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パーフェクトスター第4章Bパート

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『パーフェクトスター』
●第4章「夢の終わりに謳う歌」Bパート1
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「みゆきさんやつかさに呼び出されるのは問題ないよ。
友達だし困ってる事があるなら力になりたいからね…」

この言葉は私の本心で、嘘は一つも含まれてないと断言できる。
けど、今回のケースは極めて変則的で想いだけじゃさすがに収まりがつかなかった。

「でも、今回の呼び出し方はちょっと変わってるよね?
誰かは予想してたけど、最初はまったくわからなかったもん。」

想いから溢れた疑問が口からついて出る。
二人に寄せてる信頼の前では、呼び出しなんて容易く些細なことだ。
別にこんな偽装めいた事をしなくても、私は呼び出しに応じたはずなのに。
わざわざ知らないアドレスから私宛にメールをして呼び出したという事実は、
逆に2人から信頼されていない感覚を私に与えていた。

「…こなちゃん、それはねっ」
「つかささん、待ってください」

私の変化を察したつかさがその疑問に答えようとしたところで、みゆきさんが制す。
険しい表情をより一層険しくさせたみゆきさんが私に向き直った。

…正直、どちらかが答えるにしろ、この件に関しては“偶然”や“成り行き”で片付けて欲しかったのに。

「…泉さんのおっしゃる通り、今回の呼び出し方は泉さんの意に背くものだとわかっていました」

…みゆきさんの言葉に、それは叶わないものだと知らされる。
確かな背信が私の心を静かに抉る。

「だったら…なんで…!」

ありったけの冷静さを総動員しても、その言葉に哀しみを隠すことは出来なかった。
私の言葉の中の哀しみを感じ取ったつかさが顔を苦しみに歪ませる。

「泉さんには本当に申し訳ないことをしたと思っています。
ただ、どうしても彼女をここに呼ぶ事だけは避けたかったので、このような手段をとらせていただきました」

そんなつかさを他所に、依然みゆきさんだけは冷然と言葉を紡いでいる。

── …みゆきさんのことだ。

この態度や言葉にも全部意味が含まれているはずだと、未だ信頼を捨てきれないもう1人の自分が私に呼びかける。
だったら、裏切られた哀しみに囚われる前に私も話を聞かなければいけない。
そう判断した上で、生まれゆく感情を一旦捨てることにした。
感情を忘却のロッカーに入れて閉じ込め、抑えるものを失った手隙の冷静さを盾にしてみゆきさんを見据える。

「彼女って、かがみのこと…?」
「ええ。もし仮に、私やつかささんの携帯で連絡したとします。
そのときに泉さんの近くにかがみさんがいた場合、泉さんならどうしますか?」

みゆきさんに提示されたシチュエーションを脳内で再生する。
私ならどうするか…。

「2人にかがみを会わせたいから連れて行こうとする、かな」

お見舞いのとき、かがみとみゆきさんを会わせる機会を作ったように。
今回も同じような行動をとると思う。それが私の出した答えだった。

「はい、私も泉さんと同じような結論に至りました」

みゆきさんは間髪入れず私の答えに同意を示す。
私という人間が解っていたからこそ、今回このような呼び出し方をしたのは解った。
だが、『どうしてかがみを呼びたくなかったのか』ということには触れられてはいないことに気づく。

「みゆきさんは、どうしてかがみをこの場に呼びたくなかったの?」
「…それはまだお話できません。が、順を追っていけばいずれお話できると思います」

みゆきさんの肝心な部分の黙秘に焦れったさを感じた私は、
手元にあるアイスコーヒーのコップに視線を落とし、コップを忙しなく回す。
忘却のロッカーから感情が物言いたげに胎動するのを必死に堪えていた。
そんな私の気持ちと相反するように、コップの中の氷が溶けてカランっと気持ちいい音を立てて崩れる。

「ちなみに、呼び出し方法についてはあくまで私の提案であって、
つかささんに非はありませんので、誤解ないようお願いします」

みゆきさんがこの謎に補足を付け加えたところで、私の中で“何か”が思い出された。

── まただ、この違和感…。

ここにくるまで感じていた違和感にも共通する“何か”は『みゆきさんの補足』の短い言葉の中にしっかり存在し、
解決の糸口を探す範囲が絞られたも同然だった。
違和感を感じ取ろうと文節ごとに区切りを入れて探ってみる。

