KEEP YOURSELF ALIVE2 第五話

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ずいぶん深い眠りに就いていたらしい。こなたに揺さぶられているのに
気が付くまではすっかり熟睡しきっていた。

「ん…そんなに揺らさなくても起きてるわよ…」
「そのセリフ三回は言ってるよかがみ!でもそろそろ起きてくれないと…
いたずらするよ?」

こなたが私の脇腹に狙いを定めて両手を近づけてきたので、これはマズイと思い
ようやく慌てて身体を起こした。
まだ寝惚け気味な私に対してこなたはやたらテンションゲージがマックスである。

「…珍しく寝覚めがいいみたいね…」
「なんてったってネトゲもしてなければ深夜アニメも見てないからねっ!
ぐっすり眠れたから最高にハイってやつだよ!」

人差し指を頭の横にドスンと突き刺して穿るような仕草をしてるけど何かの
ネタなんだろうか?いろいろな意味で心配になってきた。

「大丈夫?いささかハイになり過ぎてるような気がするんだけど」
「あれ?かがみんならこのネタ分かると思ったんだけどなー」
「あんたのはマニアックすぎて分からないわ…」
「まぁいいや。よーし、それじゃ早速我が母校へいざ出発!」
「……実は結構楽しんでない?ある意味強いというか何というか…」
「こうしてかがみと一緒に行動してるとどんな状況でもワクワクするね」
「またあんたは臆面も無く小恥ずかしいセリフを…」

そういう私も未知の場所へ行くという事で少しだけワクワクしていたりする。
保存食を控えめに食べると、道中に必要となりそうなものをまとめて各々の
鞄に詰め込んだ。

 外に出ると壊れたままの世界に出迎えられた。忘れかけていたけど、
いや忘れたかったけどこれってやっぱり現実なんだ。
まだ着込むほどの気温ではないけど、かつての生活観のある暖かみが
失われ、変わり果てた街を目の当たりにするとやけに寒く感じる。
ぶるっと一つ身震いをしていると後ろでこなたが自分の家をぼんやり眺めていた。
その手には亡き母の遺影が抱かれていた……。

「やっぱこれだけは手放せないよね。こうして無事でいられたのはお母さんが
守ってくれたのかなぁ?」

感慨にふけった様子でぽつりと呟くのが聞こえた。

「それならあんたの母さんに感謝するべきね。あのまま生き埋めになるのも嫌だしね」
「まっ、偏に二人の愛が奇跡を起こしたのだよ。愛が」
「な!?いつから愛が芽生えたのよ」
「んー?あの時かがみが抱きついてきた時からかな?怖がってるかがみも
あれはあれで結構可愛かったよ?」
「だぁぁあっ、それは忘れてよっ。そ、それより早く出発するわよっ」

またいじられのネタにされるのは御免なので強引にごまかして一人で廃墟の中を
進もうとした。

「ってちょっとちょっとかがみ、場所知ってるの?」
「あ…そういえば知らない……」

後ろの方で呼び止められてはっと気が付いて足を止めた。
我ながら恥ずかしい。

「もうせっかちなんだからー。そんじゃ気を取り直して行こうか」

 かくして私達は泉家に別れを惜しみつつその場を後にした。
もうここに戻ることはないかもしれない。
住人ではない私が言うのも変だけどあの家には色々と思い入れがある。
何度か足を運んだこなたの家。そこにはこなたの人となりを表すものがあって、
おじさんがいて、ゆたかちゃんがいて、うちよりずっと賑やかな気がした。
遊びに行くたびに下らない話もいっぱいしたっけ。
地震の時はあそこでなく別の場所にいたらどうなっていたか…。
今となっては考えようによればあの晩、こなたに誘われていなかったら
もっと最悪の状況になっていたかもしれない。とはいえ、こうなってしまった以上
つかさたちが心配なのは否めない。今はただ無事を信じて行動するしかない。
しかし一番辛いのは当のこなた本人だろう。長年住み慣れた家をこんな形で
離れるのはそれなりの決断を強いられただろうし、家族が心配なのは彼女も同じはず。

