けっこんしようね!

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夢を見た、とても懐かしい夢を。

目覚めた時には忘れてしまっていた。
けれど、そのときに思い出した懐かしい思い出。

中学に上がるまでは、よく思い出していた幼い日の出来事。

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けっこんしようね!

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あれは、私が幼稚園の年長組だったころの話。

つかさが熱を出して寝込んでいた日のことだった。
病気がうつるといけないからということで、つかさと引き離された私はひとり神社の境内で遊んでいた。
でも、結局たいしたこともできずに本殿の脇の階段に座り込んでいただけ。

枝から離れて間もない落ち葉がところどころにあった境内で、私は完全にひとりっきり。
たまにお参りに訪れる人たちも、私のことは気にも留めてはくれない。
凍りついたような時間だけが私のそばを通り過ぎていく、幼いながらもそんな気分で私はずうっとそこに座っていた。

折り紙も、お手玉も、あやとりも、ケンケンパも、ひとりだとぜんぜん楽しくない。
近所の仲のいい友達も、みんなどこかにお出かけしてた。

ホントのこと言うと、私たちも今日お出かけする予定だった。
お母さんといっしょに。
でも、つかさが病気になったんでお出かけするのは中止。
わたしはひとり、ポツンと取り残されることになっちゃった。

お父さんもお母さんもあっちこっちに電話して、私のことなんかほったらかし。
お姉ちゃんたちはお友だちのところにお出かけしてて、わたしの相手をしてくれる人はどこにもいなかった。

「つかさがいないとつまんない……」

ひざを抱えてボンヤリと神社の中を見ていた私の目に、ひとりの男の子の姿が入ってくる。

背中に軽くかかるまで髪を伸ばした可愛い子、それが私の第一印象。
緑色の上着に青いズボンとズック靴がよく似合う、とってもかっこいい子だった。
あとでいっしょに遊んだ時に私より背が小さかったことを覚えているから、たぶん私より年下だったと思う。

カメラを手にしたお父さんといっしょだったその子は私に駆け寄って声をかけてきた。

「いっしょにあそばない?」

「イヤ」

人なつっこい笑顔で話しかけられた私は、男の子に背を向けた。
知らない子と話すのが嫌だったし、とてもそんな気分になれなかったから。

でも男の子は、うずくまる私を覗き込んで声をかけてきた、私の気持ちにお構いなしに。

「どうして?」

「どうしても!」

顔をひざにうずめて、口を閉ざした私。
もうだれとも話したくなかったから。

だけど、男の子のとった行動は、私の予想しなかったものだった。

「こちょこちょこちょこちょ……」

「あは、は、は、はははは! ……く、くすぐっ ……たいよう! ……や、やめてっ ……てばあ! あははははは!」

いきなりわきの下をくすぐられ、思いっきり笑ってしまう。
男の子はしばらく私をくすぐった後、ふいに私のそばからはなれた。
私はいきなりのことに、立ち上がって男の子に怒りをぶつけるしかなかった。

「なにすんのよ、もうっ!」

「うわっ! あの…… ね? わらったほうがカワイイかな? っておもって、つい……」

しおれた花のようにションボリした男の子の言った「カワイイ」の一言に、私は赤くなってしまう。
だって、今までそんなこと言われたことなかったから。

私が黙ってうつむいたので安心したのか、男の子がまた話しかけてくる。

「でも、なんかたりないなあ…… あ、そうだ!」

男の子はポケットからリボンを取り出して、私の後ろに回る。
さっきのことがあったので、またくすぐられることのないように、わきを締める。
すると、あっけらかんとした声で「さっきはごめん、もうくすぐらないから」と言って、私の髪をいじりだした。

