誕生日へのカウントダウン(5月15日-5月22日)

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2008/05/15(木) 22:41:52
キュ、とマジックで紙をこする時の独特の音が部屋に響いた。
私の目の前にあるカレンダーは、5月に入ってから、毎日、1日ずつ×印が増えている。
そして今日、5月15日にも×が点いた。
ふと、目を落とす。これからも×印が増えていくであろう数字の中に一箇所だけ、赤い○で囲まれた日付があった。
5月28日――アイツの、こなたの、誕生日。
暫くその日付を眺める。ぼんやりと。
数字の向こうに、蒼が碧が、霞んで見えた、気がした。



視線をはがし、机に向かう。
今日だって宿題が出たのだ、進めておかないと後々になって後悔するはめになる。
それに……と、知らず知らずに口元に微笑みを浮かべてしまう。
――いつ、こなたが宿題を見せてと言ってこないとも限らないし、ね。
そこまで考えて、いや、と頭を振る。
どうして私がアイツのために宿題をやらなくちゃならないのだ。
アイツのために……。



何でだろう?こなたの事を考えると気持ちがざわつくのは?
沢山、迷惑をかけられるから? 違う!
アイツは、確かに普段から真面目に授業を聞いてないし、宿題は人のを写してばかり、ダイエットしてる時だってからかってくるけど……こちらが一番嫌がることだけは決してしない。
傍から見れば、傍若無人に振舞っているけれど、実際は違う。
こなたは、こなたなりに周囲に気を使っている。
だから、アイツの周りには人が集まる。
つかさ、みゆき、ゆたかちゃん、田村さん、パトリシアさん、黒井先生、成実さん……そして、私。
日下部だって、峰岸だって、そう。時々、こなたの事を口にするようになった。
アイツは、一度あったら忘れられない強烈な印象を、与えていく。
気が付くと、アイツのことばかり考えている。
離れていると、無性に会いたくなる。
会って話をすると、楽しい。
黙って肩を並べていても不快じゃない。
時々、こなたが誰かと喋っているのを見ると、寂しくなる。
私を見て、私と話そう?そう言いたいのを必死に堪える。
こなたは、別に、私の所有物じゃない。私が、アイツを制限することは出来ない。



――アレ?私は、なんでこんな事を考えているのだろう?
宿題をやらなくちゃ。一旦止めた足を動かして、机に向かう。
すると、綺麗に包装された小包が目に入った。
こなたへの、誕生日プレゼント。
用意するのが早かったかな、と我ながら思う。
GWの一日をわざわざ費やして、店を何件も回った。アイツの趣味も考えて、色々探した。その結果が、この小包。
友達……親友に渡すプレゼントなんだ。それくらい時間をかけてもいいじゃない。自分に言い聞かせた。早く選んだっておかしくない。寧ろ理にかなっている。
親友に渡す。そう、親友に。
親友……アイツが頭から離れない!こなたの声が、抱きついてきた時の感触が、体中に染み付いている!!
苦しいのか、悲しいのか、辛いのか、分からない。28日が……怖い。
私は、こなたに会いたい。声が聞きたい。



携帯を手に取ると、リダイヤル機能を使った。毎週、いや、毎日繰り返している。
当然、今夜も、電話が長いんだよね?
『もしもし、かがみ?』
聞こえた、繋がった……こなた。
赤い○まで増える×は、後、12個。



2008/05/16(金) 23:44:56
お風呂上り、まだ、しっとりと仄かな湿気を含む髪をタオルで拭きながら部屋へ戻る。
今日は5月16日、金曜日。週末だ。
慌しい、一週間だった。
そんな事を思いながら、ベッドの脇に腰掛けて、読みかけのラノベを開く。
萌え系のアニメキャラが印刷された栞が挟んであるそれは、こなたから借りたものだ。
印刷された活字を追い、物語を頭の中に浸透させていく。
そして、無意識の内に右手を伸ばし、机の上にあったポッキーを手繰り寄せ、袋を開けると一本取り出し、口元に運んだ。



