何気ないこと(5)

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何気ないこと(5)交差する心



 放課後、私はこなたが来る前にまた屋上に来ていた。そろそろ、寂しさも限界なのに素直になれない。そんな自分が嫌になる。
 空はすでに赤く染まっていて、青い色がアイツを連想させることは無いのだけれど、それがとても寂しくて、何故だか涙が滲んで来てしまった。
 中学の頃にもあった。こうして、友人達から少し距離を置いてしまったこと。それで友人関係は脆くにも壊れてしまったのだ。日下部や峰岸は、変わらなかったけれど。
 もうこなた達との関係も壊れてしまったのかもしれない。今更どんな顔をして、彼女達に会えばいいというのだろう。自分の勝手な不安で距離を置いた。自分の勝手な恐怖で距離を置いた。壊れてしまったとしてもそれは私が悪いのだ。
 ひんやりとした風が肌や髪を撫でる。髪の毛が唇の上にひっかかってしまったので、それをはらったときに指先が唇に触れた。
 がさつき、荒れた唇の表面。もう一度指で撫でる。何時の間にこんなに荒れてしまったのだろう、荒れるような季節でもないのに。
 ここ一週間の間、睡眠時間は短くなっている。不安と寂しさ・・・自分で招きいれた孤独感で眠れなかった。
「はぁ・・・全く・・・」
相変わらず、屋上で空を見上げたまま、私は纏まらない考えに苛立ちと気持ち悪さを感じていた。
 またひんやりとした風が肌や髪を撫で過ぎ去っていく、結構寒いわね。
ただでさえ背中が制服越しとはいえ、コンクリートの上に寝転がって空を見上げているのだから、体温が奪われていくのは仕方がないことだと思う。そろそろ、教室に誰もいなくなっただろうか。続きは、教室で考えよう。
最近は、つかさが毎日のように部屋にやってきて、私の様子を見ているから考え事をする暇がない。考え事をしているときの私は酷く虚ろな表情をしているらしく、それがつかさに心配をかけてしまうみたいだから、家で考える時間はつかさが寝てからになってしまっている。
服を掃ってコンクリートの破片や何かを払い落とす。屋上からでて、鍵を閉めて隠し場所に戻す。うちの学校には屋上の入り口が二つある。一つはいつも開いていて、もう一つは鍵がかかっている。いったい何時隠されたのかわからない、この隠された鍵を見つけたのは入学してすぐだった。まさか、偶然見つけた鍵をこんなことで利用することになるとは思いもしなかったけれど。今では誰にも存在を忘れ去られた皮肉にもウサギのキーホルダーのついた少しさびた鍵がほんの少し、自分自身と重ねてしまう。
教室に戻る前にトイレによって、鏡をみた。
少し血色の悪い顔色にがさついた唇。無理やり笑みを作ってみたものの、酷い顔が余計に酷く見えただけだった。私はため息をついてから、ふと思い出す。
「確か・・・」
スカートのポケットを探って、薄い桜色のリップクリームを取り出した。まつり姉さんにもらった物だ。買った理由が面白そうだったからだそうで、結局使わずじまいで大掃除の時にくれたのだ。
 何が面白かったのかを聞くと、香りがあるリップクリームは珍しくないけどこれは甘い味がついているのだそうだ。天然素材の中に甘い味がする素材が含まれているらしいから高かったらしいけど、結局もっといい色の物を見つけて使わずじまいだったそうで。前に一度塗ったことがあるが保湿性に優れているし、縫った感覚も悪くなかった。
「ん・・・」
少しは血色がよくなった唇になった。荒れている感覚も和らいでいるし、校則のことは気になったけれどたぶん大丈夫だろう、色はとても薄いから。
 改めて鏡に映った自分を見つめてみる。目はもう充血してはいない、唇の血色がよく見えるようになったのがよかったのか、全体的な顔色も柔らかくなった気がする。
 何故リップクリームがポケットに入ったままなのかは少し気になったものの、たぶんうっかり入れてそのままだったのかも知れない。思い返せば、初めて試しに使ったときポケットにいれたままだったような気がする。そして私は、また考えを元に戻して教室に向かった。

