第13話:移植

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【第13話 移植】

コミケ参加サークルの抽選結果がとどき、同人イベント板が異様な空気に包まれる頃……。
癌研有明病院の無菌病棟のとある一室もまた異様な空気だった。


上半身だけ起きているこなたの周りを、白衣にガウン、巨大マスク、帽子で目しか地肌が見えない完全フル装備の医師団が取り囲んでいる。

無菌室の面会用窓の外で、かがみ、つかさやそうじろうやゆい姉さん、ゆたかが見守っている。
中のこなたとは備え付けの専用電話で会話できる。

「つかさ、ほら、よくみるんだよ」と受話器を耳に当てるこなた。
「う、うん……緊張するね」とつかさ。
「ほら、あれが移植されるんだよ。医学部の授業で出るからよーく記憶にとどめておくんだよ」

医師団の中の一人の看護師が、手のひら2つ分のサイズの赤いドロッとした液体の入ったパックを掲げている。

シールの上にマジックで「泉こなた」と名前が書いてある
あれが、こなたの新しい命。

「つかさ、琉球大学行ってもサンゴ礁の海でイリオモテヤマネコと遊んでちゃだめだよ。医学部は入ってからが本番なんだよ。たくさん勉強しまくってえらくなってここにいる人たちみたいになるんだよ」
「う、うん。こなちゃん、私絶対居眠りしないでがんばるよ!」
こなたはつかさを先生のような口調でさとし、つかさはそれに応える。まるで師弟……?
「あ、そうだ私まだ受験前だ……えへへ」

そしてこなたの「命」は、静かに点滴台につながれる。
緊張する空気が一斉に走る。


午前10時00分 「複数臍帯血移植」開始。


栓が外される。
真っ赤な臍帯血がチューブを走る。スルスルと生き物のようにこなたに向かう。
鎖骨下の針から心臓近くの太い血管へ駆け込んでいく。
フル装備の医師団は、何も言わずに見つめ続ける。記録係の看護師だけがひたすらペンを走らせている。
こなたも、面会用廊下のかがみたちも見つめ続ける。
つかさに至っては窓にへばりついている。
完全密閉の分厚い三重窓を通してビッグサイトも見ている。
「お姉ちゃんがんばって……」とゆたかは必死に励ます。
「うん、今のところ大丈夫」
ゆたかは臍帯血パックを感動しながら指差す。
「見て、きれいな赤い色だね、あれが命の色っていうんだね……」
キラキラした眼差しで見つめ……
見る見るうちにパックはカラッポになっていく。
「……え、あ、あれ?終わるの?これでおしまい??」
「えっ!!まだ涙も流してないのに……」とゆい姉さんはあわてる。


午前10時10分 「複数臍帯血移植」終了。

数枚写真を撮った後、ものものしい数の医師団はあっさりと無菌室から出て詰所へ去っていく。
あとに残されたのは呆然としているこなたたち。

「……なんかさ」
その空気に耐えられなくなったのか、こなたは言葉を発する。

「……すごい、地味だよね」

「う、うん……」とつかさ
「そ、そうかな、お、お姉さんは感動だよ」
「よよくわかんない……」
おろおろするゆたか。

「医療マンガの主人公がみんな外科医って、当然だよね。ワンパターンでマンネリだなって思ってたけど……これじゃしょうがないよね」

こなたはかがみに話を振る。

「もし私が心臓移植だったらもっと盛り上がっただろうねー♪10時間とかやるらしいし。はやくバチスタを!とかいったり、動け!!心臓!!動くんだ!!とかいったり。幼女が手術の助手したりして萌え要素もありじゃん。かがみなんか、手術室の前で泣きまくるだろうね♪死なないで!とか、無事終わってよかった!!とかいってさ♪」
「無事終わってよかった……」

