こなた×かがみSS保管庫

星紡ぐ想い(3)

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匿名ユーザー

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★☆★☆

ジリリリリリ──
けたたましく鳴り響く目覚まし時計を止めると、私はベッドから起き上がった。
いつもならこのままずるずるとベッドにもぐって順調に遅刻するはめになるのだが、
今日は遅れるわけにいかない。
アニメのキャラクターが描かれたカレンダーを確認すると、今日は7月7日。
かがみの、そしてつかさの誕生日だ。
断続的に襲ってくる眠気を頭を振って吹き飛ばし、カーテンを開けた。
気になっていた今日の天気を確認すると、雲も無くほとんど快晴に近い。
天気に感謝をすると、早速制服に着替え始めた。

今日はいつもより早めに家を出て、かがみたちを待つ予定だ。
いつも私が待ち合わせの場所に遅れて迷惑かけているから、今日ぐらいは待たせたくない。
簡単に朝食をとったあと、忘れ物がないか確認した。
せっかく早起きしたのに肝心のプレゼントを忘れてしまったら元も子もない。
全てかばんの中に入っていることを確認すると、少し早い気もしたが、
余裕を持って家を出ることにした。

待ち合わせの駅に到着すると、かがみたちは案の定まだ来ていなかった。
多くの通勤通学客が忙しく行き交う中、もう一度プレゼントを確認してみた。
かばんを開けると、その中にはクッキーを入れた紙袋とプレゼントの箱が3つ入っている。
そう、3つ。
実はかがみのプレゼントにはちょっとした細工をしてあるのだ。

「こなちゃん、おはよう」
「おーっす、こなた」
「あっ、おはよ~、かがみ、つかさ」
かばんの中を見られないよう、急いで閉じた。
「今日は珍しく早いのね」
「ふふん、私だってやればできるのだよ」
自慢げに胸を張った。
「いやいや、そんな威張られてもできて当たり前だから」
「私にとってはすごい成長なんだよ。それじゃあ、早速行こっか。
今日は少し早めに学校に着きそうだね」
「そうみたいね。というか、改めていかに私たちがいつも待たされてたのか実感するわ」
「細かいこと気にしちゃだめだよ」
「気になるわ」
「ふふ、かがみん今日もつっこみは絶好調だね。あとそれから、かがみ、つかさ、誕生日おめでとう」
「ありがとう~」
「あ、ありがと」
つかさは満面の笑みで、かがみはどこか恥ずかしそうにもじもじしながら言った。
「プレゼントもちゃんと用意してあるからね」
「うわー、ありがとう。何だろう、楽しみだな」
かがみは興味ない振りをしていたが、ちらりと横目で私のかばんの様子をうかがったのを私は見逃さなかった。

「もう、かがみんったら正直にプレゼントが気になるって言っちゃいなよ」
「べ、別に私は……もう子供じゃないんだし」
「またまた、物欲しそうな顔してたくせに」
「物欲しそうな顔なんてしてないわよ」
「かがみん、顔が真っ赤だよ?」
「えっ、嘘?」
「ふふ、嘘だよ」
「~~、こなた~」
「わっ、せっかくの誕生日なんだから怒っちゃだめだよ」
「もうっ」
「ふふふ。心配しないで。ちゃんとかがみにも素敵なプレゼント用意してるからね」
本当に少し赤くなったかがみの横顔を見ながら、いつものように学校へ向かった。
でもその顔の赤さが怒ったせいじゃないことは見れば分かる。
だって、おめでとうって言ってからずっと嬉しさを隠すように口元が緩んじゃってるから。
相変わらず素直になれないかがみだけど、私の言った一言でこんなに喜んでもらえるなんて、こっちまで嬉しくなってくる。

学校へ着くとひとまずかがみと別れることになった。
「じゃあ、今日のお昼ご飯の時に渡すね」
「うん、分かった」
「お昼まで我慢できる?」
「できるわよ。私は子供か」
「ふふっ、楽しみにしててね」
「うん、じゃあ」
嬉しそうに手を振り、かがみは先に自分のクラスに向かった。