「ちょっと! なにしてんのよ! いたっ! もうっ! やめて! かってにかみさわらないで!」

立ち上がろうとしたけど、男の子が髪をつかんだままだったので引っ張られて痛かった。
仕方なしに立ち上がるのをやめて、私は男の子にふざけるのをやめさせようとした。

でも男の子は「だいじょぶ、だいじょぶ」と言うだけで、ちっとも髪をいじるのをやめてくれなかった。
何度か髪を引っ張られるたびに「いたい!」って抗議したけど、「ごめん、ちょっとがまんしててね」って言ってそれっきり。
気がついたら、男の子のお父さんが私たちの姿をカメラに収めていた。

そうしてるうちにお母さんがやってきて、男の子のお父さんにお辞儀をしてから私たちの様子をいっしょに見だした。

「でーきたっ! うん! かわいくなったよ!」

男の子は私を見て言ってくれたけど、自分で自分の姿が見られないから、よくわからなかった。
そしたら、お母さんが袂から出したコンパクトで見せてくれたんだよね。

「ほうら、かがみ。ごらんなさい。可愛くなったでしょう」

私はしばらく、鏡の中を見つめて動けなくなっていた。
だって、鏡の仲に映っている女の子がとっても可愛かったから!

その日からツーテールは私のお気に入りの髪形になったんだよね。

男の子とはそれから何回か一緒に遊んだりしたかな?
病気の治ったつかさや、近所の子たちとも一緒にね。
でも、幼稚園から帰ってきてからしか遊べなかったのが残念だった。
たぶん、通っていた幼稚園が違ったんだろうね。

一ヶ月くらいたったその日のことを、私は今でも忘れられない。
その日、幼稚園から帰ってきた私たちにお母さんが話しかけてきたんだよね。

「かがみ、つかさ、ここのところいつも遊んでたあの子だけど……」

男の子は、私たちが幼稚園に言っている間に引っ越してしまった。
しかも遠くに引っ越しちゃったから、会えなくなっちゃった。

覚えていないけれど、そこから先は大騒ぎだったらしい。
泣きわめいて靴も履かずに外へ飛び出して、行方不明になってたとか。
家族総出で探しまわって、とうとうお巡りさんの力まで借りたとのこと。
結局私はその子を探し出すことはできずに、どこかの公園のベンチで疲れ果てて眠ってるところを発見されたらしい。

お巡りさんに背負われて帰ってくるまでの間、生きた心地がしなかったと今でもお母さんに言われることがある。
幼い子どものしたことなので、そろそろ勘弁してほしいところなんだよね。

そうそう、私が飛び出した後つかさがどうしてたかっていうと、私の姿が見えなくなってお母さんに抱きついて泣いたまま眠ってたらしい。
まあ、つかさらしいと言えばそうなんだけどね。

そして、その子のことは忘れられない思い出になった。
ふりかえってみると、私にとっての初恋だったのかもね。
幼すぎてあのころは気がつかなかったけど。

あれから10年以上の月日が流れた今でも、あの子のことを思い出すことがある。
私より低かったとはいえ、それほど身長に差がなかったことを考えると、あの子は私よりひとつ下のはず。

道場に通っているとかで運動神経もよかったから、どこかでスポーツ特待生にでもなっているかな。
私なんか比べ物にならないくらい素敵な恋人もいるだろうな。
たぶん、もててもてて困っているだろうな。
私のことなんか忘れちゃってるだろうな。

ああ、また会いたいなあ。

写真が残っていればよかったんだけれど、あの子の写真は1枚も私の手元にはない。
あの子のお父さんがかなり撮ってくれてたはずなんだけど、もらえずじまいだったなあ。
今ではあの子がどんな顔をしていたのかさえ、ボンヤリとしか思い出せない。

ただ、今でも引っかかることがひとつだけ。

たしかあの子と、何か約束してたはずなんだよね。
とっても大事な約束だったはずなんだけど、なぜか思い出せない。
大好きだったはずのあの子の面影といっしょに、忘却のかなたへと消えてしまったのだろうか。

