小さな足跡(3)

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こなたに謝る決心をした後、部屋を出てまずは朝食を摂ることにした。
あれだけ悩んでおきながら、よく食欲が出るなと我ながらあきれる。
でもまあ私らしいといえば私らしい。
何事も腹が減っては戦はできぬと言うし、食欲があるのは健康な証。
そう言い訳して前向きにとらえることにした。

部屋を出て、まずは1階に向かう。
さすがにまだ朝早い時間帯だけに、家の中は静まり返っている。
まだみんな寝てるのかな?
そう思って1階に降りると、台所からトントンと小気味の良い音が聞こえてくる。
お母さん、こんな時間にもう起きてるんだ。
早速台所へと向かった。
そこには案の定お母さんの姿が。
いつもそこにある日常の風景に、心が安らいだ。
──毎朝こんな早い時間に朝ごはん作ってくれてありがとう
恥ずかしくて素直に言えないかわりに、心の中でそうつぶやいた。

「あらかがみ、おはよう。こんな早い時間にどうしたの?」
私がいることに気付いたお母さんが、手を止めてこちらに振り返った。
「おはよう、お母さん。なんだか寒くて目が覚めちゃって」
鍋から立ち上る湯気やコンロの火のおかげで、台所は他の部屋よりずいぶん温かい。
おかげで寒さに震えずにすんでいる。
「今日はこの冬一番の寒さらしいわ。待ってね、もうすぐ朝ごはんできるから」
そう言って再び手を動かし始める。
馴れた手つきで料理を作ってゆく姿を、しばらく見つめていた。
そんな私の様子に気付いているのかいないのか、てきぱきと作ってゆく。
あっという間に料理が出来上がってゆく。
さすが、すごい手際のよさ。
料理下手な私は是非とも見習いたい。
「できたわよ」
「はやっ」
見とれている内にできたらしい。
「かがみも慣れればできるようになるわよ」
「そうかな?」
「そうよ。さあ、お味噌汁よそうから食卓に持っていってね」
「うん」
温かそうに湯気を立ち上らせるお椀を食卓に運んでいく。
「お姉ちゃんたちは?」
「もう少ししないと起きてこないと思うわ。かがみが早かったからね」
「そっか」
確かにみんな起きてくるにはちょっと早い時間だ。
つかさなんかはまたお昼におはよ~とか言いそうだけど。
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
作ったばかりの温かいお味噌汁をいただく。
今日の寒さもあってか、普段より美味しい。
温かさが体中に染み渡り、心まで温かくなっていくようだ。

お母さんは私の向かいに座ったまま、私の顔をじーっと見ている。
どうしたんだろ。
「私の顔に何かついてる?」
「ん? かがみ元気ないなって思って」
その言葉に箸が止まる。
「……そんなひどい顔してる?」
手で顔を触って確かめてみる。
部屋を出る前おかしなところが無いか確認したんだけどな。
「顔はいつも通り綺麗なままよ。でも、何となくね」
そんなに負のオーラでも放ってたのかな。
何事も無いように振舞っていたんだけど。
お母さん鋭いから。
「別に。ただ、勉強に疲れてるだけよ」
何食わぬ顔でそう答える。
「そう……でもずっと辛そうにしてたから」
その言葉にビクッとする。
お母さんは相変わらず私を見ている。
………………
…………
……
さすがに何事も無いような顔をし続けるのが辛くなってきた。

「ふふ、素直じゃないところは変わってないわね」
「なっ」
……やっぱりお母さんに隠し事は無理か。
私が落ち込んでいるとき、最初に気付くのはいつもお母さんだった。
何も聞かずじっと私を見て、私が話すまで根気よく待ってくれた。
意地っ張りな私は、それでも隠し通そうとしたけど、いつも最後は根負けした。
「はぁ、私の負けです」
あっさりと負けを認めた。
相手が悪すぎる。
それに、お母さんと話せてどこかホッとしている自分がいる。
「かがみのことは何でもお見通しよ」
そう言って、微笑んだ。

そのまましばらく沈黙が続く。
なかなか本題を切り出せないまま、時間だけが過ぎていく。
……ただこなたと喧嘩しただけ。
それだけを伝えればいいのに、なかなか切り出せない。
……
ただ喧嘩しただけ?
それだけでこんなに悩んだりしない。
ほんとは、私……

