9話 stand by

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猫が虎になり、犬が狼になる。そんな例え話があるけれど、現実はそう上手くいかない。
何故って?それはやる気の問題でも能力の問題でもない。

「ここがbベクトルとcベクトルで表せるって所までは分かるわね?」
「んー・・・」
「てゆうか、あんた私の話聞いていた?」
「いやー、この時間帯になると深夜アニメが気になる頃でね・・・」
「ちょっと待て!こなたから勉強教えてって言ってきたんだろ!?」
「そうなんだけど、やっぱり気になるものは気になるんだよね。」

習慣って怖い。せっかくかがみが勉強を教えてくれているのにアニメが気になる私。
高校三年生。進路。大学受験。勉強の毎日。けれど私の日常は変わらない。

「全くあんたってヤツは・・・」
「だいたい好きな人と一緒に勉強するというシチュで集中できる人なんていないと思わない?」
「なっ!何言ってんのよ!?」
「おー、照れてる照れてる!可愛いヤツめ。」
「うるさぁーい!ほ、ほら明日模試なんだから勉強しないと・・・」
「じゃ明日の模試に支障をきたさないようにアニメ見なきゃ。」
「話が食い違っているし、意味が分からん!」

アニメを見て、ネトゲーをして、ギャルゲーをして。そしてちょっと同居人をからかう。
変わらぬ毎日。窓から見える夜空も、フル稼働するクーラーの音も昨日と変わらない。

「それにしても今日も暑いねー。嫌になっちゃうよ。」
「だってもう8月も半ばだしね。アンタ、昨日おへそ出して寝てたわよ?」
「む・・・てかなんで知ってるの?」
「えっ?あ、あの・・・それは・・・」

しまったと言わんばかりの顔。顔が真っ赤なのは真夏の暑さじゃないよね?

「きっとかがみは、私が夏風邪を引かないように布団を掛けに来てくれたんだよねー?」
「わ、悪かったわね余計な事して・・・」

住み始めとは180度異なる居場所。言い換えれば変わった私の在処。それがとても居心地がいい。
甘える事ができる私。甘える事ができる人。甘える事ができる場所。とても、楽で、幸せな空間。

「ふふふ。今日もよろしくねかがみん!」
「はいはい・・・」

幸せ過ぎて、変われない。大切過ぎて、捨てられない。そんな空間と私。
そんな事を考えながら、テレビに映る動く絵をただ、眺めていた。


☆☆☆☆


チクタクチクタク・・・遅いようで早い秒針が回る。あっという間に1秒。
教室の窓から世界を覗く。空には1本の飛行機雲。そして夏らしく照る太陽。
3年生の教室から見えるグラウンドには元気よく体育をする1年生がいた。

「いくよーみなみちゃん、パース!」
「ふぐっ!?さ、流石みなみちゃん・・・やるっすね・・・」
「oh!ダイジョーブ?ひよりん?」

可愛い後輩がはしゃぐ姿。何も考えないで今を楽しむ彼女たち。何だか羨ましい。
可愛らしく微笑む紅。綺麗に笑う薄緑。苦笑いする黒。眩しく笑う金。これがゆーちゃん達の空間。
もちろん私にも存在するそんな空間。楽すぎて、楽しすぎて、幸せすぎる場所。でもその場所が永遠なわけがなくて。

『みゆきは医大、つかさは料理の専門学校だってさ。』

気がつけばもう3年生。クラス、学年の皆目の色を変えて勉強している。
もちろんみゆきさんも、つかさも。受験一色、8月の暑ささえ気にならないように。

『え?私?んーやっぱり法学部かな。ここの大学がいいな。今住んでいるアパートからも近いし、就職率も高いし。』

かがみだって、例外じゃない。勉強の話、大学の話がかがみの口から出た時、とても寂しくなった事を覚えている。

『他の学部はそんなに難易度高くないけど、法学部は特別偏差値が高いから、一生懸命勉強しなきゃまずいんだよね・・・』

皆、変わってゆく。ゆっくりなスピードだけど、確実に。そんな中、私は皆の、かがみの背中を見ている。
楽したい。メンドクサイの嫌い。甘えたい。困った時の人頼み。これが言わずと知れた私のモットー。
だから変われない。ううん、これだけが理由じゃない。本当の理由は別なんだ。