 扉を開けて中に入ると、夕日が差し込んでいて、案の定、誰もいなかった。
 自分の席に座って顔を窓側に向けて夕日を眺める。そしてそのまま、静かにゆっくりと机の上に頬を重ねる。いつの間にか熱を帯びていた頬にひんやりとした感触が心地よかった。
「はぁ・・・」
思わずため息が漏れる。夕日の儚さと自分の愚かさに。

 私は、泉こなたをどう思っているのだろう
 最近、頭の中を支配するのはその言葉だけだった。傍にいれば楽しい相手で、傍にいてくれるだけで安心できて・・・・・・なのにその傍を無くしてしまった。
 戻ることはできないのだろうか。素直になれば戻れるだろうか。もう遅いだろうか、まだ間に合うだろうか。
 ゆっくりと目蓋が下りてくる。そういえば最近、よく眠った記憶がない。だからこんなに頭が働かないのだろうか。それとも何かに対して自分にブレーキを掛けているのだろうか?
 その何かとは何なのだろう。考えようとすると触れてはいけないような気がして。

 私は、目蓋が閉じるのとともに夢に落ちていく。

 夢の中で私は相変わらず、ウサギだった。私の心を写したウサギだった。
 大事な子犬を守るためにという口実を元に青い毛色の狐にあえていた頃を懐かしむ。
 口実を失ったウサギは素直じゃないから、青い空を見上げて狐のことを思い出す。狐と子犬と羊のいた、あの暖かな場所にはもう手が届かなくて。
 暗い森の中、池のほとりで思い出を胸に涙を零す。
 あぁ、どうして私はこんなに素直じゃないのだろう?
 あぁ、どうして私は青い空色の狐のことを考えてしまうのだろう。
 ウサギの心が痛めば、私の心も痛む。
 会いたくて、素直じゃないから会えなくて、ウサギは思い出を胸に涙を零す。

 どれくらい眠っていたのだろう。夕日が見えなかった。顔をゆっくりと上げて、見えたのはエメラルドグリーンの大きく見開かれた瞳で、感じたのは唇に柔らかくて、暖かな触感。
 状況を理解して、私も目を見開くことになった。でも動くことが出来なかった。