暫くの間、私がページを繰る音と、ポッキーを齧る音だけが部屋の中で響いていた。
どのくらいそうしていたのだろう。本から顔を上げずに手繰っていた右手が空を掴む。
――ポッキー、切らしちゃったな。
一つ息を吐くと、今読んでいるページに栞を挟み、閉じた。パタン、と言う音が私を物語から現実へと引きずり戻す。
新しいお菓子を取りに行こうかと、ラノベを床に置いた時、ふと、栞に印刷されているキャラが目に入った。
萌え、私にはよく分からない概念。だけど、ここにある絵は素直に可愛いと思う。でも、私の目を引いたのは二次元の萌えキャラクターじゃない。
私は、こなたを――アイツに借りた本と栞を通して、その向こうにいるこなたを、見つめていた。
――ここでお菓子をまた食べたら、こなたに何か言われるんだろうな。
そう思ったとき、ハッとした。
まただ。また、気が付くと、こなたの事を考えている。



こなたは、友達。かけがえのない、親友。
だからなのかな……ふとした切欠で、アイツを、思い出すのは。
例えば本を読む時。
例えばお菓子を食べる時。
例えば宿題をする時。
私の中には、いつもこなたがいた。
会えない時でも私達は、会っていた。



何でかな。
どうして、私は……。


今日の帰り道。5月の黄昏は長い。
紅く染まった道路を2人で、歩いた。
こなたは、嬉しそうに私の手を引いて歩いていた。思いがけない力強さに圧倒されながら、小走りについていく私。
道の途中で、こなたは急に立ち止まると、私を振り返った。
その瞬間、紅に蒼が混じり、その中に私は碧色の宝石を見た。
ハッとした。綺麗だった。
こなたは、鞄の中を探ると一冊の本を取り出した。それがこのラノベ。
――はい、かがみなら、きっと気に入ると思うよ?
そう言って微笑んだこなたは、紅い世界によく映えていた。



机の上にあった携帯が振動した。それが私を再び現実に引き戻す。
着信。こなただった。
電話に出る。あの紅い世界が目の前に蘇ってきた。
他愛の無い話をした。でも、一言一言話す度に私の中で蒼碧の宝石が、私を見上げてくる。
私の中にいる、私の、親友……。
こなたの声が、少し舌足らずな、でも決して聞き間違えることのない意思の通った言葉が。私の中を駆け巡る。それは、快感だった。
理由の分からない、でも、確かな充足感。
どんなに満たされていても、人の欲は尽きることはないのだろうか。もっと、欲しくなる。
そう思ったら、自然と、言葉が紡がれた。



――明日、休みなんだし、家に泊まりに来ない?
――いいけど?
――この前、アンタにゲームで負けたけど、今回は負けないわよ。
――はっは、かがみんからの挑戦状しかと受け取ったり。じゃあ、明日行くね。
――うん、待ってる……。



切れた。ツー、ツーと無機質的な音を聴きながら、私は、微笑んでいた。
こんなに上手くいくなんて。
明日、こなたが泊まりに来る。一日中、一緒にいられる。
無意識で、そう、感じた。
総てが、この世界の総てが、輝いて見える……こなたに会える、それだけで。
私は、軽やかな足取りで壁掛けのカレンダーに近づくと今日の日付に×を入れた。

赤い○まで増える×は、後、11個。


2008/05/17(土) 23:37:35
バタンッ、強く扉を閉める音が部屋中に響いた。
私は、扉に凭れながら、荒くなった息を整える。
ハァ、ハァッ……階下の座敷から自分の部屋までの短い距離を走っただけだと言うのに、こんなにも息が上がって、苦しい。
胸を押さえると動悸が激しかった。
ズルズル、と崩れ落ちて、座り込む。
閉じた瞼の裏で、アイツが……こなたが、笑っていた。



昨日、こなたを家に泊まりに来るよう誘った。こなたは快く応じてくれた。
そして、今日。こなたは約束通り来てくれた。
嬉しかった。こなたが、応じてくれた事。約束を、守ってくれた事。
何故、あんなに嬉しかったのか、自分でも分からない。
ただ、嬉しい。それだけで、充分だった。
こなたが来て、それを見たつかさが言った。みゆきも呼ぼうと。
その時、少し、引っ掛るものを感じた。
何故だろう。こなたは親友。みゆきも、親友。呼ばない理由はない。
なのに、私は……心の奥で、これ以上の闖入者を拒もうと、していた。
何故?何故?
答えは、つかさの言葉に頷くこなたを見て悟った。
――私は、人が増える事を、恐れているんだ。
こなたが、私から目を逸らす、その可能性が増える事を。
だけど、それは口に出せなかった。