「お姉ちゃん、嬉しそうだったね」
「うん、そだね」
「今日の朝もとてもそわそわしててね、あっ、これはお姉ちゃんには内緒だよ。昨日の夜もね──」
そう言って昨夜からのかがみの様子を詳しく私に教えてくれた。
昨夜宿題を教えてもらいに部屋に行ったとき、かがみにしては珍しく宿題するの忘れていたこと、
今朝かがみが寝坊しそうになったこと、朝食を食べるとき違う箸を使っていることに
気付かなかったことなどなど。

「……そっか。もう、かがみんったらツンデレに加えてドジッ娘属性まで
身に付けるなんてどこまで属性増やすつもりだよ」
そんなになる程気にしてくれていたとは知らなかった。
そんなかがみの姿に思わず笑ってしまいそうになったけど、それよりも何だか心が温かくて、
優しい気持ちになって、私もかがみのように口元が緩むのを止められなかった。
そんな様子の私を見て、つかさも嬉しそうに微笑んでいる。
「ん、どしたの、つかさ?」
「えへへ、何でもないよ」
つかさがたまに見せる不思議な微笑みの正体が気になったが、そのまま教室へ向かうことにした。


「じゃあ、改めてかがみ、つかさ、お誕生日おめでとう」
「私からも、かがみさん、つかささん、お誕生日おめでとうございます」
お昼ごはんを食べる前に、私とみゆきさんとで誕生日のお祝いの言葉を述べた。
みゆきさんと事前に打ち合わせて、この時間に一緒に渡そうと決めていたのだ。
私は昨日の夜焼いたクッキーと一緒に、かがみとつかさにプレゼントを渡した。
みゆきさんはとても大きなプレゼントをひとつ渡している。
「ありがとう、こなた、みゆき」
「わ~、ありがとう」
かがみは恥ずかしそうに、つかさは文字通り目を輝かせながら受け取った。
「ねえねえ、早速開けてもいい?」
「うん」
「はい」
「じゃあ、開けるね」
そう言ってとても楽しそうに包装紙を取り外すと、箱を開けた。
「わ~、新しいリボンだ。かわいい」
そう言って薄い緑色をしたリボンを取り出すと、早速頭の上に載せてみせた。
「黄色じゃないけど、いいかな?」
そこは一番気になっていたところだ。
「うん、全然大丈夫だよ。ありがとう、こなちゃん。とってもかわいいよ」
「ふふ、気に入ってもらえて嬉しいよ」

かがみは嬉しそうにリボンをつけているつかさをうらやましそうに見ると、
恥ずかしそうに私に聞いてきた。
「あの、私も開けていいかな?」
「うん、いいよ」
かがみはあくまで冷静さを装いながらゆっくりと包装紙をといている。
本当は嬉しいくせに、どこまでもツンデレさんなんだから。
「かがみ、顔がニヤニヤしちゃってるよ?」
「えっ、私そんな顔してる?」
両手を頬に当ててぺたぺたと触って確認している。
「むふふ、またひっかかったね」
「~~~!」
「もう、いい加減素直になればいいのに」
「ううっ、……もうっ」
それで吹っ切れたのか、今度は無理に嬉しさを隠そうとせず、笑みを浮かべながら箱を開けた。
中を見つめること数秒、驚いた顔をしたまま固まっている。
かがみに目配せをすると、恥ずかしさからかその顔がどんどん赤くなっていった。
実はあの箱の中には昨日おばあさんにもらったリボンは入っていない。
代わりにメモ書きを入れてあり、そこにはこう書いてある。

“今日の放課後、本当のプレゼント渡したいので教室に残っていてね”

「ねえねえ、お姉ちゃんは何だったの?」
つかさが箱の中を覗こうとすると、かがみは素早く箱を閉じた。
「ま、また後で見せてあげるから」
「ふーん? じゃあ、後でちゃんと見せてね」
いぶかしげに首を傾けたものの、興味はみゆきさんのプレゼントに移ったようだ。
「ゆきちゃんのは何だろ、とてもいい香りがしてるけど、……わあ、これお風呂セットだよね?」
「はい、本当はお二人別々に渡そうかと思っていたのですが、それだととても大きくなりそうでしたので、
お二人一緒のプレゼントとさせていただきました」
「いいにおーい。このボールみたいなの何?」
「それはバスボムといいます。お風呂に入れるとすごい勢いで泡が出てとても面白いですよ。
他にも様々な匂いのするボディーソープなどがありますので、勉強で疲れた頭と体をリフレッシュしてくださいね」
「まあ、つかさは勉強で疲れることはないと思うけど。ありがと、みゆき。助かるわ」
「もう、お姉ちゃん」
「まだ梅雨も明けきらず蒸し蒸しする日が続いてますから、気分をリフレッシュするのにもいいと思いますよ。
ぜひつかささんも使ってくださいね」
「うん、ありがとう、ゆきちゃん」

