零れ落ちるもの

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私はあいつのことをどう思ってるんだろう?昨日からそんな問いがぐるぐる頭を巡ってる。
オタクで、小学生みたいな体型だけど運動神経抜群。飄々として掴み所がないけど
決して本気で人が嫌がることはしないあいつ。
…私の大切な『友達』。
一晩たっても、その答えは変わらなかった。

そもそも同性同士なのよ?あいつは関係ないと言ったけれど、子供を産むことも、
ましてや結婚することすら許されないこの国で、女の子が
恋愛対象になるなんて昨日までの自分は想像すら出来なかった。
…いや、こなたの漫画やゲームでそういったものは見せられていたし、
現実に同性愛者が居ることも知っている。それを否定しようとは思わない。
ただ、それは何て言うか、薄い膜で隔てられた向こう側に起こる出来事で、
自分には直接関りあいのないことだと思っていた。


私はいままで通りを望んでる。

それが私の出した結論。…だけどやっぱり昨日の今日じゃ体も心も重い。
風邪から快復したばかりのつかさに、昨日のことを相談出来るはずもなく
どんよりと心が曇ったまま刻々と待ち合わせの時間が迫って来る。
つかさから風邪を貰えないかな、とかちょっとだけ思ったけれどそこまで神様は甘くないみたいだ。
ついでに、なにもないのに学校をサボれるほどの度胸は私にはない。

「こなちゃん、今日も遅れて来るかなー?」
「…そうね…」

こなたは夜遅くまでネトゲをしているせいかいつも5分程遅れてやって来る。
一度それに合わせて、今の待ち合わせ時間から5分後の時間にしたら
横着してその時間よりもまた5分遅れて来るようになってしまったから元に戻したのよね。

つかさに生返事を返しながら、もしかしたらあいつの方が来ないかもと思う。
考えてみれば、十分有り得る話だ。こなたにしてみれば失恋したんだから。
その相手に会うなんて普通は気まずいだろう。

だけど、予想に反してこなたはきっちり時間通りにやって来た。

「おはよー、お二人さん」
「おはよう、こなちゃん。今日は早いねー」
「ぬおっ!いくら私だからって毎日遅れて来るわけじゃないんですぞっ!」

……普通だ。普通過ぎる。確かに昨日『明日からは今まで通りにする』
と言っていたとはいえ、あまりに何事もなかったかのような態度に
私の方が夢を見ていたんじゃないかと思って来る。

「どったのかがみん?乗り遅れるよ?」
「あ、う、うん」
いつの間にか目の前にはバスが止まっていた。
飛んでいた意識を戻し、慌てて体を動かす。


――バスに乗る寸前、私にだけ聞こえる声でこなたが囁いた。

「昨日のことは忘れて?私もぎくしゃくしたくないし、さ」


……その言葉だけが、昨日の告白は夢なんかじゃないんだと、
どうしようもない程リアルなんだと、告げていた。


それからなるべく『普通に』、『いつも通りに』接することに努めた。
それは、私よりこなたの方が強く望んでいたんじゃないかと思う。

こなたがマニアックな発言をして、私がそれに突っ込む。みゆきとつかさは優しく微笑んでいて。
あの日のことを無かったかのように、きつく蓋をして取り繕う日々は
正直、心が痛む時がある。私はこなたの気持ちを踏みにじっているんだろう。
あの時のこなたはとても真剣で。一週間やそこらで、その傷が癒えるはずもない。
こなたは平気なふりをしているだけなんだろう。
その証拠に、学校ではいつも通りでいたけれど、あれから二人きりで遊んだことはない。
それでも、学校でのやり取りは楽しくて。この幸せが――いや、本当の幸せじゃなかったとしても――
無理の上に成り立っているとしても、願わずにはいられなかった。
こんな日常がいつまでも続けばいいと。


――そうしているうちに夏休みも終わったけれど、まだまだ外は暑い。
照り返すような日差しが万遍なく降り注ぎ、窓を全開にしていても
太陽に温められた生温い空気が入って来るだけで、なんの解決策にもなっていない。
ぐでんぐでんに溶けた頭を下敷きで時たま扇ぎながら、私たちは四人で昼食をとっていた。
「あ、そういえばさー」
思い出したように、こなたが突然声をあげた。暑さのせいか
心なしかアホ毛も萎れている。
「どうかされたんですか?」

三人を代表してみゆきがこなたを促した。
そして、こなたが喋り始めた内容は……私にとって核爆弾級の代物だった。


「私、告白されちゃった」


「え!?誰にー!?」
「えーと……私もよく知らないんだけどさ、A組の……」

頭が、真っ白になった。

確かにこなたは胸もないし、オタクだけれど
小動物的な可愛さがあるし性格だっていい。
つまり、自分では気付いていないかもしれないけれどモテる要素は十二分にある。
私だって、あの時男か?と疑ったんだし、実際応援もするって言ったんだから
私はこんな時、少し冷やかしたりして、その後は二人を見守ったりしなきゃいけないんだろう。
でも、何故か、素直に祝福することが出来ない。

……なんで……?

あの日とは何か違う想いが芽生えている、と感じたのはこの時だった。
…もう、遅すぎたのかもしれないけれど。

「…で、あんたはどうするの?」
大丈夫だろう。仮にも私に告白したんだから。
…なんて、断った私が思うのはおかしいんだろう。矛盾している。
だけど、それが今の私の本心だったんだから仕方がない。

「んー?……付き合ってみようかと思ってる。私、そーいうの初めてだからさ。どんなもんかなって」
「うーん…そうやって付き合い始めるのも有りかなあ?ゆきちゃん」
「そうですね…相手の方をよく知らないのであれば、お友達から、
というのはどうでしょうか?泉さんの気持ちが不確定なままお付き合いするとなると
相手の方の気持ちに応えられないかもしれませんし…」
「おお、なるほど!みゆきさん、ぐっどあいでぃあ!!」


世界が、私だけを取り残して回っているみたいに思えた。楽しそうに話をするこなたたちが
どこか別次元のことのように見えて、頭の中にはさっきにもまして「なんで?」が流れている。

私に、好きって言ったのは?

キスしたくなるぐらい好きなんじゃなかったの?

どうして私はこんなに心乱されてるの?

私、こなたのこと『友達』としか思えないんじゃなかったの?

なんで?なんで?なんで?解らない。解らない。解らない。

こなたのことも。そして、自分自身のことも。




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