いつもの4人が、揃った。
いつものように、他愛のないお喋り。
いつものように、じゃれあう。
いつものように、いつものように……。



私は、こなたに話しかけた。こなたは、それに答えてくれた。
私は、話題を続けようとした。その時、つかさが会話に加わった。こなたの視線が、私からつかさに移った。
グッと、奥歯を、噛み締めた。



皆でゲームをやった。2人チームを組んだ。
こなたは、みゆきと同じチームだった。
拳を、強く握り締めた。



分からない。何でこんなに、寂しくなるのか。分からない。
つかさは、姉妹。みゆきは、親友。こなたは……私にとって、何?
――今日の晩ご飯、こなちゃんと一緒に作ったんだよ。
何で……?
――泉さんと同じチームですね。力を合わせて頑張りましょう。
何で……?
――ねぇ、こな……た。
こなた……私を見てよ?私と、話そう?

――あ~、みゆきさん、ゴメンね。私、やっぱりかがみと同じチームが良いや。
……え?
――クイズゲームだしね。私とみゆきさん組んじゃったら結果見えちゃうし。
そう言って、アイツは、私に向かって、微笑んだ。
――な、何よ?
――かがみ、嬉しい?私は、嬉しいよ。
アイツの瞳が、口が、そう言っていた。
手を握られた。小さくて、柔らかくて、温かくて……大きい。



――ちょ、ちょっと、トイレッ!
気が付くと私は、その場から逃げ出していた。
嬉しくて、怖かった。こなたと触れ合うのが。
その温もりに総てを委ねたい、でもそうすると、こなたの総てが、欲しくなる。
そんな気がした……。



欲しい……?
私は、こなたが……?
総てって何?私は、こなたの何が欲しいの?
友達の、親友の、何が欲しいの?
誰か、教えて?この気持ちは、何?
苦しいよ……こなた。



顔を上げた。私の机の上には、こなたへの誕生日プレゼントが、静かにその時を待っている。
私は、立ち上がると、カレンダーの今日の日付に×を書き込んだ。
今日は5月17日。あの包みが待っているのは赤い○印。

赤い○まで増える×は、後、10個。


2008/05/18(日) 22:14:02
夢を、見た。
とても、楽しくて、嬉しくて……哀しい、夢。

広がるのは、あの日見た紅い世界。何処までも、何処までも、遮る物なんかなくて、総てを、見渡せた。
私は、その中を1人、歩く。目的も、目標もない。
ただ、歩いた。
歩いたその先に何かある事を信じて。
いや、信じていたんじゃない。知っていた。
何かある事を。誰かがいる事を。

紅い世界は、黄昏。私は、かつてそこで見た蒼碧の宝石を捜していた。
宝石……私にとっての宝石。
ギュ、と胸を締め付けるこの想いは、何だろう。
左右で結った髪が揺れ、菫色の光が紅に反射した。
反射した光のその先に、彼女はいた。
こなた……。

――かがみ。
こなたの唇が動いた、こなたの声が私を呼んだ。
逢いたかった……体中が喜びに震えた。
――オッス、こなた。
私は、何気なくを装って、いつものように話しかけた。
――行こっか。
こなたが、手を差し出す。私は、それを取る。
2人で……この広い世界を、たった2人で、歩いた。
いつものように。

こなたがアニメの話をして、私がそれに呆れる。
私が宿題の事を言えば、こなたはちょっとしょげる。
こなたがラノベの話をすれば、私はそれに大きく頷く。
そんないつもの、私達。

誰にも邪魔されない。この世界には私達2人だけだから。
こなたが立ち止まって、歌を歌った。私の知らない、何かのアニメの歌。
私は、それに合わせて踊った。
目を閉じ、両腕を開いて、クルクルと、廻る。
こなたの声が耳に入ってくるのが、心地良かった。
2人だけの世界で、私は満ち足りていた。

やがて、歌が終わった。
私は、目を開いた。
こなたの姿は、無かった。
紅い景色は、血に染まったように、不気味だった。

私は、走った。こなたを探して。
――こなた、こなたーっ!!
叫んだ。何度も、何度も、親友の名を、呼んだ。

こなたが、いた。
つかさか、みゆきか、それとも私の知らない誰かか……一緒に歩いている。話してる。笑ってる!

