こなた×かがみSS保管庫

第20話:最後のプレゼント

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匿名ユーザー

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【第20話 最後のプレゼント】


12月29日・朝。
こなたの部屋に人が集まる。かがみやつかさ、そうじろうたちが荷物の片づけをしていた。
アニメのDVDやグッズ、ゲームとかがみの神社のお守りで埋め尽くされていた部屋は、元の真っ白な壁の病室に変わる。
「こなちゃん、私、琉球と宮崎の医学部、合格圏が見えてきそうなんだよ。絶対医者になって絶対白血病治せるようにするからね……」
つかさは泣きながら壁に貼ってあった特典のポスターを剥がしていた。
看護師によって、こなたの顔に乗っていた酸素マスクが外される。心電図のコードも人工透析の管も外される。
ただちに急変・呼吸困難・心停止になるかと思われたが、容態は平静を保った。
眠っているこなたはパジャマを脱がされ普段着に変わる。
久しぶりに見るこなたの本来の格好。
そして医師団から最後の検査結果を渡された。
肝臓や腎臓、肺、心臓の異常だらけの中で、唯一、骨髄のところに「正常」の文字が……

───白血病は治っていた。

「白血病や悪性リンパ腫じたいで死ぬ人は、今の日本にはもういないのです。多くが治療の時に命を落とすのです」
医師団は言った。
「家に帰してやったほうがよかったのかなあ……冬コミまでは生きられたけど、苦しんで、記憶も失い、最後は意識も失って……」
そうじろうはこなたの髪の毛をなでながら呟いた。
こなたの手は血色を失い、もう死人のようだった。かがみはわずかに残るその弾力を握り締めた。
「こなた、コミケ行くわよ」

こなたは車椅子に乗せられる
「ほら、カタログよ。ちゃんとチェックしてあるから」
かがみはこなたの膝の上に分厚いコミケカタログを乗せた。
つらいマルクを受けた処置室の前を通る。
無菌室への通路を分ける。カンファレンスルームを過ぎる。
そして血液内科の病棟を出る。
廊下、エレベーター、病気を宣告された診察室と、どんどん外へ向かって進んでいく。
「今日は友達と思い切り楽しんで来い。明日はオレと一緒に楽しもうな」とそうじろう。
「行ってらっしゃい」
ゆい姉さんやゆたかがこなたを抱きしめる。

誰もいない早朝のだだっ広い玄関ロビーを通り過ぎる。
医師団が玄関ロビーまで見送る。全員深々と頭を下げた。


玄関の自動ドアが開く。
突然、別世界に突入する。

そこらじゅうからヲタクの喧騒が……。
火星衝突でも起きるのではないかというような異様な雰囲気。
コミケ開場を待っている群衆から日本中の方言がどよどよと聞こえる。
病院の玄関前からしてサークル参加者の動線(東館側)になっており、ダンボールを積んだカートの渋滞が起きている。
痛車、痛チャリが次々と目の前を通過していく。
あたり一面うっすらと霧が立ち込めているようだった。
よくみると視界を埋め尽くす参加者の吐く白い息と、背中からの湯気が立ち昇って形成されているものだった。

かがみたちはその白い世界に溶け込むように入っていった。

「こなた、おんぶしていい?」
かがみはこなたを車椅子からおろし、背中にしょった。
「思ったよりやせてないわね」
「こなちゃん、気持ちよさそうな顔だね。顔色いいね」
最初にこなたが倒れた有明駅が頭上に見える。一般待機列のあるやぐら橋へ向かって歩き始める。
やがて国際展示場前駅の駅前広場へ到達する。
「なんか、列がいっぱいあって目が回る……人もいっぱいだし……」とつかさ。
かがみはカタログをめくる。
「えーとたしか、シャッター前は列も特別なんだっけ?」
「そうだよ」
「そうなんだ。まずはそこに行かないとダメね」
「えっ……」

「まー今その列にならんでも、新刊は無理だろうね」

背中のこなたが目を開けていた。

「かがみん、朝遅すぎ。今の時間じゃワシントンホテルのマクドナルドも強制テイクアウトだよ。この糞寒いのに……」
普通に声を発していた。
「ちょ、こ、こなた!!」
「お父さんなら1ヶ月前から徹夜で待って警察につれてかれるくらいなのに。まあそれくらいしないとシャッター前は無理だね♪」
かがみたちははお化けを見るような目になった。
そうしているうちに、こなたはモゾモゾ動いてかがみの背中から降りようとする。
「だ、だダメよ!!あんた神経もやられて立てないんだから!!」
「ん……ほら」
こなたは地面の上に足をおろす。かがみから手を離した。
「立てるよ。私」
ひょいと直立するこなた。
「……!」

