こなた×かがみSS保管庫

第2話:普通すぎる風景

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kasa

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(管理人注:こちらの作品には鬱要素や出血等の表現がございます。そのような展開や描写が苦手な方はご注意ください。
詳しくは作者さんの発言こちらをご覧ください)

【第2話 普通すぎる風景】
こなたは癌研有明病院の救急部に運ばれた。
かがみは半泣きになって、こなたを背負って受付に飛び込み、返事が帰ってくる前にそのまま奥に入っていった。
腕にベルトが巻かれ、血圧が測られる。看護師の声が飛ぶ「上が60、下が35」
こなたはベッドに下ろされると、少し目を開けた。
「……かがみん」
「な、なによあんた、もうしっかりしなさいよ」
「……60って、やばいよね?私は、別に……ふつう、なのに……」
「あんた普通じゃないって!さっき倒れたじゃん」
「覚えてないや……」
「おねえちゃん、こなちゃんのお父さんに電話した方がいいかな?」
「大丈夫大丈夫……」こなたは弱弱しく微笑んだ。
医者がやってきた。
こなたの手のひらの斑点、青あざを一目見て、間をおかず言った。
「すぐに血液検査をしましょう」
医者はすぐに看護師に準備の指示を出し、問診に入った。どれくらい前からあざや斑点が続いているか、最近の体調は、……など。
そしてあわてた声で電話を何度もかける。病院内のいろいろな場所に問いあわせをしているようだった。
かがみはあまりの医者の焦りぶりに少し驚いていた。

あれ……たんに貧血なんじゃないの……?
医者、あせりすぎてない?
まあ貧血なら血液検査くらいはするけど……。
最近の医者もファーストフード並みに早さが命なの?
まあ、3時間も待たされて3分しか診ないよりはましだけど。こんな大きい病院じゃそういうのが当たり前そうだし……

そしてとんでもないスピードで血液検査の注射の準備ができる。健康診断のおっとりしたそれとは桁違いの手際の良さだった。
まるで重体患者みたいじゃない…かがみの心に不安がよぎるほどのスピードだった。
こなたは顔色が悪いままだったが相変わらずのんきそうだった。
「注射か~いやだなー」ぼーっとした声でこなたはつぶやく。
「しょうがないでしょ」
「かがみん代わりにやってよー」
「私がやってどうする」
「なんで21世紀にもなっていまだに針でぶっさすしか出来ないのかね~もう。バンソコみたいにペタッてはるだけとかさ……そういうのがないと」
スッと細い針がこなたの腕に刺さる。「うっ…」
ガーゼを渡された。
「しっかり押さえ続けてください」
医者はあわただしく廊下へと出て行った。
「かがみん、お母さんみたいな感じでグニグニ押さえて」
「お母さんみたいな感じって…しょうがないわね」
「うふふ」こなたは独特の糸目で微笑んだ。かがみはギューッと思い切り強く押した。
「あたたたた…かがみん痛い」
「スパルタ母親よ」
「かがみん、お受験ママになりそう…ちゃんとアニメも見せなきゃ子供が歪むよ」
10分して、かがみはガーゼを離した。
「あら、まだ血が止まってないわよ。ほら…」
ダラッ…と血がいく筋も、こなたの腕から床へ走るように流れおちた。
「わ!」つかさはかがみの後ろへ隠れた。「すごい血、死んじゃう」
「かがみんが変におさえたからだよもう…」とこなた。
出血はまるで火山から溶岩が湧き出るようだった。
「こ、このくらいで死なないわよ!」と、かがみは耐える。
……普通の注射でこんなに出血するの?とくに太い針を刺したようでもなかったのに…。

数分後、さっきの看護師と医者がまた来た。今度は何人もの集団を引き連れていた。
「今からちょっと耳たぶ少しだけ切りますね」
「え!!なにそれ!!」こなたは驚き、露骨に嫌そうな糸目顔になった。
「耳たぶからの出血の時間を計る検査です。血液検査の結果はもうすぐ出ますんで。
緊急の最優先で回してあるから」
(緊急?)かがみは不吉な予感がした。
どうみてもただ事ではない大勢の白衣の医者や技師、ナースの数。
みんな一様にあせっている表情。
それにまだ、こなたの腕からの血は止まっていなかった。
「じゃ、じゃあ、待合室で待ってるから。……一人で頑張りなさい」
かがみは後ろ髪にひかれつつも診察室を出る。
「いやだ~かがみん」
「こ、こなちゃん、がんばってね」
「そんな~つかさまで、なんて情のかけらも無い」

かがみ達は大きな待合室の長椅子で座って待つことにした。
真新しい病院だった。一目周りの人々を見て普通の病院とは違う感じだった。
まるで老人ホームのように高齢者が多い。
しかも、いかにも入院歴が長く重そうな患者があちこちにいる。
ここはがん患者専用の病院で、国立がんセンターなどと並び日本の三大がん病院のひとつと言われるところであった。
数年前に建った新しい病棟。フロア自体は一貫して暖色系の柔らかな照明
植木、デザイナー作品の机やソファなどで美しく演出されていて、まるでホテルのようだ。
死に至る病の集まる場所、余命宣告などを受ける場としてはあまりに似つかわしくない。
かがみにはそれがかえっていいようのない不安感をあおられた。
「……まさかね」
かがみは小さくつぶやいた。
「ん?」
「なんでもない、つかさ…」
30分後、診察室のドアが開いた。こなたが出てきた
耳たぶはまだ血が止まらないらしく、テープで止められたガーゼが赤く染まっていた。
腕からの血も止まっていないようで、骨折でもしたかのようにグルグルと包帯がまかれていた。
「こなた、どうだったの?」
かがみは少しあわてた声で近寄った。
「なんかね…入院するらしいんだ、私。お父さん呼べってさ。かがみん携帯貸して」
「……こなた……」
こなたは看護師の押してきた車椅子に深々と座り、エレベーターの奥へ消えていった。

