小さな足跡(5)

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かがみの頭を撫でながら、これまでに起こったことを思い返していた。
ちょっとした誤解から、かがみと喧嘩してしまったこと。
それが原因でしばらく喋ることもできなかったこと。
そして、今日奇跡的にかがみと出会い、仲直りできたこと。
どれもが運命のように感じる。

──これでよかったんだ
かがみも嬉しそうな顔を取り戻し、元気になった。

──だから、……だから私は満足だよ
無事かがみと仲直りできたし、あの子供たちみたいに一緒に雪だるまを作ることもできた。
そのことが本当に嬉しかった。
だから、これ以上求めることなんてない。
求めちゃいけない。
なのに、……満足だって思わなきゃいけないのに。

かがみがこんなに近くにいるのに、……とても遠い存在に感じる。
かがみがそばにいてくれて嬉しいはずなのに、どうして苦しくなるんだろう?
どうしてこんなに満たされないの?
それは……
でも、これ以上求めてしまったら……

当たり障りのない会話を続けながら考えていた。
私はかがみとずっと一緒にいたい。
だから、本当の気持ちを言っちゃだめ。
そうすればずっと一緒にいられる。
それだけで十分満足だよ。
満足……

でも、こんなに近くにかがみがいるのに言えないなんて。
このまま思いを伝えられないのも苦しいよ。
かがみ……
私が本当に伝えたかったこと……
それは……

──私かがみのこと……だから

だめ、やっぱり言えない。
かがみから拒否されるのが怖い。
精一杯笑顔を取り繕うことしかできない。
苦しい。
このままでいるのは苦しいよ……

私はその場から逃げるように駆け出した。
わき目も振らず、すこしでもかがみから離れるように。
何も考えずに。
外へ向かって──

「こなた!」

──えっ?

手に触れる温かい感触。
強く引き寄せる手が私を現実に引き戻した。

「か、かがみ?」
振り返ると、かがみが私の手を掴んでいた。
全力で走ったせいか、必死で息を整えている。

「……はぁ、はぁ、……どうして逃げるの、こなた?」
「そ、それは……」
そんなこと言えないよ。
「私、……私まだこなたに言ってないことがある」
「……?」
「こなた……ごめん」
「えっ……」
「私勉強に逃げてた。こなたが辛い思いしているのを知っていながら、
受験だから仕方ないんだって、自分を正当化してた」
「そ、そんなこと」
「それに、私は許してもらえないほどの辛い仕打ちをした。
自分勝手な思い込みでこなたのこと無視していたのよ?」
「私は別に……大丈夫だから」
「ううん、こんな不器用な私にずっと親しくしてくれたのに、最低な仕打ちをした。
私は……裏切り者なのよ」
「かがみ、そんな酷いこと言わないで」
かがみの告白を聞いていると私まで辛くなってくる。
「かがみ、そんなに自分を傷つけるようなこと言わないで。
そうじゃないと、私も苦しいから」
ハッと、かがみは俯いていた顔を上げた。
「ごめん」
「ううん」
「私、ずっと自分が辛いことしか考えてなかった。一番辛いのはこなたなのに。
ずっとその気持ちに気付かなかった」
「もう、……いいから」
「これまで辛かったと思う。ずっと辛い思いさせて、ごめんね。ほんとに、……ごめんね」
「もう、謝らないでよ……」
私なら大丈夫だから。
だから、もう言わないで。
それ以上言われると……
泣いちゃだめ、またかがみに心配かけちゃう……
でも……涙が……
「だから、こんな私が自分の辛さを語るのはお門違いだと思う。でも聞いて。
私もこなたと喋れなくてとても辛かった。あの日から頭が重くなって何も考えられないこともあった。
夢にまで出てくることもあった。気付いたら、……こなたのことをずっと考えてた」
「かがみ、それって……」
「私、こなたがいないと、何も出来ない。気が付いたらそうなってた。
前に私のこと寂しがりやだって言ったわよね? その通りよ。私はうさぎみたいに寂しがりやなの」
顔を真っ赤にしながらも、真剣に私の目を見て訴えかけていた。
「……かがみ」
「私こなたのそばにいたい。もうこんな辛い思いするのは嫌なの。
ずっと喋れないなんて、……もう嫌」
かがみは泣いていた。
涙を流しながら、これまで見たことないほど真剣に私のことを見つめていた。
私の頬にも熱い雫が伝うのを感じる。
「だからお願い、これからもずっとそばにいて、こなた」
「かがみ……」
「こなた、…………大好き」
「!!……うっ、ぐすっ、かがみ、かがみ、かがみ!」

