a lie or truth ?

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夢の中にあった意識がゆっくりゆっくり現実へと引き戻されていく。ぼんやりと、未だけぶる頭の中に
最初に聞こえてきた音は、カタカタと軽やかにパソコンのキーを打つ音と、数度聞いたことのある
とあるネットゲームのBGMだった。
薄目を開けて確認すると、そこにはやはりパソコンの前に座り、キーボードも見ずに
パーティーの誰かと話しているこなたの姿があった。


――今日は確か。春休みも終盤に入ったからと、こなたと一緒に午前中宿題をして。
午後になって漸く一段落がついたし、なによりこなたの集中力が切れてしまったから
私でも何とかこなたと張り合えるゲームを少しだけして。
それから。――それから。…そうだ。もうちょっとで終わる恋愛系のゲームがあるからと、
そして私はそういったジャンルのゲームに興味がないからと、こなたのベッドで
前に来た時に気になっていた本を読んでいて――。
起き抜けのせいか、それとも半分寝ぼけているせいか、あるいはその両方共か。
いつもより働かない脳みそを懸命に使って出した答えはひどく単純なものだった。


ここ一週間ほどで急激に高くなり始めた気温は、河川敷や公園に等間隔に植えられた桜の蕾をやはり
急速にほころばせていて。それは今日も例外ではなかった。一ヶ月前コート無しでは
外など出られなかったのが嘘のように、一気に季節は春へ変わろうとしている。
遮るものなど何もない青空に浮かぶ太陽は、こなたの部屋の窓と純白のレースを透過して
程よいぬくもりを与えてくれている。お昼ご飯を食べた後ということも
原因の一つだったのだろう。
どうやら本を読みながら眠ってしまったらしい。

察するに、こなたがやりたいと言っていたゲームは終わっているのだろう。あれはパソコンで
やるやつじゃなかったから。となると一体何十分、いやもしかしたら何時間ぐらい
寝ていたんだろうか。思考の切れ端にそんな疑問があったけど、無視してまた目を閉じることにした。
覚醒と無意識のまどろみの時間というのもこれはこれで心地よい時間だったし、こんな機会でもなければ
こなたのベッドに寝るなんてそうそう出来る事ではないから。
そこまで考えて、どっと自己嫌悪の念が押し寄せた。これではまるで、まるで変態か何かみたいじゃないか。
好きという気持ちはもっと純粋で、綺麗なもののはずなのに。

女の人は身体的な触れ合いよりも気持の繋がりを大事にするというけど、場合によりけりだな
と思う。恋しいとこなたを想う気持ちは、私とこなたが同じ性別である以上
隠し通していかなければならないものだと思うし、それは自分のためというよりも
こなたのためだった。ずっと私だけを見て欲しいだなんて
こんな身勝手で凶悪な気持ち、こなたにぶつけてしまったら。
だけど、自制することでますます想いが強くなっていくのもまた、事実だった。
どうすればいいんだろう、それが私のこのところの目下の悩みだった。

ふと気づくと、キーボードを叩く規則正しいリズムが消えていた。飲み物でも取りにいったかと
暢気に考えていると、やけに私に近いところできし、とベッドのスプリングの軋む音がした。
「――――っ!!」
声を出さなかったのは、我ながら上出来だと思った。パソコンの電源が消された今、耳を澄ますと
呼吸音まで聞こえる、そんな距離にこなたが居るのだ。
くふ、とこなたが喉で笑う声が聞こえた。

「あー、かがみん寝ちゃったんだ。あったかくなったもんねぇ。
……放っておいた私のせいでもあるか」
それにしても寝顔可愛いよね、なんて言いながらこなたはベッドに腰かけ、私の前髪を
梳いて来る。さらさら髪が指をすり抜け、下に流れて。
瞼がぴくぴく動きそうになるのを必死で押しとどめる。自ら触れることが出来ないなら
せめて、これぐらいなら。

