黒ぬこと雨

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『黒ぬこと雨』



我輩は猫である。
気まぐれな一匹の猫である。
そう、だからこそ。
まだこの街に居座っていることも...
またこの場所に来てしまったのも...

ただの「気まぐれ」でしかないのだ。

昨日から降り続いている雨は収まることを知らず、空を灰色に染めていた。
雨が当たらない場所を選んだつもりだったのだが、強い風が吹く度、斜めに吹き付ける雨粒が俺の体を濡らしていく。
皮膚に付いた水滴が不快でならない。
ブルッと体を震わせて水滴を振り払うと、ちょうど俺の後ろから足音が聞こえた。

--カンッ、カンッ。

一定のリズムを置いて鳴り響く足音。
ここに居座って一週間。
この時間ここに来る人間は二人しかいない。
青空色の少女と紫陽花色の少女。
彼女たちは誘い合わせたようにそれぞれ1日置きにここにやってくる。
俺に食べ物をくれたり、俺に話しかけたりするために。
だから...というわけではないが、この「気まぐれ」の理由はこの人間達にあった。
昨日は確か、紫陽花色の少女が「猫缶」とやらを持ってきてくれた。
初めて食べた味だったが、食感は瞬時に気に入ったことを舌先が覚えている。
と、言うことは...

「おー、やっぱ今日もいる!!!」

俺の予想通り、青空色の少女だった。
手にはいつもくれるパンと、長細い杖のようなもの。

「ここじゃ濡れちゃうよ。ほら、傘の中おいで?」

そう言って彼女はバッと爆発音のような音を出して、持っていた杖を広げた。
いきなりの爆音に驚いてビクッと体が反応する。
傘は前に人間がさしているものを見たことあるが、傘を広げる瞬間をみたのは初めてだった。
普段人間はこのようにして傘を持っているのか。
なるほど、雨が降る日にこれを持つ人間の多さにも納得がいく。

「結構濡れちゃってるねぇ。あ、確かハンカチが...んー、あったは...あった!!!」

そういって屈んだ少女が俺に近づき、頭の辺りに布を被せる。
一瞬、ほんの一瞬だが、紫陽花の少女の匂いがした。
雨のせいで鼻でもいかれたんだろうか。
クシャクシャと痛いくらいの力で俺の体を拭く。
それでも動かなかったのは、きっとこの子の手の温かさのせいだ。
布越しに感じる温かさは、俺の冷えていた体にジワリとしみこんでくる。

「猫ってさ...」

動いていた手が止まって、少女は俺の体から手を離した。

「いっつも一匹でいるじゃん?」

一匹。
あぁ、そう言われるとそうだな。
俺等猫科は元々単独行動主義なのだ。
犬や狼のように群れの中で生活することなど、考えるだけで面倒くさそうだ。
行きたいところに行き、やりたいようにやる。
それが当たり前なのだ、俺からしてみれば。

「...寂しくない?」

寂しい。
とは、なんだ?
人間で言う感情表現というものか。
うまい、腹が立つ、痛い。
この3つはよく感じることだが、寂しいとはどんな感情なのだろうか。

「私もね、そうだったんだ」

ふぅと息を吐いた彼女が苦笑しながら、布を鞄にしまう。

「寂しいって、よく分かんなかった。お母さんがいなくてもお父さんがいたし、今はかがみも...友達もいるし、ゆーちゃんもいるしね」

かがみ。
何故が俺の中でこの言葉が引っかかる。
散々この少女から聞かされていた名前なのに。
彼女がこの名前を呟くときの辛そうな顔のせいだろうか、それとも---

「だけど、今は凄く恐い」

恐い?

「みんなと、かがみと離れるのが...たまらなく寂しくて、恐い」

どうしちゃったんだろうね、とそう微笑む少女はすぐにでも泣いてしまいそうなくらい脆くて。
俺は思わず彼女の頬を舐めた。
この前のようにこの透き通る瞳が涙で滲むことがないように。

「わたし、かがみが---」

俺を抱きしめてそう呟いた言葉は、雨音にかき消される程、小さく、儚いものだった。


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  • 雨降りの中、猫を抱きしめて呟くこなたが可愛くて、切ないですね…。
    短い文の中に想いが込められていて良かったです。GJ! -- 名無しさん (2008-11-10 02:12:55)


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