これ以上我慢できなかった。
嬉しさも、悲しさも全て受け入れて、私はかがみの胸に飛び込んだ。
「ううぅ、かがみぃ」
「こなた」
これまでの思いを表すような強い抱擁。
かがみの温かさを、胸の鼓動を感じる。
とても温かくて、優しい気持ちになれて、安心できる場所。
ずっとこのままでいたい。
このままでいさせて。
時間なんか止まってしまえばいいのに……
………………
…………
……

「さっき私に言ってくれたわよね、一人で辛い思いしないでって」
「……うん」
「私の方こそずっと辛い思いさせてごめんね。もう一人にさせないから」
そうやって絶妙なタイミングで優しいこと言うなんて。
ずるいよ……かがみ。
また出てきた涙を隠すように、後ろを向いた。
「ばか……」
そんな私を、後ろから優しく抱きしめてくれる。
「辛いなら一人で泣かないで。私も一人でずっと辛かったから」
「泣いてなんかないよ、……泣いて……うぅぅ」
「もう、私よりもずっと意地っ張りじゃない」
「ぐすっ」


かがみは私にとってどんな人だろう?
普通ならまじめに相手にしてくれない漫画やアニメの話にもちゃんと付き合ってくれて。
宿題写しに行って怒られたりもしたけど、それは私のためを思ってのこと。
分からないところも丁寧に教えてくれて、いつしかかがみと会うことが目的になってた。
いつもは厳しいところがあるけど、私が困ったときには必ずそばにいてくれる。
それがとても嬉しくって。
たまには喧嘩もするけど、ほんとは一緒にいたくて仕方ない。
ずっと私のこと支えてくれる存在。
そばにいるだけで心が温かくなって、私を幸せにしてくれる人。
そんな人のことを親友っていうのかな?
ううん、もっと大事な人。
かがみがいない学校生活なんて、私こそ考えられない。
かがみは、……かがみは私にとってとても大切な人。
誰よりも近くにいたくて、誰よりも一緒にいたい。
私の、大切な、……好きな人。

「かがみ」
「ん、何?」
「さっきの返事だけど……」
「うん」
くるっと体を回し、かがみの正面を向く。
涙の跡で輝くアメジストみたいな瞳をまっすぐに見つめた。
そのまま吸い込まれてしまいそうなほど、まっすぐに。
綺麗な紫色の髪は、まるでライラックの花のよう。

胸がドキドキする。
顔も真っ赤だ。
息も苦しい。

かがみ、私もかがみのこと好きだよ。
だから、……その証に私のだいじなものあげるね。
そのままそっと爪先立ちで顔を近づける。

息が……

「……」
「……」

初めて唇に触れる感触は柔らかで、熱くて、そして──
これまでに感じたことのないほど幸せな味だった。

その幸せを伝えたくて──
ありったけの思いと──
笑顔をその言葉に乗せて──

私は……
かがみを……

「大好きだよ」

──愛しています。



雲間から差し込む光に照らされ、世界は輝いていた。
穏やかな寒さの中、雪の上に足跡が続いている。
終わりを告げた暗闇の外へと、その足跡は続いている。
二人の少女がその小さな足跡を刻み続けている。
希望という名の光に向かって。

「よかったね、仲直りできて」
「よかったね、好きな気持ちが伝わって」

仲良く寄り添った小さな雪だるま。
二つの雪の精は見守り続ける、未来へと続いてゆく二人の足跡を。

「いろいろあったね」
「けんかもしたね」

「でも」

「これからも私たち」
「どんなことがあっても一緒だよ」

「今日から始まる新しい日々に」
「明日に向けて踏み出される一歩に」

「『二人の未来に幸あれ』」


Fin


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  • Gj! -- 名無しさん (2014-08-25 21:45:30)
  • 1話から続けて読んで、この5話目でついに涙が出た… いやガチで。
    素直な感情をここまで明晰に綴れる方がいたとは…
    氏の才能に心から拍手!
    -- 名無しさん (2008-07-16 01:03:25)
  • おお…冬の日になんと暖かいSS。最後にやっと告白し合うことができてよかった…美しい文章に乾杯。 -- 名無しさん (2008-06-12 18:29:08)
  • gj! -- 名無しさん (2008-06-07 01:31:20)

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