プロジェクト・こなかが そして時は動き出す

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 放課後になり、かがみがこなたのクラスに顔を出す。それは世の理に正しく則った行為であり、2人が連れ立って夕刻の街の中に消えていこうと、それを疑問に思うものは誰もいない。
 なので、今日もかがみは、さてこなたを誘って本屋でも行こうかな、と思いながらB組の扉に手を掛け、引き戸を思い切りと言うほど小気味良く引いて、
「オッス、こなた」
 と、声を掛けたのだが、
「あれ……?」
 そこに想い人の姿はなかった。
「あ、お姉ちゃん」
 と、代わりに声をかけて来たのはつかさ。隣には至高天に昇ったダンテですら見ることはついぞ叶わなかっただろう、と思えるほどの微笑みを満面に湛えたみゆきが連れ立っている。
「泉さんをお探しですか?」
 問われ、こくんと頷くかがみ。それを見たみゆきは、ああ残念と表情を曇らせて、
「泉さんなら先程、一足お先にお帰りになりましたよ」
 厳かに告げた。
「あのね、おじさんが取材旅行でいなくて、ゆたかちゃんが風邪を引いてお休みしてるんだって」
 と、つかさが言って、
「なので、看病が必要なんだそうです」
 みゆきが引き継ぐ。成る程ね、とかがみは納得して、
「じゃあ、しょうがないわね。今日は3人で帰りましょうか」
 くるり、と踵を返した。

「……で、アレが臭くってさ~」
「だよね、世界で一番臭いんじゃないかな?」
「そうですね。宇宙一かもしれません」
 等と、他愛もない会話を交わし、夕日によって長く伸びた影をお供に歩く帰り道。ふと、かがみが、
「こなたも、ゆたかちゃんの前じゃ、ちゃんと‘お姉ちゃん’してるのね」
 ポツリ、と呟いた。
 つかさもウンウンと頷きながら、
「今日も、ゆーちゃんが待ってるから先に帰るねって。凄い勢いで飛び出して行ったよ」
「そっか……」
 かがみは、微かに俯いてその表情隠す。
「どうかされましたか?」
「いや、何だか私の知らないこなたがいるな……って」
「もしかして、お姉ちゃん、寂しいの?」
 つかさの指摘に、勢いよく顔を上げ、
「そ、そんなわけないでしょ!!ただ、ちゃんとお姉ちゃんやってられるんだったら、普段からもうちょっと真面目に宿題にも取り組みなさいよって思っただけ」
 反論に次ぐ反論。しかし、英語で言うとBut、その声は段々と尻すぼんでいった。
 さて、そんな変化を気付いていながら殊更に指摘して場をより混乱させるKYはここにはいない。いるのは天然さんと、頭脳明晰な天然さんと、心優しいツッコミさん(ツンデレ属性を有す)だけである。
なので
「泉さんにとって、家族とは特別な存在なのかもしれませんね」
 言葉を繋げて会話を継続させるのだ。
「何で?」
 ?マークを3つほど飛ばしながらつかさ。そんなつかさを優しく、それこそ慈愛と言う言葉がこれほど似合う存在がいたとは、と思わせるほどの眼差しで見つめながらみゆきは言葉を続けた。
「泉さんは、お母様を幼い頃に亡くされています。ですから、身近にある存在の欠落、と言う事態についてある種のトラウマを抱えているかもしれません。
 母親。子どもにとって最大限身近で、愛情を注いでくれる存在。それがいなかった、とすると子どもの頃の泉さんは悩んだことでしょう。寂しかったことでしょう。
 ですから、身内と呼べるものに執着を抱くのかもしれませんね」
 全部憶測ですが、と言葉を締めくくったみゆきを、何か眩しいものを見る目つきで、
「そうなのかしら……」
 と、かがみ。
 みゆきは、軽く肩を竦めて、
「全部憶測です。泉さんの内面をシミュレートしてみただけ、本当は違うのかもしれませんしそうでもないのかも。人の心は難しいです。
 それより、私が気になるのは泉さんの体調の方ですよ」