――こなたっ!
追いついて、こなたを後ろから抱きしめた。
こなたの目が、驚愕に見開かれた。
――かがみ?
私の名前を呼んだ。私を見た。私を……。

もう、押さえられなかった。私は、こなたが、欲しい。
これは友情なの?それとも、違うの?何か別のものなの?
分からない。ただ、今は、こなたが欲しい。
私に抱きすくめられて、目を閉じたこなたの睫毛がピクリ、と動いた。小刻みに、体が震えていた。
私を受け入れようとしてくれた。
私は、こなたを手に入れた。

目を覚ました。
昨日、4人でつかさの部屋で寝たままだった。
私の隣にはこなたがいて、私の手を握って、小さな、寝息を立てていた。
その寝顔を見て、私は、気がついた。
私は、濡れていた……。

自分の部屋に着替えを取りに行った。
誰も起こさないように、慎重に、足音を殺して。
部屋に飾られたカレンダーが目に入った。
5月18日。
乱暴に、×印をつけた。

着替えて、鏡を見た。
私は、泣いていた。
こなたを、親友を、夢の中で傷つけたこと。気持ちの整理がつかないこと。

扉が開いた。
振り向くと、そこに、こなたがいた。
――かがみ?
私を呼んだ。夢と同じように。
鏡を落とした。床に当って、粉々に砕けた。
――ぅ……ぅえっ。
私は、泣いた。こなたに縋って、泣いた。
私は言った。
――夢を見たの。とても、楽しくて、嬉しくて……哀しい、夢を。
こなたは言った。
――じゃあ、泣いていいよ。
顔を上げた。いつもは17cm上から見下ろす顔が、今は、17cm上にあった。
――かがみが泣き終わるまで、ずっと傍にいるから。
優しいこなた。私のこなた。私の親友、こなた。
親友……友情と、別の何かの狭間で揺れ動く私は、ただ、こなたに縋った。
散った鏡の欠片が、霞んで見えた。

赤い○まで増える×は、後、9個。


2008/05/19(月) 23:37:46
開け放した窓から、夜風が入り込んでくる。
窓辺に身を寄せ、目を閉じ、風に身を委ねる。
だが、外の冷気を多分に含んだそれも、私の火照りを冷ますことは出来なかった。

瞼の裏に浮かぶのは、あの、紅い世界。
黄昏に与えられた束の間の奇跡。
毎日、等しく降り注ぐ泡沫の夢。
今日も、私は、こなたとその世界を歩いた。

いつもの帰り道。

でも……。

――私は、こなたを、どう想っているの?

いつもと違う、帰り道。

私達は、手を繋いで歩いていた。
私は、こなたに引っ張られる形だったけど、私から、強く握り締めた。
歩く道は、その紅い世界は、否が応にも、昨日の夢を思い出させた。

――もし、少しでも目を離したら、こなたは、いなくなってしまうんじゃないか。
――もし、少しでも目を離したら、こなたは、別の誰かとこの道を歩くんじゃないか。

そんな想いが、私を動かしていた。

繋いだ手は温かく、優しくて、何より、こなたに触れていられることが嬉しかった。

ゴクリ、と喉がなった。
触れているだけじゃ、満足できなくなりつつ、あった。
こなたは、親友。私の所有物じゃない。
でも、私は、こなたを欲しく思っていた。
認めないわけにはいかなかった。あの夢を想うと。

