あの子は一人ぼっちだった。
まるで他人を受け入れないかのような様相をしていて。
まるで一人でいる事が当然かのような振る舞いをする。
まるで一人でいる事が当然かのような振る舞いをする。
眼は、冷たく。
まるで他者の全てを拒絶するかのような目をして‥。
まるで他者の全てを拒絶するかのような目をして‥。
――どうして、そんなに悲しそうな眼をしてるの‥?
私には、
なんだかそれがとても寂しそうなものに見えたんだ.....
なんだかそれがとても寂しそうなものに見えたんだ.....
…『夢と幻を越えて』…
静かな静寂‥。
家族の寝静まった夜に、こっそりと明かりが灯る。
立ち込める甘い匂い。錯乱するボウルやら泡立て器。
深夜の台所で一人、慣れない事を始める。
深夜の台所で一人、慣れない事を始める。
私には、妹みたいな器用さはない。
同じように作っているのに同じように出来やしない。
上手くいかない型取り。上手く冷えない固まり方。
ようやく綺麗に仕上がったと思っても、口に入れてみると味がイマイチだったり。
同じように作っているのに同じように出来やしない。
上手くいかない型取り。上手く冷えない固まり方。
ようやく綺麗に仕上がったと思っても、口に入れてみると味がイマイチだったり。
‥私はどうしてこんなに不器用なんだろう?
この手も、この心も…素直になれないでいる。
自分の気持ちを正直に渡せないから、妹のチョコレートに便乗して。
…妹が作ってたから、私も作っただけという言い訳を用意して…‥
この手も、この心も…素直になれないでいる。
自分の気持ちを正直に渡せないから、妹のチョコレートに便乗して。
…妹が作ってたから、私も作っただけという言い訳を用意して…‥
何度目か解らない冷やしてる間の時の間。
型取った物が冷蔵庫の中で固まるのを静かに待つ。
型取った物が冷蔵庫の中で固まるのを静かに待つ。
時計の針が、カチ、カチ、と規則的なリズムを作り、静寂の中に響き渡る‥‥
全てが暗く寝静まった台所で一人、椅子に座りながら物思いに深く耽る。
全てが暗く寝静まった台所で一人、椅子に座りながら物思いに深く耽る。
――『ねぇ、かがみ。ずっと一緒にいてくれる‥?』
あの言葉には、どれくらいの意味があったのだろう?
こなた、大丈夫だよ‥。私は何処にも行かないよ‥。
こなた、大丈夫だよ‥。私は何処にも行かないよ‥。
何度目かの失敗の後、
それは、ようやく綺麗に出来ていた‥。
それは、ようやく綺麗に出来ていた‥。
‐‐‐‐‐
朝の陽差しが眩しい。
青く澄み渡る大空に、真っ直ぐ射し込むような太陽の直線光。
寒波は未だ消えず、コートを脱ぐ季節には早い。
青く澄み渡る大空に、真っ直ぐ射し込むような太陽の直線光。
寒波は未だ消えず、コートを脱ぐ季節には早い。
凍える空気が吐息を白くする。
眩しさに溶け込んで息が霞んで見えてる。
吐息は、そして消えて行く‥。
眩しさに溶け込んで息が霞んで見えてる。
吐息は、そして消えて行く‥。
――私は、一人の女の子を見付けた。
でもその子は、誰も寄せ付けない眼をしていた。
でもその子は、誰も寄せ付けない眼をしていた。
そこから・・・私は・・・
――何をしたんだっけ・・?
「かっがみーん♪」
「のわっ!!」
「のわっ!!」
急に抱き付いて来た親友に、私の身体は大きく反り返る。
同時に迫り来る、甘い匂いと…暖かい感触の温もり。
私たちの朝。いつもの通学路のやり取り。
同時に迫り来る、甘い匂いと…暖かい感触の温もり。
私たちの朝。いつもの通学路のやり取り。
「かがみん、おはよ~♪」
「まったく、いきなり飛び付かないでよ‥」
「まったく、いきなり飛び付かないでよ‥」
こなたの顔が綻んでいた。
白く小さな吐息を出しながら、小さな身体で私に構ってきていた。
朝日が眩しく、空が澄んでいる中で、私達は戯れている。
青空に、私達の笑い声が弾み上げている...
白く小さな吐息を出しながら、小さな身体で私に構ってきていた。
朝日が眩しく、空が澄んでいる中で、私達は戯れている。
青空に、私達の笑い声が弾み上げている...
