夢で逢えたら

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パタン。
そう、音を立てて扉が閉まると、後には、気の抜けたような静けさばかりが部屋に残って、何だか……物足りない。
そして、そう思っている自分に気が付いて憮然とするのだ。
アイツ――泉こなたが、私――柊かがみにとって分かち難く結び付いている大きな存在である、というその事実に。

~~夢で逢えたら~~

こなたが帰った後はいつも嵐が過ぎ去った後のようで、急にやることがなくなった私は、他にやることを探す気力も無く、退屈を持て余したまま床にゴロリと寝転がる。
ぼんやりと天井を見上げると、そこをスクリーンにして、こなたの顔が浮かび上がる。私をからかってくるこなた、アニメやゲームの話題で一喜一憂するこなた。しばし追憶に身を委ねていると、不意にアイツの声が聞こえた気がして、ハッとした。
でも、こなたは帰ったんだから当然、何処にもいなくて、私は、ため息を吐きながら、また、ふてくされる。
この気持ちを何て言うか、知ってる。寂しい・・・こなたがいなくて。認めるのは、癪だけど。
少し顔を横に向けると、そこにはさっきまでこなたが使っていたクッションが。何の気無しにそれを引き寄せて体を埋める。
温かい。まだちょっとこなたの温もりが残っていて、仄かに、こなたの匂いがした。

しばらく体を預けていると、何だか、私より頭一つ分くらい小さいアイツに包まれているようで、安心する。そんな私に、睡魔が降ってくるまでには、そう時間はかからない。
まどろみに抵抗することなく、私は、ただ、この心地良さに全てを委ねて、夢の世界へ落ちていく。眠りにつく寸前、また、こなたの声が聞こえた気がした。


夢は記憶。そう、聞いたことがある。なら、これは私の思い出?
見慣れた景色、見慣れた校舎、見慣れた・・・。私は自分のクラスにいた。
ノートを整理して、プリントを纏めて、誰かが来るのを待っている。
手を止めて、窓の外を見た。
桜の花びら舞う季節。
南中している太陽は眩しくて、思わず目を眇めた。
私は1人、待っている。
誰が来るのか私には分かっていた。きっと、その内、扉を開けて、アイツはこう言うのだ。

――かがみ様~! かがみ様のクラス、世界史の宿題出たー?

……やっぱり。私は苦笑すると、振り返り。

――出たけど。言っとくけど見せないからな。

すると、こなたは大げさに慌てながら私の腕を掴んで。

――そ、そんなシンラツな!

……クスッ。こなたの接近を内心くすぐったく思いながら、でも、顔にも声にも出さない。

――当たり前だ、そんな毎回たかられちゃ適わないわよ。

せいぜい仏頂面を作って、こう返すだけ。

――えぅぅ~……。

こなたの困ったような顔を暫く楽しんで、その額を指先でチョンと突いてやる。

――嘘。きっと1人じゃやらないだろうから、ね。

こなたは一瞬キョトンとして、私と、私の机の上を見比べて、握る腕に力を込めると、桜よりも可愛く、太陽よりも眩しい笑顔を浮かべた。

――あぅーん。だからかがみ大好きだよ~!

その無邪気さに心奪われて、私は、何を言おうとしたのか。
私が口を開こうとして、その瞬間、風が吹いて、巻き上げられた桜の花びらが視界を遮って、気がついたら、広い、広い草原に私達は立っていた。

――行こっ、かがみ。

こなたが手を差し出す。私は、その手を取る。いつもこう。こなたは、私を引っ張ってくれる。

何処へ?

天を仰げば、やっぱり太陽は輝いていて、でも、何故だろう。少し、肌寒いかな。
こなたは私を連れて歩く。向かう先はこなた行きつけのアニメショップか、それともちょっと怪しい本屋か。
それでも、いいかな。こなたと一緒なら。

――かがみ、楽しそうだね。

知らず、頬が緩んでいたらしい。ニヤニヤとこちらを見上げてくるこなたに見つめられると、顔が熱くなってくる。
……どうしてこの子はこう、人の表情を読むのが上手いかな。
こういう時、何かを言うと墓穴を掘る事は学習しているつもりだ。でも、そうは思っていても言葉はまるで生き物のように口から勝手に飛び出していってしまう。

――べ、別に、そんなんじゃないわよ。ただ、今日は何処に連れて行かれるのかなって……。

――何処に、行きたい?

不意打ちだった。
ニヤニヤ口を消して、真顔になって。ただただ真剣に、こなたはこちらを見上げてきていた。

――かがみは、何処に、行きたいの?

――いいよ。かがみが行きたいなら。何処にでも。

気がつくと、こなたは白いワンピース姿で、私の知る限りこなたはこんな格好をしていた事はない。
でも、そのこなたの格好はどこかで見たことがあって。それが、以前見せてもらったこなたのお母さん――泉かなたさんの姿と重なっていることに気付く。
そう思ったら、目の前のこなたが、急に儚く見えた。

人の夢と書いて、儚い。

ちょっとでも身動ぎすれば、ちょっとでも触れてしまったら……壊れそうで。
眠りに落ちる前、こなたがいなくなって凄く寂しかった事を、思い出した。

――こなたが居る所がいい。

口から出たのは、そんな言葉だった。
こなたは、そんな私を見上げて、微かに息をつくと。

――じゃあ、行こ。

再び私の手を引いて歩き始めた。

草原は太陽に照らされて、草は青々と茂り、空はどこまでも高く、風は澄んで冷たかった。
繋いだ手の温もりが、この世界の温かさだった。

このままこなたと一緒に辿り着いたら、少しは自分の心を認めよう。そう、思った。

――かがみ……。

こなた……。

――かがみっ……。

こなた……。


「かがみっ!」
「あれ……?」
薄くぼやけた視界に、自室の天井が映った。
だけど、今度はこなたの顔が映るんじゃない。
そこに、こなたが居る。僅かに、焦りを含んだ表情で。
こなたは、私を連れて来てくれた。こなたが居る所に。

「かがみ、布団もかけないで……熱が――」

こなたの声が耳に真綿をかませたようにぼんやりと聞こえる。でも、そんな事はどうでも良かった。
すっかり冷めてしまったクッションを放ると、こなたの腕を掴んで引き寄せる。
抱きすくめた小さな肢体は、どんなクッションよりも柔らかくて、温かい。
……寂しいのは嫌だ。
そんな子どもみたいな考えは熱が成せる業なのだろうか。
辿り着いたから、認めよう。自分の心を。
伝えよう、こなたに。
「……こな、た」
開いた唇は小さな指先にふさがれて。
「後で。いつでも話せるから」
私を見つめるこなたは、いつもより大人びて見えた。

そうか。いつでも話せるよね……。
「だから、今は休んで。かがみ」

こなたは、私の腕をしっかりと掴んでいてくれる。
また、夢で……逢えたら……いい、な……。





「寝ちゃった……。まったく、クーラーつけた部屋で布団かけなかったら風邪引くよ。って、かがみ~ん? ちょっとそんなに抱きしめられると軽く痛いんですけど……もしも~し? あの、段々力入ってません? ちょっ、痛い、痛いってば! かがみ!?」
「こなちゃん、忘れ物見つかった……」
「つ、つかさ、ヘルプミー!」
「私は何も見てません。つかさです。つかさです……」
「あ、あ~っ!? 行かないで助けてよぉ! かがみ、痛い……いや、どこに手を入れてる、ソコは……あぅっ!?」
「ムニャ……こなた……」




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