『そういうアンタはどうなのよ?』

初めて、正確には2つめの私の幸せの在り処。叶うことならずっと、変わらないでほしい。永久に、永遠に。
でも、そんなに上手くいかないのが、現実なんだよね。皆で一緒に帰る日も、皆で遊ぶ日もだんだん減ってゆく。
かがみとも、ゲマズ行ったり、一緒に夕飯作ったり、何気ない話をしたりする時間が失われてゆく。
どうにもならない現実。ちょっとした鬱。これで私の歩みを止めるには十分だった。

『んー何とかなるよ。』

本音は内緒。いつもの『こなた』でいるために。でもそんな自分に嫌気がさす。
ただかがみの背中を見ているだけの私に、今を変えようとしない自分に。そして。

「試験終了まであと5分やでー!もがくだけもがいとけー!」

模試まっただ中なのに、解答用紙が真っ白な自分に。


☆☆☆☆


「おーっす。どうだった?」
「私はやっと目標の点数まで上がったよー!ゆきちゃんは?」
「私もぎりぎりボーダーを越えました。思ったより点数がよくて嬉しいです。」

自己嫌悪は未だ終わらない。空っぽの心に流れ込む鬱の水。それはとても冷たい。

「ま、立ち話もなんだし帰りながら話さない?」

この提案は嘘じゃない。でも勉強の話をこれ以上聞きたくなくて。本当は分かってるんだ。
ちょっと逃げてみたって冷たい水は温かくはならない。でも逃げずにはいられなかった。

「あの・・・すみません泉さん。今日は黒井先生と面談がありまして・・・」
「私も図書館で調べ物しなきゃいけないの。ごめんねこなちゃん・・・」

あーそんな顔しないで、つかさ、みゆきさん。あなた達は悪くない。
それにそんな顔されると寒いくらいになっちゃう。冬の日の水の様。

「それは仕方ないよ。頑張ってね二人とも。で、かがみ様はもちろん一緒に帰ってくれるよね?」

全くあんたは。そうため息交じりにかがみはさりげなく突っ込む。
いつもの様に突っ込んでくれたのは、嬉しかった。今の私には染みわたる温かさ。
でも、かがみと目が合った瞬間、分かってしまった、かがみの返事。

「悪いけど今日は、日下部と峰岸と一緒に勉強する約束してるから、今日は・・・」
「そっかそっかー。じゃ私は先に帰るとするよ。みさきちと峰岸さんによろしくー。」
「あっ!ちょっとこな・・・」
「んじゃ頑張ってねー。さらばじゃ皆の衆!」

あんたは何者よ。そんなかがみの言葉も今の私には意味をなさない。私は廊下へと駆ける。
あの場にいるのがとても辛くて、今の私がかがみの傍にいていいのか不安で。
あー、情けないな。何とかしたい現状。でも何をしたらいいのか、何をしなくちゃいけないのすら分からない。
ねえ、かがみ?どうしたら私はキミと肩を並べられるのかな?

「あ、おねーちゃん!!」
「ゆーちゃん、とみなみちゃん。」
「珍しいね、今日は一人なの?」
「うん、まあ、ね。」

ゆーちゃんの笑顔が眩しい。そして何よりもその眩しさが羨ましい。

「じゃあ今日はみなみちゃんもいるから3人で帰ろうよ?」
「え?でも・・・」
「いいよね?みなみちゃん?」
「・・・うん・・・もちろん。」
「ね?じゃ決まりだね。」


☆☆☆☆


気がついたら、いつの間にか、流されていたら。そんな感覚で今に至る。
相変わらず日差しが強い。聞こえる蝉の断末魔。ダルそうに流れる雲。いつもと変わらない。
いつもと違うのは隣にゆーちゃんとみなみちゃんの姿があるだけ。

「・・・でね、パティちゃんと田村さんが騒ぎ出してビックリしちゃった!」
「・・・うん・・・あれは、驚いた。」
「さすがパティとひよりん。アウトローの名は伊達じゃないね。」

こうしている間にもかがみは私よりも早く、前に進んでいる。
何か、何かしなきゃ。そう思えば思うほど分からなくなる現実。あー頭痛い。

「・・・先輩・・・体調、悪いんですか?」
「え?あ、いや、大丈夫だけど・・・」
「そういえば元気ないね、おねーちゃん。」

可愛い後輩の二人にも心配をかけちゃう私。何がしたいんだろう。憂鬱は増すばかり。
ただいつもの様に笑って、ふざけ合って、一緒にいたいだけなのに。

「かがみ先輩がいないからかな?なーんて・・・」
「え?なんでかがみ?」
「だって、ね?みなみちゃん。」
「・・・うん。先輩達、一緒にいる時、とても幸せそうだから・・・」

