雨が冷たい。肌がヒリヒリする。指がかじかむ。私の中に温かさはない。
私の胸にポッカリ空いた空虚に吸い込まれるように、春雨が降り注ぐ。
私を責め立てるように。
こなたの温度をかき消すように。




私がこなたに出会ってから3年。私達は陵桜学園を卒業した。

「早かったね。高校三年間。お姉ちゃんやこなちゃん、ゆきちゃんと居たからかな?」
「そう考えるととても感慨深いですね。」
「つかさやみゆきさんはロマンチストだねー。ま、かがみはどうか分からないけど。」
「うるさいわね。私だって少しぐらい感傷に浸るわよ。」

少しぐらいじゃなかった。たくさん、たくさん、胸にくるものがあった。
思い出が多過ぎて、私に刻みきれないくらい、たくさんの幸せがあった。
それはもちろん日下部達ともそうだけど、やっぱり。

「私、皆と同じクラスにはなれなかったけど、楽しかった。
胸を張って大人になったって言える。皆ありがと。」
「お姉ちゃん・・私も凄く楽しかったよ。専門学校に行っても、おばーちゃんになっても忘れないよ。」
「私もです。泉さんやかがみさん、つかささんとの思い出、大事にします。」
「忘れない・・私は皆がくれた萌えを決して忘れない!」
「はいはい、こなたらしいわね。」
「最後ぐらいもっとデレていいんだよ?かがみ。」
「う、うるさいわね!」

4人で笑い合った、高校最後の帰り道。ずっと続くと思ってた。
皆それぞれの道を歩み初めて、少しずつ変わるだろうけど、
つかさがいて、みゆきがいて、そしてこなたがいる。
ずっとずっと一緒に笑い合える。そう、信じてた。

『で、かがみは一人暮らしにするの?』

ほぼ毎日していたこなたとの電話。卒業した日の夜もこなたの声を受話器越しに聞いていた。

「まーね。家からだとちょっと不便だし。」
『寂しくなったら逢いに来ていいんだからね?』

正直寂しくないって言ったら嘘になる。でも私は素直になれなかった。
今なら素直に言えるのに。
失ってから大事なものに気が付くって本当だった。

「さ、寂しくなんてないわよ。・・ちょっとつまんなくなるだけよ。」
『素直になれないかがみは可愛いなぁー。まさにツンデレ。』
「うっさいわねー。」
『ねぇかがみ?』

私は名前を呼ばれるのが好きだった。こなたが発する『かがみ』という単語が好きだった。
柔らかくて、心地よくて。眠くなるように温かい。こなたはそんな風に私の名を呼んでいた。
でも今思い出すと、この時のこなたの声は、泣きだしそうな少女のように、震えていた。

「何よ?たまにはデレてって言われても無理だからね!」

この時の私には、震えたこなたの声に気付けなかった。気付いてあげられなかった。
そしてこんなバカらしい事を口にしていたんだ。

『んーん、何でもない。・・・ねぇ、明日遊びにいかない?』
「いいわよー。どうせ暇だし。」

今でも腹が立つ。のんきに返事をした自分に、こなたの声の変化に気が付かなかった自分に。

「んーおいし。」
「相変わらずケーキ好きだねーかがみは。太るよ?」
私達はいつも通っていたケーキバイキングに足を運んだ。
こなたとの思い出もここにはたくさんあった。

「いーのよたまには!こなたも食べないと損よ?」
「いやー私はもうお腹いっぱいだよ。かがみのその弛んだ顔を見れただけで。」
「な、何言ってんのよ!?」
「照れるかがみも萌えるなー。」
「あんた結局三年間変わらなかったわね。まぁそれがいいんだけどね。」

そこがこなたのいいトコだと思った。無邪気な笑顔でアニメやゲームの話をしてくる。
そういうトコが好きだった。

「さ、次はどこ行きますか、かがみ様?」
「そーねー・・こなたはどこ行きたい?」
「じゃとりあえずブラブラしない?大学に入ったら逢える時間もへっちゃうからね。
いまのうちに思い出作り。」
「ブラブラのどこが思いで作りだよ。」
「まぁいいじゃん、行きましょーかがみ様。」
「様をつけるな!」

ごめんね、こなた。
こなたがブラブラするのが思い出作りだって意味が分かったのはついさっき。
こうやって、私はこなたを傷つけていたのかな?
今とても悔やんでる。ずっとこなたの近くにいたのに。三年間もいたのに。
大事な人なのに。

「・・・でね、あっ、雨?」
「雨、だね。」
「どっかで雨宿りしよう?こなたんちも私の家もあんま近くないから。」
「だね、じゃあの公園の広場まで競争!」
「あ、まてこら!!」

