こなた×かがみSS保管庫

しょーと&しょーと ~1日遅れの、ばーすでい~

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匿名ユーザー

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 そろそろ、時間ね――。
 休みの日、みんなで久しぶりに集まって、飲んで、騒いだ、泉家主催の誕生会の後。
 私はこなたの腕からそっと抜け出して、台所の片隅に向かった。

「ふぁ……」
 思わず出かかったあくびを、大急ぎで堪える。
 時計の針は、午前3時近く。普段ならとっくにベッドで目を閉じている時間だ。
 私だって本当は、さっさとこなたと眠りたい。
 ……でもその前にどうしても果たさなければならない、特別任務があった。

 雨戸も明かりもない闇の中、こなた以下全員が沈黙しているのを確認の後、ビールの空き缶や
 ワインの空き瓶、その他各種障害物の間隙を突いて冷蔵庫に到達。
 念のためにもう一度周囲の気配を探ってから、おもむろにソレを取り出す。

「ほんと、私って不器用よね……」
 一体何皿分になるだろう。
 冷蔵庫から取り出した、ビニール袋の中身。
 それは、こなたの誕生日に向けて何度も何度も焼いた、ショートケーキのスポンジ生地だった。


       しょーと&しょーと ~1日遅れの、ばーすでい~


「つかさ、ちょっといい?」
 飲み会の誘いを断って、久方ぶりに妹を訪ねたのは、1週間前。
「あの、さ……1週間だけでいいんだけど、ケーキ型と温度計と、泡立て器、貸してくれない?」
「もしかして、こなちゃんのお誕生日ケーキ?」
「え……うん、今度の誕生会だけど、昼間こなたが出てる間に、ケーキ焼いてあげようと思って」
「わぁっ、いいね!絶対喜んでくれるよ!」

 その後、私が買ってきたレシピで、つかさにケーキを作ってもらった。
「ジェノワーズ……あ、卵白と黄身を分けないで泡立てるやり方ね、は、始めはすごく難しいの。
 だから、レシピには書いてないけど、ここでちょっぴりベーキングパウダーを入れて……」
「生クリームを泡立てる時は、絶対に温めちゃだめ。こうやって、周りを氷水で冷やしながら……」

 雑誌にも載った料理教室の先生だけあって、私の手を取って色々解説しながら、
 料理番組のように楽しそうに作ってくれた、つかさ。
 でも、その後自分一人で作ろうとしたら、泡立てに時間を使い過ぎたり、生クリームを擦りつけ
 過ぎてぼそぼそにしてしまったりで、同じ材料で作ったとは思えない悲劇。
 ……それ以来こなたに内緒で、毎日練習をした。
 こなたが眠ってから、生地作りを練習したり、生クリームを泡立てた。
 他にもみゆきとお茶するふりをしてレシピの店に行って、目標のケーキを味見してみたり、
 食パンや何かにジャムを塗る時にパレットナイフを使っているのを、こなたに見つかりかけた
 時もあったっけ。

 そんな努力を重ねて迎えた、泉家での本番。こなたがバイトに出かけたのを見計らって、
 ガスとオーブンレンジを駆使して何回もスポンジ生地に挑戦して……
 大きな生地と小さな生地、それぞれ一番よくできた二つを重ねて、みんなで分け合っても余る
 位のショートケーキを作った。
 前にこなたが作ってくれたのには及ばないけど、それでも私の精一杯を尽くしたケーキ。
 ……でも、残りはみんなが訪ねてくるぎりぎり前に、冷蔵庫や台所の片隅に
 緊急避難させたままだった。

 そんな失敗作を、誰か――というか主にこなたにだけど――気付かれないうちに『処理』する。
 それが、疲労と軽い二日酔いが残る体を無視して、早朝勤務に勤しむ理由だった。
 常夜灯モードの薄明かりの中、缶をどかす僅かな音にもどきどきしながら片付けたテーブルに、
 問題のものを並べてみる。
 こなたは勿論、つかさやみゆきもびっくりした『会心作』の影に隠れた、数々の失敗作。
 やっぱり、料理は苦手なのかな……
 テーブルを占領する歪な何かに、呆れ半分、懐かしさ半分の、ため息をつく。
 中途半端に膨らみ過ぎて、最後に陥没したもの。逆に全然膨らまないまま終わったもの。
 グラムも計って、いい材料を使って、温度にもあんなに注意したのに、
 それでもケーキにできなかったケーキたちだ。