「でね、その女の子がね………」
「まったく、あんたはアニメの話ばかり……」
「まったく、あんたはアニメの話ばかり……」
あの日から――約束を交わした日から…コイツは私にとても懐くようになった。
私の教科書を借りに来たり、帰り道を一緒に合わせようとしたり、、。
いつも私の傍にいるようになり、私といる時間を作ろうとしていた。
私の教科書を借りに来たり、帰り道を一緒に合わせようとしたり、、。
いつも私の傍にいるようになり、私といる時間を作ろうとしていた。
『寂しいんだったら、いつでも甘えて来ていい』
『私が傍にいてあげるから――‥‥』
『私が傍にいてあげるから――‥‥』
そう言ったから。
こなたは、本当は寂しい想いを隠してるんじゃないかと、私は思ったから。
こなたは、本当は寂しい想いを隠してるんじゃないかと、私は思ったから。
私達は、特別な約束を交わして、世界で1番の親友だと誓っていた。
‥だけど、本当はもっと違う思いもあったのかもしれない。
私は素直に自分の気持ちを表せなかった。
今だって、抱き付くこなたの腕を振り解こうとしている。
嬉しい癖に、口では仕方ないといった事ばかり言っている。
やれやれ、といった態度ばかり取っている‥。
私は素直に自分の気持ちを表せなかった。
今だって、抱き付くこなたの腕を振り解こうとしている。
嬉しい癖に、口では仕方ないといった事ばかり言っている。
やれやれ、といった態度ばかり取っている‥。
‐‐‐‐‐‐
「ハッピーバレンタイン、こなちゃん!はいコレ♪」
異様な程に作り込まれたハート型のチョコがこなたの手に受け取られていく。
つかさの凝り性は天下一品で、市販の物なんかより遥かに出来がいい。
ラッピングだけで心が暖まるような、そんな仕上がりになっている。
つかさの凝り性は天下一品で、市販の物なんかより遥かに出来がいい。
ラッピングだけで心が暖まるような、そんな仕上がりになっている。
「つかさ…義理でも男の子にはあげない方がいい。絶対勘違いされるから!」
全く同意見だ。見ただけで心が篭ってるのがわかる。
きっと中身も…私のなんかよりずっと美味しく作っているのだろう。
やっぱり駄目だ、私には・・・・
きっと中身も…私のなんかよりずっと美味しく作っているのだろう。
やっぱり駄目だ、私には・・・・
「とりあえず、ハイこれ」
タイミングは今しか無かった。
つかさのついでだと、言い訳できるタイミング。
今この瞬間を逃すと渡せる勇気はもう無いだろう。。
つかさのついでだと、言い訳できるタイミング。
今この瞬間を逃すと渡せる勇気はもう無いだろう。。
「かがみが!?私にチョコぉ!?」
私が見せたのは、形も悪く、バラバラになっているチョコだった。
ラッピングも適当だった………
それでも、目を輝かせて嬉しさを表現するこなた。
ラッピングも適当だった………
それでも、目を輝かせて嬉しさを表現するこなた。
「つかさがやってたから、ついでに作っただけよ」
言い訳は完璧だった。
そう…それが私の限界だった。
そう…それが私の限界だった。
…そのチョコは、ついでに作ったものだ。
本当に時間を掛けたハート型のチョコは、鞄の中に眠っている…。
本当に時間を掛けたハート型のチョコは、鞄の中に眠っている…。
――こんなに、つかさが渡せる雰囲気を作ってくれているのに…
――私はそれでも、渡す事が出来なかった…
――私はそれでも、渡す事が出来なかった…
……
「お~~~……」
私のチョコをまじまじと見つめるこなた。
一体何を考えているのだろう‥?
一体何を考えているのだろう‥?
