野生のカン

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最近の柊はおかしい。
なにが?とかどこが?とか聞かれると言葉につまるけど。
なんていうか...
やっぱり最近の柊はおかしい。
それだけは確実に分かる。
こういうのって野生のカンってゆーんだっけ?
それにしても部活の先輩や友達から単純だと言われてる私でも気づくんだから相当なものだと思う。
なんか自分で言ってて悲しくなるけどな。

「なー、柊ぃ」

でもやっぱりちゃんとした理由を聞きたい。
集団で群れる女子軍団みたいだけど、気になるもんは気になる。
中学も合わせて4年目の付き合いだし柊は私やあやのを重宝すべきだ。うん、ホントそうすべきだ。

「んー?」

しかし名前を呼んだことに答えてくれたのは声だけで。
当の本人の視線はカチャカチャとせわしなく指を動かしている携帯電話の画面。
まぁ、私が話しかける前から柊は携帯をいじっていたから別にそれを咎めることはしない。
納得というか、腑には落ちないけど。

「最近おかしくね?」
「なにが?」

自分が気になっていることをストレートに聞くと、ごもっともな質問が返ってきた。
それは「なにがおかしいのか?」に対する質問なのか?
それとも「私のなにがおかしいのか?」に対する質問なんだろう?
えっと主語は柊なんだから...
あ、でも言ったのは私だから私が主語に...
あーダメだ。なんかこんがらがってきた。

「いや、なんかよくわかんねぇけど最近柊おかしいじゃん」
「なんだ、ソレ」

うん、私自身も分からないから聞いてみたんだけどな。
用事がすんだのか、携帯をしまった柊が不審気に私に視線を移してきた。
というか呆れてる?

「なんで私が最近おかしいと思うのよ」

ダルそうにイスの背に背中をつけながら柊が聞いてきた。
なんで...
なんでだろう。
そんな明確な理由なんて無い。
むしろなんでそう思ってしまったのか私が聞きたいからわざわざ直接本人に聞いたのだ。
だから強いて言うならば...

「なんとなく、だ」
「......はぁ」

一瞬開かれた瞳が溜め息とともに一気に閉じられる。
うわ、バカにしてる。
この顔は絶対バカにしてる顔だっ!

「アンタは本当バ...いや脳天気だな」
「今バカって言いかけただろ」
「脳天気は肯定なのか」

なんてさらに目を細めてやれやれと言ったように両手を肩まで上げる柊。
いや、私の中でバカは悪口だけど脳天気は性格だから問題なし。うん、モウマンタイだ。

「大体私は...」

そう言いかけた柊の声が不自然に途切れた。
なんだろう、と柊を見ると視線は膝の下。いや、正確には膝の上に置かれた携帯。
それを見た柊がバイブが鳴り終わる前に素早く携帯を開けてボタンを押した。
早っ!
今一瞬左手見えなかったぞ。

「ど、どうしたんだ?」

初めて見た瞬発力に思わず聞いてしまった。
いや、初めてじゃなくてもあの動きは尋常じゃないだろ。
気になっていた連絡でもってあったんだろうか、と再び柊を見る。







「.........」








停止した。
頭もだけど、主に視覚が。
というか目を疑った。
私から見た柊は真面目で、勉強も出来て、友好関係だっていい方で。
現に中学の頃からクラス委員に推薦されるような、完璧超人だ。
いつも凛としていて、隙がないというか、自分なんかとは比べ物にならないくらいすげぇ人間だ。
...と、思っていた。今の今までは。
目の前には携帯に視線を落としている柊。
これはさっきと同じだ。
だけど...携帯画面を見ている柊の顔はこれ以上ないくらい惚けていた。
嬉しそうな顔や楽しそうな柊の表情とは違う、なんていうか好きなものをいつくしむような。そんな顔だ。

「......っ」

カチカチとボタンを押していた柊が突然口元に右腕を押しつけた。
と思ったらバシバシと机をた叩き始める。
な、なにが起こったんだ?
あんな柊のレア顔+奇怪な行動にただ唖然とするしかない私は、開いた口が塞がらない。
あー、あれか。これってもしかして...

「柊ちゃん恋してるのね」
「あ、あやの?!」

横から急に声が発せられて思わず驚きで体がよろけた。
というか今までどこにいたんだ、あやの。
いや、今はそんなことじゃなくて、

「柊が?! こ、恋っ?!」
「な、ちょ...日下部っ!!!」

私の声が大きかったせいか、ずっと自分の世界にいた柊がようやく覚醒した。
私の口を塞ごうとしたらしい腕が顎にあたってかなり痛い。
うにゅ~、と反射で出た涙をぬぐいながら柊を見ると、全力疾走でもしたかのように息を荒げた柊がいた。
なんか顔と耳まで真っ赤だけど、風邪でもひいたのか?

