Wonderwall(2)

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「おいおい、学部の卒論もまだなんだから、あんまりせっ立てなさんな。」

「んーん、既に風格出てきてるなー、って事。 かがみに関して私が嘘言わないのは、知ってるだろうに。」


 またまた。その余りに長い猶予期間で培ったであろう、世辞とか定言の類を連ねてくれる。

 私の体質だ、かつての様に顔が熱を帯びている事から、湧き上がる喜びは隠せていまい。 しかし、現実問題として。


「外見はね。意識した事ないからどうだかは知らない。でも、人格が及びも着かない段階なのは判ってる。だから、好意だけ受け取っとく。」

「なんでまた。 久々に話してみて、あーそれでも大分成長したなーとか思ったのに。
 全然ツンツンしないし、かといってデレもないし。ビジネスライクというか、洗練されてきてるっていうか…」

「… やっぱり?」

「?」

「ごめん、反動出ちゃった。」


 そう。 ビジネスライクって事は、「淡々と」。 翻って、「冷酷に」になる時代なんだから。



「つかさに、ついにうざがられてさ。いつでもいつまでも離れてくれなくて、自分からどんどん機会奪ってくれてた、って。」

「え… つかさが?」

「あの子ね、看護専学辞めたがってる。みゆきとは家も近いから未だに良い仲だけど、課題とか実習とか、猛烈に忙しいらしくてさ。
 無理もない。本来習得に6年必要な知識の総括を期間半分で、だもんね。当然、みゆきにも漏らしてるらしいけど。
 だけどそれでも、上 …ああ、まつり姉さんは院行ったでしょ? 少しは家計の事考えろってどやしたら、キレ出してね…」


 こなたには、何を隠しても余り意味はない。状況説明に気を使う事もなく、すらすら言葉が出てくる。

 …しかし、だからと言って。


「ただ、一理あったから。結局、つかさの自由、ひいては人間性とか人権とか無視して接してたのは、確かだからね。

 生まれは数分しか違わない癖に、いつだって、姉貴ぶって。」


「… かがみ。」


 ああ、またしても。こなたに甘えてしまった。 今のこの子に、他人事に構ってる余裕なんかない。それは判ってるのに。


 こなたはけれど、手の甲を額に付け、うーん、とステレオタイプな“考え込む仕草”のもと、
 私の言葉をいつものように、真正面から受け取ってくれていた。
 むしろ、これを期待して私は“故意に”口を滑らせたのか。 相変わらず汚い女だ。 …おや、すっかりあの頃のペース。



「最近気付いたんだけど。」


 そして、空気の寸断なく口を開く。


「人生の主体は自分でしょ? だから、人間って自分の立場からしか観察できないんだろうよ、結局。何だろうと。

 だったらさ、所詮自分は“その程度の”もんなんだから。信じて進むしか、行動するしかないんじゃない?

 もしそれで衝突起こったら、軌道修正すればいいだけだし。」


 そらきた、一般論。 しかし、参考にはなる。 内容は、大半をそちらに返してやりたいがね。


「それは分かってる。相変わらず人事だと思って、簡単に言うわよね。」

「だから、衝突はあって当然なんだってば。かがみんの場合、つかさとは不自然なくらい仲良かったからね。
 いつかはこういう時が来て、その分深刻に悩むんだろうなぁ、って思ってたよ。」


 やれやれ、また俯瞰視点からの啓言か。だが例えヲタ由来の特質だとしても、この子のそれは随分聞き手を安心させる響きを伴っている。

 一方で、何気に、視線が冷たい。 …どうなんだ、私。そんなに酷く ―第三者視点からは、妹一途にでも見えていたか。


「…そうか。やっぱりあんたの目にもそう写った?」

「うん。 だからこういう時は、自分や周りの状況とかを、冷静に見つめなおしてみる。考え方、捉え方に余裕を持ってみる。
 つかさは春に見た限り大分大人びてきてたけど、かがみは妹の変化、そんなに意識してなかったでしょ?」

