小さな足跡(4)

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雪の中から立ち上がると、体中に積もった雪を払い落とした。
そうだ、私がぶつかったせいでこんなことになったんだ。
「こなた、ごめんね、ぶつかっちゃって」
「大丈夫だよ。心配しないで。でも、どうしてあんなに慌ててたの? すごい勢いだったよ?」
「え、そ、それは、その……」
まずい、雪の中で倒れてると壮大に勘違いしたことだけは隠さないと。
「携帯に電話したんだけど出ないから、家に直接かけたのよ。そうしたらあんたのお父さんが出て……
って、そうだ。おじさん心配してたわよ?」
「お父さんが? そういやすぐ戻る予定だったからなあ」
「それに後で謝らないと。電話の途中で切っちゃったから」
「え、どうして?」
「うっ……」
しまった。墓穴を掘ってしまった。
「ねえねえ、どうして?」
しつこく聞いてくる。
「あ、あんたを探すためよ」
目をそらしながら答える。
「私を? どうして?」
なおもしつこく聞いてくる。
……答えなければならないのか。
「……あんたが中々戻ってこないって、おじさん心配してたから」
なんとかおじさんのせいにすることができた。
ごめんなさい、おじさん。
それでもなお、こなたは私の目をじっと見つめてくる。
そ、そんな目で見られると……
嘘をついてる手前、こなたの目を直視できない。
「やっぱり私のこと心配してくれてたんだ」
「なっ」
こなたは勝ち誇ったような顔でニヤニヤしてる。
でも、その顔は嬉しさで満ちていた。
くやしいけど、こうなったら開き直るしかない。
「うっ……そ、そうよ。悪い?」
「ちょっ、かがみ落ち着いて」

こなたに詰め寄りながらも、とても充実したものを感じていた。
こうやってこなたと話せることがとても嬉しい。
こなたの発する一言一言が、心地よく耳に馴染んでゆく。
どんなつまらないことでも、一緒に話せるだけでこんなにも幸せを感じる。
今日こなたと会えてほんとによかった。
このまま卒業まで口をきくこともないのかと、不安に思ってた。
でも、めぐり合いは唐突にやってきた。
運命に引き寄せられるように。
こんな偶然の形で。
神様、ちょっぴり痛い再会でしたけど、こんな素敵な偶然を与えてくれたことに感謝します。

二人並んで歩きながら、何を喋ればいいのか考えていた。
話したいことはいっぱいあるはずなのに、改めて二人きりになると何を喋っていいのか分からない。
……そうだ、ひとつどうしても確認しなければならないことがある。
どうしてこんな朝からこなたがここにいるのか。
当たり前のように目の前にいるので聞くのを忘れていたけど、考えてみれば余りにも不自然だ。
「ひとつ聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「ん、何?」
「こんな早い時間にどうしてここにいるのかなって」
「ここにいちゃ駄目?」
「ううん、そういう訳じゃなくて……雪を見に外へ出かけたとは聞いていたけど、まさかこんな所まで来ているとは思わなかったから」
「うん、最初はすぐに戻る予定だったんだけど。まあ、成り行きで」
「どういう成り行きでここまで来るのよ……まあいいわ。でも、どうやってここまで来たの?」
「走ってきた」
「……」
ここは突っ込むべきところなんだろうか?
あえて触れてあげないことにした。
「あんたって雪とか自然を見て回る趣味でもあったの? 意外だわ」
「いやー、こんなに雪が積もった日には何か面白いことが起こりそうじゃない?」
「私は事故が起こるんじゃないかってヒヤヒヤしてたけど」
「? 何かイベントが起こってフラグが立つかもしれないよ?」
「ああ、そっちの話ね……それに、同意を求めるように言われても困るわよ」
「でも、実際に木にぶつかって雪をかぶるなんてゲームみたいな体験もできたしね。某有名ゲームの中だったら、本当にフラグが立ってるよ?」
「一体何の話よ? それにぶつかって悪かったわね」
「気にしてないからいいよ。……それに現実でもフラグが立ったからね」
当の本人は満足げに笑っている。
相変わらず付いていけなくて良く分からないことも多いけど、それで良しとしよう。

「まあ、あんたのことだから雪の中ではしゃぎ回っているのかと思ったわ」
ちょっと意地悪して言ってみた。
「む~、それはひどいよ。私だってもう大人なんだよ?」
「ずいぶん子供じみた大人ね」
ふふっと笑いながら、こなたの顔を覗き込んだ。
こなたはちょっと拗ねたように、頬をぷくっと膨らましている。
そんな様子がとても可愛くて、思わず頬を突っついてしまった。
柔らかい感触が指の先から伝わってくる。
本人には迷惑なんだろうけど、ずっとこうして突付いていたくなる感じだ。

