5月28日・快晴にて

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それは、ため息が出るほどの快晴だった。


じりじりと照り付ける太陽を恨めしく思いながら、私は散歩に出ていた。
「やっぱ、間違いだったかな」
最近は不安定な天気だったものだから、晴れたのがついつい嬉しくなってしまって。
ネトゲ漬けの日々も、体に悪いしね、と言い訳して散歩をすることにしたのだけれど――
「暑い……」
少し、いや、かなり暑い。
コンクリートの地面は熱気を持ち上げる手助けをしているし、
見上げるかぎり、雲はどこにも出ていないので太陽を遮ってはくれない。
とりあえず喉も渇いたし、飲み物でも買って近くの公園で休憩しようかな。
「はぁ……」
今日は、ため息が出るくらいの快晴だった。

「あ、」
「ん?」
公園に入ってすぐ、ベンチに座っている友人と目があった。
「やふー、かがみん」
親友の名前を呼びながら、隣に腰掛ける。
「え? こなた? どうしたの?」
と、疑問を口にしながらも、律義にスペースを開けてくれた。
あーあー、信じられないって顔をされてますよ。
そんなに私が公園にいるのが珍しいのかね。
「ちょっと散歩してたんだよ」
「あんたが!?」
「そんなに大袈裟に驚かなくても……傷付くなあ」
目を丸くしながらものすごいオーバーなリアクションで驚かれた。
かがみは私にどんなイメージを持っているんだろうね。
「ごめんごめん……あ、でも、こういうの噂をすれば影って言うのかも」
むう、と顎に手を当てて考えているとかがみがそんな一言を漏らした。
「噂?」
「いや、今日いい天気じゃない?
 こんな日でもこなたは家でゲームしてるのかな――って思ってて」
「……かがみの中の私って」
まあ、いつもならそうしてただろうけどさ。
落ち込んだフリをしておこう。
だって、ほら、面白そうだし。
「悪かったわよ。……ほら、これあげるから」
機嫌直しなさいよ、と渡されたのはジュース。
「ん、ありがとう。喉渇いてたんだよね。
 さっき買おうとしたんだけど、お金持ってきてなくってさー」
「本当、いきあたりばったりに生きてるわよね……」
呆れ顔でため息を吐くかがみを横目に見ながら一口。
「あー、生き返る……」
「あんたつくづく親父臭いな」
「本気で喉が渇いてたんだよ」
若干引いた感じで突っ込まれたので言い返してみた。
「あ、そうだ」
でもそれだけじゃ溜飲が下がらなかったので、追い討ち。

「これって、間接キスだよね」
「はあ!?」
思いきり叫びながら、眉をしかめて、耳まで赤く染める。
予想通りの反応。これだからかがみは可愛いよね。
かがみはひったくるように私からジュースを奪って、後ろ手に隠した。
「もうあんたに飲み物とかはやらん……!」
唸るように威嚇されるのだけれど、そんなに赤くちゃ、恐くもなんともないわけで。
「そんなあ。それなしで、私の傷付いた心をどう癒せと」
「傷付いてろ!」
「実は傷付いてなんかいませんでした!」
「…………」
知ってたわよ、と言わんばかりの眼光で睨まれる。
まあ、まだ頬は赤いままだから恐くないけどね。
「とりあえず、それ、どうする?」
「どうするって?」
「それにはもう私が口をつけちゃったわけだ。
 つまり、かがみがそれを飲むとまたしても間接キスになっちゃうんだよ」
「んなあっ!?」
これまた一段と赤くなるかがみ。
ここまで赤面しやすい人もそうそういないよね。
分かりやすくポーカーフェイスが出来ない、とも言いますか。
「つまりかがみはどっちを取ってもプラスしかないわけだね」
「何がプラスよ!」
「かがみが飲むなら私と間接キス。
 私が飲むならかがみとの間接キス続行」
本当はそれを捨てるって選択肢もあるけど、勿体ないから個人的にパス。
「マイナスしかないじゃない!」
「でもどっちかを選ばなきゃいけないんだよねー」
「っぐぅ……!」
見ての通り、かがみは気付く気配もないし。
でも、このままじゃ貴重な休日が浪費されていくだけだしなあ。
ううん、どうしよう。
「……決めた」
「え?」
んん、かがみの性格からして決められないと思ってたのに。
現実とは、かくも奇妙なものなり。
かがみは、ますます赤くなりながらジュースの入っている缶を睨み付け、宣言した。
「私が飲む……!」
おお、かがみの心のドミノが倒れていく音が聞こえる。
「しかし、その反応はすっごく傷付くなあ」
「傷付きなさいよ」
「傷付きました!」
命令形で言われた。
……本気で傷付いちゃうよ?
「ていうか、何でかがみんが飲むのやら。
 実は私と間接キスしたかったとか?」
「怒るわよ? ……だって、どっちみち一緒なら自分で飲まないと損じゃない」
「む、そうか。じゃあ、早く飲んじゃいなよ。ぐぐいっと」
「わ、分かってるわよ……」
まるで親の仇のような目で缶を見つめるかがみ。
なんか、時間かかりそうだなあ。
……ええい、まどろっこしい。
「たりゃっ」
「なっ」
ジュースを引ったくって、一口飲む。