「……こなた、あんた……」
「かがみ、鬼の目にも涙だね」
「な、なんだってえ!!」
「こなちゃん……うう」
いつものように怒るかがみとからかうこなた。
そして、そのこなたの背中に抱きついて涙を流すつかさ。
「まさかつかさが医学部へ行くとはねえ」
「まだ受けてもないよー……こなちゃん」笑って涙を拭うつかさ。

そのこなたの姿を見て、そうじろうは大急ぎで駆け寄った。
「こなた……!!こなた……!!」そうじろうはこなたに思い切り抱きついた。
「くく苦しいよお父さん。それよりシャッター前の本買いたいんだけど」
「ああ、準備は出来てる。ほら、ヤフオクで10万でせり落としたサークルチケットだ!!」
そうじろうはチケットと、かがみたちが生まれてから一度も見たこともないような分厚い万札の札束を渡した。
「思う存分買って来い!」

「それじゃあ行こう」
三人はサークル動線(西館側)をやぐら橋へと駆けていった。

そうじろうはふと有明病院のほうを振り返る。
こなたのいた病室の窓に、人影が────
久しぶりに見る懐かしいその姿。
それはじっとこなたのほうを見つめていた。
コミケ会場へ駆けていくこなた達の後姿が、遠い昔のふたりの一番の思い出の一日と重なった。


「待って……」とつかさが立ち止まる。
「午前中は二人だけで楽しみなよ」
つかさがかがみにえへ♪と笑いかける。
「つ、つかさ……」かがみは照れて顔が赤くなる。
「かがみ、早く!サークルチケット使ってもかなり並ぶんだから」
かがみはこなたに手を引かれ、ぐいぐいっとリードされて走っていく。
つかさはいつも学校からの帰り道で別れるように手を振った。

代わって医師団がゾロゾロと有明病院から駆けつけてきた。
「こ、これは一体どういうことだ……!!」
路上で頭を抱えて騒ぐ医者たち。
「臨床症状が完全に消失している。黄疸も神経症状も消えているように見える」
「ありえん、ありえん……あの走り。心臓もろくに動いていないというのに!!」
「しかし残念だが、……もって、3日だろうな」
「でも今連れ戻せば1週間くらいは延命できるかもしれんぞ、もっと強い薬を使って……」
つかさは医師団にニッコリと笑って言った。
「こなちゃんは治ってないけど、……と思います」
つかさの声はコミケスタッフのメガホンの声でかきけされた。

「かがみ、今日はとっても気持ちいいね」
こなたはまるで天使が空を飛んでいるように走っている。
見渡す限り広いプロムナードを、冬のお祭りの開場を待つコミケ参加者が埋め尽くしている。
世間的には爽やかな……とは言いがたいが、ここは透きとおるような海風が吹き渡る場所だった。

やぐら橋への階段の向こうに、ビッグサイトの逆三角の会議棟が近づく。
こなたはラッシュアワーのような人群れの中、羽根が生えたようにスイスイと階段を駆け上がる。
「ちょ、ちょっと待ちなさい……はあはあ」
かがみは息を切らした。
逆三角の真下の広場でこなたが振り返る。
「いいダイエットになるでしょー。ほら早く。同じようにサークルチケで入ってる人が大勢いるから売り切れ喰らうよ」
「急がなくても大丈夫よ」
「なんで?」
「『あの人』が本をとっておいてくれている気がするから……」
階段を上りきったかがみは、こなたを引きとめる。
正面に向かい合う。
「まったく、そんなに早く行かなくてもいいんだからね。こなた」
きゅっ、と、手を繋ぐ。
そのまま目を閉じて、唇を一気に近づける。