一人うつむきながら、ずっと悩んでいた。
お母さんは、そんな私を焦らせることもなく、ただじっと優しく見守ってくれている。
私の心に無理に踏み込もうとせず、かといって遠くはなれることもせず。
私が自分から自然に話せるよう、ずっと待ってくれている。
その心遣いがとても嬉しい。
うつむいていた顔を上げお母さんの顔を見ると、目が合った。
相変わらず優しい眼差しで私のことを見てくれている。
どこかこそばゆい感じがしたけど、私もお母さんの目をしっかりと見返した。
しばらく静かな時間が続く。
そこに言葉はない。
でも、確かな信頼関係がある。
──大丈夫、かがみならできるから
いつもそうやって私のこと励ましてくれた。
言葉なんかなくても、お母さんの気持ちは伝わってくる。
これまでもずっとそうやって見守ってきてくれたから。

お母さん……
私の信頼できる人。
私の尊敬できる人。
いつも優しい眼差しで……
私を信頼してくれて……
私のことを大切に思ってくれて……

「……ぐすっ」
気が付けば涙が流れていた。
これまでずっと一人で辛い思いを抱えてきた。
一人で解決できると思ってた。
でも……無理だった。

お母さんは私のそばまで来ると、そのまま何も言わず優しく私を包み込んでくれた。
久しぶりに感じる、人の温もり。
懐かしいお母さんの匂い。
それらを感じた瞬間、心の奥に隠れていた感情が一気に表に溢れ出た。
「……うぅぅ、ぐすっ、……」
涙が止まらない。
いつもの冷静な私からは考えられないほど、感情のコントロールが効かない。
そのまま私は子供のように泣きじゃくった。
お母さんは何も言わずに背中をさすってくれる。
その手の温もりが、凍てついた心を徐々に、徐々に溶かしてゆく。
体を包み込む温かさが、こんなにも安らぎを与えてくれる。
これまで感じていた頭の重さが嘘のように消えていった。

こんなに単純なことだったんだ。
一人で抱えているときは、もう治らないかと深刻に悩んでいた。
でも、こんなにも簡単なことだったんだ。
人と触れ合うだけで、こんなに心が癒されるなんて知らなかった。

「誰でも隠しておきたいことはあるから、無理に言わなくてもいいわ」
「うん」
「でも、一人で抱え込まないで。かがみはいつも一人で無理するから」
「……ごめんなさい」
迷惑かけちゃいけないと、いつも自分ひとりで問題を解決しようとしてきた。
解決できない時には誰にも言わず我慢する。
そうやってずっと隠す癖がついてきた。
今回も何とかなると、自分だけで解決しようとした。
でも無理だった。
だって、……今回は特別だから。

「大丈夫よ、かがみならきっとできるから」
「うん」
「それに、いつでもお母さんはかがみの味方だからね」
「……うん」
その言葉にまた涙が出そうになった。
こんなとき、どういう風に今の気持ちを伝えればいいんだろう。
不器用な私には、上手い言い回しが浮かんでこない。
だから、ありきたりな言葉でごめんなさい。
短い言葉だけど、だからこそ、ありったけの感謝を込めて言わせてください。

「ありがとう、お母さん」

──と。

★☆★☆

「はぁ、はぁ、……やっと着いた」
肩で息をしながら目の前に立つ大きな鳥居を見上げた。
これでようやく一息つける。
名も知らぬお母さんと別れた後、そのままかがみの家に向かうことにした。
ずいぶん前に歩いていった時のことを思い出しながらだったので、途中何度も道に迷ってしまった。
さすがにスポーツが得意な私とはいえ疲れた。
こんな大雪の日にマラソンをする人間なんて、私以外いないだろう。
さすがの私も走る羽目になるとは夢にも思わなかったけど。
それもかがみに会いたかったから……て、考えていて恥ずかしくなってきた。

神社に着いたのはいいけど、これからどうしよう。
ここまで来たんだから、かがみに会わない手はないのだけど……
でも、こんな朝から何の連絡もなしに会うのはやっぱり気が引ける。
そうだ、携帯……、しまった、忘れてきた。
いつもの習慣が災いしてしまった。
こんな朝早くから家のインターホンを鳴らすわけにもいかないし……
勢いで来てしまったけど、どうしよう。
それに会ってもなんて言えばいいのか分からない。
後先考えずに来てしまったことを、少し後悔した。

