第6話:閉じていく世界

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(管理人注:こちらの作品には鬱要素や出血等の表現がございます。そのような展開や描写が苦手な方はご注意ください。
詳しくは作者さんの発言こちらをご覧ください)

【第6話 閉じていく世界】
(微エロ注意)

ガラガラと点滴を引きずりながら二人は廊下のトイレへ向かう。(免疫の弱った血液病患者のためにこの階の廊下はそれなりに減菌されている)

「点滴重いから行くだけで疲れる……」
トイレの個室に入ると、こなたはやおらパジャマのズボンを脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょっと……」かがみは赤面した。
「ん?なに?」
「いや、その……」
「だって辛いんだもん。カップ持って」
「う……」
かがみはしゃがみこみ、セットする。ふと前を見るとこなたのスベスベの下半身の肌が目の前に。
薄暗い個室の壁のアイボリーの色が反射して、なんともいえない柔らかな色調。
反射神経的にかがみは赤面する。
「は、早くやりなさいよ」
カップの中にゆっくり注がれる。

かがみは足の裏がこそばゆくなる。その刺激が伝わり、なぜか自分の股間まで……。
なんか変な感触……
狭い個室の壁が迫ってくるかんじ。そして、まるでシェルターのように閉じられていく。
二人だけを残して、世界が沈んでいく……。

やたら長い……

「終わったよ。計って」
カップの目盛りの数字をノートに書き込む。
「スポイトでこの小瓶の中に入れて」
あとは健康診断の検尿そのままだ。

トイレを出る。
かがみは頭がくらくらした。
「ん?かがみんどうしたの?」
「なんでもない……」
「医者に見てもらったら?ここに入院すれば私と一緒だよ?」
「う……」
一緒、という言葉にドキリとした。
なんだろう?
(心の病院いったほうがいいのかなあ……)
「……んじゃ、あんたに合ったカツラ買ってくるから。売店に売ってるんだよね?」

ベッドの上。
「まさか同じ髪型と同じ色のカツラが都合よくあるとはねえ。ひょっとしてお母さんが使ってたのと同じものなのかね。しかも、アホ毛つきだって!」
いじくりながら頭に載せるこなた。見た目は完全に髪の毛を切る前と同じ。
医者からなぜ抗がん剤を打っているのに髪の毛が抜けないのだと怪しまれそうだ。
「良かったじゃない」
「わざわざアホ毛までつけるとは、製造者に属性好きのヲタが……」
かがみ(……ありえる)
こなたは横になる。
「なんか、だるくなってきた。ちょっと寝るね」
チョココロネを咥えながら、あっというまにスースーと寝息を立てて、眠り始める。
ビッグサイトの逆三角の影がこなたの頬に映る。
清浄機の音だけが響く部屋で、二人っきり。
お守りやお札にまぎれてまるで自室のようにフィギュアやらヲタグッズやらに溢れている。個室だからやりたい放題だ。
聖地ビッグサイトまで徒歩1分もかかるかな。こなたにとっては理想の場所だ。
天国だ。
もし病気になっていなかったら、今ごろは遠い埼玉の田舎でこなたは嫌々勉強……模擬試験……偏差値……順位……

やがてかがみも心地よい眠りに落ちていった。

(鬱シーン注意)
ハアハア、というあらい息遣いでかがみは眼が覚める。
「ちょっと、こなた…?」
「……苦しい」
かがみはこなたの背中をさする。
こなたがくわえていたチョココロネがポロリと布団の上に転がる。
息遣いはますます荒くなる。
「楽にしてあげるから。看護師さん呼ぶ?」
かがみはこなたをゆっくり押し倒して寝かせ、ナースコールのボタンを押そうとする。
「……いいよ、かが、みん……」
こなたは震える手でかがみの手をつかみ、ボタンを押すのを止めた。
「これがたぶん、副作用、だから…これが、普通だから…」
こなたの額が冷や汗でいっぱいになっていた。
「うー、うー、うー」
「大丈夫よこなた。治してるんだからね。これから良くなって行くんだから。ね」
かがみはこなたの手を強く握り返した。が、こなたの握力が急速に弱まっていくのを感じた。
「こなた……」
こなたの手足がガタガタと震える。顎で息をするたびにはあはあという声をあげる。
「苦しい、苦しい、くるしいよ…お」
かがみはもう片方の手でこなたの肩をさする。
「大丈夫、大丈夫。私がついてるから……」
かがみは手を握り続けていたが、それ以上のことはできなかった。
目の前でこなたがこの世の地獄へと落とされていくのを、ただなすすべもなく見守るしかない自分。
ベッドの脇の壁に自分の神社のお守りがズラッと架けられている。
こなた入院以来、かがみは毎日神社に病気平癒を祈り、いまもまたこなたの手を握り締めながらかたく目をつぶって自分の神社の神様に祈っている。
なのに……