「全然起きる気配ないね。………そうだ」
いかにもいいこと思いつきました、みたいな声音で呟いたかと思うと私の上でこなたが
動く気配がした。シーツだろうか、何かの衣擦れの音とスプリングの音。それが
私の左右から聞こえて――ということは考えられる体勢は――。こなたが私に覆いかぶさっている?
目を瞑っているから本当の事はわからないけれど、その認識は私を混乱に陥れるには、十分すぎる
破壊力だった。そしてもう一つの爆弾が落とされる。
「お姫様を起こすには王子様のキスが必要なんだよネ」


…誰が?――こなたが。

…誰に?――私に。

…何を?――キスを。

きゅうう、と胸が締め付けられる。それは、想い人に図らずもキスをされるかもしれないという
期待感もちろんあったけれど、こんな風にしてキスを、それも人生初経験のキスを
してもいいのかという罪悪感もあった。それでも、期待感の方が勝ってしまったのは
恋ゆえ仕方のないことなのだろうか。
どくどく勢いよく全身に血液を送り出している心臓に念じる。出来ることならなるべく
ゆっくり鼓動を刻んで欲しいと。
こなたにこの音が聞こえてしまうから。気づかれたくないから。
起きていると気づかれてしまったら、夢みたいなこのひと時が終わってしまうかもしれないから。

こなたの吐いた息が唇の辺りにかかる。それが、私とこなたとの距離の近さを感じさせて
またどきどきしてしまう。こなたは体が小さいから、私との間もそれほどあいていないはず。
気取られない程度に手を握りその時を待つ。ふ、とこなたの息を止める気配が伝わってきて
私も身を硬くした。

けれど、いつまで経っても柔らかい感触が下りてこない。気になってしまって
少しだけ目を開けると、見慣れたニマニマ顔が私を見下ろしていた。

「あは、やっぱりかがみん起きてた」
「………いつから」
「んー、髪撫でた辺りから?かがみすごい勢いで真っ赤になっていくんだもん。
気づかない方がおかしいって」
「………」
しまった。こういう奴だった。自業自得とはいえ、何であの時さっさと
起きておかなかったのかと後悔する。こうなってしまったら後はからかわれるだけなのに。
だから、先手を打つことにした。こなたに主導権をとられてしまったら、
平静でいられる自信なんてこれっぽっちもありはしないしないのだから。
「…なんで、あんなこと言ったの」
「ありゃ、意外に冷静だね。あせりまくるかがみが見たかったのに」

やっぱりそんなことか、と半ば呆れの意味をこめてため息を吐いた。この手の悪戯は
良くある事で、そのたびに心臓が高鳴って、一人でどきどきして。
裏切られた気分になる。本人にはそのつもりがないんだから、こなたには
非がないのだけれどどうしてもそう思わずにはいられなかった。
「あとは、あれだね。かがみ今日何月何日か解る?」
「そんなの4月1日に決まっ…――エイプリルフール…」
「そ。…でもあんまり引っかかってくれなかったけどね」
ほら、やっぱり。こなたは私のことを『仲のいい友達』ぐらいにしか思っていなくて、
だから平気でこんなことも出来る。今一度、私のこの想いは異端だということ、届かない想い
なんだということを突きつけられているようで心が痛む。

「何度もこんな事されてたらそりゃ慣れるわよ」
嘘。内心は嵐みたいに荒れ狂っているくせに。痛みと想いを隠して私も嘘を吐く。
だって、今日はエイプリルフール。これぐらいの嘘は許されるはずでしょ?
「で、あんたはいつまで乗ってんの。終わったんならさっさと退きなさいよ」
ん、ちょい待って。と起き上がろうとした私をこなたが制止する。
正直言って早く退いて欲しかった。ただでさえいつもよりも近い距離だというのに
さらにこんな体制。こんな恋人同士、みたいな。
こなたはこなたで私の上から退く気配を見せず、ここまでやってもだめかぁ…
とかなんとかぶつぶつ呟いている。
「こなた!」
とうとう焦れて少し大きな声で呼ぶと、こなたは私の声が聞こえてないかのように、
そして何かを決心したみたいにうんうんと頷いた。
「あのね、かがみ。私はね、ずっと前から知ってたんだよ」
「……何を?」
「私もずうっとかがみだけを見てたから」
私の疑問を呆気なく無視してこなたの独白は続く。私も、この話は聞いておかなければ
いけないような気がしてこなたの言葉に集中することにした。
「でもね、私どうしてもかがみから言わせたくて。告白するよりされたい
乙女ゴコロってやつかな。で、色々してみたわけですよ。前よりも
抱きつく回数増やしてみたり……エイプリルフールにかこつけてキスを誘ってみたりね。
…まぁ、でもその激ニブな誰かさんは全然私の想いなんか気づいてくれないわけ」
「というわけで、私としては先にかがみんが我慢出来なくなるかな、と思ってたんだけど」
どうやら計算違い、と小さくこなたが舌を出した。