かがみはこなたを見つめながら涙を流していた
「よかった、よかった……死ななくて、よかった……ほんとうに、よか……った……」

かがみはその場にしゃがみこんだ。
つかさがいるにもかかわらず、子供のようにわーっと泣き出した。
そうじろうもしゃがんで泣いている。

静かな廊下に二人の大きな嗚咽が響く。
それをみて、つかさもゆたかもゆい姉さんも顔を手で押さえた。
防音構造で声が伝わらないこなたも、その姿を見て目頭を押さえる。
三重窓の向こうのビッグサイトと東京湾を見つめた。

「76から行けるかな……」
小さくつぶやく
「6月のオンリーにも行きたいな、サンクリにも……」
こなたの目には、ここから見えないはずの都産貿やサンシャインシティなども見えていた。
「絶対、かがみんと一緒に行くんだ……」

その日の夜、こなたは口に痛みを覚えるようになった。
今までよりずっと激しい副作用が、ようやく今やって来たのだ。

【非常に鬱なシーンにつき注意】

「……!!」「……!!」
防音窓の向こうで声は聞こえない。何かをさけんでいる。かがみは受話器でこなたに呼びかける。
こなたは枕もとの受話器すら取れない。猛烈な口内炎を起こし「……!!」と声をあげるたびに口元を押さえている。
ちょっと口をあけるだけでも針山を突っ込まれたような痛みが走っている。
5分に1回、昼夜関係なく上から下から出す。ベッドサイドにあるトイレにも間に合わず、ポータブルの便器をベッドに持ち込む。
。制吐剤も下痢止めも効かない。
口をあけると激痛が走るにもかかわらず、口を大きく開く。叫び声を上げる。そのたびに針で刺されたように背中をのけぞらせる。
こなたの手には苦痛緩和用のモルヒネの注入ポンプのスイッチが握られている。
苦痛が激しいときはスイッチを押せばモルヒネが流れこみ、緩和されるのだが、中毒を防ぐために一日3回しか使えない設定になっている。
こなたは苦痛のあまり、夜明け前にすでに3回分押してしまっていた。
「……!!」
こなたは泣けなかった。
涙がこぼれるたびに激痛が走るからだ。目を押さえ、顔をボンボンと枕にぶつける。涙に血が混じっている。
激しい結膜炎を起こしているのだ。

ベッドサイドのペンとノートに力なく手を伸ばし、途中でエチケット袋に嘔吐しながら、震える手でつかんで、文字を書いてかがみに示す

”かがみ わたし みぐるしいでしょ”

弱弱しくほとんど判別できない字を見せる。

かがみはすぐにメモ帳に返事を書いた。
”全然見苦しくない”

こなたは20分かけて返事を書く。
だが、その字は判読不能だった。

かがみ”私がついてるから大丈夫”と書いた。
こなたは笑おうとした……が、口元を動かすたびに激しい痛みが走るのだった。

真夜中。
突然、こなたの全身に激しい悪寒が走る。
何がおきたのか分からないこなた。
人気のない真っ暗な無菌室。医療機器の小さなランプだけが星のように点っている。
なのになぜか、部屋一面にキラキラとまばゆい光が舞っている。
誰かがいる気配を感じる。
(……お母さん?)
光は真っ白な人影となり、かつて見たかなたの姿に変わる。
こなたにゆっくり手をさしのべる。
(ちょっと待って、かがみが、コミケが……)
すっと伸びたその手が、こなたの肩に触れる。
その瞬間、背中を走る猛烈な痺れ。強烈な短い周期の痙攣。体が誰かに操られているよう……。
遠のく五感。薄れ行く意識。
ガクガクと震える指で、こなたはひたすらナースコールを押した。



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  • このまま鬱で終わっちゃ嫌だぁ〜〜〜(T◇T)

    逆転を!奇跡の逆転をぷり〜〜〜ず! -- にゃあ (2008-10-01 19:44:55)
  • 大丈夫だよね・・・?

    かがみがきっと、こっちの世界に連れ戻してくれるよ!!!(>_<) -- チハヤ (2008-10-01 16:29:51)
  • こなたしんじゃあいやぁああああああああああああああああああああ

    作者のハッピーエンドに期待 -- 名無しさん (2008-10-01 02:14:13)

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