「おねがい、…かがみん…出て行って」
「な、なんで、こなた」
「たぶん私、…ものすごい大声出しそう。暴れそう。狂っちゃいそう…かがみんに、見られたくない。…出てって」
そ、そんな…とかがみが戸惑う中、こなたはさらに大きなうめき声を上げる。
「あー、あー…吐きそう、くる、しい…苦しいよお」
こなたはまったく力を失い、ベッドに大の字になったまま肩で息をしていた。
頭をわずかに上げることもできないようだった。チョココロネはいつのまにか床に転がって、中身がはみ出していた。
「うー、うううううう、あああああああ、…助けて…たすけて、……」
急にエビゾリになり痙攣のようにこなたの両足が震えだす。嘔吐をしそうな仕草をする。
かがみは大急ぎで収納から洗面器を持ってきて、こなたの口元にやった。
こなたはそれを手で勢いよう振りはらった。
「…出てって!!!!!」
と同時に、カツラの髪の毛が宙を飛んで布団の上に飛び散った。
「……出てって…おねがい…ね…」
他の入院患者と同じように頭皮があらわになったこなたの目から、ぼろぼろと涙があふれ落ちるのをかがみは見た。

かがみはその夜、神社へ行こうか行くまいか迷っていた。
……お守りは、ただ苦しむこなたの横でぶらさがっているだけだった。
自分にはもともとたいして信仰心はない。ご利益なんてオカルトじみた話は正直言ってバカみたいだと思っていた。
それがこなたの入院で、はじめてそういうことを願う気持ちが理解できた。
…でもお守りは、ただ苦しむこなたの横でぶらさがっているだけだった。

この世界には、苦しいときにすがりつけるものはないんだ…

それでも神社の娘としての理性が参道まで来させた。
形だけ手を合わせる。
礼もせずに拝殿から立ち去ろうとすると、携帯がなった。
「もしもし」
「やっほ~かがみーん♪」
「はあ!?」
いつもらしいこなたの声が伝わってきた。
「かがみ~ん、宿題わかんないところがあるんだけど教えてー」
「しゅ、しゅくだい…って、あんたもう大丈夫なの!?」
「平気だよー。最近の医学の進歩はすごいねえ。制吐剤打ったらあっというまにおさまっちゃった。最初から打っておけばいいのに薮だねえ。まあまだ体がだるくて晩ごはん残しちゃったけど。ちなみに今もまた抗がん剤やってるよ」
「そ、そう…よかったわね…」
かがみは思わずムカッときた。
「それでさあ、この夏休みの世界史の宿題さあ、ここんとこの答え教えてよ…」
こなたはかがみの話も聞かずさっそく宿題の話に入った。
しょうがないのでかがみは言われるままに教えることにした。
ひょっとして、これが神様のご利益なのかな…と思った。
ばちあたりだな私。あとでもういっぺんお祈りしなおさなきゃ。

30分くらいかけて宿題を教え終わったのち
「ねえねえかがみん、私もう一個カツラ買ったんだよ。写真メールするから見てね」
すぐにメールが来た。

薄いパープル色のツインテールに赤リボン……

かがみは思わずこけた。
「それ、私の髪型じゃないの!!!」
殺す……とメールを送る。
こなたからまた電話がかかってきた。メールで返さないのがこなたらしい。
「これでかがみんも白血病になっても大丈夫だね♪いやーコスプレが簡単だね。そういえばお父さんとうとうワシントンホテルに住みはじめたんだよ。以前は考えられなかったよね家族で聖地の前に住むなんて」
そうじろうは辛い娘の闘病生活をヲタ趣味を支えにしてやっていくつもりなのか?
「あ、そうそうかがみん……」
「なによ?」

「……お父さんとゆい姉さん私と型が合わなかったって。ゆうちゃんも合わなかったって。他の身内も全員ダメ。あと骨髄バンクでもドナーになれそうな人はひとりもいないって。んじゃまた明日ね」

こなたは早送りのようにしゃべり、ガチャ切りのごとく電話が切れた。

……え?

今なんて言ったの?

そう聞き返す間もなく、電話は既にツーツーという音に変わっていた。
かがみは真っ暗な鳥居の下でひとり立ち尽くしていた。
自分と同じ髪型のこなたの写真が表示された携帯画面の明かりだけがそこに残った。



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