終わりと始まりの間に

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「終わりと始まりの間に」

春、気がつけばもう卒業シーズン。
長いと思っていた高校生活は、意外とあっさり終わろうとしている。

明日は卒業式。仲のいいクラスメイトや先生たちともお別れだ。
通い慣れた通学路を歩くのも、明日が最後。
合格のお祝いや、新生活の準備などでバタバタして大変だったが、これから始まる大学生活への期待も大きい。
何故なら、18年生きてきた中で、一番多く勉強して、やっとの思いで合格出来た学校なのだから。
(ドラマやラノベみたいな高校生活じゃなかったけど、それなりに充実してたな…)

「お姉ちゃん、起きてる~」
つかさが部屋のドアをノックする。
「はいよ~。どうしたの?入りなさいよ」
つかさが入ってきた。
「…あ、あの、明日卒業式だからさ…緊張して眠れないんだ」
「何か心配事でもあるの」
「あのね…お姉ちゃん、本当にあの大学行くの?」
「え…うん、そうだけど」
「…私だけ実家に残るのって、やっぱり寂しいな」
「そんな、一人っきりになるわけじゃないんだし…父さんと母さんとか、姉さんたちだっているじゃない」
「そうだけど…私は今までお姉ちゃんに助けられっぱなしだったから、やっぱり心配になってきちゃったんだ…」
「…大丈夫よ、気にしすぎだって」
「で、でも、お姉ちゃんは私より偏差値の高い大学に受かったし、私よりしっかりしてるから…私、怖いんだ、
お姉ちゃんがいなくなっても…本当にやっていけるのかな…」
つかさはそう言ってうつむいた。
「大丈夫だってば。何も戦場に行くってわけじゃないのよ。神経質にならずに流れに任せて気楽にやろうって思えばいいの。
楽観的に考えることだって必要なのよ」
「そ…そっか、そういう…ものなのかな」
「心配しないで羊でも数えればいいのよ。気が楽になるわ」
「うん…ありがとう。……おやすみ」
つかさはドアを閉めて部屋へ戻っていった。
(心配性だな…変なサークルに入んなきゃいいんだけど)
そうだ、あいつはどうしているだろう。
こなたの携帯に電話してみた。
…出ない。
メールを送ってみた。
…15分経っても返信が来ない。

(もう寝ちゃったのかな)
私は携帯を閉じると、布団に潜り込んだ。

翌日、いつもより早く目が覚めた。
朝食や支度を済ませて、出かける用意は済んだ。
つかさと一緒に登校するのも最後になると思うと、やはり寂しいものがある。
(…ものには終わりがあるんだから、しょうがないか)
「あ…おはよう…お姉ちゃん」
「ちょっと、早くしなさいよ。遅刻したらどうするの」
「ふぁ…はぁい…」
(やれやれ…)

いつもの待ち合わせの場所に、あいつがいない。
「あれ、こなちゃんどうしたんだろう」
「まさか遅刻か?」
携帯を取り出して電話してみるが、10回以上コールしても出ない。
「しょうがないな…先に行くか」
「え、でも…」
「仕方ないじゃない。次のバス逃したら遅刻確定よ」
「う~~ん…」
卒業式だというのに、何をやっているんだ。

学校に着いたが、どうやらこなたは来ていない様だ。
「ねぇ、みゆき、こなた見なかった?」
「それが…どこにもいないのです。トイレや保健室かと思ったのですが、そこにもいないみたいで」
「どうしちゃったんだろうね…」
「まったくあいつは、人生で一回しかない日に何やってるんだ…」

その時、教室の扉が勢いよく開いた。
「ハァ…良かった…間に合ったか…」
「こなた!!!」
教室の入り口には青い長髪の小柄な女子学生、こなたが息切れしながら立っていた。
「何やってたんだよ、ていうか、どうやって来たの?」
「いやぁ、タクシーで飛ばしてもらってね」
「あぁ、そう言えばバイトしてたんだっけ…いやいや、それ以前に、なんで遅れたのよ?」
「ん…まぁ…明日卒業式だと思うと緊張して眠れなくて…」
「じゃあ私といっしょだね~」
「大きな行事の前日は、心が躍りますからね」
「携帯はどうしたのよ?夕べも今日も一回も出ないじゃない」
「あぁ…部屋のどこかにはあると思うんだけど…バイブにしたままでよくわからないんだ」
「おいおい、アレ結構高いやつだろ?」
「ん?何か大事な話でもあったのですかな?かがみんや」
「べ、別に…駅にいなかったから、どうしてるのかと思ったのよ」
「でもそれって今朝の話だよね。夕べは何だったのですかな?ん~?」
「よ、寄るな気色悪い!」
こいつ…いや、こなたとはいつもこうやってふざけあっていた。
それも今日で終わりか…。
(これで、良かったのかな…)
「かがみさん、そろそろ教室に戻らないと…」
「え?あぁ、そうね!じゃあまた後で!!」
「かがみんとお別れなんて寂しいよお~~…」
「わ、わかったから!とりあえず今は離れろ、思い出話なら後ですればいいんだから」
「かがみ様~、行っちゃいやぁ~~~」
「泉ぃ、何やっとるんや、その子は隣のクラスやろ?」
いつの間にか先生が来ている。しかも教室にいる全員がこっちに注目している。
(うわ、何なんだよ、もーーー!!)
なんとかこなたを引き離して、教室に戻った。