────と、周囲を大量のギャラリーが取り囲んでいるのに二人は気づいた。
百合の匂いをかぎつけた参加者が集結し、大量のカメコがパシャパシャと二人の写真を撮りはじめている。
「な、ちょ、ちょっと、やめ……恥ずかしい……」
顔が真っ赤になってオロオロするかがみ。「そ、そこ、スカートの中まで取るのはやめなさいよ!」
かがみはカメコを蹴る真似をする。
「いいじゃん」こなたは微笑む。
「みんなに思い切り見せて、たくさん写真も撮ってもらった方が、いまの私達をたくさん残せていいじゃん」
「……そうね。うん」
「今日のかがみは素直すぎだね。可愛い。好き」
照れるかがみにこなたは不意打ちしてキスをする。
「べ、べつにいいじゃない。素直な日があっても」
かがみはためらいなくこなたにキスを仕返す。
ギャラリーからなぜか拍手が沸いている。コミケスタッフや警備員すら手を叩いている。
「なんか、結婚式みたいだね。招待客の風体は怪しさ満点だけどね……」
「みたいだねじゃないの」かがみはこなたにもう一回唇を近づけた。
「結婚式、いまやろう」

冬の低い太陽が、ビッグサイトの逆三角を支える柱のかげから現れた。
それまでの薄暗い日陰が、一気にまぶしく光り輝いた。

「ねえかがみん。私かがみと、せいぜい2、3年しかつきあってないのにさ、
……生まれてからずっと一緒みたいな気がしてしょうがないんだ」
サークル入口から入り、ダンボール箱を積んだカート集団でごった返すビッグサイトの中を、手を繋いで走りながらこなたは言った。

「そのとおりよ。生まれてからずっと一緒だし。これからも私達はずっと一緒よ。
永遠にあんたは私のものなんだから。そして私は永遠にあんたのものなんだから」
いつも学校で会話している言葉のようにかがみは言った。

永遠の別れが、一切ドラマチックな盛り上がりも無く、こうして何気ない日常のような感じでなされるならば

永遠の誓いも、何気ない日常のような感じでなされるはず。

ビッグバンの前から宇宙が終わって次の宇宙が始まっても。

たとえあなたの場所に行っても、私の名札がついてるから。

もし私達が生まれ変わり、互いに相知らない存在になるなら、私はこなたの体の奥深くにひそむ未知の細胞に生まれ変わるから。

もし生まれ変わりもなく、天国も地獄もなく、死ということが、単にこの宇宙から消え去るだけのことなら、私達は笑顔で同時に───



──END──


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  • 最初から最後まで名作だった、GJ -- 名無しさん (2021-01-19 01:53:56)
  • 久しぶりに読みにきたら目からすごい汗がせいや死について考えさせらられました -- 桜 鳴海 (2014-04-18 22:06:47)
  • >「こなちゃんは治ってないけど、……と思います」


    つかさは「もう大丈夫」、と言ったのかもしれない。
    だとすれば、ハッピーエンドにもなりうる……


    読む者に結末を選ぶ余地を与えてくれた、作者の優しさに乾杯です。 -- 名無しさん (2011-04-10 16:08:22)
  • 確かに「死が単にこの宇宙から…」の件はただ哀しくあります。
    身も蓋も無い事を言ってしまえば、所々に「都合の良い」展開という場面も見られます。(あくまで僕個人の意見です。気を悪されたなら申し訳ありません)
    しかし、この作品に感銘を受けた人達に対して暴言を吐くのは一読者としてもあまり気分が良いものではありません。(;_;)
    「バカじゃない?」と感じる事自体になんの異論もありません。感想は人それぞれですから。自分も同じ感想になった作品はいくつかあります。思わず口について出てしまう事も当然あります。
    しかし、そこは敢えて我慢していただけないでしょうか?
    唯の一読者としてのお願いです。決して強要をしているつもりはありません。
    あくまでも「お願い」です(>人<;)
    じぶんの「好き」を馬鹿にされると傷付きますからね。
    あぁ、長くなりましたけど個人的にGJですwww -- 名無しさん (2010-09-06 01:12:03)
  • ↓あんたら何マジメに語ってんの?
    バカじゃね? -- 名無しさん (2010-08-11 06:55:36)
  • どうして感動できるんだ?
    ↓の言う通り、悲しいだけで、身も蓋もない話だろ。 -- 名無しさん (2010-04-26 22:30:39)
  • 僕は悲しいだけでした。
    最後の
    死が存在を消すだけなら、笑顔で同時に……?