「それじゃあ、クッキーと一緒にお昼ごはん食べようか。もう、お腹がぺこぺこだよ」
「あんたはチョココロネと一緒だからいいかもしれないけど、ごはんにクッキーは……
ま、でもいっか。このクッキーもらってもいい?」
「どんどん食べたまへ」
かがみは早速クッキーを手に取ると、ぱくりと口に放り込んだ。
「お味はどうかな、かな?」
「うん、おいしい」
「ふふふ、この私の手にかかれば当たり前だよ」
久しぶりに焼いたので少し自信がなかったけど、かがみに喜んでもらえてホッと胸をなでおろした。
「こなちゃんクッキー焼くの上手だね」
「つかさほどじゃないよ」
「でも、とてもおいしいですよ」
「ありがとう」
そうしてお菓子パーティさながらに楽しい昼食の時間は過ぎていった。


一日の授業もようやく終わり、先生の話をぼんやりと聞きながら窓の外を眺めていた。
かがみには自分の教室で待っていてもらうよう伝えてあるけど、どうやって渡そう。
実はそこのところをよく考えていなかった。
肝心なところを考えてなくて、直前になって慌ててしまう。
かがみが聞けばちゃんと準備してないからだと怒られそうだ。
そもそもどうしてこんな回りくどい渡し方を考えたのか、自分でもよく分からない。
最初は普通に昼休みに渡すつもりだった。
でも、それじゃあ何かつまらないし、プレゼントを渡す瞬間をもっと特別なものにしたくて、
ほんの思いつきでやったことだ。
周りの誰かに邪魔されたくなかったのかもしれない。
それだったら、屋上とかの方が良かったかな。
でも、改めて考えてみるとこれってまるで告白するシチュエーションみたいだ。
そう思うと急に恥ずかしくなってきた。

黒井先生の話が終わると、周囲の生徒が各々帰る準備をし始めた。
「こなちゃん、一緒に帰ろう」
「あっ、ごめん、今日放課後かがみと約束があるんだ」
「お姉ちゃんと? 何か用事あるの?」
「んー、ちょっとね」
「ふーん」
しばらく上目遣いで考えごとをした後、ニコッと私に微笑みかけてきた。
「じゃあこなちゃん、がんばってね」
「えっ、何を?」
「えへへ、秘密だよ。ゆきちゃん、先に帰ろう」
そう言って、嬉しそうに去っていった。
「うーむ、つかさもたまに謎の言動を見せるようになったね。
これは新たな属性なのか……っと、こんなこと考えてる場合じゃないや」
かばんの中にしまってあるプレゼントを確認すると、早速C組に向かった。

C組の教室の中にはまだちらほらと生徒が残って談笑していた。
その中でかがみは一人机に座って窓の外を見つめていた。
机についたほっそりとした腕、椅子から伸びるすらっとした足、
艶やかに伸びる菫色の髪、そして心持ち緊張した表情。
そうやって座っているだけでも絵のように綺麗で、私は思わず見とれてしまった。
でも同時になぜか儚げで、そして寂しそうに見えて、胸の辺りがぎゅっと締め付けられる。
──どうしよう、なんか声かけ辛いな
教室に一歩踏み入れていた足を、また廊下に戻した。
こんなにもかがみにプレゼント渡すことを楽しみにしていたのに、
いざその瞬間になるとためらってしまう。
こんなことなら昼休みに渡しておけばよかった。

思えばこうして教室の外からかがみの様子をうかがうことはこれまで無かったように思う。
なぜならかがみはいつも私の教室まで会いにきてくれるから。
教室の外からかがみの様子をうかがっている自分は、
まるでいつも私のクラスを訪ねてくるかがみのようだった。

かがみはいつも私の教室にやって来るとき、どんな気持ちなんだろう。
他のクラスの教室に足を踏み入れる違和感、知らない生徒の視線、
そんなものを感じながらいつも私たちに会いにやって来ているんだろうか。
私が今ここで立往生しているように、かがみも不安に駆られることがあるんだろうか。
隣同士のクラスなのに、壁一枚隔てているだけなのに、その距離はこんなにも遠い。