 しばらくはあまり会話もすること無く私はこなたにくっついて瓦礫だらけの町を
歩いていたのだが、こなたがぽつりと独り言を漏らした。

「あーあ、やっぱり漫画の二冊や三冊持っていくべきだったかな。
あの中にはコミケでむさくるしいのを我慢して手に入れた同人誌もあったのになぁ」

前言撤回。やはりこなたは色々な意味で格が違った。私の杞憂だったようだ。
でも実際のところはどう思っているのか分からないし、あまり感情を露骨に
出さないので全く安心というわけではない。といっても、ああして振舞われると
こちらは結局いつもの調子で受け答えするしかなくなってしまうのだけど。
壁を作っているつもりじゃないけど、もっとお互い寄り掛かれたらいいのにと思う。

道が道でなくなっているせいでだいぶ時間が掛かったけど、ようやく広い通りに
出ることが出来たのだが、程なくして難関にぶち当たった。ビルが倒壊していて、
行く手をすっかり塞いでしまっていた。周囲には他に進めそうな道がない。

「うっはぁ、ここも通れなくなってるよ…。ここを抜ければ中学校は
もうすぐなんだけど」
「ここまで来て逆戻りするわけ?他に行く当てなんてないわよ?」
「あはは…まさかとは思ったけど目的地に辿りつくこともできないとは…」

予想外だったのかさすがのこなたも苦笑いして頭を掻いていた。
どうにか他のルートがあればいいんだけど…。

「どこか別のところから行く事は出来ないの?出来れば危険を冒してまで
あの瓦礫の山を超えるようなことは避けたいんだけど」
「んー…。無いことも無いけど同じような状況になってないとも限らないね。
それだったら私の家に戻るほうがいくらか安全だと思うよ」
「今更引き返してもどうにもならないわよ。食料も確保しなきゃいけないし、
何より情報が少なすぎるわ。色々と不可解な事が多くてこれが本当に地震なのかも分からない。
些細な事でも得られるものがあるならとにかく今は進むしかないと思う」

 私としてはなるべくリスクを避けたかったけど、他に選択肢は無さそうだ。
どちらかといえば中学校に行けば、こなたの過去が窺い知れるかもしれない
何かが得られるという期待と好奇心の方が上回っていた。

「かがみにしてはアクティブな意見だね。まぁあれくらいの高さなら何とかなると
思うし、私たちでも登れるかな?」

およそ五メートルほどの高さでなんとか登っていける傾斜だった。

「足滑らないように注意してね。よっ……と。あとは私の手につかまって。
ん?かがみん意外と軽い…」
「失礼ねっ」

 こなたの助けを得て瓦礫の山を登りきると、その先の交差点の近く、目の前に
中学校はあった。どうやら校舎のほうは無事みたいだ。
校門を抜けて校庭に入ってみると、そこに人の姿を見つけることは出来なかった。
てっきり避難してきた住民であふれているのかと思ったけど、がらんどうで誰も
いない。

「ふむ…。体育館に集まってるのかも」

だが体育館は扉が施錠されていて中に入ることは出来なかった。
小さな窓があるが格子がかかっておまけに摺りガラスで中の様子を見ることは出来ない。

「となると後は校舎の中かぁ」
「中に入れるのかしら?」
「誰かがいれば、ね…」

昇降口まで来たものの、やはり施錠されていて中に入ることは出来なかった。
地震があってから誰もここへ来ていないのだろうか?

「おかしいなぁ、誰もいないのかな」
「もしかしたらどこか鍵が掛かっていないところがあるはずよ。探しましょう」

校舎の窓を調べて気付いたのだが、全て内側から板でふさがれているのが奇妙だった。
ということは他の扉や出入り口も同様に封鎖されているのだろうか?

「なによこれ…用心深いにも程があるわよ」
「というか歓迎する気ゼロみたいな?」

人の気配が無いだけに不自然である。私たちが来るまでの間に誰かがいたことは
間違いないだろう。それとも今も校舎の中に潜んでいるのかもしれない。

「怪しい…。人を中に入れたくない理由があんのかしら。まさか自分だけ安全な場所を
独占しようってんなら許さないんだからっ」
「まぁまぁ落ち着いてよ。まだ調べてないところも残ってるんだしさ」
「他に入れそうな所ってどこがあるかしら」
「職員用の玄関なんだけど、まぁ見れば分かるよ」

 こなたに連れられていくと近代的な鉄筋コンクリート製の校舎には不釣り合いな
鉄製の扉が口を閉ざしているのが見えてきた。どうやらこれが職員用の玄関らしい。
扉は電子ロックがされていてテンキーの端末が付いていて暗証番号を入力する
タイプのものだった。緑色のランプが淡く光っているのを見ると、ここの電気は
生きているようだ。