―――――――――――――――――――――――――


 かれこれ、かがみに避けられ続けて今日で一週間。気づけば放課後になっていた。
 この一週間で変わったことといえば、宿題を写させてもらう相手がみゆきさんになったこと、つかさが元気なくうな垂れていることが多くなったこと。
 あとは、この名もない感情と、物足りなさと寂しさに、私が二倍はしゃいで空回りをしていること。
 かがみは、私を避けている・・・・・・それは間違いない。昨日の委員会でみゆきさんが声をかけてもどこか、うわの空で“こなたが・・・”と呟いていたらしい。物事を悪い方向へと考えるだけではいけない、ゲームなんかでよく使われる言葉。
 でも、悪い方向以外にどう考えればいいのだろう?
「そろそろ何とかしないと・・・」
つかさもみゆきさんも寂しそうだし・・・・・・私もそろそろ物足りなさが限界だ。
 今、私は一人で机の上に頬をくっつけてアニメをゴールデンタイムで見るという日課を放り出して、夕日の差し込む教室で考えていた。つかさとみゆきさんには、先に帰ってもらった。
 そもそも・・・私が悪いんだけどネ。黒井先生に呼び出しを受けて、最近の私たちの様子について相談に乗るということだったんだけど、私にもイマイチ現状が把握できてないというか、説明できなかったというか。その後、貸しているゲームのレアアイテムについての話に変わって、この時間というわけで。
 話を摩り替えたのは、私なんだけどサ。それにしてもかがみにどうして避けられているのだろう。
「避けられるほど嫌われてるならなんで・・・」
何で、あのバスで手を振りほどかれなかったのか。そもそも手を繋ぐというのが私らしからぬ行動だったしネ。背中にくっついたり、腕にしがみついたりなんてのは、いつものことだけど、手を繋ぐなんて小さな事は初めてだったかもしれない。
 もっとも、くっついたり、しがみついたりすると振りほどかれそうで怖かったのもあるけどサ。
「どうしたらいいもんだろう」
放課後の教室、誰もいない教室。返答をくれる人も相槌を打ってくれる人もいない。静かで赤い夕日の差し込む孤独な場所だ。
 纏まらない考えと感情に流されている、そんなとき隣の教室の扉が開く音がした。とても気になってしまった。かがみかな?そんなあるはずのない考えが濁流になって纏まらない考えと感情の中に割り込んでくる。
 ま、確認してみればいいんだけどサ。こうやって、携帯でつかさに連絡を取れば可能性がゼロだってことがネ。
「・・・もしもし、つかさ?かがみと話したいんだけどサ。なんとか取り次いでくれないかなぁ」
ここ数日、何度目の電話だろう。何度この言葉を言っただろう。もちろんかがみの携帯にも最初はメールや電話したんだけど、あんまり回数が多くてもね。
「あ、こなちゃん。黒井先生の呼び出しなんだったのー?」
「呼び出しはレアアイテムゲット方法についてだったヨ。全く先生にも困ったもんだよネ。所で、かがみはどうかな?」
「お姉ちゃん、まだ帰ってないの。最近、いつも帰りが遅くって。心配で、いつも聞いてみるんだけど、答えてくれなくって・・・」
「そっか、じゃあ学校にまだいるかもしれないネ。探してみるよ」
「え、こなちゃん、まだ学校にいるの?」
「ちょっと考え事をしてたらサ。見つかったら、また電話するよ、んじゃまた後で」
「うん、こなちゃん。また後でね」
家に帰っていない。教室の扉の音は開ける音と閉める音だけ。まだ隣の教室に入った人物はいるかもしれない・・・最もそれがかがみだとは限らないけどサ。
「それに会って何を話せばいいのかな」
取りあえず、謝るべきだとは思う。私が悪いというのは間違いないし・・・でも、何に対して謝っているのか問われたら答えられない、心当たりがありすぎて。
「とりあえず謝ろうかな、その後は流れで行くしかないよね」
心当たりが多すぎるならひとまず、謝ってから考えよう。それなりにプランは幾つかあるし、後は臨機応変に対応するしかないよネ。
私は、考えるのをやめて、突撃をかける事にした。ひとまず話ができなければ、どうにもならないのだし、ここはやっぱり突撃しかないよネ。
 教室をでて、隣の教室に移動した。まるでうそのようだった、本当に紫陽花色の髪をそツインに結った女生徒が机に突っ伏していた。
 そう、かがみがいたのだ。何でここにかがみがいるのか不思議だったが、今はどうでもいいことだ。一週間ぶりに話ができる、謝る事ができる、それだけで十分だった。
「かがみ?」
恐る恐る近寄りながら声をかけるが、反応はない。近寄るにつれて聞こえてくるのは規則正しい呼吸、どちらかというと寝息かも。
「かがみ・・・」
かがみの正面に回りこんで顔を覗き込んだ。すこし苦しそうな表情で眠っていた。
 起こすべきか、起きるまで待つべきか。私は、もう少しだけかがみの顔に顔を寄せた。苦しそうな表情で眠っているかがみを見ると胸が苦しい・・・いや、かがみを見ていると胸が苦しい。
「・・・・・・ん」
かがみがゆっくりと目を開けた。そのまま、起き抜けでぼんやりとしているのか、体を起こす。
 この時、私はかがみの顔を覗き込んだままだった。どうして顔を離さなかったのだろう。
 かがみの顔を覗き込んでいた私の唇に丁度、かがみの唇が重なる。

 甘い・・・味がした。リップの甘い匂いに何故か甘い味。そして、暖かな感触。私は唇を離す事ができなかった。目だけは大きく開いてしまっていたけど。
 かがみもちょっと時間がかかったけど、唇が重なっている事に気がついたようで目を見開いて驚いていた。
 お互いに体を離すことが、動かす事ができなくて、唇は重なったままだった。

 ずいぶん長い間、暖かな感触と重なっていたような気がした。が、その感触も甘い味にも終止符を打ったのはかがみだった。
「うわぁっ」
唇を離して真っ赤になって後ろに飛び去り、椅子に躓いて倒れかけた、かがみの腕を引いた。
「か、かがみ、大丈夫?」
「え、あぁ、うん。大丈夫」
かがみは真っ赤な顔を隠すように俯いて小さな声で呟いた。そんな事をしなくても、私の顔も真っ赤だよ、頬がすごく熱い。
「あのさ、かがみ・・・・・・」
「な、なによ」
「ごめん。本当にごめんなさい」
キスのことも今までの色々な事も私が避けられていることにも、全てに謝るつもりでこの言葉を口にした。