し、あ、わ、せ?しあわせ?幸せ?そっか。なるほど。私、覚醒。
正直、私は面倒事を出来ればやりたくない。楽したい、人生楽しく。そう思う。
だから三年生8月現在、進学という選択をせず就職でもいい。そう思う。
でも今私は悩んでいる。

「そうだよねー?おねーちゃんとかがみ先輩を例えると・・・」

いつもの様に逃げるか、それとも、はるか前方にある背中を追いかけるか。
そう、幸せだから。幸せだから私は悩んでる。かがみとの変わった同居が幸せだから。

「パズルのピースと、ピースをはめられるのを待つパズルかな?」

ピースの居場所はパズル。パズルが変わってゆくなら、ピースも同じように変わればいい。
なーんだ。やっぱり私はバカだ。悩む必要なんてなかった。答えは決まっていた。

「ふふ。ゆーちゃんは相変わらずメルヘンチックだねー。」

日差しが気持ちいい。緑に茂る木が眩しい。空はいつもより青い。なんだか足取りが軽い。
道は開けた。なんだか単純。それでもいい。もう立ち止まるわけにはいかないからね。

「ありがと、御二人さん。ゆーちゃん達もなかなか幸せそうだけどねー。」

照れる二人。可愛らしいな。そんな二人を見てたら、パズルに会いたくなった。
さ、頑張りますか。


☆☆☆☆


「・・・ねぇこなた?はいこれ。」
「かがみ、これ何?」
「見たまんま、体温計よ。さ、計ってみなさい。」
「・・・かがみって時々容赦ないよね・・・」

かがみがみさきち達との勉強会を終わらせ、帰ってきて私の姿を見た途端、こう言った。
なんだかいつもと反対の立場だ。ちょっとした敗北感。でも。

「私だって勉強の一つや二つするよ。なめちゃあかんぜ、かがみん?」
「だって驚くわよ?いつもなら私の勉強している横でアニメ見ているのにさ。」
「ふふふ・・・かがみんは分かってないなー。」

なんでだろう?今はとても嬉しい。この距離、この温かさ、この雰囲気。懐かしいって言ったら可笑しいかな?
遠くに感じていた私の居場所。パズルに忘れられたピースのように。

「私はかがみのために勉強してるんだよー?」
「はぁ!?な、何よそれぇ!?」

でも今は違う。走り始めた私。ゆっくりとしたスピードで。ま、周回遅れもいいとこだけどさ。
まだぴったりとはまらないピース。ここから始まる、ピースの挑戦。

「かがみが寂しくないように私もかがみと同じ大学にはいるよ。」
「・・・え?」

ただ一緒にいたいんじゃないんだ。かがみと肩を並べて歩きたい。自分の力で歩きたい。
どうすればいいかな?バカな私が思いついた事は一緒の大学に行くこと。分かりやすい答え。
かがみが強くなって、それにおぶさって。そんなのきっと幸せじゃない。
私だって強くなりたい。いままで助けられた分、私もかがみを助けてみたい。
同じように努力して、同じ歩幅で歩いて、同じ世界を見て。そんなことができたら幸せだ。
マンガじゃないから簡単にはいかないんだろうけどね。でも覚悟はできてる。

「私の本気を見せてあげるよ。一緒の大学に行こ、かがみん?」
「こなた・・・アンタね、私がどれだけ心配したと思ってんのよ・・・」
「スミマセン・・・」
「大学受験、思ってるより辛いわよ?それでも・・・」
「それでも引きたくないんだよねー。私は、かがみと同じ大学に、行きたいんだ。」

私は言葉では言い表せない表情をしているかがみを見つめる。そして、そっと手を握る。
同居している部屋。私は肌で感じる。二人の思い出、空間、温もり、幸せ。
ずっと、ここにいたい。だから私は進む。決意をこめて、精一杯の笑顔をかがみに送る。

「・・・しなさいよ・・・」
「ふぇ?何て言ったの?」
「約束しなさいよ・・・受からなかったら、怒るからね・・・」

大丈夫。絶対に出来る。かがみのはにかんだ笑顔がそう思わせてくれた。
変わらないもの、変わるもの。全てのものに贈る私の努力が始まった。そんな気がした。


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  • やはりあなたが神か…
    続き激しく期待!!!! -- 名無しさん (2008-07-03 00:40:11)
  • 本当に2人で、いつまでも一緒にいてほしいですね☆
    続きを楽しみにしてます♪ -- チハヤ (2008-07-01 20:28:43)
  • Gj続きが楽しみです -- 名無しさん (2008-05-19 22:44:57)

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