何気ないこと(4)

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何気ないこと(4)すれ違う二人



 空が青い。それがいやがおうにも、あいつを連想させるのだから溜まったものじゃない。寂しいと心のウサギが泣き喚く。
「私なにやってるんだろ・・・」
私-柊かがみがこなたやつかさ、みゆきと接触を断ってから、もう一週間くらい経つだろうか。あの夢を見て以来、怖くて接触を避けてしまっている。
正確には、つかさとは、あまり喋っていないだけで会わないことは不可能だからね。
 ―こなたとは、あの何であんなに涙があふれたのわからない、あいつにだけは見られたくなかった腫れぼったい瞼をしていた日にあって話して以来か・・・。
 日下部や峰岸とも、まともに口を聞いてないや。どこか事務的なやり取りになってしまっている気がする。
いや、この一週間のうち、まとも口を聞いた人間といえば母くらいだろうか。いや、まともに喋った人間は案外いないかもしれない。

あの日の朝、まだ誰もそこにはいない時間のはずだった。が、たまたま朝食を早く準備し終えた母が、そこにいたのだ。
「かがみ、どうしたの?」
私の酷いことになっているであろう顔を見て、手に持っていた洗濯機へ入れられるはずの洗い物を落とすほど驚いていた。
 -反射的だった。自分でもはっきり言ってらしくない行動をとったと思う。
「かがみ、どうしたの?」
さっきと同じ言葉。でも驚きはなく、ただその胸に飛び込んだ、私の頭を撫でながら優しい言葉をくれた。その言葉に私の目は何とか止めていた涙を再び零し始める。
 何故、こんなにも簡単に涙が零れるのだろう。嗚咽は出なかった、昨日と違って泣き方がわからなくなっていた。
「かがみ?」
優しい言葉、優しい温もり。こんな風に、母に抱きついたのは何時以来だろう。記憶をたどっても最後に抱きついた記憶が見つからない。
「もう少し、このままでいさせて」
私が言えたのはたった一言で、母は何も言わずに体を離すまでそうして抱いていてくれた。
「お風呂つけておいたから、もう暖かくなっていると思うわ。入っていらっしゃい」
体を離した私に、母はより優しい声で囁いた。
「うん」
たった一言返すのがやっとだった。後はすべて涙になって零れているようだった。
 体と顔を洗った。それでも赤くなった目は、腫れぼったくなった瞼はどうにもならなかった。こんなに泣いたことがあったかと思うくらい涙を流した気がした。
 髪を洗い流すのと同時に涙も洗い流した。ようやく涙は枯れたのか、目から零れるものは無くなった。
「ふぅ・・・」
湯船に浸かると自分の体が驚くほど冷え切っていたのがわかった。チリチリと皮膚がお湯の熱でむず痒い痛みを感じさせる。
 何故、あんなに涙が止まらなかったのだろう。そのことに考えを巡らせる。
 やはり、わからなかった。
お風呂に入った所為だろうか、少し落ち着きを取り戻した私は、朝食を作り終えた母の居ない台所でお弁当を作る。
 今日は、私が当番だからだ。とりあえず、冷蔵庫から昨日の晩御飯の残り物を探して、卵を二つだす。
 昨日は肉じゃがと金平牛蒡。あとはほうれん草を茹でてからいれて、卵焼きを作って入れよう。
 手抜きだと思う。つかさなら、もっとバランスの良いおかずをつくれるんだろうなぁ、ふぅ。私はどうして、こういうことに対して不器用なのだろう。
「あっ・・・」
肉じゃがと金平牛蒡を電子レンジで温めている間に卵が少し焦げ臭い匂いを立てている。とりあえず一人分作ろうと思って材料の半分を入れただけだから良かった。まだ半分残っいてる。どうして、私はこんなに不器用なのだろう。いつもの事とはいえ、毎度落ち込まざるを得ない。
「これは私の分ね・・・」
そこで私は、自分の分のお弁当を作る気がわいてこないのを感じていた。そのまま、少し焦げた卵焼きを食べる。
 焦げた味より、しょっぱい味がした。
 なんとか、さっきよりは出来の良い卵焼きをお弁当につめて、布巾で包む。
「お母さん、つかさのお弁当ここに置いて置くから、後よろしくー」
私は、洗濯物を干し終えて戻ってきた、母の横を通り過ぎながら、そう伝える。
「かがみ?まだ家を出るには早いし、朝ご飯はどうするの?」

