新婚ふーふの年末年始

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【12月25日 ホテルにて】

 朝起きると、そこはホテルのベッドで、自分の隣には全裸の女が眠っている。
 …と言ってしまえば、何かの物語がそこから始まるかのように聞こえるけれど、これに関しては別に大した話じゃない。
 私の横で幸せそうな顔で眠りこけているのは、見知らぬ女性ではなく、私の最愛の人兼配偶者の泉こなたである。

 12月24日にめでたく交際1周年を迎えた私とこなたは、昨晩アルバイト先でのクリスマス・イヴ限定イベントをこなした後、都内にあるちょっとした高級ホテルの一室を借りて、ささやかな二人だけの記念パーティーを開いたのだった。

 この1年という月日は、想像以上に激動で幸せな日々であったと私は思う。
 ちょうど1年前に、この同性の恋人を選んだ事で、普通の人生では味わえないような様々な経験をしていかざるを得なくなるという事を、実は心の中でかなりの悲壮感を漂わせながら覚悟していた私も、まさか1年経ったら夫婦として幸せな日常を過ごす羽目になるとは思ってもいなかった。

「私はね、意外と独占欲の強い方なんだと思うんだよ。…多分ね」

 付き合い始めて間もない頃に聞いた、こなたの何気ない一言。
 その言葉は、あの誕生日のサプライズプロポーズによって真実味のある言葉へと変質した。
 別に私も、当時存在していた色んな選択肢の中から今の関係を望んだ訳だし、こなたを裏切るような事をする気は今もこれからもないだろうと思っている。
 でも、私は時々、不確実な未来に対して言い様のない不安に苛まれる。
 もしかしたら、今の幸せがいつか壊れてしまうかもしれないと思うと、恐怖すら感じてしまう。
 所謂、「幸せすぎて怖い」という言葉は、きっとこういう時の感情を表す物なのだろう。

「っ……」

 暖房の音しか聞こえない室内にそんな蚊の鳴くような声が発せられると同時に、私のすぐ隣で布団がもそもそと動き始める。
 上半身だけ身を起こし、う~んと大きな伸びをすると、私の方へ顔を向けた。

「…おはよ、かがみ」

 穏やかな微笑みを向ける彼女の姿を見たら、先程までの不安もどこかに飛んでいってしまう。
 こんな風にこれから先も、そのまたずっと先もこなたと一緒にいる事ができたら――。
 ううん。願うんじゃなくて、作るんだ。
 こんな幸せな日常を。私とこなたの二人で。
 私は心の中でそんな決心をすると、優しくこなたを抱き寄せた。

「おはよう。こなた」

 私達の二年目は、そんなありふれた挨拶から始まった。




【12月26日 大掃除】

 泉家の大掃除は、毎年冬のコミックマーケットの開催日直前に行われる事になっている…らしい。

「…という訳で、今年も年末恒例の泉家一斉超大掃除大会を始めたいと思いまーす」
「やけに大層なイベント名だな…」

 こなたの異様にスケールの大きな開会宣言に、私は冷静にツッコミを入れる。

「む~。こういう面倒臭いイベントは、メリハリを付けないと中だるみするんだよ…」

 明らかにやる気の無さそうな態度でそんな事を答えるこなたを見て、私は深いため息を吐いた。

「まぁまぁ、こなた。今年はゆーちゃんとかがみちゃんが居るんだし、皆で力を合わせれば早く終わるって」
「そうだよ、こなたお姉ちゃん。私は重い物を持ったり、高い所に届かないから、あまり戦力にはならないかもしれないけど、他の事は頑張ってやるから、ねっ?」

 おじさんとゆたかちゃんに励まされ、「私も別にサボる気は無いけどさ…」と答えたものの、それでもなお、こなたの面倒臭そうな表情に変化は訪れない。

「…こういう時に、眼鏡っ子のメイドさんが居て、面倒臭い事を全部やってくれればなぁ~」
「ふむ、確かに眼鏡を掛けてなんでも完璧にこなすメイドさんも良いが、お父さんとしては、三つ編みのドジっ子メイドなんかも捨てがたい」
「いや、それならそれで、私的にはツインテのツンデレメイドが一番良いんだけどさ。っていうか、かがみがメイドのコスを着てくれれば――」
「じゃあ、ゆたかちゃん。最初は自分達の部屋から掃除を始めましょうか」
「えっ!? あ、はい…」

