始まりと終わりの間に

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私はゆっくり廊下を歩くと、こなたの部屋のドアの前に立った。
(こなた…いるかしら…)
そっとドアを開けた。

「すぅ………すぅ…」

ベッドの上で、仰向けになって寝ている。寝息の音を立てるたびにお腹がふくらんだり、へこんだりしている。
邪気のない寝顔、柔らかそうな頬、細い腰つき、きれいな線の脚…。
これは反則だ。私が男だったら間違いなく道を踏み外していた。
(…やれやれ、友達が来るって言うのに)
遅刻した私が言う権利は無いのだけど。

机の上を見ると、DVDのケースが山のように積み上げられている。
(これを一晩で見たというのか…)
ここまでやるとは…執念だ。
部屋の隅には、高校で使っていたカバンや教科書、卒業証書の入った筒が無造作に放り投げられ、制服が脱ぎ捨てられている。
(こいつも結構だらしないなぁ…人のことはからかうのに)
ふと床を見ると、A4サイズの印刷用紙が落ちているのに気づいた。
(何だろうこれ…?)

 『かがみへ
     この手紙を読んでいるということは、部屋に入って来たということだね。
     私は徹夜してしまったので、眠くてしょうがないよ。
     とりあえず二、三時間経ったら起きるかもしれないから、適当に漫画でも
     読んでいてくれたまへ~。

                                (=ω=.)』
パソコンで入力された文字が並んでいる。
(何だこれは…しかも最後の顔文字は何だよ。大体、鍵も閉めずに寝るなんて、泥棒が入ったらどうする気だ…)
どうやら、家にはこなた以外誰もいないらしい。
つまり、私には泉家の安全を守る義務が出来たという事だ。

うん、間違ってないわよね?文句があるなら今すぐ名乗り出なさい。


「…ふぅ」
部屋にあった漫画を数十冊読み終えた。
小さい頃から読書しているせいか、活字を読むのは結構早い。
文字の少ない漫画だと、ほとんど時間を時間をかけずに読み終えてしまう。
(もっと絵を楽しまなきゃって言いそうだな、こいつは)
家に来てから三時間近く経つが、こなたは全く起きそうにない。
(どうしよう…起こしたほうがいいかな)
そっとこなたに顔を近づけた。
(大人しくしてれば、モテそうなんだけどな。まぁ、普通の男じゃ付き合えないか)

恋人

よく考えたら、色恋沙汰は三年間、一切なかった。
別に避けていたわけではないのに。
なぜだろう。気がつけばこなたたちと一緒にいた。

どうしてだろう。楽しかったからだろうか。

本当にそれだけ?
こなたは私にとっての何?
なんでいつもあんなに世話を焼いたり、学校の外でも一緒だったの?
私の読みたい本なら、近所の本屋でも買えるじゃない。なんでわざわざこなたの趣味に付き合ったの?
ただの友達がそこまでするの?

心の中でもう一人の私が、何度も疑問を投げかける。

分かっている。自分の本心は。
こなたとはただの友達で終わりたくない。
もっと深い関係になって、二人だけの時間を過ごしたい。
ちょっとやそっとのことじゃへこまないし、場の空気を和ませてくれるし、甘え上手で愛らしい。
そんなこなたが好きなんだ。

「ん~…」
小さい体がもそもそと動き出し、ゆっくりと起き上がった。
「あ…かがみ…来てたんだ」
「えぇ…お邪魔してるわ」
ぼんやりした様子で、口元から少し垂れているよだれを手で拭った。
「ふぅ…今お茶入れるよ…」
「あ、ありがと…」
よろよろと歩きながら、部屋の外へ出て行った。
「ふあ~ぁ……」
あくびの声がここまで聞こえて来た。どうやら、まだ眠いようだ。
(やっぱり、迷惑だったかな…)
自分の行動を少し後悔した。

「んで、どうしたの?なんか思いつめてるみたいだけど…」
コップのお茶を飲みながら、眠そうな声でこなたが言う。
「…怒らないで聞いてくれる?」
「じゃあ笑いながら聞きましょう」
「…何でもいいわ。とにかく、話したいことがあるの」
「ん…?」
こなたも少し真剣な表情になった。恐らく、私がかなり辛そうな顔をしているのだろう。
「なんかね…ずっと引っかかってたの。自分の中で」
「ふんふん」
吸い込まれそうな目で私を見つめる。駄目だ、もう余計なことなんか考えられない。
「単刀直入に言うわ…」
「ん?」
「こなたが…好きなの」