「何でよ?アイツは毎日深夜アニメ見てネトゲして、それでもちゃんと学校来てるし。健康そのものじゃないの?」
 と言ったかがみに、みゆきは軽く目を見張って、
「泉さんのことは、私よりかがみさんの方が良く見てると思ったのですけど……」
「だから何で?」
「泉さんのお母様。そして、従姉の小早川さん。このお2人に共通する所は何か分かりますか?」
 う~ん、と唸るつかさ。ポクポクポクポク、と木魚が聞こえてくるようだ。
「あ、分かった!2人とも小さいよね」
「惜しいです。つかささん」
「え~と……じゃあ、胸がない?」
「……本人達聞いたら怒りそうだな~。っていうかもったいぶらないで言いなさいよ」
 分かりましたと頷いて、コホンと咳払い。
「お2人とも体が弱い点です。後はつかささんが仰ったように小柄です、その事が、体の免疫機能を弱めているのだと推測されます」
「じゃあ、2人と同じように小さいこなたは……」
「看病は結構重労働ですからね。場合によってはミイラ取りがミイラになるかもしれませんよ?」
 それを聞いて、かがみは微かに肩を震わせた。
 そして、何かを考えるように貝のように沈黙。貝類嫌いのはずなのに。でもそんなの関係ねえ。
「……決めた」
「え?何を、お姉ちゃん?」
「私、こなたの家に行ってくる!」
 言うが早いか脱兎の如く。突き抜ける疾風の如く。かがみは猛ダッシュ!!Bボタンは押しっぱなし。後には呆気に取られたつかさと、にこやかに微笑むみゆきだけが残された。
「ねえ、ゆきちゃん」
「はい。何でしょう?」
「こなちゃんって本当に体弱いのかな?」
 さあ、と眼鏡の位置を直しながら、
「極めて健康だと思いますよ?体育の成績もよろしいですし」
「じゃあ、今の話は?」
「あくまで、可能性のお話ですよ」
 しらを切った。

 ピンポーン。玄関のチャイムが鳴った。
 一回だけならまだしも、ピンポンピンポン……卓球じゃないよ、とでも言うように何度も何度も鳴らされる呼び鈴に閉口しながらこなたは玄関口へと向かう。
「はいはい。新聞なら間に合ってますし、布団も浄水器もいりませんよっと」
 扉を開け、適当な返事をしながら顔も上げずにさて用事は済んだと引き下がろうとすると、訪問者に手首をがっちりと掴まれた。
「こなたっ!!」
「ふぇ?かがみ?どったの、急に?」
 突然アポ無しで訪問してきた親友に軽く驚きながら、こなたが問い返すと、更に突然と、突然と言う言葉を後3回ぐらい繰り返すほど急に強い力で抱きすくめられる。
「あぁ……こなた、どこか痛くない?気持ち悪くなったりとか、してない?」
「かがみに締め上げられてる意外はいたって普通……てか苦しいよ」
「あ、ゴメン」
 パッと離れるかがみ。その名残を寂しく思いながらこなたは、
「で?どうしたの、急に?」
 改めて、質問する。が、しかしかがみの視線はこなたの体の輪郭を舐めるように辿っており、到底話が通じてるように見えない。
 そんなかがみの視線を受け止めながら、ポッと擬音を立てて顔を赤らめたこなた。それを気取られまいと敢えてそっぽを向きながら、
「と、取りあえず、来たんなら上がってく?お茶くらいは出すよ」
 かがみに否は無かった。

「どう、落ち着いた?」
 泉家、居間。差し向かいに腰掛けながら、コーヒーをズズ~っと音を立てながら啜る2人。さて一段落ついたと見えたところで、こなたはかがみに話を振った。
「うん。なんか、恥ずかしい所見せちゃったわね」
 クルクルと髪の先を落ち着かなく弄りながらかがみ。アポ無しで家庭訪問。玄関口でハグ。どう思い出しても顔から火が出る。
「いや、まぁ、それはいいんだけど。ホントどうしたの?急にさ。連絡無しでってかがみにしては珍しいじゃん?」
 再三の質問。あ~、とか言いながらかがみは、今度は鼻の頭を掻いている。
「えっと、まぁ、その……今日、ゆたかちゃん休んだんだって?」