“呼び出し方法については”、“あくまで私の提案”、“つかささんには非はありません”“誤解ないように”。
…見つけた。

文節にあった違和感の正体をより鮮明にするに、目の前に2人へ視線を戻す。
ここまでくれば後は自分の記憶と状況の間違い探し。
しばらくして違和感が徐々に輪郭を持ち、見つけ出した違和感の答えが走馬灯のように私の中を駆け巡った。

…そして、すべてが繋がった。
いや、繋がらなかったが正しい。

さも当然のように受け入れていたが、私の知っている限りの情報と今回の本題のパズルをくみ上げると、
どこにも当てはまらないピースが一つある。

「なんでつかさが、ここにいるの…?」

公園でつかさを見たときから、深層的におかしいとは思っていたんだと思う。
つかさとかがみを会わせた事は無いし、かがみの話はつかさに一度もしていない。
だったら「かがみのことで話がある」と呼び出されたこの場に、つかさの存在はあり得ない。
私が感じてた違和感。その正体は、そう──つかさの存在だった。

「こなちゃん…」

まるでこのことを問われるのを望んでいたかのように、すでに覚悟を目に灯していた
つかさが自分のカバンから大切そうに何かを取出し、テーブルの上に置く。

それは――
ストラップも何も付いていない飾り気のない携帯電話。

覚えている限りではつかさのものではない。
ここにあるくらいだ、所有者不明のこの携帯で私にメールしたのは何となくわかる。
でも、それは私が今欲しい答えじゃない。

「つかさ、これは…?」
「この携帯ね…私のお姉ちゃんのなんだ」

つかさは4人姉妹の末っ子だと高校時代から聞かされていたっけ。
そのうちの三女、ようはつかさのすぐ上のお姉さんはつかさと生命の種を分け合った双子だという話も聞いていた。
…一度は会いたいと望んだ同い年のその人とは、運命のいたずらの連続で、
結局会えずに高校生活を終えてしまったけど…。
気づくと、私はつかさの言葉に自分の記憶とそれに伴った想いと邂逅していた。

「私のお姉ちゃん…双子のお姉ちゃんの──」

セピア色の想いに浸っていた私を呼び戻したのもまたつかさで。
最後の言葉に世界が色を取り戻し、いつのまにか携帯に向けていた視線をつかさへ戻す。

「かがみお姉ちゃんの携帯なのっ!」

私はただ、つかさの言葉に耳を疑わざるを得なかった。

頭がうまく回らない。
自分に起きている状況すらうまく整理できない。
…さっきまであったはずの冷静さはどっかに吹っ飛んでしまったようだ。
今私を支配しているのは不信と驚愕。
だからこそ、私はありえもしない可能性に縋ることしかできなかった。

「つ、つかさの双子のお姉ちゃんは、かがみさんって名前なんだね」
「うん…」
「で、でも。つかさのお姉ちゃんが私の知ってるかがみとイコールで必ず繋がるなんて確証は」
「泉さん、信じがたい気持ちもわかりますが、確証はあります」

みゆきさんが私の言葉を遮る。

── …そう、だよね…。じゃないとここに私を呼び出さないもんね。

唐突な右斜め45度からの質問をされれば、みゆきさんでも答えられないことがある。
でも、彼女達が準備した場に限って、不確定な要素が存在しないのは、高校時代の日々の経験と記憶が教えてくれた。

「こなちゃん、この写真を見てもらえる?」

今度は1枚の写真が差し出される。
そこに写っていたのは、薄紫のツインテールの持ち主。
シチュエーション的には、「お姉ちゃん」と呼びかけて振り向いたところ激写、なんだろうか。
ポッキーを一本だけ銜えて振り返りながらも、何の感情のない表情が写真に収められていた。

…ただ、自分の記憶にある人物との差違を私は感じてしまった。
例えるなら、アニメの各話ごとに変わる作画監督のタッチの差で、キャラクターの表情が微妙に異なるような感じ。
写真の中の被写体は──写真の中のかがみはどこか冷たい雰囲気があった。