「……はい?」
「好きなのよ!」
顔と胸が熱い。心臓の動きと音がはっきり分かる。
こなたはただ、呆然とした顔をしていた。
「あんたのこと、ずっと好きだった!今も部屋の壁にプリクラ貼ってるし、あんたが夢の中に出てきたら、それだけで最高の気分だったわ。不器用な私を、ツンデレなんて面白い呼び方で呼んでくれたし…そりゃ、たまに鬱陶しいと思うこともあった。でも私を頼ってくれて本当に嬉しかったのよ!」
「かがみ…」

「昨日、私に抱きついてきたでしょ、あの時、心の中に溜まってたものが一気に噴き出したのよ。夕べからずっと、あんたの事ばかり考えてるの」
「…」
「もうどうしようもないの!こなた、どうすればあんたは振り向いてくれるの!?」
「……」
こなたは何も言わず、ただ私をじっと見つめている。
「ねえ!なんとか言ってよ!」
「…いや、その…動揺しちゃって、何がなんだか」
「私は本気なのよ。お願い、わかって…」
そう言うと私は、こなたに近寄り、肩を鷲づかみにした。
「ちょっと…かがみ……どうしたのさ、ねぇ…んっ」
こなたの唇を、強引に奪った。
柔らかくて、暖かい。
こなたはただ、床に手を着いて、私の体を支えている。

どのくらい、そうしていたかはわからない。ただ、とても長い時間だったような気がする。
私は唇を離すと、黙ってこなたの顔を見た。
ただ、呆然としている。何が起こったのかわからないという顔で。
「かがみ…落ち着いた?」

落ち着いただって?
私は何も、欲望のはけ口としてこなたを見ているわけじゃない。
これじゃ、完全に空振りだ。
自分をを突き動かしていたものが煙のように消えてしまい、空しい気持ちが一気に噴出してきた。
「…ごめん、迷惑だったわよね」
「え…?」
「女同士で…一体何考えてるんだろうね私…」
「…」
「本当にごめんなさい!」
私はそう言うと、こなたの部屋を走って飛び出し、靴紐も結ばずに表へ飛び出した。
こなたの顔を見ることが出来なかった。
すぐにでも、この場から逃げたかった。

「…」
かがみの飲み残しのお茶を眺めながら、私は一人でぼんやりしている。
さっき起こった出来事が何だったのか、全く理解できない。
『好きなのよ!』
この一言がずっと頭の中を駆け巡っている。

一体、どういうことなの。
かがみが私を、友達じゃなくて、恋人として意識していたってこと?

「かがみはさ…私の大切な友達だよ」

卒業式に自分が言ったことは覚えている。かがみは私が今まで出会ってきた中では。一番のよき理解者で、友人だと思っていた。その気持ちは今も変わっていない。
だが…かがみはそれ以上の感情を私に持ってしまったと言う事なのだろうか。

(…一体私は、かがみにとっての何?)

頭が全然働かない。考えがまとまらない。
私は布団に潜り込んだ。
夕飯まで寝てしまおう。そうすれば、気分も晴れるはずだ。

真っ暗な空間、私の周りだけ、薄ら明るい。光源はわからないが。
目の前に、前髪で目が隠れた、青髪の小柄な少女がいる。
『かがみを傷つけちゃったね…』
「え…ちょっと、誰?」
『こなただよ』
「は?何言ってるの?」
『残念だったね、せっかくいい友達が出来たのにね…こんな形で終わっちゃうなんてね…』
「そんな、違う!」
『違わないよ、ありゃ相当ショックだろうねぇ…もう顔合わせられないかもね…』
「そんな…」
『いいじゃない、友達なんかいなくたって生きていけるよ…』
「嫌だ…そんな…」
『あんないい子と一緒に三年間過ごせたんだよ、それだけでも良かったじゃん…』
「…」
『気にすることは無いよ…ゲームやアニメがあれば十分じゃないか…』

「…嫌だ」
『私にはふさわしくなかった、そういうことなんだよ…』
「…やめて」
『これから、ずっと一人ぼっちで…』

「うるさい!!!!!だまれ!!!!!!!!!」
「うわぁ!」

窓から日が差している。
体中、汗でぐっしょり濡れている。喉がカラカラだ。
そして、驚いた顔をしたお父さん。
「こなた…大丈夫か?ずいぶんうなされていたが…」
「あ…ごめん」
「夕べも起こしたんだが、全然起きなくてな。昨日の夕方からずっと寝ていたんだから、よほど疲れていたんだな…」
なんという事だ…。道場に通っていたときも、こんな事はなかったのに。
「ま、とりあえず、ご飯の支度してるから、そろそろ下りて来なさい」
「あぁ…ごめん、そう言えば今日私が作るんだったよね」
「うーん、まぁ、たまにはいいさ。受験勉強の疲れが溜まっていたんだろう。その代わり、この前買ってきた新刊、ちょっと貸してくれないか?」
「え…あれはまだ手をつけてな…」
「いいじゃないか、頼むよ」
うーむ…。なんか、ダメだな…今の私。