どこかで時間を潰そうかな。
そういや、いつもかがみの家の中ばっかりで、神社を歩くことは余りなかった。
普段見慣れている様子とは異なり、白く雪化粧された境内を見ながらふとそんなことを思った。
いつもなら何人か近所の人が参拝に訪れているんだろうけど、今日の大雪のためか誰もいない。
さっきのマラソンもそうだけど、さすがにこんな雪の日の朝早い時間帯に訪れようと思う人間は、私以外いなかったらしい。
まだ足跡の付けられていない雪の降り積もった境内の先にぽつんと立つ社殿が見える。
しばらく悩んだ後、とりあえず神社にお参りすることにした。

これまで神社にお参りすることなんて初詣を除いてほとんどなかったけど、せっかく来たんだから何かお願い事でもしていこう。
神様とか特に信じるほうじゃないけど、何の神様が祀られているのかなんて知らないけど、ちょっとしたお願い事ぐらいしてもいいよね?
そう思いながら、拝殿の前に立った。
「これを鳴らすんだっけ」
からん、からん、と澄んだ鈴の音が辺りに響き渡る。
詳しい作法は知らないので、そのまま何度か手を打った後、手を合わせてお願い事をした。
願いはたくさんあるけど、とりあえず無難なところからしてみることに。
「えっと、かがみが無事目標の大学に合格できますように」
私がお願いするまでもなく、かがみなら大丈夫なんだろうけど、一応ね。
「それと、私も無事大学に合格できますように……って、自分で頑張らなくちゃいけないんだけどね、ハハハ」
お願いするよりは自分で努力するべきなんだけど、別にいいよね。
「それから、かがみと無事仲直りできますように」
顔を引き締めて改めてお願いをする。
そのために今日来たんだから。
あと、最後のお願い。
「その……私の……伝わりますように……」
恥ずかしくてちゃんと言葉に出せなかった。
心なしか顔が赤くなってる。
けど、神様はお願いを聞いてくれたよね?
かなわない願い、そんなものがあるからみんな神様にお願い事をするんだよね。
だから、私もお願いします。
どうか、願いをかなえてください……


久しぶりに泣いた後、これまで塞ぎ込んでいた気持ちがずいぶんと晴れた。
でも、まだ問題は解決していない。
お母さんにお礼を言った後部屋へ戻り、早速こなたと連絡を取ることにした。
携帯の着信履歴の中からこなたの名前を探すのに少し手間取ったけど、すぐに見つかった。
目的の名前を見つけ、発信ボタンを押そうとする。

こんな時間に電話かけてこなた何て言うかな……
いや、そもそもこんな時間に起きてるかな……

色々心配ごとが頭をよぎったけど、それを振り切って電話をかけることにした。
勇気を出して発信ボタンを押してみる。
プルルル、プルルル…………
「……おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか……」
お決まりのアナウンスが流れる。
出鼻をくじかれ落ち込みそうになるも、これは想定内。
こなたが携帯を余り使わないのは知っている。
今度は直接こなたの家に電話をかけることにした。
プルルル、プルルル…………
何度かの呼び出し音の後、こなたのお父さんが電話に出た。
「はい、もしもし、泉ですが」
「あ、もしもし、朝早くからすいません。柊と申します」
「ああ、こなたの友達のかがみちゃんかい? 久しぶりだね」
「はい。さっきこなたの携帯に電話したんですけど、出なくて」
「こなたなら朝早くから出かけて行ったよ。相変わらず携帯を持っていくのを忘れたんだな」
「えっ、そうなんですか? じゃあ、何時ぐらいに帰ってくるか分かりますか?」
「ちょっと外に出かけただけだから、もうすぐ戻ってくると思うよ」
「そうですか……」
「会う約束でもしてたのかい? 戻ってきたらすぐ電話するように伝えておくよ」
「いえ、そういう訳じゃ。すいません、よろしくお願いします」
「なに、気にしないで。あと少し聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「はい、いいですけど?」
おじさんから質問ってなんだろ。
想定外の質問がきたらどうしよう。
「いや、こなたのことなんだが、最近学校で何かあったのかな?」
「何かと言いますと?」
「こなたが最近元気なかったもんでね。思わず気になって。まあ、気にしすぎなんだろうが」
「……」

喧嘩した当初、ずっと辛そうな顔してたことを思い出し、胸が痛くなった。
そんな顔を見るのが辛くて、なるべく見ないようにしてきた。
私は逃げていた。
ここ最近学校での様子は、特におかしなところはなかったと思う。
でも、それは普段通りを装っていただけなの?
ずっと辛い気持ちを無理に隠し続けてきたの?