だとしたら…… なんだか寂しいな。



「ねえねえ、かがみ、つかさ、みゆきさん。あしたなんだけど、私の家でお泊り会しない?」

ある日のこと、いつものようにお昼ご飯をB組で食べていると、こなたがそれまでの話の腰を折って話し出した。
まったく人の都合なんてお構いなしなんだから、こいつは。
でも、そんなところがあっても憎めないんだよね、ホント。

なんでだろう。
こんな気持ち、小さいころのつかさに対して思ったきりなのに。

あ、そういや『あの子』に対しても思ったことがあったな。

「あんたねえ、また人の宿題丸写しにする気か? ていうか、あんたの部屋じゃ4人泊まるのは無理だろ? まさか、ゆたかちゃんの部屋を使う気じゃないだろな?」

そんなことを考えているとはおくびにも足さず、私はこなたに対してツッコミを入れる。
おそらくこれが、こなたが望んでいることだろうから。
私との漫才にも似たやりとりを、こなたは楽しんでいる。

いや、むしろそれ以上に私自身が望んでいるんだと思う、打てば響くように帰ってくる、こなたとのやりとりを。
つかさや姉さんたち、お母さんやお父さんとも違う、ましてみゆきや日下部、峰岸とも違う、こなたとの会話を。

「いやいや、使ってない部屋があるから、そこにみんなで雑魚寝しようというのだよ。かがみ」

矢継ぎ早の私の質問にもめげず、こなたは手をふって答える。
ホント、宿題を写したいってのが見え見え、たまには自分でやろうとしなさいよ。
まあ、頼られないのも少し寂しいかな、って何考えてんだ私!

「よろしいのですか? お父様は小説家でいらっしゃいましたよね。仕事のお邪魔になるのでは……」

みゆきが心配そうに言う。
そりゃそうよね、こなたのお父さんは小説家、仕事中に大騒ぎされたら仕事にならないはずよ。
なのに、なんで18年いっしょに暮らしてきた娘が、そういったことに配慮できないんだろう?

などと思っていると、こなたはほくそ笑みながら言った。

「大丈夫だと思うよ。ここ何日か締め切りに間に合いそうもないとか騒いでたから、編集さんに連れ出されるんじゃないかな? ホテルで缶詰になりに」

「大変だね、こなちゃんのお父さん」

「まあ、いつものことだしね。で、私とゆうちゃんだけだとつまらないんで、かがみたちに来てもらおうと思ったのだよ」

こなたにそう言われると、反論する気がなくなる。
たしかに、あのにぎやかなお父さんがいなくなると、泉家はかなり静かなものになるだろう。
あの広い部屋にこなたとゆたかちゃんだけ、そう思ったとたん私の心は決まった。

「しょうがないわねえ。わかったわよ、泊まったげる」

「おおうっ! かがみ、ありがとう!」

満面の笑顔のこなたを本気で振り払うことができず、抱きつかれてしまう私。
でも、なんか嫌じゃないんだよなあ。

「わかった! わかったから抱きつくな!」

口でこそ拒んでいるものの、本気で嫌がっているわけではないことは見抜かれてるんだろうな。
こなたはもちろんのこと、みゆきやつかさも笑顔で私とこなたのやり取りを見つめていた。



そしてお泊り会の当日。
つかさはもちろんのこと、私もきょうはやけに胸がわくわくしていた。

「かがみ、ごきげんだね。こなたちゃんの家に泊まるのがそんなに楽しみなんだ」

まつり姉さんのからかうような言葉も、まったく気にならない。
すぐそばで話を聞いていたつかさの自分も楽しみだとの言葉に、またうれしくなる。

からかいがいがなかったのか、まつり姉さんは肩をすくめてそれ以上この話題に触れることはなかった。

時間がきたので着替えと出来上がった宿題、そして数冊のラノベを入れたバッグを持って、鷹宮の駅へ。
途中でみゆきと合流しつつ、電車の中におしゃべりに花を咲かせる。
話題のほとんどがこなたのことだったのはご愛敬だろう。

