KEEP YOURSELF ALIVE2 第四話

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 日が傾いた頃、なんとか身動きが取れるまでに片付けた後、やはり心配になり
家に帰ろうとしたのだが、こなたの家から一歩外に出ると、眼前に広がる光景に
私は言葉を失った。
ズタズタに引き裂かれた道路とおびただしい数の瓦礫、周囲には半壊した家屋…。
私の見知った街の風景は既に失われていた…。
この様子だと交通機関は麻痺しているだろうし、歩いて帰ろうにも一苦労しそうだ。
殆どの行動が制限されているとなると、不安は更に大きくなった。
私はふと視界に入った、路上駐車してあったと思われる大破した車両を一瞥すると、
踵を返して再び玄関の中に戻った。

 居間に行ってみるとこなたは暢気に漫画を読んでいた。まったくいつもと変わらない
というか、冷静というか…。将来大物になる気がする。

「こんな時に漫画なんてある意味尊敬するわ…。」
「んー?だってじたばたしてもしょうがないしー。電話もまだ回線混み合ってる
みたいだし…。ってか帰るんじゃないの?あっ、それとも私と居る方がいいとか?」
「はぁ…。外の様子を見てみれば戻ってきた理由が分かるわよ。いくらあんたでも
アレを見たら事の重大さが分かるわよ」
「何それ?そんなにやばいの?」
「まぁ見てみれば分かるわよ」

私は呆れながらもこなたに外の様子を見るように促した。
百聞は一見にしかず。自分の目で直接確かめた方が分かりやすいだろう。
実際に玄関まで連れて行って外に案内すると、余裕に満ちた表情は
驚愕へと変わった。

「ふひゃあ~、こりゃ一大事だね」
「これで事の重大さが分かったでしょ?とても帰れる状況じゃないわ」
「家が潰れなかったのは運がよかったのかな…。近所の人たち大丈夫かなぁ」
「そういえば周りに人が居る気配をまるで感じないわね…?みんな避難しちゃったのかしら」
「避難ってどこへ?これだけ荒れ果ててると移動するだけでも難しそうだよ?」
「それならまだ近くに誰か残ってるはずよね?随分静かだけど…」
「じゃあ…探してみる?」

 そんなわけで私達は静寂に包まれた街を当ても無く生存者を探しに行く事にした。
しかし歩みを進めても見えてくるのは根元から折れた電柱や斜めに傾いたビル、
道路には穴とも形容できる巨大な亀裂。遠くには火災が発生したのか黒い煙が何本か
空に向かって伸びている。空はいつの間にか曇った灰色と仄暗い夕焼けが混じっていて
太陽が霞んで見える。聞こえてくるのは裂けた路面からむき出しになって破裂した
水道管から噴き出している水の音、そこかしこで起きている火事の
轟々と燃え盛る音だけだった。
…あまりこういうことは考えたくないが、無事な人はあまり多くないだろう。
駅にも捜索の足を伸ばそうとしたが、断層が起きたのか
道路がごっそり分断されて行く手を阻んでいて、これ以上の捜索を断念した。

「…誰も居ないね…。まさか生き残っているのは私たちだけ?」
「じゃあやっぱりあの時みんな…?嘘でしょ…。つかさ、お母さんにお父さん、
姉さん達は無事なの…?」

何も連絡を取る手段がないだけに不安が膨れ上がっていく。
私はその場でへたり込んでしまった。

「なんで…こんな事に…?これからどうすればいいの…?」
「ごめんね…。私が誘わなければ今頃は…」

こなたが申し訳無さそうな顔をしながら寄り添ってきた。
確かに家に居ればつかさたちと一緒に居られたかもしれない。
だけどこんなことが起こるなんて誰が想像できる?
それに私が居なかったらこなたは独りでどうなる?
あんな状況でも暢気に構えていられたのは私がいるからじゃないの?
強がっているけどきっと心の中では不安がってる。
おじさんはともかく、ゆたかちゃん達が無事なのかどうかも分からないままだし…。
こんな時にまで私に気を使うなんてこなたらしくない。

「どうして謝るのよ。こんな事が起きるなんて分かるわけないじゃない」
「たいした事無いってずっと軽く考えてた。外の様子を見るまでは…。
すぐにまたいつもの日常に戻れるって思ってた。
私、かがみの気持ちも考えずに軽率だった…。ごめん…」

うな垂れている所為でアンテナのようなアホ毛がいつになくしょげかえっている。

「何言ってるのよ。地震の時、あんたは私を不安にさせまいとわざと
あんな風に振舞ってたんでしょ?辛いのはあんたも同じなのに私は
自分の事で一杯になってしまっていたわ。だからお互い様よ。
それよりもこれからどうするか考えましょう」
「かがみ…」
「じめじめするのはもう終わり!とりあえず戻るわよ」

 こなたの家に戻った頃には、太陽はすっかり沈んでしまって、
街が深い青に染まろうとしていた。

「うぅ~寒い…」
「日が沈んだら一気に冷えるわね」

明かりをつけようと壁のスイッチを押したのだが、照明器具がうんともすんとも云わない。
そう、電気の供給がストップしているのだ。

「げ、最悪…。停電までしてるなんて…」
「完全に暗くなる前に蝋燭か何か用意しよう」

 薄明かりの中を必死に探し回って、仏壇に使う蝋燭と懐中電灯を調達することに
成功すると、こなたの部屋で幸いにも常備してあった乾パンをかじりながら
これからの行動を話し合うことにした。

