7月の花嫁

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 7月7日といえば、世間では七夕の日として認知されている。
 確か、ポニーテールの日もこの日なんだっけ?
 しかし、柊家にとっての7月7日は七夕ではなく、私とつかさが誕生した大切な一日として認識されていた。

 さすがにこの年齢にもなると、子供の頃のように期待に胸を躍らせながら、誕生日を指折り数えて待つような事も無いけれど、今年の私は、一週間も前から不思議な高揚感に支配されていた。
 それは、18歳という年齢を「大人への最終移行期間」として私が受け止めているからなんだけど、それ以上に大きかったのが、泉こなたという、“初めての恋人と迎える初めての誕生日”という期待感だった。

 昨年の誕生日は、こなたにコスプレグッズをプレゼントされ、とてもガッカリした記憶が未だに私の心の中に深く刻み込まれているのだけど、今年はちゃんとした物をプレゼントしてくれるのかな?
 この間、さり気なくそんな話題をこなたに振ってみたら、案の定、私の本心を見抜かれていた様で、

「なんだかんだ言いつつも、プレゼントの事が気になって仕方が無いかがみ萌え~」

 等と散々からかわれてしまったけれど、それでも最後には、

「まぁ、今年はかがみが泣いて喜ぶようなプレゼントをちゃんと用意してあるから、期待しておいてくれたまえ~」

 という、ハッキリ言って期待して良いのか良くないのか判断し難い含みを持たせて、その話題は終了した。

 それから私は、こなたからのプレゼントを出来るだけ期待しないように心がける事にした。
 別にこなたを信用していないという訳ではないけど、期待するだけ期待して後でガッカリするのは嫌だし、そうなれば、折角プレゼントを選んでくれたこなただって、決して良い気分はしないだろうと私が判断したからだ。
 …ま、まぁ、あれ以来ずっとプレゼントの事が気になって、勉強が全く手につかなくなったから、無理矢理自分にそう言い聞かせて体裁を保ってるっていう理由も少しはあるかな…///。

 そうこうしている内に、とうとう私は18歳の朝を迎えた。

 誕生日の朝というのは、幾つになっても「今日は特別な一日になりそうだ」という根拠の無い期待感を抱いてしまうのだけど、世間にとっては普段と同じ“ただの一日”でしかない。
 だから今日も、私はつかさと駅でこなたの登場をいつものように待ち侘びていた。
 すると、普段は一本遅い電車でやって来るこなたが、珍しく早い時間に顔を出した。

「おはよー」
「おはよう、こなちゃん」
「おーっす。こんな早い時間に来るなんて珍しいわね」
「いやー、今日は楽しみなイベントが盛り沢山だから、つい早起きしてしまったのだよー」
「遠足の日の小学生か、アンタは」

 こなたの言うイベントとは、恐らく私達の誕生日の事を指しているのだと思うけど、あのこなたが早起きする程、今日を楽しみにしているその理由は、この時の私には全く謎でしかなかった。

「とゆーわけで、ハイつかさ。誕生日おめでとう」
 早速こなたは、鞄からわりと大きめの包装箱を取り出すと、それをつかさに手渡した。
「ありがとうこなちゃん。中身見ていい?」
「いいよー」

 こなたからの了解を貰ったつかさは、箱の包装を丁寧に剥がして、中身を確認する。
 いかにも高そうなデザインの施された箱から出てきたのは、黒い液体の入った瓶だった。
 なんだろう、これ?

「最高級のバルサミコ酢だよ」
「バルサミコ酢!? そんな物プレゼントされても何に使うのよ?」
「わぁ~、これ凄く欲しかったんだぁー。大事にするね。ありがとう!」
「アンタも欲しかったのかよ!」

 こればかりはいくら双子でも、妹の嗜好が良く分からないなと思った。
 …でも、つかさにそんな最高級品をプレゼントするという事は、こなたは私に何をプレゼントしてくれるのだろうか?
 それまで抑えていた期待感が一気に昂ってきた私は、逸る気持ちを何とか抑えながら、間もなく訪れるであろう“その時”を待った。
 しかし、こなたの口から出たのは、私の予想を裏切る意外な一言だった。