「うん。風邪引いちゃったみたいでね。さっきまでみなみちゃん達もお見舞いに来てたよ。今は寝てる。ひょっとして、かがみもお見舞い?」
「え~っと、それもある、かも」
「かも?」
 今度は頬を掻くかがみ。いや、如何にも挙動が不審。目は泳いでいるし、心なしか冷や汗すらかいているようにも見える。
「? 今日のかがみ、何だか変だよ。ここまで煮え切らないのも珍しいね。ラノベの新刊を買おうか買うまいかで悩んでたのを見た以来」
 と、不審に思ったこなたがちょいと探りを入れる。じっと相手の目を見て……それが2分程続いただろうか、かがみの方が目を逸らした。
「あ~、分かった分かった!言うわよ!言えばいいんでしょ!!」
「ん。大変素直でよろしい」
「……アンタが心配だったのよ」
「……はい?」

 呆気に取られて、ポカンと口を開けて硬直したこなたに向かってかがみは、
「だ、だから!看病とか意外と重労働でしょ!それに、アンタのことだからまた夜更かしとかしてるんだろうし、
 ミイラ取りがミイラになるって言うか……あ~、もうっ!!」
 一気にまくし立てて、最後で思い切り紅くなった。先程のこなたがポッと擬音を立てたのならこっちはボッだ。
 半口開けてかがみの演説を聴いていたこなただったが、やがて口を閉じていつもの猫口を作ると、ニヤァっと笑う。
「成る程成る程。かがみんは私の為を思って家まで来て、さらには抱きしめてくれたと」
 うんうんと頷くこなた。
「そ、そうよ!で、体調は?どうなのよ?」
「ん。余裕、余裕余裕のよっちゃん」
 んふふ~と笑いながら、でも最後に、
「……ありがとね、かがみ」
 ポソっと付け加えた。今度はかがみが呆気に取られる番。
「え、いや、まぁ、その……」
「私のことそんなに心配してくれたんだね」
 フッと微笑むこなたの表情には、かがみをからかおうなんていう邪心はこれっぽっちも見出せなくて、
 部屋に差し込む夕日の加減で紅く染まって綺麗と形容する意外に言葉がなくて、それを見たかがみは、一瞬胸がキュンとしてしまった。
「い、いや……えっと、こっちも突然押し掛けちゃって、悪かったわね」
「いいって、気にしてないし。あ、でもゆーちゃん寝てるからさっきみたいな大声は無しだよ?」
「う、悪かったわね……」
 互いに顔を見合わせて、ぷっと吹き出す。そして笑う。でも小声でね。
 一通り笑い終わった後で、
「じゃあ、ゆたかちゃんのこともあるし、長居しないで私帰るね」
 と、立ち上がったかがみ。それを見たこなたが、
「え~、帰っちゃうの?かがみは私が心配できてくれたんじゃなかったの……ヨヨヨ」
 と泣き崩れる真似をする。したらば、しょうがないな、と肩を竦めて、
「そうね。アンタがちゃんと真面目に勉強するか心配だから、もうちょっと残ってあげるわよ」
 フッと笑う。すると、
「うぉっ!それはまた辛辣な……やっぱ帰ってもらおうか」
「ダ~メ。私はアンタが心配なんだからね」
「うぅ~……」
 ツンツン、とこなたの頬を人差し指でツッコミ役なだけに突付きながら、笑みを深くしたかがみ。
「じゃあ、これからどうする?」
「あ、ゴメンちょっと待って。夕飯の支度と、お風呂掃除に、後、洗濯機も回さないといけないから」
「はぁ!何それ!?」
 思いもかけない家庭的なこなたの言葉に、さっき大声禁止令をくらったにも拘らず、つい、うっかり、大声を上げてしまう。
 し~、と人差し指を口元に当ててかがみを諌めるこなたに、ゴメンと謝りながら、
「な、何で、そんなに沢山?」
「いや、だって今お父さんいないし、私だけだったら晩御飯要らないけど、ゆーちゃんいるしね。朝は時間無いから夕方に洗濯機回すの。んで、後ネトゲにインしてソロ狩りしながら、アニメ録画して――」
「あ~、最後のはいいから。でも、そんな事毎日してるの?」
「うん。お母さんいないし。家事分担しないとね。今日お父さんいないから全部私の役目」