「わわっ、かがみ?」
驚いた様子で、こなたは私のほうに向き直った。
また顔が赤く見えるのは気のせいかしら?
「顔が赤いわよ? もしかして熱でもあるんじゃないの?」
そう言って、手をこなたの額に当ててみた。
特に熱はないみたい。
私の勘違いかな?
こなたは額に当てた私の手をボーっと見ている。
どうしたんだろう?

「こなた、大丈夫?」
「えっ、あっ、何でもないよ」
言うや否やそっぽを向いてしまった。
心なしかさっきより赤いような。
本当にどうしたんだろう?
「こなた、本当に大丈夫なの? どこか体の具合が悪いんじゃない?」
「本当に何でもないってば……もう、かがみんは心配性だなあ」
またごまかすようにそう言った。
「ごまかさないの。私はあんたが心配で言ってるんだから」
言い終わってから、なぜか私まで恥ずかしくなってきた。
……何でだろう。
こなたは一瞬迷ったあと、ためらうように私を見つめてきた。
どこか不安と期待が入り交じったような目をして。
「じゃあ、もう一度熱があるか確かめてみる?」
「えっ? ええ」
もう一度手を額に当てようとすると、こなたは頭を横に振った。
「ううん、そうじゃなくて。よくテレビとかでお母さんが子供に熱があるかどうか確かめるために、おでことおでこをくっつけてるでしょ? 
あんな感じで」
一瞬何を言っているのか分からなかったけど、その内容を理解するや否や、私は耳まで赤くなった。
「なっ、何言ってるのよ? そ、そそ、そんなことできる訳……」
何を言うかと思えば、何という突拍子もないことを。
それにそんなこと、こなたが嫌がるに違いない。

「あれ~、かがみんは何を想像してるのかな? ただ熱があるか確かめるだけだよ?」
私を試すように見ている。
その顔は私にそんなことできるはずがないという余裕の表情が見て取れた。
「恥ずかしがり屋のかがみんにはできないんだね」
さっきのお返しだよと言わんばかりの澄ました表情。
──むっ、そんなことないわよ
心の奥から負けず嫌いな性格が頭をもたげてくる。

「そ、それぐらい私にもできるわよ」
こなたの方へずいっと身を乗り出した。
「か、かがみ?」
「い、いくわよ?」
こなたはあっけに取られている。
まさか私が本当にするなんて思ってなかったんだろう。
そんなこなたの顔を見ながら、徐々に顔を近づけていった。
……
今になって強烈な恥ずかしさが襲ってくる。
心臓がバクバク鳴っている。
でも今さら止められない。
こなたの綺麗な瞳に見つめられていると、とても恥ずかしい。
その目をみないように目を閉じた。
そのままゆっくり顔をこなたの額に近づけていく。

……

額に肌が触れ合う感触。
さっき手で触れたときはそんなに熱く感じなかったのに。
まるで本当に熱があるかのように熱く感じる。
でも、嫌な感じはしない。
触れ合ったところから伝わってくる熱がとても心地よく感じる。
こなたの息も間近で感じる。
肌に感じる息がとてもくすぐったい。
ずっとこうしていたい。
ずっとこうしてこなたの熱を感じていたい。
…………
……
はっ!?
思わず夢中になってしまって……
「ご、ごめんな……さい?」
目の前のこなたはこれまで見たことがないほど真っ赤になっている。
目もどこか潤んだ様子で、ぼーっと私の顔を見ている。
おそらく私もそれ以上に真っ赤なんだろう。
「ずるいよ、かがみ……ほんとにするなんて」
また拗ねたような顔を見せる。
「ごめん、嫌だったよね……」
少し気まずさを感じ、目を逸らした。
「ううん、違うよ。全然嫌じゃないよ」
「えっ?」
意外な答えにもう一度その綺麗な瞳を見つめ直した。

「なんだか恥ずかしいね……えへへ」
「……!」
声が出ない。
これまでに見せたことのない、とびっきりの笑顔。
まるで天使のような笑顔に目が釘付けになる。
見ているだけで、そのエメラルドの瞳に吸い込まれてしまいそうだった。

