三次元へ

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今まで否定しつづけてきたけれど、
ライトノベルにこれほど熱中し続けていた私が、
こなたと同じ世界に足を踏み入れるのにさほど時間は掛からなかった。

私の気に入った作品がアニメ化されて一年ほど。
どうしてだろう?
こなたやつかさと初めてコミケに行った頃は、カップリングとかいう考えを恥ずかしく思っていたのに、
この作品にのめり込んでから、抵抗がなくなっていった。
むしろ、作品の「ふたり」が仲を深めれば深めるほど、作品自体への愛情も強くなった。

もう構わない。
この年頃の人間は、きっと何か変なものに熱中したくなるんだろう。
世間には腐女子という言葉もあるくらいだし、私の趣味も理解されるはず。

たとえ、「ふたり」が、私と同じ性別の子たちだとしても。
彼女達の片方が、私の隣にいる子に似ていたとしても。

「いやー、かがみも立派なオタクになったね」
「オタクで悪いかっ!」
もう否定する必要はない。
こいつなら、どんな趣味でも理解してくれるし、話を弾ませてくれる。
私は基本原作主体で、こいつはアニメ主体って違いはあるけど。
もう否定したくない。
無意味なプライドにすがり付いているよりも、素直でいられる関係でありたい。

「それにしても、まさか百合にはまるとはね……真面目一筋なかがみんが」
「男視点でギャルゲーにのめり込むあんたに言われたくはないわ」

高校に入った頃には縁のなかったネットの掲示板に、今では夢中で目を通している。
「最近はさすがに鈍いわね」
「もう一年も経ってるからね。 OVAでも出たら話は変わるんだろうけど」
ブラウザの更新ボタンを何度も押す。
当然、新しい文章が現れてくるわけでもなく。
私は飢えていた。

「作品への愛って、やっぱり薄れちゃうものなのかしら」
「うーん、どうだろうねえ。 逆に、時間が経ったほうが、一見さんの人がいなくなって
 本当にそのカップリングが好きな人が集まるんじゃない? 密度が濃くなる、っていうのかな」
「そうかな……」
「じゃあ、かがみんはどうなのさ」
「分かるでしょ。 好きじゃなきゃこんな避難所なんて見てないって」

最近では、こなたの家に遊びに行く度にこんな会話をしながらパソコンをいじっている。
デスクトップを見るたびに新しくなるギャルゲーのアイコン、そんな風景にも慣れた。

「避難所」も、認めたくないけど、人が少なくなったと思う。
それでも、元のスレッドを見る気はしない。
いつの間にか荒らしが住み着いて必死な書き込みをするようになってからは。

「もうさ、かがみん、自分でSS書いちゃったら?」
「そんなことできるわけないでしょ? 忙しいんだから」
「私のパソで百合を見てる人の言うことですかねえ」
「分かったから、いちいち言うな!」

投稿された絵に見入っていると、こなたが画面を指差した。
「でもさ。 こっちの方はかがみに似てるんだし、感情移入できるでしょ」

―― やってはいけない。
作品を知った時から、薄々気づいていた。
片方がこなたと似ていると同時に、もう片方も……
性格も見た目も、私そのものだ、ということに。

このカップリングに心を奪われる理由なんて、最初から分かっていたんだ。
きっと、こなたも勘付いてはいる。 実際の恋愛に鋭いか鈍いかには関係なく。

文章を書き落とせる自信はいくらでもある。
私の心をそのまま文字に表して、後はキャラクターや場所の名前を変えればいい。
それくらい、この二人は、私たちに近い存在なんだ。
でも、こなたが勘付いているとしたら。
二次元に隠しておいた想いを知っているとしたら。
本当は、私が来るのを恐れているかもしれない。
この一時一時、いつでも逃げる準備をしているかもしれない。
―― だから、やってはいけない。

「私にそんな文章力、あるわけないじゃない」
「でも、まだまだ需要はあるよ?」
「他にもすごい書き手さんなんていくらでもいるんだから」
「甘いね、かがみん。
 今この瞬間、かがみが書きたいと思ってる文章を見たい人だっているのに」
「書きたい、なんて、そんな」

胸に圧迫感を覚えて、首を下げると、そこには絡まった細い両腕。
後ろに顔を向けた途端、私の耳元に近づいていた小さな口が、言葉を発した――


「かがみ、分かるかな?」
想いが
「それは」
通じ合う時は
「今、ここにいる」
突然
「私、だよ」
やってきた。


いつもの冗談だと思った。
笑って時を過ごそうとした。
顔が近づいてきた。

気づいた時には、距離はなくなっていた。
柔らかで暖かな感触。

私は身動きをとれないまま、ただただこなたの行動を目に焼きつけた。
全身の温度が唇に集中した。

予想外の出来事のあとの一言は、軽いものだった。
「ほら、これで書けるでしょ?
 素材は提供してあげたよ。 私も満足できたし」
「ど、どういう、こと……よ」

「二次元での夢は、三次元で叶えられれば一番幸せなんだよ?」
「叶えるって、どうして、あんたが」
「そりゃあね。 私の真ん前で何ヶ月もそんなカップリングに
 夢中になっているのを見たら、黙っちゃいられないよ」