 メイド談義を始めたオタク二人を華麗にスルーし、私はゆたかちゃんを連れて居間を後にした。




【12月27日 それぞれの準備】

 年末が特に忙しいのは、別に冬のコミケを今か今かと待ち構えている泉家に限った話ではない。
 むしろ、神社として初詣の準備と家庭内の年末年始の準備を並行して行わなければいけない私の実家の方が、それ以上に慌ただしい。
 そんな訳で、この日の私は家の手伝いをしようと、朝早くから実家に戻っていた。
 それにしても、実家に戻ってお母さんに最初に頼まれた事が、「つかさを起こしてきて」という独身時代に散々聞いたフレーズであった事に、私は苦笑いを隠せなかった。

「そういえば、今日はこなちゃんとは一緒じゃなかったの?」

 朝食の食パンを齧りながら、その事を聞いてくるつかさに、私はそれより先に「頬にジャムが付いてるわよ」と指摘する。

「本当は連れて来るつもりだったんだけど、『明日からコミケが始まるから、その準備をしないと…』とか言って断られたのよ」

 私がそういうと、つかさは『コミケ』というフレーズに軽いパニック症状を起こしたが、今年はここも忙しいだろうからあんたは連れていかないわよ。と説明するとようやく落ち着きを取り戻した。
 っていうか、そんなにトラウマになってたのか、去年の事…。
 私はいい加減に慣れたけど。

「お姉ちゃんは今年もこなちゃんに付いて行くんだ。凄いね~」
「ま、まぁ、もう義務みたいなもんだしね。…こなたと一緒に居る為の」

 すると、それまで私の心の奥深くに封印していたある事柄をつかさが口にした。

「確か、二人の初デートもコミケ――」
「つかさ、それ以上は言わないで。今思い出しても腹が立ってくるから…」

 物凄い剣幕でそう伝えると、つかさは両手に持っていたパンごと縮こまって、「ご、ごめん…」と謝った。あんた、また頬にジャムが付いてるわよ。

「…だいたいね、年末だったから怪しいなとは思ったのよ? でも、子供が母親に縋り付くような声で『かがみ…。デートに行こ?』なんて電話越しに言われたら、そりゃ私だって、気合入れて勝負服着込んで出掛けるわよ。それで私が『どこへ行くの?』って聞いたら、こなたが申し訳無さそうな顔で『あ、あの…。有明…』って言い出すんだから、そりゃ私でも怒るわよ。コミケに行きたいんなら最初からそう言えば良いのに。まっ、付き合い始めて早々にそんな理由で別れるのもどうかと思うし、私が怒ってる間に、こなたがまた泣き出しそうになったから、すぐにその場で仲直りしたけどね。…まぁ、涙目のこなたはちょっと可愛かったとかそういう事を思ったからではないのよ? そこは誤解しないでよねっ」

 つかさの一言で、あの時の情景が完全にフラッシュバックしてしまった私は、その時の感情をそのままに、つかさに向けてその思いの丈をぶち撒けてしまった。

「あっ…」
「……」

 気づいた時には、時すでに遅く、つかさは頬にジャムを付けたままフリーズしていた。

「…実家に帰ってきて早々にノロケ話とはねー」

 リビングのドアの前でまつり姉さんが、半ば呆れながらニヤニヤしているのを見て、私は早く家に帰ってこなたに癒されたいと切に願った。




【12月28日 コミケ初日~作者は通販で買いました~】

「……ねぇ、こなた?」
「どったの? かがみん」
「この本って、『週刊●●●●』ってタイトルなのよね?」
「うん、そうだよ」
「…これが創刊号って事は、これから毎週出るの?」
「いや、ディア○スティーニとかそういうのじゃないから、毎週は出ないね」
「えっ、じゃあ、なんで週刊ってタイトルに――」
「かがみぃ~。そこは『今は無理かもしれないけど、いつかは本当にそうなるぐらいにこのジャンルが栄えて欲しい』という製作者側の意気込みを買おうよ~。ほら、絵もSSもこんなに気合が入ってるんだからさぁ~」
「わ、わかったから、そんな懇願するような眼で私に訴えかけるなって!」




【12月29日 コミケ二日目~泉こなたの布教活動~】

 この日は、先日も言ったとおり、私とこなたの初デート記念日である。
 例によって、今年も私とこなたは有明に居て、記念日を祝うどころではない混沌と混雑を私は味わっていた。