 サラッと茶漬けを食べるようにこなたは言っているが、その言葉はかがみにとって自分の体重よりも3倍は重く感じられ、
 同時に、こなたの線の細さや性格からそこまでの家事の苦労を微塵も感じさせないけれど、やはりこれはこなたにとってかなりの負担なのではないか、と感じるのだった。
 んじゃ、ちょっと待っといて、と立ち上がるこなたの肩をぐわしと掴んで、
「ちょっと待った」
 と機先を制す。
「へ?かがみん?」
「私がお風呂洗いとかやるから。こなたは休んでて」
「え、でも……」
「いいから。夜更かし組のアンタがそんなに齷齪働いてたら倒れちゃうわよ。……いいわね?」
 最後の言葉はこなたの瞳を覗き込みながら、方頬に手を添えて。そして、こなたがコクンと頷いたのを見て、
「よし!」
 と言うと部屋を出て行った。1人残されたこなたは、
「ずるいよかがみ……あんな風にされたら、断れないじゃん」
 ポソっと呟くのさ。これがな。


「いやぁ、かがみんは家事に疎いと思ってたけど、まさかここまでとはね~」
「……わ、悪かったわね」
 キッチン。グツグツと煮えたぎる鍋の中にはぶつ切りにされた肉、野菜等が無造作に放り込まれて、強火に悲鳴を上げている。
 具材の悲鳴を無視しながら、鍋をかき回すこなたは。三角巾、エプロン。パーフェクトにてガッチャ!な料理用スタイル。
 一方、かがみは。
「それにしても、流石かがみ。メイド姿が似合うね~。眼福眼福」
「うっさい。じろじろ見るな」
 絵にしてお届けできないのが残念なほどのメイドルック。だが、決してかがみの趣味と言うわけではない。無論こなたの趣味ではあるが、強制したわけじゃない。
「もっとましな服なかったの?」
「あるけど、かがみサイズ合わないじゃん?お父さんのでいいなら貸すけどさ」
「う……それは遠慮しておくわ」
「でもさ、お風呂洗いに行って、石鹸で足滑らして転んだ上に、その拍子にシャワーの栓捻って、水も滴るいい女になるとは。流石つかさの双子の姉」
「……うぐぅ。言い返せん」
 まさにその通り。要約するとお風呂洗いで着ているもの濡らしたかがみの為に、さて着替えを用意しようとした所で、2人の体格差からサイズが合う服があるはずもなく、ゆたかも×。
 ならば、と用意されたのがこなたのコスプレコレクション。それがたまたまメイドだったわけなのさ。
「はぁ……こんな姿じゃ今日は帰れないわよ」
 溜息ついて肩落とすかがみに、後ろから抱きつきながら、
「ま、しょうがないね。洗濯機大急ぎで回してるけど、明日までは乾かないだろうし。泊まってきなよ」
「しょうがない、お願いするわ……って、抱きつくな」
「え~?さっきはかがみが思いっきり抱きしめてくれたじゃん」
「う~……」
 隣で煮えたぎる鍋の中身に劣らないほどに顔を熱くしたかがみ。若さ故の特権で後先を考えずに来たのはいいが、これは後数週間はからかわれるネタを自分の手で蒔いてしまったようだ。
「さて、卵粥もカレーも出来たし、ゆーちゃん起こしてきて食べようか」
 こなたにからかわれるのは癪だが、ま、これはこれでいいかなと思えるかがみだった。

「あれ臭いんですよね」
「そだね~、ゆーちゃんも気をつけなよ~」
「でも、ゆたかちゃんには縁遠いと思うけどね」
 食事中に相応しい会話じゃないが、食事は終わってるので無問題。
「ゆーちゃん、体大丈夫?」
「うん……」
「でも、ちょっと顔色悪いみたい。寝てきた方がいいんじゃないかしら」
「そだね。そうしなよ」
「はい……ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。んじゃ、ゆーちゃん寝かしつけて来るから、かがみはちょっと待ってて」
「はいはい」
 リビングから退出するこなゆたを見送りながら、
(やっぱり、ちゃんとお姉ちゃん、してるじゃない)
 と、かがみは思う。
(ゆたかちゃんには、ちゃんと見てくれるお姉ちゃんがいる。じゃあ、こなたには?)