「はぁ~…これじゃ冷蔵庫の中身もパーかぁ。保存食は一応あるけどいつまで持つか…
それよりかがみん、寒いよぉ~!」

そう言うとこなたがドサクサに紛れて抱きついてきた。こなたの言うとおりこれはかなり
きつい。暖房器具が使えないのは相当な痛手である。

「ちょ、こんなときになにじゃれてんのよっ!でも確かにこのままじゃ寒さで体力が
消耗されるわね。いいわよこのままでも。別に特別な意味はないからね?」
「そう言いながら抱き返してくれるツンデレかがみんが大好き~」
「いや普通に寒いだけだから…で、これからどうする?ここに留まっても
どうにもならないわよ?」
「そうだねぇ…水道にガス、その他諸々が使えないのはかなりやばいね」

それは先程見てきた街の有様を目の当たりにすれば言わずもがなである。
町が機能停止とあらば確実にまずい。

「復旧なんてとても見込めるものじゃないし、かといって救援を待つにも
いつ来るのかしら…」
「まぁ災害の発生した当日に来るのはまずないね」
「この被害がどの範囲まであるのかも分からないわ。情報があまりにも少なすぎるわ。
ラジオとか無いの?」

こういうときにこそ役立つのがラジオである。目や足の届かない場所の情報の把握には
昔からそれと相場が決まっている。ところがこなたは何故か重い面持ちで答えた。

「あるよ。…でも有っても無駄だと思うな」
「なんでよ?電池切れてるとか?」
「そうでもないよ」
「何よ?何か知ってるならもったいぶらずに教えなさいよ」
「実はさ、かがみが帰るって出て行ったあとにテレビつけてみたんだけど
使えなかったんだよね。そこで停電してる事に気が付いたんだけど、
一時的なものだと思って敢えてその時はかがみには言わなかったんだ」

まだ遠まわしに言うこなたに痺れを切らして私は迫った。

「だからそれがラジオとどう関係すんのよ?」
「まぁ最後まで聞きなよ。そこでラジオをつけてみたんだけど、
どの周波数帯に合わせてもノイズしか流れてこなかったんだよね」

こなたは片隅に置いてあるラジオを指差してそう答えた。

「単にアンテナの向きとかが悪かっただけじゃないの?」
「もちろん色々試したよ。でもやっぱり結果は変わらなかった…」
「…使えないって事?」
「まぁそうなるね。携帯も未だに通信不能だし、これは電波障害が
発生してるとしか」
「何よそれ…ただの地震でそんなことがあるわけ?」

次第に私は言い知れぬ不安がこみ上げてきて眉を顰めた。
半信半疑で携帯電話の液晶画面を確認してみると地震の時には
気が付かなかったが圏外と表示されていた。

「何これ…こんなに開けた場所で?」
「ほらね?表示されてる時刻もずれてると思うよ。修正効かないままだし」

こなたも一緒に覗き込んで時刻表示の部分を指差しながら説明した。

「これじゃまるっきり隔離されてるようなものじゃない!助けを呼ぶことも
出来ないなんて八方ふさがりだわ」
「まだ行動の選択肢はあるよ。近くの避難所に行ってみよう」
「この辺にそんな場所あるの?街があの状態だと安全そうな所なんてあるとは
思えないんだけど…」
「あの時点で誰も居なかった事を考えるとこれはみんなどこかに避難
してるんじゃないかな」
「それは私もそう信じたいけど…。でも何かおかしくない?私達が家にいた
時間なんて二、三時間くらいよ?そんな短時間で街中の人全員が避難できるかしら?」

かなりの範囲を捜索したけれど、いくらなんでも静か過ぎる。
誰か一人くらいは見かけてもいいはずである。

「ラジオとかがあんな状態だと避難勧告も伝わらないだろうし、すぐには
動けないだろうね。何より最初は何が何だか分からないと思うし」
「でも実際は誰も居ない…」
「となるとここはみんな避難してるって考えるのがセオリーかな。
少なくとも私はそう信じたいよ」
「あんたにしてはいやに前向きね。まぁそうでもしなきゃやってらんないか」
「それで避難所の事だけど、私が通ってた中学校が近いんだよね」
「中学校?じゃあ街の人たちもそこに集まってるのかしら」

 中学時代については今まであまり話題に上がらなかったので、私はこなたの
通っていた中学校に少しばかりの好奇心が湧いた。
私やつかさと出会う前のこなたを知るいい機会だと思った。

「あそこなら必要なものも揃ってると思うし、行って損はないかと」
「このままここに居ても仕方ないし、行ってみる価値はありそうね」
「それ以前に学校が無事だといいんだけどね。あ、うちの学校もどうなってるんだろ」
「さすがにこの状況で授業は…しばらく無理そうね…。とにかく今日はゆっくり休んで
明日早速中学校に行くわよ。」

今後のためにも体力は極力消耗を抑えたい。明日のためにも温存したい。
私が一人で毛布に包まって寝ようとすると、

「そだねー。じゃあ今夜は一緒のベッドで寝ようっ」
「え…。窮屈でしょ?あんたのベッドなんだし、私は別に気にしなくていいわよ」
「いやいやこの寒さを乗り切るにはかがみの温もりが必要なのだよ」

こなたはそう言うと半ば強引に私をベッドに引きずり込んでしまった。

「なっ…変な事しないでよ…?」
「女同士なんだし気にしない気にしない~」
「あんたが言うと何か怪しくなるわね…」
「じゃおやすみ~」

 おバカな会話を締めくくりに明日の可能性を信じて私達は眠りに就いた…。
悪い夢なら醒めて欲しい。そう願いながら…。




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