「あんた、これの暗証番号知ってんの?」
「もちろん知ってるよ。遅刻して正門から入れなかったらここから入ってたし」
「さらりと言ってるけどやばくないかそれ。大体知ってるったって三年前と今じゃ
番号変わってんじゃないの?」
「あぁそれなら心配ないよ。一年たっても変わらなかったから多分今もそのまま
じゃないかな」

それもどうなのよと突っ込む間もなくこなたがホイホイと番号を入力するとロックが
解除される音が静かに響いた。ここの関係者はかなりズボラらしい。
こなたのマイペースな性格を形成する要因はおそらくこの学校にあるのだろう。

 重厚な扉はあっさりと私たちを受け入れてくれた。内部は照明がついていて、
電源の供給が建物全体に生きている事が確認できた。

「こちらスネーク、桜帝中学校に潜入した。大佐、指示をくれ」
「またわけわからんことを……スネークって誰よ」
「いやほら、こういうのっていかにも潜入って感じがしない?」
「どちらかというと不法侵入のような気がするんだけど」
「大佐、それは言わない約束だ」
「って私が大佐かいっ」

滑稽なコントを展開していると、不意にどこからかピアノの音が静寂に混じって
聞こえてくるのに気が付いた。こなたも気付いたようで黙ったまま耳を澄ましている。

「かがみも気付いた?…音楽室かな」
「誰かがいるのは確実ね。だけどなんか不気味ね」
「虎穴に入らずんば虎児を得ずっていうしね。行ってみよう」
「あらよくそんな言葉出てきたわね」
「…かがみ、ひょっとして私の事アホの子だと思ってた?」
「え?そ、そんなことないわよっ」
「どうだか」

中途半端にネガティブなところが面倒である。
さばさばしているのかと思えば意外と根に持ちやすかったり。
どうしたものかと考えながら隣の校舎にあるという音楽室を目指す。

「うーん、どれもこれも懐かしいなぁ。先生たち元気してるかな」
「そういえばみんな本当にどこ行っちゃったのかしらね」
「ここに来るまでの間に誰にも会わなかったのが不思議だね」

こなたの話によれば音楽室は三階にあるらしい。階段を上っていくとそれまでに絶えず
流れていたピアノの音は徐々にはっきりと聞こえてくるようになってきた。

「このメロディ…前に聞き覚えがある…。まさか……?」

音源に近づくたびにこなたの表情が訝しげに変わってきた。そのメロディはノリのいい
テンポでビートを刻んでいた。なんだか演奏する楽器が間違っているような気もする。
いよいよ音楽室の前に着くと、私達は意味も無く顔を見合わせて扉を開けた。

「それじゃ開けるわよ」
「うん…」

 中に入るとピアノの奏者をすぐに確認できた。ジーパンにジャケットを羽織った
ラフな服装で、おそらく男の子だろう。年の瀬は私たちと同じくらいだろうか。
こなた同じ青色の短髪にアホ毛があるのが見える。
後姿だったので顔は見えなかった。少年はこちらに気が付いていないのか、今も曲を奏でている。
私はそのまま眺めていたが隣で見ていたこなたがそっと少年に近づいていった。

「…きょう」

こなたは少年のすぐ近くまで行くと、彼の名と思しき言葉を発した。
少年は呼ばれたことに気付いたのか、ピクリとして演奏を中断して振り向いた。
こなたによく似た中途半端に開いた目で、更にその瞳はまるでこなたと同じ緑色だった。
むしろ全体的に雰囲気がこなたにそっくりだった。彼女を男にしたらこんな感じだろうか。

 こなたとこの少年の関係は一体?止まっていた歯車が今、動きだしたように思えた。
この出会いが意味するものは……?


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  • 続きまだ? -- ブレイブ (2013-01-02 00:53:46)
  • 六話まだー -- 名無しさん (2010-03-02 04:52:29)
  • 続きはやく読みたい -- 名無しさん (2009-05-16 18:01:33)
  • 続きが気になる! -- 名無しさん (2008-10-02 23:35:02)
  • おぉう早速拝見させてもらいました。 つづきを楽しみにしてます。 -- kk (2008-06-05 22:34:55)

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