 顎に手を当てて、次第にラノベで鍛えた妄想、いや想像力をフル活用した黙考へと沈んでいく。
(そういえば、成実さんもゆたかちゃんのお姉さん、なのよね。ゆたかちゃんには頼れる姉……まぁ、こなたが頼れるかは怪しいけど、いたわけだ)
「お待たせ、かがみ」
(でも、こなたは一人っ子なのよね。じゃあ、小さい頃はやっぱり寂しかったり、したのかな)
「か~がみん。お風呂沸いたよ」
(お母さんがいない。私には想像もつかないけど、こなたにはこなたなりに悩んだりしてたのかも)
「そだ、一緒にお風呂は入らない?」
(一緒にいれる私に、そんなこなたの寂しさを少しでも癒すことが出来ないかしらね)
「ね~、かがみ聞いてる?一緒にお風呂入ろうよ~」
(そう、一緒にお風呂入ったり――)
「……えいゃっ!」
「グフ!?」
 沈思黙考の海へと溺れていたかがみは衝撃と言う名の浮き輪を投げつけられて我にかえった。
「いった~……あれ、こなた?何時の間に?」
「さっきからずっといたよ。でも全然人の話し聞いてくれないし」
 ハリセンボンが危機を察知した時に膨れるのと同じように、こなたの頬も特に危機を察知したわけではないが膨らんでいた。口を尖らせ、ジト目でかがみを睨む。
「何ぼ~っとしてたのさ」
「な、なな、何でもないわよ。ささ、お風呂行こ~……」
 A☆HA☆HAと笑いながらこなたを促してリビングを出る。
 最初は某団長が如くに不機嫌な顔をしていたこなただったが、かがみが手を差し出すと、今までの表情を一転させ、餌を与えたら懐いてしまった仔猫のような表情でその手をつかんだ。

「うぃ~、極楽極楽」
「親父か、アンタは」
 もうもうと湯気が立ち込める密閉空間。42℃に設定された湯船は体を芯から温め、不安とストレスを解消し、微かな高揚感をもたらす。
 そう、高揚感。ちょっと浮かれた気分になると、人はバカをやりたくなるものさ。だから、こなたが手で水鉄砲の印を組み、かがみに向かってお湯を発射した所で、誰も責めることは出来ないだろう。
「きゃっ!?」
 急にお湯をかけられ、嬌声を上げるかがみ。こなたはニマニマと笑いながら、
「ねえ、驚いた?驚いたよね~?」
 等とからかってみる。かがみはちょっと怒った振りをしたが、直ぐに、
「お返しよっ……エイッ!!」
「ニギャッ!?」
 手狭な浴槽。避けられる空間等在りはせずかがみの二の舞を演じたこなたは、嬉しそうな顔を崩さないで、
「受けた痛みは、3倍にして返すっ!」
 更なる水激を繰り出す。かがみも負けるかと応戦し、もくもくたち昇る湯気が7割り増しになっても尚、水鉄砲の応酬は続く。
 そうこうしている内に、戦いの場は浴槽内から飛び出し、狭い室内を所狭しと、桶を盾にするなどとしたサバイバルゲームと化す。
 だが、やはり狭いのだ。いくら小柄で小回りが効こうとこの至近距離ではこなたはかがみに劣る。数分の後にはかがみに組み伏せられ、下に敷かれていた。
「ふっふっふ~♪チェックメイトね、こなた」
 こなたの上に圧し掛かりながら、勝利を確信したかがみはほくそ笑む。
「うぅ~……」
 顔を紅くしながらこなたが唸るのを敗北宣言と取ったか、ズイと顔を近づけて、
「どう?参ったって言いなさいよ」
 今度はかがみがニマニマとする番。いつもからかわれているんだ、ならこういうときに仕返しするしかないじゃないか!!