「はい。これ、かがみの分」

 休憩中、こなたがゲームのパッケージらしきケースを私の前に差し出してきた。
 二日続けての激務に既にKO寸前な私は、気だるげにそのゲームパッケージを手に取り、表裏を確認する。
 それは、私がこの間読んで気に入ったラノベの二次創作ゲームだった。

「なんだよー。明らかに裏面が如何わしい内容だぞー。これ」
「ただの同人エロゲだよ?」
「…これを私にやれと言うのか…?」
「うん」
「断る」

 即答した。

「えー!? かがみも18歳になってるんだから年齢的には大丈夫なんだよ!? それに、夫婦なんだから同じ趣味を共有した方がもっと仲良くなれるじゃん!?」
「18になっても、そういうのに手を出さない奴はたくさん居るし、趣味が全く違っても上手く行ってる夫婦はたくさん居るわよ…」

 コミケのせいで、すっかりダウナー状態の私と、コミケのお陰でハイテンションになっているこなたとのやり取りがコントラストのように映えている。
 当事者なのにこんな客観的な表現をする程、今の私は醒めている訳で…。

「…でも、ここだけの話さ、このゲームのシナリオ書いたの、原作者本人なんだよね」
「!?」

 すいません。今、目が醒めました。

「はぁ!? 今なんて言った!? 原作者が書いた!? 本当に!?」
「一応、お忍びで書いてるからライターの名前は仮名だけど、お父さんの知り合いのラノベ作家がその作家さんと友達でね。その人から流れてきた情報だから本当だよ」
「本当なのは分かったけど、未だに信じられん…」
「まぁ、その作家さんが言うには、本当はそのゲームの中に入ってるカップリングを原作の方でも成立させたかったらしいんだけど、大人の事情でそれがダメになったんだって。で、どうしてもそのカップリングの話を書きたかった作家さんが知り合いの同人サークルにお願いして、書き下ろしのシナリオを捻じ込んだらしいよ」
「純粋に作品を楽しんでた者としては、あまり聞きたくない話だな…」

 所謂“大人の事情”を話終えると、こなたはあからさまに残念そうな表情を作り出す。

「まぁ~。でも、かがみがやりたくないっていうのなら、別にやらなくても良いよ~」

 そう言って、テーブルの上に置かれていたゲームを再び自分の鞄に戻そうとした所を、私は慌てて引き止めた。

「ま、待って! そ、その…。ちょっとだけならやってみてもいい…かな…」

 その言葉と共に、おずおずとそのゲームソフトを受け取ろうと手を差し出す私の姿を見て、こなたは意味深にニヤニヤと笑いながらそれを手渡した。

(これでかがみんがオタクにまた一歩近づいた…)

 そんな声が私には聞こえたような気がした。




【12月30日 コミケ終了後~私のささやかな復讐~】

「ふぃ~。買った買った~」

 自分の部屋に戻るや否や、持っていた荷物をドサリと置いて、こなたはベッドに豪快にダイブした。

「さすがに三日連続は疲れたわ…」

 私もへたり込むようにしてその場に座り込んだ。

「まぁ、これで後はマッタリと年が越せるよ」

 こなたはこれが仕事納めかのような様子を見せるが、そうは問屋が卸さない。

「残念だけど、明日はあんたも私もウチの神社で巫女の手伝いやる事になってるからね」
「ふぉっ!? そんな話聞いてないよっ!?」
「そりゃそうよ。去年の復讐も兼ねて私があんたに伝えてなかったんだから」
「そ、そんな、ひどいよかがみん! 毎年大晦日はこたつに入って戦利品をチェックしながら年を越すのが私のデフォなのにっ!」
「何言ってんのよ。結婚したんだから、嫁の実家の手伝いをするのは当然の事でしょうが。それにあんたも念願の巫女のコスプレが出来るから良かったんじゃないの?」
「私的には、巫女さんはやるんじゃなくて見て楽しむものなんだよね~」
「いや、見て楽しむという発想もハッキリ言って間違ってるんだけどね…」
「まぁ、かがみの実家には結婚の時とかに色々お世話になったからね。それくらいは手伝わないと罰が当たりそうだ」
「微妙に上手い事言ったな…」