「ど、どうしたのよ。急に」
かがみはまだ混乱してるのかな、それとも許してはもらえないのかな。
「だから、ごめんって」
「いや、そうじゃなくて、なんであんた泣いてるの?」
泣いてる・・・私が?そういえば、かがみがぼやけて見える、頬を熱い何かが伝っていた。
「えっと、わかんない・・・」
何で涙が出ているのだろう。私にはわからなかった。
「手を離してくれる?」
伝わらなかったのだろうか。もうだめなのだろうか。事故とはいえキスまでしちゃって、駄目になっても仕方がないとは思うけど、手を離した私の目からさらに沢山の涙がこぼれ始めた。
「あ、いや、こなた違うのよ。嫌だから手を離してほしいっていったわけじゃないんだから、そんなに泣かないでよ。その、ハンカチを出すにはこっちの手じゃないと出せないし。もう、あんたらしく無いじゃない」
私らしいってどんなだっけ。今はわからない、もうこの際、完全に嫌われてもいいや。私はかがみにしがみ付いて声を殺して泣いた。
 強引にしがみ付いている一方的なことなのに寂しさが埋まって行く気がした。
「こ、こなた?」
子供のように泣きじゃくる私に戸惑っているんだと思う。
「こなた」
優しい声。背中に手を回してもらえて寂しさで開いた穴が埋まりきっていく気がした。一方的なしがみ付きから互いに抱きしめあっている。
「かがみ・・・私のこと・・・避けてたよね?ごめんなさい、きっと私が・・・」
強く抱きしめられた。そのおかげで私はコレより先の言葉を口にする事ができなかった。
「こなた、ごめん」
かがみも、何故か謝っていた。暖かかった、物足りなさを感じない。かがみが傍にいてくれるから、かがみが抱きしめてくれるから。

 どれくらい、そうしてもらっていただろうか、夕日は月に変わっていた。
「かがみ、ありがと」
「え、あ、うん」
なんだかお互い気恥ずかしい。
「その色々ごめん、かがみ」
「わ、私こそごめんね、こなた」
どうしてかがみが謝るのか、わからなかった。
 さっきの事故とはいえ、キスをすることになったのは私の所為だし、それに私はずっと避けられてきたし、嫌われると思ったのに・・・でも、嫌われなくてほっとした。
「か、かがみ。さっきのは私の所為だから、その、ごめんね。だから避けないでほしいんだけど・・・私が嫌いならしょうがないけど、そうじゃないなら、また前みたいに遊んだりしたいよ」
「べ、別にこなたの所為でもつかさの所為でもみゆきの所為でもないんだから、謝らなくてもいいのよ。それにさっきのは・・・」
お互い真っ赤になってしまった。かがみはともかく、私ってこんなに赤面するタイプだったかな。
 この日を境にかがみが私たちを避ける事はなくなったけど、お互い、あのキスについては全く触れていない。

かがみが私たちとまた行動を共にする日々が返ってきてから数日たった放課後。
「かがみ~~」
私は、そう言って、いつものようにかがみにしがみ付く。それに対して鉄拳が飛んできた。
「のぅ!?」
頭を抑えて痛みをこらえる。
「やっぱ・・・かがみってきょうぼ・・・」
「うるさいっ」
またかがみがあの日と同じ目をしていた。
「じょ、冗談だって、かがみ~」
懲りずにしがみ付いた。
「だぁぁぁ、もうくっつくな」
かがみが赤面して腕から私を引き剥がそうとする。私は負けじとしがみ付き続ける。
「お姉ちゃんがいつもどおりに戻ってよかったよ。ねぇ、ゆきちゃん」
「そうですね。でもいつもどおりとは少し違うかもしれませんけれど、ふふふっ」
「どういうこと?」
「そのうちわかりますよ、つかささんにも」
そんないつもどおりの放課後の帰り道。でも、私の中の名前の無い感情は、前より少し大きく育ってきていた。



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コメント:
  • この作品G.Jですぜ。
    確かに希望としては続編を拝見させて欲しいッス!!
    育ち始めた『私の中の名前の無い感情』が何なのか?かがみとこなたがはっきり認識するあたりまで進んでほしいですね。 -- kk (2009-01-17 21:19:42)
  • これプロローグって事でOK? -- 名無しさん (2009-01-17 19:34:46)
  • 続きが読みたい!! -- 名無しさん (2009-01-17 15:36:43)


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