「……かがみってさ、時々大胆だよね」
「は?何がよ」
「分かんないならいいけど……」
 プイと、かがみの下でそっぽを向いたこなた。さて、湯辺りでもしたのかね?その白い裸身はほんのりと上気し、己が組み敷いていることすら忘れてかがみはちょっと心配になる。
「こなた?ひょっとして逆上せちゃった?もう出ようか?」
 そう言って、殊更に顔を近づけるものだから、こなたとしては、ねえ?ドキドキしてしまい、
「あ、う……」
「こなた?」
「うぅぅ~……」
 本当に逆上せちゃったとさ。

「大丈夫?」
「へーきだって、かがみ心配しすぎ」
 お風呂の騒ぎの後にこなたの部屋にて布団が敷かれ、いみじくもかがみが当初に泉家へと訪ねた目的は果たされることとなった。
(こなた……やっぱり体弱いんじゃ。お風呂にちょっと入っただけで逆上せるなんて)
 誰のせいだとは突っ込むまい。
 さて、こなたもかがみの心配そうな顔色を見て取ったか健康体をアピールする為、起き上がると。
「さてさて、ネトゲにインしようかね~」
 PC電源に手を伸ばした、が、その手首がグワッと掴まれる。
「ダメ!絶対!!」
「え~?かがみのケチ!」
「ケチでも何でも!今日はもう寝なさい。明日も早いんだからね」
 更にぶーたれようとしたこなただが、かがみの瞳に真剣の色を見ると肩を竦め、
「ハイハイ……全く、かがみがそんなに私と一緒に寝たいとはね」
「んなっ!!」
 逆上せたこなたの看病の為に忙しく、さて困った、かがみの布団は敷かれていない。なのに、もう寝ようとかがみは誘う。なら答えは一つジャマイカ?
「さぁ、いらっしゃい。かがみちゃん」
「かがみちゃん言うな!しかもまだ私メイド服のままだし」
「いいじゃん?‘お休みなさいませ、お嬢様’って言いながら一緒に寝る。まさにメイドの鑑」
「いや、だって皺になるとあんたが困るんじゃない」
「いいよ、別に。クリーニングに出すしね。それに私じゃ元々サイズ合わないし。なんだったらかがみにあげてもいいよ?」
「いらん!」
「あふぅ、私眠くなっちゃったよ」
 大欠伸をするこなたを見て、しょうがない、とかがみは目を細めると、
「しょうがないわね……寝るわよ」
 明かりを消す。そしてこなたの布団にもぐりこむ。
「おやすみ、こなた……」
 直ぐに、スゥと寝息を立て始めるかがみ。暗がりの中、それを見つめるこなた。
「今日は、ありがとね……かがみ、好きだよ」


「ゆーちゃんが風邪を引いた、と聞いて予定を切り上げてきたんだけどな……」
 と、電気の落ちた暗い泉家の廊下。こなたの部屋をそっと伺う変態……ではなく人影が一つ。
「いや、全く、君はこれを俺に見せ付けたかったのかな?」
 人影の正体は言わずと知れず、その道に精通する者なら(多分、恐らく)誰もが知っている、泉家が誇るスペッシャルでグレイティストな親父。泉そうじろう。
 そのそうじろうは携帯電話を耳に当て、誰かと会話をしている。会話の相手はくぐもった笑いを上げ、
『どういった感想をお持ちになりましたか?』
 問うた。そうじろうは、表情筋を一ミリも動かすことなく、
「仲のいい、友人。に見えた」
『それだけですか?』
「……君は俺を試しているのかな?」
 相手が受話器の向こうで息を呑んだのを、聞いてとりながら続ける。
「俺は確かに碌でもない親父で、オタクだ。娘にも影響を与えてしまったさ。だけど、趣味と現実の境界はキチンとしているつもりだ。だから……」
『だから?』
「もし、こなたとかがみちゃんが恋仲だとしても、それを認めるわけにはいかないんだよ……みゆきちゃん」
