季節は目まぐるしく回る。そんな季節に取り残されていると感じる。
私の季節は4ヶ月前、こなたを残酷に傷つけたあの日で止まっている。
私の季節は、春雨が降る、薄暗い初春。




あの日から、私の頭にはいつもこなたの影がちらつく。
さよなら。
笑いながら哀しんでいるこなたが、私の中に住み着いている。3年間、一度も見たことが無い表情で。

「お姉ちゃんどうしたの?せっかく家に帰ってきたのに暗いね。」
「えっ、あっそうかな・・?」
「夏休みにぐだーってしてるお姉ちゃん見るのは初めてかも。」
「ちょっと夏バテかもなー。」
「じゃー後で私がご飯作るね。専門学校で教わった料理とかご馳走するよ。」
「ありがとう、つかさ。楽しみにしてるわ。」

いつもこうやって私は偽っている。つかさや大学の友達、そして自分にも、偽っている。
深く考えられない。あの日のことを受けとめようとすればする程、私の頭は痺れていく。考える事を止めてしまう。
自分の気持ち。最低な自分。逃げた自分。
そして、こなたの想い。


前に進めない、進もうとしない私は、あの冷たい春雨にいつも縛られている。
逃げても、逃げてもあの冷たさが蘇り、私は逃げられない。
負の連鎖だった。

「そーいえばお姉ちゃん、今週の日曜日に何か予定ある?」
「・・・んー特に無いけど?」
「今週の日曜日ね、こなちゃんとゆきちゃんも暇なんだってー。久しぶりに4人で遊びに行かない?」

つかさの言葉が、私の胸を衝く。

さよなら。
またこなたの、春雨で濡れた哀しい笑顔が私の頭をよぎる。

もしかしたら、もしかしたら。4人で集まれば、あの日も無かったかのように、こなたといつも通りでいられる。
本当はそんな事は有り得ない。あってはいけない事だと分かっていた。
だけど、もう一度こなたに逢えば、何か変わるかもしれない、逢わなきゃ私は進めない。
また、こなたを傷つけてしまうのが、自分が傷つくのが怖くても。
そう、思ったんだ。

「おはようございます、かがみさん、つかささん。お久しぶりですね。」
「ゆきちゃん、久しぶり!今日はたくさん遊ぼうね。」
「おはよ、みゆき。直接会ったのは1ヶ月ぶりくらいかな?」
「そうですね。お二人とも、元気そうで何よりです。」

みゆきとはメールのやりとりとか、たまに逢ったりとかはしていた。
でも、こなたと逢うのは4ヶ月ぶり。メールも電話もしていない。
罪悪感?それとも気まずさ?ううん、ただの現実逃避だったと思う。
どんな顔して、こなたに逢えばいいのだろう?どんな風にこなたと接すればいいのだろう?

「わっ!!」
「うわぁぁぁっ!」
「久しぶり、かがみ。つかさ、みゆきさん、元気にしてた?」

後ろからかの攻撃とは、油断していた。とても、驚いたが、もっと驚いたのが、こなたの態度。
あまりにも普通で、あまりにも思い出の中のこなた通りで。

「泉さんもお元気そうで何よりです。」
「こなちゃん、遅刻だよー。」
「ごめんごめん!ちょっと時間潰しにマンガ読んでたら遅くなっちゃって。」

あぁ、こなただ。
いつも頭をよぎっていた、切ないこなたではなく、私の思い出にいた、こなた。
そしてもう一つ、驚いたことがある。

「あれ?かがみ元気なさげー?もしや食い過ぎで太・・・」
「ち、違うわよっ!相変わらず失礼ね!・・・ちょっとアンタの服の変化にびっくりしただけよ。」

これは偽りではなかった。こなたの服がなんとなく、大人の雰囲気を出していた。

「確かに、泉さん、なんとなく大人っぽく見えますよ?」
「こなちゃん似合ってるよ。」
「へーよくかがみ気が付いたね。まぁ、立ち話もなんだし、どっか座れるトコに行かない?」

私達はこなたの提案に賛成し、歩き始める。まるで、高校時代のように。
来て良かった、こなたと逢えて良かった。
春雨が弱まった気がした。

「・・・でねー、実習の時の講師がすごく怖くてさー。」
「つかさも可哀相だねー。ま、私は教授にかまってもらってるけど。」
「かまってもらってるって言うより問題児として、目を付けられてるだけだろ。」
「うっ・・・痛いところを・・・」
「どーせ、講義中に漫画でも読んでたんでしょ?」
「違うよー。ちょっとPSPを・・・」
「どっちにしてもダメだろ!?もうノート貸したりとか、教えてあげたりできないんだから、もっとしっかりしなさい。」
「相変わらず素直じゃないけど、さりげなく心配してくれるかがみ萌え。」
「・・・言うと思った。」