「並べてみると、凄いわね」
 こうして実際に体験してみると、改めてこなたやつかさの凄さが分かる。
 焼きたてのシュクレと甘酸っぱいフルーツが絶品のタルト、
 バターの香りをいっぱいに吸い込んだパイ生地が、ざくざくっ、と口の中で解けるミルフイユ……
 たった20年の人生だけど、その中で二人が料理を失敗した所なんて、見たことがない。
 自分が何度も焼いた中から選んだ、『奇跡的にうまくできたもの』――
 それより断然美味しい生地を、当たり前のように焼いてしまう。
 今更だけど、そんな二人が羨ましい。
 いや、正確に言えば、二人みたいに上手にできない私が、悲しい。

「……いただきます」
 流石に全部捨ててしまうのはもったいなくて、厚さが通常の3分の1くらいの生地に手を伸ばす。
 確か、ベーキングパウダーと間違えて、片栗粉か何かを混ぜたやつだったっけ。
 ボウルにまだまだ残っていた生クリームを塗って、ナイフで分割して……
「うわっ」
 予想はしていたけど、これは酷い。
 スポンジ生地の筈なのに、何だか『べたっ』ていう歯ごたえがする。
 何というか、生焼けのホットケーキに齧りついた時のような……中学生頃に見た、スタジオ外に
 エプロンマークを飛ばされて絶叫するアイドルの図が、頭に浮かんでくる。

 でも、こなたのバイトや休日が重なってくれて、本当に助かった。
 こなたは優しいから、私が作ったものなら『卵かけごはん』でも喜んでくれるけど、
 折角の誕生日ケーキが『コレ』だったら、ちょっと複雑だろうし。
 それとも、ケーキを待ちわびていたみんなの前で『さすが私の嫁、お約束は忘れないネ♪』
 なんて、からかってくるのかな。
 というかその前に、おじさんやゆたかちゃんも食べることを考えると……。

 そんな妄想から帰ってきた所で、改めてテーブルという名の現実を見つめ直す。
 この残骸は、果たしてどうしたものか。

 明後日になれば可燃ごみの日だけど、それだけは100%ダメ。
 注ぎ込んだ材料費を思うと切ないし、何より折角の食べ物を粗末にしたくない。
 けど、それならどうやって再利用しよう?
 正直、人に進呈するには余りにも不器用過ぎる。
 なら自分が巧みに料理するしかないけれど、ここから何を作ると言われると、結構難しい。

 甘味がきっちりついているから、カツサンドとかにはできないし……
 でもフルーツサンドにすればお昼になるかな?それともジャムとか塗って、3時のおやつに
 しようかな?でも、そうしたらカロリーが大変なことに……
 と、そんなことを考えながら、もう一度フォークを伸ばした、次の瞬間。

「そんなに食べたら、また太るよ?」
「な……っ!?」

 私が振り返ったのと、突然点けられた蛍光灯に目を細めたのは、殆ど同時。
 数瞬後、目を開けた時には、背中からありったけの力で、こなたに抱きしめられていた。
「いつから?」
「『……いただきます』の前からかな」
「寝たん、じゃなかったの?」
「かがみが起きた時に気付いてたよ。完璧すぎる演技でネタ振りしてたけど」
「……っ!あんなに用心してたのに……!!」
 思わず火照る顔を背ける。
 普段は布団引っくり返しても起きないくせに、どうしてこういう時だけ鋭いんだろう。
 つくづく、困った恋人だ。

「なんて、今回は心の中で戦闘準備してたからネ。かがみが夜な夜な練習してたの、気付かない
 私だと思ったのかね」
「え……?」
「私が気付いてなかったと思う?ジャムをパレットナイフで塗ってたり、ラノベの代わりにお菓子の
 レシピ見てたり、それに一昨日も、台所の壁に濃厚な白濁液が」
「なっ、いいいいちいち変な言い方……!」
「んふ~っ、いやらしい想像しちゃって、かがみんってばそんなに溜まってるのかな?かな?」
「っ、こな……」

 思わず出しかけた大声を強引に押さえ込む私の肩に、一層の体重がかかってくる。
 視線を逸らしている分、パジャマ越しに伝わってくる熱が、二人の髪が交わる音が、よりはっきり
 感じられて、どんどん心音が乱れていく。
 どうしてだろう。
 こなたと付き合って何年も経つし、キスどころか、体だって何度も重ねてきた筈なのに、
 時々心が陵桜の頃に戻ってしまうのは。