私と同じクラスになりたかったかがみ。
神様にお願いしても私と同じクラスになれなかったかがみ。
そんな素振りは見せず、いつも笑顔で私の所に来てくれるかがみ。
でも本当は私たちと一緒に授業を受けることができなくて寂しいんだろうか。

でも、かがみは毎日会いにきてくれる。
つかさに会うためだといってるけど、ほんとの所どうなんだろう。
もし私に会いに来てくれてるんだったら、……嬉しいな。

……ハァ、なに意識しちゃってるんだろう。
ただプレゼント渡しに来ただけなのに。
「まっ、なるようになるよね」
そんな私の心を悟られないように、いつも通りを装ってかがみの席に近づいていった。

「おーい、かがみーん」
「あ……こなた」
振り返ったかがみの顔が余りに儚げで、泣いているかのような表情にドキッとした。
でもそれは単に窓から差し込む日の光に目が輝いていただけで、私の目の錯覚だった。
「一人黄昏ちゃって、どうしたの?」
「べ、別に何でもないわよ」
「まさに恋する乙女って感じだね。まるで告白されるのを待ってるみたいだったよ」
「ばか、そんなんじゃないわよ」
いつものような鋭い突っ込みを期待していた私は、肩透かしを食らった。
「もしかしてほんとに待ってたの?」
「まさか、そんなわけないでしょ。ちょっと……考えごとしてただけよ」
「何考えてたの?」
「ん、そうね。もう18なんだなって」
「ふーん。ほんとに?」
「ほんとよ。あんたこそどうしたのよ。なんからしくないわよ」
「どこが?」
「なんかいつもより大人しいっていうか、女の子らしい」
「ふっ、ついにかがみんも私のオンナとしての魅力を──」
「ばか。言葉を借りると、むしろあんたの方こそ告白しに来たって感じだったわよ」
かがみの口元がニヤリと笑みを形作る。
嫌な予感が……。

「……もしかして気付いてた?」
「うん。教室の外でもじもじしてるこなたは可愛かったわよ」
そう言って、にっこりと微笑んだ。
「うっ……」
思わぬ反撃に恥ずかしさで顔が赤くなるのを止められない。
「むう、これはかがみの役のはずなのに。無念」
「たまには弄られる方の身になってみなさい」
「ぐぬぬ……」
そう言ってかがみは嬉しそうに私の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「でも、ありがと。私のためにわざわざプレゼント渡す時間作ってくれて」
「ううん。私の誕生日のときも、かがみ素敵なプレゼントくれて嬉しかったから。
……まあ、そのお礼?」
「なんか恥ずかしいわね」
「はは、私らしくないよね」
「ううん、そんなことない。ありがとう、とっても嬉しい」
「あっ……」

──ずるいよ、そんな笑顔見せられたら……
また心臓がどきどきしてる。
「と、とにかくまだ人がいるから場所変えない?」
「そう? うん、分かった」
まだ赤くなっているであろう顔を見られないよう、私は足早に教室を出た。


かがみの教室を出てから、しばらく誰もいない場所を探して学校内をうろうろしていた。
どこか良い雰囲気の場所を探してみたが、思うように見つからない。
「しかしまた何でこんなに改まった真似をするのよ?」
「ふふふ、誕生日イベントでヒロインを落とすにはシチュエーションも大事なのだよ、かがみん」
「私はゲームの攻略キャラかい」
そう言ってひとつ大きなため息をついた。
「まあ、シチュエーションもそうだけど、やっぱり大事なイベントは最後まで取っておきたくならない?」
「えっ、それってどういう──」
「さーて、どこ行こうかな。なかなかいい場所が見つからないから、定番だけどやっぱりあそこかな」
「どこ行くの?」
「ふふ。まあ、着いてからのお楽しみということで」

