空はどこまでも高く、どこまでも青い。
雲ひとつない、快晴といって良いんじゃないかな。
日差しはとっても暖かで、時折吹く風が気持ちいい。

そんなうららかな昼下がり、私とかがみは公園のベンチで昼ごはんなんかを楽しんでいた。

「ふう、食べた食べた。ごちそうさま、おいしかったわよこなた。」
「お粗末さまでした。はい、かがみ。お茶。」

私は水筒のからコップにお茶を入れると、かがみに渡した。

「ありがと。」

かがみがお茶を飲んでいる間に、私はすっかりからになったお弁当を片付ける。
二人分にしてはちょっと多いかななんて思ったけど、かがみの食欲にはかなわなかったようで。

「それにしても、外で昼ごはんを食べようなんて、こなたにしては随分素敵なことを言ったものね。」

そう言ってかがみはコップに口をつける。コップから出る湯気が、まだお茶が冷めていないことを分からせる。
うん、いい天気だけどまだ寒かったから、暖かいのを入れてきて正解だったよ。

「相変わらず失礼だな、かがみんは。私はいつも素敵なことしか言わないのに。」
「あ~、それは絶対ないな。」

かがみはお茶を飲み干したコップを渡してくる。私はそれを受け取ると、かるく中を拭いて片付けた。

「う~ん、しかしいい天気だね~。」

両手をあげて軽く伸びをする。すると、背骨の方からポキポキという音がした。
いかん、運動不足だ。

「そうね、こう天気がいいと、なんだか眠くなっちゃうわね。」
「食べてすぐ寝ると牛になるよ。かがみんは牛になりたいのかな~?」
「……ものの例えよ。ものの例え。」

拗ねた声でかがみが言った。あ~あ、ほんの冗談なのにさ。

「だけど、本当に気持ちがいいや。というわけでかがみん?」
「ん~?」
「私はこれからおひるねするから、膝枕よろしくね!」

かがみの返事を待たず、私はかがみの膝に倒れこむ。
やわらかくて、この日差しより気持ちいい。

「ちょ、ちょっと?!何するのよ!」
「ふっふっふ。よいではないか、よいではないか。」
「まったく、お前は本当にしょうがないな。」

口で文句を言っても、結局膝枕をしてくれるかがみ。

『本当に優しいな』

私はそんなことを思いながら、かがみのお腹の方に寝返りをうった。
そしてそのまま、かがみのわき腹をつまみこむ。

「おお、今日の分も吸収されて育ってる。」
「そんなわけあるか!というか、触るな、摘むな、量るな!」
「いやいや、食事を作る側としては、食べる人の脂肪を量る事も重要なことなのだよ。」
「嘘をつくな。そんなこと聞いたこともないし。」

他愛のないいつものやり取り。だけど、それが終わると途端に静かになった。
公園なんだから誰かいるはずなのに、それが感じられない。
まるで、かがみと私、二人しかいないみたいだ。
私の視界にはかがみの服しか見えないし。
反対側に寝返りを打てば周りがどうなっているのか分かるんだろうけど、なんだか面倒くさい。

不意に、かがみが私の髪を触ってきた。まるで髪を梳くかのように上から下にゆっくりと。
ちょっとびっくりしたけど、私は目を閉じてその行為を感じる。その気持ちよさに本当に眠くなってくる。


そんなまどろみを晴らすかのように……


「ねえ…かがみ。」
「何よ。」


私は……


「かがみ、今、幸せ?」


今まで、どうしても聞けなかったことを口にした。



『問い』



かがみとこんな関係になって、もうずいぶんになる。
月日が経つのは本当にあっという間で、私達もとっくの昔に大人の仲間入り。
だからこそ、昔と違って辛いほどに分かる現実がある。


ねえ、かがみ?

私と一緒にいて、苦しんだり、悲しい目に合ったりしていない?

ううん、きっとしてるよね。

験しなくていいこともたくさんしただろうし、諦めた事もたくさんあったと思う。

実際問題、結婚だってできないし、子供だって作れない。

だって私達は同性同士。普通じゃないんだから……


ねえ、かがみ?