    同時にどうするの?かがみん?
    なにか救いがあるの? -- 名無しさん (2010-04-22 05:05:10)
  • 感動しました!
    こなたはかがみの愛、みんなの愛で
    復活したんでしょうね!
    命の大切さが改めて分かるssをありがとう! -- 鏡ちゃん (2009-11-07 16:54:10)
  • いいSSをありがとう!
    これからもがんばってください!!! -- 名無しさん (2009-11-06 21:52:16)
  • まぢで泣きました
    素晴らしい話でした
    本当にありがとうっ!! -- 名無しさん (2009-07-23 15:50:55)
  • 一言目には素晴らしい、と。二言目には感動した、と。三言目にはGJ!、と。 
    最後には名作を本当にありがとうございました!、と。 -- 名無しさん (2009-04-26 20:11:50)
  • 生きるという素晴らしさを痛感しました!! ホント涙々読んでました!! GJな作品をありがとう!! -- 名無しさん (2008-12-11 11:59:07)
  • 読了。今“生きる”という言葉が頭から溢れて止められません。あまりに激しく、儚く、愛しい、と感じられるらき☆すたを本当に本当にありがとう!! -- 名無しさん (2008-12-10 20:54:31)
  • ある漫画でも言ってましたが、生きる意志、生きようとする意志は何よりも強いのかと思いました。
    『you』聴きながら読んでたら泣いてもうた。 -- 名無しさん (2008-10-15 07:46:42)
  • あれだけ苦しんでいた白血病を、最後には治す事ができたんだ。でも・・
    つかさの声、最後の一行、そしてタイトル…全てが悲しすぎる。
    どうか幸せを、2人へ。 -- 名無しさん (2008-10-14 23:23:49)
  • 1話から最終話まで読んできて、本当に最後の最後までハラハラ・ドキドキしながら読んでました。

    かがみのこなたを想う気持ちに何度も涙を流しました。
    最初と最後に出てきた、かがみの気持ちの『ビッグバンの前から宇宙が終わって次の宇宙・・・』の文章が、とても印象的で心に残りました。

    -- チハヤ (2008-10-11 11:01:01)
  • いろんなしがらみはなし・・・・抜きで
    ハッピーエンドなエピローグを・・・

    出きることなら。
    -- 名無しさん (2008-10-10 02:24:19)
  • かがみ視点からのかなたの表現がネガティブなものばかりだったので、最終話に来るまでかなたの位置づけに戸惑っていたのですが、
    もう一度読み返してみると、かなたが「こなた」の人格をこの日のために死から遠ざけていたんじゃないかな?と思えてきて、胸がキュンとしてしまいました…。
    読みながら涙を流したのは本当に久しぶりで、苦悩の日々にも相手を想う気持ち、愛と言えるものがひしひしと感じました。
    愛ってこんなにも素晴らしいものだと改めて思うことができました。作者さん本当にありがとう。 -- 名無しさん (2008-10-10 01:23:51)
  • めっちゃ号泣しました!
    -- 名無しさん (2008-10-10 00:08:39)
  • 同じくエピローグも読んでみたいです。1話からずっと読んできて、こなたはどうなるんだ!?とハラハラしてましたが最後の最後で最高の奇跡が(^O^)

    素晴らしい作品をありがとうございました!! -- Kーもんず (2008-10-09 20:15:34)
  • かがみがこなたを思う描写が辛い、涙が止まらない。
    すごい作品でした。作者様GJ!!!!
    -- 名無しさん (2008-10-09 08:23:55)
  • 良い作品だった···。
    ついでにエピローグも書いてくれると嬉しいかも。
    この作品を作った人とこの作品を作る環境を作り出した人。そして全てのこなた×かがみファンにありがとうを贈りたい。 -- 名無しさん (2008-10-09 08:00:06)
  • まず、作者殿お疲れ様でした。
    GJという言葉しか贈ることが出来ないのが申し訳ないです。
    素晴らしい作品ありがとうございました -- にゃあ (2008-10-09 03:27:35)
  • 1話からずっと読ませていただきました。かがみをはじめ、こなたをとりまく人々の想いよりも、こなた自身の「生への執着」が奇跡を起こしたと自分は思います。
    かがみの努力に、涙、涙………

    こんなにも素晴らしい作品を書いた作者さんに、GJ! -- 名無しさん (2008-10-09 03:15:32)
  • かがみとこなたがどんな結末を迎えるとしても、今ある二人だけの時を大事に、幸せに、素直に過ごしてほしい。
    個人的に、こなかがという枠を飛び越えて考えさせられた事がたくさんありました。
    感謝と敬意を表して、GJと言わせてもらいます。本当にお疲れ様でした。 -- 名無しさん (2008-10-09 01:47:52)
  • ヤバイ、泣いた・・・・・ -- 名無しさん (2008-10-09 00:59:57)

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