目の前の階段を上り始めると、かがみは不思議そうな顔をしながらついてきた。
やがて最上階まで着くと、外へ出る扉を開いた。
まずは先客がいないか確認。
誰もいないことを確認すると、早速足を踏み入れた。
「かがみ、こっち来て」
「屋上って入っても良かったっけ?」
「細かいこと気にしちゃダメだよ。それにこんな時間にここに来る生徒なんてまずいないって」
「でも……」
「体育館の裏の方がよかった?」
「うっ、それはさすがに遠慮するわ」
「ふふ。屋上は定番だけど、やっぱり実際来てみると雰囲気満点だね。
少し汚れてるのを除けば景色もいいし風も気持ちいいし」
強い風が吹き抜けて、私の髪を舞い上げる。
「かがみー、早くー」
私を見てボーっとしていたかがみを呼び寄せた。
「うん、分かった」

屋上から見渡す景色は最高だった。
晴れていることもあり、遠く離れた家々まで見通すことができた。
「ここから私の家見えるかな」
「いや、さすがにそれは無理でしょ」
「頑張れば見えるかもしれないよ?」
「ありえないって」
「もう、かがみは夢がないなあ」

目の下のグラウンドに目を移すと、運動部員が一生懸命汗を流して練習に励んでいた。
何かに一生懸命に取り組むこと。
汗を流して目標に向かって努力すること。
そんな青春の一幕の中に自分はいただろうか?
……なんてらしくない感傷に浸ってしまうのは、屋上の持つ雰囲気のせいだろうか?

「どうしたのよ、急に黙っちゃって」
「ん? 青春だなって思って」
そう言ってグラウンドを指差した。
「クラブ活動か。そういや私たちそういう活動に参加してこなかったもんね」
「いやー、青春ですなあ」
「あんたも一応女子高生なんだから、オヤジくさい言い方をするな。
……それに、私たちだってまだ青春真っ只中でしょ?」
「じゃあ、かがみはこれまで何かロマンスでもあったの?」
「いや、そういうのはなかったけど……。って、あんたはどうなのよ?」
「んー、私もそういうのなかったかな」
「つくづく私たちにはそういうのに縁が無いわね」
妙にしんみりとしてしまって、二人フェンス越しにグラウンドを見つめていた。

すると突如、強い風が屋上を吹き抜けた。
その風にかがみの髪が吹き上げられ、リボンが解けてしまった。
「あっ……」
かがみの長い菫色の髪が広がり、日の光を受けきらきらと輝いた。
──今がチャンス
機会を与えてくれた風に感謝した。
「ああっ、もう」
急いでリボンを結び直そうとするのを、私は制止した。
「待って、かがみ」
きょとんとしているかがみを見つつ、かばんの中から急いでプレゼントを取り出した。

「かがみ、はい、これ」
「えっ……」
急な展開についていけないのか、まだきょとんとしている。
「屋上に来たのも、元はといえばプレゼントを渡すためだったから。
いつ渡そうかと思ってたけど、ちょうど今が良さそうだったんだ」
「う、うん。ありがとう」
大事なものを触るように受け取ると、恥ずかしそうにおずおずと聞いてきた。
「開けてもいい?」
「うん。今開けてほしい」

丁寧に包装紙を外し、箱を開ける様子をどきどきしながら見守った。
ゆっくりと箱が開けられると、現れたのはレースのリボンとイヤリング。
かがみのために自分の足を使って探し出したもの。
昔どこかのお母さんが何年もかけて一生懸命編んだとても貴重なもの。
親切なおばあさんが私たちにプレゼントしてくれたもの。
そして共にかがみのために作られた、この世にひとつしかないもの。
今の私にはこれ以上の物を贈ることができないと思う。

かがみの反応を固唾を呑んで見守っていると、最初意外なものを見たかのようにびっくりしていた顔が、
みるみる内にぱあっと明るく輝いていった。
「これって……リボンよね? それにこの留め具は……イヤリング?」
「うん、かがみ専用のリボンとイヤリングだよ」
「すごい綺麗。結んでみてもいい?」
「うん。私もかがみがそのリボンつけた姿を早く見てみたいな」
リボンを取り出すと、慣れた手つきで髪をツインテールに結びあげた。
再び吹き始めた風が、結い終わったかがみの髪とリボンとをゆらゆらと揺らしている。
涼しげな風が通り抜けるたびにひらひらと舞うデザインと落ち着いた色合いが、
爽やかさと同時に上品さをかがみに与えていた。