「そっか、柊にもようやく春が来たかー」
「なっ...ち、ちが...!」
「違うの? 柊ちゃん」
「っ」

どうやら図星らしい。
真っ赤になってる顔は隠しようもないし、そんな大事そうに抱いた携帯を見れば一目瞭然だ。
なるほどな、最近様子がおかしいと思ったのはこのせいか。
私の「野生のカン」も捨てたもんじゃないな。

「お相手はダレだー? 同級生か? 先輩か? 先生か?」
「どんな選択肢だよ。だ、大体、アンタには関係ないでしょ!」

こういうのなんて言うんだっけ?ほら、よくちびっ子が言ってる......
ん?ちびっこ?
そういえばちびっこはこのことを知ってるんだろうか?
柊が恋してる、なんていつも柊を弄ってるアイツからしたら恰好のネタだろうに。
格別柊がいじられてないってことは、あいつはまだ知らないのか?
そうかそうか、ちびっこより私たちの方が先に柊の秘密を知ったわけか。

「私ちょっとB組行ってくるなー♪」

その優越感を抑えきれなくて、これは直接ちびっこに自慢してやろうと教室の扉を開ける。
授業まで5分はあるし、今日こそ一言言ってやるんだ。
「柊は私のだ!」って。
まぁ正確に言うと私とあやのの友達だ!だけどな。

「ちょ、ちょっと待ちなさい!!!」
「なんだよー?」
「な、何しに行くつもりよ?!」

なに慌ててるんだ、柊は。
大丈夫、柊が恋してるってことは言わないから。私たちだけの秘密だもんな。

「何って、ちびっこに挨拶だよ。あ、い、さ、つ!」

まぁこっちには絶対勝てる秘策があるし。
普段は柊を独占してるあのちびっこにギャフンと言わせても文句は言われないだろう。

「な...っ! まさか、アンタ知って...」
「ん?なんのこ」
「ヤフー! マイ嫁、かがみん!...とあやのんアンド他一名」
「と、ってちびっこ?!」

扉の近くで話していた私の目の前を長い青色の髪が遮り、そのまま柊に抱きついた。
って、ちょっと待て!

「なっ! ちびっこ、柊から離れろ!」
「つっこむとこそこかよっ!」

なに怒ってるんだ柊は。
顔がこれ以上ないくらい真っ赤だし、いつもはまっすぐ前を見つめている瞳が揺れている。
なんか、おかしい。
...あれ? なんでだ?
柊がおかしかった理由は柊が恋をしてるから。そう、それはついさっき解決した。
だけどなんでまた「おかしい」と感じてるんだ?

「よくわかんねぇけど、チビッコ!!! 早く柊から離れろ!!!」

もうチビッコだけの柊じゃないんだぜ。
...って元々柊はチビッコだけのものじゃないけどな!
抱き付いてるチビッコの額を思いっきり押して柊から遠ざけ.........られない。
チビッコってこんな力強かったけっか?
確かそこらへんの運動部顔負けの運動神経だ、ってのは柊から聞いてたけど。

「はーなーれーろー!」
「ぬぉ、みさきち。お主なかなかの使い魔だのぉ」

ぐっ、また力が強くなりやがった。
そのちっこい体のどこからこんな力が出てるんだ。
そもそもなんだその使い魔って。
まぁきっとチビッコの言うことだからアニメかなんかのネタなんだろうけど。

「柊が困ってるだろ、離れろ!」
「だが断る!」
「大体柊はもう...」

おっと、危ねぇ。
思わず口に出すとこだったぜ。
ったく、ちびっこは見かけによらず強情だな。
その当の本人は、私からの力が弱まったのをいいことにギュウと柊の腰のあたりに手を回して勝ち誇った顔をしている。
くそぉ、なんかくやしいぞ。
柊も真っ赤になってばっかいないで一言言ってやれ。
「なっ!」とか「ちょっ!」とか言葉になっていない単語を振りまく柊がこれ以上ないくらい顔を真っ赤にしている。

「こ、こなた...ここ学校っ!!!」
「だからギュウだけで我慢してるじゃーん? 一時間ぶりのかがみ分を補給しているのダヨ」
「なによそれ」
「かがみ欲求症の特効薬」
「な...っ!!?」

ん? あれ?
なんかまた違和感が...
というか、なんなんだこの桃色背景。
なんか白とピンク色の花がちびっこと柊の周りを囲んでいるような。
なんつったけ、こういうの。ワンカップじゃなくて、パイナップルじゃなくて...

「バカップルねぇ~、柊ちゃん達」
「そうそうバカップルだっ! って、なんだよソレッ?!!」
「えっと、確か『公共の場所で衆目を意識せず平然といちゃつくカップルの通称』だった気がするけど」

いやいや意味くらい私だっては知ってるけど、私が言った「なんだよ」はソッチじゃねぇ!