「これ、おいしいよね」
「あ、あああ、あんたなにしてんのよ」
「どもりすぎ。だってかがみ、じれったいんだもん」
「それでももうちょっと待つくらいはさあ……」
「あのままでも、かがみは飲めなかったね」
と、反論してくるかがみにぴしゃり、と言い付けた。
「それに、暑かったしね」
「確かに暑いけど、取る理由にまではならないじゃない」
「恥ずかしがってるかがみより、喉がからからな私に飲まれた方がいいと思うんだよね」
「何によ」
「ジュースに」
かがみは、一瞬目を見開いたけれど、すぐにあはは、と笑う。
「うん。そうね。あんたらしいわ」
笑いながら髪をぐしゃぐしゃとかきまぜられた。
「何を、」
「ジュース飲まれたお返し」
するんだ、と言おうとしたけれど、その前にその一言だけを返された。
む、なんか納得いかない。
「あんた、可愛いこと言うわね」
「どうせ、いつもの屁理屈だよ」
かがみに髪をいじられながら、まだ少し中身がある缶を弄ぶ。
はあ、とため息を吐いてみた。
「落ち込むな落ち込むな。……面白かったわよ?」
「それ、慰めじゃないでしょ」
「からかってるからね」
空の青さが恨めしい。
なんで今日を快晴にしてくれたかな。
「とりあえず髪から手を離してよ」
「ん。じゃあ、そのかわりに、」
ひょい、と私から缶を取り、それをぐぐいっ、と飲み干した。
「な、かがみ、なにして……?」
「……間接キス」
ぷはあ、と缶から口を離して、問いかけに、真っ赤な顔をしながら答える。
「それは、分かってるよ」
「実は、私も喉渇いてた」
「だから?」
顔をしかめて返答を待つ私に、かがみは、綺麗に微笑んだ。
「飲んであげなきゃ、ジュースに失礼でしょ?」
その笑顔はとても、可愛くて。
「ずるい」
「何がよ」
「内緒」
その笑顔とか、それだけで許しちゃいそうな自分とか。
訳は分からないが、何かがずるいのだ。
自分に分からないことを説明しろ、と言われても困るしね。
なんだか、もやもやした感じを晴らそうと、空を見上げた。

「青いね」
「こなたの髪と同じ色よね」
厳密には違うけど、と付け足してくしゃり、と私の髪をなでた。
「うん。青い」
そのまま、さっきみたいに髪をかきまぜられる。
「かがみ、なんか変」
「たまにはそういう気分にもなるわよ」
「そんなもんかね」
「そんなもんよ」
はあ、とため息を吐いて、空に視線を戻す。
「ため息は幸せが逃げるのよ?」
「少しくらい、逃がしとかないといけない気がしたんだよ」
かがみは眉をひそめたけれど、すぐに「そっか」と返してくれた。

うん。今日は、ため息が出そうなくらいに快晴だ。

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コメント:
  • 爽やかでいいですね。
    距離感がナイスです。 -- 名無しさん (2012-12-31 14:26:23)

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