そしてその日は、いつもよりこなたの家につくまでの時間が短く感じられてうれしかった。

「こなたー、来たわよー」

私たちがこなたの家に着いてインターホンを鳴らすと、中からは玄関に駆け寄ってくる足音が。
すぐに玄関の扉が元気よく開けられる。

「いらっしゃあい。ささ、入ってくれたまえ、かがみ、つかさ、みゆきさん」

「お邪魔しまあす」

出迎えてくれたこなたはなんだかうれしそう。
こいつがこんなに嬉しそうにするなんて珍しいわね。
ほんとにこのお泊り会が楽しみだったのね。
.
この笑顔を見られただけでも、来たかいがあったってものよ。
例え宿題が目当てだったとしてもね。

「かがみ先輩、つかさ先輩、みゆき先輩、いらっしゃいませ」

こなたの後ろからゆたかちゃんが近づいてきて挨拶してくれる。
それにしても『トテトテ』という擬音が似合いそう、ゆたかちゃんの歩き方。
ああ、ホントに可愛いなあ。
私にもこんな可愛げがあったら、どれだけよかったことか。

うらやましい……

「ゆたかちゃん、お邪魔するね」

笑顔で挨拶を返す。

靴を脇へ寄せてゆたかちゃんに質問をしてみる、おじさんはきょうはいないのかって。
なんでかっていうと、近くまで来たときに駐車スペースに車がないことに気づいたのよね。
たぶん、こなたの予想通りなんだろうけど、念のため聞いておきたかった。
おじさんがいるといないとでは、気分がまったく変わってくるから。

「えっと。編集さんに連れてかれちゃいました。締め切りに間に合わないとかで、ホテルで缶詰になるそうです」

今夜のお泊り会を楽しみにしていたので泣きそうな顔で出て行ったと、ちょっぴり苦笑しながら教えてくれた。

ああ、やっばり。
たぶん自業自得ではあるんだろうけど、ファンのためにも間に合わせてほしいですよ、泉そうじろう先生。

みんなが上がったことを確認してこなたが口を開く。

「いっしょに夕飯の支度したいから、いちばん奥の部屋に荷物置いたら上のキッチンに来てねー」

こなたはそのまま一気に2階へ駆け上がる。
私たちのことはほったらかしか、そう思ったけれどいつものことなので、なにも言う気はない。
苦笑しつつも1階のいちばん奥の部屋に荷物を置いて、2階のキッチンに向かう。

暖簾をくぐると、こなたが笑顔で待っていた。

「きょうはみんなでピザを作ろうと思ってね。これならかがみでもだいじょうぶでしょ」

「よけいなお世話よ。ま、みんなで作ったほうが楽しいかもね」

悪かったわね、料理が苦手で。
でも、そんなこなたの気配りがうれしい。
憎まれ口も照れ隠しにしか思えないほどにね。

つかさもみゆきも、笑顔でこなたの提案に乗る。
そこへエプロンをつけたゆたかちゃんが入ってくる。

もちろん、わたしたちも準備は終わってるわよ。

どったんばったん、きゃあきゃあ騒ぎながらみんなで生地をこねる。
おじさんがいないことに安心したのか、こなたもゆたかちゃんもいつもより声が大きい。
確かにこんな声が聞こえてきたら、仕事にならないって叱られるかもね。
いや、もしかしたら仕事を放り出してすぐに混ざろうとするかもしれないな、あの人だと。

そんなこんなで生地をこね終わり、しばらく寝かせることにする。
みゆきいわく、前の晩に作って冷蔵庫の中で寝かせておく方法もあるらしい。
けど、こなたはこっちのやり方のほうが手っ取り早くて好きだと言う。

「それに、生地を伸ばして焼くだけよりも『いっしょに作った』って感じがするでしょ」



生地を寝かせる間に宿題の片付け。
といっても実際問題、私やみゆきのやった宿題を写すだけなんだけどね。
そんなんでもあまり補修を受けることのないこなたは頭がいいんだろう。
興味の向かないことに時間を割かないだけで。