待て。

待て待て。

状況が目まぐるしく変わっているせいか、理解が追いつかない。今の私はひどく
間抜けな表情をしているに違いない。えぇと、端的に言うと私とこなたの気持ちは
同じということでいいんだろうか。震える声で聞くとこなたが軽い調子で
そうそう、と返す。
「…それも、エイプリルフールだから?」
まだ不安でこなたを下から見上げて問う。こなたは困った顔をして一つ息を吐いた。
「違うよ、かがみ。ああもう、私のせいだなー…。もう少し真面目に口説いてればよかった。
――好き。かがみが大好き。この気持だけは、嘘吐けないよ」
ぶわっと涙が滲んでこなたの姿が不明瞭になるのと、こなたの慌てた声が
聞こえたのはほぼ同時だった。
「ちょっ…!泣くのは反則だよぉ」
必死な声が、何故だかとても嬉しくて。さっきのが嘘なんかじゃないって言うのが
伝わってきて。握ったままだった手を緩めてこなたの背に回して思い切り引き寄せた。
「わ…」
面と向かっては恥ずかしいし、私の性格じゃ一度しか言えないから。
その代わり万感の想いをこめて。

「私も、好き、だから。あんたのこと大好き、だから」
「ん…」

暫くそうやって抱きしめあっていたけれど、不意にこなたが声を上げた。
日差しは西の空へと傾き始めていて窓から入る光も弱くなっている。こなたから
与えられる体温が心地よくて、そしてそれをまだ感じていたくて
離れようとしていたこなたの服の裾を思わず掴んでしまった。
「…あ、違っ!これは、その、そんなんじゃなくて…!」
慌てて離したけれど、無かったことにはならない。こなたがまた、喉の奥で
小さく笑った。
「やっぱりかがみんは寂しがり屋で甘えん坊のウサギさんだネ。
大丈夫だよ。まだ離れないから。ねぇ、ところでさっきの嘘じゃなくしてもいい?」
さっきのって一体何、と問いかけようとしたところで一つだけ思い当たった。
私も嘘を吐いたけれど、こなたも一つだけ吐いていた。つまり、遠まわしに
本当にキスしてもいいかと聞いているのだ。私が我慢できなくなると
思われていた事は心外だったけれど、この際水に流してやろう。

「…解りきったこと聞かないでよ。その代わり、は、初めてなんだから
優しくしなさいよね…!」
「さすがかがみん、こんな時でもツンデレとは…。…仰せのとおりに、お姫様」

最初のやり取りを律儀に覚えていて、畏まった口調のこなたにくすりと笑みを零す。
ツンデレじゃないとか、そういうことは今日だけは置いておこう。瞼をゆっくりと閉じると
柔らかくて暖かいこなたの唇が私の唇に落ちて。そうして、私たちは初めてのキスを交わした。

もう不安にならない。

心配もしない。

好きだといってくれたその言葉が嘘じゃないんだと、心と体で解ったから。




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コメント:
  • こういゆーの好き! -- GJ (2014-08-23 23:53:19)
  • なんかこう
    フヒヒって感じになった -- 名無しさん (2010-08-27 12:10:03)
  • エイプリルフールネタのSSは数々読ませていただきましたが、
    これは良いですね~。
    こういう作品好きですよ。 -- kk (2010-04-29 17:51:41)
  • なんか甘〜い雰囲気が漂って来ます -- 名無しさん (2010-04-29 09:00:03)
  • ドキドキ感が伝わってきますね -- 無垢無垢 (2008-12-25 22:22:53)
  • こーいう雰囲気の小説が大好きですね♪
    読んでて温かくなります! -- チハヤ (2008-12-20 22:05:44)

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