「ふぅむ、確かに。 …いつの間にやら、言ってる事に随分説得力が出てきたわね。」


 短期間でよくぞここまで。 というか、この子の目からもつかさの変化は明らかだったらしい。
 認めたがらなかったのは私だけだ。 身内ってのはこれだから。

 思わず口に上った言葉を、苦労してるからかな、等と軽く受け流すこなた。


「そういう行動プランが出来たら、後は実践あるのみ。 もっと気楽に考える事だよ。
 “何も恐れる事はない。ダメでもともとやるしかねぇ!” まさにそれだ。」

「なんざそりゃ。」

「知らない? “お前の力で掴むんだぁ!” っていうの。」

「どっかで聞いたよなぁ、なんかの歌詞だっけ?」

「いずれにせよ。」


 人差し指を立てる。この子の「提言or忠告モード」突入の合図。


「運のいい事に、かがみの場合は先例があるんだから。
 意地張ってないで、堂々と参照すればいいじゃん。 経験値を顔が物語ってるよ、あの熟練コンビ。」

「そうくると思った。あの二人はちゃんと年齢に明らかな前後があるでしょ。
 だから、姉は自分の場合の例を知ってるから、自信を持って妹を導いて行けた。
 こっちの場合は時間差がない、言ってみりゃ『姉の現場≒妹の現場』なんだから、そんなに単純な話じゃない訳。」

「だからねー、何度も言ってるように、私は人間ぜn …」


 と、ここで唐突にこなたが口を止める。 …どうかしたのか。何も癇に障るような箇所はなかったが。


「… やっぱダメ。そうだよね、本来何も言えない立場なんだから。」


 次に割った口から紡ぎ出されたのは、この子に余りに不相応な、弱気極まりないフレーズ。


「現場、知らないもん。大学がどんな処か、そこでの人間関係がどんなものか、『彼氏』がどんなものか…」

「まっったく関係ない。 …随分引っかかるわね、今更中二病じゃあるまいし。
 ネット界隈みたいに、『言葉がタダ』の世の中なら、何言い合ったって自由、なんじゃないの? 同じ人間なんだし。」

「… 『姉妹』がどういうものか。」


 ―しまった。 この子の家庭環境を、さっぱり考慮に入れていなかった。 癇に障ったのは、向こうの方だ。
 幼い頃から母親が ―性別を同じくする、心から甘えられる相手がおらず、
 物心付いてからは、周囲から一方的に押し付けられる要求に、
 片親から刷り込まれた偏った身体性との齟齬に違和感を覚えては耐えてばかり。
 文字通り「一人で」生き行くしかなかった、この子の境遇を。

 表情は、常日頃から変わらず、歯の浮くような軽い笑み。 しかし、凄みが違う。
 歴史学者が哲学者に意見する際の、“基本概念の見直し”に立ち返らせるような、緊迫した言葉掛け。
 「背景を忘れるな」というメッセージ。

 それに乗せて、寂しげに、大仰に、持論を語り出すこなた。


「あのね、かがみ。弁護士?検事?どっちだか迷ってるらしいけど、法曹界目指してるなら言うまでもないこと、覚えといて。
 価値観は人それぞれ、なんていうけど、甘いんだよ、その程度の認識じゃ。

 メディアのお蔭でこのフレーズ、大分世に広まりだしてるらしいけど、
 よく考えたらこれ、言葉の裏で『それ以外は人間皆同じがスタンダード』って考え方が、
 社会の認識レベルに根強くあるって、逆に喧伝してんじゃん。

 だから、私は大っ嫌いだね。ぶってるけど、真実でも何でもないから。」


 ああ、私も嫌いだ。 一般人がそういった類の題目を100%身体化出来るものなら、今回みたいな問題は太古の昔に無くなっている。


「人間は、60億人居るならそれこそ60億通りの“宇宙”を、自分の中に持ってる。異なる法則の、異なる基準の、異なる条件の。
 それが、時々刻々移り変わってんだよ。養老毅がこの間講演会で言ってた事だけどね。
 あ、この子自分と似てる部分あるな~、とか思っても、
 それは例えんなら相手の体細胞のたった一つが自分と似通った構造だった、ってだけ。
 200兆個の複合体、っていう視点まで引けば、はっきり違う。」


 宇宙、か。否定的な表現だが、成る程、窺い知る事は容易ではない。
 そもそも、自分自身にすら何だか判らない、把握しかねる部分があるんだから。


「“違い”っていうのは、モノの前提、「モノ以前」にあるんだよ。
 だから、例えば人間関係なら、お互いの家庭事情やら構成員の性質やら、そういう生活に密着したものを、
 常日頃肌で感じてる、あるいは感じてた、って経験がなきゃ、本来、言える立場にない。

 カウンセラーって職種の人達が“患者”に提示できるのは、あくまで『範例』だけ。
 しかもそれは“患者”自身から、文字通り“引き出した”もの。
 思った事、感じた事を語るだけ語らせて、その言葉の羅列の中から、自分自身が現状の解決法とか見つけ出せるように。
 だから、相手の判らない…体感できないような領域には、わざわざ踏み込まない。
 『治療』とか、直接的に“患者”を救うような事は、できないんだよ。赤の他人には。」