だけど、こなたの何が欲しいか、私には分からない。
繋いだ手が、汗ばんだ。
また、ゴクリ、と喉がなった。

――こなた。
気がつけば、私は立ち止まっていた。
――何?かがみ。
こなたも、立ち止まる。その瞳が私を捉えて、その唇が私の名を呼ぶ。
――……私達、親友、だよね。
こなたは、それには答えず、スッと背伸びをして、私の頬を両手で挟んだ。
お互いの吐息がかかるほど間近な距離。
少し顔を動かせば、キス、出来てしまうんじゃないか。
そこに、こなたの顔があった。
――何かあったの?
こなたは、聞いた。
――何でも、ないわよ。
私は、答えた。
こなたは、困ったような笑顔を作って。
――話せるようになったら、言って。

その笑顔は、私を火照らせた。
どうして、そんな小さな体で、私の総てを包み込めるの?
こなた……昨日、私が泣いていた理由も、聞かなかったよね。
分かってるんだよね?全部。

――私は、待ってるよ。かがみ。

嬉しいよ、こなた。でも、辛いよ……。
私、甘えちゃうよ……きっと。
期待しちゃうよ……きっと。
ねえ、私を見てくれてるんだよね?

カレンダーに×印をつける。振り返った視線の先に、こなたへの誕生日プレゼントと、昨日割った鏡の欠片があった。

赤い○まで増える×は、後、8個。


2008/05/20(火) 22:34:29
――ねえ、こなた。私、どうしたらいいのかな?

今朝、バスを一本遅らせた。
お昼は、C組で食べた。
帰りは、1人で帰った。

私は、こなたを避けた。

いや、正確にはそうじゃない。
こなたと、誰かが一緒にいるのを見たくなかった。
それが、例えつかさでも、みゆきでも。
私以外の誰かがこなたと話しているのを見るのが、辛い。
自分勝手だって、分かってる。分かってるけど――。
辛いよ……こなた。

私達、親友だよね?
親友なら、こうなのかな?
親友だから、欲しいのかな――貴女を。
独り占め、したくなるのかな?

辛い。こなたと一緒にいられないことが、辛い。
苦しい。こなたと話せないことが、苦しい。

ポフッと音を立ててベッドに倒れこむ。
学校から帰った格好のままで、でも、着替える気力なんか、無かった。

最近の私は、変だ。
そう思う。こなたの事を考えてばかりだ。
ちょっとした事でアイツを想い、溜息をつく。
ちょっとした事でアイツに連絡を取って話をする。
ちょっとした事でアイツに会いに行く。
カレンダーに印を付け始めてからだろうか。いや、もっと前からだったかもしれない。

1日、1日、と、少しずつ近づいてくる。5月28日――こなたの、誕生日。
こなたがこの世に生を受けた日。
いつもは、どうでもいいよと、クールなつもりを装ってた。
でも、でも!
ふとした拍子にアイツがからかってきたり、じゃれ付いてきたり、落ち込んだり、笑ったり、泣いたり、手を繋いだり、一緒に買い物行ったり……。
こなたのやる事、こなたとする事が、総て楽しい!

ねえ!こなた!
こなたは?どうなの!?
私といて、楽しい!?
私は、私は……!

握った枕に皺が寄った。

アイツの誕生日、お祝いしたいな……。
そしたら、喜んで、くれるかな?
その笑顔を、私にくれるのかな?

でも、もし、喜んでもらえなかったら……?

それを考えると、怖い。
もしそうなったら、私は、こなたを……。

一昨日の夢が、鮮やかに蘇ってきた。
こなたをこの腕に抱いた瞬間。
こなたを手に入れた瞬間。
紅い世界はこなたの蒼を呑み込む、私の……。

本当に自分勝手、だよね。こなたは、私の所有物じゃないって何度も言ってるのに、欲しい、なんて。手に入れる夢を、見る、なんて。でもね……。
溢れる、想いの、強さで、砕けそうなの……まだ、机に残したままの鏡の欠片のように。

だから、避けた。
私は、こなたを避けることで、喜びと不安の両方を捨てた。
でも、5月20日の日付に×印を入れるのは、何でだろう?