 そうですか、と会話の相手――みゆき、高良みゆきは呟く。
『正確には、今のお2人は親友です。友達以上、恋人未満だと言った所、でしょうね。今はそうでも先は違うかもしれない。もし、泉さんから、かがみさんへの想いを打ち明けられた時、おじさんは、今と同じ答えを返すおつもりですか?』
「……」
『泉さんだって、かがみさんだって常識的な方です。でも、常識を圧してお2人の想いが膨れ上がっているのは傍目にも分かります』
「だが、総ては可能性の話じゃないか」
『可能性だからこそ、あらゆる事態を想定したい。だから今ハッキリさせたい』
「答えが変わらないと、言ったら?」
『それが父親としてのお言葉でしたら、私が聞いてもし方のないことです。娘さんに直接言ってください。個人としてのお言葉でしたら、私はあなたの理解を得るのを諦めて、私なりの方法でお2人を応援します』
「……1つ、聞かせて欲しい」
『なんでしょう?』
「どうして君は、2人の事をそんなに応援しようとするんだい?」
 フッとみゆきが息を吐いた音が聞こえた。
『……親友だから。これが理由の総てで、それ以上でも以下でもありません。親友だからお2人には幸せな道を歩んで欲しい。私に出来るのはその手助け。これ以外に理由は必要ですか?』
 そうじろうもフッと息を吐いた。
「完璧な回答だよ……だが、俺の答えは今は言えない。こなたにその覚悟ができて打ち明けられた時、父親として、話をしよう。こなたと……かがみちゃんに」
『では、その時をお待ちしています』
 プツっと無機的な音を立てて電話は切れた。
 そうじろうは、今は寝静まった2人にそっと一瞥を加えると、泉家の仏壇の間まで移動し。かなたの位牌の前に座った。
「俺は、どうすればいいのかな……かなた」
 そっと、妻の写真に手を添える。
『本当は分かってるんじゃないの?そう君』
「だけどな、こなたにとって、かがみちゃんにもとって、それが本当に幸せなのか俺には分からないよ」
『そうね……私にも分からない。だけどね、そう君。私としてはこなたがもし望むなら、それを叶えたいって思うの。母親として何も出来なかった分』
「その結果、2人が茨の道を歩むことになっても、かい?」
『んもう、しっかりしてよ。親って言うのは何時でも子どもを守るものでしょ?もし、2人が選んだ道を歩んで壁にぶつかった時、お友達に総てを任せちゃうの?親は何もしなくていいの?』
「でも、茨の道を歩まないようにするのも、親としてできる子どもを守ること、じゃないか?」
 仏壇に捧げられた線香の煙が揺れた。それは幻想的で美しい軌跡を取り、でも、どこかしら苦笑めいた揺れ方だった。
『変わらないね、そう君。いつもは世間体を捨てた、なんて言ってたけど、本当は誰よりも常識人で、ちょっと頑固者、なのよね』
「今更変われないさ」
『ふふ……でも、時には本当に常識を捨ててみるのも悪くないんじゃない?』
「……」
『私には、出来ることは何もないけれど、一つ言えるのは、後悔しないでってこと。こなたも……そう君もね』
「かなた……」
『父親として、個人として、あの子のことを一番よく知ってるのはそう君なんだから。きっといい答えが見つかるはず。私は、見守っているから……』
「そうか……そうだな。俺が出した答えが、あの子達にとって最良となるように、な」
 呟いた言葉は、線香の煙を揺らしていった。



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