ま、それはそれで問題だが。

いつもより取れる時間が短い分必死でやった成果、キッチンタイマーが鳴る前に宿題を終わらせることができた。
ふだんもこれだけの集中力を発揮してくれ、写すのではなく問題を解くほうに。

「ふうっ、やっと終わったよう」

「なんとか間に合ったね」

宿題が片付いたら、手を洗って作業再開。
麺棒を使って生地をゆっくり伸ばす。

力の加減が難しくって、私はなかなかうまくいかない。
結局、つかさとこなた、ゆたかちゃんにまかせっきりになってしまった。
みゆきは野菜を洗ったりして次の準備に取りかかっている。
何もできないでいるのは私だけ。

うう……生活力ないなあ。

どんなに勉強ができても、こういうのが苦手だったら意味ないじゃない。
みゆきの手伝いをしようと申し出てはみたけど、場所が足りないということでやんわりと断られた。

ピザだけでなく、おかずやお味噌汁の準備も着々と進んでいく中、ひとり手持ち無沙汰になる私。
そんな私に、こなたが声をかけてきた。

「かがみはゆうちゃんといっしょにテレビでも見てて。それに、かがみなんだか疲れているみたいだしさ、少し休んどきなよ」

さっきの勉強会のお礼だよと言われ、手を洗ってエプロンをはずしたゆたかちゃんに押されるようにしてリビングに。
ゆたかちゃん、何も言わずにこなたの言うとおりにしたけど、なにかこなたに言われたのかしらね。
私が手持ち無沙汰になるだろうから相手してあげて、とでも。

ま、ここで意地を張っても仕方ないし、こなたの言うとおりにしますか。



気がついたら、私はいつの間にかソファーに横になっていた。
風邪引かないようにタオルケットまでかけられてね。
やっぱり疲れてたのかしら。

夕べあまり眠れなかったからなあ、なんでかわからないけど。

ゆたかちゃんもいないし、どうなっているのかと思ってリビングに向かうと、途中でこなたとばったり。
こなたはなんだかホッとしたような顔をしていた。

なんでだろ。

こなたといっしょにキッチンに入ると、すでに食事の準備は出来上がっていた。
あとは運ぶだけになっていたので、みんなで入れ替わり立ち代りでリビングに夕食の用意を整える。
これくらいなら、私でも十分できるしね。

出来立てということもあり、ピザはとてもおいしかった。
おかずのできもいい塩梅で、うちで食べるよりなぜか食が進んだ。

あっという間に食事が終わり、かたずけを済ませたあとでみんなでWii FiT。
「これで体重気にしなくてもよくなったよね」というこなたに突っ込みを入れたりしながら食後の運動をした。
さっきのこなたの言葉を聞いたとき、思わずボードをつかんで殴りかかりたくなったことは、ここだけの秘密にしておこう。

なんだかんだで汗をかいたのでお風呂をもらい、あとは寝るだけとなって1階の奥の部屋に。
5人分の布団を敷き詰めた部屋は広いようで狭かった。

寝返り打てるかしら。

戸締りやら、無駄な電気がついてないかを確認したこなたが、一冊の本を片手に部屋へと戻ってくる。
本なんて珍しいわねと思ってよく見ると、こなたが手にしていたのは古いアルバムだった。

たぶん私たちに見せるつもりなんだろうけど、いったいあの中に何があるんだろう?

やがてこなたが開いたアルバムに、私たちの目は釘付けに。
こなたの幼いころの姿やら、むかしのこのあたりの写真を驚きと共に見つめることになった。
幼いころのこなたはとても可愛らしく、とてもじゃないけど今目の前にいるこなたと同一人物だとは思えなかった。
でもなぜだろう、そのこなたの姿をどこかで見たような気がしてしょうがなかった。