『柊が作ってくれたってのが大事なんじゃないか』
『バ、バカ…だからそんなんじゃないってば』
『バ、バカ…だからそんなんじゃないってば』
「・・とかいうのは無いの?」
「ねーよ。いいから黙ってしまえって!」
……あるわけないでしょ、このバカ。
‐‐‐‐‐‐‐
夕焼けが赤く溶けた空に、綿飴の雲が浮かぶ。
いつもの帰り道、長い影が2人の足元から伸びている。
遠くで踏切の音が聞こえ、慣れた音を響かせていた。
いつもの帰り道、長い影が2人の足元から伸びている。
遠くで踏切の音が聞こえ、慣れた音を響かせていた。
――こなたの声が聞こえる。
「かがみ~!今日の宿題写させてー!!」
「少しは自分でやりなさいよ!まったく、もぅ…」
「少しは自分でやりなさいよ!まったく、もぅ…」
空が澄んでいた。
黒い何かが襲うように、空を包み込んでいた。
夕日が精一杯の抵抗をしていて、赤く染まる空を作っていた。
それがいつか終わる色だとしても、私の眼にはこの瞬間を焼き付けているだろう。
夕日が精一杯の抵抗をしていて、赤く染まる空を作っていた。
それがいつか終わる色だとしても、私の眼にはこの瞬間を焼き付けているだろう。
「私はね~‥…」
「はいはい、またあんたの事だから‥…」
「はいはい、またあんたの事だから‥…」
遠くで車の走る音も、遠くの電車の音も、全てが夕焼けに溶けていく。
隣のコイツが、夕日に溶け込む中で笑いかける。
隣のコイツが、夕日に溶け込む中で笑いかける。
――何か、とても懐かしい…。
私は、あんたがいて本当に良かった。
つまらない日常を輝かせる太陽のような存在。
この学校に来て、あなたと出会わなければ…私は‥‥
つまらない日常を輝かせる太陽のような存在。
この学校に来て、あなたと出会わなければ…私は‥‥
「ねぇ、こなた」
「なにカナ~?」
「なにカナ~?」
‥コイツはオタクで、不真面目で、勉強嫌いで…
宿題もやらなければ授業もノートに写さないでいる。
ゲームを沢山やりたいのならば、もっと別の高校でも良かったはずなのに…‥
宿題もやらなければ授業もノートに写さないでいる。
ゲームを沢山やりたいのならば、もっと別の高校でも良かったはずなのに…‥
「あんたは、さ・・・なんでこの学校に来たの‥?」
少しだけ、緊張が私の身体を走り抜けていた。
一瞬だけ景色が止まったような感覚に襲われる。
吹き来る風が止み、聞こえていた雑音が、遠くなる....
吹き来る風が止み、聞こえていた雑音が、遠くなる....
「…‥かがみに会うためだよ~?」
コイツは、そう言った。
そう、小さく微笑みながら。
そう、小さく微笑みながら。
…同じ質問を、昔に尋ねた事がある。
入学して間もない頃に聞いた答えも、そうだった。
コイツがこんな進学校に来る理由なんて何一つ無かったのに。
本当は、どんな理由で……
入学して間もない頃に聞いた答えも、そうだった。
コイツがこんな進学校に来る理由なんて何一つ無かったのに。
本当は、どんな理由で……
「かっがみーん?もう別れ道だよ?」
「うん、あのね…こなた‥」
――どうして私は素直になれないんだろう。
「また、明日ね!」
「うん、またね~!かがみん♪」
「うん、またね~!かがみん♪」
‥‥‥。
――私は結局、あのチョコを渡せないでいた‥‥。
――私は結局、あのチョコを渡せないでいた‥‥。
‐‐‐‐‐‐
‥寂しかった。
一人で帰る道は、虚ろな物しか映らせない。
全ての景色が無になったように、何も感じない。
こんな事、前にもあったかもしれない・・・・
全ての景色が無になったように、何も感じない。
こんな事、前にもあったかもしれない・・・・
私は忘れている、何かを。
でもそれが何なのか、わからないでいる。
でもそれが何なのか、わからないでいる。
沈みゆく太陽の光が、私に最後の夕焼けを映し出す。
氷のような大気が、やがて空を支配するだろう。
凍える冬風に紺色のコートを身に纏い、それを防ぐための着こなしをする。
氷のような大気が、やがて空を支配するだろう。
凍える冬風に紺色のコートを身に纏い、それを防ぐための着こなしをする。
‥私は、家に帰らない。
アイツの元に、向かう。
恥ずかしくても何でもいい。
このチョコを、受け取って貰おう。
アイツの元に、向かう。
恥ずかしくても何でもいい。
このチョコを、受け取って貰おう。
――深い意味なんてなくていい。
――ただ、私が寂しいから。
――受け取ってくれないと、私が壊れちゃいそうだから‥……
――ただ、私が寂しいから。
――受け取ってくれないと、私が壊れちゃいそうだから‥……
.....
