第19話:コミケへ行こう

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【第19話 コミケへ行こう】

肝臓の数値異常を受けて、こなたの腹部に穴を開けて肝臓の細胞を直接切り取って検査する手術が行われた。
局所麻酔なために、こなたの意識はずっとある。
手術室に入る前に、こわい……と目を固くつむるこなた。

それは、マルクや髄注をしていた頃のこなたの姿そのままだった。

「私の子なんだから大丈夫よ。あんたのお父さんだって我慢したんだから……」
「怪獣さん、いやお母さん、手術中も一緒にいて!!」
「当然じゃない!!母親なんだから」
かがみは励ます。
しかし、医師団にそれは拒否された。
「ダメです。手術室は一般者立ち入り禁止です」


「こなた……」

分厚い鉄扉が勢いよく閉まる。
かがみは鉄扉に耳を当てる。こなたの泣き声が、かすかに聞こえた。

「肝中心静脈閉塞症」

───医者は新しい病名を宣告した。
「肝臓の血管が壊死して詰まる病気です。原因は前処置のときの抗がん剤の副作用です」
かがみたちは医者の話を聞いて愕然とした。
「じつはこなたさんの白血病細胞は非常にしぶとく、普通の骨髄移植の患者さんよりも大幅に抗がん剤を増量せざるを得ませんでした。
そのせいで肝臓を痛めたのでしょう。まだ症状は出ていませんが、こなたさんの肝臓はもうボロボロになっています。
いずれ体じゅうに毒素が回り、あと数日で昏睡状態に陥ると思われます。
もう対症療法(病気自体を治さないまま熱や息が苦しいなどの症状だけを減らす)しかありません」
そうじろうは頭を抱え、机に突っ伏した。
「私の肝臓をあげます!肝臓移植してください!!血液型も一緒です!!」
かがみは叫んだ。
しかし、医師団は頑として首を縦に振らなかった。
「抗がん剤の影響は他の臓器にも出ています。いま肝臓を治しても、肺・心臓・腎臓・すい臓とドミノのようにつぎつぎに悪化していきます」
「そんな……私の内臓も全部あげますから。私なんか死んでもいいですから!!」
かがみは机の上に身を乗り出して食い下がる。
しかし医師団は一斉に首を横に振った。
「当院はホスピス病棟も備えておりまして……」
「なによ!!なんで死ぬことが前提なのよ!!ここは病院でしょ!!治すところじゃない!!!!」
かがみは医者に飛びかかりそうになった。
「……いいよ、お母さん」

全員一斉にその声のほうを向いた
こなたがドアを開けて立っていた。
「いいよ」
こなたはもう一回言った。
「もう治らないってわかったんだからいいよ。それより私、コミケってのに行きたい」
「こ、こなた……」
そうじろうやかがみはオロオロとした。
こなたは表情なくそれを眺めるような視線だった。
「な、何言ってんのよ。いまのは冗談、演技演技!!」
「コミケまで生きられる?私」
ボソリとかがみに訊くこなた。
「……」
「ね?」
「……当然じゃない、……」
「すぐ死ぬってわけじゃないよね?んじゃ私、ベッドの下の積みゲー大急ぎで消化しなくちゃ♪」
こなたは糸目とアヒル口になり、ひょいと廊下へ消えていった。

「お母さん、おはよー。リハビリの時間だよ!」
こなたは朝5時に起きるようになった。
ちなみに4時40分までひたすらゲームをやって深夜アニメを見て、「おやすみ、お母さん☆」と言ったばかりだ。
「ちょ、ちょっと、待って……もう、もうちょっとだけ寝かせ」
すぐ隣の家族用簡易ベッドの上でフラフラのかがみ。
「お母さん、体力ないねー。運動しないから太るんだよ?ダイエットダイエット」
死んだ『こなた』と同じことをのたまった。
「腹ごしらえに、その、円錐状のパンにチョコをつめこんだやつ、ちょうだい。あれおいしかったな」
「チョココロネって言うのよ。持ってきてるわよ」
かがみは売店で買ってきたチョココロネを取り出す
「はい、あーん」
「あーん」
「おいしいねえ。こんなにうまいものがこの世にあったとは……」
糸目でモグモグしながら感心するこなた。
「とりあえず生きてるうちに食べられて良かった」