「……あのさ、こなた」
 高鳴る想いで真っ白になってしまう前に、まずはとにかく声を出す。
「い……一緒に、お茶でも飲まない?」
「星を見ながら秘密のお茶会か、そのシチュ相当嫌いじゃないね!でもそれならミルクティーは
 ホットミルクに茶葉入れるタイプにした方がいいんだったかな……」
 また何かのギャルゲネタだろうか、こなたはそう笑って、ふわりと私から離れた。
 でも、その動きに合わせて流れ込んだ冷気がこなたの温度と甘い匂いを流してしまうと、今度は
 さっきまでの感触が恋しくなる。
 こなたに隠れて、小さくため息。どうしてこんなにわがままなのかなと、我ながら呆れてしまう。
 ところがコイツは、内心寂しくなった私を小憎たらしいほど見通していて。

「でもさ、折角だから……お茶会よりもっと、いいことしない?」
 そう言って私の食べかけを奪うと、密かな照れと最高峰の悪だくみをブレンドした笑顔で、
 テーブルをセッティングし始めた。
「ちょ……いいこと、って?」
 昔からのノリで質問を投げかけた私に、こなたはびしっとポーズを取って、

「お誕生会は続くよどこまでも、だよ。答えは聞いてない♪」
「べっ、無理しなくていいのよ?こんなの所詮失敗作だし、冷蔵庫の中に、昨日の余り」
「だが断る♪」

 深い藍色の星空が、少しずつ白み始める頃。
 遠い街灯と、星の光、そしてキャンドルの灯す橙色の中で、私達は肩を寄せて笑っていた。
 目の前には、昨日食べたのと作りは同じ、二段重ねのショートケーキ。
 私の『失敗』生地を、余った生クリームとフルーツで飾った、ちょっと不恰好なお夜食だ。

 かがみんは、今食べてたのにこの生地継ぎ足してデコレーション。終わったらお茶お願い。
 私はこっちの大きめの使うから――
 あれからこなたは早速フルーツを挟むと、回転台の上でクリームを飾っていった。
 私は自分のを飾るのも忘れて、アニメの歌を口ずさみながらみるみる仕上げていくこなたに
 見入って……。
 結局、私のデコレーションの手際の微妙さをからかわれたり、二人連れ立って紅茶を淹れたり
 することになったけど、全然嫌じゃなかった。
 そして。

「嬉しいな。かがみのケーキがまた食べられて」
「でも、これ……」
「かがみ」
 灯したキャンドルの光が照らすテーブルで、こなたが呟いてきた。
 どうしても反論したがる私を、そっと人差し指で押さえながら。
「何て言うか、かがみは完璧主義だから、昨日みたいに見栄張っちゃうけど……」
 こなたの口調に、少しずつ、感情が混じっていく。
「でも、私はこういう不器用なかがみも、大好きだよ。不器用だけど、こんなに頑張ってくれたって、
 凄い伝わってくるじゃん?私じゃこんなに、何度もやり直したりなんてできないよ」
「こなた……」
「誕生日なんて知らないってふりしながら、何日も前から……ほんと、世界一のツン……?」

 ぎゅっ、と。
 うっすら涙を浮かべながら、それでも最高の笑顔を見せてくれるこなたを、抱き寄せた。

「ったく、あんただって、なんだかんだ言って凄いツンデレじゃない」
 最後の方なんか、素直になり切れなくて、わざとふざけようとしてたくせに――
「それに……そんな風に、私の不器用な……あんた風に言えばツンデレな所も、全部分かって、
 今みたいに受け止めてくれて……
 だから、私だってこんなに、こなたのために頑張れるんだから」
「っ、ずるいよ、こんな時にデレなんて、やっぱりかがみって、世界一の……」

 幸せな涙を見せたくなくて、私の胸に顔を埋めるこなたを、そっとそっと撫でる。
 私の気持ちを、体温と一緒に伝えるように。
 こなた、私、こなたが大好きだよ。
 ツンデレって素直になれないから、頑張り続けてると心が疲れちゃう。けど、それを癒してくれる
 たった一人の人が、こなたなんだよ。
 だから……綺麗なケーキを作ろうって張り詰めてた気持ちを解かしてくれたみたいに、
 たまにはこんな風に、私にも……。



 キャンドルの灯り中、一つに重なった二つの影。
 それは、誕生日の魔法のお陰でほんの少し素直になれた、私と、そのかけがえのない恋人。
「こなた、改めて……お誕生日、おめでとう」
「ありがとう……かがみ」

 秘密のケーキをご馳走になる前に、私は嬉しい嗚咽を漏らすこなたに、優しい笑顔で俯いた。
 幸運の星のような――こなたに負けないくらい幸せな雫を、いつの間にか零しながら。



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  • GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-03-26 11:41:20)
  • 萌尽きた… -- 名無しさん (2011-02-08 01:49:40)
  • 甘いなぁ〜…いいなぁ〜… -- にゃあ (2008-09-13 10:34:21)

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