 この口振りでは、矢張り幾度か心理カウンセラーの世話になった事があるらしい。しかし、期待したような解は得られなかった。
 彼らの言葉を聞く側の前提として、年齢相応に求められている、実践レベルの ―経験から得られる「教訓」の、未熟さ故に。


「最近は、そんなことばっか考えてる。 不健康極まりない、よね。」


 先程垣間見えた自虐意識の極地を伺わせるような、完全に自分を第三者化し生物学の観察対象にでもしているような態度、口振り。
 多分この子なりに、自分を取り巻く環境に対して言いたい事は山とあるのだろう。
 ―それを表(面)出さなかっただけでも、たいした成長じゃないか。



「ゆたかちゃんは?」

 本人にとって、身近な人物の名を挙げる。 少しでも、場の空気を和らげる為に。


「陵桜に通ってる事もあるし、同じ屋根の下で生活して、影響もしっかり押し付けてきたような。」

「微妙ォ~な誤差、だよ、かがみん。権利云々は別にして。
 『生まれ』なんてそんなに大仰なもんじゃない、人は環境に順応するもんだ、って、周りはそう言うだろうけど、
 やっぱり“他人”なんだ。 何故って、まだ若いから。」


 しかし、現状はそうでもなかったらしい。『こうかは いまひとつのようだ』。

 しかも ―おやおや、丁度さっきの立場逆転verだ。体験者以外お断りの領域。失礼しました。


「似たような血を分けた、他人。
 違う親から生まれた、違う育ち方してきた、って、そういう絶壁が確かにある。
 …『旧約聖書』ォ、の頃みたいな、人間が素直な時代はどうだったか判らないけど。」

 今と大差ないと思うが。むしろ、創世記の序盤で神を欺いている時点で、現代人となんら変わりはない。


「私、ゆーちゃんやゆい姉さんがどんな環境でどんな風に育ったか、なんて、知らないもん。
 性格とか、感性とか、付いてけない部分は色々ある。ゆーちゃんにさえ。」

 冷静に観察できる、って事は、それだけ心が離れてる、ってことだ。
 勿論、特に興味を持った対象には、逆にのめり込む習性だけどね、人間ってのは。

 む? ってことは …


「それに、生まれた頃から一緒に居るような、例えば実の姉妹っていっても、感じ方が違えば、通じ合わない部分は幾らでもあると思う。」

 ――

「その辺はかがみが一番判ってる、と思ったんだけどな。あんなに、仲のいい妹が居たんだし。」


 その通りだ。 だから、私はこんな時間に、一人、その妹の広げた蚊帳の外で愚図っている。

 自分の所業、態度は棚に上げて、家族に場の空気修復の任を丸投げして。



「…むしろ。」

 どこから仕入れた情報か。 訳知り顔で、こなたは言葉を繋げる。


「近いからこそ、掴めない部分もあるんじゃないかな。

 立ち位置とか、取り巻く人とかの違い… そもそも“性格”からして別物なんだから、判んない所はあって当然。」

 それ。今私が直面しているのは、“見下ろしていたのに俯瞰はできていなかった”、まさに“双子”っていう稀有な例から生まれた問題だ。


「よく考えたら、一言で『育ち方』って言ったって、教育やらの『受け取り方』は、感じ方と同じように、一人一人全然違うじゃん。

 親の行動から何を読み取るか、とか、何を覚えるかとか。」

 言うなれば「一心同体的」とでも表現しようか。
 生まれる前、母親の子宮に包まれていた頃から一緒だった、という認識が、私の根底で大きな甘えとなっていたのだ。
 同じ経験してるんだから、この辺は判って当然、等と思いきや、相手は別の人格だ。 処理の仕方、印象への留め方は全く異なる。
 そんな事すら、意識できずにいた。


「ほら、FBIみたいな厳格で一律な教育叩き込まれたホムンクルスですら、夫々違いが出るんだから。」

 ホムンクルス。この文脈では“比喩”だ。
 この子は高校時代から時折こういう皮肉というか、イギリス式サーカズムを密かに交えて話をする。

 本人としては格好のストレス解消法だったろう。 改めて対峙するに、頭のいい子だ。
 どんな状況でも、一歩現場から身を引いた、冷静沈着な視点を保っている。
 先の例に続いて、正直言えば、こういう方面の才能でも勝てる気がしない。