――やっぱり、分かってたのね。 まあ、当然よね。
今考えられるのは、それだけだった。

「やっぱり、かがみは鈍いなあ」
以前だったら、「あんたには言われたくない」と返していただろう。
でも、認めるしかない。 堂々と想い人の前で告白しつづけていたようなものだから。
唇にあった温度が、いつのまにか顔全体に広がっていた。

「まあ、それ以外でも気づいてたんだよね、本当は」
「……いつの話、かしら、それ」
「覚えてる?ちょうど二週間前、 かがみの願いが叶わなかった時だよ」

覚えている。 それはそれは鮮明に。
あの時は騙されたんだと、今まで思っていた。
本気でこなたにキスをしようとしてしまった私の恥ずかしさ。
無邪気に笑うこなたと日下部の顔。
面と向かって「一応、その気は無い」と言われたときの妙な気分。
全部、覚えている。

「あれ、かがみじゃなきゃ絶対にやらなかったんだよ?」
「でも、あの時、ノンケだからね、とか言ったじゃない」
「いやいや。 別に私は自分から百合に走ってるんじゃなくて」
こなたの顔が、今度は接しない程度に近づく。
「ノンケなのには間違いなかった。
 どんな男の子にも女の子にも興味は持てなかったんだもん。
 でも、かがみには友達以上の何かを感じた」

こなたの手先が、私の左手に絡んだ。

「かがみが私の趣味に付き合ってくれるようになってから、ずっと感じてたんだ。
 正直に言っちゃうと、メイトとかゲマズとかに一緒に行くようになってから。
 最初は何なのか分からなかった。 でも、かがみの優しさがいつでも嬉しかった」


ここまで真剣な表情のこなたは、今までで初めて見た。
そして、次の言葉が、私を幸せの絶頂に導いた。

「結局、その、何かっていうのが、つまり――
 好き、って気持ちだった。 それだけだよ」

危ない。
体温が体中を巡って、行き場を失っている。
こんな夢のような状況に浸かっていたら、すぐに溺れてしまいそうだ。

「う、そ」
「大事な人に嘘なんてつかないよ。
 心配だったら、何度でもしてあげようか? キスでも、それ以上でも」

後者を選択しそうになる心を抑えて、私は自分の唇をこなたのそれに寄せた。
…… ああ、本当なのね。
頬の色、唇の温度、手のひらにあふれる熱。
全部、私と同じになってる。


夢が再び現実になった一瞬。


「どうだった?」
問いに対して、私の口からは感想より先に感謝の言葉が出てきた。
「ありがと、本当に、ありがと。 こなた」
「それはこっちのセリフだよ。
 かがみが堂々としてくれたおかげで、両想いなんじゃないかって気づけたんだから」

「二次元での百合は、もう卒業ね」
「そだね。 もう、三次元で満たされなきゃだよ」
「こなたがいるんだったら、代わりになんていないもの」
「それはどういうことかな? もうちょっと詳しく」

「だから、ね。
 こなたのことが、もう、好きで好きでたまらないの……これで、いいでしょ?」

「ふふ。 私は幸せ者だよ。 最強のツンデレさんを、本当に攻略できるなんて」
「……ばか、ツンデレって、違うわよ、今のは正直に言っただけで!」


これ以降、私がこなたの家を訪れる回数も、その逆も、何倍にも増えた。
こなたのオタクっぷりは相変わらずだけど、
私の方は、一時期長く触れていたパソコンには手を出さなくなった。
もちろん、あの作品自体はまだ続いてるし、愛読書であることには変わりない。
ただ、それよりも、二人でいること自体に楽しみを見出せた今では、
現実を幸せにすることの大切さがはるかに勝っている。

結局、あの「避難所」でSSを書くことはなかったし、これからもない。
もう、あのカップリングに手を出すことはないだろう。
他の人たちはずっと好きでいるだろうけれど、私にとっては結果的に通過点だった。
けれども、二次元での百合を好きであって良かった、とも感じている。
―― 結果的には、そのおかげで、私とこなたが結ばれたのだから。


(終わってしまえ!)


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コメント:
  • 途中のキスしようとした…はゲームネタかな?
    かがみが百合にはまるという発想はなかった -- 名無しさん (2017-04-04 23:07:12)
  • ほのぼの系の百合も好きww
    GJ! -- 鏡 (2009-11-03 10:45:05)

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