「今日は課題のプリントを学校に忘れてきちゃったから早めに行ってやろうと思って。朝ご飯はいいや、あんまりお腹空いてないし。つかさが遅刻しないようにお願い」
作り笑顔で嘘を吐いた。痛む心とそれとわからない作り笑顔に嘘。私は、決して良い娘ではないな、そんなことを頭の端っこで考えながら母から遠ざかり、自分の部屋へとあがり、支度を済ませると、
「かがみ、どうしたの・・・?」
母の言葉に答えを返せず
「いってきまーす」
家を出た。朝早いから、まだ静かな道のりを歩く、ゆっくりと。今日は、誰ともかかわりたくは無い気分だった。昼食は学食に行くと嘘をついてしまおうかな。
 そんなことを思いながらいつもの道を進む。
 そうして幾ばくかの時間がたち、いつもの待ち合わせのバス停にたどり着いた。
「なんで・・・」
何であいつが居るんだろう。一番会いたくない、見せたくない顔をしているのに。アンテナみたいな癖っ毛を一房、ピンッと立てて腰まである長い髪の毛はどこか柔らかそうで。青空のような色をしている女の子。眠たいのか、舟をこいでいる姿に少し笑みが零れそうになる。でも、暗澹たる気持ちのほうが強い今は、笑みが零れる事はなかった。
 何であいつが居るんだろう。でもバス停にいかないとバスには乗れない。私の記憶が正しければもうすぐバスが来る時間だし。
「はぁ・・・」
ため息を一つ吐いて、私はあいつの傍に立つ。
「おはよう、かがみん」
こなたは私が傍に立つとすぐに立ち上がって、挨拶。
「オッス、こなた」
今始めて気づいたことがある。こなたの表情も曇っていた。
 昨日、泣きはらした所為か、声が自分でもびっくりする程・・・擦れていたのだ。
「風邪でも引いたのカナ?かがみんや」
曇った表情もすぐにニマニマとした笑顔に戻っていた。いや、戻して作り笑顔を作ったのがバレバレだ。こなたはそういうことに関しては、隙を見せない。相手に心配をかけないために気を使って、今はそれが出来ないほど、余裕が無いのだろうか。
「そうよ。だから、今日は余り喋りたくないの」
「じゃぁ、ちょっと話をきいてくれないカナ?カナ?」
冗談を言っているなニマニマとした笑顔を作ってはいるものの、その目は真剣そのものだった。その表情をみて、言葉に返答を返す前にバスがやってきてしまった。
 見るからにバスは人が詰まっていた。正直もう一本待っても十分な時間はあるが、私は、そのバスに乗る。こなたもバスに乗って私の横に器用に人の隙間を塗って立った。
「ねぇ、どうかな?」
泣きはらして腫れぼったくなっている瞼と赤くなってしまっている目にはまったく触れてこないのが不思議だった。
「あまり、話も聞きたい気分じゃないの。・・・ごめん、こなた」
擦れた声。バスの中に入ってから言ったから聞こえたかどうかわからない。
「そっか。じゃぁ・・・」
何故か手を繋がれた。振り払うことも出来たが、どうしてかそんな気分にはならなかった。冷たい冷え切った手だった。なのに、冷たくなった心の隅っこが少しだけ温められた気がした。
 そして何かわからない感情の種が芽をだした、そんな感じがした。
―握り合った手は、バスが目的地に着くまで離すことも話されることも無かった。
 あのバス一件以来、こなたとも話してはいない。朝、こなたが待ち伏せをしていることもない。
 そして、あのバス、繋がれた手が離れてから、ずっと考えている。つかさやみゆきをただ一言で表すのは簡単なことだと思う。何を置いても信じることが出来るはずの“親友”。
 ならどうして、私はこうして独りでいるのだろう。

しかし、それなら、こなたは?
 あの手が繋がれたときの温もりは?
 あの手が繋がれたとき感じたまだ名も無い感情は?