「もしもし、かがみちゃん?」
「え? ああ、すいません、学校では普段通りだったと思いますが……」
「そうか……ならいいんだが」
ずっと辛かったんだ……ごめんね。

「それにしても、遅いな、こなた」
「そんなに朝早く出て行ったんですか?」
「ああ、俺が起きたときにはもう外に出かける準備ができていたみたいなんだ」
「いつもそんなに早く起きてるんですか?」
「いや、いつもは昼まで寝てることが多い」
その言葉を聞き、不安が募る。
いつも休日前は遅くまで起きているんだろう。
なのに今日に限ってこんな朝早く起きて一人で外に出るなんておかしい。
「何の用事で出かけたんですか? 何か練習にでも行ったんですか?」
こなたは昔格闘技をやっていたと聞いたことがある。
もしかすると今でも続けてるんだろうか。
「いや、最近は習い事もしてないから、それはないと思う。ちょっと雪を見にとか言っていたが、何しにいったんだろうな」
「そうですか……」

こんな寒い中一体何しに行ったんだろう。
しかも久々の大雪。
地面もずいぶん滑りやすくなって危ないはず。
今朝のニュースで大雪による事故を伝えていたことを思い出した。
あれは車同士の事故だったけど、この大雪でスリップした車が人にぶつからないとも限らない。
そうじゃないにしても、どこかで転んで怪我でもしてるんじゃ……
もしかしたらそのまま動けなくなって……
心配のしすぎかな。
何とか心を静めようとするも、不安な気持ちは納まってくれない。

「それにしても1時間経っても戻らないのはおかしいな。30分ぐらいで戻ると思ったんだが」
「えっ、そんなに?」
──まさか、本当に事故に遭って……
顔から血の気が引いていく。
「こなたは、こなたはどこへ行ったんですか?」
「えっ? いやあ、行き先までは聞いてないな。すぐに帰ってくると思ったから」
「こなたが行きそうなところは分かりますか?」
「うーん、あいつが行きそうなところといえば秋葉なんだが、出かける時はいつも行き先を告げてから行くから」
「私、今からこなたを探してきます。失礼します」
「えっ、かがみちゃん? どうした──」
おじさんには悪かったけど、そのまま電話を切った。
悠長に電話してる場合じゃない。
早くしないと、こなたが……

すぐにコートを着込み、家の外へ飛び出した。
「こなたの馬鹿、こんな雪の日に倒れたらただじゃすまないのに」
また泣きそうになるのをぐっとこらえた。
今は泣いてる場合じゃない。
早くこなたを見つけないと。
こなたの行きそうなところ、雪を見に外に出かけたのなら家の近所のはず。
秋葉なんて論外。
とりあえずいつもの通学路を探してみよう。
でも、ここからこなたの家の近くまでは時間がかかるし、どうしよう……
とにかく走ってでも早く行かなきゃ。
そのまま一目散に鳥居の外めがけて走り出した。

足元の雪が邪魔で上手く走れない。
それに雪と砂利が跳ね返ってコートの裾が汚れる。
でもそんなものどうでもいい。
わき目も振らず、前だけを見て走り続ける。
早く、早く──

すると突然、目の前に蒼い影が飛び込んできた。

──えっ?

急いで止まろうとする。
でも、間に合わない!

ドンッ!

「うわっ!」
「キャッ!」

ドサッ……

ぶつかった勢いで二人一緒に木に倒れこんでしまった。
ついでに枝に降り積もっていた雪が落ちてくる。
私が何とか目の前の影を庇ったおかげで、ぶつかった相手に怪我はないようだ。
私も特に怪我はしていない。
不幸中の幸いだ。
そ、そんなことより謝らないと。