「コミケって、なんか走るみたいだから足を鍛えなくちゃ」
こなたは血液内科の細長い廊下をウォーキングで行ったりきたりする。
まだ症状が出てないいま、点滴も外され完全に自由である。
「病院の中、結構ヲタクがいるみたいだね。ずっと個室だったから知らなかったよ」
こなたは嬉しそうに話す。
「お母さんもコミケに向けて一緒にはしろうね。ダイエットにもなるしね☆」
冬の早朝、窓の四角い枠に縁取られたまだ真っ暗なビッグサイトを背景に、電話帳みたいに分厚いカタログをブルンブルン振りながらこなたはウインクした。
コミケ開催日・12月29日が近づくにつれ、こなたはどんどんテンションが上がっていく。
検査の数値の悪化度とはまるで反比例していた。
「早く早く、大手の本が買えないよ」
徒歩どころか、こなたはマラソンのように廊下を走りだした。
「はやく!」
「待って、待ちなさいよこなた」
「朝早いのに静かにしてください」と看護師に怒られる。

かがみは息を切らしてその後をひたすら追いかける。
どこまでも続く病院の廊下。まっすぐ果てしなく伸びる直線。
かがみはこなたの流れる長い髪の毛をどこまでも追いかける。

型にとっておきたい。
久しぶりに見るこなたの元気な姿。
後ろから抱きしめたかったが、速すぎる。
───その人生も。

「あー疲れた。ちょっと横になろ」
病室に戻ったこなたはベッドにゴロンと寝転がる。
朝っぱらから走らされたかがみもクタクタになって簡易ベッドに寝転がる
「ふう、ふう、あんた、きっと大手の本全部買えるわよ」
「うん、あれもこれも買いたいな。コミケ終わったら秋葉原も行きたいね」
「絶対行こう。一緒に」
「うん♪お母さんのおかげだよ。寝たきりだったら行けなかったよね」

こなたはかがみにキスをした。かがみもこなたにキスを仕返した。
明日の朝も繰り返すような、親子のキスだった。


「ねえ、お母さん……」
「なに?」
「イケメンのお父さんのことなんだけど」
「……」
「記憶がなくなる前の私のことだったんだよね?」
「……」
「ごめんね、二回も死ぬなんて」
かがみのほうに顔を向け、小さく謝るこなた。
「別に、あんたが謝る必要はないわよ。しょうがないんだしね。それに私もいつかはそっちへ行って、次の宇宙がはじまってもずっと永遠に一緒なんだからね。それより」
かがみはベッドの下からギャルゲーを取り出した。
「ほら、これもやろっ」
「うん。でも待って、ちょっと疲れちゃったな……」
かがみはこなたの身体にやさしくシーツをかけた。
ビッグサイトに当たった昇りはじめの太陽の反射光が、二人の間に光の道をつくっていた。
「身体しんどい?」とかがみ。
「ちょっとだけしんどくなってきたかな……すごく、眠い」
かがみはこなたの体をゆっくりとなぜた。
「子守り唄うたってあげる。どのアニソンがいい?」
「……アニソンって結構みんなテンション高めだからね……眠れなさそう」
「んじゃ、もうちょっとだけ眠らせないわよ」

かがみはいろいろなアニソンをうたった。
古いものから新しいものまで、NHKFMのアニソン三昧のようにうたい続ける。

「♪ががが、がががががおがいがー♪」
「うーん、テンション上がるねー。あれ?……」

こなたの手が小さく上下に、翼のように揺れていた。
「私、はばたいてるみたい。……あ、これ、『はばたきしんせん』ってやつだね」

それを見たかがみは、こなたの手に繋いでいた自分の指を、そっと外した。
「東館まで30秒もあれば飛べるわよ」
太陽の色のビッグサイトの屋根が青空の手前で道標になっていた。

「お母さん」
かがみをみて微笑んだ。

「ありがとう……」

こなたは、ビッグサイトが映る瞳をゆっくり閉じた。



待っていたかのように、病室のドアを開けて医師団がどっと入ってきた。
こなたの胸に聴診器を当て、心電図のコードや酸素マスクが次々に取り付けられた。

こなたは昏々と眠り続ける。
冬コミの日がどんどん近づいてくる。
やがて、日の落ちた窓の外に野宿をする男達が現れるようになった。
「あした、退院しような。こなた」
そうじろうは眠り姫のようなこなたを抱きしめた。
「小さいなあ、かなたより小さいや……」
窓の向こうでビッグサイトの電気が煌々とついていた。明日のコミケに備えスタッフが机を並べているのだ。
闇夜の黒山の人だかりの間で、ところどころパトカーのパトライトが赤く動いて、中学生の集団が補導されているのがみえる。
徹夜組のテント村の明かりがまるでキャンプ場である。
「お母さんと同じように、一緒に行こうな。コミケ」
こなたはスー、スーという酸素吸入の音で返事をした。
その頭にヘッドホンがつけられ、ずっと平野のCDを聞かせている。
そうじろうは上半身だけこなたのベッドを起こして、その目の前にPCを置き、こなたがやりかけだったギャルゲーの続きをどこまでもやって見せていた。


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  • 寂しいな…。 -- 名無しさん (2012-12-21 19:58:15)

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