れられるのかな?

「…んっ!」

私は突然、胸に走った鈍痛に、顔をしかめる。

「…どしたの? かがみ?」

「…いや、なんでもないわ」

こなたが心配そうに私の顔を覗き込む。

「そう…なら、いいんだけど…」

こなたは、一瞬見せた、寂しそうな顔。すぐに元の笑顔に戻ったけど。
…ごめんね、こなた。そう、なんでも…ないの。
親友に嘘をつかなければならないという罪悪感。そして…

―ワスレタクナイ―

鈍い痛みとともに心の底でそう告げる。
でも、だめ。忘れなければならない。
だって、みんなが大好きだから。
こなたが…大好きだから。
だから…沈めるんだ。

私はいつか、刈り取る想いを。
胸の奥に、深く。

EpisodeⅠ‐A  END


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