みゆきが微笑む。つかさがくすくす笑う。そして、こなたが照れるように笑う。
不思議と頭が冴えている。いつものように痺れる感覚も、冷たさに襲われる感覚も、ない。
私の隣にはこなた。
温かい。直接は触れていなけれど、こなたの温度を確かに、私は感じている。
心地いい。改めて思う。こいつがいたから、こいつが傍にいたから、幸せだったんだ。
こなたの雰囲気が、外見が変わってもそれは揺らがない。

「でも、私達の中で一番こなたが変わったよねー。あんなに子供っぽかったのに。」
「えっ・・・まぁ、ね。」

ちょっと照れてる。頬が紅に染まっている。こんな仕草も今は色っぽく見える。
だけど、それは、褒められて照れてるのではないんだと、直感で分かってしまった。
こなたは少しどもりながら、言葉を発した。


「・・・彼氏が、できたんだ。」

「・・・いつから?」
「んー1ヶ月ぐらい前かな。」
「あんたから?」
「ううん、あっちから。」

私達の真上には白い月。満月ではない、ちょっと欠けた上弦の月。
あれからしばらく遊び回った後、つかさ、みゆきは明日用事があるといって帰っていった。
私とこなたは帰路に着くため、バス乗り場まで街灯の下を歩いていた。
触れ合う程近くなく、でもこなたの温度を感じる程度の距離。

「どんな人なの?」
「なんか照れるなー・・・まー簡単に言えば優しい人だよ。誠実で、物事をはっきり言う素直な人。」

こなたが話しているのは聞こえる。けれど、内容はよく分からない。
ただ、こなたの声が耳を通り抜けるだけ。そんな感覚。

「・・・こなたは、幸せ?」
「まだよく分かんないよ。まだ1ヶ月たってないし。でも楽しいよ。」

こなたはへへ、と照れながら笑う。その瞬間、私は、最低な事を思った。

「そっか。」
「うん。」


私といるのと、どっちが楽しい?


そんな、事を聞こうとしていた。バカだ。私はバカだ。4ヶ月前、こなたを酷いくらい傷つけ、泣かせた私。
それでも、こなたを、いつも傍にいてくれたこなたを、これからもずっと傍に感じていたがる私が、いた。

「かがみ。」
「何?」
「ありがとね。」

ありがとう。それはお礼の言葉。こなたが何故この言葉を口にしたのかが、よく分からなかった。

「こなた?」
「んーん。別になんでもないよ。ただ言ってみただけ。」

嘘。
嘘だと、すぐに分かった。でも私は、何も聞けなかった。聞かないほうがいいのだと、思った。
バスを待ってる時間が、永遠にも感じられるぐらい長い。
こなたは何も話さない。ただ、月を仰いでいた。

「こなた。」
「なーに、かがみ?」

今、言わなきゃいけない。言わなかったら、ずっと私の季節は変わらない。
ずっとあの日に縛られたまま。

「・・・ごめんね。」
「・・・いいよ。」

ただ、ごめんね。
ずっと、ずっと、4ヶ月前から、こなたに言いたかった。
仲直りの言葉。
でもそれが、私とこなたの距離を元に戻すことなんて、できない。
そう分かっていても、ごめんね、と伝えたかった。

沈黙を裂くように、私が乗るバスが近づいてきた。

「じゃ、私これに乗るから。」
「・・・だよね?」

バスのせいなのか、こなたがわざとつぶやくように言ったのかは分からない。
よく、こなたの声が聞こえない。

「こなた、聞こえない。」
「・・・私とかがみは、ずっと友達、だよね?」

友達という言葉が、響く。バスのエンジン音よりも強く。それよりも私は、こなたの、笑顔に魅了される。
あの時のような哀しい笑顔でもなく、思い出の中の可愛い笑顔でもなく。
私の知らない、凛とした笑顔だった。

「・・・うん。友達。」
「ありがと、かがみ。バイバイ。」

私がバスの席に座っても、こなたは手を振っている。
ドアが閉まり、ゆっくりとバスが動きだす。どんどん、こなたと私の距離が離れていく。
それでも、こなたは手を振っていた。私に、向かって。


もう、こなたの温度が感じられない。バスの中のちょっとした熱気だけ。
私は月を見つめる。さっきまでのこなたのように。

「こなた・・・」

そう口にした瞬間、私の目には、あの日のような雫が溢れていた。

「こなた・・・こな・・・た・・・・こなたっ・・・」

とめどなく、私の頬を濡らす。でも、あの日のような、冷たい雫ではない。

「こなたぁぁ・・・こなたぁぁ!」

いくら、こなたの名前を呼んでも、ぬくもりはもう、戻らない。ぬくもりだけじゃない。こなたも、私も、戻れない。

あの日、分かっていたんだ、本当は。錯乱しながらも頭には浮かんでいたんだ。
ううん、ずっと前から。
でも臆病な私は、傷つくのを恐れて、幸せを前にして、逃げた。
でも今は、もう逃げない。春雨の中に縛られるのも、もう、止めた。
今ならはっきりと分かる。逃げないで、受けとめられる。


「こなたぁぁぁぁぁっ・・・・・・!」


私はこなたを、愛してる。


進まなきゃ、前に。








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