「こなたなら、まだ帰って来てないよ」
こなたのお父さんが玄関で呟く。
「そう…ですか‥‥」
私はそれを聞いて、肩を落とした。
暗闇の星空の下で、玄関から零れる光が微かに広がっていた。
どこの家も、明るさを灯していて、家族で賑わっている。
こなたは、この暖かい家の中にいるはずだった。
外の寒い空気から逃げて、ここに辿り着いているはずだった。
どこの家も、明るさを灯していて、家族で賑わっている。
こなたは、この暖かい家の中にいるはずだった。
外の寒い空気から逃げて、ここに辿り着いているはずだった。
――あなたの帰る場所は、何処なの・・?
「かがみちゃん」
明るい玄関から、そうじろうさんが言葉を紡いでいく。
それはとても大事な事のような話、あるいは意味のある話。
私は、それを一言も逃さないように聞き耳を立てる。
それはとても大事な事のような話、あるいは意味のある話。
私は、それを一言も逃さないように聞き耳を立てる。
「こなたは…かがみちゃんの事をずっと待っていた」
穏やかな声で、諭すように。
そうじろうさんの話は、
よくわからなかったけれど・・・
そうじろうさんの話は、
よくわからなかったけれど・・・
「今もきっと、待っている…。
だから、探して来てくれないか‥?」
だから、探して来てくれないか‥?」
でも私は、ただ「ハイ」と答えるだけだった‥。
‐‐‐‐‐‐
探していた。
夜の街に、彩るネオンの灯り…そして笑い声を上げる人々。
真っ暗な世界に街の電気が溢れ、飲食店が賑わいを見せている。
信号が青く点灯すると、昼間とは違う人々が横断している。
逢いたい人は幻のような遠い、途方も無い彼方にいるような気がした。
真っ暗な世界に街の電気が溢れ、飲食店が賑わいを見せている。
信号が青く点灯すると、昼間とは違う人々が横断している。
逢いたい人は幻のような遠い、途方も無い彼方にいるような気がした。
――こなた、あんたは何処にいるの…?
一緒に連れていかれた場所を思い出す。
アニメショップ、ゲーマーズ、ゲームセンター…
アニメショップ、ゲーマーズ、ゲームセンター…
2人で来た場所に、順を追って探し始める。
煌めく街を駆け抜けて、人々の喧騒を掻き分けて…。
煌めく街を駆け抜けて、人々の喧騒を掻き分けて…。
……こなた、お願いだから――私の前に現れて…
思い当たる場所を手当たり次第探し、逢いたい人を探す。
想う気持ちが、この街を巡り馳せていく。
私の身体が、走り抜けていく――。
想う気持ちが、この街を巡り馳せていく。
私の身体が、走り抜けていく――。
…‥遠い昔にも、同じような事をしていたような気がする。
こうやって、誰かを探すのはたぶん初めてじゃないのだろう。
あの時はアテも何も無かったけれど・・・。
こうやって、誰かを探すのはたぶん初めてじゃないのだろう。
あの時はアテも何も無かったけれど・・・。
アテといえば……
「もしかして…」
私は財布に取り付けたキーホルダーを見る。
たとえ世界が崩壊しようとも、離れ離れにならないように…
そんな想いが込められた、大切なキーホルダー...
そんな想いが込められた、大切なキーホルダー...
もしかして・・・
アイツは、あの場所にいるのかもしれない。
アイツは、あの場所にいるのかもしれない。
‐‐‐‐‐‐
空は黒く、街の灯りが遠く離れた世界に感じた。
公園には、誰もいない。
公園には、誰もいない。
この前は、雪が積もり広がっていた。
だから夜でも白く染まっていて、視界はぼんやりとしていたけれど‥‥
今は、どうしようもないくらい暗闇が深い。
だから夜でも白く染まっていて、視界はぼんやりとしていたけれど‥‥
今は、どうしようもないくらい暗闇が深い。
街灯だけが規則的に光を並び、道を誘う標となっていた。
小さな灯りの導かれるがままに歩みを委ねていく。
その先に、アイツがいると信じて――‥‥‥
小さな灯りの導かれるがままに歩みを委ねていく。
その先に、アイツがいると信じて――‥‥‥
冷たく、凍てつくような大気が夜空に澄んで透き通っていた。
ざわめく木々が身の毛をよだらせ、静けさを余計に感じさせる。
肌寒く、物悲しい静寂が辺りを支配している。
ざわめく木々が身の毛をよだらせ、静けさを余計に感じさせる。
肌寒く、物悲しい静寂が辺りを支配している。
灯りの導く先には、小さな光が溢れていた。
そして浮かび上がる小さなシルエットの影。
そして浮かび上がる小さなシルエットの影。
それは……私の逢いたい人の姿形をしていた...