1時間ほどして、そうじろうが息せき切らして病院にやってきた。
そうじろうはこなたのいる診察室の奥へ消えていった。
すぐにドアが開く。そうじろうは外で待っているかがみ達を呼んだ。
「こなたが、どうしても一緒にいてほしいらしいんだ……」
かがみ達は中に入る。
「ごめんね、かがみん。お父さんだけだとなんか心もとないからさ」
目の前には医者がカルテを片手に持ちながら、真剣な眼差しで座っていた。
医者はじっくりとその場にいるメンバーを見回したのち、はっきりと部屋に響き渡る声を発した。

「娘さんは、白血病の疑いがあります」

かがみは……?のような感覚になった。
その瞬間視界に映る世界が、突然クリアに見えた。
患者用の椅子に座るこなたの背中が一瞬震えたように見えた。
「通常は9000~3000程度の白血球の数が娘さんは15万8千もあります。血小板、赤血球は正常値を大きく下回っています。すでにいつ危篤に陥ってもおかしくない危険な状態です」
横にいるつかさが、もう顔を両手で覆っているのを見た。
「頬や手足の斑点は出血のあとです。血が固まりにくくなっているのです。いつ脳内出血や肺出血に見舞われるか分かりません。ただちに血小板を輸血をしないと数日中に死亡するでしょう」

な、何言ってるのこの医者、……こなたが死ぬわけ、無いじゃない。

つかさのすすり泣く声がひびく。

こらこら、まだ早いわよ、つかさ
そのカルテ、別人のものじゃないの?
……よくあるわよね、医療ミスで肺を取り違えたとか。

かがみの脳に徐々に声にならない言葉が湧いてくる。

「……やっぱり」
そうじろうは声を震わせた。
「実はこの子の母親、わたしの妻も同じ病気でした……」
はっ、となってかがみはそうじろうのほうを向いた。そうじろうは背中を丸め、俯いたまま肩を細かく震わせていた。
医者は淡々と話を続けた。
「娘さんの低身長と性徴の遅滞も明らかに正常なものではありません。お母さん方の家系から受け継いだ染色体異常の一症状として白血病が現れた可能性があります」

ふと気づくと、かがみは自分の頬がぬれているのを感じた。
まだ悲しいと言う感情が湧かない。なのに涙が?
なんで?
なんでこなたなの?
なんでこの子が下手糞なケータイ小説みたいな目に遭わなきゃいけないの?
「通常3万とかそれくらいの白血球数で発覚するのですが、娘さんは異常に数が多くて病気がひどく進行している。だいぶ前から症状を感じていたのではないですか?」
こなた「……うーん、実は、去年の暮れからしょっちょうフラフラしてて、急に動けなくなっちゃったり、微熱が出たり、朝歯を磨くと血ですごくて、ゆうちゃんびびってたな……あと、緑色のできものが背中にいーっぱい出来たりしてね。でも毎晩夜更かししてゲームやってたせいだと思ってたし……」

「なんで、何も言わなかったのよっ!!!!!!!!!!!!!!!!」

かがみは思わず大声で怒鳴った。
こなたの肩を外さんばかりに激しく揺さぶった。

「お、怒らないでよかがみん、だ、だって、お父さんに心配かけたくなかったし……」
「安心してください、恋空はたった今から頭の中から完全に決し去ってください。ああいうフィクションと違って現実の白血病は治りうる病気です。タイプによっては簡単な飲み薬だけで短期入院でOKなものもあります。現に多くの患者さん達が完治して社会復帰しています。一緒に頑張りましょう!」

医者はできるだけ安心させよういう意図か、最後の励ましだけはやたら力強い口調だった

そんなこと言われたって…カンニングのあの人とか、ほんだみなことか、外国人格闘家とかみんな死んじゃったじゃない
かがみは感情がようやく涙に追いつきつつあった。
津波のように熱いものがあふれてきそうだった。しゃくり声を上げそうになったとき

「だってさ☆」
こなたは椅子をくるっと回してかがみのほうを見た。
「かがみん~何泣いてるのかな?」
こなたの指がかがみの頬の涙をぬぐった。
「治る病気になってるんだから。21世紀はやっぱり違うね。まったく旧時代の人間はこれだから困る☆」糸目で笑った。
「なっ!!だれが旧時代か!!」
かがみは反射的に半分泣き声でこなたにつっこんだ。
「まったくかがみんは早とちりなんだから。つかさもさあ、いつまで泣いてんの?ほら、二人ともコミケに行ってきなよ。
ああそう、私の欲しい本絶対に買ってきてね。大手だから男波につぶされないように」
こなたはいつもの口調で糸目のままちゃっちゃと二人に指示を出した。
「すまん、二人とも。こなたの欲しいものを買ってきてくれないか」
そうじろうは財布から一万円札を何枚もかがみ達に渡した。
「足りないならまた言ってくれ」
「んじゃ、よろしく~。私はまだ検査があるみたいなんだ。待ってるよ~」
こなたはまるでいつも学校からの帰り道で別れるかのように手を振った。
今生の別れが迫っているかもしれない状況にしては、あまりに普通すぎる風景だった。

永遠の別れ。

一切ドラマチックな盛り上がりも無く、こうして何気ない日常のような感じでなされるのだろうか?
かがみは18年間生きて、はじめて何かを知ろうとしていた。
フィクションではない現実の世界が目の前に立ちはだかっていた。
二人はそうじろうからもらった一万円札十数枚を手に握り締めビッグサイトへと向かった。




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