 わからない ワカラナイ・・・。名も無い感情のことはとても気になるが、ただ寂しいだけなのかも知れない。

 凶暴な表情をして、何時も強がって、ただ妹を守りたいと決意を固めたときから私のは心から信頼しあう友人は数えるほどいるのか危うくなった。
 甘え方がわからなくなった。寂しいと言えなくなった。弱音を吐けなくなった。
「どうしたらいいんだろ」
つかさやみゆきや・・・こなたに嫌われたくなくて、距離を置いた。日下部や峰岸にも嫌われたくなくて距離を置いた。
 結果は見ての通りだ。少し自虐的な笑いがこみ上げてくる。逆に独りぼっちになってしまった。私が悪いのだから、謝って元に戻ればいい。
それだけなのに、素直になれずに一週間。誰が悪かったわけじゃないのかもしれない。私が距離を置こうと思わなければ何も変わらなかったのかもしれない。
 どうすれば、あの心地よい場所に帰れるのだろう。
 どうすれば、あの青空のように元気なあいつの隣に立っていられるのだろう。

 そして、私はどうして、あの青空のように元気なあいつ・・・―泉こなた―にこんなにも、拘ってしまうのだろう。


 ――――――――――――――――――


 かがみが昼食の時、私達のクラスにやって来なくなって、もう一週間くらい立つ。
 昼食のときだけじゃないカナ?休み時間も朝の待ち合わせも。電話で謝ろうと思ってもかがみは何時かけても眠ってる。たぶん、寝たふりをしているだけだと思うけど、どうしてだろう避けられている。
 かがみが来なくなってから、私達の昼食は少し静かになった。かがみのかわりに私が一人で二人分はしゃいで見せる。お父さんの苦労が身に染みてわかる気がするヨ。
 かがみは私が嫌いになったのだろうか。みゆきさんを嫌う要素なんてどこにも見当たらないし、ましてや半身ともいえる妹のつかさを嫌いになって来なくなるなんてありえない。だとすると避けられているとすれば、私以外には考えられない。
 でも、それだとあの日のバスの事に説明がつかない。
 そう、あのバス停で私が、かがみに謝ろうと早起きして待ち伏せのようなことをしていた、あの日。
 そう、あの日は・・・。
―結局、殆ど眠れなかった。ネトゲーではアタックスキル、釣り、アビリティをミスしまくりでそんなに長くは続かなかったし、黒井先生と一緒に地面に倒れる羽目になったし・・・。デスペナの回復に二~三日かかりそうだ。黒井先生は“気にせんでもええで、こういう日もあるし”とチャットで言ってたけど、集中できなかった私が原因なんだよネ。
 理由はわかってる。昨日、かがみに謝ろうと思って電話をしてつかさがもうかがみが寝ちゃっているというのを聞いた時の落胆。
 それを聞いた時、私の心は、本当に体調が悪くて寝ていたのか、避けられてしまっているのか・・・心配と不安が交差していた。
 避けられる理由なんてわからない。でも、昼食のときのかがみはどこか変だったし、あの時の言葉がかがみを酷く傷つけてしまったのなら謝りたい。謝ってできれば、またいつものようにじゃれ合う関係に戻りたいと思っていた。
 それが謝ることすら出来なかった上に、放課後からずっとモヤモヤした気持ちを抱えたままだったのだ。深夜アニメをリアルタイムで見られる時間にも起きていたのに見る気にもなれず、ただ録画しただけで終わってしまった。
「ねむぅぃ・・・」
眩しい朝日に思わずそう呟いた。カーテンを閉め忘れたらしく、いつもよりもずいぶんと早く起きてしまった。
「二度寝する気分じゃないなー」
なんか、こう、独り言って空しいよね、突っ込みも相槌もないし。いやー帰りにかがみがいなかっただけでこんなにも突っ込みが恋しくなるなんて思いもしなかったヨ。