「ご、ごめんなさい、私急いでいて……」
慌てて目の前で雪まみれになっている小さな蒼い影に目をやった。
……蒼い髪?
え、ま、まさか……

ぶつかった相手は私のことを呆然と見つめている。
私もその顔に釘付けになった。
そのまま動けない。
何も考えられない。
…………
……

そのままどれぐらいの時間が経っただろう。
二人とも見つめあったままの時間がしばらく続いた。
やがて、目の前の相手が私に話しかけてきた。

「かがみ、大丈夫? どこか痛いの?」
「ねえ、かがみ。怪我でもしたの? 大丈夫?」
心配そうにずっと話しかけてくる声に、私は正気を取り戻した。

「……えっ、こな……キャッ!」
「う、うわぁ!」

相手がここにいるはずのないこなただと認識した瞬間、思わず悲鳴を上げてしまった。
目の前で大きな悲鳴をあげられたこなたは、驚いた反動で後ろの木にぶつかった。
その振動で再び枝から雪が落ちてくる。
雪まみれになりながら、非難の目をこちらに向けてくる。

「いたたた、いきなり大声出すなんてひどいよ」
「こ、こなた?」

えっ、ど、どうして?
どうしてこんな朝からここにいるの?
雪を見に外へ出かけて……そのまま……
そのまま……そうだ、事故に遭って動けなくなったと思ってたけど。
無事だったのね……よかった。
本当に無事で……
うぅ、こなた……
こなた……!

「こなたぁ!」
「わわっ、かがみ?」
そのまま私はこなたをぎゅっと抱きしめていた。
安心したら、不覚にも少し涙が出てきた。

「よかった、無事で」
「かがみ? ……泣いてるの?」
再び心配そうな顔でこなたは私の顔を覗き込んでくる。

「ううん、何でもない。私の勘違いだったから」
「何をそんなに慌ててたの?」
「そ、それは……」
自分が早とちりしてこなたが倒れていると思ったなんて、恥ずかしくて言える訳ないじゃない。
言ったら、またいつものようにからかうに決まってる。

こなたはじっと私の顔を見つめている。
きっと顔は真っ赤なんだろう。
それに目も赤いし。
またからかわれるに違いない。
でも、そんなことよりこなたが無事でいてくれたことのほうが、はるかに大事だった。

「私のこと心配してくれたんだ。……ありがと、かがみ」
こなたはからかう素振りを一切見せず、私の目をしっかりと見据えたままそう言った。
予想外の展開に、こちらも戸惑ってしまう。
「こなた?」
普段と違うこなたの様子に、目の前にある顔を見つめなおした。
こなたの顔が普段より赤く見えるのは、この寒さのせい?

しばらく見つめ合った後、こなたは珍しく恥ずかしそうに目をそらした。
それをごまかすように、いつものにやけた顔に戻る。
「なーんてね、私を心配して泣きそうなかがみ萌え」
「なっ、またあんたはそう……やって」
目の前のこなたは笑っていた。
こぼれそうなほどの幸せな笑みを浮かべて。
こんな嬉しそうな笑顔を見るのは、ほんとに久しぶりだった。

──そんな顔されたら言い返せないじゃない。
こうやって言葉を交わすのもとても久しぶりに感じる。
もう一度こなたの笑顔を見ようと顔の向きを変えると、すぐ目の前でこなたはこちらを見返している。
……目の前?
そこで、自分がさっきからこなたを抱きしめたままだったことに気付いた。

……!
慌てて離れたものの、恥ずかしさで一気に顔が赤くなる。
こなたはそんなこと全く気にしていない様子。
……嫌じゃなかったのかな、迷惑じゃなかったかな。
喧嘩の発端となった教室でのやりとりを思い出す。
そうだ、こなたは私と会えなくてもいいと言った。
だから、私なんかに触れられても何とも思わないのかな……
私一人こなたと会えて喜んでたけど、こなたは迷惑だったのかな……
そう思うと、再び心に冷たい風が吹き込んできた。

「どうしたの、かがみ? さっきから様子が変だよ?」
「ううん、何でもない……」
落ち込んだ私の顔をしばらく見つめた後、こなたは決心したように言った。
「かがみ、一緒に雪を見て歩かない?」
「えっ、いいけど……こなたは迷惑じゃないの?」
そう言うとこなたは、一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに笑顔を返してくれた。
「どうして? 私はかがみと一緒に雪が見たいよ? だって、そのほうが嬉しいから」
まっすぐに私を見て、そう言ってくれた。
「こなた……」
その一言でどれだけ心が温かくなったろう。
「こなた……あり……う」
「ん、何か言った?」
「ううん、何でもない。行きましょう」
「うん」




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