こなたが、いた。
噴水の光に背を向けて、座っていた。
噴水の光に背を向けて、座っていた。
まるでこの世界に独りぼっちでいるかのように…
まるで、全てを虚ろに見るような冷たい眼をしていて――…‥‥
まるで、全てを虚ろに見るような冷たい眼をしていて――…‥‥
こなたの、隠していた悲しみを垣間見た気がした…。
「かがみ…?」
こなたが、私に気付く。
信じられない、といった表情をして。
信じられない、といった表情をして。
「あは…‥私は夢でも見ているのカナ‥」
私を見て、こなたが呟く。
…何よ、なんであんたはこんな場所で独りぼっちでいるのよ。
…何よ、なんであんたはこんな場所で独りぼっちでいるのよ。
「夢じゃないわよ‥!」
…許せなかった。
私達は親友だと、誓っていたのに。
目の前に寂しそうにしているこなたがいる事に。
私達は親友だと、誓っていたのに。
目の前に寂しそうにしているこなたがいる事に。
「だったら、幻でも見てるのカナ‥?」
「幻なんかじゃ、ないわよっ・・!」
こなたの元へ駆け寄る。
小さな体を抱きしめる。
その姿が、何処かへ消えてしまわないように…。
小さな体を抱きしめる。
その姿が、何処かへ消えてしまわないように…。
「かがみ…! 私、私は…かがみに凄く会いたかった…!!
そしたら、かがみが現れてくれた…。 奇跡でも起きたのカナ‥」
そしたら、かがみが現れてくれた…。 奇跡でも起きたのカナ‥」
「ばかっ…何が奇跡よ‥‥」
ぎゅう、と体を包み込む。
あなたは、一人ぼっちじゃないと伝えるために。
この寒い世界から、あなたを守るように‥。
あなたは、一人ぼっちじゃないと伝えるために。
この寒い世界から、あなたを守るように‥。
‐‐‐‐‐‐‐
夜空には星が輝いていた。
月が小さな円を描き、彼方に浮かんでいる。
月が小さな円を描き、彼方に浮かんでいる。
「あんたの家に行っても、帰って来てないから…そうじろうさんに頼まれたのよ」
冷たい風が吹いていた。
まだ春には遠く、凍てつく大気が肌を震わせる。
まだ春には遠く、凍てつく大気が肌を震わせる。
「そっかー、それで此処まで捜してくれたんだね‥」
こなたの身体は酷く冷えていた。
いつもはもっと暖炉のように温かい身体をしている。
それが今は、とても冷たく落ち着いてしまっている…。
いつもはもっと暖炉のように温かい身体をしている。
それが今は、とても冷たく落ち着いてしまっている…。
「バカね……親友なんだから、捜すのは当たり前じゃない」
手を取って、はぁ…と息を吹き掛けた。
こなたの顔が少し紅くなって、とても可愛かった。
こなたの顔が少し紅くなって、とても可愛かった。
「バカね…こんなに冷たくしちゃって‥」
氷のように近付いた体温の手を暖める。
小さな手が、感覚を取り戻せるように。
私の両手で包み、手の平の熱を分け与える。
小さな手が、感覚を取り戻せるように。
私の両手で包み、手の平の熱を分け与える。
「…かがみは、やっぱり優しいね」
顔を赤らめたこなたが、そう言った。
私もそれに連られて、頬に紅い色が染まり浮き出る。
…今なら言えるだろう。もう恥ずかしいものは無い。
私もそれに連られて、頬に紅い色が染まり浮き出る。
…今なら言えるだろう。もう恥ずかしいものは無い。
「あのね、コレ…作ったのよ」
ハート型のチョコを鞄から取り出す。
『こなたへ』とデコレーションしてあるチョコレート。
私が時間を掛けて作ったチョコレートだ。
『こなたへ』とデコレーションしてあるチョコレート。
私が時間を掛けて作ったチョコレートだ。
「つかさが作っていたから…私もハート型で作ってみたのよ」
…恥ずかしかったから渡せなかったけどね、と付け加えて。
「そっか、つかさが…」
こなたは、胸を一杯にしたような笑みを浮かべる。
その瞳には、幸せに満ちた表情が描かれていた。