「じゃあ、あまり時間も無いしそろそろ行こうかー」
「へっ?」

 これ以上のイベントなど無いかのように、こなたが学校へと向けて淡々と歩き始める。
 てっきり、この場でプレゼントを渡してくれるものだと思っていた私は、この行動に呆気にとられてしまい、いつものツッコミを入れる余裕すら奪われていた。

「あ、あの…こなちゃん。お姉ちゃんへのプレゼントは?」

 そんな私の様子を見かねたつかさが、恐る恐るこなたに尋ねてくれた。
 すると、こなたは例の猫口モードで私達の方に振り返る。

「勿論用意してあるよ。でも、かがみへのプレゼントは放課後の二人っきりの時に渡さないとシチュ的にアレなんだよ」

 こなたは臆面も無くそう告げると、「だから、かがみは今日の放課後、屋上まで来てね♪」という約束を勝手に取り付けて、再び学校へ向けて歩き始めた。
 私もつかさと一緒にこなたの後を付いて行ったけれど、ちゃんと私へのプレゼントを用意してくれている事が解った安堵感と、待望の時間を先延ばしにされた失望感で私は半ば放心状態のまま学校へと辿り着いた。


 結局、この日の私は、こなたのプレゼントの事で頭が一杯になって、授業中も黒板に書かれた事をノートに書き写すのが精一杯だった。
 せめてもの救いは、期末試験が終わったばかりで、今日の授業は午前中のみだった事だろう。
 ちなみに、休み時間にはみゆきや峰岸、日下部達が誕生日を祝ってくれて、プレゼントも渡してくれたけど、やはりこなたはプレゼントを渡す素振りすら見せようとしなかった。

 そして待ちに待った放課後、私はすぐに屋上へと向かった。
 屋上の扉を開くと、そこには既にこなたの姿があった。

「こなた。来たわよ」

 私が声を掛けると、こなたは私に微笑みかけた。
 それは、私をからかうような時に見せる笑顔ではなく、純粋に喜びを表現しているかのような微笑みだった。

「待ってたよ、かがみん。ちゃんと一人でここまで来たよね?」
「あんたの言うとおり、一人で来たわよ」

 私はもう一度、後ろを振り返って扉の周辺を確認してみたけど、誰かが後を付けて来ていたという事も無いようだ。

「…で、わざわざここまでして、私に渡すプレゼントとやらは一体どんなものなのかしらね?」

 散々このネタで引っ張られ続けた“お返し”も兼ねて、私は敢えて威圧的な雰囲気でプレゼントの催促をしてみた。
 これ以上勿体ぶられると、私も正常な精神を保てる自信が無いしね…。

「う、うん…」

 すると、こなたは意外にも神妙な面持ちになり、鞄を開けて手探りで何かを探し始めた。
 間もなくして、お目当ての物を見つけたのだろう。ピタリと手の動きが止まったかと思うと、何故かそこで少しの間を置き、それから、決心したかのように手に持ったそれを私の目の前に差し出した。

 こなたの差し出したもの――それは派手にラッピングされたプレゼントではなく、一枚の平凡な茶封筒だった。
 またまた理解不能なこなたの行動に、私は再び言葉を失ってしまった。

「とりあえず、封筒を開けてみて。話はそれからだよ」
「…うん」

 こなたに促されて、とりあえず私は封筒の中身を確認してみる。
 封筒の中には丁寧に折り畳まれた一枚の用紙が入っていた。
 その用紙を広げて内容を確認した私は、その用紙が何なのかを知って、体中に電気ショックを浴びたかのような感覚に陥った。

「こ、これって……」
「うん。私の誕生日プレゼントは、私とかがみの『婚姻届』だよ」

 こなたが渡した『婚姻届』には、既に「夫になる人」の欄に「泉こなた」の名前が記されていて、「妻になる人」に関連する項目以外の必要事項は既に全部書き終えているようだった。

「誰がなんと言おうと、『かがみんは私の嫁』だからね。夫と妻に対する異論は一切認めないよ。とりあえず、後はかがみが残りを埋めれてくれれば、もう役所に提出出来るからね。それ」

