KEEP YOURSELF ALIVE2 第三話

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 こなたに連れられて一階までついていくと、なにやらスパイスの
効いた香りが漂ってくる。ひょっとして万人が好物とするあれですか。
先回りするのも可哀想なので一応何を作ったのか聞いてあげることにする。

「何を作ったの?」
「まぁ匂いで大体分かると思うけどお楽しみ~」

テーブル席に着くといよいよ匂いの正体が判明することになった。

「じゃーんっ。我が家の定番、チキンカレーだよ。かがみの為に前日から
仕込んだから一味違うよ?」
「それはちょっと気合入れすぎじゃないのか?」
「なーんてね!ほんとは今日の晩御飯用に準備しといたんだけど、
せっかくだからかがみにも食べて欲しいなと思ってさ」

いや今日は遊びに来ただけだし、そこまでしてしてもらわなくても…。
こなたの行動は時々分からない。どこまで本気なんだか。
しかし今は空腹の身。目の前のご馳走をありがたく頂くとしよう。

「カレーなんて久しぶりね。いただきまーすっ」
「んぐんぐ…。我ながら傑作だねこりゃ」

おお、前日から仕込んだだけあっておいしい。
ここまでくると高校生が作れるレベルを超えてるような気がする。
…もはや何でもありですかこなたさん。
しばらく無言で夢中になってしまっていたのだが、
食べ終わってからふと自分を見つめる二つのエメラルドに気が付いた。

「じっ……」
「どうしたの?」
「味…どうかと思って」
「まぁ悪くないわね。おいしいわよ」

私が率直な感想を述べるとこなたは安堵した顔で言った。

「良かったぁ~。かがみの口に合うかどうか不安だったよ」
「あんたでも不安になる時があるんだ?」
「そりゃあ私にもあるよ~?」

普段はあまり弱みを見せないので、この答えは意外だった。
それは一体どんな時なんだろう?

「へぇ?どんな時に?」

と聞くとこなたは何故か顔を赤らめながら俯き気味に言った。

「そ、それは…かがみが傍に居ないと…」

そう来ましたかこなたさん。これは反応に困る。

「え…。あー、えーとそれはどういう…」

思いがけない言葉に私は面食らってしまっていつものノリで
突っ込めないでいた。軽く流せる台詞を思案していると、こなたは
これはいけないといった表情になったかと思うと

「これからも一緒がいいねって事っ。さぁ片付け片付けっと」

などと言って何事も無かったかのように食器を片付け始めた。


 昨夜の電話の事といい、やはり何かおかしい。実に三年の付き合いだ。
彼女の些細な変化など傍目に分からなくても、私には分かる。
それなのに私は気が付かないふりをしている。
まるで逃げているみたい。急に家に呼んだり真面目に勉強してたり
何かあるに決まっているじゃない。
ここは何があったのか話を聞いてみるのがこれからの二人にとって
おそらく最善なのでは?いや、聞かずとも答えは薄々分かっているはず。
これまでの一連の言動を振り返ると、いくら私でもそこまで鈍感ではない。
でもこのまま何もせず終わっていいの?こなたの気持ちはどうなる?
私はどうしたい?私にとって彼女は何?妹の知り合いでもなければ
ましてやクラスを隔てたただの友達でもない。
…親友なんかじゃなくてもっと大きな何か、だと思う。
いつからだろう?あいつは私の心の中にずかずか踏み込んできてそのまま
そこに居座ってしまった。だけどそれが当たり前になっていて…。
私はいつの間にかあの真っ直ぐな緑の瞳に惹かれていた。
もう自分の気持ちに答えは出た。しかしこなたはまだ何も言ってきていない。
きっと彼女の事だから私を傷つけまいと気を使っているのだろう。
こちらから何か言うべきなのだろうか…。

 すっかり片付いたテーブルで一人思い悩んでいると、台所で洗い物を
していたこなたが作業が終わったのかおもむろに顔を覗き込んできた。

「おや~?テーブルと睨めっこなんかしてまた退屈になっちゃったのかな?」
「ちょっと考え事してただけよ。まぁあんたに関係あるかもね」
「え~?私に?」

このままうやむやにしておいたらきっと後悔する。
今ここではっきりさせておくべきだろう。
何より逃げるのは性分に合わない。
私は意を決して、こなたに打ち明けようとした瞬間、それは起こった。

 周りの視界が上下に揺らいだかと思うとドンッという衝撃に包まれた。

「きゃあッ!?」
「うわ!?」

あちこちで色々な物が落ちては硝子が割れる音が鳴り響き、
目の前の日常は文字通り音を立てて崩れ去っていった。
私とこなたはとっさにテーブルの下に潜り込んだのだが、
視界の隅で倒れる家具や砕けていく食器などを目の当たりにして
これで本当に身を守れるのかと思うと自分達を覆っているテーブルが
大層貧弱に見えてきた。