 どうやら高校生レベルに通じる用法じゃない、等と高を括っていたらしいが、きっとみゆき辺りは気付いていたに違いない。
 …ご多分に漏れず、私もオタク用語か何かとして聞き流していた類の一、だったが。


 いずれにせよ。 問題点は私の認識 ―捉え方のレベルにあったわけだ。

 姉として、身内として、果ては人として、恥ずかしい。




「生徒会副会長、だって。」


 しみじみと、感慨深げに呟くこなた。 ―ゆたかちゃんの話か。
 ほう、(高校生相応に)随分と出世したものだ。 しかし、この子の表情は沈んでいる。

「誰の働き掛けか、は言うまでもないか。生徒会長、も、言うまでもないかな。 いずれにせよ、私には判らない世界に彼女はいる。」

 ってことは、会長はみなみちゃん? 炊きつけたのは、田村さん、パトリシアさん辺りか。
 何だか今となっては“身内で固めた政権”みたいに見えてくるなぁ。
 …でも、分相応ではあるか。あれでいて、判断は相当現実的なコンビだったし。

 しかし、このおめでたい近況に何の不満があるというのか。 さっき自分で言っていたように、それは違う宇宙間での問題だ。
 判らないなら判らないなりに、一歩身を引いて、無心で祝ってやるのが身内というものじゃないのか。


「分かる? 露骨に見下されてんだよ。本人にそのつもりがなくても、ね。こういう意識は、気付かない処に出くるもんだ。
 あ、そんな事も知らないんだ。やっぱりその程度の付き合いだったんだ、経験だったんだ、って。」

 何ともはや。 New Jealousyときたか。 …おいおい、詰まる処、私と同じじゃないか。

 言葉は悪いが、つい最近まで後ろを付いてきていた妹分に、気が付いた頃には追い抜かれていた。
 それを知った際の、負の領域の感情。 言うなれば「…のくせに~」意識、か。

 何しろ、今しがたまで私の胸中を巣食っていたむかつきの主成分だ。対策は今さっき見出せた。
 本末転倒な気もするが、今度は、私が働きかける番、か。


「らしくもない。今更思い出したように被害妄想炸裂させて。

 あんた、自分の過去… んー、例えば、『全盛期の習性』やらから見習おうとか思わないの?

 『なんたらによるなぁ』、とかいう、口癖。マジ癪に障ったけど。」

 この子の好む、軽薄な、歯に衣着せずに話し合えるレベルの言葉として。
 そういや、 結局この子も、ゲーム脳もといネット脳か。
 絶対とか、唯一とか、既存の「知っている」分野のみで己の身辺を固めようとする。
 「自分本位の“常識”」が、心の内外を隔てる“檻”になっている。


「只の役割分担でしょ? 私だって、一年の頃の学級委員には薦んで立候補した訳じゃないし、始まっちゃえばなるようになる。

 それに、人格への影響なんて、あんたが私から感じてきた通り。その程度。普通の生徒と何が違うっていうの?」

 本来、前に進んでいる間は省みる必要、否、暇のない問題だ。
 実際に歩を進めていないから、先の見えない事への恐怖だけが増幅する。

 あんたの好きないい加減さは、この意識の打開策の最右翼に挙がるものなのに。



「かがみはね。」

 ところが、この態度が裏目に出た。


「そう言える立場だよ、きっと。“まとめる側”の経験がある。実際に現場を踏んでる。

 人生の一番健康な、白に近い時期に、着実に、スキルを重ねてきた。私なんかとは違って。

 今だってそう。ストレートに大学合格して、先に目標が見えてる。

 社会の無言の要求に併せて、順調に歩を進められてる。 だからこそ、“地に足が着いたこと”が言えるんだよ。」


 うぉっと、まただよ「立場の差異」。 こういう視点から見ると、人間関係って本当に複雑なもんだ。
 ―しかし違いない。経験者でしか判らない領域、程度っていうのは確かにある。
 漫画にしろラノべにしろ、最近のこの国の表象界は、作者の人間性の優越を読み手側に誇示する手段として
 そういう所にしか価値を見出せていないから、とびきりのファンタジーが書けないのだ。 まっったく関係ないが。

 …いずれにしても、少しいじけ過ぎちゃいないか。


「私にはもう、何を言う権利もない。
 もう誰も… 貧弱な経験論持ち出して、抽象的なスローガン打ち出して、結果、人を不幸にしたくない。引っ掻き回したくない。
 今は自分を高めてくしか、どん底から這い上がってくしかない、そういう立場に居るんだから。」