いったい、どこで見たんだろう。
思い出せそうで思い出せないのが、なんだかもどかしくてたまらない。

とりあえず、ページをめくって続きを見てみることに。

アルバムにゆたかちゃんの姿はなかったけど、わたしたちより年下だったころのゆいさんの姿は何枚も見つけることができた。
ゆいさんと一緒に写ってた大人の女の人は、ゆたかちゃんやゆいさんのお母さんだとのこと。
ゆたかちゃんが写っているのは他のアルバムだということなので、たまたまこの一冊には収められていなかっただけらしい。

幼いころのこなたたちがどんな人たちに支えられてきたのかがわかる、とても素敵なアルバムだった。

つづけてページをめくるうちにおかしな気分になる。
私が小さいころに見たような風景が何枚も出てくるのよね。

そしてその既視感は、1枚の写真によって明確なものとなった。
写っていたのは鷹宮神社の神楽殿を背景にしたつかさ、私、そして私と手をつないでいる男の子の姿。
緑色の上着にウィンドブレーカーにデニムのズボン、それから、ヒーローの写真がプリントされたズック靴を履いた男の子。
私の記憶の奥底にある風景が、今、私の目の前にあった。

「こ、こ、こなた! なんであんたがこの子の写真を……」

こなたはイタズラが成功した子どものような表情でほくそ笑みながら、私にとどめの一言を放った!

「だってこれ、小さいころの私の写真だよ。私が写ってて当然じゃん!」

ああ、なるほど。

たしかにそうよね、だってこれは「こなたのアルバム」なんですものね。
こなたの写っていない写真があるわけないじゃないのよ。
言われてみると、たしかに他の写真同様、そこに写っているのはこなただった。
服装も他の写真にも写っていたものだったし。

オーケー、オーケー、理解したわ。

あれ?

それなら、なんで私とつかさが写っているの?

待て、現実逃避するんじゃない、柊かがみ。
ここに移っているのは幼いころの私とつかさ、そしてこなたなんだ。

そしてこの写真は、『私が【初恋の相手の男の子】といっしょに写っている写真』でもあるってことなんだ。

てことは…… こなたが私の初恋の相手ってことなの?

こなたはほくそ笑みながら、次のページをめくるように催促する。
もっと驚くことがあると言って。

すでに同じ部屋にいるはずのつかさやみゆき、ゆたかちゃんのことに気を配る余裕もない私は、言われるがままにページをめくる。

そしてそれは、私に忘れてしまっていた約束を思い起こさせるものだった!



 - かがみぃ、けっこんしよ? -


 - うん…… って! そ、そんなのできるわけないじゃない! わたしたちまだこどもなのよ? -


 - えー? じゃあ、おっきくなったらけっこんしてくれる? -


 - わ、わかったわよ…… そのかわり! うわきはぜったいだめだからね! -


 - うん! ぜったいかがみのことしあわせにするかんね! -



そこにあったのは一枚の紙。
子ども用のお絵かき帳の紙を一枚切り取ったものだった。

だが何よりも驚いたのは、そこに書かれた内容。
一筆書きのハートマークつきの相合傘の下に書かれたこなたと私の名前。
幼稚園児ゆえのつたない文字で書かれたそれは、私とこなたの『婚約の証』だった。

「あ…… う…… その…… こなた?」

水面に近づいたぎょぴちゃんのように口をパクパクする、真っ赤な顔の私にこなたは言う。

「いやあ、古い写真整理してたらこんなのが見つかったんだよ。
実はさあ、この家を改築する時に一月だけ神社の近くに住んでたことがあるんだよね。
ここの家に戻る時には幼稚園からまっすぐだったんでお別れができなかったのが残念だったけど、こうしてまた会えていたとはねえ。
そうそう、初めてかがみとつかさの家にお邪魔したとき、見覚えある気がしてたんだけどなんでかわからなかったんだよね。
で、あのときのことを思い出したら、髪を結わえてあげた女の子と結婚の約束してたのも思い出したわけだよ」

こなたは懐かしそうにその紙を見つめながら私に言った。
つかさもみゆきもゆたかちゃんも、こなたの言うことに感動したのか目が潤んでいる。

「そして約束を思い出したときに改めて気づいちゃったんだよね。私がかがみをどれだけ好きなのか。友達としてじゃなく、ひとりの女の子として」

ドクン……

耳まで赤くなっているこなたの言葉に胸が大きく高鳴ると同時に、からだじゅうが熱くなる。

と同時に気づく、なぜ今になってあのころのことを思い出したのかを。
それは、私がこなたに『初恋の男の子』の面影を重ねていたから。
そして、卒業によるこなたとの別れが近くなってきたことに恐怖を感じていたからなんだってことに!