それから、全員で体育館に入場して、一人ずつ名前を呼ばれ、送辞や答辞、校長やOBの話を聞き、
多くの学校で卒業式に歌う曲や、校歌を歌って、式は終わった。

教室に戻って、一人ずつ卒業証書をもらい、先生の話が終わると、みんな記念撮影を始めたり、名残惜しそうに話し始めた。
泣いている子も結構いる。
「おーい、柊~」
「おーっす」
「今日で卒業なんだよな!未だに実感ねーや」
「うっかり明日も学校来るんじゃないわよー」
「ははっ、そこまで間抜けじゃないってば!一緒に写真撮ろうぜ!」
「はいよ~」
そして、日下部たちと一緒に写真に納まった。
「私もカメラ持って来れば良かったなー」
「大丈夫、出来上がったら焼き増ししてプレゼントすっからさ」
「え、ありがとう、それは助かる!」
「とこ…」
「じゃあ私隣のクラス行くわ!」

「みゅ~……あたしは結局最後まで背景かよ」
「みさおちゃん…」
「最後くらい一緒に帰ろうと思ったのにさ…あやのぉ、後で一杯やりに行こうぜ…いい店知ってるからさ」
「え、私たち三月いっぱいは高校生なんだし、さすがにまずいんじゃ…」
「ん、誰もお酒なんて言ってないぞ。コーヒーだってば!チーズケーキもうまいんだぜ」
「あぁ、そういうことなら、喜んでお付き合いするわ」
「あたしらの友情は不滅だよ!」
「そうね…フフフッ」


「ねぇつかさ、こなた見なかった?」
「あれ、おかしいな、さっきまでいたんだけど…」
「名残惜しくなって、校内を散策しているのかもしれませんね」
「そっか…探してくる!」

三階、二階、一階…一通り探してみたが、どこにもいない。
あと、あいつが行きそうなところは…。
…そうだ、校庭だ。
ギャルゲーで桜の木の下がどうとか言っていたし…。

「…こなた!」
「やぁ、かがみ」
こなたは木の下に座り込んで、ぼんやりしていた。
「何でいきなりいなくなってんのよ…」
「だって、最後の日なんだよ、思い出の場所になりそうなところに行きたいじゃない」
「何だそれ…」
「まぁまぁ、ちょっと思い出話でもしようじゃありませんか」
「はいはい…」
こなたの隣に腰を下ろした。
「…あっという間だったね」
「そうね」
「私たち、これからどうなるんだろう…」
「さぁ…わかんないなぁ」
「私はこのままのんびりと暮らせたらいいなーって思ってるんだけどさ…大学出たら、もう世の中に出るんだよね…」
「そうねぇ…でもニートって手もあるわよ」
「あー、それも本気で考えたんだけどさ、なんかつまんなそうじゃん、さすがに死ぬまでずっとゲームっていうのはさ…」
「考えたのかよ…でもあんたに結構向いてそうね」
「んもー、かがみのいじわる…」
不機嫌そうな顔になるこなた。普段からかわれているお返しだ。
「かがみは凶暴だから、お嫁にいけなくて親を泣かせるんじゃないの?」
「ちょっと、どういう意味だよ」
「おぉう!」
少しハッとした。
そうだ、この日常が終わってしまうのだ。
頭ではわかっていたが、もうその時間が迫ってきている。
「かがみん…どうしたの」
「ん、なんかさ、今になって急に泣けてきちゃって…」
何故だろう、涙が止まらなくなった。
恥ずかしい、こなたに顔向けできない。
それでもどんどんあふれてくる。止まらない。止められない。
「これ、使いなよ」
こなたがハンカチを差し出す。こいつは時々優しくなる。
それがすごく嬉しい、抱きしめたいほどに。
「ありがと…グスッ」
ハンカチを返そうとした時、突然こなたが抱きついてきた。
「え、ちょっと…」
「かがみ…あったかいよ」
胸元に顔を埋めながら言う。
「ねぇ…ちょっと…」
「最後にかがみの温もりを感じておきたいんだ…」
「…」
私は何も言わず、ただ黙ってこなたの背中に手を回した。
「かがみ…本当に楽しかったよ。かがみがいなかったら、つまんない三年間で終わってたかも…」
「…素直に喜んでいいのかしら」
「当然だよ…なんか、かがみはさ…」
その後何か言ったようだが、よく聞き取れなかった。涙声になっている。
「…そろそろ、教室に戻らない?みんな探してるわよ」
「…もうちょっと、このままでいさせて…」
見つかったらどうしようかと思ったが、別にいい。どうせ今日で最後なのだから。
「……いいよ」
私は静かにこなたの髪を梳いた。綺麗な長髪に指が吸い込まれそうだ。

あと少しだけ、時が止まったような錯覚を味わっていたい。



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