──ずるいのはこなたよ……そんな顔見せられたら、私……
胸の鼓動が止まらない。
何で? どうして?
今日の私はどこかおかしい。
こなたと会ってから、ずっと気持ちが揺れ動いている。
嬉しかったり、悲しかったり、落ち込んだり。
でも、こなたの笑顔を見ているだけでこんなにも幸せな気持ちになれる。
これって……ううん、でもそんなこと……

「かがみ、行くよ?」
そう言うと、こなたは私の手を取った。
「えっ、ちょっと、……もう」
手の温もりを感じながら、同時に心の中が温かいもので満たされていく。
握られた手の先から、まるで幸せがいっぱい溢れてくるみたい。
そんな幸せな気持ちを少しでも分けてあげたくて、ぎゅっと握り返した。
こなたはもじもじしながらも、ちゃんと握り返してくれた。
その小さな手から、こなたの思いが伝わってくる。
言葉なんかなくても、温かい気持ちが伝わってくる。

「こなた……」
「なに?」
「ううん……なんでもない」
「……うん」
──こなた、ありがとう


しばらくそうやって、こなたと一緒に神社の中を見て回った。
外へ出かけてもよかったけれど、普段家の中ばかりなのでたまには神社を見たいというこなたの要望で、案内することにした。
見慣れた建物ばかりだったけど、こなたと一緒だと新鮮に見える。
普段は意識することがないけれど、雪化粧された古い建物を見ると、どこか厳かな雰囲気が漂ってくるから不思議だ。

周りの雪景色を見るふりをしながら、こなたの顔をちらりとのぞいてみた。
すると、こなたもこちらを見ていたのか、目が合ってしまう。

「うっ、……な、何よ?」
「ん~? 何でもないよ?」
ほんとに何でもないやり取り。
こんな何気ないやり取りも本当に久しぶりに思える。
「こうやって一緒に話すのって久しぶりだよね」
その台詞に一瞬ドキッとした。
私を責めるような響きはない。
こなたは相変わらず嬉しそうにしている。
でも、その言葉は改めて私がこなたを避け続けていた現実を思い起こさせた。

「……そ、そうね」
何て白々しい台詞。
そうなった原因は私なのに。
素直に謝ればいいのに、私の馬鹿。
天邪鬼な性格が邪魔して素直になれない。
こなたに言わせれば筋金入りのツンデレなんだろう、私は。
でも、こんなときぐらい素直になりたい。
ううん、素直にならなきゃいけない。
こなたに謝ろうと決めたんだから。
覚悟を決めて向き直る。

「あの──」
「ねえ──」
なんて絶妙なタイミングで……
「こ、こなたからどうぞ」
「う、うん。かがみ、一緒に雪だるま作らない?」
「えっ? 雪だるま?」
「そう、雪だるま。これだけ雪が積もれば作れるでしょ?」
何を言われるかと不安になったけど、雪だるまか。
肩透かしを食らったものの、ホッとした。
結局問題を先延ばしにしているだけなんだけど、今はこなたと一緒に何かをしていたい。
「うん」
もうすこし、このまま一緒にいさせて。

「雪だるまか」
そう一人で呟きながら子供の頃を思い出した。
雪だるまなんて前に作ったのはいつだったろう?
子供の頃つかさと一緒に作ったことは覚えている。
「たまにはこうして自然と触れ合うのもいいかもしれないわね」
知らず知らずの内にそういう遊びから離れていき、気付いたときにはすることがなくなっていた。
近年めっきり雪が減ったという理由もある。

「あそこで作ろっか」
こなたは一本の大きな木を指差した。
良く見るとあの周囲は木の枝から落ちた雪が多く積もっている。
雪だるまを作るのには丁度いい。
こなたは早速木の下に向かうと、雪を集め始めた。
……って素手で?
「ちょっと、こなた、まさか素手で作るつもり?」
「ん? そだよ?」
「そんなことしたら手がしもやけになってしまうわよ?」
「そんなに本格的に作るつもりはないから大丈夫だよ」
「でも……今から手袋持ってくるから」
「大丈夫だって。私もそんなに無理して大きなやつ作らないから。だから、ね、ちょっとだけ付き合って?」
そんなに手を凍えさせてまで作りたいの?
理由は良く分からない。
けど、こなたの顔はどうしてもそうしたいように見える。
「もう、しょうがないわね」
すこしだけ、こなたのわがままに付き合うことにした。