――私は、待ってるよ。かがみ。

昨日のこなたの言葉を、信じて、いるから。

静かに寝息を立て始めた私を、つかさが覗いていた事を、私は、知らなかった。
つかさが、こなたに連絡を取ったことも。

赤い○まで増える×は、後、7個。


2008/05/21(水) 22:22:29
ピッと音が鳴って、検温完了を告げる。
私は、脇に挟んでいた体温計を取り出すと、その数字に目を眇めた。

――38℃

当然、学校なんか行けるわけなくて。
こなたとも、会えない。
ホッとする自分。哀しい自分。両方の気持ちに対して怒りを感じる自分。
様々な自分が複雑に絡み合って、先程から感じていた頭痛が、一層酷くなった。

――寝よう。

薬を飲むと、直ぐに睡魔が襲ってきた。
でも、学校と違って、それを我慢する必要もない。

――でも、こなたなら学校でも我慢しないで寝ちゃうんだよね。

眠りに落ちる時でも、こなたの事を考えている自分が、何だかおかしかった。

夢の中はやっぱり紅くて、やっぱり私とこなたの2人だけで、やっぱり何も無い世界だった。
私は、こなたに向き直った。

――ねえ、こなた。

夢の中のこなたは、首を傾げた。その所作が可愛かった。

――私、こなたが、欲しい。

こなたは、何かを呟いた。
聞き取れない、こなたの唇は動いている。でも、声が聞こえない!!
不安が、胸を締め付ける、こなたに向かって、手を伸ばす。
それでも私達の距離は縮まらなくて……私は、その場に、崩れ落ちた。

涙が、溢れて止まらない。
やっぱり、望んではいけないことだったの?
その想いが胸を焦がす。紅い世界は壊れて、ただ、闇が広がっていた。

その時、ふわ、と私を包み込む温もり。
目を開けると、こなたの顔が、そこにあった。
闇の中でも、こなたの姿だけは、ハッキリと見えていた。
そして、こなたは私に囁いた。さっき、聞き取れなかった、言葉を。

――焦らなくて、いいんだよ。かがみ。

目を覚ました。
こなたが、そこにいた。

――かがみって、意外と可愛い寝顔してるんだ。

そう言ってからかわれたのは、いつだったか。
こなたは、その時と寸分変わらない顔で、いつもの猫口で、言った。
――オハヨ~。あ、もうオソヨ~かな?
夢の続き?
――違うよ。
何で?
こなたは、夢の中と同じように私を抱きしめると、囁いた。
――焦らなくて、いいんだよ。かがみ。
――ッ!
――かがみが本当に言いたいこと。私は待ってる。
――こなた……。
――だから、泣かないで。笑って?
――そんな事言われると、私、甘えちゃうよ?
――いいよ。
――期待しちゃうよ?
――いいよ。
――時間、かかっちゃうかも。
――いいよ。このラノベでも読みながらじっくり待つから。
――……それ、私のなんだけど。
――細かいことは気にしない、気にしない♪ 全く、かがみんはツンデレだなぁ。
――ツンデレ言うな!

もやもやした気持ちが、スッと洗い流されたような気がした。
――こなた、ありがとう……。

夜、熱も下がり、いつもと同じようにカレンダーに×印をつける。
5月21日。
携帯が鳴った。メールだった。
こなたからのメールだ。
――Dearかがみん♪ つかさから元気が無いって聞いてた。ちょっとは元気でた? む~、まだ?じゃ、これを見て元気を出したまへ~。

ファイルが添付してある。
開くと、それは、私の寝顔に寄り添ってニマニマ笑っているこなたの姿だった。
――いつの間に……。
呆れるやら、嬉しいやら。
でも、そんなこなたの心遣いが嬉しかったし、つかさにも感謝した。
メールを消さないよう保護指定をかけて、また写真を見返した時。
胸の奥が、疼いた。ギュウッと締め付けられるような、この気持ち。
なんだろう……この、気持ちは。


赤い○まで増える×は、後、6個。


2008/05/22(木) 22:23:21
パチン、と音を立ててMDが起動する。
こなたから借りた、何かのアニメの曲。
耳に刺したイヤホンから、澄んだ声が流れ出す。