…渡して良かったと思う。
その瞳には、幸せに満ちた表情が描かれていた。
…渡して良かったと思う。
「‥よく考えたら、私とあんたの間柄で遠慮なんてする必要無かったよね」
その表情を見ていると、恥ずかしがっていたのが馬鹿らしくなってくる。
わざわざ偽物のチョコレートを用意して、街を捜し回って・・・・
一人で勝手に寂しい思いを募らせて………
わざわざ偽物のチョコレートを用意して、街を捜し回って・・・・
一人で勝手に寂しい思いを募らせて………
「かがみ、はいコレ」
こなたが私の手に小さな箱を差し出してきた。
『かがみへ』と書かれた紙が添えてある。
中身を推測するには、それは充分すぎる箱だった。
『かがみへ』と書かれた紙が添えてある。
中身を推測するには、それは充分すぎる箱だった。
「私もね、作ってたんだけど…恥ずかしくて渡せなかったんだよネ‥」
頬を掻きながら、こなたが言う。
真っ赤に染まりながら照れている様子だった。
私の胸が満たされていく……。
真っ赤に染まりながら照れている様子だった。
私の胸が満たされていく……。
「バカね……そんなの、さっさと渡しなさいよ・・」
『バカ』と、もう一度だけ小さく呟いた。
本当は、寂しかった。
自分だけがチョコを作っているのかと思っていた。
こなたも、私のために作ってくれていた。
それが嬉しくて、溢れて零れてしまいそうになる。
自分だけがチョコを作っているのかと思っていた。
こなたも、私のために作ってくれていた。
それが嬉しくて、溢れて零れてしまいそうになる。
――本当は、私は・・・
「食べると太っちゃうかもね」
「ふん、ちょっとぐらい構いやしないわよ!」
「ふん、ちょっとぐらい構いやしないわよ!」
胸が溢れるほど、愛おしいと思う。
コイツが傍にいる事が、私にとって特別な事だった。
コイツが傍にいる事が、私にとって特別な事だった。
だけど、私は素直になれない……
「かがみ…」
「‥何?」
「‥何?」
チョコをくれた事に対しても、素直にありがとうと言えない。
いつも私に構ってくれる事も、感謝してるのに気持ちを伝えられない。
この感情も、伝えることは出来ない……
いつも私に構ってくれる事も、感謝してるのに気持ちを伝えられない。
この感情も、伝えることは出来ない……
「踊ろうか?」
こなたがクルッと回る。
まるで猫みたいな身のこなしで。
私の好きな、その愛しい仕草を魅せてくる。
まるで猫みたいな身のこなしで。
私の好きな、その愛しい仕草を魅せてくる。
「あんた、踊れるのか?」
噴水が湧き上がる。
色の付いた様々な光を漏らしている。
こなたは、星空を眺めていた。
色の付いた様々な光を漏らしている。
こなたは、星空を眺めていた。
髪が靡く。
月の光に溶け込むように。
月の光に溶け込むように。
――雰囲気が、変わった‥?
「私はバイト先でいっつも踊ってるんだよ」
そう云うこなたは、とても綺麗だった。
まるで景色を背景に、自分の存在を魅せるように。
その姿に、私は惹かれていく…。
まるで景色を背景に、自分の存在を魅せるように。
その姿に、私は惹かれていく…。
「ダイエットのためにちょっと運動しようよ」
それは一種の魔法のように見えた。
本当は、もしかして何かの特別な力を使っているんじゃないだろうか。
私がプレゼントしたOVAのアニソンを口ずさみながら、私に手を差し出す。
本当は、もしかして何かの特別な力を使っているんじゃないだろうか。
私がプレゼントしたOVAのアニソンを口ずさみながら、私に手を差し出す。
「まったく…あんたのバイト先とやらを一度見てみたいわね…」
私はその手を、掴んだ‥
‐‐♪♪‐‐♪♪‐‐♪‐‐♪♪‐‐♪♪‐‐♪‐…
…かがみ、私に合わせて。
…こ、こうかな?
…こ、こうかな?
…うん、そう‥その調子。
…あ、ありがとう‥。
…あ、ありがとう‥。
…ホラ、回るよ?