「さすがに冷たいわね」
指先に触れる感触はとても冷たく、どこか懐かしいものだった。
雪玉を作ろうと触れた雪は、すぐに自分の体温で溶けてしまう。
「ひとつ作るにしても、なかなか難しいものね」
何度か失敗しながらも、ようやく小さな雪の玉を一つ作ることができた。
後はこれを雪の上に転がして、と。
徐々に大きくなっていく雪の玉を見ながら、子供の頃を思い出していた。
雪自体それほど降らないのでほとんど作った記憶はなかったけど、積もったときはとても嬉しかったしワクワクしたのを覚えている。
雪だるまとはいえ、作っているときは真剣だったし、なによりとても楽しかった。
小さい頃は、そんな単純なことでも嬉しかった。
じゃあ、大きくなった今は?

目の前でだんだん大きくなりつつある雪玉を見つめながら、意外に楽しんでいる自分に気が付いた。
こういう遊びは比較的冷めた目で見ていることが多かったように思うけど、いざやってみると意外とはまるタイプらしい。
とても単純な作業だったけど、自分の手を動かして何かを作る作業は楽しかった。
「美術の授業以来かな、こうやって何かを作るのは」
子供の頃はもっと自分の手を使っていろいろなものを作る機会が多かったように思う。
最近は勉強ばかりで、そういう体験はしていなかった。

作業すること十数分、雪だるまは徐々に形ができあがっていった
不格好ながらも、久しぶりに作るものとしては上出来だろう。
こたなは出来たかな?
そう思いこなたの方を振り返る。
……うわっ、私の2倍ぐらい大きい。
ってゆーか、何でそんなに手際がいいのよ?
思わずつっこみを入れかけたものの、言葉には出せなかった。

こなたの顔は真剣だった。
普段見ている姿からは考えられないほど、一心不乱に作っている。
手を真っ赤にしてどうしてそこまで一生懸命に作れるの?
赤くなった手が痛々しくて、思わず声をかけてしまった。
「手、痛くない?」
「うん、もうちょっとだから待ってね」
そう言うと最後の仕上げに取り掛かる。
どこで見つけたのか、葉っぱの付いた2本の枝を雪だるまの頭の両側面に取り付ける。
「よし、できた」
頭から垂れ下がった2本の枝は、まるでツインテールのよう。
もしかして、これ……
「こなた、これって……」
「うん、かがみだよ」
これもどこで見つけたのか、丁寧に葉っぱで顔まで作られている。
どこか怒ったような表情が、私によく似ていた。
「こなた……」
手があんなに真っ赤になるまで一生懸命作ってくれたことがとても嬉しかった。
とても冷たかったと思う。
それに指も痛かったはず。
そこまでして私を作ってくれたこなたの思いに、胸が熱くなった。

「葉っぱ、一枚もらってもいい?」
「えっ? うん、いいよ」
枝から細い葉っぱをつみ取ると、それを私が作った雪だるまの頭の上に挿した。
簡単に顔を描いた後、こなたが作った雪だるまの隣に移動させる。
こなたの雪だるまと比べるとずいぶん見劣りするものの、即席で作ったわりには良く出来たと思う。
「これは……」
「そう。こなたよ」
風に吹かれてわずかに葉が揺れる。
ほんとにこなたのクセ毛みたい。

「かがみと一緒だね」
「うん」
大きな雪だるまはさすがに素手では作れない。
でも、大きさなんて関係ない。
こなたと一緒に作った二つの小さな雪だるま。
見た目は不格好だけど、初めてにしては良く出来たとほめてあげたい。
ひとつはこなたで、もうひとつは私。
仲良く寄り添うようにくっついてる。
私たちの分身が仲良く寄り添う姿をしばらく一緒に眺め続けた。

──いつまで残ってるかな
できればずっとこのまま残っていて欲しい。
でも、いつかは溶けて無くなってしまうのは確かだ。
「どうしたの、かがみ?」
「ん? せっかく作ったのに、いつかは無くなってしまうんだなって」
そう思うと、少し悲しくなった。
「うん……でも、かがみと一緒に作った思い出は、これからもずっと残るよ。この手の冷たさも、痛さも、忘れない」
「……うん、ありがと」
──溶けて無くなっても、気持ちはずっと一緒よ
だから、これからもずっと私たちを見守っていてね。
小さな体でずっと私たちを見守り続けている雪だるまに、そう祈った。