「柊と! ちびっこが! どうしてバカップルになるんだよ!」
「え、だって、あの二人って......もしかしてみさちゃん、気付いてないの?」

少し驚いたように瞳を開けるあやのにますます頭が混乱する。
気付いてないって、何が?
そんな意外そうな顔されても私が困る。
むしろあやのは今までのやりとりで何に気づいたんだ。

「柊ちゃんの恋の相手が、泉ちゃ」
「峰岸ぃぃぃぃいいいいいいいいいい!!!!!!!!」

ものすごい勢いであやのの口を塞ぐ柊がまるで赤いマントを見せられた闘牛みたいに突っ込んできた。
そのせいで最後まで聞き取れなかったけど、前半ははっきり聞こえた。
えーっと...
その、なんだ。

「柊、ちびっこと付き合ってるのかっ?!!」
「日下部ぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!!!!!」

うわっ、今度はこっちに飛んできた。
忙しいな、柊。
あやのの時とは一段も二段も違う鉄拳が頭の上に襲いかかった。

「いっ...な、なんであやのには何もなかったのに私だけグーパンチなんだ...っ!!?」

不公平だ! 理不尽だ! 不平等だ!
そう叫ぶと、自業自得だとかなんとかいいながらブツブツ言う柊。
それにしても、この反応からもちびっこと付き合ってるのはマジなのか?
そう言えば最近前よりもちびっこといる時をよく見るなーとは思っていたし。
この前の休みの日に中学ん時の友達と行った遊園地で二人の後ろ姿らしきもんを見かけたし。
もしかしてさっきの携帯に見せた笑顔もちびっこに向けて、たんだろうな。多分。
あー、なんか一気に脱力した。
よりによってなんであんなちびっこと...
いや、ぶっちゃけ面白いやつだし良くは知らねぇけど悪いやつじゃないし。
でもなんかこう、素直に受け取れないというか。
昔から大事にしてたオモチャを取られたみたいな。
そんな感じだ。

「大体、柊はアイツのどこを好きになったんだ?」

周囲を見渡してもさっきまで柊にくっついていたちびっこの姿が見えない。
多分、自分のクラスに戻ったんだろうな。ジャージ着てたし、もしかしたら次が体育なのかもしれない。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
成り行きでも知ってしまったもんは知ってしまったし、これくらい聞いても罰当たんないだろと半ば自暴自棄気味に聞いてみる。

「べ、別に好きなわけじゃ...」
「へ? でも付き合ってるんだろ?」
「...そ、そうだけど」

なに恥ずかしがってんだ。
クルクルと指で二つに結ばれた髪を弄っている柊が、こっちを一瞥してはぁ...と息を漏らした。

「私はただ...超が付く程の面倒くさがりな上に、アニメとかゲームとかの趣味には情熱を捧げまくってて。
私が知らない声優のイベントなんかにも平気で誘ってくるし。
料理できるくせに昼ごはんはいつもチョココロネで、猫みたいな口で私をからかってきて...
おまけにいつもいつも『宿題見せてー』なんて言うもんだからしょうがなくノートを貸したら、至る所に落書きして返すようなアイツが心配なだけよ!」

ハァハァと声を荒げて主張する柊に一瞬たじろぐ。
よく噛まずに言えるな。
というか...

「で、結局柊はちびっこのどこが好きなんだ?」

聞きたかった答えをまだ貰っていないだろと、再度質問してみる。
その質問が理解できなかったのか柊が一瞬瞳を開いて、そのままプイっと視線を逸らされた。
どうしたんだろうかと柊の名前を呼ぼうとした瞬間。





「だ、だから...さっき言ったでしょ...っ」





ギュッとなにかに耐えるように柊は自棄にも見えるようにそう叫んだ。
あー、思い出した。
これがよくちびっこが言ってるシンデレラとかツンドラとか言うやつか。
とんだ惚気話だ。
隣にいるあやのも「お熱いね~」なんて言ってるし。
自分から聞いたにも関わらず、なんと言っていいか分からない。
ただ分かるのは...
あの柊にこんなことを言わせるちびっこの凄さと、バカップルの意味だけだった。




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コメント:
  • うは♪ -- ぷにゃねこ (2013-01-25 16:48:58)
  • みさかがか〜? -- かがみんラブ (2012-09-23 15:07:31)
  • みさきちかわいそうにw
    みさきちと、かがみのレズも見てみたいww
    かがみは幸せですなー// -- 名無しさん (2010-08-23 20:40:23)
  • パイナップル… ワンカップ…… -- 名無しさん (2010-07-22 15:14:10)
  • 作者乙!あまあまで最高です -- 名無しさん (2009-11-26 22:54:14)
  • ツンドラかがみさん最高!
    このあまあまカップルに乾杯しながら、作者殿に激しくGJを贈らせていただきます。 -- にゃあ (2009-02-05 19:57:09)
  • GJ!
    第三者から見たこなかがですね。
    みさおのいい動きが、こなかがを際立たせていて面白かったです! -- 名無しさん (2009-01-17 01:24:31)


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