久しぶりに全力で走った。受験勉強でカラダが鈍っているはずなのに、体が軽かった。
横には私に気を遣いながら走るこなた。だから、爽快な気分だったのかもしれない。

「はぁっ・・・はぁっ・・あーっ冷たい。結構濡れちゃった。」
「かがみ大丈夫?」
「うん、でも少し寒いかな。」
「じゃーこうしよー!」

春雨で濡れた背中に温かいぬくもりを感じたのを覚えている。いつも感じていた確かな温度。

「どう?背中合わせ。結構萌えない?」
「質問違うだろ。普通温かい?とか聞くだろ?」
「あーあったかい。」
「無視かい。でも何もしないよりはマシね。」

春雨は少しずつ雨脚を強くして街を濡らしていく。
雨の音の他に2つの鼓動が私の耳に響きわたる。私とこなたの間にはちょっとした沈黙が流れる。

「かがみ。」
「んー?」

沈黙を破るこなた。
こなたがどんな顔をしているか私には見えなかった。
そして、雨の音をかき消す、か弱い声が私に届いた。



「好き。」



2つの鼓動が一瞬止まったように、感じた。
雨の音が聞こえなくなった。たった2つの言葉を並べた単語によって。

「・・・え?」
「好き。私、かがみが好き。ずっと、かがみの傍にいたい。」

この時の事はよく覚えていない。ただ好きという単語の意味を考えていた。

「気が付いたら、いつも傍にかがみがいて、私を助けてくれていた。」
「・・・」
「かがみを見ていると胸が苦しいんだ。あー、これが恋なんだって思った。」
「こなた・・・」
「最後まで聞いて!女の子同士なんておかしいよね?私も何度も思った。
でも、理屈じゃないんだ。かがみが好き。上手く伝えられないけど・・・
もっともっと、伝えたいことあるのに、言葉がでないんだ・・・」

こなたが私を・・・好き?
私は?こなたをどう思っているの?
親友?好きな人?
そんな事が頭をぐるぐる回っていた。それで、何も話せなかった。

「・・・」
「かがみは、私のこと、キライ?」

分からない。分からない。分からない。分からない。私がこなたに抱いている好きと、こなたが私に抱いている好き。
ずっと親友だと思ってた。
ずっと笑いあえる大切な人だと思っていた。
錯乱していた私は、一番残酷な答えを、こなたに出した。

「ぐすっ・・ひっぐ・・ぐすっ・」
「か、かがみ・・・ごめん・・・」

いつの間にか、泣いていた。目から涙が、止まらなかった。こうやって私は悲劇のヒロインを演じた。
最低だ。私はこなたから逃げたんだ。泣く、という最低な方法で。

「泣かせてごめん。いつも迷惑かけちゃうね。なんでだろうね・・・」

違う、違う。
そう叫びたかった。それなのに、口から出るのは醜い嗚咽だけ。

「かがみ・・・返事はいらない。かがみは優しいから私のこと、傷つけないようにしてくれてるんだよね。ごめん・・・」

背中からぬくもりが消え、代わりに小さな腕が私を包んだ。
包んだこなたの腕は優しく、私を抱き締めた。

「かがみ、今までありがと・・・大好きだよ。私は貴女の傍にいれて幸せだった。」

もう、涙腺が壊れた。
春雨なんじゃないかってぐらい、大粒の雫石が頬を伝った。

「こ・・なた・・・ぐずっ・・・」
「大切な気持ちをくれて、ありがとう。忘れない、忘れ・・ない・よ・・・」

こなたも、きっと泣いていた。優しく抱き締めた腕が哀しく震えていた。

私を抱き締めていた腕が、私から離れていった。
振り向いた時には、もうこなたは広場から離れ、春雨に打たれていた。

「こなっ・・・た!」

嗚咽で上手く叫べなかった。こなたの名を叫べなかった。

「かがみ。幸せに、なってね。」

春雨で濡れた笑顔、哀しい笑顔は、私の脳裏にするどく、刻まれた。3年間の思い出よりも深く。

「さよなら。」

そう、こなたが言うと、こなたは雨の中に消えていった。雨に濡れた、世界に。


どうして引き止められなかったのだろう?
どうして答えを出せなかったのだろう?
どうして、傷つけてしまうだろう?
どうして・・・分からないんだろう?

今も止まない、春雨。風邪を引いたって構わない。
私は、何度自問しても答えが出ない問いを、麻痺した脳に与えている。
自分を責めるように。
遅すぎる後悔と共に。
こなたの哀しい笑顔と共に。


新しい季節、こなたに出会って13回目の季節、4回目の春はもう始まっていた。









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  • 最初だからかな?
    あまり盛り上がらないんだね -- 名無しさん (2013-11-18 18:03:13)

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