「かがみ、私のわがままに付き合ってくれてありがとね」
「ううん、私も楽しかったから。それに、私の雪だるまも作ってくれたし……」
最後は恥ずかしくて、すこしどもってしまった。
「それよりも、手、大丈夫? 真っ赤じゃない」
「ほんとだ、真っ赤だね」
こなたは真っ赤になった手を見つめた。
「でも、かがみも真っ赤だよ?」
言われて確認すると、私もずいぶん赤くなっている。
「ほんとだ。こなたと一緒ね」
「えへへ」
無邪気に赤くなった手のひらを目の前で広げている。
その手がとても寒そうなので、温めてあげたくなった。
「かがみ?」
「こ、こうすれば少しは温かくなるでしょ?」
恥ずかしかったけど、このままこなたがしもやけになるよりはいい。
かじかんだ手を包み込み、ハーッと暖かい息を吹きかけた。
「わわっ、かがみ……」
身をよじって逃れようとするも、私は手を離さない。
「ほら、暴れないの」
もう一度息を吹きかける。
「もう……ずるいよ、かがみ」
こなたはまた熱が出たみたいに赤くなってる。
「ふふっ」
いつもはからかわれてばかりだけど、立場が逆転したみたい。
「赤くなっちゃって、かわいいとこあるのね」
「んなっ!? まさか、かがみんにしてやられるとは……」
「ふふふっ」
そんなこなたの様子がおかしく、しばらく笑ってしまった。
「ご、ごめん。あんまりおかし……」
すると、突然手に柔らかい感触が。
──えっ、何?
手の先を見ると、こなたは自分の頬に握った手をこすりつけていた。
「な、何やって!?」
「ん~? 手を温めてるんだよ?」
「そ、そんなこと」
ものすごく恥ずかしい。
「かがみん、顔が真っ赤だよ?」
「うっ」
「あれ? 手を温めてるだけなのにどうしたのかな?」
「うああ……」
してやられた。
結局私はこなたにいじられる立場なのね。
当の本人はニヤケ顔で満足そう。
でも、嫌な気分はしない。
お互いの真っ赤になった顔を見、二人して笑いあった。
これまでずっと続いてきた関係が戻ってきて嬉しい。
ほんとに……嬉しい。

「やっとそんな風に笑ってくれたね」
「えっ?」
突然話が切り替えられて、頭が回らない。
「かがみが嬉しそうで、ほんとによかった」
「……」
「これまでずっと辛そうな顔してたでしょ?」
こなたはそう言うとにやけた顔を止め、まじめな顔で私を見つめた。
「見てたの?」
「私はずっとかがみのこと見てるよ」
「……」
その告白に、どう返せばいいのか分からない。
こなたは私がずっとひどいことしてたときも、私のこと気にかけてくれてたの?
「そんなこと言うなんて、あんたらしくないじゃない」
気まずさもあって、そんな風に答えてしまった。
「うん、私もそう思う」
静かな風が私たちの間を吹き抜ける。
「……あっ、でも笑わないでね。これも私の本当の姿なんだよ?」
「うん、笑わない」
まじめに話してるこなたを笑えるわけないじゃない。
こなたの手を再びぎゅっと強く握りなおした。
「ありがと。……えっと、何から話せばいいのかな」
こなたはずっと迷っているようだった。
しばらく迷った後、何かを決めたようにこう言った。

「ごめん」
「えっ、どうして謝るのよ?」
「もうずいぶん前のことのように思うけど、かがみにひどいこと言っちゃって、それで……傷つけちゃったから」
「でもあれは私が……」
「ううん、私がかがみの気持ちを考えずに言ったから、だから、ごめん」
そう言って頭を下げた。
「そ、そんなことしないで。あれは私が勝手に勘違いして、……それに悪いのは私の方だから」
「ううん、私にも責任あるから、だから謝らせて」
「……」
そう素直に言われては、無理に言い返せない。
「かがみと会えなくても大丈夫なんて言ったけど、ほんとは、そんなの嘘だよ。かがみとずっと喋れなくて、……すごく寂しかった」
その言葉に胸が抉られる。
「あの時は受験シーズンでみんな忙しい時期だったし、って今もそうだけど、私ずっとかがみに宿題見せてもらったりして迷惑かけてたから。
だからかがみに気を使ってもらうのが悪くてあんな言い方しちゃって」
そうだったんだ。
私一人勘違いして、こなたを辛い思いさせていたなんて。
「あんな言い方したら、まるでもう来なくていいって言ってるみたいに聞こえるよね。ごめんね」
「ううん、あれは私がこなたの言いたいこと聞こうとせず、一方的に思い込んでただけだから。だからもう謝らないで」
こなたはこんなに私のこと気にかけてくれていたのに。
その気持を身勝手な思い込みで裏切っていたのは私だ。

