第18話:イケメンの恋人

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【第18話 イケメンの恋人】

「ほら、まだゴールじゃないわよ!」
「も、もうダメです……」
かがみはこなたに廊下で歩行訓練をさせていた。壁際の手すりにしがみついたまま動けないこなた。
「もう、やめて……怪獣さん」
そのままへたり込む。
「トイレくらい行けないでどうするのよ!」
「無菌室の頃はお風呂もトイレも何でも手元にあってよかったのに……」
「ハイハイでもいいから前にすすみなさい!!」
「まるで幼児じゃん」
「文句言わずハイハイで進みなさい!腕や肩の筋肉だって弱ってるんだから」
かがみはパチパチと手拍子を叩く。
こなたはしかたなく四つんばいになりハイハイしはじめる。つかまり歩きでは到底これ以上いけないからだ。
「ハイ、ハイ、リズムに乗って。ほら、WCの看板が見えてるでしょ、あそこまで歩くのよ。それともここで漏らすつもり?」
とはっぱをかける。
こなたはゼイゼイ息をしながら、カタツムリのような速度でハイハイする。
「あ……無菌病棟への廊下だ」とこなた。
WCの手前で廊下が二つに分かれていた。奥に、あのとき二人が別れた無菌病棟の隔離扉が見える
「戻りたい……私、死ぬまであそこで暮らしたい」
こなたは遠い目で扉を見つめる。
「……誰にも邪魔されず、疲れずに、漫画読んでアニメ見てゲームして……そのまま死にたい……」
無菌病棟へと体を傾ける
ふらついて横倒しになりそうになったこなたの背中にかがみはしがみついた。

「……!!」
磁石のようにこなたを後ろから抱きしめて話さないかがみ
「そっちは、違うでしょ!行くのはあっち!!!」
かがみはトイレのほうの廊下を指差した。
「行っちゃ、ダメ、なんだから……」
かがみは声が震えだして止まらなくなる。
「絶対……そっちは、ダメ……なんだから」

「……怪獣さん、ひょっとして泣いてるの?」
「な、べ、別に、泣いて、ないし!!……」
何度も涙をぬぐい鼻をすするかがみ。
「そ、それよりさっさと歩きなさいよ!まだゴールは先なんだから」
「怪獣さん、それってツンデレってやつ?」
「う、うるさいな」
「……あれ、なんか。胸の奥が、ほんわかと……ねえ怪獣さん、これがもしかして、萌えって言うの!?お父さんがよく言ってるんだけど!」
「うっ……そ、そう、なんかよく知らないけど……あとそれから、私のことを怪獣さんって呼ぶのは止めなさいよね」
「なんで?じゃあなんて呼べばいいの」
「ちゃんと私にも柊かがみって名前があるんだから。そうねえ……じゃあ……」
「?」
「かが……みん、って呼びなさい」
かがみはドキドキして頬を赤らめながら小声で呟いた。
「萌えない呼び方だねー」
なぜかグサリと来た。
「今の表情や仕草は萌えたけどねー。かがみんって馴れ馴れしすぎじゃん。怪獣さんにはふさわしくない。まるで恋人みたい」
「……」
ようやくトイレまで来る。
「て、手伝うわよ。そ、その、用足し……」
「いいよ……何照れてるの?女の子どうしなのに変だよ」
そ、そうよね……と返事し、かがみは個室のドアの外で待つ。