「かがみ…」

私の呟きが、みゆきさんがいう“確証”になるのは解っていたけど、
もう止める必要がない気がした。

── この写真だけでも十分だよ…。

「…泉さん、信じていただけましたか?」
「…そだね、この写真出されたら信じるしかない、よね」

かがみが何者なのかこうして種明かしがされた後、つかさが双子の姉である“柊かがみ”について色々教えてくれた。

姉妹の中で最も「姉の威厳」に囚われた人で、一流進学校である高校に進んでからは、
周りの状況に流され、今まで“身内に向けられた威厳”が、周囲にも負けや妥協を辞さない“プライド”に変化していた。
家族や周りの人間にもその厳しさは及ぶことはあったものの、かがみが一番厳しくしたのは自分自身だったらしい。
身体を壊すくらいの努力は、常に成績の上位をキープし続け、志望していた法学部への受験にも成功させた。
大学へ進学した後、かがみは一人暮らしをしたいと家族に進言したという。
環境の変化から、家族からもその堅い性格への改変に期待して一人暮らしを承諾したが、
彼女の強固なプライドは一切変わる事無く、それどころかより一層堅く彼女を取り巻き覆う形になっていた。
そりゃあ弁護士を目指すとなれば、至極当然な結果とも言えなくはないけど。

── あの写真から感じられた冷たさの正体はそのプライド、なのかな…。

私は、氷のほとんど溶けかけたアイスコーヒーを一口飲みながらそんな事を考えていた。
未だ、かがみ=柊かがみの方程式は私の中で成り立ってはいないけど、蛇足を脳内で交えながら、
“柊かがみ”については理解を得た。

「かがみの過去についてはわかったよ、つかさ」
「うん」
「…でも、そんなかがみがどうして記憶を無くしちゃったんだろ?」
「…っ」

私の中の驚愕が萎み、2人に対しての不信も過去の話を聞いて行く上で徐々に元の形を取り戻した頃、
次にたどり着いた疑問はそれ。
かがみが記憶を失ってしまった理由だ。
つかさが言うほどのプライドを持った“柊かがみ”にとっては、今の状況は最大の汚点ではないのだろうか。

記憶を失い、本来の自分の制御外で自分が動いて、思い出を作っている。
──その状況が、だ。

「現在のかがみさんの状態と記憶の消失の経緯については、私からお話させていただきますね」

口を閉ざしてしまったつかさに、みゆきさんの助け舟が出る。
かがみの過去を基軸として、みゆきさんがこれから話すことを線で結べば、その線はきっと私に届く。

── ここからが本番…かな。

私は小さな決意を心に灯した。

「うん…みゆきさんお願い」
「はい、その前に泉さん。一つお願いがあるのですが」
「ん、どしたの?」
「かがみさんと出会った時のこと、それから今日までのかがみさんの状況を簡単でいいので
お話していただけませんでしょうか?」
「かがみとの?」
「ええ。私がかがみさんと接触したのは、つかささんのお見舞いにいく前の数十分だけで、
泉さんの傍にいらっしゃるかがみさんのことをあまり知り得ていません。
出来る限り、私の中の不鮮明な部分を明らかにしてから、これからのお話をしたいので」

みゆきさんから先程まで感じた言葉の冷たさが少し軽減されていた。
もう何も隠さずに私に思惑を伝えてくれてることがそう感じさせる要因でもあったけど。
そのみゆきさんの態度に、しっかりと形を取り戻した2人への信頼が、
何も迷うなと私に囁きかけ、私も再びこの2人を信じたいと願っている。

── だったら、望むように行動してあげなきゃね。

私はかがみと出会ったときのこと、不思議な同居生活が始まったときのことを覚えてる限りをみゆきさんに伝えた。
隣にいたつかさも合わせ、2人とも至って真面目に私の話を聞いてくれてた。
話の中にある笑い話にも応じてくれたりもした。
そして一通り話し終えた後、みゆきさんは、私に対し感謝の言葉を一つしてから、
自分の中ですべてが繋がったことを確信するかのように頷いていた。



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