とりあえず、汗を洗い落とすために、シャワーを浴びることにした。
風呂場で自分の髪を見ると、そこにはメデューサのような頭の自分がいた。
「うわ…ひどいなコレ、アホ毛ってレベルじゃないよ…」
蛇口をひねってシャワーを出して、体中にお湯をかける。
(うーん、昨日のかがみは一体何だったんだろう……)
もっと、気の利いたこと言えばよかったかな。

朝食を済ませると、特にすることも無かったので、部屋に戻って漫画を読むことにした。
(結構お父さんに持っていかれたなぁ…えぇと、コレがいいかな)

…………

……………

(やっぱりかがみのことが気になる!!)
11時過ぎ…この時間なら起きているだろう。
携帯電話のボタンを押して、かがみに電話してみた。
呼び出し音がしばらく鳴ると…
「こちらは、N○Tド○モ留守番電話サービスセンターです。合図がありましたら…」
(どうしたんだろう、あの真面目なかがみが…まさか今日も朝寝か)
発信音が鳴ると、用件を話した。
「もしもし、なんか昨日は色々あったけど。とりあえずコレ聞いたら連絡くださーい」
これでいいはずだ。きっと、何らかのアクションがあるはず…。

お昼過ぎになった。
まだ何も言って来ない、メールもない。
さすがにちょっと心配になった。
(かがみが気づかないとは思えないんだけどな…う~ん、つかさに聞いてみるか)
つかさの携帯電話にかけてみると、また呼び出し音の後に留守電のサービスセンターに繋がった。
「あ、つかさ、ちょっとかがみに用があるんだけど電話出ないから、私から電話あったって伝えといてくれないかな?よろしくー」
(つかさもか…どうしたんだろう)

(まさか…私を避けてるんじゃ)
不安が胸をよぎった。
ベッドの上に寝転び、天井をぼんやり眺めた。
(私って、一体どういう人間と思われてたのかな…)
初めて世間体というものを気にしてみた。

どのくらい経っただろうか、携帯電話の着信音が鳴った。
(ん?メール??)

From:つかさ
Subject:やっほー☆
遅れてごめーん。今お菓子作ってて、手が離せないんだ。
お姉ちゃんはさっき出かけたよ。
ケータイ忘れてったみたい。帰って来たら、電話するように伝えておくよ。

(良かった…)
どうやら、特に変わったことが起きたわけではなさそうだ。
(…オンラインゲームでもやるか)
PCの電源を入れて、起動させた。
(あ、そう言えば…キス…したんだ)
ギャルゲーやネットでそういうシーンは見慣れているが、現実に自分が経験するとは思わなかった。
(かがみの唇、やわらかかったな…あぁ、なんか、結構大胆なことしちゃったな昨日…かがみって理性崩壊するの早すぎ!!!)
今になって急にドキドキしてきた。
(友達と思ってたら、いきなりキスですよ…すごいことだよコレ、てか私、別に罪の意識持たなくていいんじゃないか…変な夢見たせいだな)
少しずつ冷静になってきた。そうだ、よく考えれば、寝ているときにいきなりやって来て、キスまでしていくなんて…ギャルゲーでも無かった気がする。
(うーん…でも、嫌じゃないな、何でだろう…もう一回してほしいかも…)
色々と考えていると、夕方になっていることに気づいた。
(あ、もうこんな時間だ、夕飯の支度しなきゃ)
PCの電源を切ると、台所へ向かった。

その夜、かがみから電話が来た。
「もしもし、こなた…」
「やふー、元気にしてるかい?」
「…うん、あの、昨日はごめんね、いきなり変なことしちゃって」
「気にしない気にしない、別に怒ってないし。大丈夫だよ」
「え、ホントに…?」
「いつものかがみんらしくないぞ~、あのツンデレっぷりが好きなんだけどなぁ」
「う…やっぱり、はっきり言われると恥ずかしいかも…」
「おぉう、デレデレのかがみ様~~~」
「う…うぅ…」
「ところで、明日私に付き合ってくれないかい?」
「え?いいけど…」
「よしよし、それじゃあ、アキバに10時集合ね」
「やっぱりそこか…」
「当然~~♪」
「…ったく、あんたからオタクを取ったら何が残るのかしらね」
いつものかがみに戻ってきた。これでいい、かがみはこうでなくちゃ。

「そういうことでよろしく頼むよ。」
「はいよー、寝坊するんじゃないわよ」
「ほほう…人のこと言えるのかな?」
「う…わ、わかってるわよ!ちゃんと行くわ!」

その後も、色々と話して、電話を切った。
明日が楽しみだ…。




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