かがみにとって私が重荷になっているとしたら、私と一緒にいることが義務になってるとしたら……

もうここで終わりにしたほうがいいよ。

今ならお互いにいい思い出で終われると思うんだ。ほら、若さゆえの過ちってやつだよ。

今なら、まだ戻れる、引き返せる。

私の事なら心配しなくても平気。
かがみに出会った事で、かがみを好きになったことで、私はたくさんのものを手に入れることが出来たから。
まるでドラマみたいだけど、それがあれば大丈夫。

だから、今かがみが『幸せ』じゃないんなら、元の普通の道に戻りたいのなら、私は笑って終わらせることができる。

かがみだったら、すぐにまともな道に戻れるよ。
きっとすぐにいい人を見つけて、幸せな人生を歩めるからさ。

それに、この関係が終わったとしても、一生会えなくなるって訳じゃないしね。
ただ昔みたいに友達に戻って、ちょっと距離が離れて、ずっと隣にいられないだけ。
ただそれだけのことなんだ。


でも…


それでも思ってしまうんだよ。


例えかがみがそう思っていたとしても…


かがみの隣にいる人は…


明日も、明後日も、明々後日も、一週間先も、一ヶ月先も、一年先も、十年先も、ずっとずっと……


私がいいなぁって。


おかしいよね、かがみ。矛盾してるよ、こんなの。
一緒にいちゃいけないって分かってるのに、一緒にいたいなんて思うなんて。

ああ、本当におかしすぎて涙が出そうだよ。

「………」
「かがみ?」

かがみは何も言ってくれない。
どうしたの、かがみ?
考える事なんて何もない。いつもみたいにズパッっと言ってくれていいのに。

「こなた……」

かがみは私の顔を両手でつかむと、グイッと顔の向きを変えた。
半ば強制的に私はかがみと見つめあう。

「…………」
「…………」

顔を背けて、かがみの視線から逃げ出したかった。
だって、かがみの目はすごく真剣で、すごく怖い目をしてたから。
思わず体がビクッと震えてしまう。

でもそれはほんの一瞬。
かがみはすぐに優しい目になって、優しい声でこう言ってくれた。

「幸せよ。」

思わず、顔が綻んだ。

この関係に不安がないといえば嘘だった。後悔がまったくないといえば嘘だった。

――――この関係をずっと続けていけるのか、世間の目に耐えられるのか。

そんな不安、そしてなにより……

――――かがみの普通の人生を奪ってしまった

そんな後悔が、こころの片隅に確かにあった。

きっとそれは、かがみも同じなんじゃないかな。かがみ、変なところで真面目だし。

それでもかがみは、今を『幸せ』だと言ってくれる。

ああ、かがみを好きになってよかった。かがみを選んでよかった。
月並みな言葉だけど、本当に、本当にそう思った。

「こなたはどう?」
「えっ?」
「こなたは今幸せ?」

声も目も優しいままだった。だけど視線だけは逸らさずに、かがみは私に聞いてきた。

「……」

もう、考える必要も悩む必要もなかった。
答えはもう決まってるし、これからも変わるはずもない。

「そんなの言うまでもないじゃん。」
「そうね。でも…聞きたい。」

うん。私だってずっと聞きたかったんだ。
かがみだって聞きたいよね。

私はかがみの膝枕からゆっくりと起き上がった。ちょっと名残惜しいけど、大丈夫。すぐ戻ってくればいい。

そしてスッとベンチから立ち上がって、かがみを背に歩き始める。

まるで踊るかのように、1歩...2歩...3歩...

そして振り向きざまに、かがみが惚れ直すような、私に似合わない最高の笑顔で言ってあげた。


「幸せだよ!」



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  • GJ!!
    -- 名無しさん (2010-09-06 22:44:39)
  • 切なさと甘さが絶妙のSSですね! 二人ともこのままずっと仲良く暮らせればいいな -- 名無し (2010-07-28 10:42:40)
  • コメントありがとうございます。
    ちょっといつもの毛並みが違うかなと思っていたのでよかったです。 -- H3-525 (2009-01-17 20:29:05)
  • 切なく甘く素晴らしいです! -- 無垢無垢 (2009-01-15 19:43:40)
  • 確に↓のおっしゃるとうりです。俺もうるりとしました -- 鯨 (2009-01-15 16:24:08)
  • GJ!甘さと切なさのバランスが最高です! -- 名無しさん (2009-01-15 09:50:43)


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