 という訳で、割とすんなりと私の復讐計画は成功した。
 …こんなんじゃ、逆に私の気が晴れないわよ…。




【12月31日 新婚ふーふの大晦日】

「いやぁ~。コスプレとかじゃなくて、本物の巫女さん姿のこなたを見れるなんて、お父さん萌え過ぎて死んじゃいそうだよ」
「いや、別にお父さんを喜ばす為にやってるんじゃないし…」
「じゃあ、次はこのアングルから一枚…」
「もう、人の話ぐらい聞いてよ…」
「こなたー? 準備出来た?」
「あー、かがみ。準備は出来たんだけど、さっきからお父さんがこの調子で――」
「……」
「どうしたの? かがみ」
「…思わず見惚れちゃった」
「えっ? あ、うん…。に、似合ってる…かな?」
「うん。凄く似合ってる」
「そ、そう、良かった…」
「……」
「……」
「…じゃあ、かがみちゃんも入ってダブル巫女さんでもう一枚いこうか?」
「お父さん…。そこはもうちょっと自重しようよ。人として、親として…」




【1日1日 新婚ふーふの元日】

 午前4時半。この時間帯になると、さすがに参拝客の数も落ち着き、私達のシフトもようやく終わりとなった。

「ふー。さすがの私も疲れたよー」

 ウチの実家に戻って、巫女姿のまま用意された布団に倒れ込むこなた。
 私も毎年やっているといえ、今年は昨年に続いて参拝客が何故か急増したお陰で、例年以上の疲労感を抱えていたので、やはり着替えないまま、その場に足を崩して座り込んでいた。

「お疲れ~。どう? 実際に巫女をやってる方は大変なのが良く分かったでしょ?」
「まーね。いくらバイト代を貰えるって言っても、これじゃあもう一つ特典を付けてくれないと割に合わないよ…」
「特典って?」
「…端的に言うと、この格好でかがみとイチャイチャしたい」
「なっ!? ダ、ダメよ。まだ三が日が終わるまでは手伝いがあるんだから、汚したりしたら…」
「それくらい私も分かってるって~。でもさ、それが終わったらどうせクリーニングとかに出すんだし…さ?」
「…そ、そりゃ、私も嫌じゃないけど…。シミとか見つかったら、凄く恥ずかしいわよ?」
「その時はその時でまた考えれば良いじゃん」
「ホント、あんたは楽観的だな…」
「まぁ、それはさておき…。まだかがみに新年の挨拶してなかったね」

 こなたはそう言うと、起き上がって正座をする。
 その様子を見た私も、それに釣られて崩していた足を戻して、姿勢を正した。

「明けましておめでとう。かがみ。…今年もよろしくねっ」

 可愛らしくお辞儀をして、優しく微笑むこなたの姿を見た私は、早速この場でこなたと姫始めをしたいという衝動と戦いながら初日の出を迎える事になるのだが、それはまた別の話にしておこうと思う。
 とりあえず、最後に鷹宮の神様に私の今年の願い事を伝えて、この一連の話を締めくくろうと思う。


 ――今年も、こなたとずっと一緒に過ごせますように。




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コメント:
  • 頼むから続きを創ってくださいm(__)m -- 名無しさん (2013-03-22 01:41:13)
  • 現実の同性愛もこれだけ単純で甘ければいいのに -- 名無しさん (2012-09-24 02:45:23)
  • たまらんたまらんぐふ………は!?い、今なにを!? -- かがみんラブ (2012-09-23 21:39:34)
  • 相変わらずラブラブですね -- 名無しさん (2010-09-09 07:58:50)
  • この話の続きが読みたい! -- モッサリーニ (2009-11-06 21:41:26)
  • このシリーズは永遠に続いて欲しいですね~。素直にそう思える作品でした。作者様ホントーに、あじゅじゅした~。 -- kk (2009-10-29 00:13:38)
  • おぉ…すげ…‥ -- 名無しさん (2009-05-17 08:42:17)
  • ゲキ甘百合カプGJ!この先が気になり・・・
    ウワ、何をするやめギャー -- さんど (2009-03-12 19:50:23)
  • やっぱり甘い新婚生活はよい!!
    いつもGJな作品ごちそうさまですm(_ _)m -- にゃあ (2009-02-05 19:49:52)
  • 本当に ラブラブな年末年始の過ごし方ですね。

    一年どこらか一生 幸せで居て欲しいですね。


    姫始めって…wwwwwwかがみん堪えて -- ラグ (2009-02-02 04:28:52)

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