――恋を、しています。一時も変わらずに……。

それは、恋の歌。愛しい人への恋しい気持ちを歌った、歌。
目を閉じて聞き入った。
知らず、涙が流れていた。
恋……私は、恋をしている。
アイツに――泉こなたに。

今日の朝、HRが始まるちょっと前。
峰岸が、珍しく怒っていた。
なんで? その疑問には、日下部が聞いてもいないのに答えてくれた。
日下部のお兄さん――峰岸の彼氏と喧嘩したそうだ。
私にとっては、あまり関係の無い話。
そのまま聞き流そうとした私の耳は、しかし、続いた日下部の言葉をしっかりと拾っていた。
――あやのはさ~、兄貴が他の女の子と話してたってだけで怒ってるんだぜ。恋って怖ぇよな~、
独占欲が強くなるって言うか、私だけ見て欲しいってヤツ?

私だけを、見て欲しい……?
持っていたノートが手からするりと、抜け落ちた。
床にぶつかったノートが立てる、カツン、と響く音が遠くの出来事のように感じられた。
視界が真っ赤に染まる。紅い世界に、こなたの姿が浮かんだ。

こなたには、私だけを、見て欲しい。
他の誰かと話している所を、見たく無い。
そう思う時が、多々、あった。
親友だから。
今までは、そう、思っていた。
親友だから、アイツの友情を独占したいと。自分勝手と分かりながら、溢れる想いに、戸惑っていた。

だけど、もしかしたら、違ったのかもしれない。
もしかしたら、もしかしたら……この想いは、恋、なのだろうか……。

お昼、B組に顔を出した。いつものように。
でも、久しぶりに。
――やっほ~、かがみん。コッチ、コッチ~。
こなたが、私に向かって、手を振った。
胸が、キュウ、と締め付けられた。
――あ……。
こなたの顔が、こなたの声が、こなたの所作が、こなたの総てが、私を……甘く締める。

こなたの隣に腰を落ち着けた。
こなたは、私の腕を、その小さな両腕と胸で掻き抱いた。
体に、電流が走った。
――ちょ、離しなさいよ。
慌てて振りほどこうとしたが、こなたは、より一層力強く私の腕を抱くと、ニコッと笑った。
――昨日のメール、届いた?
その笑顔が、声が、私に、向いている。お腹の底から、何か、甘いような、くすぐったいような、
そんな何かが、湧き上がって、胸の辺りで、停滞した。
――う……。
体中から、力が抜ける。停滞した何かが、徐々に、熱を帯びてきた。
こなたの顔が、まともに見られない。
でも、もっと、見ていたい。
そんな二律背反が、起こった。
――~~ぅっ!
体中が緊張して、弛緩した。
顔が……熱い。
――かがみ?
こなたが、私を覗きこむ。
――まだ、具合悪い?
心配してくれる。
私を……こなたが!
気がついたら、こなたを抱きしめていた。
こなたが、私を見上げて少し、驚いたような表情をしていた。
みゆきもつかさも、驚いていた。
――あ……え、え~と、こ、こんな事も出来ちゃうくらい、もう、平気よ。
苦しい言い訳で、その場を取り繕った。

放課後、峰岸に聞いてみた――恋の事を。
峰岸は、くすぐったそうに笑って、言った。

――恋って、とってもいいものよ。素敵な事。

……そっか。
でも、峰岸のそれは男女のモノ。私のそれは、こなたへの恋は……。

MDに収録された曲が終わった。
聞いている間中、歌詞に私とこなたを重ね合わせていた。
ああ……。
溜息が出る。
この歌も、想いは男性へ向いている。だけど、それは身近にありすぎて、叶わないかもしれない恋で、切なかった。
身近にありすぎて、叶わないかもしれない恋。それは、私も同じだった。
私は、どうしたいのかな?
涙が止まらなかった。でも、私は笑っていた。
――だから、泣かないで。笑って?
こなたが、そう言ったから……。
カレンダーにつけた×印が霞んで見えた。
今日は5月22日。
こなたの誕生日は、28日。

赤い○まで増える×は、後、5個。


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名前:
コメント:
  • 苦しいね。 -- 名無しさん (2012-11-09 21:27:44)
  • 繊細な心理描写に読み入ってしまった…
    続編、期待してますぜ -- 名無しさん (2008-05-26 05:40:35)

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