だんだん頭がぼうっとなってくる。
もう、こなたの顔しか見えない。
ひょっとして、私もこなたのことが好きなのかな?
ひとりの女の子として……

「かがみ」

「かがみさん」

「かがみ先輩」

「お姉ちゃん」

こなたの目が見開かれる。
そしてみんなの、驚いているような声が聞こえる。

「え?」

もしかして私、今考えてたことをそのまま口にしてたのか、と思う間もなく背筋に寒気が走って急激に熱が冷める。
おかげでのぼせていた気持ちが落ち着いてきて、まわりにいるみゆきたちの姿も見えてきた。
みんな、驚きと共にうれしそうな顔をしている。

なんで?

「やっぱりそうなんだあっ!」

みんなの声が重なって、耳が痛い。
私が文句を言う間もなくすぐに、以前から思ってたとか好き勝手を言い出す。
いいかげんにしてくれとは言ってみたものの、そんな顔で言われても説得力ないよと言われてしまった。
どんな顔してんだろ、今の私?

しまいには応援するとまで言い出す始末。
もう好きにしてくれ……

「あー、そろそろやめにしないか、この話題。
たぶん、私のこなたに対しての気持ちは恋じゃないと思うから」

だけど、みんな納得する気配はなかった。
むしろ私が気持ちをごまかそうとしている、とまで言われちゃったのよね。
何とかわかってもらおうとしゃべればしゃべるほど、顔が熱くなるのがわかる。

しまいには叫ぶように言葉を放っていた。

「だから違うって!
確かにこなたのことは好きよ。でもそれは友達としてであって、みんなが思ってるようなんじゃないから!
いや、その、白状するとさ、むかしのこなたって私の初恋の相手なのよ。
だからそのときの思い出と、今の友だちとしてのこなたへの思いが混ざっちゃって、こんな感じになってるんだと思うのよ」

それでもみんなは納得してくれなかった。
どうしたらいいかわからなくなって頭の中がゴチャゴチャになっていた次の瞬間、後ろからふわりと抱きしめられた。

「かがみ」

こなたの声だった。
あわてまくっていた私の気持ちが、一気に落ち着きを取り戻す。
ふりむくと、そこにはこなたの優しくて、とても真剣な顔が。

こんなこなたの顔、今までみたことない。
そう思っていると、こなたが口を開く。

「かがみ、別に深く考えなくてもいいんじゃないかな。
私だって、今のこの気持ちが友情なのか恋愛感情なのかなんて、はっきりとはわからないんだよね。
でも、ずっと友達でいたい、今みたいな関係を一生続けていきたい、かがみがそんな相手であるののは間違いないんだ。
だから教えて、かがみの本当の気持ちを」

部屋の中が、時が止まったかのように、急に静かになる。
モジモジしているつかさやゆたかちゃんの出す衣擦れだけがわずかに聞こえるだけ。

そんな、長い長い、でも本当はとっても短い時間が過ぎた後、私はこなたの問いかけに答える。

「うん、私も好きだよ、こなたのこと。
でも私は、この気持ちが恋愛感情なのか本当にわからない。
けど、こなたが言ったみたいに一生ものの付き合いを続けて生きたいのもたしか。
この先どうなるかはわからないけど、これからもよろしくね」