…ちょっ、ちょっと‥!!
…ちょっ、ちょっと‥!!
――私の手を取って、私を導くように踊っている。
――私達の髪が軌道に乗りながらクルッと舞い廻った。
――私達の髪が軌道に乗りながらクルッと舞い廻った。
…くるーり、くるーり。
…はぁ、あんた踊るの上手いんだな‥。
…はぁ、あんた踊るの上手いんだな‥。
…ふふ、バイト先だとコスプレしながら踊ってるんだよ。
…なんだそりゃ‥。
…なんだそりゃ‥。
…かがみも今度、来てみるといいよ。
…そうね、お邪魔じゃないのなら‥。
…そうね、お邪魔じゃないのなら‥。
――輝く星空に見守られていた。
――寒い空の下で、私達は踊り続ける。。
――こなたは、私を見つめて語りかけてくる‥。
――寒い空の下で、私達は踊り続ける。。
――こなたは、私を見つめて語りかけてくる‥。
…この場所にはね、昔、大きな木が立っていたんだ。
…木?
…そう、でもね‥木は消えちゃった。
…………。
…代わりに、この噴水が出来たんだよ?
…そう、なんだ‥。
――その話は、なんだか胸に染みるような話だった。
――なぜだろう、私はその木を知っている気がする‥。
――なぜだろう、私はその木を知っている気がする‥。
…噴水の色が変わって、水の勢いが増す。
…それに合わせるように、私達のステップも早くなる。
…それに合わせるように、私達のステップも早くなる。
‐‐♪♪‐‐♪♪‐‐♪♪♪‐‐♪♪♪‐‐♪♪‐…
…あのチョコね‥。
…うん。
…うん。
…ほんとは、つかさがチョコをくれた時に、私も出そうと思ったんだ。
…そう、なんだ‥。
…そう、なんだ‥。
…つかさは、不思議な子だね。
…そうかもね‥。
…そうかもね‥。
…いつか、ちゃんとお礼しなくちゃ。
…お礼、ね‥。
…お礼、ね‥。
‐‐‐♪♪♪‐‐♪♪‐‐‐♪♪♪‐‐♪♪‐‐‐…
…いつか、さ。
…うん。
…うん。
…こうやって、みんなで踊れる日が来るといいね。
…また、あんたって奴は‥。
…また、あんたって奴は‥。
…だって楽しそうジャン?
…ふふ、そうかもね‥。
…ふふ、そうかもね‥。
――こなた、本当はね・・
――私は、つかさがいなくても、あなたにチョコを作っていたよ。
――私は、つかさがいなくても、あなたにチョコを作っていたよ。
…放課後にみんなで残ってさ、ワイワイと練習とか。
…いいわね、そういうの‥。
…いいわね、そういうの‥。
…そうだ、チアガールのコスプレをしようよ!
…おい、それはコスプレって言うのか‥?
…おい、それはコスプレって言うのか‥?
…はっちゃけた音楽を流してさ、大勢の前で踊るの。
…まったく、あんたといると退屈しないわね‥。
…まったく、あんたといると退屈しないわね‥。
――私は、あなたのお父さんに頼まれていなくても、あなたを捜していた。
――あなたがいないと聞いた時から、捜そうって決めていた。
――あなたがいないと聞いた時から、捜そうって決めていた。
――あなたは、私の大切な人だから・・・・
‥星空が遠く遥かに無数の点線絵画を描く。
暗闇に包まれた世界に、小さな噴水の輝きがこの場所に溢れている。
まるで私達だけが、この世界にいるような感覚になる。
暗闇に包まれた世界に、小さな噴水の輝きがこの場所に溢れている。
まるで私達だけが、この世界にいるような感覚になる。
こなたは、この瞬間を奇跡みたいだと言う。
私は、その言葉を深く胸に刻み込んだ‥。
私は、その言葉を深く胸に刻み込んだ‥。
- 氷のように…に続く
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- (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-05-03 00:45:52)
- 凄く心を打たれました! -- 名無しさん (2010-11-15 22:20:55)
- じんときた…なんだろう、この儚げで温かいようなSSは… -- 名無しさん (2008-11-20 13:26:29)
- なんて素敵な関係の二人。かがみは昔こなたと会っていたということを思い出せるのかな…氷の結晶のような美しい文章に引き込まれました。 -- 名無しさん (2008-11-14 13:59:24)