父の肖像

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こなたとかがみが、まだ高校に通っていたころの、ある休日のこと。

その日、かがみが、こなたの家に遊びに来ています。

しかし、かけがえのない時間は駆け足で過ぎて、つるべ落としの夕暮れは、
いつもより早く、帰りの時刻を告げます。
気がつくと、あたりはすっかり暗闇に包まれていました。


「こなた、キミは何故、実の父親を、そんな目で見るんだい?」
「お父さん、アナタは実の娘の口から、その訳を聞きたいワケ?」
「言いたいことはよ~く分かる。だがな、」
「ごめんねかがみ、今日は夕食当番だから、かがみを守ってあげられないのだヨ」
「お~い」
「なにかあっても、絶対泣き寝入りは駄目だかんネ」
「ひどい云われ様だな」
「(ホント仲いいな、この二人・・・)」


そうじろうが、お姫様を家に送るために選んだカボチャの馬車は、
後ろに描かれた「PANDA」の名に似合わぬ、四角四面の姿でした。


「(へ~ 左ハンドル?)すみません、わざわざ送っていただいて」
「遠慮はいらないよ。いろいろ大歓迎さ」
「(・・・イロイロって何だよ)」
「悪い、ベルト締めて」
「あ、ハイ」(シュルルル・・・)


カーポートから這い出した車は、少し恨めしげなこなたに見送られて、
暗くなった田舎道に余韻を引いて、一気に走り抜けます。

風の音の洩れる車内では、少し畏まり気味のかがみを余所に、そうじろうは機嫌よく話し続けます。
仕事での笑い話、面白い友人のこと。そして娘こなたのこと。
かがみも、次第にいつもの調子に・・・・


「ホーントに仲いいですよね~、こなたとおじさんて」
「おや、かがみちゃんは、お父さんとは仲良くないのかい?」
「え、ウチは、その~ だいぶ年も離れていますし、あんまり子供っぽいこと言うと、その、怒られちゃうかなって」
「いやいや、男親には照れがあるからね。おじさんも昔は、こなたにひっつかれると、もう照れて照れて」
「え~、ホントですか~ だってこなたの奴、おじさんの方がひっついて来るって言ってましたよ~」
「そうなんだよね、最近じゃ全然ひっついてこないから、おじさんの方からね」
「わ~ ソレ犯罪ですよ~!」
「わ、ソレ、キッツイな~」


人懐こく話すそうじろうの横顔を見て、かがみは自分の父親の横顔を重ねます。
子供のころ、初めて髪をツインテールにしたとき、可愛いね、と言ってくれた、父親の横顔。

我儘な自分を叱ってくれたとき、なぜか照れくさく嬉しかったこと、
やさしく頭を撫でてくれた、あの大きな暖かい手が、大好きだったこと・・・・・・・


ふと見ると、何かを思い出したように、そうじろうが黙り込んでいるのに気がつきました。

赤信号が灯り、車は信号待ちの列の後ろに付きます。静かになった車内は、少し気まずい空気に包まれます。

やがて口を開いたそうじろうは、こんなことを言います。


「こなたが小学生の頃だったかな、居間のこたつに突っ伏していたんで、学校で何かあったのかと、聞いたことがあるんだ」
「・・・・・・・」
「そうしたら、『何でもないよ、ありがとう、お父さん大好き』って」
「それって、ちょっぴり嬉しかったんじゃないんですか?」

つい、いつもの調子で返したとき、信号が変わって、車はまた走り出します。


「父親としてはね、以外に傷つくんだ、そういう時・・・・・」


☆★☆★☆

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「こなたはあれで、母親のことで、外でいろいろあったらしい」
「でも、自分で堪え切れなくなっても、それを僕にぶつけてくることはしない」
「こなたはね、自分が僕に甘えてぶつかっていくことで、僕が傷つくのを、よく知っているんだ。」
「僕はこなたを守ってやることが出来ない。それをいちいち思い知らされるんだ。」
「一生一緒にいてやることもできないしね」


気まずい沈黙を吹き飛ばそうと、冷えた空気を吸ったエンジンは乾いた唸りを上げ続け、かがみの家の前でようやく落ち着きました。

かがみは、そんなそうじろうに、言葉をかけることさえ、出来ませんでした。

ただ、かがみは別れ際に、かろうじてこれだけは言うことができました。


「お父さん、今は私がいます。私はこなたの友達です。守ってあげられないかもしれないけれど、何があっても、ずっと一緒にいます」


薄いドアをバシャンと閉めた、平らなガラスの窓越しに、そうじろうの、少しだけ嬉しそうな笑顔が、見えたような気がしました。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

家の前に立ち、窓から洩れる明かりを外から眺めると、随分と時を過ごしてしまったことに、
かがみは今更ながら気づきました。

薄暗い玄関を潜り、靴を脱ぐと、冷え冷えとした廊下の先に人の気配がします。

「お父さん・・・・」
「お帰り、かがみ」
「た、ただいま(怒ってるのかな・・・・・・・・・)」

「もうすぐ夕食だ。お勝手を手伝いなさい」
「・・・・・はい。 (心配掛けちゃったかな・・・・・・?)」

それ以上は何も言わず、居間に続く薄暗い廊下を、ただおは歩いてゆきます。

「(一生一緒にいてやることもできない・・・・・か)」

前より少し小さくなった、その背中を見ながら、かがみは、
またあの手でやさしく頭を撫でてもらったような気分になりました。









・・・・・・・・・・・・・・・・・

(しばらく経って携帯電話)


「あんたね!あんたはそうやってイロイロ云うけどね、お父さんは大事にしなさいよ、ホントに」

「ちょ! な? ねえかがみ、教えてよ!あん時、いったい何があったのサ」


(おしまい)

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