多少支離滅裂な言葉を発して、私を抱きしめるこなたの手に自分の手を重ねる。
こなたは黙って、私を抱きしめる力をわずかに強めて私の言葉に答えてくれた。
つかさとゆたかちゃんが顔を見合わせてほほえむそばで、みゆきがなぜだか涙ぐんでいる。

ごめん、心配かけちゃったわね。

「さあ、今度こそこの話はおしまい!
このころのこと少し思い出したし、アルバム見ながら話しを続けない?」

そこで、私は当時のこなたを男の子だと思っていたこと、そしてかっこいい子だと思っていたことなどを話した。
今では面影すらないけどね、とおまけをつけながら。
こなたはこなたで私もつかさもあのころのままだとか何とか反撃をしてきたりで、話はそれなりに盛り上がった。

そこでわかったことがいくつかあった。

改築のための一時的な引越しだったため、おじさんはこなたにあまり親しい相手ができないように気をつけていたということ。
それでも幼稚園の時間以外、家に閉じ込めておくわけにもいかず、あたりを散歩していた時に私たちに出会ったこと。
男の子の格好をしていたのは、当時すでに道場通いをはじめていたこなたがあまりにもやんちゃだったためらしい。

なんでも、女の子の格好だと服がすぐにボロボロになってなっていたとのこと。
スカートも動きの邪魔になるとかで破いてしまっていたとか。
そしてなにより、こなたが好きなヒーローもののプリントは男の子向けの服にしかなかったことが大きかったらしい。
スカートがめくれ上がるのも気にせず、男の子向けの服の売り場でダダをこねていたとか。

だけど女の子の友達の髪を結ってあげるのは好きだったみたい。
あの日、髪を縛ってくれたリボンを持っていたのはそのせいだったとか。

そしてなによりも気になっていたこと。
あの日、幼稚園に迎えに来たおじさんがこなたと一緒に向かった先は、改築が終わったこの家。
こなたが幼稚園に行っている間に一気に引越しをすませてしまっていたらしい。

こなたは仲良くなった私たちと急に別れることになって、一週間ほど元気がなかったとか。
それを聞いたら、なんだか胸が熱くなった。

「かがみさん、泉さん、申し訳ありません」

声をかけてきたみゆきの視線の先を見ると、つかさとゆたかちゃんがスヤスヤ眠っていた。
あわてて腕時計を見るとふだんならもうとっくに寝ている時間だった。

「うわ! いつの間にこんな時間に。
こなた、そろそろ寝よっか、あんただってそろそろ辛いんじゃない?」

「んー、私はまだ大丈夫だけど…… ひとりで起きててもしょうがないしね」

三人でつかさとゆたかちゃんをきちんと寝かせたあと、私たちも布団にもぐることに。
みゆきの指示で、なぜだかこなたと隣りあわせでね。
で、明かりを消そうとする私にこなたが声をかけてくる。
いつも私をからかう時の顔で、アルバムに挟んであるあの紙を見せながらね。

「ところでさ、かがみ。これってまだ有効かな?」

「知るか!」

怒ったような口調でツッコミを返した私だったけど、なぜだかその質問がうれしかった。

☆☆☆ 終わり ☆☆☆




※SS作者より

このSSは旧保管庫のオエビに描かれたイラストを元に、イラスト作者様の許可をいただいた上で製作いたしました。
お絵描き掲示板ログ倉庫お絵描き掲示板ログ6の一番下にあるイラストと、下から三番目に保管されているイラストが該当する作品です。


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  • 「本編」でもこう言う裏設定だったら良いですよね←実は幼馴染み
    まぁこなたとかがみが出会って恋に墜ちるのは「天命」ですから。
    ええ、ディスティニープランです。神世の昔から未来永劫まで。 -- こなかがは正義ッ! (2009-03-01 22:37:15)
  • 君たちの婚約に
    時効はないのさ!!(≧∀≦) -- 無垢無垢 (2009-02-25 13:39:03)
  • 幼馴染みだった二人いいねえw本当に、ご ち そ う さ ま で し た 。 -- 名無しさん (2008-05-19 18:00:59)

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