 そういえば、ゆーちゃんどうしたかな?おそらくはまだ眠っているであろう彼女の部屋へと私はそっと入る。
 案の定ゆーちゃんはぐっすり眠っていた。机の上においてある、耳で測れる体温計をゆーちゃんの耳にあてがう。いやー世の中便利になったもんだよ。
 36.5度。熱はすっかり下がったらしい。これなら、殆ど風邪は治ったといっても大丈夫だろう。
 しかし、治りかけが一番危ないからなぁ。私は部屋に戻ると、メモ用紙とペンをとり、再びゆーちゃんの部屋に戻る。

 熱は下がったみたいだから、動けると思うけど、今日は大事をとって学校を休むんだよ?朝ごはんは、卵雑炊を作っておくからちゃんと食べて、まだ今日は薬を飲むんだよー。
私はちょっと用事があるから、早いけど学校に行くね!
こなた   

メモ用紙にそれだけ走り書きすると、私は部屋をそっと出た。書いていて、不思議に思ったことが一つ。用事がある・・・なにがあるというのだろう?
ひとまず、卵雑炊をささっと作ってしまう。それから、自分の朝食にパンを焼いてそれを急いで口に放り込んで牛乳で流し込んだ。
正直言うとあまり、食欲はなかったからだ。でも、何か胃に入れていないとひどく眠たかった。朝食をとったおかげか、目はかなり覚めた気がする。
顔を洗って、寝癖を直して(このピョンと跳ねた一房だけはどうあがいても落ち着かないんだけどさ)服を着替えて、出かける準備を整える。顔を洗っているときに鏡を見て気がついた。いつもよりたくさん眠ったはずなのに少し目の血色が悪い。
「クマってほどじゃないけど、あんまり熟睡できなかったのカナ?それとも年かねぇ」
また独り言。誰に言うわけでもない言葉、自分に言っているのかもよくわからなかった。
 私は、まだ出かけるには早すぎる時間であるにもかかわらず、家を出た。途中コンビニでいつものチョココロネを買おうとおもったのに、今日はホワイトチョココロネしかなくてなんだがブルーな気分だった。嫌いなわけじゃないけど、なんかいつもと違うのがとても今日は、気になって仕方がない。
 いつも通りじゃないのは、コンビニだけじゃなくて私もみたいだけど。珍しく携帯電話を持ってきている。おかげで時間がわかって便利だけどネ。
 ぼんやりと、かがみに早く会いたいなぁ、一言謝って、いつものようにからかって、それからじゃれついて。
 たった半日以下の時間なのだ。かがみが休み時間に来なかった、かがみが帰り道一緒じゃなかった。
 それなのにこのモヤモヤして物足りない気持ちは何なのだろう?わからない。
 かがみは、どうして先に帰ってしまったのだろう。体調が悪かったから?それだけが原因なのかな?
 本当は、気がつかない間に無遠慮な発言で傷つけてしまったのでは無いだろうか?それで避けられてしまっているとしたら?
 そんなことを想像するだけで身震いするほど不安がこみ上げてくる。
 そういえば、前にかがみが読んでいた詩集の中に印象的で覚えているのがあった。確か、

“言葉は時に残酷だ
 思いがけず人を傷つけてしまうこともあるだろう
言葉は時に勇敢だ
 思いがけず人を勇気付けるだろう
言葉とは使う者の心次第で如何様にも変化することを忘れてはいけない
 言葉の全ては諸刃の剣なのだから”

 正直、後半はよくわからなかった。ただ前半の思いがけず人を傷つけてしまうことがあるだろう。その一文だけはなんだか心も引っかかったのを覚えている。
 とにかく、かがみを話をして私の無遠慮な冗談が傷つけてしまったのなら謝らなくちゃ。それだけが頭の中でなんども響いていた。
 人間、慣れとはスゴイことだよね。考え事しながら動いていたからコンビニからこのバス停までの道のりをどう過ごしてきたのか、さっぱり思い出せない。
 私はバス停のベンチに座って、かがみとつかさを待った。時計を見ると待ち合わせの時間より随分早い。さすがに二人もまだバスに乗ってはいないと思う。
 しばらくすると、少し眠くなってきた。うつらうつらと舟を漕いでしまう。
 さらに少し時間がたって、まだ待ち合わせにはかなり早い時間なのにかがみはやってきた。少し戸惑いを感じる。それでも、彼女は、私の傍に立った。
 よかった。避けられているわけじゃない、そんな安堵感が心から不安と少しだけ取り除いてくれた。