「ねえ、怪獣さん、さっきの『かがみん』って呼び名なんだけど」
ハイハイをして病室に戻りながらこなたはいった。
「な、なによ」
「恋人に、そう呼ばれてたの?」
「……あ、あう、……その」
「どんな人だったの?ねえ、かがみ」
「……」
「ねえ」
「そう、……恋人よ。ええ」
かがみは小さくうなずいた。
「へーどんな人?怪獣さんの恋人ならやっぱりモスラみたいな人かな?」
ね、ね、と、じっと見つめながら催促するこなたを止められず、かがみは伏し目がちにポツリ、ポツリ話し始める。
「まあ、ある意味、一般人が見たらまるで芋虫を見るような目つきになりそうな性格だったけど……」
「すごそうな人だねー」
「あんたのお父さんそっくりな性格だった」
「うわ……ヲタなの……キモイ……」
「ギャルゲにはまり出してる身で何を言うか!」
「で、その人、イケメン?」
「……ま、まあ、イケメンに、なるのかな?」
ヲタでイケメンか……うーむ、と考え込むこなた。「で、イケメンなところにほれたの?それともまさか、……よもやヲタなところにほれたの?」
「……よくわからない」
「??」
「でも、最初は普通の変人な友達だった。でも、最後は……全部好きになった」
「へー友達から恋人。よくあるパターンだね。クラスメートかなんか?キスした?」
「別のクラス。……つかさの紹介で知り合ったの。キスは……私からは、できなかった」
「ってことはヤれなかったんだね。フラグ立ててないから」
「……この世に生まれた瞬間にフラグを潰しちゃったからね」
「?」
「な、なんでもない」
「でも、まだきっとフラグは立つよ怪獣さん。どんな隠しルートがあるか分からないし」
「……死んじゃったから。そいつ」
「……」
「あんたと同じ病気でね。病室でアニメ見てゲームやりまくって、コミケ行きたい行きたいってさんざん言ってたくせに、最後は幽霊になって私に手を振ってるの。あはは、ほんと笑っちゃうわよね」
「……怪獣さん、ツンデレど真ん中だね。笑ってるのに涙でてるよ」
「まったく、あいつったら、いい年してお母さんと一緒にいるなんて。しかもあの世で。……まったく……まったく、もう」
「その人もお母さんいなかったの……ふーん、私と一緒だね」
こなたはハイハイを止め、少し目を伏せた。「どんな感じなんだろうね、お母さんっていうのは」
「……」
この子も、やはり、母親がなにかってのは知らない。
「……今まで隠してたけど。あんたにはお母さんがいるわよ」
「ほんと?生きてるの?どこ?」
「この私よ!!!!」かがみは自分の胸をバンと叩いた。
「そしてあんたは私とそのオタクなイケメンの娘!!!」

こなた育成計画を思いついてから、こう宣言することは決めていた。
血液型は一緒なんだから。
少なくとも、泉家よりはこの自分の方が近い血を持っている。
唖然呆然硬直自失するこなたが見ている。
「今日からお母さんと呼びなさい、いいわね」

同い年なのになんでお母さん?血のつながりは?高校生なのに堂々中だし!?お父さんって言ってるあのヲタク男は何者!?
などというこなたの突っ込みに強引に反撃しながら、
「母親なんだから当然でしょ!!」と、その日からかがみはこなたの病室で暮らしはじめた。むろん受験勉強も当然そこでやる。
かがみは巨人の星ばりにギプスをつけてスパルタ猛特訓……
させる間もなく、こなたはあっというまに二本足で立って、ふらつきながらもなんとか歩けるようになった。
運動神経がよいので筋力アップも早いのだ。
「トイレくらい往復できるよ……」
「いいから、帰りはおんぶする」
こなたを背中に乗せるかがみ。
(もうちょっと手のかかる子でもいいじゃない……まったく)

「そういえばさ……怪獣さん」
「『お母さん』!!!」
「お、おおお母さん(汗)」
「なに?」
「コミケって何?イケメンのお父さんが好きだったんでしょ」
「そ、そうね……そ、その、素人が描いた同人誌を売るイベントよ」
「面白いの?なんか下手くそな漫画がいっぱい集まってそう」
ま、まあ、たしかに島中の多くのサークルがそうね……
「そんな町内会館でひっそりやってそうなイベント、10人くらいしかこなさそうじゃない?なんで好きだったの?」
「町内会館どころじゃないわよ。60万人以上来る世界最大のイベントよ」
「へえー……マジ? 一体どこからそんなに人間が発生するんだろうね」
「ほら、ここから見えるビッグサイト。あそこを全部借り切ってやるのよ」
「……」
こなたは廊下の窓から見える逆三角を見つめた。
「……お母さんの好きな人が好きだったやつかあ……そんなにすごいんだ」

同人関係の話をしたと耳にしたそうじろうは嬉々として自宅からB5版の薄い本の束を大量に持ってきた。
「やっぱり素人が作ったショボイ本だね。パンフレットみたい。しかも聞いたこともない印刷会社」
ぺラペラと同人誌をうちわのようにあおぐこなた。
「これで500円?ぼったくりもいいところじゃん」
こなたは投げやりそうにページを開く
「キモッ!!あんた、いい年こいてこんなの見てるの?」
「頼むからそういわないでおくれよこなた……」
「著作権侵害じゃん」とこなたはドン引きした。
「しかもエッチだし……うわ、こんなことまで、おお……ほう……ふむふむ……」

3冊目を読む頃には、もうこなたの目の色が変わっているのが分かった。

「適応度早すぎ!!!!!!」
「漫画、アニメ、ゲームを経て、やっと同人までたどりついたか……こなた育成計画は順調だな」
かがみとそうじろうはウンウンよしよしとうなづいた。

「あとは、せめてこの数値さえよくなってくれれば……」医者から渡された検査結果を見てつぶやいた。
───肝臓の数値が、急速に異常値だらけになっていた




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