「すごく似合ってるよ。まるでどこかのお嬢様みたい」
「そ、そうかな」
「うん。それはかがみのために作られたものだから」
「私のために?」
「うん。そのリボンとイヤリングに付けられてる生地はアンティークレースといって、
とても古いものなんだって。どこかの国の、どこかの家のお母さんが編んだもの。
何年もかかって編まれた、とても思いが込められたもの。
それに、……私の思いも込められてる」
「そう、なんだ……」
かがみはつけようとしていたイヤリングをまじまじと見つめた。
そのレースの中に込められた思いを見るように。

「かがみは人前だと余り嬉しさとか表に出さないでしょ?」
「……」
「だから、ここなら私の他だれもいないから、喜んでくれるかなって思ったんだ」
「うん、嬉しい……ありがとう、こなた」
そう言って笑ったかがみの顔は、これまで見たことのないものだった。
心を許した人にしか見せないような、顔をくしゃくしゃに崩した笑顔。
──かがみってこんな風に笑うことできるんだ
そんな笑顔を私に見せてくれたのがとても嬉しかった。

「さっきの話の続きだけどね、青春とかロマンスとか、そういうの私よく分からないけど、
……でも、かがみと一緒に過ごしてきたこれまでの学校生活は、とても楽しかったよ。
だから、その感謝も込めてる」
「こなた……」
「はは、また私らしくないこと言っちゃったね。やっぱり屋上は何か魔力でも秘めてるのかな」
「ううん、そう言ってもらえてとても嬉しい。私もこなたがいなかったら、
勉強しかできないつまらない人間になってたと思う。
こなたがいてくれたから、これまでずっと楽しくやってこられた。
だから、私もこなたに感謝してるのよ」
「そうなんだ。……何だか恥ずかしくて、くすぐったくなるね」
「ふふ、そうね」
そうして二人してしばらく笑いあった。

初夏の陽気に熱せられた屋上を、また風が吹き抜ける。
ふわりと舞い上がるかがみのリボンを見て、そういえばおばあさんは私のリボンも
作ってくれていたことを思い出した。
「そうだかがみ、いいこと思いついた」
「ん、何?」
「実はそのリボンはとあるお店のおばあさんに作ってもらったんだけど、
私にも作ってくれたリボンがあるんだ」
「へえ、そうなんだ」
「だから私も結んでみるね」
かばんの奥にしまってあった自分用のリボンを取り出すと、長い髪を後ろで束ねてみせた。
「どう?」
「うん、よく似合ってるじゃない」
「ほんとに?」
「ええ」
「ふふ、これで二人おそろいのペアルックだね」
「なっ、へ、変なこと言わないでよ、もう」
口ではそう言いながらも、満更嫌そうにも見えなかった。

空を見上げると既に日は傾き始めている。
思ったより長い時間屋上にいたようだ。
あまり屋上に長居して先生に見つかったら面倒だ。
そろそろここを出ることにしよう。
「じゃあもうすぐ夕方になりそうだし、そろそろ帰ろっか」
そう言って入り口に向かった私を、かがみは呼び止めた。
「待ってこなた、あの……」
何か言いにくそうにもじもじしている。
「どうしたの? 遠慮なんかしなくていいから言ってみて」
「うん。あの、お願いごとがあるんだけど……」
「うん」
「私の家の近くに川があってね、夜になるととても涼しいところなの」
「うん」
「それに晴れた夜には星がよく見えてね、それがとても綺麗で……」
「ロマンティックだね」
「うん。それに今日七夕だから……」
かがみはひとつ咳払いをすると言った。

「前に私に願いの叶う人形くれたわよね?」
「そんなのあったっけ?」
ガクッとかがみは前につんのめりそうになった。
「ちょっ、贈った本人が忘れるか?」
「いやー、冗談冗談、ちゃんと覚えてるよ」
「まったく……で、そのお願いごとなんだけど……」
「うん」
「その、もしよかったら、私と一緒に……星を見てくれないかな、……なんて」
かがみの声が自信なさげにだんだん尻すぼみになっていく。
でも、それに反して私の心の中に嬉しさが溢れていった。
「だめかな」
「ううん、そんなことないよ。かがみのお願い、叶えてあげるね」
俯いていたかがみの顔がぱあっと輝き、私の心を明るく照らしだした。
そんなかがみの表情ひとつで嬉しくなる私自身に戸惑いつつ、屋上を後にした。



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コメント:
  • (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-05-09 12:15:57)
  • ありがと!心温まる良作を拝見させてもらえて、感謝&GJ!! -- kk (2008-07-29 22:13:15)

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