「かがみはやっぱり笑っているほうがいいよ」
「そうかな」
「うん。かがみは意地っ張りだから、ずっと一人で辛い思い抱え込んでたでしょ?」
「……」
「私じゃ何もできないかもしれない、勉強もできないし役に立てないかもしれないけど、……でも、辛いときは言ってね。
こんな私でよければ、いつでも相談に乗るから」
「こなた……」
私は自分のことだけで手一杯だった。
でもこなたは、私のことまで心配してくれて……
これほどの強さを小さな体に秘めて、ずっと辛いことに耐えていたんだ。
ほんとに、……ほんとにごめんね。
「だから一人で辛い思いを抱え込まないで。見てる私も……とても辛かったから」
「……うん」
「今さらだけど、あの時最後に言えなかったこと、ずっと言いたかったこと言わせて。たとえ受験で一時的に離れ離れになっても、
みんなそんなこと気にせず、ずっと友達のままだよ」
「!」
こなた……
「もしかがみと会えなくなっても、そんなの絶対に嫌だけど、それでもずっとかがみは私の……一番大切な……友達だよ」
恥ずかしそうにしながらも、精一杯の笑顔を私に見せてくれた。
「こなた、ぐすっ、……ううぅ」
もうこれ以上我慢できなかった。
こなたがこんなにも私のことを気にかけていてくれたなんて。
それに対して私はどれほどの辛い仕打ちを行ってきただろう。
嬉しさと罪悪感の両方が混ざり合って、涙が出てきた。
ふわっと全身を包み込む柔らかな感触。
こなたは私を優しく包み込んでくれた。
こなたの優しい匂いを感じる。
とても温かくて、安心できる場所。
優しく頭をなでてくれる手の感触。
それらを全身に感じ、涙が止まらない。
………………
…………
……

「もう、大丈夫?」
「うん、ごめんね、服汚しちゃって」
「ううん、気にしないで」
「ありがとう」
今朝に続き、また泣いてしまった。
今日はほんとによく泣く日。
いつから私はこんなに泣き虫になったんだろう。
「今日はどうしてもかがみに会いたくなって、忙しいのに無理に付き合ってもらってありがとう」
「ううん、私もこなたと会えて嬉しかった」
こなたはそうお礼を言ってきた。
でも、お礼を言わなきゃならないのは私の方なのに。
「かがみと一緒にいっぱい喋れたし、雪だるまも作れたし……とても嬉しかったよ」
「こなた?」
どこかさっきまでと様子が違う。
「また、一緒に遊びにいこうね」
「う、うん」
どうしたんだろう。
「私かがみのこと……だから」
うつむき加減にボソッと言った。
「えっ? 今何て……」
「私かがみのこと……心配だから」
赤い顔でそうおどけてみせる。
その笑顔が辛そうに見えるのは何故?
「そろそろ帰らないと、お父さん心配してるから。じゃあ、またね」
そう言うと、こなたはそのまま逃げるように駆け出した。
「えっ、こなた、どうし──」

────…………
少女は立ち止まり、こちらを振り返る
そこにあるのは悲しい笑顔
とても儚く、すぐにでも壊れてしまいそうな脆さを秘めて
とても悲しそうに笑っていた
私は届くはずのない手を少女に向けることしかできない
どこへ行こうというの
どうして私の元を離れていくの
そう尋ねても声が出ない
少女は最後に何か呟くと、そのまま闇に飲み込まれていった
                      …………───

「──!」
突如夢に見たシーンが目の前に蘇る。
──駄目、そのまま行っちゃ。
「待って!」
まだ、私は謝ってないのに。
こなただけに謝らせるなんて……
それに……まだ私の気持ちも伝えてない。

幸いこなたは全力で走っていない。
これなら私でも追いつける。
そのまま全力で後を追いかけ始めた。
雪に足を取られ、思うように走れない。
でも、気にせず走り続ける。
徐々に詰まっていく距離。
あともう少しで手が届きそう。
力を出し切って、こなたへと近づく。
あと少し、もう少し──

「こなた!」

指先が触れる。
その指を絡め、温かな感触を確かにこの手に掴んだ。




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  • ちょwリップルアイランドwwwって雪崩フラグかよ -- 名無しさん (2008-05-28 01:40:04)

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