『ウソツキ』

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私にとって、かがみやつかさ、みゆきさんと一緒にいる時間は宝物だった。

キラキラと光る宝石のような時間は、何にも変えがたい大事な時間だった。

・ ・ ・ だった。



『ウソツキ』




その日、何時ものように駅で待ち合わせたかがみの顔色が随分悪かった。

覇気はなく、うつむき加減で、やや青白い顔色。

隣のつかさに聞くと、寝不足と女の子の日が重なったのだという。

そりゃあ辛いだろう。

かがみは割と重くなるときがあるようで、こんな風に辛い表情をしたまま登校するのを何度か見かけたことがある。

おまけに、今回は寝不足も追加付与されている。

どうせ勉強に熱が入ったのだろうけど、ほどほどで止めておけばよかったのに。

せめて気持ちだけでも軽くなって欲しくて、そう言ったのだけど。

「うるさい」

一言で終わらせられてしまった。


この一言で察するべきだった。


その日、休憩時間はかがみは来ることはなく、B組に顔を出したのはお昼休みになってからだった。

朝と変わらず白みがかった顔色で、席に着くなりうつ伏せになってしまった。

少しでも食べて保健室で薬を貰った方が良いと言うみゆきさんの言葉に、頭を少し動かすだけの返事しかしないかがみ。

そんなかがみを見て、私は、せめて雰囲気だけでも明るくしようと思った。

自分のせいで外の3人の雰囲気まで暗くなっては申し訳ないと、かがみならそう考えると思ったからだ。

明るい雰囲気で、せめて気分だけでも回復させよう。

私たちの時間なら、あの珠玉の時間ならそれができると思った。



私がネタを振り、つかさがズレた言葉を返して、かがみが突っ込んで、みゆきさんがやんわりとフォローする。

流石に突っ込みに精彩がなかったが、それでもだんだん声量の上がるかがみに私は気分が回復したのだと思ってしまった。


そして、調子に乗ってしまった私は、罰を受けた。


じんじんと痺れる右頬。

さっきまで確かにかがみに向いていた視界が今は何もない所を映している。

直ぐ、理解した。

かがみに頬を打たれたのだ。


頬を打たれた事実を理解したら、次に自分の間違いを認識した。

気心の知れた相手だからと、私は図々しくなりすぎていた。

かがみの調子が悪いのはちゃんと分かっていたはずだ。

女の子の日が重いとき、どれだけ辛いかは私だって分かっていたはずだ。

そんなかがみに、私は何をした?

気遣うどころか、追い込むような事をしたでしょう?

辛いのに、ほんとは動きたくないのに、それでも隣の教室へ一緒にご飯を食べるために来てくれたかがみに。

ただの自己満足でしかない、間違うにもほどがあるだろうというやり方で、かがみを苦しめた。

打たれて当たり前だ。


私は慌ててかがみに謝った。

けど、かがみはぼんやりと私と自分の手を交互に見返すだけだった。

今はきっと、自分の行動が理解できないでいるだけで、時期にハッキリと分かるだろう。

そして、自分のしたことに深く後悔するのだ。

かがみは優しいから、そんなそぶりを見せないまま、一人で悔やむのだろう。

そんなかがみを嫌にリアルに想像できてしまい、私は自分が許せなくなってしまった。


家に帰った私は姿見に自分を映し、その自分を睨みながら言い聞かせた。

「自惚れるな、バカ」「これ以上迷惑をかけるな、バカ」「調子に乗りすぎてるのを自覚しろ、バカ」

自分に言葉を叩きつけながら、明日に思いをめぐらせる。


明日からは、もっと気遣えるように気をつけよう。

調子に乗って迷惑をかけた分、もっと相手を尊重するのだ。

自分は2の次3の次。

これ以上、大切なかがみを、彼女たちを傷つけてなるものか。



次の日。

待ち合わせに指定している時間より15分早く駅前に着き、かがみとつかさを待った。

自堕落な行動は迷惑をかけるから。

時間の5分前になって、二人が来た。

できるだけ、昨日のことを引きずらないように、明るく声をかけた。

そんな私に面食らって驚いていた二人だったが、直ぐにかがみが私に謝ってきた。

昨日はごめん。悪いのは私。調子は悪かったけど、私がやり過ぎた。

      • 想像した通りになってしまったようで、かがみは下げなくて良い頭を下げて謝った。

この展開、私が『かがみは悪くないよ』と否定してしまうと余計にかがみを萎縮させてしまう。

だから、私は受け入れた。

「私も悪かったし、かがみも間違いがあった。お互い間違いがあったんだよね」

「だから、お互い気をつけることにして、もう、この話題は終わろう?」

かがみは「ありがとう」と一言だけ言い、この話題はこれっきりになったはずだった。


何時もの会話、私のマニアックな言葉に何時ものようにかがみが突っ込みを入れてくれる。

つかさが微妙にずれた発言で場をなごませ、みゆきさんがフォローしつつ嫌味のない流れるような説明やうんちく話をしてくれる。

そんな皆をからかいたくなる自分を、私は心の中で何度も叩き殺す。

大切な人たちなのだ。

もう、絶対傷つけないと誓ったのだ。


放課後、皆と話をしているときだった。

かがみが、「元に戻ってよ」と私に言ってきた。

私の肩を掴み、酷く泣きそうな顔で、苦しそうに言ってきた。

そんなかがみの両隣につかさとみゆきさんがいて。

やはり、辛そうに顔を歪ませて元に戻ってと言ってきたのだ。


-元に戻る?-

-また、皆を傷つける?-

戻れるわけがない。

傷つけるかもしれないと考えただけで、私の体はカタカタと自覚できるくらい震えるというのに。

私は、ゆっくりと首を横に振り、皆の懇願を拒否した。



結局、私は独りよがりな事しかできないようだ。

皆を気遣うという行動が、今度は壁を作ってしまっていたようで。

結果、皆を傷つけてしまっていた。


あれから一月。

私は未だに気遣いを続けている。

もっと上手く、皆を傷つけないように、優しく優しく触れるように、気配りをする。

あれ以来、皆は元に戻ってとは言わなくなった。

でも、私たちの会話に苦味を感じる。

触り方がまだ荒々しいのだろう。

だから、今日も私は優しく皆に触れていく。



朝、私は、鏡に映る自分を見つめながら言葉を吐き出す。

誰にも届かない独り言は、自分を慰めるだけしか意味がない。

それでも構わないと、私は鏡に映る自分に向かって語りかける。

「今、上手くいってるよね」

今の自分を納得させるために、私は今日もウソツキな自分を慰めるのだった。



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