 そうかい。そこまで落ちぶれたか。
 可哀想にな。現実社会の鉄槌は、そんなに、原型もなくなるまでそちらの精神を叩き潰してくれたのかい。

 自惚れんな。さっきから“それが全てだ”=“自分は全部知ってる”、みたいな言い草しやがって。それでも就職経験者か。


 …


 ― 先刻のつかさの心境を、身を以って理解した。


 脊髄反射的に再び湧き上がってきたHateを宥めるべく、鼻で息をつく。


「こなた、変わったわね。 何があったの、って位に。」


 一年半って期間が長いか短いか、その辺は各人の価値基準によるが、何より、内容が。
 楽天的で全てがナアナアだった高校時代とは、方向性が完全に逆転してしまった。

 悲観的で、神経質で、仔細にやたらと固執する。 過ぎた機会を振り返っては後悔に沈んで、塞ぎ込む。
 あるいは、こっちがこの子の正体だったのか。 今となっては、最早判然とさせようもないが。


「ね。すっかりヤな奴になったでしょ。」

 心持が言い草に、少し顕れてしまったか。心底すまなそうな表情を垣間見せる。


「現代人の性の一つに… や、基底概念とでも言ったほうがいいか。楽な方に逃げたがる、っていうのがある。
 まさにゆとり世代の弊害っていうのか。
 一日一日の生活に文字通り“必死”だった、原始~中世辺りの自給自足時代には到底考えられない事。」

 にも関わらず口振りは従来のまま、小揺るぎもしない。どんどん主題を広げていって、自説の指定範囲を広げる。
 但しそうすると、末尾で収拾付けるのが大変だぞ。


「 …何か言いたそうな顔してるから代わりに言うけど、その通り。ヲタの共通項。言ってみれば、贅沢病なんだよ。
 親父からの刷り込みもあって、克服に一番難儀してる部分。」

 ほぉう、よく判ってんじゃない。頭では。 …あれ? でも、なんか違和感。 “親父”?


「実はね、そうやって惰眠貪ってる間、自分の好きな事に関しては結構集中力高まるんだよ。

 で、パッと閃いた思いつきが人生の… その界隈の真理だとか思い過ごして2chとかに書き込む訳だ。

 外界― 自分以外 ― との接触が猛烈に希薄だから、どんどん内に篭ってくっていう、典型的なヲタ化スパイラル辿りながらさ。

 成る程ネタ師ってのはそうやって生まれる訳だね。“人間”でも何でもねぇ、ってか。」


 …なんだ、そこまで判ってるんじゃん。 いや、やっぱり経験からちゃんと学び取ってる。
 近代合理主義に当て嵌めれば真っ先に否定されかねない、非効率極まりない「回り道」を辿って。


「ふぅん。 かつてのあんたがしきりに持ち出した、根拠のない自信もそうやって生まれた訳ね。」

「Yes, Ma'am. 顔が見えないから輪をかけた悪どさを前面に、判官びいきで万年反抗期でいる“他人”も画面上で言ってるから
 自分の欠点はむしろ“誇り”になる ―そういう置き換え正当化の根拠ね。 何だっけ、『貧乳はステータs」

「にしては。」


 だったら、活かせばいいものを。


「そういう集中力が、今でも『ご自分の中の伝統』的に続いてるとお見受けしましたが。

 にしては、“現実”には打たれ弱い御様子で。 何だっけ、その2ちゃんねらーとかの『基底概念』?」



「ここで『ずるい』って思い込むのも、ネット製ペシミストの特徴ですハイ。 「権威には逆らえねぇ」ってか。」

 まだ引っ張るか。 この子の窮鼠的な抵抗なんだろうが、いい加減不健全だ。


「うだうだ前置きが長いのよね、あんたは。
 何ていうか、本音を正当化する為に、やたらと教訓に託けて言葉選んで。 見え見えなのよ、銀魂じゃあるまいし。」


 その流れで、なら、そろそろ言ってもいいよね?


「楽になったら? ほら、『親友』の前なんだから。」



 また「デレ期突入かな?」なんぞとかわされるんだろうか。 …しかし仕方がない。これが、私の“本音”なんだから。


 等というこっちの身構えに反して、こなたは

「―お見それしました、私とした事が。 では、失礼して。」

 と頭を下げ、リラックスした表情の元、少しずつ、心の帳を巻き上げてゆく。




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