「おはよう、かがみん」
かがみの傍にあえて普段どおりに、寄りそうに立ってそう声をかけた。
「オッス、こなた」
そんないつも通りのかがみの挨拶を聞いて、私の表情は自然と曇った。酷く枯れている。それに顔を見れば泣きはらして赤くなってしまった目が、腫れぼったくなってしまっている瞼が、安堵から不安へと私の心を戻していった。
やっぱり昼休みの発言で傷つけてしまったのだろうか?
「風邪でも引いたのカナ?かがみんや」
あえて、赤くなっている目や腫れぼったくなっている瞼には触れず、曇った表情をいつもの自分で言うのもなんだけど猫のような口でニマニマとした表情にかえる。
「そうよ。だから、今日は余り喋りたくないの」
枯れてしまった声でかがみが返事をくれる。避けられてはいない、そんな思いでまた安堵する。
「じゃぁ、ちょっと話をきいてくれないカナ?カナ?」
いつもの調子で、私はかがみに声をかける。いや、いつも通りでもないのかもしれない。かがみに話を聞いてくれるかな?と聞いている時点で自分でも変な感じがした。恐れているのだろうか、不安なのだろうか。
でも、かがみの返事が来る前にバスがやってきてしまった。バスに乗り込む、かがみを追って私もバスへと乗り込む。朝早いのにいつもの何倍も人がいて、席に座る事はでそうにはない。かがみは奥のほうへ行ってしまったので、横に立って話せるように、私は人の間を縫うように進んで、なんとか、かがみの横に立った。
「ねぇ、どうかな?」
不安が声にでないように、いつも通りに聞こえるように声を出した。本当は、不安がズンと心に落ちてくるような気分だったんだけどね。
「あまり、話も聞きたい気分じゃないの。・・・ごめん、こなた」
かがみからの返答は拒否だった。それに謝りたいのは私の方なのに。いつもならそんなのお構いなしに話しかけられるのに、今日はどうしてかできなかった。
 なにで傷つけてしまったのか知りたくて、それを謝りたくて、かがみと話がしたくて、いつもの様にじゃれ合いたくて。私の心は、我が儘とモヤモヤと不安と不満で一杯だった。
 それに何故だかわからないけど、かがみを遠く感じた。それがどんなことよりも、身震いするほど怖かった。
「そっか。じゃぁ・・・」
私はかがみの手をそっと握る。嫌だったらすぐに振り払える程度の力で。
 すぐに振りほどかれると思った手は、鏡からも握り返す力を感じていた。それが、かがみを遠く感じる錯覚を消していく。
 暖くて、優しい時間。バスから降りるまで喋る事は出来なかったけれど、その手はずっと離すことも離されることもなく繋がったままだった。

 このバスでの一件以来かがみとは、まだ口を聞いていないし、顔もほぼ合わせていない。
 このバスでの一件以来、私の中にはまだ名前のない感情が漂っていた。
 それはまだ芽を出したばかりで名前をつけることが出来ない。
 ただ、かがみのことを考えると、その芽を出したばかりの小さな感情の葉は揺れる。

 あの日からずっと考えている。答えの出ない考えを。

あの日バスの中で、繋がれた手が離れてから、ずっと考えている。つかさやみゆきさんをただ一言で表すのは簡単なことだと思う。何を置いても信じることが出来るはずの“親友”。

しかし、それなら、かがみは?
 あの手が繋がれたときの温もりは?
 あの手が繋がれたとき感じたまだ名も無い感情は?

 わからない ワカラナイ・・・。名も無い感情のことはとても気になる。それにモヤモヤして何か物足りないのはずっと引きずり続けているしネ。
恐らく、私が悪いのだから、謝って元に戻ればいい。それだけなのに、素直になれずに一週間。もしかしたら、誰が悪かったわけじゃないのかもしれない。

 そして、私はどうして、あの寂しんぼなウサギを連想してしまう・・・―柊かがみ―にこんなにも、拘ってしまうのだろう。


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