 周知の通り、約一ヶ月前に国の法律が変わり、18歳以上ならば同性婚も認められるようになった。
 その当時は、私がまだその規定の年齢を迎えてなかった為に、どう足掻いてもこなたと結婚する事は不可能だったけれど、私が18歳になった瞬間からそれは不可能ではなくなった。
 …だけど、今の私達が結婚するにはまだ色んな障害があった筈だ。

「こなた…。気持ちは凄く嬉しいし、私も出来ることなら、こなたとこれからもずっと一緒に過ごしていたいと思ってる。でもね、現実的に考えて私達が結婚するにはまだ色々と問題が――」
「ふっふっふ。かがみんや、私がそういった事情を考えずにその婚姻届を渡したと思うのかい?」
「えっ?」
「分からないなら、婚姻届を良く見てみなよ」

 そう言われて、婚姻届を隅々まで見直してみると、そこには「柊ただお」と「柊みき」「泉そうじろう」の直筆のサイン、そして、「この婚姻に同意します」と書かれた署名と押印があった。
 驚きと同時に信じられないという感情が先行する私の様子を見て、こなたがしてやったりという顔をする。

「実を言うと、あの法律が決まってすぐに、ウチのお父さんやかがみのおじさん達と話し合いをしたんだよ。かがみには敢えて内緒にしてたけどね。…で、一ヶ月ぐらい真剣に話し合った結果がこれだよ!」

 えっへん!と、得意げに胸を張るこなた。
 こなたがそんな事をしていたなんて、私は全然気づかなかった。

「それで、住む所はお父さんが『ウチに住まなきゃ、二人の結婚は認めない!』って譲らなくてねー。とりあえず私の家で同居する事に決まったんだけど、別にそれで構わないよね?」
「……ホントに?」
「えっ?」
「……ホントに、こなたと結婚して良いの…?」

 ついさっきまでは微塵たりとも想像しなかった展開に、私はこなたに最後の確認を行なった。

「当ったり前じゃん! 私はかがみと一緒に居られたらそれで良いんだよ! …だからさ、かがみ――けっこんしよ」
「……」

 私はその言葉に返事を返す事が出来なかった。
 「結婚しよう」というその言葉で、胸が詰まり、体中から熱いものが込み上げて来て、一気にそれが溢れ出したからだ。

 折角の誕生日にこれだけヒトを泣かせ、そして「泣いて喜ぶプレゼント」を有言実行させたのは、後にも先にもコイツ以外に出て来る事は無いだろう。
 泣きじゃくりながらもなんとか首を縦に振った私を、こなたはゆっくりと抱きしめると、本来の私が聞きたかった言葉をようやく掛けてくれたのだった。

 ――誕生日おめでとう、かがみ。



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コメント:
  • 飾り気の無いプロポーズがまた何とも…。
    GJ! -- 名無しさん (2013-03-21 14:56:20)
  • この法律考えた人凄い -- かがみんラブ (2012-09-23 20:08:17)
  • 誕生日にひっかけてこれですか。
    言葉が出てきません -- 名無しさん (2009-08-19 01:47:51)
  • 結婚 キタコレ! -- ラグ (2009-02-01 03:14:30)
  • やっぱりこの二人には幸せな結末以外は認められません(キパッ

    こなたVS保護者連合の戦いのシーンを見たいと願う俺はマイノリティ? -- 名無しさん (2008-08-10 23:14:30)
  • スゲーすごすぐる!
    もぉGJしか言葉が
    出てこない! -- ハルヒ@ (2008-07-14 20:37:10)
  • すいません。とりあえずGJとしかいえません。
    私にこの発想は無かった。
    やられた・・・もっと精進します。 -- naniw (2008-07-12 14:42:11)
  • やられたわぁ… -- 名無しさん (2008-07-11 21:22:21)
  • ヶコーンとは・・・。 -- 名無しさん (2008-07-11 13:43:41)
  • スイマセン、GJ以外の言葉が見つかりません。 -- kk (2008-07-09 22:19:05)

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