「うっ…くっ…これって…地震!?」
「やだこんな時に…ッ!?」

抑制していた恐怖がいよいよ限界に近づいてくると、私はたまらずに
こなたに抱きついて震えてしまっていた。多分相当な力でしがみついてしまって
いたと思うのだが、小柄な身体で体格差のある私に抱きつかれたこなたの方は
たまったものではない。

「うぅ、私もう駄目!」
「うっ!?か、かがみ、ちょっと苦しい…」

私にはこなたの抗議を聞き入れるだけの余裕はなく、ひたすら悪夢が終わるのを
待っていた。

 気が付くと揺れはすっかり収まっていて、散らばった食器や振り子のように
まだ揺れている照明器具が地震の激しさを物語っている。

「ふぅ…だいぶ揺れた気がするけど十秒も経ってないね」
「嘘でしょ?五分以上は揺れたと思うけど」
「いや、揺れる前に時計を見てたから間違いないよ。私もかなり長く感じたけど
そこまで経ってないよ」
「そんな短い時間でこんなに…」

あれだけ長く感じた悪夢がほんの数秒の出来事だなんて…。
これが実際に数分の間続いたらと思うとぞっとする。
こなたは落ち着いているみたいだけど私は心臓がまだドキドキしている。

「ところでかがみ、そろそろ離してくれないとテーブルから出られないんだけど…」

言われて初めて私はこなたをまだ拘束してしまっていることに気が付いた。
こなたはこの状況を少しばかりか楽しんでいるらしく、途端に恥ずかしくなって
慌ててこなたを解放した。

「ご、ごめん!苦しかったでしょ?」
「も~地震が怖いのは分かるけど、私はかがみんに絞め殺されるかと
そっちの方が怖かったよ」
「悪かったってば。その、つまりあれよ、こなたが不安にならないように
傍に居ようとしただけよ」

思わず言い訳するがこなたはニマニマしながら図星を指してくる。

「ふーん?その割にはかがみの心臓バクバクいってたけど?」
「なっ!?ちが…」
「しっかり胸に抱き寄せられてたからかがみの鼓動が
ダイレクトに伝わってきたよ」
「うわわ、それは…」

あれだけ強く抱きしめてしまっていたら心臓の鼓動も伝わるというものである。
どうにか悪あがきしようとするが、耳元で囁かれた次の一言でトドメを刺される。

「『私もう駄目!』」
「ッ!?」

やばい、聞かれていた。

「何が駄目なのかな~?」
「うー…。もうどうでもいいでしょ!それより片付けないといけないんじゃない?」
「あ、そういえば今メチャクチャになってるんだっけ。まぁ怪我が無いだけましか」

それもそのはず、辺り一面が割れた食器などで散乱した酷い現状を私たちは
忘れかけていた。気を取り直してテーブルの下から破片に注意しながら慎重に
這い出る。

「ふぃ~、しっかしあれだけの震度って結構やばいんじゃないのかな。
震源地近いんじゃないの?」
「つかさたちは無事かしら…。」

これだけの規模の地震となると当然周囲の土地にも被害が及んでいるはずである。
安否を確認するため、携帯電話を掛けてみるが案の定繋がらなかった。

「これって予想以上にまずいんじゃ…」
「ゆーちゃんたち平気かなぁ?お父さんは…イタリア行ってるから関係ないか」
「イタリアって…あんたのお父さん何しに行ってるの?」
「んっと、仕事の取材だかなんかって聞いてるけどあながちそれだけじゃないかもね?」
「まさか聖地巡礼とか?って今はふざけてる場合じゃないってば!」
「いやかがみが独りで勝手にノリ突っ込みしてるだけだし」
「うっさいわね。ゆたかちゃんは実家にいるの?」
「うん。まぁここに居るよりかはずっと安全だと思うよ。不幸中の幸いってとこかな」
「やれやれ、明日の学校どうなるんだろ?」
「考えていても埒が明かないし、とりあえず片付けようか」
「そうね…電話もしばらく繋がりそうにないし、じたばたしてもしょうがないわね」

 それぞれの家族や知り合いの安否を心配する余裕が出てきたところで、
私たちはぼんやりしながら掃除と片付けをようやく開始した。
突然やってきた日常の変化。これから先に何をもたらすのか…。




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  • 何をもたらすのか楽しみです -- 名無しさん (2008-04-26 14:02:44)

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